読切小説
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魔物の按摩屋
「ここか。噂の按摩屋とやらは」
 硫黄の匂いが満ちた通りの中に、ひっそりと看板を
 吊り下げた古めかしい民家が有った。

「ごめんくださいな」
 暖簾を押し分け中に入ると、薄暗い部屋の中で動く影が見えた。
「いらっしゃいませ。予約は御済ですか?」
 やって来たのは目隠しをした女性だった。盲人だろうか?

「いや、始めて来たんで段取りもよく分からないんだが」
「そうでしたか。では、まずは御品書きを御覧ください」
 革の装丁を施した御品書きを開いて女性は近づいてきた。

「足つぼ、御灸、整体按摩・・・色々有るんだな。おススメは?」
「こちらの鍼で御座います」
 値段を見ると若干高い。だが、それだけ効果は有るのだろう。

「じゃあ、それにします」
「畏まりました。では、こちらへどうぞ」
 店の奥に案内されると、布団を敷いた部屋に入った。

「それでは衣服と貴重品を籠に入れて俯せてくださいな」
 大小様々な針を取り出しながら、女性は慣れた手つきで
 準備を始めた。見えないだろうに器用な事だ。

「鍼か・・・やっぱりチクッとするんですかね?」
「いいえ、これは専用の物で御座いますから、注射の様に痛みを感じる事はありません」
 はにかみながら女性は説明を続けた。

「むしろ、刺した所から気持ち良くなってくるので何度も頼む御客様もいらっしゃるんですよ」
「へぇ、それは楽しみだ」
 俺は上半身裸になって布団の上に横たわった。

「お客様は特に疲れている場所などは御座いますか?」
「そうだなぁ・・・腰が一番痛むかな。仕事で座りっぱなしだから痛むんだ」
 パソコンの前で座り続けて十数時間。毎日続ければ無理も無いだろう。

「成程。では、始めますので楽にしてください。」
 女性は腕まくりをして両手にローションを塗り始めた。
 花の香りだろうか? 心地良い匂いが鼻をくすぐってくる。

「まずは固くなった筋肉を揉んで柔らかく致します。
 途中で眠くなられたら、遠慮せずお休みくださいませ」
 一瞬ひんやりとした感触が広がるものの、掌の温かさで
 すぐさま心地良くなり、塗られた場所が熱を持ち始める。

「おお・・・これは効きそうだ」
 グリグリと指圧される度に固い凝りが解されて
 思考がぼんやりとする。眠くなるのも頷ける話だ。

「うふふ、鍼の効き目はこんな物じゃありませんよ」
 女性は一旦離れると、脇に置いた鍼を手にした。

「暫くの間じっとしてくださいね」
 指の長さ程度の鍼を摘まみ上げ、肌に息が掛かるほど
 顔を近づけると、背中に鍼を刺し始めた。

 刺された所で確かに痛みは感じないが、むず痒いとも
 くすぐったいとも言える奇妙な熱が鍼の先から体に染み込んでゆく。
 まるで湯に浸かるような温もりに瞼が脱力して降り始めた。

「あ〜・・・力が抜けるようですねぇ・・・」
 文字で例えるなら、ぐで〜っと言った所か。
 酩酊するような昂揚感に包まれ、身じろぎすら億劫に感じる。

「では、仕上げに入りますね」
 鍼を抜き取りローションを軽く拭き取ると、女性は衣服を脱ぎ始めた。
「後は体に溜まった疲れを吸い出し、新たに精を注いで終わりです。
 残り時間を目一杯使いますので、どうぞ楽しんでくださいませ」
 
 そう言い終えると共に女性の姿が見る見る内に変化し始めた。
 はたきの様に腕からは羽が生え始め、爪が長く伸びている。
 胴体は鱗のような凹凸が浮かび上がり、やがて一つに纏まった。

