読切小説
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僕の素敵なご主人様
「ふぅ、こんな物かな……」

廊下の掃除を終え、綺麗になった床を眺め、息をつく。

「ドゥーロ、こちらに来い」

廊下に響く、凛とした声。
僕の名前が呼ばれる。

「はい。今しがた掃除を終えた所です、リスティア様」

返事をして振り返り、声の方へと歩み寄る。
声の主は、僕の主人であるリスティア様。
僕をこの屋敷に連れ去り、有無を言わさず、僕を召使いにしたヴァンパイアだ。
連れ去られた当時は、理不尽で、恐ろしい女性だと思っていたのを覚えている。
人を遥かに超えた身体能力と、卓越した魔術。そこら辺の魔物とは比べ物にならない程、強大な存在。
しかも、その食糧は、人間の血。連れてこられた理由は、美味しそうだから。
怯えない方が無理というものだ。
尤も、今の僕は、彼女の召使いである事に満足しているのだけど。

「貴様の部屋……またもや、埃が溜まっているようだな」

リスティア様が立っているのは、僕に与えられた部屋の前。彼女は、僕の部屋の中を覗いていて。
女性にしては低めの声でそう告げると、僕の方を向く。

僅かに紫色がかった、幻想的な色合いの銀髪。
釣り上がり気味の目元に、血のように紅い瞳。
アルビノのように白く透き通りつつも、生気の持つ艶かしさを感じさせる肌。
瑞々しい、ふっくらとした唇。
口元は閉じられていて、少しだけ無愛想な印象を受けるが、それが、唇の魅力を引き立てているようにすら思える。
表情は仏頂面ではあるけども、リスティア様は、非の打ち所がない程の容姿を持っていた。
そして、そんなリスティア様の、ドレスに包まれた大きな胸は、はちきれんばかりで、膝丈のソックスと、ドレスの裾の間に覗く太股は、むっちりと肉感的だ。
そうだというのに、腰はきゅっとくびれていて、手脚もすらりとしている。
背も高く、肉付きが良くあって欲しい所だけ、とても肉付きが良いという、完璧な身体つき。

「そう、ですね……」

一瞬、リスティア様に見惚れながらも、傍まで歩み寄る。
自分の部屋の様子は、今更見るまでもない。
この屋敷で召使いをしていて、屋敷の掃除をしたりはするが、仕事外である自室の掃除は、ついつい怠ってしまっている。
その結果、自室に、僅かな埃っぽさを感じ始めた頃だった。

「貴族である我輩が直々に、貴様の部屋を掃除してやろう。有難く思うが良い」

成人しているにも関わらず、僕の身長は決して高くない。
そのせいで、リスティア様と近くで話すと、見下ろされる形になってしまう。
それは、人間である僕を見下すような物言いと合わさり、とても高圧的だ。
だが、そんな様子とは裏腹に、僕の扱いは決して悪くない。
召使いという立場の僕の部屋を、主人であるリスティア様が直々に掃除してくれたりする。

「貴様の血は我輩の物。
故に、不衛生な寝床で血を育むなど、許されない事だ。
埃っぽい血など飲めた物では無いからな。知っているだろう?我輩が血の味にうるさい事を。
そして、血の味に関わる以上、貴様の部屋の管理は、人任せには出来ぬ。
人間の世話を焼くのは不服だが……全ては、美味なる血のためだ」

表情を変えず、僕に向かって、淡々と言葉を紡いでいくリスティア様。
リスティア様が、僕の部屋を掃除してくれる、その理由。
僕は、その内容をしっかりと覚えているし、その事は、リスティア様も分かっているだろう。
それにも関わらず、事あるごとに、リスティア様はこのような話をする。
僕を見下ろしながら喋るその眼差し、表情は、真顔そのもので、堂々としていて、照れ隠しには到底見えない。
だからリスティア様が、人間である僕の事を見下しているのは確かなのだろう。
今の時代の魔物は好色で、人間に好意的であるとは聞くけれども、どうやら、ヴァンパイアという種族は、そうでは無いらしい。
仮にそうであったとしても、僕がリスティア様の好みであるかはまた別のお話だ。

「ありがとうございます、リスティア様」

しかし、僕が本当に傷付くような、辛辣な言葉を言われた事は無かったりする。
それに、理由はともかくとして、僕の事を気遣ってくれているのも確かだ。
疲れたと言えば休ませてくれるし、無茶な量の仕事は決して押し付けない。
リスティア様が同行する事が条件とは言え、近くの街に外出する事も許されている。
おかげで、この屋敷に来てから、体調を崩した事は一度もない。

僕を見下しながらも、優しいご主人様。それが、僕の、リスティア様に対する評価だ。
男で有る僕は単純なもので、彼女ほどの美人に優しくされると、つい、見下されている事を忘れ、嬉しくなってしまって。
上辺ではない本心で、リスティア様に礼を言いながら、部屋に入るのだった。

「ふむ……完璧だ」

整然と本の並んだ本棚、光を反射する床。シーツまで、綺麗に整えられたベッド。
高級な宿の一室のように片付いた部屋を眺め、指を鳴らすリスティア様。
それと同時に、宙を舞っていた箒、雑巾が部屋の隅に集まる。

「ありがとうございました。
流石、ですね。あっという間でした」

元々、あまり物自体は散らかっていない部屋だったのだけれど、
それを差し引いても、リスティア様が掃除をする速度は、非常に早い。
なんせ、魔術で掃除道具や部屋の物を操り、並行で掃除を進めていくのだから。僕の手伝う隙がなかったぐらいだ。

「……当然だな」

再び部屋を眺め、呟くリスティア様。
その横顔は、どことなく得意気で、満足気。
普段の、大人びた、近寄りがたい雰囲気とのギャップがあり、とても魅力的な表情で、つい見蕩れてしまう。

「さて……これを元の場所に戻したら、食堂に来い、ドゥーロ」

リスティア様は、僕に向き直ると、部屋の隅に纏められた掃除道具を指差して。
ゆっくりと歩き、部屋から出ていく。

「はい、リスティア様」

そして僕は、その後ろ姿を見送ってから、掃除道具を運び始めるのだった。






掃除道具を片付けた僕は、屋敷の中に設けられた、小さな食堂にいる。
普段、僕とリスティア様が食事を取る場所。

「……日々の食事の内容は、血の味に影響を与える。
貴様の血は元々、我輩好みの味だが……
不健康な食事では、折角の味も台無しだ。
より美味な血を育むには、食事に気を遣わねばならない。
これも、人任せには出来ない……貴様の自己管理などには、到底任せられない事だな。

故に……貴族である我輩が直々に、貴様の食事を作ってやろう。そこで待っているのだな」

いつもの調子で、僕を見下ろすリスティア様。
その言葉の通り、僕が食べる物は全て、リスティア様に管理されている。
しかし、ただ食事を管理されているだけではない。
三食は勿論、おやつ、デザートまでもが、リスティア様の手料理。しかも、そこらの店では太刀打ち出来ない程に美味しい物を作ってくれて。
こうして、リスティア様の話を聞いている間も、リスティア様の手料理が楽しみで楽しみで仕方ない。

「はい、楽しみに待たせて頂きます」

正直、見事に餌付けされているな、という自覚はある。
自覚はあるのだけど、餌付けされたからと言って、何か不都合があるわけでも無く。
僕は、手料理への期待を露わにしつつ、嬉々として、言われた通りに食卓につく。
そして、調理場に赴くリスティア様の後ろ姿を見送るのだった。




「リスティア様、献立は……」

食堂に漂ってきた、美味しそうな匂い。
待っていろとは言われたけども、結局、僕は、調理場に足を運んでしまっていた。

「……アスパラガス&エッグ、マカロニサラダ、海老のグリル、あさりのスープだ」

調理場では、エプロン姿のリスティア様が居て。
トントン、と、小気味良い包丁の音を響かせながら、今晩の食事のメニューを答えてくれる。
勿論、包丁はしっかりとその手に握られていて、魔術を使って調理道具を操る事はしていない。
そうやって、一つ一つ丁寧に作業をこなし、料理を作ってくれている、その姿は魅力的だし、見ていると、嬉しくて仕方がない。
今は僕に背を向けているため、マントに隠れて見えないが、エプロン姿そのものも、どうしようもなく素敵で、堪らない。

献立の内容を訊く、というのは方便で、リスティア様が料理をしている姿を拝見するのが、僕が調理場に来た理由だった。
かと言って、献立の内容が気にならないわけでは無いのだけれど。

「海老に、マカロニサラダですか……大好物です」

好物の海老、マカロニサラダが出てきた事を喜びながら、アスパラガスが苦手だという事は、そっと心の奥に仕舞う。
そうしながら、リスティア様が料理をしている姿を、じっくりと眺め、堪能する。


「……いつまでそこに居る。
ジロジロと人の事を見て……我輩は見世物では無いのだぞ。
大人しく待っていろ」

そんな僕の視線に気づいたリスティア様は、料理をする手を止めて、身体ごと、僕の方に振り向いて。
じっとりとした視線を僕に向け、僕を咎める。

「ぁ…………はい。
申し訳ありません。失礼しました」

リスティア様が振り向いたおかげで、正面から向き合う形になり、マントで隠れていたエプロンも、しっかり見る事が出来るようになって。
リスティア様が着ているのは、フリルで装飾された、可愛らしい白色のエプロン。
身に纏っている衣服とは正反対の色調なのだけれど、これが、不思議にマッチしている。
また、可愛いのではなく、美しい、という印象を抱かせるリスティア様が、可愛らしいエプロンを着ている、そのギャップの破壊力はとてつもない。
その上、ギャップがあるにも関わらず、可愛らしいエプロンは、見事に似合っていて。
可愛らしくも美しい、そんなエプロン姿。その格好からのジト目は、もはや、ご褒美以外の何物でもなく。
僕は、露骨に見蕩れてしまい、何拍か遅れて返事をしてしまう。

我に返った僕は、名残惜しさを感じながらも、素直にリスティア様の言う事に従い、調理場を後にするのだった。





「……さて、頂くか。
貴族である我輩の作った料理を食べる……
人間には身に余る光栄だろう。感謝して味わえ。
勿論、残す事など許さぬぞ。
残さず綺麗に平らげろ」

食卓に並べられた、リスティア様の手料理の数々。
そのどれもが、見た目からして美味しそうで、食欲をそそる匂いを放っている。
薄切りにされ、皿の上に並んでいるパンも、リスティア様が焼いた物だ。

「はい、リスティア様。頂きますっ……」

対面に座るリスティア様に会釈して、早速、マカロニサラダを口に運ぶ。
和えるのに使われているマヨネーズの量は少なく、味付けは薄め。
しかし、そのおかげで飽きる事なく食べ続けられる。
刻んだタマネギのピリッとした刺激も、丁度いいアクセントで、非常に美味しい。
つい、せわしなく、パクパクと食べてしまう。

