連載小説
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1
寒い。
カーテンから微かに日の光が射し込んでいる。
むくりと体を起き上げる。
その際に、めくれ上がった布団の下からくしゃくしゃになった毛布がみつかり、そこでようやく、内側の毛布を蹴っ飛ばしていたことに気がついた。
冷たく強張った体を何とか動かし、シーンとした部屋の中、一人で支度する。

寒さが身に纏まり付く。

パンを頬張り、インスタントのコーヒーを飲み、服を着替え……気がついたら、家の外だった。
ふと、家の鍵を閉め忘れたのではと不安になったが、指に引っ掛かっていた鍵の存在によって微かな記憶が呼び戻され、そのまま駅に向かう。

仕事は憂鬱だった。

別にパワハラ等をされていた訳ではなかったが、かといってワクワクするようなこともなく、常に波が立たない、そんな感じだった。
ただただ刺激のない退屈な毎日に時間と脳を浪費させるだけの日々。
また、今日もそんな一日が始まる。

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─────

「あー……突然ですまないが、今日から新人が配属されるんだ」

会社に着いて間もなく、上司からそんなことを告げられた。
もっと早く言って欲しい、急に言われても困る。
そんな思いが脳裏をよぎったが、上司も困惑したような表情を浮かべているのに気が付き、同じ立場なのだと理解する。

「それで……君にその新人の担当をして貰うことになってだな」

話が急すぎる。だが、この上司に何を言っても困らせるだけだろう。
そう自分を納得させ、その話を二つ返事で了承し、何をすればいいかと尋ねようとすると……

「やぁ」

後ろから声をかけられた。
驚くほど透き通った声色。聞きなれない声。
ハッとして振り返ると、そこには……イケメンな麗人が佇んでいた。それもかなり高身長な。

「君がボクの先輩さんかな?」

「あ、あぁ……」

「はじめまして、ボクの名前は衣笠薫、よろしくね」

つり目に加えて切れ長の目尻、赤く輝く瞳。ツンと立った鼻先に、シュッと引き締まった輪郭。
キリリと引き締まって凛とした顔立ちだったが、頬横まで伸びた薄鈍色の髪と、ごく自然な笑みによって、優しげに中和されている。

見上げた視線を下に落とす。

黒く艶のあるローファー。その黒色が途切れることなく、徐々に太さを増していく華麗な流曲線を描き、大きめな腰へとたどり着く。
キュッとくびれた腰回りのシルエットはスーツの上から分かるほど如実に現れており、思わず唸ってしまいそうになる。完璧な着こなしだ。オーダーメイドなのかもしれない。
まさに立ち振る舞いも含めて、カッコいい。

けれども、そのすぐ上にある立体的な厚み。ジャケットとワイシャツをぱつりと張り詰めさせ、異常なほど押し上げる豊満な胸部が、一つの事実を告げていた。

──女性なのか

自分よりも確実に大きいであろう長身と、中性的でいわゆるイケメンに分類されるであろう顔つきから、一瞬、男性かと思ったが……スーツの中でパツパツに締め付けられた胸部のそれが、女性であることをこれでもかと強調している。
しかも、大きすぎるが故に、豊満なモノはワイシャツにぴっちりと押し付けられ、ジャケットからも飛び出そうとしていて……白と黒の狭間に双球の下部を支えるレース生地のモノが、透けてチラッと目に入ってしまう。

頭がカァっと熱くなる。
まさに男装の麗人という人物が、突然、直属の後輩になったという事実に頭がついていかない。

「ボクはこういうの始めてだから、至らない所も沢山あると思うけど、精一杯頑張るよ」

そんな砕けすぎた挨拶をされたが、それが気にならないほどの……美麗さ。
イケメンが全て許される理由が分かった気がする。様になりすぎて、どんな言葉でも馴染んでしまうのだ。それで当然のような、そんな雰囲気に飲み込まれてしまう。

「とりあえず、彼女には基本的な業務を教えて……そのまま一緒に、今持ってる仕事をこなしてくれ」

上司はそう言葉を残すと、いそいそとどこかへ消えていった。

沈黙が場を包む。

彼女は柔和な笑みを浮かべつつ、こちらをじっと見つめている。
深紅を放つ瞳。美しい形の目尻と相まって、まるで綺麗にカットされたルビーのよう。

「それじゃ、職場に案内してくれないかな?」

凜と透き通るような声。
そこでようやくハッとして、慌てて彼女を席へと案内する。変に意識してしまわないよう、目を軽く逸らして。

俺の隣は空席だったので、多分そこでいいのだろう。

そうして席まで案内すると、隣の席には既にノートPCが置かれていた。添えられた付箋によると、これが彼女の分らしい。
そこに座るよう促したところ……彼女はシルクハットのような帽子を膝前に置き、そのまま椅子に腰かけた。
あぁ、帽子掛けはどこだったか。なんて呟きながら辺りを見渡すが

「あぁ、帽子は持っておきたいんだ。これがないと落ちつかなくて……なんなら、被っててもいいかな?」

彼女は困ったように眉をひそめて、そう言う。
小動物を彷彿とさせるような表情と、彼女のクールで大人びた様子とのギャップにより、クラっと傾倒して了承してしまいそうになるが、なんとか踏み止まって

「流石に被るのは良くないな」

と口に出す。

「分かった、それなら膝の上に置かして貰うね」

彼女はそう言うと、ペンとメモ帳、電卓……どこからかティーカップすら取り出して、机に並べ始めた。
その整然とした動きに知的さを感じる。そして、自分も準備に取りかかりつつ

「じゃあ、まずはログインのパスを教えるから、パソコン立ち上げてくれないか?」

と頼んだところ

「……?」

彼女は、目の前で平べったくなってるノートPCを前に、キョトンと首を傾げていた。
……思わず、声が出そうになった。
24/02/03 00:57更新 / よね、
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