読切小説
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「汝に神の祝福を。そして世を照らす光とならんことを」

うやうやしく跪き、神の祝福を受ける少年。
歳は12といったところだろう。
その体には幾つもの生傷が刻まれ、並々ならぬ努力をしていたことが伺える。
そして今まで培ってきた技術が、心が、神の祝福を受けて今開花する。

「汝は今、勇者として目覚めの時を迎えた」
「…はい!」
「勇者レムナよ、世を乱す悪に正義の光を…そして、世に平穏を。貴方ならばきっと成し遂げるでしょう」
「はいっ…司教様」
「良い返事です…さぁ、今こそ旅立ちの時です。貴方の行く末に…神のご加護が有らんことを」

その言葉を受け、少年はその場でもう一度うやうやしく礼をしたあと踵を返し、
振り返ることなく教会の外へと向かう。
辛く厳しい修行に耐えたのも、今この瞬間を迎えるため。
そして、邪悪が蔓延るこの世の中に、神の正義を知らしめるために。
少年の、勇者としての第一歩が今まさに始まった瞬間だった。


………………………………………………………………………………………


一人旅は心細く、何度も育った街を振り返っては己の使命を思い出し歩みを進めた。
やがて振り返っても街が見えなくなる頃、漸く少年は振り返ること無く歩み始める。
そうして迎えた、初めての夜。
完全に日が落ちてしまう前に、近くの森から枯れ枝を集め野営の準備をすすめる。
かき集めた枯れ枝を組み上げると、少年はそれに向かって右手を伸ばし、小さく呟く。

「……"紅蓮の煌めき"よ」

瞬間、組み上げた枯れ枝は瞬く間に炎に包まれ、バチバチと音を上げる。
柔らかな炎の温もりに触れ、緊張続きだった少年の顔からも漸く力が抜ける。
安心した所為か、少年のお腹からは少年の意思とは無関係に音がなり、早く何かを食べたいと騒いでいる。
街を出る前に買っていた干し肉を火に掛け、暫く炙っていると良い匂いが立ち込める。
熱々の肉で火傷をしないようにしながらも、あっという間に平らげた少年は、
2つ目の干し肉を炙り始める。
その時だった。
背後から感じる何者かの気配に、少年は剣を抜き、気配のする方へと向き直る。

「誰だっ!」

力強いその言葉は、周囲に広がる深淵にかき消されること無く響き渡る。
剣を構え、未だ闇の中に漂う気配に意識を集中する。
だが、その気配は少年の声に臆すること無くゆっくりと近づいてくる。
やがて、焚き火が照らす灯りの範囲にその気配は足を踏み入れる。

「あらあら、いい匂いがすると思ったら…くすくす、随分可愛い子がいたのね」
「…っ!魔物!」

闇から現れたのは、人に似た姿を持ちながらも人とは異なる存在。
頭から生えた禍々しさを覚える角に、蝙蝠を思わせるような一対の羽が腰から生えている。
クネクネと蠢く尻尾の先端部は、どこかハートの形を思わせるような形をしていた。
冒険者とは言い難い、明らかに露出面の多い衣装に身を包み、その身体つきを強調している。
秘所をぎりぎりで隠し、露出した下腹部にはハートを象った紋様が刻まれていた。
豊満で柔らかそうなその胸とくびれた腰付きは、街にいればどんな男でも振り向かせるだろう。
長く腰まである赤茶の髪の毛は、綺麗なストレートで夜風にサラサラとなびいている。
古より人に近づき、人の生気喰らうとされたそれは、サキュバスと呼ばれる魔物だった。

「ふふ、でもそんな危ないもの持ってちゃダメよ、ボク?くすくす♥」
「うるさい!魔物め!」

どこか少年を煽る様な口調の彼女へ、少年は裂帛の気合と共に斬りかかる。
十分に広がっていたはずの間合いは瞬く間に詰められ、強力な一撃が振るわれる。
だが、上段から大きく振りかぶったその一撃は、彼女に当たること無く地面を切り裂く。

「あらあら…見た目と違って随分とつれないのね…ふふ」
「うるさい!覚悟しろー!」

だが何度切りかかっても、彼女はのらりくらりと少年の斬撃を躱してしまう。
勇者としての使命感が少年に焦りを生み、結果として単調な斬撃となってしまっていた。
だが、それに少年は気づくこと無く、闇雲に剣を振るう。

「くそぉ…ちょこまか逃げるなっ!」
「うふふ…そんなこと言われても逃げなきゃ斬られちゃうじゃない、くすくす…って、あら?」

彼女の背後には巨木が立ちふさがり、彼女の逃げ道を塞いでいた。
このチャンスを逃すまいと、少年は彼女の喉元ギリギリに剣を突きつける。
剣を突きつけられ、両手を軽く上げ降参の意を示す彼女だが、その顔には笑みが浮かんでいる。

「あらあら…ふふ、捕まっちゃったわね」
「…覚悟しろ!」
「……その剣を、私に突き立てるつもりかしら?」
「そうだ!…悪いやつは僕がやっつけるんだ、僕は勇者だから!」
「そう…くすくす」
「な、何が可笑しいんだよ!もうお前は…」

少年があとすこし剣先を突き刺せば、彼女の命は容易く終わってしまうというのに、
彼女は臆すること無く、笑みを浮かべていた。
そっと右手の人差し指を刃に触れさせながら、彼女は少年へと問いかける。

「貴方は、今から自分がしようとすることを本当に理解しているのかしら?」
「な、何を言って…僕は惑わされないぞ!」
「ふふ、勇者としての使命…かしら?とっても立派よ…でもね」

彼女のは笑みを浮かべたまま、刃に触れていた人差し指を押し当て、滑らす。
瞬間、彼女の人差し指は容易く切り裂かれ、指先からは鮮血が零れ出す。
零れ落ちた血は、少年の持つ剣へと垂れ落ち、刃に沿って鍔へと流れ落ちる。

「なっ…なに、して…」
「……分かるかしら?貴方がしようとしたことが」
「指…血が…」
「…貴方がしようとしたことは…命を奪うということ。それを貴方は本当に理解していたかしら?」
「あ…ぁぁ…」

模擬戦は何度もやっていた。
木で作られた人を模した物は、容易く切り裂けるほどに剣の扱いは上手くなった。
勇者として世界に平和を戻すと誓いを立てた日から、ずっと精進を続けていた。
その思いは、いつしか自分が手に持つモノの意味を隠してしまったのかもしれない。
対峙する相手の生命を、奪い取るモノであるということを。
血を見て動揺する少年に、更に見せつけるかのように今度は中指を刃に押し当て、滑らす。
再び零れ落ちる鮮血を前に、小さな悲鳴を上げて後ずさりする少年。
そんな少年を、彼女は優しい目で見つめていた。

「ふふ、とても痛いわ…もし貴方に斬られたら…どれだけ痛いのかしらね?」
「ぁ…あぁぁ!」

少年の手から離れた剣は、そのままガシャリと音を立てて地面へと落ちる。
落ちた剣を拾うこと無く、少年は彼女に近づき血が零れ落ちる指を両手で包み、言葉を紡ぐ。

「はぁっ!はぁっ!……す、"翠緑の息吹"っ!」

その言葉が示すように、少年の両手で覆っていた彼女の指は緑の光に包まれる。
指先から痛みが消え、やがてその光が消える頃、彼女の指の傷は跡形もなく消えていた。
彼女の傷が消えたことを確認すると、少年はゆっくりと後ずさる。
その顔には、どこか安堵の表情が浮かんでいた。
自分の指の傷が消えたことを彼女も確認すると、嬉しそうに笑みを浮かべ少年へと語りかける。

「あら…ふふ、随分と優しいのね、勇者クン♪」
「うる…さいっ!」
「くすくす♥優しい子は大好きよ。うふふ」
「…ぼ、僕の気が変わらない内に…見逃してあげるから…どっか消えろ!」
「あらあら…拗ねちゃったかしら?くすくす♥」
「うぅぅ…うるさい、僕の前から消えろー!」
「ふふ、嫌われちゃったみたいね、お姉さん悲しわ♥」

クスクスと笑いながら、彼女はゆっくりと少年から離れるよう闇の中へと歩みを進める。
柔らかな笑みを浮かべながら少年へと手を振ると、スッと闇に溶けるように彼女の姿は消える。