「……急いで食べるな、みっともない。
まったく……何度注意すれば直るのだ。
それに……折角、我輩が作ってやったのだぞ?
もっと大切に、味わって、よく噛みしめて食べなければならないだろう」

そして、いつものように、リスティア様にそれを咎められる。
じっとりと僕を睨んでいるけども、本気で怒っていたり、不機嫌であったりする訳ではなさそうだ。

「……すみません。
とても美味しいので、つい……」

ちゃんと味わって食べて欲しいという主張は分かる。
けれども、美味しい料理はやはり、ひたすらに食が進んでしまうのだから仕方が無い。

なので、謝りつつ言い訳。

「……そういう事なら、多少は目を瞑ってやろう」

すると、リスティア様はそう言い、口元を僅かに緩めて。
僕を睨みつける圧力も、途端に弱まる。
やはり、あまり顔には出さないにせよ、料理を褒められて嬉しいのだろう。
褒められて喜ぶというのは、有る意味当然の事なのだけれど、
リスティア様がそれをすると、普段の様子とのギャップに、強く惹きつけられてしまう。

ああ、眼福だ。

「ありがとうございます」

つられて頬が緩むのを自覚しながら、
今度は、アスパラガスの上にスクランブルエッグが乗り、褐色のソースがかかった物にフォークを伸ばす。

「……」

アスパラガスは苦手なのだけれど、リスティア様が作ってくれた料理だ。きっと、美味しいはず。
そう思いながら切り分け、口に放り込む。

「……美味しい」

ふんわりとした卵に、シャキシャキとしたアスパラガスの食感。
予想はついていたけども、褐色のソースは、レバーを用いた物らしい。
思ったよりアスパラガスのえぐみは無く、残ったえぐみも、レバーの癖のある味と合わさると、丁度良い具合だ。
予想していなかった美味しさに、ぽろりと言葉が漏れる。

「……アスパラガス、苦手だったはずなんですけども……美味しいです。
リスティア様のおかげですね」

驚きを隠せないまま、リスティア様に話しかける。
露骨ながらも、リスティア様を褒める事を忘れない。
勿論、お世辞ではなく、本心だ。

「我輩が、不味い料理を出すわけが無いだろう。

これはだな……
まずは、ちゃんと下拵えをしてやった。
茎についている褐色の部分は、苦味があるからな。それを取り除いてやらねばならん。
あとは、焼く際にレモン汁を加えると、幾分えぐみが和らぐな。
卵、レバーソースと一緒に食べる、という事もある。
よく合っただろう?」

すると、聞いてもいないのに、リスティア様は語り始めて。
いつものように堂々としているのだけれど、得意気。
また、先程よりも口元が緩み、さらに嬉しそうにしている。
こんな事を言ったら怒られてしまうのだろうけど、とても可愛らしくて素敵な表情で。
したり顔の、自信に満ちた問いかけも、また堪らない。

「なるほど……ええ、よく合ってました。
ああ……スープも美味しいです……」

問いかけに答え、今度はスープを口にする。
色んな物で出汁をとってあるのか、とても深い味わく、香り高い。
そして、ただでさえ美味しいのに、リスティア様の可愛らしい表情を見つめながら飲むのだから、その美味しさはひとしおだ。

「……貴様が掃除をしている間から仕込んでおいてやったのだ。美味しくて当然だ」

スープを褒めれば、リスティア様は、またもや得意気な様子。
そして、返って来たのは、とても嬉しい言葉。

「……心して味わいます」

僕の健康管理だけなら、料理をするにせよ、そこまで手間をかける必要は無いわけで。
わざわざそれだけの手間をかけて、美味しい物を作ってくれるという事は、リスティア様の労い、優しさなのだろう。

嬉しさに顔がにやけるのを隠せないまま、リスティア様に応え、再びスープを口に運ぶ。
ああ、格別で、幸せだ。





「ご馳走様でした、リスティア様」

とても充実した食事を終え、リスティア様に向かい、軽く会釈する。
腹八分で、僅かに物足りないぐらいなのだけれど、料理を美味しく食べるには、これぐらいが限度だ。
なので、今日の手料理も、多過ぎず、少な過ぎず、丁度良い量だったという事だろう。

「……ご馳走様。
片付けは任せるぞ。
それが終わったら、身を清めてこい。
我輩は居間に居る」

料理の後片付けは、僕の仕事だ。
料理というのは、作るのは楽しくても、片付けるのは面倒。
そして、僕は、リスティア様の手料理を頂いている身だ。
となれば、その面倒な部分を引き受ける事で、リスティア様には、快く料理をして頂きたい……それが僕の気持ちだ。
そんなわけで、僕は、喜んでこの仕事を任されている。

「……はいっ」

そして、片付けを終え、シャワーを浴びた後は……
いつも通りなら、リスティア様が、僕の血を吸ってくださるのだ。
リスティア様の吸血。
この屋敷で召使いをしている僕の、一番の楽しみ。
もはや、病みつきになってしまっていると言っても過言ではないぐらいで。
期待に胸を躍らせながら、僕は調理場に向かうのだった。






「……ただいま戻りました」

後片付けを済ませ、念入りに身を清め終えた。
寝間着に、湯上がりの火照りが心地良い。

もうすぐ、リスティア様に血を吸って貰える。あの快楽を味わえる。
期待にはやる気持ちを抑え、ゆっくりと居間の扉を開ける。

「戻ったか……デザートだ、食べるのだな」

ソファに佇んでいるのは、寝間着姿のリスティア様。
赤い装飾の施された黒のネグリジェは、いつものドレスと似たデザインをしている。
ドレスと違い丈長なので、むっちりとした太ももは隠れてしまうが、その代わり、肩から鎖骨までが、大胆に露出されていて。
寝間着姿の無防備さが、なんとも言えない色香を醸し出している。
そして、いつもならば、リスティア様に血を吸っていただけるのだけれども、今回は、先にデザートを食べろとの事らしい。

リスティア様のテーブルに置かれた、二つの器。
その中には、赤みがかった、乳白色のクリームが満たされている。赤色の正体は、イチゴだろうか。

「あ……ありがとうございます。
イチゴのムース、でしょうか。
美味しそうです。
それでは、早速頂いても……」

デザートを用意してくれていたのはとても嬉しいのだけれど、吸血を心待ちにしていたのも事実で。
お預けを食らっているようで少し寂しく、つい、声を漏らしてしまう。

とは言え、折角リスティア様が作ってくださったのだから、それを無碍にするのも申し訳ないし、そんな事をしたらリスティア様は酷く機嫌を損ねてしまう。
吸血の事は一旦、頭の隅に追いやって、目の前のデザートを楽しむ事にしよう。

リスティア様の対面のソファに座り、早速スプーンを手にする。

「……ああ、構わん。我輩も頂くとしよう」

訝しげに僕を見た後、スプーンを取るリスティア様。
その言葉でようやく、僕が来るまでデザートを食べるのを待っていてくれた事に気づく。
食事を作ってくれたりするのは勿論、こうやって細かい所にも気にかけてくれる辺り、素晴らしい御主人様だと思う。

「それでは、頂きます。
ん……よく冷えてて、お風呂上がりに丁度良いですね……」

リスティア様に軽く会釈してから、イチゴのムースをスプーンですくい、口に運ぶ。
口に入れた途端、ふんわりと溶けるムース。
イチゴの甘酸っぱい味わいと、ひんやりした感覚が広がる。
なめらかで濃厚なのだけれど、爽やかで、お風呂あがりに丁度良い具合だ。
後味もさっぱりしていて、すぐに次を口に運びたくなってしまう。

「ああ。だからそれに合わせて出してやったのだ」

「なるほど…………」

リスティア様の言葉に頷き、もう一口。
吸血の欲求をすっかり忘れた僕は、黙々とデザートに向かう。




「……ご馳走様です。
中々濃厚でしたけれども、後味はさっぱりしてて……後を引く美味しさですね。
今日のデザートも絶品でした」

結局、僕は、あっという間にデザートを平らげてしまって。
料理の感想をリスティア様に伝え、会釈する。

「ふふ……イチゴをふんだんに使い、出来るだけ砂糖に頼らずに甘みを出したのだ。
下手に砂糖を入れては、折角の甘酸っぱさが台無しだからな。
……うむ、美味だ」

またもや、自慢気で、得意げに語り始めるリスティア様。
自信作だったのだろうか、珍しい事に、目を細め、微笑み返してくれる。
その微笑みは、どことなく妖しげで。
背筋にぞわりとした物が走るが、悪寒では無く、むしろ心地良くすらある。

「………………」

そして、リスティア様が口を開くたびに、瑞々しい唇の間に、白く鋭い牙が覗いて。
僕を捕食するための物だというのに、美しくて、蠱惑的に感じてしまう。

今すぐに、あの牙を突き立てられ、血を吸われたい……そんな思いが、再び湧き上がり、頭を埋め尽くす。
つい、リスティア様の牙に、視線が釘付けになってしまう。

「また貴様は、人の事をジロジロと…………」

「……申し訳……ありません……」

そして、再び、リスティア様に睨まれる。
尤も、本気で怒っていない事がなんとなく分かるせいで、その視線に、ゾクゾクとした物を感じてしまって堪らない。

「……まあよい。
血を飲んでやろう……ドゥーロ」

僕をじっとりと睨んだまま、最後の一口を食べ終えるリスティア様。
スプーンを置くと、ソファから立ち上がり、僕に手招きする。
血を吸って貰うのを心待ちにしていた事は、やはりバレていたらしい。

「はいっ、リスティア様……」

リスティア様に駆け寄り、背を向ける。
首筋が、じわりと疼き始める。

「……今度こそ、血を飲んでいる間は動くな」

リスティア様が、身体が触れ合うか触れ合わないか、の距離まで歩み寄る。
そして、僕の耳元に口を寄せ、唇が触れそうな距離から、囁いてきて。
触れられてすらいないのに、甘い痺れが耳を襲う。

「それは……っ……やはり、難しいかと……」

吸血中の、牙が刺さっている状態で動くのは、あまり想像したく無い事態だ。
動くな、というのはリスティア様の気遣いなのだろう。
しかし、リスティア様の吸血は気持ち良く、反射的に身体が跳ねてしまう。どうしようもない。
リスティア様もそれは分かっているようで、無理だと言っても、怒る事はしない。
怒らないどころか、代わりに、身体を動かさないようにするため、僕を押さえてくださるのだ。

