読切小説
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男と子鼠のサボタージュ
〜冒険者ギルドモイライ支部 会議室〜

ここは交易都市モイライにある冒険者ギルドの会議室。
外に音が漏れないように防音がしっかりとした造りになっているので、よくフレンブルク夫妻がイチャイチャするのに使われていたりする。
そんな部屋も、今日ばかりはいかがわしい事に使われていなかった。
部屋の中にはミリアとエルファ、ミストが顔を突き合わせて一つの帳簿を睨んでいる。

「持ってくるにしてももう少しはマシな物は無かったの、エル。いえ、確かに非常に重要な物だという事は認めない訳ではないけど……」
「わしだってこれがそんなにヤバい代物だとは思わなかったのじゃ。精々が向こうにいる内通者が動きやすくなるのではないか〜という認識で持ってきたんじゃ……。」

ちなみにこの三人、ミリアは言わずもがな冒険者ギルドの代表、エルファは魔術師ギルドの代表、そしてミストは魔王軍の代表としてここに集まっている。
彼女達が睨みつけているのは先日セント・ジオビア教会への突入作戦の際にくすねてきた同機関の帳簿だ。

「これが裏金や賄賂の受け渡し記録だったら扱いも楽だっただろうな……。しかし、恐らくこれはそんな生易しい物ではないだろう。」

帳簿の内容は殆どが金属類……鉄や銅、スズ、真鍮、銀などの購入記録だ。
その他にも用途不明の鉱物系素材やガラスの材料など、様々な物が明記されていた。
これが鎧を作るとかその程度の用途であればまだ納得できた。
大量に仕入れていたというのも戦争に備えているのであればまだ納得が行く。
しかし、見つかった場所が場所だけにその可能性は完全に否定されているのだ。

「これはどう見てもガーディアン……いえ、ソウルパペットだったかしら?それの材料よねぇ。」

そう、教会製の自立無人兵器『ソウルパペット』の材料……その仕入れ帳簿だったのだ。
しかもここに乗っているのは取引の数だけではない。

「しかもご丁寧に加工された材料を集める場所まで記されておる……。間違いなく製造工場か何かじゃろうな。」
「流石に放置はまずいだろうな。抜魂祭祀書は処分したとはいえ、何らかの方法で自律行動を取らせる方法を見つけたら……」

となると、誰かしらが破壊に行かなければならない。それこそ設計図から製造装置に至るまで全てをだ。

「話は全て聞かせてもらったわ!」

そんな時、会議室のドアが勢い良く開かれた。外に立っていたのはブラックハーピー……。
何を隠そうシーフギルドの元締め、シェイディア=モートその人だ。

「話は聞かせてもらったって……ここは音が漏れないような造りをしている筈なのだけれど?」

ミリアは若干引いて突然の闖入者を睨みつけていた。彼女はミリアにとって数少ない天敵であったりもするのだ。

「細かいことは気にしない♪それよりその製造施設の破壊工作……あたし達シーフギルドがやるわ。」
「ぇー……」

あからさまに嫌そうな顔をするミリア。それもその筈、彼女に貸しを作ると碌な事が無いのだ。
以前もギルドメンバーを引きぬかれそうになったり、高額な成功報酬を請求されたり……。
もし『彼』が自力でモイライまで帰り着いておらず、途中で冒険者ギルドや賞金稼ぎなどに捕まったとしたら……彼女がしゃしゃり出てきて彼の無罪を晴らし、そのまま彼を引きぬかれていたかもしれないのだ。引きぬいた時のメリットがさほどわからないが。

「あによ、別に金をせびろうとかそういうんじゃないわよ。」
「余計怪しいわ、それ。逆に怖くて任せられないわ。」

如何にも心外だとでも言わんばかりにため息を吐いて右腕の羽を1本だけ立てる。意外と器用だ。

「魔王軍の本部の方から直接あたしの所に協力命令が来たって訳。報酬は向こうのほうでたんまり貰うから心配ご無用。」
「エルファ、嘘を見破るような道具とか術とか無いかしら?」
「ブチャラティーという茶があるんじゃが……残念ながら手元には無いのぉ。」
「あたしどんだけ信用無いのよ!?」