「それじゃあ…"またね"、勇者クン。くすくす♥」
「う、うるさいうるさい!」

肩で息をしながら、少年はジッと闇の中を見つめる。
暫く周囲に広がる闇を見つめていたが、気配が完全に消えると、少年は視線を足元へ向ける。
彼女の血がまだついた、己の剣へと。
震える手で剣を拾うと、その血を拭き取り、鞘へとしまい込む。
頭の中で思考がグルグルと廻り、気持ち悪さがこみ上げてくる。
――もう寝よう
そう小さく呟いた少年は、長旅に耐えれる丈夫な毛布に身をくるむと無理やり目を瞑る。
不安と恐怖と、そして迷いが少年の眠りを妨げ、中々寝付くことはできなかった。
勇者としての第一歩を迎えた日だというのに、少年の心は迷いで満たされていた。


………………………………………………………………………………………


周囲が明るみ始め地平線から太陽が登る頃、小鳥たちの囀りが朝焼けの空に響き渡る。
昨日中々寝付くことができなかった少年は、毛布を頭まで包むと再び夢の中へと戻ろうとする。
――もう少し寝かせて
そう小さく呟き、再び眠りに入ろうとしたときだった。

「くすくす…勇者クンは朝が苦手なのかしら?」
「っ!?」

その声に思わず跳ね起き、声がした方を見ると、そこには彼女が居た。
しゃがんでいる彼女の顔には笑みが浮かび、両手を頬に添えて愛おしそうに少年を見ていた。

「ぁ…ぇぅ…な…」
「うふふ…おはよう、お寝坊さん♪」
「なん…で…」
「むー…お姉さんがおはようって言ったんだから、おはようって言って欲しいなぁ」

ぷぅっと頬を膨らませ不満をアピールしている彼女。
そんな彼女に起こされ半ばパニック状態の少年だが、少し頭が働き始めたのか、
側に置いていた剣を拾うと、鞘からは抜きはしないものの構えを見せる。

「なんで、お前がここに…」
「あら?昨日の夜、ちゃんと言ったはずよ?またねって」
「ぼ、僕を馬鹿にしてるのかっ!僕は勇者なんだぞ!」
「そうね、とっても可愛くて優しい勇者クンね。もちろん知ってるわ、くすくす♥」
「〜〜〜っ!」

何を言っても馬鹿にされるような返答をされ、少年は遂に彼女から顔を背けると、
消えてしまった焚き火に再び枯れ枝を焚べ、小さく呟くように詠唱し火を点ける。
嬉しそうにニコニコと笑いながら少年を観察する彼女を無視し、少年は朝食の準備を進める。
昨晩と同じように干し肉を炙り、その間にドライフルーツを口にする。

「勇者クンは魔法が上手なのね、ふふ」
「………」
「勇者クンはどこから来たの?すぐそこの街からかしら?旅は初めて?」
「……」
「勇者クンは歳はいくつ?お肉が好きなのかしら?野菜も食べないとダメよ?」
「…」
「他人が食べてるものってどうしてこう美味しそうに見えるのかしら?お姉さんにも一口貰える?」
「あーっ!もう!」

無視を決めていた少年だが、ことあることに話しかけてくる彼女についに耐えきれなくなる。
キッと彼女を睨みつけるが、彼女はそんな彼を全く気にすること無く笑みを浮かべている。

「僕は勇者なんだぞ!」
「あら?さっきちゃんと知ってるって答えたはずだけど…」
「僕は、勇者!お前は、魔物!」
「お前だなんて…お姉さんそんな言い方されると悲しいなー…お姉ちゃんって言って欲しいな♥」
「なんで僕に付きまとうんだよ!いい加減にしないと…」
「…その剣で斬る…のかしら?」
「っ!」

先程までと表情も口調も全く変わりはないのに、その言葉は冷たく少年へ突き刺さる。
彼女の言葉を聞いた瞬間、己の手にある剣が突然重くなった気がした。
昨日の夜のことを思い出し、背中には冷たい汗が流れ、手は震える。
そんな彼をくすくすと笑いながら、優しく見つめる彼女。

「ふふ…ちょっと意地悪だったかしら?ごめんね」
「うぅ…」
「くすくす…可愛い顔、食べちゃいたい位に…ね♥」
「何が…何が目的なんだよ…」
「目的?そうねぇ……しいて言えば…勇者クンのことが気に入った、ってとこかしら?」
「ど、どういう意味だ!」
「そのままの意味よ。勇者クンに興味を持ったの」

そういうと彼女はニッコリとした笑みを浮かべると、少年の頬に優しく手を添える。
優しく頬に触れる手を振り払うことも出来ず、心地よい彼女の手つきになすがままとなる。
昨晩傷を付けた人差し指と中指で、優しく円を描くように少年の頬を撫でる。

「昨日、まさか回復までしてくれるとは思わなかったから、ね」
「あれは…その…」

どこかバツが悪そうに、顔を背ける少年に、彼女は言葉を続ける。

「優しい勇者クンのことをもっと知りたくなった、それが答えってところね」
「知りたいって…どうするつもり…なの?」

思わず弱気な口調になってしまうほどに、彼女のペースにおされてしまっていた。
少年の頬に当てていた手を戻すと、今度は自分の頬に人差し指を当てて頭を傾げる。

「そうねぇ…無理やりっていうのも悪くはないんだけど…やっぱり同意の元の方が気持ちいいし…」
「??」
「…決めた!しばらく勇者クンと一緒に旅をするね♪」
「ぇ…ええぇ!?」
「んふふ♥我ながら良い思いつきね。これから宜しくね、勇者クン♪」
「ぼ、僕はまだ良いって言って…」
「もしどうしても嫌なら…」

そういうと彼女は優しい笑みを浮かべる。
その笑みは、どこかゾッとするような、寒気を感じる程に妖しく恐ろしい。

「その剣で私を斬りつけても構わないわ…貴方にはその力も技量もあるでしょう?」
「ぁ…うぅ…それは…僕は…」

今にも泣いてしまいそうな、そんな顔を浮かべる少年に、彼女は一度手で口元を隠しながら俯く。
再び少年へ顔を向けた時は、優しい温かな笑みを浮かべていた。

「くすくす、本当に可愛い顔…意地悪のしがいがあるわ♪」
「ば…馬鹿に…」
「でもね、貴方に興味を持ったのは嘘じゃないわ。だから…」

そういうと彼女は一旦言葉を区切る。
そして、柔らかく温かな笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

「少しの間でいいから、仲良くお願いね?勇者クン♥」
「っ……好きに…しなよ」

満面の笑みを浮かべる彼女と、その笑顔に思わず顔を赤らめ顔を背ける少年。
こうして、勇者と魔物の二人組という奇妙なの旅は、始まりを告げたのだった。


………………………………………………………………………………………


「ねーねー、勇者クン。お姉さんちょっと疲れちゃったから休みたいなー」
「さっき休んだばかりじゃないか!」

幾多もの人々が歩いたであろう街道を、少年と1人の女性が一緒に歩いていた。
一緒に旅をする条件として、魔物としてばれないようにすることを提示した少年だが、
彼女の人化の術によってそれは容易く対処されてしまった。
どこに隠してたのか不明だが、彼女が取り出したのは薄い黒のホルターネックのワンピース。
しかも背中は大きく開き、谷間を強調するかのように胸元が開いたタイプだった。
思わず顔を真っ赤にして顔を背ける少年だったが、彼女は嬉しそうに何度も少年へ見せつける。
そんな旅には不格好な服を着た彼女だったが、一着しかないとのことで泣く泣く少年はそれを許すことにした
彼女曰く、着るのは精々街くらいで、旅をしている時は魔物の姿だから、だとか。
それ故に、普段ふわふわと飛んで移動している彼女は長時間歩くのに慣れていないらしく、
頻繁に休憩しようと少年へとねだる。

「疲れたよー勇者クン…お姉さん休憩…したいな」
「そ、そんな風に言っても…ダメなものはダメ!」

身体をくねらせながら指を咥え、涙目を浮かべながら少年へと懇願するも、
流石にその日3回目にもなると、少年もすぐにはその提案を受け入れることはなかった。
頬を膨らませて文句を言う彼女だが、ふと何かを思いついたかのように笑みを浮かべると、
先を歩く少年へとこっそりと近づき、そしてぎゅっと抱きつく。