「いつになったら……
仕方無い、今回も、我輩が押さえておいてやろう。
……まったく、召使いの分際で、我輩の手を煩わせる」

呆れたようで、優しげな声。どこか、甘い響きすら感じられる。
背中に押し当てられる、柔らかな感触。
すうっ……と身体を密着させてくるリスティア様。
華奢な両腕が、僕の胴体に絡められる。
そして、その華奢な腕からは考えられないような、強い力で、ぎゅう、と抱きすくめられる。
痛みを感じない、ギリギリの強さの拘束。
リスティア様の左手が、僕の胸板、心臓の上に当てられ、右腕は、がっちりと僕の身体を押さえ込む。

「ぁ……ありがとう……ございます……」

押し当てられる豊満な胸。
背中に感じる、リスティア様の温もり。
熟した果実のように甘い、リスティア様の匂いが、僕を包む。
否が応にも高まる僕の鼓動。それは、胸に当てられたリスティア様の手に筒抜け。
心地良く、嬉しくも、恥ずかしい、そんな抱擁だ。

「さて……今日も、じっくりと味わってやろう……」

「は、はい……お願いします……」

耳元で囁かれる、捕食者としての言葉。
舌なめずりの微かな水音、呼び起こされる、被虐的な感覚。
何度も何度も牙を突き立てられた首筋が、快楽を思い出し、甘く疼く。
そして、首筋に、リスティア様の吐息がかかり……鋭い牙の先端が触れる。

「…………」

「っ……うぁっ…………」

ゆっくりと押し当てられ、沈み込んでいく、リスティア様の牙。
牙を突き立てられているというのに、痛みはなく。
代わりに、じくじくとした、甘い熱が首筋を襲う。
それはまるで、快楽の杭を打ち据えられるかのようで。
快楽が訪れると分かっていたにも関わらず、声が漏れてしまう。


「ん…………」

「ぁ、ぁっ……っ……」

突き立てられた牙から、熱く滾ったモノ……リスティア様の魔力が注がれていく。
血液と共に、身体の中を流れていく魔力。
心臓が脈打つたびに、身体の隅々まで、快楽が駆け巡る。
身体の内側、芯までもが熱く痺れ、甘く蕩けていく。
苦痛は欠片も無い。

「ん……んぅ…………んく…………」

「ぁ……はぁぁ……ぁぁ……」

快楽に加速する心臓の鼓動。
鼓動が早まる分だけ、全身を巡る快楽も増していって。
否が応にも腰砕けになり、四肢は強張り、びくりと跳ねてしまう。
しかし、幾ら僕が身動ぎしようと、リスティア様の抱擁はびくともしない。
僕を支えながらも、強固に僕を拘束し、捕らえたままだ。

しかし、背中に押し当てられた、豊満な胸だけは別で。僕の動きに合わせ、むにゅりとその形を変え、魅惑的な感触を返してくれる。

そして、首筋に触れる、リスティアの唇。
舌なめずりの直後で、濡れ湿っていて。ぷるぷるで、瑞々しく、弾力に富んだ感触。
吸血の快楽でとろけんばかりになった肌で感じるそれは、とても心地良い。
快楽の度合いで言えば、到底吸血には及ばないが、豊満な胸と共に、確かな幸福感をもたらしてくれる。

「んぅ……んっ……………ん…くっ……」

「ぁっ……ぁ、あぁ……」

吸血の最中の、微かで艶かしい息遣い。
時折、こくりと、上品に喉が鳴る。
それは、ゆっくり、じっくりと、大切に僕の血を味わってくれている証拠。嬉しい音だ。
与えられる感触に意識を集中するだけでなく、それらにも、しっかりと耳を傾ける。
さらに、視線を落とせば、僕を抱きすくめるリスティア様の腕。
惹かれるがままに、透き通るような白い肌、指先までの美術品のような造形を、舐め尽くすように眺める。
息を吸い込めば、リスティア様の甘い色香が僕の頭を一杯にして、快楽とともに、より一層、僕を蕩けさせていく。
そうして僕は、リスティア様の吸血……ご褒美を目一杯堪能し、快楽に耽るのだった。



「っ……」

「ぁ……」

時間をかけた濃密な吸血も、ついに終わりを迎え、ようやく、牙が離される。
身体を巡る快楽は失われていくが、熱い火照りは、相変わらず全身を支配し続けている。
四肢はすっかりと力が抜けてしまっているが、リスティア様はしっかりと僕を抱きとめてくださっている。
快楽の余韻に満ちた身体で感じる、リスティア様の身体の感触は、とても艶かしい。

「ちゅ……んっ……」

「ぁっ……」

心臓の鼓動に合わせ、甘く疼く、首筋の傷。
魔力に侵され、快楽の余韻が最も色濃い部分。
そこに、唇があてがわれ、優しく吸い付かれる。
そして、唇の隙間から唾液に塗れた舌が這い出てきて、傷口の血を、ゆっくりと舐め取る。
生温かくぬめった、舌の感触。ぞわぞわと、背筋が震える。
それと同時に、暖かく、癒すような何かが僕の傷を覆って。癒しの魔力によって、傷穴が塞がれていくのが分かる。詠唱無しで、治癒魔術を行使してくださったのだろう。
血を舐め取られ、唇が離れると、傷はすっかりと消え去っていて。
結局、僕の首筋には、甘い疼きだけが残される。

「はぁ……今日も、実に美味であったぞ」

「ぁ……ありがとう……ございます……リスティア様ぁ……」

艶めかしい吐息が僕の首筋をくすぐる。
僕の血の味を褒めるリスティア様の声は、微かに熱っぽいが、変わらず凛としている。

「……我輩はもう眠る。
貴様も、片付けを終えたら、部屋に戻って、早く眠れ。
夜更かしは許さんぞ。
十分な睡眠を取る事も、良質な血を育むための、貴様の仕事なのだからな」

「はぃ……おやすみなさい……」

僕を拘束する腕は解かれ、背に密着した柔らかな感触、温もりが失われる。
リスティア様は脱力した僕を解放すると、ソファに座らせてくださって。そのまま、すたすたと歩き、部屋を後にしてしまう。
僕は、快楽の余韻にぼんやりとしつつも、一抹の寂しさを覚え、その後ろ姿を見送るのだった。






「はぁ……」

食器を片付け終えた僕は、自室に戻り、綺麗に整えられたベッドに倒れこむ。

全身を覆う快楽の余韻はすっかり抜けたものの、未だに身体は火照り、首筋は吸血の快楽を求めて疼いている。
正直、生殺しじみていて性欲が滾って致し方ない状況だ。

吸血で受ける快楽は、回数を重ねるごとに、僅かずつと言えど確実に、その鮮烈さを増している。
それと同様に、吸血によって呼び起こされる情欲も、日に日に強くなり、この屋敷に連れてこられた当初とは比べ物にならないくらいだ。
しかし、それでも、自分で自分を慰める気にもならない。
そんな事をするより、リスティア様に血を吸って貰う方が格別に気持ち良いせいだ。
アレを味わってしまっては、自慰なんてモノは馬鹿馬鹿しいモノにすら思えてしまう。

それに、そんな事をすれば、血の味にだって影響するだろう。
やはり、リスティア様には美味しい血を召し上がって頂きたいというのが、僕の気持ちで。
結局の所、さっさと眠って、リスティア様の吸血を待つのが一番だという考えに至り、枕を抱く。
そもそも、夜更かしするなとリスティア様に言い付けられているのだから、それに従わないと。

「ぁー……」

心地良く、僕を受け止めてくれているベッドは、抱きしめている枕は、間違い無く最高級品。
これも、リスティア様の気遣い……そう、良質な血を育むための。

リスティア様は僕によくしてくれるけども、それは、やはり……召使として、食糧としてのモノなのだろうか。
そう考えると、なんとも言葉にし難い、嫌な感情が湧き上がってくる。
しかし、召使いとして、食糧だったとしても、今の生活が続くなら、リスティア様の傍に置いて頂けるなら、何より、リスティア様がそれで幸せだというのなら……という思いもある。

「…………」

それでも、願わくば、リスティア様に笑みを向けて頂きたい。それも、一人の男として。
そんな望みを抱きながら、眠りに落ちて行くのだった。








「……ドゥーロ。まだ起きているか?」

召使いの眠る部屋。そのドアを軽くノックし、呼び掛ける。
自室のベッドでしばらく身体を横たえていたおかげで、身を焦がすような狂おしい衝動は随分と和らいだ。


「…………」

「…………寝ている、か。良い子だ」

部屋の中から帰ってくるのは沈黙。
すっかり我輩の忠実な僕となった、あの男が返事をしないのだから、確かに眠っているのだろう。
言いつけをしっかり守っている事に感心しながら、鍵のかかっていない扉を開け、部屋の中に入る。

「…………」

我輩が掃除してやった部屋。我輩が整えてやったベッド。そして、その上には、枕を抱きつつ寝息を立てるドゥーロの姿。丁度、こちらに顔を向ける形。
当然、その身を包むパジャマも、我輩が見繕ってやったものだ。

「ふふ……」

普段の、忠犬めいた庇護欲をそそる表情も良いが、安らかな寝顔も、無防備で堪らない。
血を吸いやすいように首筋を露出させた、特注品のパジャマ姿が、その無防備さをさらに強調する。
度重なる吸血により、ドゥーロの首筋には、くっきりと二つの跡が出来ていて。

血色の良い、美味しそうで堪らない首筋に、牙を突きたててしまいたい。
きっと、そうすれば、ドゥーロは目をぱちくりさせながら目覚めて、吸血の快楽に堪えられず、我輩にしがみついて来るのだろう。
それをしっかりと捕まえ、逃げられなくして、甘美で濃厚で、これ以上無く我輩好みの味の、頭の中まで蕩けるような血液を、じっくりと味わって……
ドゥーロの身体の温もりも、息遣いも、返ってくる反応の一つ一つも全て、余す事無く堪能してやるのだ。

そして、ドゥーロの血は既に、殆ど、我輩と同じ貴族の物に変わっている。
あともう一度血を吸ってやれば、完全に、貴族のそれとなるだろう。
下賤な人間では無く、我輩と同じ貴族になってしまえば、後は、我輩の気の赴くがままに、ドゥーロを……

とても素晴らしい想像に、思わず顔がニヤつく。
しかし……先程、血を吸ったばかりなのだ。
此処からさらに血を吸っては、流石にドゥーロの健康に悪影響が出かねないため、残念ながら、我慢するしかない。


「長かったものだな……」

今思えば……初めてドゥーロの姿を見た時、あれは一目惚れだったのだろう。
どんな食べ物よりも美味しそうに見えて、どうしようもなく、首筋に牙を突き立てたくなってしまった。
我輩とした事がその衝動に負け、半ば飛びつくような形で血を吸ってしまった程だ。
あの時から、ずっと、ずっと、ドゥーロの事が欲しくて仕方なかったのだろう。

