連載小説
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未来への希望と暗雲 Request in the future and dark cloud
翌日…

「何か聞こえてくるな…。」

魔王城の会議室を通るときに何かが聞こえたので、聞いてみることにした。

「…。」

『そうじゃな、バレノの港は守らなければならんの。』

「!?」

しばらく聞いていると、バレノの港町に教団が攻めてくるらしい。

『数はそれほど多くはないし質もそれなりじゃ、我らの敵ではないが、念には念を入れねばならんの。』

「…(バレノでグリネ村の惨劇を繰り返すって言うなら、俺が何とかしなければいけないな…。)」

『盗み聞きはあまり良い趣味とは言えんと思うぞ、青年よ。』

「盗み聞きじゃない、偶然通ったら物騒な話をしてるんだ、気にならないわけがない。」

『…それもそうではあるな。』

「グリネ村の惨劇を繰り返そうとするなら、容赦はしない。」

『お主、グリネ村の生存者か?』

「俺はジュン、旅の戦士だ。」

『儂はアイシス、バフォメットじゃ。』

「奴らが懲りていないなら、やるしかない。」

『…お主があの一教団騎士団を一人で殲滅した男か、なるほど。』

「だからって見逃すなんて都合のいい話はないんだろう?」

『うむ、もうお主にはもう報復をさせるなと魔王様から言われておる。』

「魔王が直々に止めるように言われてるのかよ…。」

『うむ、ところでお主は旧時代の遺産を使えると聞いたが本当か?』

「全部扱えるかは知らない、だけどこの剣は使える。」

『…かなりの命をその剣に食わせてきたようじゃな。』

「まあ、教団に対する報復は基本的にこれだからな、使ったのは。」

『食わせた命が多ければ多いだけその剣は威力を増して軽くなる、分かりやすく言えば呪われた武器じゃよ。』

「まぁ俺はそのデメリットも利用してるけどな。」

『その剣の所有者であり続ける為には人間の命を剣に食わせる必要がある、教団を皆殺しにしたいお主には相性は抜群じゃろうて。』

「もう報復はしない。」

『改心したのか?』

「俺はあの街に思い出がある、俺は思い出の場所を守るために奴らを殺す。」

『それが正しいと思うのか?』

「まあ殺しに正義はないだろうさ、だが巨悪を滅ぼすために俺は奴らを滅ぼす。」

『ふむ…。』

「巨悪を滅ぼす為なら小悪は善になるんだ。」

『殺しに正義はないのは同意できるな。』

「それに、あんた達の言ってることは所詮強者の理論で弱者にとっては偽善者の戯言でしかない。」

『…。』

「俺は今度こそ守る、たとえ命を失うことになっても俺の思い出の場所を守るんだ。」

『そうか、儂らの言っていることは確かに理想論の綺麗事なのかもしれんな。』

「だったら止めてくれるな。」

『じゃがな、儂らにも言い分はある。』

「例えば?」

『魔王軍は常に男日照りの者達ばかりじゃ。』

「らしいな。」

『お主が殺さなければ、その分だけ魔王軍の誰か、あるいは魔物の誰かが幸せになれるのじゃ。』

「考え方を変えればそうだな。」

『儂らの幸せの為に、此処は引いてくれんか?』

「魔王軍ってのは随分気が小さいんだな。」

『なぜそう思うのじゃ?』

「俺が教団の奴らを殺す前にあんた達魔王軍が堕とせばいいだけじゃないのか。それともたかだか一人の人間に劣る可能性を考えるほど自信がないのか?」

『…。』

「強力な魔物、強者の中でもかなり上の立場であるバフォメットなのに、随分気が小さいな。」

『む…。』

「それほど不安か?」

『…。』

「まあいいや、作戦を考える上で俺がいたら間違いなく邪魔だろうからな。」

『それが分かっているならなぜ邪魔をする?』

「俺とあんた達の目的がまるで反対だからだろうさ。」

『なぜ殺すことにこだわる?』

「奴らにはそうしないと分からないだろうからな、あんた達みたいに守る力があるならいいんだろうさ。」

『よほど堪えているようじゃな…。』

「あんたには分からないだろうさ。」

『…。』

「力のない奴を集団で虐げ、殺す奴らの性根がまともだと思うか?」

『思えんな、どう考えても。』

「完全に性根が腐り切ってる奴らには救いは必要ない、必要なのは断罪だ。」

『極端とはいえ、間違ってはいないのがなんとも…。』

「そろそろ奴らが来るみたいだな、俺は行く。」

『全く、最近の若いのは突っ走ってばかりじや…。』








15分くらい経ち、俺はバレノに着いた。

「絶対に、俺が守るんだ…。」

すると、頭の中に聞いたことのない声が入って来た。

「?」

[ジュン…。]

「あんたは?」

[我はその剣に宿る邪龍と呼ばれた龍の意志だ。]

「なんで邪龍なんて言われてるんだよ…。」

[我は破壊の力を宿す龍、そう呼ばれるのも仕方のないことだ。]