「わっ?!わわっ!?なな、何してんの?!」
「ねぇ…勇者クン…お姉さん…つ・か・れ・た♥」
「ひぅっ…ひゃ…やめ」

少年の耳元、唇が触れるほどに近づけて少年へとおねだりをする。
柔らかなその胸は少年の背中へとぎゅっと押し付けられ、その感触を背中全体で感じていた。
フーっと吐息を吹きかけ、チロチロと舌先で少年の耳を優しく責め立てる。

「ぁっ、きゃぅ…まって、まって!わかったから…ひゃぅ…」
「んふふ…いい声…もう少し続けちゃおうかしら♥」
「あっあっ…やめ…休憩…する、するからぁ…ひぅぅ…」
「んふふ♥嬉しい。それじゃあ、あそこの木陰で休憩しましょ♪」
「うぅぅ…」

そういうと彼女は少年の手を引き、先程提案した木陰へと向けて少年を引っ張る。
少年はというと、背中に感じた彼女の胸の感触、そして耳舐め感じた初めての感覚に戸惑っていた。

「はぁー…風が気持ちいいねぇ…勇者クン」
「う…うん」

木陰へと到着するも、少年は彼女から離れた位置、ちょうど木を挟んで反対側へと座る。
彼女との旅を許したとは言えど、魔物である彼女を心から信用したわけではない。
言葉ではっきりとは伝えることは出来ないが、行動として少年は彼女へと伝える。

「ねぇ、勇者クン。なんでそんな離れて座るの?」
「う、うるさいな…どこで休憩したっていいだろ」
「なら、お姉さんと一緒に座って休憩したって良いじゃない」
「と、とにかくどこで休憩するかなんて僕の勝手だろ!」

彼女のおねだりを聞いていると、決心が、そして勇者としての誇りが歪んでしまいそうで、
少年は強めに彼女を拒絶する。
そんな少年の反応を見て、彼女は諦めたのか話題を変えることにした。

「ねぇ…勇者クンはどうして勇者になろうとしたの?」
「どうしてって……世界平和の、ためだよ」
「違う違う、どうして勇者を目指そうとしたのか、よ。最初からそう思ってたわけじゃないでしょう?」
「……そんなこと言われても」
「ほら、例えばご両親が勇者を目指していたとか、近所に勇者になった人がいたとかさ」
「僕は…」

そこで少年は言葉を止める。
目を瞑って思い出しても、決して思い出すことの出来ない思い出。
言うかどうかを少しだけ迷った少年だったが、ゆっくりとその口を開く。

「僕は孤児だよ…両親の顔も…近所の人も知らない」

その言葉に、彼女の顔から笑みが消える。
少しバツの悪そうな顔をして、振る話題を誤ったと胸中で後悔する。
だが、彼女の思いに反して、少年は淡々と言葉を続ける。

「ずっと教会の孤児院で育ってきたんだ…司祭様やシスター達が優しくしてはくれたけど…」
「うん…」
「でも育てて貰う代わりに…僕は勇者に成るしかなかった」
「……そう、そうだったのね」
「……勉強も、魔法も、剣術も、全部教会の人たちに教えてもらってた」
「そう…」
「…周りの皆もそうだった…だから僕は勇者になることを目指すのが当たり前だった」
「…」
「修行も辛かったし、大変だった。でも僕には勇者になること以外目指すものがなかったから…」

そこで少年は一度言葉を区切る。
誇りある勇者であるはずだが、どこかその表情には影が浮かぶ。

「…だから僕は勇者になるしかなかったんだ」

成るべくして成ったのではなく、成るしか道はなかった。
他に少年の歩む道などなかったから。
そんな少年を前に、彼女は掛けるべき言葉が浮かばなかった。
ただ、一つだけ、彼女にもできることがあった。
ポツリポツリとつぶやき続ける少年へとゆっくりと異動すると、隣に腰を下ろす。

「…なんだよ」
「辛かったね……なんて言葉を言う資格が私にあるかはわからないわ」

それでも、と彼女は言葉を紡ぐ。
うなだれている少年の頭にそっと手を伸ばすと、自分の方へと優しく引き寄せる。

「でもね、ほんの少しだけでも…心休まる瞬間位は作れると思うの」

少年は、彼女の引き寄せに抵抗はしなかった。
俯いたまま、そっと彼女の肩に頭を乗せ、少しだけ震えていた。
勇者として日々辛い修行に耐え、甘えることなど許されなかった。
世界の平和という、少年にはあまりに重い枷を付けられ、期待され、それに応える。
心休まる瞬間など、一度たりとも無かった。
それ故に、彼女の心からの優しさが、少年の心の奥底まで優しく響き渡る。
ずっと心の奥底へ押し留めていた、憧れにも似た思いを全て受け入れる、優しい温もり。

「貴方を縛る勇者という名の枷を、今だけは私が解いてあげる」
「……」
「勇者としての貴方じゃなくて、年相応の、ありのままの貴方を見せてくれればそれでいい」
「…ぅ…っ」
「今この瞬間だけは、貴方を勇者として見る人は誰も居ないわ」
「ぁ…ぁぁ…」
「少しだけでいい、少しだけ私に甘えて?貴方を甘えさせることを許して?」
「ぅ…ぁぁ…っ…ひぐ…」

それ以上彼女は何も言わなかった。
ただただ少年の頭を何度も、何度も優しく撫で続けていた。
必死に嗚咽を漏らすことに耐えながら、初めての暖かさに少年は涙を抑えることができなかった。
ポタポタと流れ落ちる涙が、少年が今までどれほど気を張り詰めて生きていたかを語っていた。
そんな少年を、彼女は優しく抱き締める。
少年が聴いたことのない、優しい歌を口ずさみながら、少年の涙が止まるまで優しく撫でていた。

…………………

気がつけば日は傾き、世界は夕焼けに紅く染まっていた。
頬に感じる柔らかく温かな感触がなんなのか、少年には理解が出来ていなかった。
ただ、頭を優しく撫でられる感触がとても心地よくて、ずっとこうしていたかった。
優しく美しい歌声が耳に入り、その時漸く少年は彼女に膝枕されることを理解する。
彼女へと顔を向けようとして、目の前に広がる彼女の胸を目の当たりにし、
慌てて元の状態に戻ろうとするも、その行動で彼女も少年が起きたことに気がつく。

「あら、おはよう。ふふ…よく眠れたかしら?」
「…うん…あの、その」
「何も言わなくていいの。ゆっくりと休めたならそれでいいわ」
「……ありがとう」
「…ふふ、どういたしまして」

礼を言った少年は、ゆっくりと起き上がると、彼女のことをじっと見つめる。
優しい笑みを浮かべながら、首をかしげる彼女に少年は口を開く。

「あの…えっと…」
「ふふ、どうしたの?」
「名前」
「え?」
「だからその…いつまでも"お前"って呼ぶのは…その分かりにくいし」
「あら…うふふ、そうね。そう言えばちゃんと名前も言ってなかったわね、くすくす」

顔を赤らめながらも、少年は彼女のことを受け入れようとしていた。

「私の名前は、ミスト。宜しくね」
「僕はレムナ……その、ミストは魔物だし、僕は勇者だ」
「うん…うん」
「でも…その、ミストは悪い魔物じゃなさそうだから…だからその」

何度も言い直しながら、それでも少年は自分の意思を伝えようとしていた。
そんな少年の言葉を一つ一つ、やさしく頷きながら彼女は受け止める。

「その…旅の仲間として…あの、よろしく」
「ふふ、こちらこそよろしくね。レムナ♪」

少年が差し出した手を、彼女は両手でギュッと少年の手を握る。
あっ、と少年が声を上げるも、彼女と目を合わせた後、笑みを浮かべてぎゅっと握り返す
こうして少年と彼女は旅の仲間として認め合い、歩み始める。
そしてこの事を切っ掛けに、少年と彼女の距離は徐々に徐々に狭まっていくことになる。


………………………………………………………………………………………


彼女との旅を続けて3週間程が経過していた。
出会った時と劇的な変化が生まれたわけではないものの、順調な旅を続けていた。
幸いにも、彼女の正体を見破る人に出会うこともなく、平和な旅が続いていた。
無論、立ち寄った村や町では勇者として出来ることを必死にこなしていった。
こればかりは自分だけでやるのだと、少年の強い意志を前に、彼女は優しくそれを見守る。
そんな旅の中、突然の夕立に慌てて雨宿りが出来る場所を探している二人がいた。