「そんな訳でキーちゃん、赤紙です。」
「だからキーちゃんって言うなよ!?ていうか赤紙じゃなくて依頼だろうが依頼!」

俺はキース=マクラーレン。シーフギルド所属の工作員……と言えば聞こえはいいが、単なるコソ泥と潜入捜査を足して二で割ったような事をしている。
で、今話しているのはラージマウス……ニータという同じギルドのメンバーだ。以前何度か仕事を一緒にした事がある程度の仲なのだが……いつ頃からだろうか、キーちゃんなんて呼ばれるようになったのは。ま、どうでもいいが。

「で、今回の依頼は?」
「反魔物領……というか教会の領地にある工場の破壊工作だね。塵ひとつ残さず壊してこいってさ。」

こりゃまた物騒な依頼が来たもんだ。そんなに残したらまずいものでもあるのだろうか。

「で、今回もお前とペアか?」
「ううん、今回は私の妹分と。熟練という訳でも無いけど駆け出しでもないから過不足は無いと思うよ。」
「そうかい。」

目的地の地図を受け取りながら特に気のない返事を返す。こいつがいればまず失敗という事は無かったのだが……ま、問題無いだろう。こいつの手下ならばそれなりに場数を踏んでいるだろうしな。

「彼女……ミィはもう現地に向かっているから向こうで合流して。爆薬ならびに使った薬品の報告も忘れないようにね。」
「りょーかい……っと。そんじゃ、行ってきます。」

言うが早いか飛び上がって屋根の上を駆けていく。どこで話していたかって?秘密の集合場所(四方に入り口のない囲まれた場所)だよ。



〜ミシディア近郊 ソウルパペット製造工場周辺〜

という訳で旅の館でミシディア近郊まで飛び、お目当ての工場を目指す。
合流地点には既にラージマウスの少女が待機していた。木に寄りかかってのんびりとひなたぼっこか……見つかっていないか少しヒヤヒヤするな。

「ん、きーちゃん来たね。話は姉貴から聞いてるよ〜。」
「何でお前らは俺の事をきーちゃんなんて呼ぶんだ。そう呼ばれるのが嫌いだっていつも言っているだろうに……」

彼女はいたずらっぽくニシシと笑って理由を話してくれた。

「姉貴がこうしたほうが面白いって言ってたから。」
「あんにゃろ……戻ったら覚えてやがれ……。」

思わず頭を掻き毟って絶叫したかったが、我慢。敵地なのだから大声を出すわけには行かない。

「ミィだよ。得意分野は破壊工作〜。」
「何故俺が呼ばれたのかがサッパリわからんな。お前一人じゃダメなのか?」
「ん〜……戦闘方面はさっぱりだし、鍵開けもいまいちなんだ〜。だからソッチの方よろしく〜。」
「あいよ……んじゃ、とっとと終わらせますか。」

指を折り曲げてポキポキと鳴らし、気合を入れる。
さて、仕事を始めよう。

「あまりそれやり過ぎると関節太くなるよ〜?」
「うっせ。」



兵器工場だというのに警備はかなり手薄だった。ガーディアンと呼ばれる自立兵器も警備に立っておらず、裏口までは割とあっさりとたどり着く。

「少し拍子抜けだな。」
「下手に見つかって騒ぎが大きくなるよりいいんじゃない〜?」

組んで様子を見ていて気づいたが、こいつ、ラージマウスのくせに妙にのんびりとしている。爆破、破壊工作と言えば仕掛けてからの脱出にそれ相応の迅速さが要求されるのだが……大丈夫だろうか。

「ここをこうして……ほい、開いた。」
「解錠魔法より早いね〜。」
「あれより遅かったら盗賊業をたたまなきゃならないからな。ピッキング技能は基礎中の基礎だ。」

ちなみに俺の目標はミミックの鍵穴を自力で解錠する事だ。知り合いのミミックに協力してもらって挑戦しているのだが、未だに解錠できていない。

「一応中に気配はない……が、慎重に行くぞ。」
「りょ〜かい」

音を立てないようこっそりと扉を開けて中へ。中に人は……やはり居ないか。
薄暗い廊下を抜け、製造室という部屋の中へ。その中には、想像を絶する光景が広がっていた。

ゴウンゴウンと奇妙な音を立てる箱が無数に立ち並び、奇妙な台座の上に雑多な部品が並べられてどこかへと運ばれていく。
中の作業員は全部で100人ほど。それぞれが一心不乱に目の前に流れてきた部品を組み立てている。流石にこの数を一辺に無力化するのは難しい。

