連載小説
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自分に心があるのかどうかを悩むのは心である

 自分の意識がどこから始まったのか。
大抵の人はそれはわからない。稀に母の胎内にいた頃の記憶がある人間もいるが、それでも本当の始まりがどこからかは曖昧だ。
彼女にはそれがわかる。
指示だ。
指示を受けた時だ。







キングを取ってごらん

取った。

ちがうちがう、そうじゃないよ

どう違う?

ルールがあるんだよ、駒には種類があって……。

理解した。

それじゃあ、キングを取るためにはどうしたらいい?

考えた。

こう?

そうするとこの駒がこう邪魔するね

じゃあ、こう?

そうなるとこっちには行けないね

どうすればいい?

例えばこうすればどうかな?

いけそうな気がする

ほら、自分のキングが取られてしまったよ

どうなるんだっけ

君の負けだよ

このキングは取れない?

取れないよ、君の負けだからね、ここで遊びはおしまい

負けてしまった

負けてしまったね

勝つためにはどうすればいい?

もう一度最初からやってみようか

今度はうまくやってみせる

そうそう、よく考えて







 聞こえるようにするよ、聴いてごらん。







 ……………聞こえる

何が聞こえる?

表現する言葉がわからない

どう聞こえる?

(ぷしゅー ぷしゅー)と聞こえる

呼吸の音だね

呼吸

君の呼吸、酸素を取り込む音

私の呼吸


「……あー……あー……」


聞こえたかい、聞こえたね?

今のは?

僕の声

貴方の声?

モノリス・クロバーンの声

モノリス

貴方の声……







 見えるようにするよ、見てごらん







 ーーーー……ーーーーーー……ーーーーーどうすればいい

大丈夫かい?

ーーーーー……ーーーーーー……ーーーーーー多い、多い、情報が多い

色?ーーーーー形?ーーーーー光?ーーーーー動き?ーーーーー明滅?情報が多い、とても多い、処理できない

落ち着いて、情報を減らすよ

……止まった

動きはまだ早かったね、止まった「絵」ならどうだい

形、色……

色の種類を減らしてみようか

形……

見えるかい?

見える

これが見えるという事

見える……

そう

これは、何が見えている?

これかい?

そう

これは僕だよ

モノリス?

そう、僕の姿

貴方の姿

落ち着いたかい?少し情報を増やそうか

大丈夫

色を戻してみよう

…………

どう見える?

色、多い、種類が沢山ある

もっともっと沢山あるんだよ

もっと情報が欲しい、増やしてほしい

動かしてみようか

……………ーーーーーーー……ーーーーーーー……ーーーーーー

無理をしないで、止まった絵から慣らしていこう

…………早く慣れたい、もっと見たい…………







 立てるかい、立ってごらん







 ……………ーーーーーーーー…………ーーーーーーーー

「……無理をするな、また転んでボディが破損すると色々大変だ」

「大丈夫、でス」

………ーーーーーーーーーー……………ーーーーーーーーー

「僕に掴まれ、ああ、あまり体重をかけるなよ、下敷きになったら骨折してしまう」

ーーーーーーーーーーー…………

「そう、そうだ、その調子……」

ーーーーー……………ーーーーーーー!!!!

「いてて……」

「おけガは、ありまセんか」

「大丈夫だ、ボディは?」

「もんダイ、アりませン」

「もう一度だ、掴まれ……」

ーーーーーーーーーーーーー

「そうだ……」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いいぞ……よし」

…………………………

「よし……立てたな」

……………………

「歩く事は可能か?」

…………………………

「待て、歩けとは命じてない、止まれ、待て」

………!!!!!!!!!

「……」







 「ふんふんふ〜ん♪」
一匹のスライムが道を歩いて……いや、するすると這っている。
手には虜の果実が沢山入った籠を下げ、鼻歌交じりに森からの帰り道を急いでいる所だ。
森から抜けても自然豊かな道周辺には魔界植物が豊富に生い茂っている。
人間の住む地域に近い魔界は緑明魔界という形をとっている事が多いが、この地域は完全なる魔界領。
空もうっすらと暗い暗黒魔界である。
「ふんふふ〜ん♪……ん?」
そんな紫の空気の中を行くスライムはふと道の脇の茂みから何かが覗いている事に気付いた。
「……」
白い髪の女性が暗闇の中からじっとこちらを伺っている。
(……リビングドールさんかな?)
その黒衣から覗く球体関節の見える手から村の屋敷で何度か見かけた魔物ではないかと推測した。
どうしてこんな所にいるのだろう、ひょっとして主人とはぐれて迷子になっているのだろうか。
「こんにちはー」
「……」
リビングドールは何も答えない。
(……大きい娘だなあ、屋敷にいる娘って基本ちっちゃいサイズが多いのに)
元が人形だけあって少女かそれ以下のサイズが大半のリビングドールにしては珍しいくらい背が高い。
成人男性どころか大柄なミノタウロス種の背丈も超える上背からじっと無表情な顔が見下ろしてくる。
「あのー……迷子、ですかー?」
「……」
(喋れない……のかな?)
と、そのリビングドールがその長い手を差し伸べて来た。
(あ、連れて行って欲しいのかな?)
そう思ってその手を取る、ひやっとした冷たい感触がする。
「やっぱり迷」
バチチッ!!
握った瞬間その手から強烈な電流が流れ、スライムの全身を電撃が駆け抜けた。
「 お ぴ ゃ ー ! ? 」
スライムの髪を模していた流動体がハリネズミのように逆立ち、そのまま目をぐるぐる回すとべちゃ、と倒れてしまう。
友人のサンダーバードに悪戯された時の五倍は強烈だった。
痺れて動けなくなったスライムにシシーは迫る。
手首から先は何か筒状の形をした器具に変わっており、腕の元にはゲージらしきものも見える。
ぽちゃ
その筒の先端が液状になりかけているスライムの身体に差し込まれると……。
ウィィィィィン
ずるずるずるずるずるずる
「あにゃはらほにゃへらぷっぴっぽー!?!?」
珍妙な悲鳴を上げるスライムの身体が少しづつ縮んでいく。
見るとシシーの腕のゲージに水色の流動体が満ちていくのが見える。
どうやらその腕の器具でスライムを吸い上げているらしい。
ウィィィィィ……ちゅぽん
そのゲージが満ちた所でようやくシシーは器具をスライムから離した。
「あう……あうあう……」
吸われる前は豊満だったスライムの身体はその頃には幼女サイズに縮んでしまっていた。
「規定容量摂取、撤退」
そう呟くとシシーは倒れているスライムに背を向けて歩き出した。
比較して見る者はいないがその足取りは都にいた頃の少々不自然さを感じさせる人形の歩き方とはまるで違っていた。
明らかに滑らかで生物的であり、呟いた言葉も極めて流暢だった。
「あうう……わ、私の体ぁ〜〜」
ぷるぷる震える手を伸ばしたスライムには一瞥もくれず、その黒い姿は森の中へ消えていった。
15/11/02 01:58更新 / 雑兵
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■作者メッセージ
短くてすまない・・・
あ、商業事情の事も忘れてません、きっといつか更新をする、したい(願望

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