「あわわ…どこか、どこかにいい場所が…」
「ああ〜ん、濡れちゃうー…」

急に雲行きが怪しくなったかと思えば、豪雨に見舞われ、二人は山道を駆けていた。
ろくに木も生えていないこの場所では、雨宿り出来る場所も限られていた。
パシャパシャと重い足音が鳴る中、ふと少年の目に小さな洞穴が映った。
野生動物の住処かもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「ミスト、あそこ!洞穴がある!」
「あ、ほんとだ!急ご!」

降りしきる雨の中、びしょ濡れになりながらも何とか洞穴へと避難する。
山道を駆けていた所為か、二人共肩で息をするほどに息は上がっていた。

「はぁっ!はぁっ!…なんとかなったね…」
「ふぅ…あーん、もうびしょびしょ…肌にくっついて気持ち悪い…」

そういうと彼女は突然着ていた衣服を脱ぎ始める。
思わず目が点になる少年だが、慌てて目をそらすと彼女へと言葉を投げる。

「な、ななんで急に脱ぐのさ!」
「なんでって…濡れたままだと風邪引いちゃうし、乾かさないといけないでしょ?」
「それはそうだけど!そうなんだけど!」
「レムナもびしょ濡れよ?早く脱いで乾かさないと風邪引いちゃうわよ」
「ぼ、ぼぼ僕は大丈夫だから!こんなの火の魔法で!」
「そんなことしたら自分ごと燃えちゃうでしょ。ほらほらさっさと脱ぎなさい。…それとも」

頑なに彼女の方を向かない少年に対し、彼女はにんまりと笑みを浮かべる。

「私に脱がしてほしいのかしら?それならそうと言ってくれれば…♥」
「自分で!脱ぐから!あっち行ってて!」

必死な少年の様子に、くすくすと笑いを浮かべる彼女。
だが彼女が言うように全身びしょ濡れで、そのままにすれば間違いなく風邪を引くだろう。
幸いにも以前ここを訪れたであろう冒険者たちの野営跡から焚き火用の枯れ木を手に入れ、
二人は洞穴の中で火を焚べ衣類を乾かしつつ、ついでに一晩そこで過ごすことにした。

「突然の大雨なんてツイてないわねぇ…」
「う…うん」

全身隈なく濡れたせいで、今焚き火の前には下着を含めた全ての衣類が干されていた。
少年と彼女は、普段寝る時に使う毛布を羽織り、身体が冷えないようにしていた。
お尻が汚れないように、持っていた荷物を敷いてちょっとした座れる場所を作り、身体を温める。
だが、すぐ隣に裸の女性が居るという初めての状況に、少年は気が気でなかった。
ドクドクと高鳴る鼓動は抑えることが出来ず、目を瞑ればちらりと見えてしまった彼女の裸体が浮かぶ。

「(なんで僕こんな…僕は勇者だぞ…エッチな事なんて考えちゃダメだ…!)」

頭の中で必死に考えないようにすればするほどに、彼女の体のことが気になってしまう。
そんな時、ふと背筋を襲う寒気に少年は思わずクシャミをしてしまう。

「レムナ…寒いの?」
「ちが…ちょっと鼻がムズムズしただけだから!」

そう言葉にするも、正直なところ少し寒気を覚えていた。
再びクシャミが出たとき、訝しげな表情をした彼女が、再び少年の顔を覗く。

「レムナ…無理しちゃダメよ?」
「無理はしてないよ…ほんとに大丈夫だから…」
「私の目を見て、ちゃんとそれを言える?」
「う…ぅん…」

隣りに座っている彼女は、いくら毛布を纏っているとは言えど、裸であることには変わらない。
それを見るのが恥ずかしくて、中々彼女の顔を見ることはできなかった。
だが、彼女に心配をかけたくない一心で彼女の顔を見た瞬間、ドクンと心臓が高鳴るのを感じた。

「(あ、れ…なんで…胸がドキドキして…ミストに…目に吸い込まれ…)」

彼女の顔を見た瞬間、目が離せなくなると同時に心臓がドクドクと激しく脈打つ。
顔が赤くなる理由は彼女が毛布一枚しか身に着けていなかったからだろうか
そうじゃないと、胸中で否定する。
もっと別の、抗いようがないほどの何か。
少年の胸の奥底から止めどなく湧き上がってくる、彼女への強い思い。

「レムナ…?」
「ぁ…ごめ、んミスト…大丈夫、だよ」

大丈夫だと、と口からは放たれたが、顔は赤く上気し、その目はトロンとした眼差しをしていた。
少年の表情に気がついた彼女は、今までにないほどに優しい笑みを浮かべる。
ゆっくりと少年へと向き直ると、織っていた毛布と共に両手を大きく広げる。。
両手を広げ、少年を受け入れる彼女の姿に、少年の心臓はドクンと大きく脈打つ。
彼女の裸体が余すこと無く見えてしまう状態にも関わらず、少年を支配する思いはただ一つ。
柔らかく、温かで、包まれたいという強い思い。

「…おいで、レムナ」
「ぁ…ぅ…ん」

勇者だとか魔物だとか、今この瞬間には、そんな雑念は存在しなかった。
ただ、彼女に優しく抱きしめて欲しい、そこにはいやらしい気持ちなど何一つなかった。
火に誘われる虫のように、少年は彼女の胸元へと倒れ込むように抱きつく。
同時に彼女も少年をギュッと抱きしめると、自然と少年は彼女の谷間に顔を埋める形になった。
温かく柔らかくて甘い、どこか安心するような感覚に、少年の心は蕩けていた。

「(あぁぁ…柔らかくて、あったかい…ずっと…こうしてたい…)」

そんな少年を彼女は優しく抱きしめながら、優しく頭を撫でていた。
雨で濡れた身体のはずなのに、温かく甘い香りがする彼女の匂いに少年は酔いしれる。

「ふふ…こんなに身体を冷やして…大丈夫、私が温めてあげるからね」
「ぁ…ミス、ト」
「いいの、今は私と貴方だけ。神だって貴方のことは見えてはいないわ、だから」

そういうと彼女は優しく少年の額にキスをする。

「今は、存分に甘えて?」
「あぁぁ…ぅん…うんっ!」

ぎゅっと彼女を抱きしめ返し、彼女の暖かさを、その優しい匂いを胸いっぱいに吸い込む。
今までに甘えるということがなかった少年にとって、彼女はどこか母を思わせた。
同時に、歯が浮いてしまうような甘い言葉すらも許されるような、恋人の様な感覚だった。
そんな心地よさは、少年の張り詰めていた意識をゆっくりとほどいていく。
それ故に、意識の奥底にしまっていた彼女に対するある呼び方が口から漏れてしまう。

「ミスト…ミスト…ぉね…」
「くすくす♥恥ずかしがらなくていいの…ちゃんと最後まで言って?」
「ぁ…でも、僕ぅ…」
「ならこうしてあげる……よいしょっと、ふふ♥…お姉ちゃんだけに聞こえるように言ってくれればいいから、ね?」

胸に抱きついていた少年を抱き上げると、再びギュッと抱きしめ頬同士を触れさせる。
互いの頬を触れさせることで、口から放たれる言霊は互いの耳にしか入らないようになる。
ゴクリと唾を飲み込む音すら相手に聞こえてしまうほどの距離で、少年は遂に己の欲望に屈する。

「ミスト…ぉ、お姉ちゃんっ!」
「っ♥♥」

その瞬間、ガラガラと音を立てて崩れ去る少年の、勇者たらしめる何か。
そして同時に、頑なに拒んできたその言葉が少年の口から放たれたことにより、彼女も軽い絶頂を覚えていた。
ぎゅっと強く抱き締めると、少年の耳を優しく甘噛しながら再び少年へ甘い言葉を囁く。

「もっと言って?お姉ちゃんって呼んで?」
「おね、えちゃん、ミストお姉ちゃん…!」
「ふふ♥いい子、とってもいい子♥くすくす、もっと聞かせて?」

ぽんっぽんっ、と優しく背中を叩かれるそれは、まるで赤子をあやすかのような手つきだった。
それがたまらなく温かく、優しくて、少年は何度も彼女のことを呼び続ける。

「ミストお姉ちゃん…」
「くすくす♥うんうん、お姉ちゃんはここにいるよ?だから、もっと甘えて?」
「うん…うん!」

もう彼女が魔物であるとか、自分が勇者であるとかはどうでも良かった。
このぬるま湯のような、温かく力の抜ける安らぎに溺れていたかった。
彼女も少年の思いを受け止め、自分の思いを包み隠さずさらけ出そうとしていた。
そして、彼女は人化の術を解くと、人の姿から魔物の――サキュバスの姿へと戻る。