下賤な人間である事に構わず、襲ってしまおうと考えた事もあったが……プライドが邪魔をして、そうも行かなかった。
それに、ドゥーロが人間のまま交わってしまい、子を孕んでしまっては……ダンピールが産まれる事も有るかもしれない。
ドゥーロとの子供なら、当然愛情を注いで育てるが……我輩がドゥーロに対して素直になりきれて居なかったならば。
仮定の話ではあるにせよ、娘に負けて、ドゥーロに対して素直になるようにされて。その過程で、もし、娘がドゥーロを気に入ってしまっては……
いくら愛娘と言えども、ドゥーロを渡すわけにはいかないのだ。誰にも取られたくない、我輩だけのモノなのだから。
万が一の話と言えども、そうなってしまうかも知れない以上……
幾ら、吸血で情欲が滾ったとしても。ドゥーロが貴族となるまで、襲うに襲えず、ただひたすらに平然を装うしかなかったのだ。

「ふふ……もう少しで、貴様も、我輩と同じ『貴族』に……」

しかし、その我慢も、もうすぐ終わる。
一晩待てば、ドゥーロの体力も回復するだろう。
明日の朝、我輩を起こしにやって来た所で、血を吸ってやろう。
そして、いつものように、じっくりと血を味わいながら、我輩の魔力を流し込み、ついに、その血を我輩の色に染めきって。
召使いでありながらも、同じ貴族として……婿に迎えてやるのだ。
すっかり我輩の虜になったドゥーロの事だ、喜んで我輩に身を差し出すだろう。
抱き締めて血を吸ってやるだけで、ああも恍惚とするのだから……更なるぬくもりと快楽を与えてやれば、まさに骨抜きになるに違いない。
そうなってしまえば、ドゥーロは身も心も全て我輩の物だ。
ずっと我輩の傍に居させて、沢山甘えさせて、甘えて、求めて、求められて。
同じ貴族となってしまえば、憚る物など無いのだから。
尤も、恥ずかしいと思う気持ちが無いワケではない、が……そこさえ何とかしてしまえば、我輩の好き放題である。

「……おやすみ、ドゥーロ。ちゃんと起こしに来るのだぞ」

ドゥーロの耳元に口を寄せ、囁きかける。
何時ものような、平然を装った声ではなく、愛情をたっぷり込めてやった声で。

「……」

このまま添い寝をしてやりたくも思うのだが、ドゥーロを襲ってしまわずに居る自信が無いし、襲ってしまわなくとも、興奮してとても眠れそうにない。

折角の初めての夫婦の交わりなのだから、出来るだけ長く、じっくり、それこそ骨の髄まで、ドゥーロを味わい尽くしたい。一日中、いや、それ以上に交わり続けても良いぐらいだ。
そのためには、お互いにしっかり睡眠を取って、万全の体調で交わりに臨まねばならないだろう。
だから、今は我慢。

はやる気持ちを抑え、ドゥーロの部屋を後にする。
夫となる男に揺り起こされ目覚める、その時を待つべく、自室に向かうのだった。





「……………」

天蓋付きのベッドに横たわるリスティア様。
彼女を時間通りに起こすのも、この屋敷による僕の仕事だ。
その寝顔はとても端正で、完成された美しさを誇っている。
寝ている隙に、その瑞々しい唇を奪ってしまいたい……そんな欲望に駆られるが、それをする度胸は持ち合わせておらず。

命じられた時間より早めにリスティア様を起こしに来て、時間になるまで、リスティア様の寝顔をただただ眺め、見惚れる。それが、僕の日課だった。

「……リスティア様、起きてください」

眺めているだけでは満たされない物もある。
あの唇にキスして貰えたら、どんなに素晴らしいだろうか。そんな考え、想いは募るが、どうしようもない。
それらはひとまず、胸にしまって。
そっとリスティア様の肩に手を添え、細心の注意を払い、リスティア様を揺り起こす。

「ん…………」

「……おはようございます、リスティア様」

僕が揺り起こすなり、ぱちり、と瞼を開くリスティア様。
いつもなら、しばらくの間モゾモゾとして、瞼を擦りながらお目覚めになる。寝起きのその姿は、普段とのギャップもあいまって非常に可愛らしいのだけれど……
今日はやけに寝覚めが良く、眼福には預かれないようだ。
とはいえ、ぱちりと瞼を開けるその仕草は、それはそれで素敵だったので結果オーライだろうか。

「……ふふ……おはよう、ドゥーロ……」

「……」

目を覚ましたリスティア様と目が合う。
それに胸の高鳴りを感じた直後。
リスティア様は、僕に柔らかな笑みを向けて下さって。
それは、初めてリスティア様が見せてくれた表情。好意、親愛の情の篭った笑顔。
目を離す事なんて出来ず、一気に胸の高鳴りは増していき、思考が覚束なくなっていく。

「ん……血を吸ってやろう」

仰向けから、僕の方を向いて、布団の端を捲るリスティア様。
丁度、リスティア様の隣にスペースを空ける形だ。
そんな中、さらに、僕に向かって手招きをしてきて。

「……え、あ……はいっ」

硬直状態に陥っていたが、手招きでふと我に帰る。

招かれるままに、リスティア様の隣に、同衾すれば良いのだろうか。
わざわざの端を布団を持ち上げているのは、僕が布団に入るためのスペースを空けて下さっている、という事で良いのだろうか。しかし、もしそうじゃなかったとしたら、大目玉なわけで。

昨日までとは全く違うリスティア様の行動に、意図が掴めない。素直に受け取れば、同衾しろ、という事なのだろうけども。今までのリスティア様は、決してそんな事を僕に要求しなかったし、要求する素振りも無かった。
僕としては、是非とも同衾させて頂きたい、むしろ僕からお願いしたいぐらいではあるが、人間である僕が同衾する事を許してくださるわけも無い。そのはずだ。

どう受け取れば良いのか分からないので、取り敢えずは、言われた通りに、手招きされた通りに。
血を吸って頂けるという事なら、という事で。ベッドに手を着き、恐る恐る首筋を差し出す。

「……言わねば分からぬか、愚か者が……ほら、入れ」

そんな僕を、半ば呆れ気味に詰るリスティア様。
しかし、その声色は、今までよりも甘ったるく、愛情が篭っている気さえする。
そして、リスティア様は、自身の傍を、片手でぽんぽんと叩いていて。

「………」

これは、間違い無く、同衾しろとの事なのだろうけど。役得この上ないのだけれど。
いざ、同衾しろと言われると、中々、行動に移せない。
同衾して良いとは言われたものの、本当に同衾して良いものか、不愉快に思われないか心配で、動くに動けない。

「……入れと言っているだろう。我輩の言う事が聞けぬか?」

硬直状態を続ける僕に、リスティア様は、先程より強い口調で行動を促してきて。
この状況を楽しんでいるのか、僕が命令に従わず固まってしまったにも関わらず、上機嫌な様子だ。

「……お、お邪魔……します……」

とは言え、あんまりリスティア様の言う事に従わずにいると、それはそれで不愉快にさせてしまうだろう。
恐る恐る、おずおずと、リスティア様のベッドに横たわる。血を吸って貰いやすいように、背を向けて。

「ふふ……」

僕がベッドに横たわると、リスティア様は、満足気に、掛け布団を降ろす。
リスティア様が毎晩使っている寝具だけあって、なんとも言えない、甘い香りが僕を包む。リスティア様の匂いだ。しかも、本人がすぐ後ろに居るお陰なのか、とても濃くて、夢見心地になってしまいかねないぐらいだ。
だが、それ以上に僕は、この状況に対する興奮、戸惑い、喜びなどがない交ぜになった感情を処理しきれないでいて。
やはり、碌な思考も出来ず。自分から動く事も、何も出来ない。

「仰向けになれ」

「は、はいっ……」

指示待ち状態の僕に下された命令。
緊張に身体を強張らせながらも、その場で身体を仰向けにする。
これがどういう意味を持つかを考える余裕も無く、ただただリスティア様に従う。

「……んっ」

「っ……!?」

僕が仰向けになるや否や。僕の身体にのし掛かる、心地良い重み、柔らかさ、ぬくもり。そして、首筋に突き刺さる快楽。

一拍置いて思考が追い付き、何が起きたか、起きているかを理解する。
僕の上にリスティア様が覆い被さる体勢。
そして、背後からでは無く、真正面から、リスティア様は僕の首筋に牙を突き立てていて。
リスティア様の腕は、僕の頭を、抱く様に固定している。
そして、豊満な胸は惜しげも無く、僕に押し当てられていて。服越しとは言え、身体はぴったりと密着。
気付けば、リスティア様のむっちりとした太腿に、僕の右脚は挟み込まれていて。それだけで無く、逃がさないと言わんばかりに、絡め取られてまでいる。

「んっ……ふぅっ……んくっ……はぁっ……」

「っぁ……!」

いつもの、ゆっくりとした吸血ではなく、貪るかのように熱烈で激しい吸血。
流れ込んでくる快楽の量も、その熱烈さ相応の物で。
心臓が血液を忙しなく送り出すのに合わせ、首筋から全身へと快楽が拡散し、循環していく。
普段とは比にならない吸血の快楽に悶えるが、リスティア様の華奢かつ肉感的な身体が、僕を押さえ込んで離さない。
身体がびくつくのを抑えようと、快楽を堪えようと、反射的に、リスティア様の腰に腕を回し、しがみつくように抱きつく。


「ぷはっ……ふふっ……ドゥーロぉ……これでお前も、貴族の仲間入りだ……」

吸血はすぐに終わったが、その濃密さは途轍もない物で。快楽のあまり意識が飛びかねない、そして、血が集まり、すっかり硬くなった僕のモノが暴発してしまいかねない程だった。


「っ……」

快楽に朦朧とした意識。吸血の余韻。身体中が熱い。リスティア様のぬくもりで蕩けてしまいそう。
リスティア様の甘い囁きが、僕の頭に染み込むように響く。さらに、背筋にぞわぞわとした何かを感じるが、それもまた心地良い。
僅かに残った思考能力は、全て、リスティア様の声に委ねてしまう。


「我輩と同じ、貴族。下賤な人間ではなく……我輩と共に過ごすに相応しい存在。
お前の身体に、我輩の魔力を注いで、染めあげてやったのだ。
ふふ……嬉しいかぁ?嬉しいだろう?」

耳を擽る、熱っぽい吐息。喜悦に満ちたリスティア様の声。
そして、リスティア様は、僕にその肢体を擦り付けるかのように、もぞもぞと動いていて。
押し当てられた双丘が形を変えるその感触が、ありありと伝わってくる。気持ち良い。
リスティア様に抱きついたままだから、尚更だ。