「げ・・・あんた、人間じゃないのか・・・」
「そうですが、逃げるには手遅れで御座います。ローションは
 ウンディーネの天然水を、鍼は魔界銀を用いております。
 既に精が抜けた御客様は動く事も叶わないかと」

 確かに体は指を動かす事すら不可能だ。
 してやられた。と、気付いた所でどうにもならない。

「さて、悪い精を搾り出しましょうか」
 残る俺の衣服を脱がすと、彼女は長い胴を体に巻き付けた。
「見た所、お客様は童貞の上に随分と粉を掛けられた様子。
 不肖ながら、この私が今後の相手を引き受けさせて頂きましょう」
 
 薄暗い部屋の中でも瞼を開いた彼女の瞳は
 紅黒い光を放ち、怪しく輝いていた。

「あらあら、立派な物を御持ちのようですね」
 瞬く間も無く膨れ上がる逸物。その先から溢れる
 汁を啜ろうと下の口が迫り来る。

「まずは手淫にて御客様に付いた他人様の精を抜き出して差し上げます」
 蛇のような体を愛おしそうに絡ませながら両手で逸物を包み込むと、
 それだけで精液が迸り彼女の手を白く染め上げた。

「勿体無い・・・こんなにも美味な精なのに、他の精気が混じっていたら台無しです」
 嬉しそうに、されど忌々しげに。手に浴びせられた
 新鮮な精を舐めとりながら彼女は呟く。

「今度は槍真珠と参りましょう。遠慮なさらず好きなだけ出してくださいな」
 たわわに実った双乳で逸物を包みながら体に絡めた蛇の胴を
 揺さぶる彼女。まるで谷間を犯しているような錯覚すら覚える。

「如何ですか? 出したばかりの敏感な一時に更なる快楽を
 注がれる体験は、他の者では味わえる物ではありませんよ」
 どこか自慢げに語る彼女の口からは長い舌が見え隠れしていた。

「はてさて、準備も整ったようですし、迎え入れるとしましょう」
 秘所が物欲しげに蠢きつつも愛液を垂らす光景は、
 さながら舌なめずりをする蛇の口のようだ。

「他の客が来るかもしれないのに、こんな事やっていいのか?」
「それは御心配無く。控えの者なら幾らでも待機しておりますので」
 障子に差し込む光が、人の姿に遮られて影を作る。
 何時の間にか別の従業員が出張っていたようだ。

「それでは私の精を注ぎ、御客様の精と入れ替えて仕舞いと致しましょう」 
 目隠しが外されて視線が交わった瞬間、焼け付く様ような火照りが
 脳天から駆けた。今しがた精を吐き出した息子も再び固さを取り戻す。

「御客様・・・どうか、この婢女の旦那様となってくださいまし・・・」
 しなだれかかり、目を潤ませて縋る彼女の頼みに俺は小さく頷いた。

「ああ、有り難う御座います。この契りを以って
 私めの持てる全てを捧げさせて頂きましょう」
 彼女は嬉し涙を零しながら腰を下ろした。
 
「お〜・・・これは効くなぁ・・・」
 精を吐き出すと共に意識が飛びそうになるが、巻き付けられた
 彼女の胴から流れ込んでくる精のおかげで正気のまま快楽を
 楽しめる。体の方も疲れが吹っ飛び随分と楽になった。

「これにて按摩は終わりで御座いますが、延長なさいますか?」
 流れ込む精を胎で受け止めながら彼女は耳元で囁いた。

「そうだな・・・御品書きには色々有ったし、順番にやってくれるか?」
「勿論お引き受けしますわ。では、何から始めますか?」
 彼女は嬉々として道具を手繰り寄せ、俺の注文に耳をそばだてるのであった。
16/04/01 20:57更新 / rynos

■作者メッセージ
昔の話ですが、「めくらの按摩」という小話を聞いた事が有るんですが、バジリスクの設定を読んだら久々に思い出したので一筆取ってみました。偶にはマッサージにでも行ってみようかなぁ…。

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