「ふふ…どうかしら?どっちの姿のほうが好き?」
「ぁ…えっと…今の…方」
「うふふ♥嬉しい…もっと、もっと甘く蕩けさせてあげる♥」

そういうと彼女はツツッっと少年の背中に指を這わす。
肩近くからゆっくりと腰まで、フェザータッチのまま指を這わせていく。
そして腰まで降りた手は、先ほどとは別の軌跡を描きながら肩へと戻っていく。
寒気のようなゾクゾクとする感覚に、思わず少年の口からは声が漏れ、身体は仰け反る。

「ふふ♥くすぐったい?」
「ひぅっ…すこ、しだけ…でも不思議な…感じ…」
「そう…それはきっと気持ちいい事よ」
「気持ち…いいこと…」
「そう、ほら口にしてみて?"気持ちいい"って、お姉ちゃんと一緒に言ってみましょう?」
「う、ん…気持ち、いい」

ぎゅっと抱きつき、彼女の肩に顎を載せた状態で、少年を小さく呟く。
その声を聞いて、彼女は再び少年の背中に指を這わす。
鳥肌が立つほどの快感に、少年は更に強く彼女へと抱きつく。

「ほら、止まっちゃったよ?ちゃんと"気持ちいい"って言わないとね、くすくす」
「あぁ…ごめ、なさ…気持ち、いい…」
「ふふ、そうそう♥気持ちいい…ほら、もっと気持ちいい」
「気持ちいい…気持ちいいよぉ…ふあぁぁっ」

言葉にする度に、少年の中で大切な何かがゆっくりと崩れ去っていく。
崩してはいけない、堕ちてはいけない、それは人としての尊厳だった。
だが、崩れ行くそれが今はたまらなく快感へと変わっていく。
そんな少年を彼女は嬉しそうな笑みを浮かべって優しく抱きしめる。

「ふふ♥よいしょっと。…素敵な顔…気持ちいいのがひと目で分かっちゃう位に、ね」
「ああぁ…ひぅ…ミ、ストお姉ちゃん…」
「くすくす…んっ…♥」
「ふぁぁ…待って…まっへぇ…」

呂律すらも回らなくなってきている少年に、優しく唇を重ねようとする彼女だったが、静止させる。
少年に残った最後の理性が、勇者としての使命が、これ以上は危険だと警鐘を鳴らしていた。
だが、彼女は優しく笑みを浮かべると、拒む少年へ1つの提案をする。

「くすくす、そうね。これ以上したら戻れなくなっちゃうかもしれないわね♥」
「ごめな、さ、でも」
「いいのよ…でもお姉ちゃんのお願い…1回だけでいいの」
「1回…だけ…?」
「そう、1回だけでいいから、お姉ちゃんと恋人のようなキスをして?」
「1回…1回…だけ」
「そう、たったの1回だけ…♥」
「うん…いい、よ1回だけね…」
「うふふ…優しい子ね、レムナ♥…んっ♥」

唇が触れた瞬間、少年は頭の中の最後の理性が溶け落ちるのを感じた。
柔らかく甘い、優しい唇の感触に、一瞬にして心を奪われてしまう。
キスの仕方も分からない少年に、その唇で何度も少年の唇を甘噛するように重ねる。

「んっ♥ぁむ…ちゅ…んふ♥ちゅ…ぁぷ…ちゅ…んふふ♥」
「ん、んんんぅぅっ!」

唇そのものが性感帯になったかのような感覚を少年は味わっていた。
性感帯という言葉を知らずとも、唇から広がる"気持ちいい"の感覚が全身に広がる。
たった1回で少年は、もはや彼女との口づけの虜になっていた。
離れた唇同士をつなぐ1本の糸がツプリと切れた瞬間、少年は自分から彼女へと口づけをしていた。

「んむぅ…んんんっ…んふぅ…!」
「んふ…ちゅ…ぁむ…♥…くすくす、1回だけじゃなかったのかしら?」
「だって…だってぇ…無理だよぉ…もっと、もっといっぱいしたくなっちゃうよぉ…」
「くすくす♥♥じゃあもっとお姉ちゃんと気持ちよくなりましょう♥」

腕を彼の首にまわし、ぎゅっと抱きしめる。
毛布が落ちてしまわないように、火に当たってしまわないように注意しながら、優しく抱きしめる。
少年も彼女に倣うように、彼女の首に腕をまわしぎゅっと抱きしめ返す。

「んんっ…んんむぅ…んぉ…」
「ちゅ…ちゅる…ぁん♥ほら…べろをべーってして?」
「ふぁ…ぇぅ…」
「そう、良い子♥お姉ちゃんがもっと気持ちいキスの仕方教えてあげる…♥」
「ぉむ…ぁ…へぅ…」
「れぅ…ちゅ…ぁぷ…ぢゅ♥…んふ…ちゅ…ぷぁ…ちゅ…♥」

くちゅくちゅと、舌同士が絡み合う音が耳を犯し、触れ合う舌に口内が犯される。
舌が絡む度に彼女と少年の唾液は混ざり合い、心まで溶かす甘い愛蜜へと変化する。
愛蜜を飲み込めば、身体の内側が熱く感じるほどの快感が生まれていた。

「ぢゅる…ちゅ…れぅ…ぁん…んふふ♥…ぁぷ…ぢゅ、ちゅぅ…♥」
「(もうだめぇ…溶け…蕩けちゃうぅ…ふぁぁっ!)」

彼女との背徳的な口づけに、身も心も堕ちていたその時だった。
彼をぎゅっと抱きしめていた腕は、いつの間にか少年の下腹部へと伸びていた。
そして、柔らかくしなやかなその指は、少年の勃起したペニスに触れていた。
抱きしめられ、柔らかな唇に触れる間に、少年の中ではいつの間にか劣情が湧いて出ていた。
彼女の身体にもっと触れていたい、もっともっと気持ちよくなりたいと。
思わず唇を離し、唇に感じていた快感とは全く別の感覚に声を荒らげる。

「あっひっ…そこはぁ…」
「くすくす♥…レムナのおちんちん…固くなっちゃってる…どうしてかしら?」
「そ、なの…知らないぃ…!」
「知らないのね…そう、ならお姉ちゃんが教えてあげるね」

少年から見えないその顔は、艶かしく淫らな魔物の笑みだった。
目の前の少年を前に、抑えきれない魔物としての衝動。
だが、そこには純粋に彼女の少年に対するかけがえのない思いや、愛と言った感情しかなく、
彼女が心から少年のことを思っている証でもあった。

「ふふ…聞こえる?レムナのおちんちんからくちゅくちゅって音がするの」
「ふぅっ…くふぅぅっ…わか、るぅ」
「これはね、レムナがエッチでいやらしい気持ちになってる証拠♥」
「ちが、うよぉ…僕、僕は…」
「さっきも言ったでしょう?ここにいるのは、私と貴方だけ。恥ずかしがる必要なんて無いの♥」
「あ…あぁぁ…」
「お姉ちゃんとのエッチでいやらしい甘い恋人キスで淫らな気分になったレムナ♥」
「ひゃぁ…くひゅぅ…」
「ほら、隠さずに全部お姉ちゃんに教えて?レムナの今の気持ち」
「あぅぅ…僕…ミストの…」
「お姉ちゃん、でしょう?くすくす♥」

そう言った彼女は、少年のペニスを少しだけ強くしごき始める。
思わず腰を引いて喘ぎ声を漏らす少年に、彼女は容赦なく責め立てる。

「ひぅっ…ごめ、な、さい…お姉ちゃんの身体でぇ…ひゃうぅっ」
「私の身体で?」
「あぁぁ…僕、は…エッチな気持ちになっちゃって…」
「そうね、こんなにおちんちんを固くして、エッチな涎も垂らして、淫らで蕩けた顔をしちゃってるものね♥」
「あっぁっ…おちんちん固くしちゃってぇ…ごめ、なさ、ひぅぅっ」
「悪いことじゃないわ♥私はエッチなレムナも大好きよ?うふふ♥」
「ぁひぅ…まってぇ…出ちゃう…おしっこか分かんないけど、なんか出ちゃう…」
「あら、くすくす♥ごめんね、お姉ちゃんちょっと意地悪しすぎちゃったね」