「ぁ…………はぃ……」

リスティア様と、共に過ごすに相応しい。
その言葉に、胸の奥から歓びが湧き上がってくる。
嬉しい。幸せで仕方ない。
幸福感に包まれながら、促されるがままに、ぼんやりとリスティア様の言葉を肯定する。

「ふふ……どういう事かよく分かっていなさそうだなぁ……?
今から、教えてやろうではないか……」

「ぁ…………」

僕の耳元から口を離すリスティア様。
捕食者めいた、妖しい笑みを浮かべた顔が、僕の目の前に。
ほんのりと朱に染まった頬。荒く艶かしい吐息。
潤んだ瞳に視線が吸い込まれてしまう。
視界の端にチラつく舌舐めずり。その微かな水音すら聞き取れる。

「んっ……」

「っむ……!?」

不意に近付く、リスティア様の顔。
反射的に目を瞑ると、唇を柔らかい何かが塞ぐ。
突然の出来事に驚き飛び退きそうになるが、ベッドに押し倒されている僕に、飛び退く場所など存在しない。
両頬に添えられた手は、優しく、しかし確実に僕の頭を固定していて。
そこでようやく、僕が、リスティア様に唇を奪われたのだと理解する。

「っちゅぅ……はむっ…あむっ……」

唇が、啄ばむように押し付けられ、その上で熱烈に吸い付いてくる。
濃密に触れ合う唇同士。リスティア様の唇が、僕の唇をなんども食む。
リスティア様の唇の感触は、混乱気味な意識下でも鮮明に感じられて。
柔らかさ、瑞々しさ、弾力、熱……そして、舌舐めずりに濡れた感触。
リスティア様に押し倒されて、キスされているという状況。
なんとも魅惑的なそれらを、拒むなんて考えは全く浮かばず。
戸惑いが段々、歓喜と幸福、興奮に塗り替えられていく。
意識をリスティア様に集中させ、思いがけないご褒美を堪能する。

「んっ……れるっ……れろっ…………」

何度も何度も執拗に唇を貪られた後。
不意に唇の動きが止まったと思いきや、ぬめった、艶かしい感触が僕の唇をなぞる。
それがリスティア様の舌だと気付くと同時に、もう一度。
何度も何度も、ゆっくり、ねっとりと、僕の唇にリスティア様の舌が這っていく。上唇も、下唇も、余す事なく。
熱っぽく、しなやかで、柔らかで、唾液まみれで、ぬるぬる。そんなリスティア様の舌。決して不快ではない。
むしろ、気持ち良くて仕方が無い。べっとりとついた唾液からは、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。

僕の血を舐めとる時のような、美味しい物を舐め取る時のような、舌の這わせ方。
まるで、僕の唇を美味だと言わんばかりのその舌遣いに、喜びが湧き上がる。

「 ちゅぅぅっ……ぷはっ……」

そして、最後に、再び、熱烈に吸い付いて……リスティア様の唇が離れる。

「っ……はぁっ……ぁ……」

僕の唇にたっぷりとまぶされた唾液。それを舐め取ると、ほのかに甘い味。
美味しい。だけども、物足りない。
もっと、欲しい。リスティア様の味を、舌を絡め合わせて、直に味わいたい。
そんな情欲が僕の中で湧き上がっていく。

「はぁ……ふぅ……こういう事だ……
我輩に血を吸われて気持ち良かっただろう?ドゥーロ……
それは、我輩も同じでな……お前の血を吸うたびに、身体が火照って、疼いて……堪らなくなって……
これまでずっと、我慢して来たが……
既にお前は我輩と同じ貴族……これで憚る事も無い。
ふふふっ……待ち侘びたぞ」

「ぁ……」

瞑っていた目を開けば、眼前には、淫靡な笑みを浮かべるリスティア様。見惚れてしまい、呆気に取られた声しか出ない。
朱に染まった頬、とろんとした目付き、荒い息遣い。
情欲にぎらついた瞳、捕食者めいた眼差し。
リスティア様は欲情していて……唇から紡がれる言葉からするに、それをぶつける相手に、僕を選んでくださっている。
この先に待ち受けている行為を想像するだけで、興奮と期待でどうにかなってしまいそうだ。

「ドゥーロ。お前は、我輩の事が好きなのだろう?」

僕の眼をしっかりと見据え、問いを投げかけてくるリスティア様。
確認のための問い掛け。
リスティア様がこう言う時は、そう、肯定を求めている。否定は許されない。

「ぇっ……ぁ……ぅぁ……」

しかし、突然に、好きかと問われて、好きだと返せる程、僕は気の大きな人間では無い。
ただでさえ、突然の出来事に頭がいっぱいいっぱいなのだから。
当然、リスティア様の事は主としても異性としても、大好きであるけども。これでも一応、それは隠して来たつもりなのだ。
それをいきなり暴露しろと言われても、心の準備というものがあって。
僕の想いを拒絶でもされようものなら、立ち直れなくなってしまうだろう。
押し倒してキスして来たのはリスティア様の方だけれども、ただの戯れであるかも知れないのだから。
恥ずかしさ、拒絶への恐怖、色々な感情に支配された僕は、口をぱくぱくさせて、声にならない声をあげる事しか出来ない。
尤もそれは、間接的な肯定に他ならないのだけれど、どうしようもない。

「……事あるごとに我輩に見惚れていて。手料理を作ってやるだけで、少し褒めてやるだけで、あんなに嬉しそうにして……。
吸血の時間が近付くと、物欲しげにそわそわしていたな、お前は。
血を吸う前からあんなに胸を高鳴らせ……血を吸ってやれば、あんなに気持ち良さそうにして」

そんな僕に追い打ちをかけるように紡がれるのは、僕がリスティア様に好意を表した行動の数々。
心当たりは至る所に。言い逃れの余地は皆無。
それを突きつけるリスティア様は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていて、満更ではなさそうな様子でもある。

「っ……」

まず、恥ずかしい。それなりにバレないようにしていたつもりなのに、リスティア様は完全にお見通しだった。
見惚れていたりしたのも、吸血を心待ちにしていたのも、全部筒抜け。
バレても仕方ない、という思いはあったけども、こうやって突き付けられると恥ずかしくて仕方ない。
しかし、同時に、満更ではなさそうなリスティア様の様子に、安堵と喜びが込み上げてくる。

「少し早起きしてしてみれば、なんだ。起こしに来たと思えば、じろじろと我輩を眺めて。目を閉じていても、気配で分かる。
我輩のキスもすんなり受け入れて、こんなに気持ち良さそうにして……
その上、ちゃっかり我輩に抱き付いて……ふふっ……おかげで心臓の鼓動も筒抜けだ。
ともかく……お前の好意にはちゃあんと気づいている……
バレバレというものだぞ?ドゥーロ……
だから……大人しく、認めるが良い。
我輩を好きであると、な」

先程、リスティア様の寝顔を眺めていた事までも見事にバレていて。もう、逃げ場は無い。
観念しろ、と言わんばかりのリスティア様。
僕が白状するのを心待ちにしているのだろうか、何処か期待しているような様子でもある。

「…………はぃ。す、すき……です……」

完全にバレてしまっているなら、素直に白状してしまっても、とは思うけれども、それとこれとは話が別で。
気恥ずかしさが無くなるわけでは無い。
しかし、リスティア様の催促には逆らう訳にもいかず、細々とした声での告白。
きっと、今の僕は、顔を真っ赤にさせて、とても情けない様子なのだろう。

「あぁっ……本当に、お前は可愛らしいなぁ……
ほら、もう一度、言ってみるが良い」

僕が顔を真っ赤にしているのを分かった上で、再度の催促。意地悪な要求。
しかし、リスティア様が向けてくださる笑みは、歓喜に満ちた物で。
僕を困らせようとするのではなく、純粋に、もう一度、好きという言葉を僕から聞きたいようにも見えて。

「……好きです」

今度は、はっきりと、好きだと伝える。自然と、笑みが形作られる。
リスティア様も、僕の事を憎からず思ってくれている。単なる欲求の捌け口では無い。そんな手応えを得ていた。

「ふふふ……我輩の事を好きだと言うのなら。
当然、我輩と交わりたくて仕方ない。そうだろう?」

「っ………はい」

喜悦に満ちた表情に、嗜虐の色を混じらせて。
僕の喉元を爪でつぅ、となぞりながら、さらに突っ込んだ問いを投げ掛けるリスティア様。

気付けば、僕の股間は、服の下で見事に膨れ上がっていて。おまけに、リスティア様は僕に覆い被さって、脚まで絡めて来ている。
服という隔てはあるものの、膨れ上がった僕のモノには、リスティア様の下腹部がしっかりと押し当てられていて。しかも、リスティア様が身動ぎすれば擦れて、否が応にも反応してしまう。

これも、潔く認めるしか道は無く。
それに、認めてしまえば、望み通りに、シてくれるかも知れないという下心もあって。
恥ずかしさを振り切って、肯定し、頷く。

「ふふ……素直なのはいい事だ。
お前の望み通り……たっぷり可愛がってやろうではないか。沢山、味わってやるぞ……?
はむっ……れろぉ……じゅるっ……」

すうっ……と目を細め、再び舌舐めずりするリスティア様。
僕の背とベッドの間に手を差し込み、いとも簡単に僕の上体を引き起こす。
絡められていた脚はいつの間にか解かれていて。
代わりに、脚を伸ばして座る僕の膝の上に、リスティア様が乗っかる形に。
そして、正面から僕を強く抱き締めると、首筋に、甘噛みし、舌を這わせ、音を立ててしゃぶりついてきて。

「っ……ぁ、リスティア、様っ……」

ただでさえ敏感な首筋は、吸血により甘く疼いている。
そこを舐めしゃぶられるというのは、今まで味わった事の無い、ぞわぞわとした快楽を僕にもたらして。
否が応にも、情けない声が漏れてしまい、身体がびくついてしまう。

「んっ……ふふ……さて……次はどうされたいのだ?」

耳元での甘い囁き。それは、僕の心を揺さぶり、嘘偽りの無い本音を引き出す。
恥ずかしさを何処かに拭い去って、僕を陶酔に誘っていく。

「……リスティア様の……思うがまま……満足出来るように……好きなように……シて頂きたい、です」

リスティア様に抱き付き返しながら、僕の望みを伝える。
リスティア様に委ねるという答え。
決して遠慮しているわけではなく、率直な僕の欲望だ。
リスティア様の欲望を、余す事なくこの身で受け止めたい。
リスティア様の意思によって求められたい、貪られたい。
僕が懇願した結果では駄目なのだ。
リスティア様が、好きでキスをして下さったり、交わって下さったり。
心の底から僕を求めて下さっている、という実感が欲しい。