「とりあえず重要そうな箱に爆薬を仕掛けて回るか。」
「りょ〜かい。きーちゃんは仕掛けている間周囲の警戒をよろしく〜。」

作業員に見つからぬようそれぞれの箱に爆薬を仕掛けていく。音に関しては周囲がやたら煩いので心配する必要は無かった。遮蔽物も多いので隠れやすい。
作業は思ったよりも簡単に運んだ。

「あとは煙幕を炊いて火事に見せかけて人払いをするだけ〜。」
「よし……頼んだ。」

ミィが製造室の内部に煙幕弾を放り込むと、それが一つの大きな箱へと引っかかる。
そして、もうもうと煙を上げ始めた。
作業員はというと、慌てて部屋の外へと逃げ出していく。

「あとは爆破するだけ〜。準備はいい〜?」
「あぁ、たの……ちょっと待て。」

ここで爆破のスイッチを入れるあたり時限式にしてあるのだろうが……俺はふと引っかかった。
ここで製造されているのはガーディアンだった。ならば、設計図も抹消しておかないとまずいのではないか?

「爆破は後回しだ。ガーディアンの設計図だけ始末するぞ。」
「早めにしてね〜。作業員達が戻って様子を確かめに来ないともかぎらないから〜。」

手分けして設計図が保管して有りそうな場所を探す。
事務所、資料室、倉庫……最終的に資料室で設計図が見つかったので、そこに火を放って脱出する事に。

「それじゃ、スイッチ入れるよ〜。3分後には爆発するから早く逃げよ〜♪」
「了解……っと。さっさととんずら……げ……」

完全に予想しないでも無かった。
ここが「そういう所」である以上、配備されていないのはおかしいのだ。
だからと言って何で……

「ガーディアン……!」

何で今から逃げようという時に現れる!
そいつは腰に付けてあるダガーを抜き放ち、一直線に俺達の方へ駆けてくる。

「あはは……スイッチ、入れちゃった。」
「しかも時間制限付きかよ!?」

さらに間の悪いことに、ミィが爆薬の時限装置のスイッチを入れてしまった。
逃げながらここから脱出するにしてもあと3分。しかも、出口はガーディアンの向こう側……絶体絶命だ。

「今は逃げるぞ!残り時間の把握を忘れるなよ!?」
「は〜い♪」

こいつ余裕過ぎるだろ。



残り時間2分。俺達は廃材置き場まで逃げ込んだ。ここではどうやらガーディアンを製造する際に出た鉄屑や何かをまとめて置いておく場所らしい。後で溶かして鎧なり剣なりでも作るのだろう。

「ミィ!遠隔爆破式の爆薬を!」
「何に使うの〜?」

ポーチから出した爆薬を受け取り、それを廃材の中、奥深くへと突っ込む。
突っ込んだ際に手やら腕やらが廃材で切り裂かれたが今は気にしていられない。
彼女を傷ついていない方の腕で抱え上げ、廃材の影に隠れる。ガーディアンは即座に部屋の中へ入ってきた。

「派手に吹っ飛びな……!」

廃材に背を向けてミィの盾になり、仕掛けられた爆薬の側まで来た時に爆破スイッチを押す。爆破タイミングは即時。爆音と共に閃光が走り、廃材の山がはじけ飛ぶ。
爆薬というのは密閉空間であればあるほど威力が増す。しかし、この部屋はその威力を上げるだけの狭さはないし、そんな狭さで爆破すれば俺達まで危険だ。


だったら、別の方法でダメージを底上げしてやればいい。


廃材の中で炸裂した爆薬は細かな廃材をそこかしこに撒き散らし、暴力の嵐を振りまく。
以前冒険者ギルドにいる異世界人と酒を飲んだ時に向こうの兵器の話を聞いたのだ。
爆薬と一緒に鉄の玉を無数に飛ばす特殊な爆薬……クレイモアとか言ったか。これはそのちょっとした応用だ。
爆破した際に破砕された廃材を鉄の玉の代わりに撒き散らすのだ。至近距離で食らえばいかにガーディアンとは言え無事では済むまい。

