連載小説
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天才と凡人のワルツ(上)
―――朝

目が覚めると、いつも通りに布団の上で猫が丸くなっている

「…またか」

僕はその猫を―――

「起きろ!」

―――叩き起こした

「うみゃぁあ!」

と、猫が起き―――

「う〜酷いにゃぁ…」

目の前で、僕の幼馴染に姿を変える

「あのさぁ〜…勝手に僕の部屋に入るなって言ったよね?ルカ?」

「勝手じゃないにゃ。きちんとおばさんとおじさんに許可もらったにゃ」

「…部屋の主の許可も考えろよ」

目の前の少女―――ネコマタの瑠華に、僕は溜息混じりにそう言った

・・・

魔物と人間が手を取り合ってからはや千数百年がたったらしい

昔は魔物と人間の間からは魔物しか生まれない弊害もあったらしいけど、現代にそんな弊害は存在しない

約2世紀近く掛けて、人間と魔物はある意味同一の存在になることができたのだ

そこまでして、彼らは共に生きたかったのだろうか?
なにを彼らを駆り立てたのだろう?

当時を知らない僕にとって、わからない疑問だし、わかりたくもない


―――だって、わざわざそんな苦労を知ったって、現実が変わるわけじゃないだろ?



「それが、授業中に寝ていた言い訳かね?」

目の前にいるアヌビスの教師が怖い目をして、僕を見ている

「…少なくとも、歴史についての僕個人の考えですがね」

寝ぼけ眼でそう答えたが、教師の方は怖い笑顔を浮かべながら「そうか、そうか」と言っている
…目が笑ってないのが問題だな

「師堂、廊下で頭を冷やすのと謝罪、どっちがいい?」

「申し訳ありませんでした」

音速で後者を選んだ僕

「…確かに、今となっては神話のような話で退屈だろうが、これも必要なことだ。…他のみんなもキチンと聞くように!」

そう言って、黒板に向かう教師

「災難だったな、シロウ」

と、横から声を掛けてくるバカ一人

「シュウさぁ、わかってたなら事前に起こしてくれよ」

「やなこった。たまにはリア充のオメーも怒られろ」

川崎宗弥(カワサキシュウヤ)、僕の困った幼馴染2号だ
小、中、高の11年間、全て同じクラスというありがたくない存在だ

「そもそも僕はリア充じゃない」

「美人の幼馴染に毎朝起こしてもらってか?」

呆れた顔で僕を見てくる宗弥
お前も幼馴染だろーが、と言いたいが堪える

「ルカのあれは両親が面白がってるんだ」

そう、瑠華がそうでもなければ、僕を起こしにくるはずがない

「…鈍感」

「なにがだよ?」

そういったきり、シュウは突っ伏し始めた

…どうなっても、僕はしらない

・・・

僕、師堂楼樹(シドウロウキ)と彼女、天宮瑠華(アマミヤルカ)が出会ったのは、病院でだったらしい

らしいってのは、生まれたとき横に居たのが最初なら、当然覚えがあるわけがない

だから、最初の記憶で出てくるのは三歳位の時だろう

『ロウちゃんあそぼー』

『うん!』

こんな、微笑ましい光景が恐らく最初の記憶だろう

彼女の両親と僕の両親は古くからの付き合いで、チョクチョク家族ぐるみで色々な所に行ったりした

―――それがなくなったのは、中学3年の夏からだろう

理由はシンプルに受験だ