「ふふふっ……そうか、ドゥーロ……
ならば、我輩の好きなようにしてやろう。
心ゆくまで、お前を愉しんでやろうではないか……」

「お願い、します……」

僕の答えをお気に召してくれたのだろう。耳元で囁くリスティア様の声は、より一層、艶めいた物になって。
そして、リスティア様の手は、僕の服のボタンを手際良く外し、さらには、するりと服を剥ぎ取ってしまう。
あっという間に、上半身を裸に剥かれてしまった。

「少し、上を向け。
ん……れろぉ……れるっ…………」

言われるがままに上を向くと、リスティア様は、鎖骨の辺りに顔を埋めてきて。
窪みにくまなく這わされる舌。こんな所まで、味わわれている。どことなく変態的ではあるけど、それが嬉しい。

「ちゅぅっ……じゅるっ……れるっ……あむっ……」

そして、鎖骨を堪能した後は、首を傾け、僕の喉元にキスをし、しゃぶりついてきて。
喉仏に吸い付き、舌を這わせ、最後に、大きく口を開けて、喉元をぱくりと甘噛み。

「っ……ぁ……」

僕には考えつかなかった、変則的な責め。
予想外だからこその気持ち良さ。
そのマニアックさは、僕の興奮を掻き立てる。

「んっ……耳も、食べてやるぞ……?
はむっ……あむっ……」

「……ぁ……」

続けて、耳に甘噛み。此処も敏感で、食まれるたびに、甘い疼きが走り、吐息が漏れる。

「ちゅぅ……ちゅっ……」

そして、耳孔の辺りに、わざとに音を立ててキス。
唇が吸い付き、離れる音。何度もキスして、執拗に、その音を僕に聴かせてくる。
愛情を感じるキスの音。柔らかな唇の感触。
頭の中が、甘く蕩けていく。

「れろ、れるっ……じゅる、じゅっ……」

キスの雨が終わると、今度は、にゅるりとした感触。
唾液をたっぷりとまぶされた舌が、僕の耳を隅々まで這っていく。
さらに、耳孔を覆うようにして、熱烈にしゃぶりついてきて。
直接に送り込まれる、淫らな水音。
頭の中に響いて、くらくらとした陶酔に僕を誘う。

「んっ……ふふ……大層窮屈そうにしているではないか?」

「……うぁ……」

リスティア様は、唇を離すと、膝の上から退いて、僕の股間を、その手で軽く撫でる。
服の下ではち切れんばかりになった僕のモノは、それだけでぴくりと反応してしまう。
撫で続けられたら、そのうち達してしまいそうなぐらいだ。

「さ、脱がしてやるぞ……ほら、腰を浮かせ、脱がせづらいだろう」

「っ……はぃっ……」

そう言いながら、リスティア様は、僕のベルトをかちゃりと外す。
言われた通りに、手を付いて腰を浮かすと、リスティア様は、ズボンの中に手を突っ込んできて。
すべすべとした手に、肉棒を掴まれ、つい、声が漏れる。
そして、リスティア様は、もう片方の手で、僕のズボンと下着をずり下ろして。

「これが、ドゥーロのモノ……ふふ、元気な奴め」

そのまま、リスティア様は僕の脚からズボンと下着を剥ぎ取って。僕は完全に裸に剥かれてしまう。

リスティア様に美味しい血を味わって頂くために、ずっと自慰を我慢してきたせいで、一ヶ月前に夢精したっきりご無沙汰なのだ。
露わにされた肉棒は、腹に当たりそうなぐらいに反り返っていて、先端は先走り塗れ。
今も、吸血で達しそうになった、その余韻が腰の辺りに残っている。
少し責められたら、我慢の余地も無く、あっさりと絶頂させられてしまうだろう。

そんな僕のモノを、リスティア様はまじまじと見つめて。

「確か……前に夢精していたのは一ヶ月ほど前だったな。
随分と溜め込んだものだ……ふふふ」

「……ぇ……なぜ……」

僕の秘密を、うっとりと呟くリスティア様。
夢精した事まで、見事にバレている。
バレないように下着を洗って、身体も洗って、何事も無かったかのようにリスティア様を起こしに行ったはずなのに。

「いくら洗い流そうと、残り香で分かる。
ああ……自慰を我慢して、良質な血を我輩に捧げようとしていたのは褒めてやろう」

夢精がバレていたのも、僕の精液の匂いまでリスティア様に知られてしまったのも恥ずかしいけれども、それ以上に、自慰を我慢した事を褒められた事が嬉しい。
やはり、労いの言葉というものは素晴らしい。

「さて、我輩も……邪魔なものは脱ぎ捨ててしまわねば、な……」

「………っ」

そう言いながら、リスティア様は膝立ちになり、身に纏った黒いネグリジェの肩紐に手を掛ける。
視線が、吸い寄せられる。生唾を飲んでしまう。

「ん……ふふふ……」

僕の視線を吸い寄せたのを確認すると、見せ付けるように肩紐からするりと、腕を抜いていく。
そして、すとん、とネグリジェを足元まで落とし、脱ぎ去る。

下着はつけておらず、リスティア様は、生まれたままの姿を、僕の視線に晒して。

「ぁ………」

まず最初に目がいくのは、豊満な胸。
その大きさ、重さにも関わらず、垂れる事無く形を保つ、重力に逆らう、その張り、弾力。
にも関わらず、リスティア様が少し身動ぎするだけで、たゆんと揺れ、その形を変える。
視覚に、その柔らかさを訴えかけてくる。
そして、色白の双丘の先端には、小さな乳輪の真ん中に、桜色の乳首がピンと勃っていて。

つい、舐めるように、食い入るように眺めてしまうが、何処を見ても、非の打ち所がない。
完璧で、理想そのものと言っていい程の、リスティア様の豊乳。僕の好みと寸分の違いもない。
それを目の当たりにして、思わず溜め息が漏れる。
手に余らんばかりのそれを揉みしだきたい。乳首に吸い付き、思う存分舐めしゃぶりたい。胸に抱きつき、谷間に顔を埋めて、頬ずりしたり、息を吸い込んだりして、甘え倒したい。
そんな思いが渦巻いて仕方がない。

「ほら、我輩の此処も……こんなになっているのだぞ……?」

「……っ」

胸元から下へと降りていくリスティア様の指先。
きゅっとくびれた腰、そして、下腹部を通り、その下へ。
視線の誘導される先には、リスティア様の秘所が。
ぴっちりと閉じた秘裂は、どろりとした愛液が滴り、てらてらと光を反射している。
愛液は秘裂を濡らすだけで無く、太股にまで垂れ落ちていて。さらには、甘酸っぱい匂いまで漂ってくる。

見せ付けられる、美しくも淫らな光景。僕の視線は釘付けになり、否が応にも、息を荒げてしまう。

「ふふ……その反応。やはり、初めてか」

「……はい」

膝立ちのまま僕の下半身を跨ぐリスティア様。
にやりとしながら、僕を見下ろしている。

「ならば……お前の初めては……我輩のモノ、だな」

得意気に言い放ち、ゆっくりと、僕の肉棒に腰を近づけていくリスティア様。
このままきっと、対面座位で僕の上に跨ってくれるのだろう。

「……挿れる、ぞ」

「……ぁっ……」

秘裂が肉棒に当てがわれる直前。リスティア様は腰を止め、肉棒の根元を掴み、その秘裂に指を添える。
そして、僕の肉棒の真上で、秘裂を指で押し開いて。
露わになった膣口から肉棒に降りかかる、熱くどろりとした粘液。
びくりと肉棒が跳ねようとするが、リスティア様の指はそれを抑え込む。

「っ……はぁ……んっ……ぁ……」

秘裂を肉棒にあてがい、ゆっくりと腰を降ろしていくリスティア様。
亀頭が膣口に触れると、さらなる愛液が零れ落ちて来て、僕の肉棒を濡らす。
次の瞬間には、亀頭がずぷりと、リスティア様のナカに呑み込まれる。
リスティア様は、息を荒げ、艶かしい声をあげて。

「うぁ、ぁ……」

リスティア様のナカは、肉棒が溶けてしまいそうな程に熱い。
そして、入り口から入り組んだ形をしていて、ぎゅうぎゅうに締め付けてくる。
亀頭が収まっただけなのに、吸い付く感触も感じられて。気持ち良くて堪らない。
奥へ奥へと、肉棒が引きずりこまれるような気さえしてしまう。

「ぁっ、はぁっ、んっ……」

「はぁ、うぁ……ぁぁ……」

リスティア様が腰を落とすにつれ、さらに包み込まれていく僕の肉棒。
隙間無く吸い付くような締まり。
リスティア様のナカは、無数の肉襞がびっしりとひしめいていて。
それが、強烈な締め付けで押し付けられ、亀頭、カリ首、竿をぞりぞりと擦り上げていく。
腰砕けになってしまう程の快楽。腰に、じわじわと熱いものが込み上がる。
吸血の後とはいえ、ゆっくりと挿入する、それだけでこの有様なのだから、抽送などしようものなら、瞬殺されてしまうだろう。

「っ――挿入った、ぞ、ドゥーロ……」

「ぁ、ぁ……」

亀頭が突き当たる感触と、脚に感じるリスティア様のお尻の感触。ついに、僕の肉棒はリスティア様のナカに咥えこまれてしまう。ぴったりと包まれる肉棒。
有るべき所に収まったかのような心地良さ。
僕の上に座り込むリスティア様。対面座位の姿勢。
向かい合い、繋がったまま、リスティア様は僕を抱き締めてきて。
鎖骨辺りに押し当てられる、柔らかな胸の感触。すべすべで、ふわふわな肌触り。
さらには、胸だけでなく、上半身全体をぴったりと密着させてきて。
リスティア様の柔肌は、すべすべだというのに、吸い付くような感触で。
その身体はすっかり火照っていて、肌を触れ合わせれば、ぬくもりが染み込んでくる。


「ぁ、はぁ……実に、美味だ……」

「……きもちいい、です……」

綻んだ表情を浮かべるリスティア様。しかし、凛とした風格が崩れたわけではなく。
態度の硬さ、よそよそしさ、近寄り難さ。それらの要素だけが抜け落ちている。
高嶺の花が、高嶺の花のまま僕の傍に。
夢かと思ってしまうような光景。しかし、抱き合い、深く繋がり合うその感覚は、確かに現実のもの。
未だ味わった事の無い快楽、心地良さ。リスティア様に心奪われ、半ば夢見心地。