そう言うと、彼女は何度も激しく脈打つペニスからそっと手を離す。
だが、完全には離さず、指先や指の間などで触れ続け、絶え間なく快感を与えていた。
イクことも出来ず、かと言って治まるわけでもない生殺しの状態で、少年はただ喘ぐことしか出来なかった。

「んふふ♥…そうね、そこまで言えればもう十分かしら、くすくす」
「はぁっ…ひぅっ…あぅ…お姉、ちゃんっ!」
「あとは…その固くなっちゃったおちんちんを、どうにかしてあげないと、ね♥」

そういうと彼女は少年を抱きしめたまま身体を後ろへと倒すと、
浮遊魔法を使ってゆったりとした見えない椅子に座っているような体勢になる。
ギュッと抱きしめていた少年は、彼女の上に覆いかぶさるような状態になっていた。

「くすくす…今からもっと気持ちよくしてあげるからね♥」
「はぁっ…はぁっ…うん…気持ちよく…してぇ…」
「うふふ、いい返事♥それじゃあ…」

そういうと彼女は少年のペニスを優しく握ると、ゆっくりと自分の秘所へとあてがう。
くちゅり、と彼女の秘所から溢れ出る愛液と、少年のペニスから溢れる先走りが混ざり合う。
先端部が柔らかな肉壁に包まれると、彼女の手は離れ、少年の腰へと添えられる。

「おいで…全部受け止めてあげる…レムナ♥」

そう彼女は優しく呟くと、少年の身体をぎゅっと抱き寄せる。
その瞬間、ずぷずぷと彼女の膣内へと少年のペニスが挿入されていく。

「あぁっ…あっひっ…」
「んふふ…レムナのおちんちん…入ってきたぁ♥」

ぎゅっと締め付けるような、それでいて優しく包み込むような感触の彼女の膣内。
締め付けは奥に進むほどに強く、そして複雑に蠢きながら幾多もの膣襞よって更なる快感が与えられる。
まだ十分に剥けていなかった少年のペニスも、その締め付けによって彼女の中で先端部を露わにする。
奥へと挿れる程にペニスの皮は剥かれ、全体が入る頃には全て剥かれた状態になっていた。
今まで一度たりと刺激を受けたことのないその敏感な先端部は、彼女の与える快感に耐えれるはずがなかった。

「ひぅぅっだめっ出ちゃう、出る出るぅっ」
「いいのよ、全部、全部出して?お姉ちゃんにレムナの初めての精液を頂戴♥」
「あっああっあああぁぁ、出ちゃう、お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!!」
「っ♥♥♥」

少年のペニスがビグンッと跳ねた瞬間、少年の人生における初めての射精が彼女の膣内で解き放たれる。
びゅぐん、びゅるっと勢いよく、何度も何度も彼女の膣内を白濁へと染め上げていく。
12年間の短い人生の中で味わったあらゆる幸福の全てを足しても足りないほど。
それほどの快感に少年の意識は塗り替えられていた。

「(あぁぁ…なんか出てる…お姉ちゃんの中に沢山…気持ちいい…ひぅぅ…)」

ぎゅっと彼女に抱きつき、谷間に顔を埋めてその暴力的な快感を必死に受け止めていた。
荒い呼吸をする度に彼女の匂いに身体が反応し、ビクンッと少年の身体は震える。
そしてその度にまた、少年のペニスからはドロドロの濃い精液が放たれる。
彼女もまた、うっとりとした表情を浮かべながら、少年の初めての精液を心から味わっていた。

「うふふ♥レムナの精液…たぁくさん出てるわ…とっても美味しい♥」
「ふーっ!ふーっ!」
「くすくす…気持ちよすぎて話せないのかしら?…いいの、ぎゅっとしてあげるから、そのまま快感に身を委ねて♥」
「ふーっ!ああぁっ…ひぐぅ…ぅぅ…」
「んふ…また膣内でビクンって跳ねた…くすくす♥…ねぇレムナ」
「ひぅ…はぁっ…へぅ…あぅ」
「ふふ♥とってもいい顔…快感に蕩けた…とっても素敵な表情♥」

少年の目からは涙が零れ、口からはだらしなく涎が零れていた。
快感に溺れ、感情も表情もコントロールできなくなった、快楽に溺れた者の顔だった。
その顔が、彼女の少年に対する思いを更に強くする。
暫く何度も身体を震わせていた少年だが、ようやくそれが落ち着く頃、彼女の優しい言葉が耳に届く。

「ねぇレムナ…聞こえるかしら?」
「はぁっ…はぁっ…きこ、える…」
「んふふ、よかった♥どうだった?気持ちよかったかしら…って聞くまでもないわね、くすくす♥」
「うん…うん…凄い…気持ちよかったぁ…」
「…もっと、気持ちよくなりたい?」

その言葉に、少年は顔を上げる。
上げると言っても、彼女の谷間に埋めていた顔を、彼女から見える程度に動かす位だったが。
その顔には期待と、そして快楽に堕ちてしまった顔が浮かんでいた。

「もっと…気持ちよくなれるの…?」
「えぇ…もちろん。でもね、それはレムナの元気をちょっと貰っちゃうの」
「僕の…元気…?」
「そう、レムナの元気。でもね、ほんの少しだけ。疲れて眠っちゃう位なの」
「…本当?それで、もっと気持ちよくなれるの…?」
「えぇ…さっきの何倍も…もっともっと気持ちよくなれるわ」
「あ…あぁぁ…」
「ねぇレムナ」

そこで彼女は一旦言葉を区切る。
片手でぎゅっと抱きしめながら、もう片方の手で少年の頭を優しく撫でながら、言葉を紡ぐ。
それは勇者が頷いてはいけない、蜂蜜よりも甘い悪魔の誘惑。

「貴方の元気を…私にちょうだい?」
「……うんっ」

少年が頷いたその瞬間だった、シュルリと少年の身体に彼女の尻尾が巻き付く。
同時に、少年からは見えない、彼女の下腹部にあるハートを象った紋様がぽわりと白く光る。
そして、彼女が小さく呟く。

「…"エナジードレイン"」

その瞬間だった。
少年の心臓がドクンッと一度大きく脈打つのと同時に、下腹部が熱くなるのを感じた
抗いようのない何かが体の中を駆け巡るその感覚に、少年は思わず彼女にギュッと抱きつく。
ドクドクを脈打つ少年のペニスからは、自分の身体の奥底からじわじわとこみ上げて来る何かを感じ取っていた。
そして変化は彼女の膣内でも起きていた。
少年のペニスに、ぎゅうっと絡みつくように蠢き始める彼女の膣壁。
そして同時に、亀頭の先端部に感じる、ちゅうちゅうと吸われるような感覚。
少年の身体の内と外の両方から、少年の射精を強制的に促すような快感が襲ってくる。

「ひぁっ!なに、これぇ!なんか、また!出ちゃう、止めれないっ!」
「んっ…我慢しないでいいのよ…お姉ちゃんが全部受け止めて上げるから♥」
「ひっあっあっ…あぁぁぁ…溢れ、出ちゃ…あぁぁっ」

少年の叫びと共に、少年のペニスからはどぷどぷと精液が溢れ出してくる。
だが勢い良くではなく、まるで作りすぎた精子が出口を求め溢れ出てきたかのような、そんな射精。
ドプ、ドプリ、ドロ、と脈打つ度に溢れ出てくる少年の精液。
ゆっくりとした射精がいつまでも続いているような、不思議な射精だった。
それでいて射精の一番気持ちいい瞬間がずっと続き、強い快感に少年の心は満たされる。

「んっ♥…レムナの元気…とっても美味しい、くすくす♥」
「あ…あぁ…ぁひ…」
「ふふ…さっきよりももっと蕩けた顔…もっと、もっと気持ちよくしてあげるね♥」
「ひぁぁっ…おね、ちゃ…止ま…んくぅぅっ…!」