当時僕と瑠華はそれぞれで行きたい高校の受験勉強をしていた


が、根を詰めすぎた僕は体調を崩しがちになってしまった

お陰で朝も中々起きられなくなったり、物を食べずらくなったりと色々大変だった

―――そんな時、瑠華がいったのだ

「なら、私がロウちゃんを起こすにゃ」

―――結果?今朝のやり取りから分かるように、僕を起こしに来て、寝ている瑠華を起こすのが日常化してしまった

しかも、それを確認しながら両親は―――

「あら?これでもうお嫁さんは心配ないわね」

「そうだな!」

―――と、こんな始末だ

瑠華は真面目なんだから、そんな事をいったら変に気負うだろうに…
大体、僕なんかじゃ、瑠華と釣り合う訳がない…

・・・

「ロウちゃん、お弁当にゃ」

「ありがとう」

わざわざ別のクラスから、今朝入れ忘れたくさい弁当を持ってきてくれる瑠華

「今日は私のお手製なのにゃ!」

「そうか」

さて、とりあえず食うか

「って!スルーは酷いにゃ!?」

「「「「そうだぞシロウ!?」」」」

と、クラスメート達が騒ぎ始めている

「瑠華ちゃんがわざわざ作ってきたお弁当なのに…」ヒソヒソ

「マジあいつ調子ノリじゃねーのか?…」ヒソヒソ

クラスメート達はなにやら言っているが…

「…昨日の残り物詰めただけのはお手製とは認めないぞ。しかも家のじゃねーかよ」

「…ちっ。ばれたにゃ」

と、冷たい理由を種明かしした

「昨日家で作りすぎたおすそ分け、だよねこれ」

「昨日はとーやん帰ってこなかったから〜」

そう、まったり話しながら飯を食う

「デモルカチャントハナセルンダカラモットウレシソウニクエヨ」ヒソヒソ
「ルカチャンカワイイハァハァ」ヒソヒソ
「ガクエンノマドンナトショクジナノニネ」ヒソヒソ

…この、雑音さえ聞こえなければ、もっと楽しめるんだろうがね

「?ロウちゃん、どうかしたのにゃ?」

「ん?…あぁ。味付けがルカ用だな〜と思ってただけ」

―――学園のマドンナ
それが瑠華の肩書きだ

実際、成績最優秀のスポーツ万能、おまけに弦楽器と歌なら任せろなインチキハイスペックを持っていて、可愛らしく、性格もいい

そんな奴が目の前の、我が幼馴染なのだ

かたや僕は全て平均的な、どこにでもいるモブキャラCと言った所かな?

―――それが、今の僕の肩身が狭い理由だ

当然、マドンナを狙う「狂信者」はいくらでもいる
そいつらからすれば、僕は簡単に横にいられるズルイ奴らしい

―――しらねーよ、んな事

「…ご馳走様にゃー」

「ん?今日は早いな。食い終わるの」

「…ちょっと、食欲ないんだにゃー」

そういって、そそくさと教室から出て行く瑠華

…珍しいこともあるな

「シロウ!?」

「ん?どーしt「お前、なんでそんなに鈍いんだよ!?」

いきなり絶叫してくる幼馴染2号

「だからなにがだよ?」

「瑠華ちゃんだよ!?お前、幼馴染だからってナメプか!?」

「それいったら、お前もルカの幼馴染だろうが」

いきなり絶叫してきたこの男、実際僕らの幼馴染なのだが…

「俺なんか君ら二人の付き合いに比べたら背景だろーが!?」

「イイゾモットイエシュウ!?」

なんか他のクラスメートも騒ぎ始めるし

「大体、瑠華ちゃんの気持ち本当に考えたことあるかお前!?」

瑠華の、気持ち?