「ふふ……そうか。今すぐ果てさせてやる……」

「ひぁっ……」

リスティア様がそう言うなり、僕の肉棒に与えられる締め付けがぎゅっと強くなって。さらに、膣全体が強烈にうねり、蠢き、ねっとりと絡み付く。
無数の肉襞に肉棒を舐め回される快楽は、挿入の時の比ではなく。こんな風にされたまま挿入していたら、挿れただけで射精してしまっただろう。
身体が強張り、甲高い声が漏れる。

「……というのもいいが、折角のご馳走だ。
じっくり味わってやるぞ、ドゥーロ……」

情けない声をあげてしまう僕を見て、満足気なリスティア様。
瞬殺されてしまいそうな膣の締まり、蠢きはすぐに収まり、代わりに、僕の肉棒は優しく包み込まれる。
そして、リスティア様は、僕の顎をくい、と持ち上げると、再び、その唇を重ねてきて。

「っ……れるっ……んっ……ふぅ……れろぉ……」

口内に侵入してくる、リスティア様の熱く柔らかな舌。
味わってやる、という言葉の通り、歯茎、頬の内側、隅々まで、リスティア様の舌が這い回る。
自分の舌で触れる分には何とも無い所なのに、リスティア様の舌に触れられると、気持ち良くて仕方が無い。
さらには、重力に従って、リスティア様の唾液が舌伝いに流し込まれてきて。
ふんわりと甘酸っぱいリスティア様の味が、口一杯に広がる。

「ちゅぅ……れろっ、じゅるっ……」

「っ…んく……ぁ……」

僕の口内を舐め回し終えたリスティア様は、ついに、僕の舌を絡めとってきて。
唾液を擦り込むような、ねっとりとした舌遣い。
舌が蕩けてしまいそうな程に気持ち良く、甘いリスティア様の味を、執拗に味わわされる。
溺れてしまいそうな程に与えられる唾液を、喉を鳴らして飲み込めば、その度に、身体の内側から、熱いモノが込み上げてきて。吸血の余韻と合わさり、僕の身体を火照らせていく。

「っ……ふぅ……じゅるっ……じゅぅっ……ぢゅる……」

「ふぁ、ぁ……んむぅ……」

僕が自ら舌を差し出すと、リスティア様は、その唇で、熱烈に僕の舌に吸い付いてきて。
リスティア様の口内に吸い込まれる、僕の舌。
舌を目一杯突き出した挙句、さらに引っ張り出されるような格好。
リスティア様の口内に囚われた僕の舌。
熱烈に吸い付く、ぷるぷるの唇の感触。はむはむと、優しく甘噛みまでされてしまう。
さらには、口内で待ち構えたリスティア様の舌が、余す事なく僕の舌を蹂躙する。

まるで、リスティア様に食べられてしまっているようなキス。
容赦無く貪られる快楽に、頭の中までがとろとろに蕩けてしまう。
リスティア様に貪られる事は、当然、喜ばしい事で。求められる悦びに、心までが満たされていく。

「じゅ、ちゅるっ……はぁ……」

「ぁ、ふぁ、ぁ、ぁぁ……」

合わさった唇が離れていくが、僕の舌は、変わらずリスティア様の唇に捕えられていて。
吸い付いたまま、唇の間から僕の舌を引き抜くようにキスを終えていく。
舌を唇で扱かれ、最後の最後まで、快楽と甘美な味わいを擦り込まれる。
キスを終え、僕の舌とリスティア様の唇の間に架かる唾液の橋。恍惚の表情を浮かべるリスティア様。その瞳の奥の情欲は、ますます燃え上がっている。

「はぁ……ふふっ……絶品だな、お前は……」

「はぁ……はぁ……っ……」

気付けば、キスの間に、腰にこみ上げる熱いモノは限界近くまでせり上がってきていて。
リスティア様のナカは、相変わらず僕の肉棒を優しく包み込んでいる。
その熱と締め付けは、僕をゆっくりと、しかし確実に射精に追い込んでいて。
これから僕は、じっくり、じわじわと、快楽を蓄積させられて、最後の最後で一気にトドメを刺されてしまうのだろう。
それはきっと、瞬殺されてしまうのに比べて、さらに気持ち良いのだろう。
リスティア様に主導権を完全に握られているこの状態も、僕を掻き立てる。
次は何をして頂けるのか、どういう風に気持ち良くされてしまうのだろうか、と楽しみで仕方なく。
兎にも角にも、込み上げてくる期待。ときめき、脈打つ心臓。それが心地良くて堪らない。

「ん……ドゥーロ」

「ぁ……リスティア……さま……」

唇が触れる程に口を寄せ、僕の名を呼ぶリスティア様。
その声色は甘く、優しく、温かい。まるで、恋人に対するかのように。
そうして名前を呼んで頂けるだけで、幸福感で頭が一杯になってしまい、つい、リスティア様に抱き付く腕に力が篭る。

「ふふ……キスも、交わりも、お前が初めてだ。
ファーストキスも処女もお前のモノだぞ、ドゥーロ……
嬉しいだろう……?」

「はぃ……」

僕の中に渦巻く独占欲を満たす、リスティア様の囁き。
僕が、リスティア様の初めての人。気高き貴族であるリスティア様が、単なる性欲だけで処女を散らす訳が無く。
そう、僕はリスティア様に選ばれたのだ。それが、嬉しく無いはずがない。

「ふふ……愛しているぞ、ドゥーロ……」


そして、ねっとりと甘く、絡みつくように、愛を囁かれる。優しく、しかし、強く抱き締められる。
溢れんばかりの好意、愛情を露わに、うっとりと、恍惚とした声色。
その言葉に偽りが無いのだと確信させてくれる。

「……っ……ぁ……ぁぁ……リスティア、さまぁ……」

僕の一番欲しかった言葉。
リスティア様が、僕を愛してくださっている。
単なる性欲の捌け口では無く、確かな愛情を持って、僕に欲望をぶつけ、貪って、求めて貰えている。
募った想い、望みを遂げ、まさに感無量と言うべきで。
愛の囁きの、甘い響きは僕を陶酔させ、思考をすっかり蕩けさせていく。
さらには、耳元から首筋、背筋、その下へと、ぞわぞわとした快楽が駆け抜けて。
愛を囁かれるだけで、悦びのあまりに身も心も気持ち良くなって。甘い言葉で、確実に射精へと追い込まれてしまっている。
もっと、もっと、愛を囁いて欲しい。そんな想いを込めて、ありったけの愛情と悦びを込めて、恍惚としながら、甘えるようにリスティア様の名前を呼ぶ。

「お前は我輩のモノだ。他の誰にも渡さぬ……我輩の夫に迎えてやるぞ。最愛の夫だ……
ぁ、んっ……ふふふ……
そんなに嬉しかったか、もう果ててしまいそうではないかっ……」

僕のねだった通り、耳元で愛を囁き続けて下さるリスティア様。
有無を言わせぬ口調。僕に独占欲を向けてくれている。
愛情たっぷりでありつつも、支配的。
さらには、僕を夫に迎えるとも言ってくれて。
僕が待ち望んでいた関係。リスティア様の、最愛の夫。
その甘美な響きに、堪らず、肉棒がぴくりと跳ねる。

「勿論、我輩はお前だけのモノだぞ。
ふふ……我輩はお前の愛すべき妻になるのだからな。
夫婦となって……互いを独り占めだ。身も心も、な。
一生、我輩の傍に居て、我輩を愛し続けて、我輩に愛されるのだ、お前は……」

「はぁ、ぁ……あいしてます、リスティアさまぁ……」

リスティア様が、僕の妻に。僕とリスティア様が、夫婦に。
そして、離れる事無く、リスティア様を独り占め。
リスティア様の魅惑の肢体が僕だけのモノに。
それだけで無く、リスティア様の笑顔、欲情、愛情、身体だけで無く、心までもが僕のモノ。
リスティア様と愛しあえるのならば、互いを独り占めし合えるのならば、もう、他に何も要らないと思えてしまう程だ。
リスティア様の言葉に、悦びは、幸福は、際限無く膨らんでいく。

「ふふ、我輩もだ。愛しているぞ、愛している。
誰よりも、何よりもだ、ドゥーロ。
一生、お前を愛してやる、幸せにしてやる……」

「ぁ、ぁ、リスティアさま、もぅ……」

降り注ぐ愛の言葉に高められた性感。肉棒に蓄積させられた快楽は、決壊寸前で。
甘い痺れが腰の辺りに込み上げ、腰砕けになりながらも、がくがくと震えてしまう。
リスティア様から与えられる刺激そのものは、とても緩やかだというのに、射精の始まる前から気持ち良くて仕方無い。

「我慢は要らぬ……我輩の子宮に、たっぷりと出せっ……
あぁっ……愛しているぞ、ドゥーロっ……」

僕が射精寸前なのを察したリスティア様。
僕を、痛みを感じない限界まで強く抱き締めてきて。トドメと言わんばかりに、ぐりぐりと腰を捻り、押し付ける。

そして、それに合わせて、リスティア様のナカは、急激にその様子を変える。さっきまでは僕の肉棒を優しく包みこんでくれていたのに、今は、僕の肉棒を貪り尽くすかのよう。
先程、一瞬だけリスティア様が僕を果てさせようとした時に比べ、さらに激しく、容赦無く。

先端から根元まで、強烈な締め付けによって肉棒は咥えこまれて
カリ首には肉襞が食い込むかのように密着している。
そして、肉棒を咥え込み、離さないまま、リスティア様のナカは、うねり、くねって。
まるで、無数の舌に肉棒を舐めしゃぶられているよう。
敏感な裏筋、カリ首が、執拗に肉襞に擦り上げられる。
さらには、膣内がぐちゅぐちゅと蠢いて。まるで、肉棒が咀嚼されてしまうかのよう。
リスティア様の最奥、子宮口は、亀頭にぐりぐりと押し付けられて。腰の捻りで、尿道口までもが、弾力に富んだ子宮口に撫で回されてしまう。

リスティア様の手加減無しの責めは、想像もつかなかった程の快楽を僕にもたらす。弱点と言える所は全て責められ、様々な動きが組み合わさり、肉棒が快楽の渦に包まれる。
絶頂間際になって、初めて味わわされる、未知とも言える程の快楽。

「んむっ……ふぅっ……んぅっ……!!」

「っ!?ぁ、ぁ、ぁぁっ……!」

そして、不意に、首筋に突き刺さるリスティア様の牙。血が沸騰するかのような、鮮烈な快楽が、僕の身体を駆け巡る。身体はびくびくと痙攣してしまい、堪らずリスティア様にしがみつく。
血の集まる肉棒を襲う、吸血の快楽は、一際凄まじく。
リスティア様の魔性の膣から与えられる快楽と合わさり、まるで、肉棒が快楽に融けてしまったかのよう。
今まさに射精が始まろうとした矢先に与えられる、圧倒的な快楽。突き抜けるような絶頂。更なる高みへと押し上げられ、込み上げてくる射精感。
そして、僕は、リスティア様の最奥めがけ、まるで間欠泉のように精を放ってしまう。
どくん、どくんと、暴れるような脈動。
快楽の塊と化した肉棒の中を、特濃の精液が通り抜けていく射精の快楽。腰までもが融けてしまいそう。
僕の頭の中は、リスティア様と、リスティア様の与えてくれる、現実離れした快楽の事だけで完全に埋め尽くされてしまう。