少年はただただ彼女にぎゅっと抱きつくことしか出来なかった。
腰を動かそうにも、巻きついた彼女の尻尾がそれを許そうとはしないし、
腰を動かそうものなら更に強い快感が襲ってくる。
ドプリ、ドプと果てしなく続くかのような長い長い射精に、次第に少年の思考は溶けていく。
喘ぐこと、そして理性で抑えていた心の奥底にあった感情だけ残っていた。

「お姉、ちゃん…気持ちい、い…もっと、もっとぉ」
「うん、うん♥大丈夫、お姉ちゃんが全部受け止めてあげるから、全部だそうね♥」
「あぁぁ…お姉ちゃん……きぃ…」

少年の口からこぼれた言葉。
それは、旅をする内に生まれた、少年の心の奥底に隠していた本当の気持ち。

「レムナ…もう一回言って?」
「ひぁぅ…くぅ…すきぃ…お姉ちゃん…こと…好きぃ…」
「んふふ♥そう、嬉しいわ。今お姉ちゃんとっても嬉しいわ♥お姉ちゃんもレムナのこと大好きよ♥」
「あ…あぁぁ…お姉ちゃん…」
「好きよ、レムナ。ひと目見た時からずっと好き。くすくす♥」

少年の耳元でささやかれる甘い言葉。
何度も何度も繰り返し囁かれ、その度にその返事と言わんばかりに溢れ出る少年の精液。
1時間経っても、2時間経っても、二人はつながり続けていた。
ドロリ、ドプリと溢れ出るようなゆっくりとした射精は、いつまでも終わることはなかった。
外の雨は上がり、月が天頂を通り過ぎてもなお、二人は繋がり続けていた。
やがて少年の体力が尽きる頃、数時間にも及ぶ行為の果に、漸く二人の交わりは終わりを告げた。


………………………………………………………………………………………


あの日の交わりから、ずいぶんと時間が経過していた。
少年と彼女の旅は明らかに進む速度が遅くなっていた。
かつては人の命を吸い付くし、快楽と引き換えに命を奪うその技は、
今では人の命を奪う程の威力もなく、精々疲れ果て眠ってしまう程度だった。
だが一度味わってしまえば、どんな男であろうとその快楽の虜からは逃れることは出来ない。
少年もまた、その虜となり、夜な夜な彼女に甘えては吸われてを繰り返していた。
いつしか旅をするよりも、彼女に甘える時間のほうが長くなる程にまでなっていた。
彼女もまた、少年の甘えに心から悦び、全身で少年のことを甘やかしていた。

今日もまた、予定よりも遥かに遅れた時間になってから街へと到着することになった。
宿で部屋を借りると、いそいそとその部屋へと入っていく。
部屋に入れば、ドアを閉めた瞬間に少年はぎゅっと彼女へと抱きつく。
お昼に交わってから、ずっと手を繋ぐだけだった少年はもう我慢の限界だった。
彼女もまた、嬉しそうに少年を抱きしめ返すと少年に優しく唇を重ねる。

「んっ…ちゅ…れぅ、んふ♥…ちゅ、ぢゅる…ぁぷ♥」

舌を絡ませる濃厚な口づけをしながら、優しく頭を撫でられるのが少年のお気に入りだった。
彼女もまた、少年の嬉しそうな顔を見て、悦びの顔を浮かべている。

「んっ…ふふ、もうっ。まだお風呂にも入ってないのに…♥」
「入らなくても…ミストお姉ちゃんの身体は綺麗で…いい匂いだよ」
「うふふ♥ありがとう…ならこのまま、ベッドに行きましょうか♥」
「うんっ…えへへ」

ベッドへと向かった二人は、乱暴に衣服を脱ぎ捨て、ベッドで互いの身体を求め合う。
互いの身体を舐め合い、触れ合い、時に甘い愛の言葉を交えながら、
二人はベッドの上でどこまでも淫らで情欲に溺れた快感に浸っていた。
2度、3度の射精ではもはや少年が満足することはなかった。
彼女の豊満な胸に、口に、顔に、お尻に、そして膣内に何度出そうとも、
湧き上がる劣情が更に彼女のことを求めていた。
そしてまた、ぎゅっと彼女に抱きしめられながら、少年は搾り取られることを望んでいた。

「"エナジードレイン"♥」

その言葉が彼女の口から放たれ、全身を襲う快感に少年は快感に蕩けきった顔を浮かべる。
幾度となく味わったこの強烈な快感は、もはや中毒といっていいほどに少年を虜にしていた。
ドグ、ビュグ、ドプリと、ゆっくりとした射精がいつまでも続く感覚に酔いしれる。
そんな最中、ふいに少年の口から零れた言葉。

「…ずっと…こうしてたい…お姉ちゃんと、一緒に、いたい…」

その言葉を聞いた彼女から、一瞬笑顔が消える。
思わずエナジードレインすらも止めてしまうほどに、彼女に衝撃を与えた。
一度だけ目を瞑り、少しだけ何かを考えた後、彼女はいつものように優しい笑みを浮かべる。
その笑みの中には、何か強い思いが浮かんでいた。

「ねぇ…レムナ」
「んぅ…な、に…?」

未だエナジードレインの余韻が続いているのか、少年は喘ぎ声を交えて返事をする。
そんな少年の頭を優しく撫でながら、彼女は少年へと問いかける。

「ずっと…私と一緒にいたい?」
「…うん、ずっと…離れたく…無い」
「そう……たとえそれが…勇者を辞めなければいけないとしても?」

その瞬間、少年の蕩けた表情が少しだけ、ほんの少しだけ醒めた表情へと変わる。。
快感に飲まれ忘れかけていた己の宿命を、彼女の言葉によって思い出す。

「勇者を…辞めても…?」
「そう……全部捨ててでも、私の側に居たいと言える?」

彼女の顔はいつもの様に優しい笑みを浮かべていた。
だが、その口から放たれる言葉は、普段の彼女とはかけ離れるほどに重く感じた。
一瞬頭に過る、数々の辛く厳しかった修業の日々と、勇者として認められた日のこと。
だが、それでも少年の答えは決まっていた。

「うん…お姉ちゃんと一緒に居られるなら…勇者なんていらない…」
「…そう、そっか。ふふ♥」

溢れるほどの優しさと愛情をくれた彼女は、もはや少年にとって無くては為らない存在だった。
たとえ世界と彼女を天秤に掛けようとも、迷いなく彼女を選ぶほどに。
少年の答えを聞き、今まで一番やさしい笑みを浮かべた彼女は、嬉しそうに何度も頷く。
そして、少年をぎゅっと抱きしめると、優しく囁く。

「じゃあ…これからはずぅっとお姉ちゃんと一緒にいようね」
「うん…うんっ」
「勇者も辞めて…お姉ちゃんと何処かでのんびりと暮らそうね」
「うん…ずっとお姉ちゃんの側で…」
「……要らなくなったものは…お姉ちゃんが全部貰ってあげるね」
「要らなくなったもの…?」
「そう、貴方の勇者としての力や魔法、身体能力も全部…貰ってあげる」
「…僕はどうなるの?」
「勇者じゃなくなるわ。勇者じゃ無くなった貴方は、年相応のただの少年に戻るの」
「ただの、少年…?」
「そう、何も出来ない、12歳の少年に戻るの」
「そしたら僕…お姉ちゃんに迷惑かけちゃうよ…」
「大丈夫…お姉ちゃんがずぅっとレムナのことをお世話してあげる。ずっと側にいて毎日何度もぎゅってしてあげる」
「毎日…?」
「そう、毎日美味しいご飯も作ってあげる。毎日沢山頭を撫でてあげる」
「あ…あぁ…」
「毎日沢山キスをして、沢山ベッドでこうやって気持ちよくしてあげる。ずっと、ずぅっと…ね♥」
「あぁぁ…」
「貴方の側で、貴方の為に何でもしてあげる♥」

その言葉に、少年は遂に堕ちてしまう。
もう何もいらない、彼女がいればそれでいい。
少年は、心からそう思ってしまった。
もう神の祝福すらも意味を為さない、もう戻ることなど出来ないほどに堕ちてしまった。