「っぐ……」

ただ、無事で済まないのはガーディアンだけではない。
彼の話してくれた爆薬というのは一定方向へ爆風が飛ぶものであり、この爆薬は全方位に効果があるものだ。つまり、いくら廃材に隠れようとも爆破の余波で廃材がこちらに飛んでくる。
背中に、無数に何かが刺さった感触がする。恐らくは廃材の破片だろう。金属、石材、木材……どれが刺さっているかは分からないが、一応動くことはできる。

「逃げる……ぞ……」
「ねぇ、大丈夫?凄く痛そ……」

俺の服がだんだんと赤く染まっていく。これは……酷い出血だ。
早い所ここから逃げて止血をしなきゃヤバいかもな。

「血が……ねぇ、本当に大丈夫なの!?ねぇったら!」
「騒いでいる暇があったら……ここを脱出するぞ……。」

痛みをこらえながら道を引き返して出口へと向かう。ガーディアンは炸裂した破片でズタボロになっていた。
至近距離だったら……まず命は無かったかもしれないな。



工場から脱出し、十分な距離が取れると巨大な爆発音と共に工場の大部分が爆炎に飲み込まれた。
あの工場に有った物全てが炎に焼かれていく……。

「はぁ……はぁ……」
「ねぇ、きーちゃん!しっかりして!今、今手当するから……!」

遠くからミィの声が聞こえてくる。全身から体温が引いていき、意識が薄れていく。
これは……死んだかな?



パチパチと何かがはぜる音が聞こえてくる。これは……焚き火か?
下にはふかふかとしたものが敷き詰められ、その上に毛布が敷かれている。
不思議と寒くない……どころか、心地よい暖かさが俺に押し当てられている。
ゆっくりと目を開けると、暗闇の中に明々と燃える焚き火がそこにあった。
どうやら結構長い時間気を失っていたようだ。
体には包帯が巻かれている感触がある。

「生きて……いるのか?」

意識してじわりと来る背中の痛み。そして……掛けてあった毛布をめくるとミィがすやすやと寝ていた。頬には白く乾いた捩が張り付いている。恐らくは泣きながらも手当をしてくれたのだろう。
背中が痛い以外はすこぶる良好。そう言えば魔物の魔力は男性と交わる時に体への負担を軽くするという話を聞いたことがある。もし彼女の体から放たれる魔力で少なからずとも体力の消耗を抑えられたのだとしたら……いろんな意味でこいつには命を助けられた事になるな。

「んにゃ……きーちゃん……しんじゃやだぁ……」

どうやらこいつの夢の中でも俺は死にかけているらしい。このまま悪夢にうなされ続けるのも可哀想なので、揺り起こしてやるとしよう。

「おい、ミィ。お前のお陰で助かったんだからまた俺を死なそうとするな。」
「ふぁ……ぁ……きー……ちゃん……?」

眠たげに開けた目をしょぼしょぼさせ、俺が起きているのに気づいた途端目を潤ませてしがみついてきた。

「よかった……よかったよぉ……何度死んじゃうかと……ひっく……」
「全く……ギルドの方針ガン無視して……潜入先で動けなくなった奴は置いていく事になってんだぞ?」
「やだぁ……守ってくれたのに……助けてくれたのに……置いていくのなんてやだぁ……」

呆れながらもなんとなく嬉しくなり、彼女のふわふわとした頭を撫でる。いいなで心地だ……なんか手が離せないな。
とはいえここはまだ教会領の中。見つかる前にさっさと戻ったほうがいいだろう。

「一応動けるようになった……帰るぞ。」
「ぁ…………」

彼女の頭から手を離した途端、残念そうな声を上げるミィ。上目遣いで瞳を潤ませながら……

「もっと……」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」

あぁ、心にクリティカルヒットだ。もろ撃ち落されたよ、これは。

「帰ったらやってやる。」
「ぁ……ねぇ……。」

ミィが俺の裾をつまんで俯いている。というか……顔が妙に赤い?