「っ……んっ、んぅ……!」

「ぁ、うぁっ、ひぁ、はぁ、ぁぁっ……!」

僕が精を放ち始めると、リスティア様は、びくびくと身体を痙攣させる。
より一層強く抱き締められ、牙はさらに深く突き刺さり、吸血の快楽は増していく。
そして、精をきっかけに、リスティア様の膣内はまたもや様変わりする。
子宮口は、尿道口にぴっちりと吸い付き、一滴たりとも精液を逃そうとしない。
肉棒の脈動に合わせ、膣内は痙攣し、根元から先端へと、蠕動を始める。
射精すら妨げてしまうような強烈な締め付け。
しかし、脈動に合わせたその蠢きは、射精を妨げないどころか促し、精液を吸い上げていって。
増幅される射精の快楽。比類無い放出感のままに、リスティア様に搾り取られるがままに、子宮に精を捧げる。
そして、射精の脈動は、すぐに終わる気配を見せず……

「んっ、ぅ、っ、ふぅっ……!」

「ぁう、ぁ、はぁ、ぁぁ、うぁぁ……!」

あまりの快楽に曖昧になる時間感覚。
何度も、何度も、繰り返し脈動する肉棒。吐き出される精液。枯れ果ててしまいそうな量の精を放ってしまっても、射精は収まらない。
いつもより沢山の血を吸われているが、眩暈がしそうな程に気持ち良いだけで、眩暈がするような事も無く。
吸血の快楽に全身を焦がされながら、長い、長い絶頂を続ける。



「っは……ん、ぁ、はぁ……あぁ……んっ……ちゅぅ……」

「ぁ、ぅぁ……ぁ……」

終わりが無いように思えた絶頂も、次第に緩やかになっていって。最後の一滴まで、余す事無くリスティア様に搾り取られ、最後の最後まで、極上の射精感を味わう。
深々と突き刺さった牙は抜かれて、首筋をリスティア様の舌が這い、吸血の傷が癒される。

「ぁ……はぁ、ん……実に……美味だぞ、ドゥーロ……」

恍惚の笑みを浮かべるリスティア様。
すっかり朱に染まった頬。とろんと垂れ下がった目元。
荒い息遣いに、甘くねっとりとした声、艶かしい溜息。綻んだ口元。
リスティア様も、沢山、快楽を感じてくれたのだろう。
しかし、リスティア様は、感じながらも乱れる事はなく、捕食者の余裕、主人の威厳、そして愛情のこもった眼で僕を見据える。

「はぁ……ぁ……りすてぃあ……さまぁ……」

枯れ果ててしまいそうな程に長く続いた射精、吸血。
疲労感がどっと押し寄せ、身体全体から力が抜けていき、リスティア様に抱かれるがまま。
しかし、その疲労感、脱力感ですら心地良い。
吸血の余韻で、全身が骨の髄まで甘く蕩けてしまったかのようで。意識は未だに、快楽の海をふわふわと漂っている。
大量の精液を放った肉棒は萎える事も無く。射精直後の敏感さで味わうリスティア様のナカは、また格別に気持ち良い。
夢見心地に、リスティア様の名前を呼ぶ。

「んっ……ふふ……たくさん、ナカに……幸せだぞぉ、ドゥーロ……」

「ぼくも、しあわせ、です……」

幸福に満ちたリスティア様の表情、言葉。
それが、僕に向けられている事が、どうしようもなく幸せだ。
愛する人の歓びは、僕を満ち足りた気分にさせてくれる。
勿論、リスティア様に与えられる快楽やぬくもり、愛情も僕を幸せにして、充足させてくれる。
リスティア様に求められる悦びを知ってしまった僕は、もはや、リスティア様無しでは生きられないだろう。しかし、それすらも幸せでならない。
リスティア様だけ居れば、リスティア様と共に居られれば、それだけで幸せ。そう確信する。

「ふふ、そうか……
一緒に、もっと、もっと、幸せになるぞ、ドゥーロ……んっ……はぁ、んっ……」

「うぁ、ぁっ……はぃ、リスティアさま……ぁっ……」

リスティア様の瞳に宿る情欲の炎は、消えるどころかさらに燃え上がっていて。
僕をしっかりと抱き留めながら、ゆっくりと腰を上下させ始める。
射精直後の敏感な肉棒に襲い掛かる、抽送の快楽。
そして、リスティア様の腰の動きは、どんどんと速く、激しくなっていって……
そうして僕は、リスティア様の最愛の夫として、生涯の伴侶として、愛情を以て貪られ、味わわれ、その悦び、幸福に溺れていくのだった。





「ふむ……こんなものだな」

台所に向かい、いつもの様に料理をしているリスティア様。
用意された椅子に座り、その後ろ姿を見つめるのが、今となっては僕の日課だ。
夫として迎え入れられる前とは違って、料理をしている姿を見ていても、文句ひとつ言われない。
それどころか、見るのをやめて離れようとすると、引き止められてしまうぐらいだ。
尤も、リスティア様が料理をしている姿は、いくら見ていても飽きないので、全然構わないのだけれど。
いかにもお嫁さん、といった感じがして、まさに眼福だ。

「どれどれ……ん……美味しいですね」

椅子から立ち上がり、リスティア様の傍に歩み寄る。
そして、テーブルに並べられる前の料理の一つに目をつけ、一口摘んで、口に放り込む。
行儀が悪いが、料理を見ていたら食べたくなってしまったのだ。
肝心の料理の味は、リスティア様が作っただけあって、とても美味しい。
流石、と言うべき出来だ。

「……つまみ食いか。
まったく……行儀が悪いと言っているだろう」

「…………美味しそうだったので、つい」

つまみ食いをする僕に振り向くリスティア様。
じとっとした視線を向けられるが、その口元はかすかに緩んでいる。
リスティア様が振り向くと、翼のマントで隠れていた部分が露わになる。
リスティア様がその身に着けているのは、フリルのついたエプロンのみ。
豊満な胸の谷間は大胆にさらけ出されていて。エプロンではその大きな乳房を隠しきれていない。少し横から覗けば、横乳を拝めるような格好だ。
そして、エプロンの丈は短く、殆ど股の高さと変わらないぐらいで。艶かしい脚線美をありありと堪能できる上に、僕がしゃがみ込みでもすれば、秘所が丸見えになってしまう。
そんな、扇情的で際どい、リスティア様の裸エプロン姿に見惚れながら、半分上の空に返事をする。
男の夢とも言える裸エプロン姿。それを、リスティア様がしてくれているという事実だけで、もう幸せでならない。

「……あむっ……んくっ……ちゅ……」

「ひぁっ……」

裸エプロン姿に見惚ていると、リスティア様に抱き寄せられて。
そのまま、首筋に牙を突き立てられ、少しだけ血を吸われてしまう。
一瞬だけ全身を襲う、吸血の快楽。しかし、それはとても鮮烈で。日に日に、受け取る快楽が増しているような気さえして。
あっさりと僕は腰砕けになってしまい、いつもの様にリスティア様にもたれかかる。

「ん……はぁ……お前が美味しそうだったのでな、ついつまみ食いしてしまったぞ?ドゥーロ」

もたれかかる僕を優しく放すリスティア様。
腰砕けになった僕は、その場にへたりと座り込んでしまう。
そして、リスティア様は僕を見下ろし覗きこむと、ニヤリと笑って。
その捕食者めいた笑みと、つまみ食い、という言葉に、ゾクゾクとしたモノを感じてしまう。

「ぁ……はぁ……ぁ……」

視界の端にちらつく、エプロンの裾。
リスティア様の顔から視線を下ろしていく。
座り込んだ僕の視点。それは当然、エプロンの裾より低く。
リスティア様の脚だけでなく、エプロンで隠されていた秘所までもを見上げる事が出来る。
リスティア様の、潤んだ割れ目。今にも愛液が滴り落ちてきそうで、甘酸っぱく濃厚な芳香が漂ってきて。
視線はリスティア様の秘所に吸い込まれ、釘付けにされてしまう。
下半身に血が集まっていき、膨れ上がっていく。

「ん……ふふ、そんなにして……
後でじっくり味わってやるから、ちゃあんと待つのだぞ?
今日の夕食は……魔界から取り寄せた食材をふんだんに使っているのだからな。デザートも勿論あるぞ。
メインディッシュはその後、だ。ふふふ……」

僕の股間に張られたテントを一瞥するリスティア様。
欲望の証を見て、満足気に舌なめずり。
交わりを彩る効能を持つ、魔界の食材について語る声からは、期待が滲み出ていて。
僕の視線を釘付けにするリスティア様の割れ目は、さらに潤みを増し、愛液が一滴、太ももを伝って垂れていく。
リスティア様は、僕の視線に当然気づいているが、隠す事はしない。

「っ……はぃ、リスティア様……」

リスティア様の情欲の丈を魅せつけられ、否が応にも膨らむ期待。
ごくりと、生唾を飲んでしまう。
今日の交わりで、リスティア様はどういった風に僕を愛してくれるのだろうか。どんな風に貪られて、どんな風に味わわれてしまうのだろうか。
どんな表情を見せてくれて、どんな声を聴かせてくれるのだろうか。
それが、楽しみで、楽しみで仕方なく。リスティア様の言葉に、期待を露わに頷く。

リスティア様との交わりを待ち望む事すら、僕にとっては愉しみに他ならず。
リスティア様の夫として過ごす日々。それは、とても甘美で、愛情に満たされた、幸せなものだった。
13/01/21 23:43更新 / REID

■作者メッセージ
どうも、お久しぶりです。REIDです。おおよそ半年ぶりですね。
10月中には書き上げようと思っていましたが結局こんな時期に。

貴族になる前の召使い相手にも何だかんだ優しかったり、世話焼きなヴァンパイア様が書きたかったのです。
テーマは理想のご主人様。結局お嫁さんになりましたけども。お嫁さんでありご主人様です。
吸血されながらイかされたいです、はい。
あ、最後の後日談は、裸エプロンしたいので無理矢理ねじ込みました。
裸エプロン万歳!万歳!

次に書くのは、エロフさんかリリム様かドッペルちゃんか……
行き遅れラミアさんも良いかもしれませんね。
今年は去年よりもっと多くのSSを書きたいものです。
それでは、またお会いしましょう。

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