「ったく!?なんでお前なんかねぇ!」

「…なら、お前はわかるか?」

その時、僕は普段出せない声が出せた

―――自分でもわかる、冷たい声

「シュウに、僕の気持ち分かるのか?…他の連中も」

「い、いや、s「大体、ルカと僕は幼馴染以上でも以下でもない。それ以上にも、それ以下にも成り得ないんだから、一々五月蝿くまくし立てるな。ルカに迷惑だろ?」

全員を威圧しているらしい
―――関係ない、僕は怒ってるんだ

「…悪かったよ、シロウ」

シュウが謝ってくれた
正直、こいつ以外は囃し立てる以外何も出来ないと思ってたからもういいか

「…5時間目はサボるから、フォローとノートよろしくシュウ」

そういって、僕は教室を後にした

・・・

実際、色々な差を感じ始めたのは、小学校の4年生からだった

―――僕が夏休みの宿題で戸惑っているのを、教えながら自分もあっさり解き始める瑠華

―――中学入学早々ヴァイオリンコンテストで入賞し、賞を総嘗めし始めた瑠華

―――高校入学も、本当ならもっといい私立に入れる位頭がいい瑠華

そんな幼馴染と比べられ、僕は常に頑張っても仕方ない状態だった

―――でも、僕の頑張りを一番見てくれているのも、皮肉なのか、瑠華だった

両親も一時期の口癖は「瑠華ちゃんはこんなにできたのに〜」だった中、瑠華だけは、僕の努力を見てくれていた
でも―――彼女を疑いたくはないが、思ってしまう

―――もし、自分の優越感に浸る為のコマにされていたら
―――実は哀れんでるだけなんじゃ

最低にも、僕は考えてしまう
あの笑顔が、実は嘘だったら、と…

「…サボりはいくないにゃー」

「ならなんで今言えるんだよ、ルカ」


僕が屋上でサボっていたら、ルカもそこに現れた

「…自習だったから、抜けてきた」

「そうか」

横になっている僕の横に、瑠華が座る

「「…」」

互いに、無言

「ロウちゃんさ、私といるのやっぱイヤ?」

先に口を開いたのは瑠華だった

「…イヤならとっくにこっからいなくなってる」

「にゃはは…でも、ロウちゃん優しいから…」

寂しく笑う瑠華

「…なんか、疲れちゃった…」

「…今なら愚痴無料で聞いてやんぞ?」

そう言いながら起き上がる僕

「うん…」

そういって、肩にもたれ掛かってきた

「え?」

「…少しだけ、このままでいさせて」

そう言いながら、目を瞑って寝始めた瑠華

「…しゃーねーなー」

肩でもたれさせるのもいいが、これだと疲れも取れないだろう
だから、僕の膝を枕にして寝かせた

「…ったく、無防備な奴」

そういって、頭を撫でさせてもらう
…役得って奴だ

さて、次の授業2分前には起こしてやるか

・・・

「悪かったな、シュウ」

「…昼のは貸し借りこれでチャラな」

そう言って、ノートを見せてくれるシュウ


時間は放課後
あの後は授業にでて、普段よりは少しは真面目に受けることが出来たと思う

「教師には腹痛って事にしといた。保健委員と保健室の先生には口裏合わせてもらっといたよ」

「…ホント、お前すげーよな」

「まぁ、な」

目の前の男もすごいと思う

学校中の人間に顔が聞き、いざとなれば学校中の情報を片っ端から集めたり出来る

瑠華とは違う、もう一人の天才だ

「で、放課後にわざわざバーガー屋来てまでノート写したいわけじゃねーだろ?」

「…最近、なんかルカにあったか?」

わざわざファーストフードに入って、こいつに奢る理由
こいつから情報を買う為だ

「…そりゃ、屋上でサボったのと関係あんのか?」

「そこにルカがきた」

「…こいつはたまげたな」

そう、瑠華がサボるなんて、先ず今までなかった事だ
あの真面目な瑠華がサボって僕に甘えるくらいだ、なにか大きな問題が…

「…ワリィがない」

「は?」

今こいつ何といった?

「ぶっちゃけ、これはお前が自分でどうにかしねーといけねー問題だと思う。悪いが手は貸せないし、お前が『望んでる情報』は存在しない」

「え?イヤ待て?…あの瑠華がサボったんだぞ?そn「…一つだけ忠告してやる」

シュウは話を遮って話し始めた

「お前の非公式ファンクラブな、ぶっちゃけ瑠華ちゃんのより多いの知らねーだろ?」

「は?それがd「これと普段の瑠華ちゃんの行動を考えて、答えだせ。俺からはそれしか言えねーよ」

そういって、シュウは財布を取り出す

「俺が払っとくのと、最後のお節介だ。直ぐに学校行って瑠華ちゃんの演奏聴いて来い。お前なら解るはずだ」

そういって、さっさと行ってしまった

「なんなんだ、一体?」


・・・
11/05/23 23:32更新 / ネームレス
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