「帰ったら……もっと凄い事、してくれる?」
「……怪我が完全に治ったらな。」

完全に負けだ。俺の心は完全に彼女に打ちのめされ、既にメロメロになってしまった。
ロリコンじゃないと常々思っていたんだがなぁ……いつぞやのあいつの事を笑えなくなってしまったじゃないか。



〜数日後 冒険者ギルド モイライ支部〜

ギルド内のアルテアの指定席。いつものようにアルテアがそこに座り、向かい側にニータが腰掛けてジュースをすすっている。真っ赤に目に映えるクランベリージュースはその爽やかな香りも相まって非常に美味しそうだ。

「そういやお前の部下がガーディアンの製造工場を破壊しに行ってるって話なんだが……」
「あぁ、それ?こないだ完全に破壊したって報告を受けたよ。新しく工場を作ってアルターが設計図を提供しない限りはもう二度と作られないんじゃないかな。それに……」

ニータがポーチから紙とペンを出して色々と試算し始める。

「製造用の機械やら材料、資材の運び出しルートも別働隊が壊滅させたから……1から全部再生させるには……と。こんくらい必要なんじゃない?」

ニータが差し出した紙に書いてあった数字を見たアルテアが目を白黒させる。
そこに書いてあった金額は弱小国家なら買収してもお釣りが来る程の金額が書かれていた。

「次元が違いすぎる……」
「まともな人間だったら復活させようとはせずに別の手を考えるんじゃないかな〜。多分古地図に書かれている埋蔵金を探すほうが現実的だと思うよ。」

あまりの数字に貧乏人アルテアは額を押さえて天を仰いでいた。自分で払うわけではないのだがこの男、江戸崎にいた頃の影響で莫大な金額を見るだけでめまいが起こるようになってしまったのだ。

「姉貴、姉貴。」

ニータの後方、少し低めの場所から甲高い女の子の声が聞こえてくる。
アルテア達がそちらの方を見ると、ラージマウスの少女が立っていた。ミィだ。

「ん、どうしたの?」
「えと、今までお世話になりました!」

ペコリと頭を下げるミィ。それを見てニータが目を白黒させている。アルテアはというと、自分には無関係な話だろうと再び自分のコーヒーに口をつけていた。

「え〜……と?どういうこと?」
「わたし、きーちゃんのお嫁さんになります!」

ガタガタと椅子から転げ落ちるニータ。むくりと起き上がった彼女の髪は若干跳ねていた。
尚も我関せずとコーヒーをすすり続けるアルテア。

「きーちゃんて……あのきーちゃん?」
「はい!この前の仕事で私をかばってくれて……それできーちゃんに私の一生を捧げることにしました!」

嬉々として結婚発表する部下を呆然として見つめるニータ改め女頭領。彼女がこの時何を考えていたのかは彼女しかわからないだろう。

「という訳で、群れから抜けさせて貰います!いままで有難うございました!」

ペコリと頭を下げて足早にギルドから出ていくミィ。その足取りはどこか軽かった。

「……あ〜る〜?私も早くお嫁さんになりたい……」

何かに触発されたように眼が座り、薄笑いを浮かべて振り返るニータ。しかし、そこにはアルテアの姿はない。それこそ輪郭に切り取り線が浮かんで透明になっているかのように。

「あ、あれ?」
「あら、彼ならアニーに引っ張られて市場まで買い物に行ったわよ?」

ミリアの言葉を聞くなり以上なスピードでギルドを飛び出していく。その際にロバートが彼女に躓いてひっくり返ったが、特に誰も何も言わなかった。



「アルーーーーー!逃げるなーーーーー!」
「やっべ!もう追いついて来た!」
「きゃははははは!にげろ〜!」

アニスを肩車して通りを疾走するアルテアとそれを追いかけるニータ。彼らの姿を屋根の上で微笑ましげに見守る2つの影があったとかなかったとか……。

おしまい

12/01/15 17:42更新 / テラー

■作者メッセージ
〜あとがき〜
セント・ジオビア編の後始末として書いたサイドストーリーでした。極限世界を見ていない方には少し意味が分からない話だったかもしれませんね。
極限世界でも2回ほど出た(?)きーちゃんことキース=マクラーレンのお話です。
本来であればキースが目を覚ました時にイチャエロでも入れようかと思ったのですが、教会領で、なおかつ結界なしむき出し状態、しかも大怪我を負っているので自重しました。
べ、別に書く気力が無かったとかそんなんじゃないんだからね!?
ちなみに何故向こうの方にまとめなかったのかというと、「きーちゃん」の話であってアルテアの話じゃなかったからなんですね。

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