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閑話 拒絶の真意と傷痕 True meaning of refusal and scar
数日後…。

「ん?」

『そういえば、貴方はこの世界に来る前に何をしていたの?』

「なんでそんなことを?」

『気になるのよ、貴方は前に大切な人を失ったって言っていたから。』

「まだ立ち直れてるわけじゃないんだがな…。」

『忘れられないわよね…。』

「忘れられるわけがない。」

『そうよね…。』

「まあ学生をやっていた。」

『学校行ってたの?』

「卒業して次の進路に向かっていた。」

『そして否応なしにこの世界に送り込まれたと。』

「そうなる。」

『そう。』

「まあ進学していてもうまく行ったかはわからないけど。」

『まあそうよね。』

「この世界に送り込まれたのは悪いことではなかったと思うしな。」

『?』

「いろいろ未知の体験ができたしな。」

『私に襲って欲しいってことかしら?』

「…。」

『?』

「…。」

『…本当に襲っちゃうわよ♪』

「…。」

『やっと観念したみたいね。』

ブランは俺をベッドに押し倒した。

「!」

『きゃっ!』

「…済まない。」

俺はブランを突き飛ばしてその場から走り去った。

『…え?』








それからしばらく経って、俺は自分にあてがわれた部屋のベランダで座って星を見ていた。

「まだ立ち直れてなかったか…。」

『こんな夜に一人で青年は何をしている?』

「…あんたか。」

『ブラン様と何かあったのか?』

「あんたには関係ないだろ。」

『そうもいかないのじゃよ。』

「?」

『ブラン様はあれから自分の部屋でずっと泣いておられる、お主に拒絶されたのがよほど堪えているようじゃな。』

「そうか…悪いことしてしまったな…。」

『お主はブラン様を嫌っておるのか?』

「それはない。」

『ならなぜじゃ?』

「これは俺の問題だ、俺が答えを見つけないといけない。」

『もし良ければ儂に話してはくれないか?解決の方法が見つかるかもしれん。』

「少なくともあんたには解決できないと思う、女として生を受けたあんたにはな。」

『…女性関係か?』

「まあそんなところだ。」
『なら仕方あるまい、儂よりうってつけの男が居る、呼んで来よう。』

「え、あ、おい!」

アイシスは行ってしまった。

「誰だよ、うってつけの人物って。」

考えていると数分後、かつて伝説の勇者と呼ばれ、今は魔王の夫である彼が来た。

「…俺に何か用ですか?」

「君の問題、同じ男なら解決できるとアイシスに言われた、それに娘のために人肌脱ぐのもいいものさ。」
といい終わるか終わらないかのうちに俺は殴られた。

「ぐっ!」

「…どんな理由があったにせよ、ブランを泣かせたのは悪いことだ。」

「違いありませんね。」

「次は君の理由を聞かないといけないな。」

「拒絶の理由ですか?」

「そうだ、ブランが先走り過ぎたのもいけないと私は思うからね。」

「まず、俺の出生から話した方が分かりやすいと思うので、そうしていいですか?」

「分かりやすいに越したことはない、そうしてくれるか?」

「わかりました。」

俺は今までのことを彼に話した。

「俺は産まれて半年くらい経って、皮膚の病気になりました。」

「だから君の腕とかに掻いた跡があるのか、納得したよ。」

「そして幼稚園から俺の地獄が始まったんです。」

「…見た目のせいでいじめられたのか。」

「はい、そして学校に上がると地獄はさらに苦しくなりました。」

「…。」

「意外に子供は残酷で狡猾です、あの時俺があの女を階段から突き飛ばさなかったら多分ここに俺は居ませんでした。」

「なるほど。」

「女達からは何もしていないのに罵声を浴びせられ、その腰巾着の男達からは暴力を振るわれた。」

「…君が人間を嫌っている理由が解った気がするよ。」

「小さいころからずっと見た目の罵声を浴びせられて女に対して嫌悪感、恐怖を持たないわけがないんですよ。」

「…君がブランを拒絶したのは、その記憶が蘇ったのかな?」

「いえ、どちらかというと頭では魔物は人を傷付けないとは分かっているけど本能的に拒絶したのかもしれないと思います。」

「…なるほど、ならこのことは君からブランに話すんだ。」

「…大丈夫です、今から行きます。」

「頑張って。」

そして俺はブランの部屋に向かった。

「ブラン、居るか?」

数秒経ってブランは扉を開けて泣き腫らした顔で俺を見た。
『…なに?』

「ブラン、お前に話しておかないといけないことがある。」

『…さっきのこと?』

「その事に関係がある、というよりさっきのことの原因かな。」

『…聞かせてくれる?』

「ああ。」

俺は小さいころから苦しんできたこと、今も本能的に女に対して恐怖を持っていること、ブランを嫌ってはいないことを話した。

『やっぱり貴方、辛かったんじゃない…。』

「今となっては並のことでは折れない精神を持つことができたけどな、後遺症はあるけど。」

『私達が貴方を傷つけないのを分かって居ても、恐怖は消えない…よほど堪えているのね。』

「今は話したりするのは大丈夫までになったけどいきなりあんなことされそうになったら傷痕が疼くっての。」

『…女に興味がないわけではないのね。』

「一応、俺も年頃の男子だしな。」

『…ならしばらくこうしてなさい。』

俺はあっという間にブランに抱き抱えられた。

「…。」

『今は折れても、泣いても、いいから。』

「…。」

俺はかなりの時間、ブランに身体を預けていた。

『?』

「とりあえず、今のところは傷痕の疼きは治まったみたいだ。」

『すっきりした顔してるわよ♪』

「かもな。」

『一緒に、寝ていい?』

「眠ったついでに傷痕も無くなったらいいのにな。」

『そうね。』

その夜はブランに密着されていたが、一度も俺は目を覚ますことなく朝まで眠ることができた。

「…朝か。」

『相変わらず早いのね…。』
ブランが欠伸をしながら話しかけてくる。

「まあこれが日常になってるからな。」

『どう?傷痕は。』

「少なくとも今は大丈夫だ、あんなことを繰り返したりしないならな。」

『もっと近づいてからね。』
「だな。」

『したくなったらいつでもいいわよ♪』

「おいおい…。」

『そういえば。』

「?」

『おはよう♪むちゅ早x

「!?」

いきなりブランは俺の肩を抱えるとキスをしてきた。

『後遺症、治った?』

「なんてショック療法だよ、一歩間違えたら再発して悪化してたぞ…。」

『ってことは大丈夫みたいね。』

「ブランに話したことで女性に対しての恐怖は消えないけどブランは恐怖の対象では無くなったみたいだ。」

『つまり女として見られなくなったってこと!?』

「いや、少なくともブランは俺を傷つけないと本能的に悟ったのかもしれない。」

『ふふふ、やっとこれで障害は無くなったわね♪』

「障害はいきなり生えてくることもあるから気をつけて。」

『えぇ♪』

かなり荒いやり方だったが、俺の心にある恐怖心はブランに対しては無くなったようだ。

『さて、式はいつにしましょうか?』

「話が早くてついていけない。」

『どんなドレスを着たらいいかしら…?』

「…。(ブランは俺に対してここまでしてくれた、もう腹を括るか。)」

近いうちに、ブランの願いが叶うと俺は思いながらブランとカタログを見て考えていった。
15/04/04 01:39更新 / サボテン
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■作者メッセージ
どうも、サボテンです。

今回は第11.5話です。

ジュンの過去は、私の過去を一部改変したものです。

次は恐らく最終回だと思います。

ここまで読んでいただいた皆様、最後までよろしくお願いします。

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