「で、何の用だ?」

[お前にはたくさんの糧をもらった、その礼をしたいと思ってな。]

「礼?」

[我が力の一端をお前に与えよう。]

「なんで少し悲しそうなんだ?」

[我に悲しみなど、ない。]

「あんた、本当は邪龍なんて言われたくないんじゃないのか?」

[…。]

「わかった、俺があんたの力でこの街を守って見せる。」

[…]

「いくら破壊の力でも、何かを守るために使えば守る力になるはずだ。」

[…頼んだぞ。]

「ああ。」

そして、話が終わる頃に教団の騎士団が来たようだ。
「これよりこの地を清める聖戦だ!」

教団の奴らの喚声が上がる、俺は構えた。

「!?」

[お前が今着ている鎧に、我が力の一端を託した。]

「わかった。」

既に別の方向では魔物達と教団の奴らとの戦いが始まっているようだ。

「その命、もらった!」

俺に刃が迫ったが、俺は躱して騎士の片腕を斬り落とした。

「がっ!貴様ぁぁぁぁぁ!」

「身体が、軽い…。」

気が付けば俺はその騎士の首から肩にかけてを撫で斬りにしていた。

「だぁっ!」

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィン!

「?ブシャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

直線上に居た教団の奴らがみんな首を斬り落とされていく…。

「衝撃を飛ばせるのか、面白いな。」

ビュォン!ブォン!ブン!

俺は衝撃を飛ばして教団の奴らを片っ端から肉塊に変えて行った。

「残りはお前だけだ。」

「ぶ、武器を捨てて大人しく投降しろ、さもなくばこの娘の命はないぞ!」

「クリム!?」

『お兄ちゃん、逃げて…。』

「やはり教団の奴らはクズ以下の奴らしか居ないな。」

「早く武器を捨てろ、この娘を殺すぞ。」

「?」

俺は教団兵の後ろから来る衝撃波に気付いた。

「それよりもお前、そこにいていいのか?」

「何を訳の分からないことを、もういい、この娘を主神の元に送ってやる!」

その兵士が持っている剣がクリムに突き刺さる前に、衝撃波が兵士の腕を斬り落とした。

「だっ!せいやっ!」

俺は片腕でクリムを抱え、衝撃波を躱しつつ教団兵を両断した。

「大丈夫か、クリム。」

『お兄ちゃん…怖かった…。』

「もう大丈夫だ、奴がこっちに来た最後の奴だ。」

『お兄ちゃん、うぁぁぁぁぁぁ!!!』

クリムは安心したのか、泣き出した。

「とりあえず親のところに戻るよ。」

『うん…。』

クリムを送り届け、俺はとりあえず魔王城に戻った。

『お帰りなさい、って血だらけじゃない!』

「全部返り血だ、俺は無傷だ。」

『それにその鎧、邪龍のものじゃない!』

「こいつは邪龍じゃない!」

『…え?』

「こいつは俺がバレノを守るために力を貸してくれたんだ、そんな龍が邪龍なわけがないだろう。」

『…ごめんなさい。』

「そういえば俺がまた教団の奴らを殺したのにお咎めなしか?」

『あそこの教団は、私達も嫌いだったのよ…。』

「おい、仮にも解り合えるって言ってた奴の言葉か?」

『…最近、全部と解り合うことは私にはできないんじゃないかと思ったのよ…。』

「そうか…。」

『身体、洗って来たら?髪の毛やほっぺたまで血だらけよ…。』

「そうする。」








とりあえずシャワーから上がって来ると、ブランが目を赤くして抱きついてきた。

『もうこんな無茶苦茶なこと、やめて…。』

「俺は教団から虐げられる奴らを守りたいんだ。」

『だけどその度に貴方は危険な目にあってるじゃない!』

「危険は承知の上だ。」

『私は、辛いのよ…。』

「…。」

『貴方が好きだから!傷ついて欲しくないのよ!』

「…。」

『…ごめんなさい、私も取り乱しちゃったわ。』

「…俺も、俺の命の在り方をもう少し考えてみることにした。」

『えぇ♪』

「…眠い、寝る。」

『放さないんだから…。』

「さすがにすぐに戦いに行かないって…。」

『ばか…!』

「…。」

俺は初めてブランを抱き返した。

『!』

ブランの顔がどんどん赤くなり、綻んでいくのが見えた。

「んじゃ寝る。」

結局、俺はブランに抱き抱えられながら寝ることになったが、今回は眠れないことにはならなかった。

15/04/14 21:16更新 / サボテン
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■作者メッセージ
人物紹介

アイシス

ジュンが教団のバレノ進攻を偶然立ち聞きした場所にいたバフォメット、魔物なりの意見と視点をジュンに聞かせた。


どうも、サボテンです。

第11話、いかがだったでしょうか?
今回から特殊な声を[]にしてみました。

一応次に考えているのは、最終回か11.5話のどちらかです、どちらかがいいと言う方が居ればコメントお願いします。

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