「だから…」

決して戻ることの出来ない、堕落の園へ。
彼女の優しい言葉に心から頷いてしまう。

「貴方の全てを、私にちょうだい?」
「……うんっ!」

少年の頷きとともに、彼女の紋様が淡いピンク色に妖しく光り輝く。
そして彼女は、小さくその言葉を口にする。

「…"レベルドレイン"」
「あ…ああああぁぁっ!」

その瞬間、エナジードレインとは全く異なる感覚が少年を襲った。
身体の奥底から湧き上がってくる感覚などではない、身体の奥底から一気に噴出する感覚。
子宮口はペニスの先端部に吸い付くかのように密着し、力強く少年のペニスを吸い上げている。
勢い良く彼女の膣内に放たれた白濁は、そのまま彼女の子宮にゴクリ、ゴクリと飲み込まれる。
膣壁全体がぐちゅり、ぐにゅりと激しく蠢き、エナジードレインよりも更に強い快感を生み出す。
びゅぐっ、びゅるるっ、と勢い良く放たれる精液は弱まること無く吐き出され続けた。

「ああああぁっ、ひゃぅっ。いぃぃ…!」
「んっ♥きてるよ、レムナ…いっぱい、いっぱい頑張ってきた思い出が」

レベルドレインとは、相手の経験を奪い取り、己のものとしてしまうもの。
勢い良く溢れ出る白濁は、全て少年の培ってきたものが変質したものだった。
ゴクリ、ゴクリと飲み込まれ、彼女のに吸収されるそれは、一滴残らず彼女のものとなる。

「んくぅぅっ…あが…おね、ちゃ…飛んじゃ…ううぅぅ!」
「大丈夫よ、お姉ちゃんが最後までぎゅってしてあげるからね…♥」

ぎゅっと力強く抱きつき、体中を貫く快感に少年は身体を震わせていた。
そんな少年を愛おしい表情で見つめながら、彼女は優しく少年の頭を撫でる。

「…いっぱい頑張ってきたんだね、挫けそうになってもずっと…よしよし♥」
「ひっ…あぁぁっ…あああぁぁぁ」
「辛かったね…一人でずっと、期待に答えようとして、一人で泣いた日もあって…」

魂ごと出てしまいそうな程の快感に飲まれて、ただただ喘ぎ、叫ぶことしか出来ない少年。
だけれども、そんな中でも彼女の優しい温かな言葉は一字一句少年の耳へと届いていた。
経験を己のものにするというのは、それを理解し、受け入れるということだった。
少年の持つ経験とともに流れ込む、少年の歩んだ軌跡を彼女は受け入れ、受け止める。
それ故に彼女は今、本当の意味で少年の全てを心から理解する。

「大丈夫だよ…辛かった思い出も、悲しかった記憶も、全部お姉ちゃんが受け止めてあげる…♥」
「ひぐっ…ぅあぁあっ…おね、ちゃ…あぁぁっ」

身体だけでなく、心の奥底まで温かく優しく抱きしめられるような感覚だった。
勇者となることを望まれ、勇者らしくあることを己に強いてきた少年は、休まる瞬間などなかった。
止まることのない射精は、少年の全てを彼女に伝える。
経験とともに流れ出てくる記憶は少年にも残るが、彼女はそれを理解し、共有する。
少年の持つ技術も魔力も何もかもが白濁へ変わり、そして彼女へと解き放たれる。

「…剣も上手く振るえなかったのに…血豆が出来ても、体中が痛んでもそれでも諦めなかったんだね」
「うぅぅっ、ひっぐ…つらか…っ!」
「でももういいんだよ、お姉ちゃんがずぅっとこうして抱きしめてあげる♥もう剣なんていらないんだよ♥」

ぽろぽろと溢れる涙は、快感と安らぎが混ざりあったものだった。
身体の中から抜けていく己の"大切だった"何かと入れ替るように入ってくる、大きくて温かなもの。
彼女もまた、優しい笑みを浮かべ、温かな言葉を口にしながら、優しい涙を流す。

「…魔法も上手く使えなかったんだね。悔しくて、辛くて…でもそれでも一人で頑張ってたんだね…」
「ひうぅっ…ぐず…えぐ…ぅあああぁぁっ」
「失敗続きで呆れられて…でも諦めなかったレムナはとってもかっこいいよ♥」

幾度となく吐き出される白濁は、一滴たりとも零すこと無く彼女が受け止めた。
目から涙が、鼻からは鼻水、口からは涎を零しながらも、少年の顔はとても安らいでいた。
激しい快感に酔いしれながらも、それ以上に感じる温かさに満たされる。
誰にも理解されることのなかった心の闇を、初めて理解された喜びと受け止めてくれる優しさに。

「…小さな身体で、沢山トレーニングもして…ふふ、昔は足が遅かったんだね♥」
「うん…ぅんっ…ぅうあぁぁぁっ」
「いいんだよ…これからは私がずっと側に居るからね。もう辛いことなんてないんだよ♥」

激しく吐出する精液は既に何十回分もの量を出したのかわからないほどになっていた。
それでも彼女はそれを全て受け止め、受け入れる。
やがて少年が己の身体の重さを感じる頃、漸く射精の勢いは無くなり、ドクドクと溢れる程度の勢いへ変わる。
その勢いすらもなくなる頃、少年の全ては彼女のものとなる。

「もう…レムナの全部が出ちゃったよ…全部全部お姉ちゃんが貰っちゃった」
「…ぁぅ…ふぁぁ…」
「ふふ♥とっても素敵な顔をしてるよ、レムナ…♥」
「お姉、ちゃ…僕は…もうゆう、しゃ…ない…」
「そうだよ、もう剣も魔法も、勇者の動きも全部出来なくなっちゃったんだよ」
「あぁ…僕…」
「でもね、これでもう貴方を縛る鎖は無くなったの、これでお姉ちゃんとずっと一緒にいられるよ♥」
「ぁ…あぁぁ…」
「くすくす♥嬉しい?」
「うれ、しぃ…ぇへへ」
「お姉ちゃんもとっても幸せだよ♥ずっと、ずうっと貴方の側で、貴方を愛するわ♥」
「ぼ、くも…お姉ちゃん…」
「くすくす♥それじゃあ行きましょう。ずっと、ずぅっと幸せに暮らせる場所へ…」

優しく彼女はそう告げると、小さく呟くようにとても長い魔法の詠唱を始める。
寝ているベッドを中心に展開される複雑で難解な、幾重にも重なり合う魔法陣。
彼女の詠唱は、どこか夢見心地の少年には子守唄のように聞こえていた。
長く、それでいて全てを任せてしまってよい、そんな安心感を得られるような。
やがて彼女の下腹部にある紋様と同じ淡いピンク色の光に部屋中が包まれた瞬間だった。
少年と彼女の姿は、その光が収まる頃には、まるで霞の様に消えてしまっていた。
まるで最初からその部屋には誰もいなかったかのように。
ただただそこには静寂だけが、取り残されていた。


………………………………………………………………………………………


人間から見ればそれは禍々しく、恐ろしい世界がどこまでも広がっているように見えた。
しかしそこに住む者達にとっては真逆で、とても美しい世界が広がっていた。
そこは魔王が支配し、魔物たちが暮らす、魔界と呼ばれる世界だった。
そこにある一つの小さな村の中にある、小さな一軒家に彼女は居た。
ハンギングチェアに座り、ゆったりとしたリズムで揺れながら手編みのマフラーを編んでいた。
自分用と少年用。
これが完成したら次は手袋にセーターと作るものはまだまだ沢山ある。
作るには早すぎる季節かもしれないが、こうして少年を思いながら黙々と作るのも悪くない。
ゆっくりと、少年への思いを毛糸に込めながら、彼女は丁寧に丁寧に編んでいた。
そんな中、勢い良く開いたドアからは少年が飛び込んでくる。
とても嬉しそうな笑みを浮かべながら、彼女へと抱きつく。

「あらあら…おかえり、レムナ♥」
「えへへ…ただいまお姉ちゃんっ!」
「くすくす♥なんだかとっても嬉しそうね、何かいいことでもあったのかしら?」
「うんっ!お姉ちゃんにあげるとってもいいものがあるんだ!」
「あら?私に?…うふふ、何かしら?」

嬉しそうな笑みを浮かべながら、少年が彼女から離れると、すっと目をつぶり集中を始める。
両手を前に伸ばし、少年が小さく何かを呟いた瞬間だった。
右手の掌からは激しく燃え上がる炎が、左手の掌からは凍りつく冷気が小さく放たれ、
少年の掌でまるで踊るように揺らめいていた。

「あら…♥また新しい魔法を覚えたのね…くすくす♥」
「うんっうんっ!それでね…」

そういうと少年は、上気した蕩けた顔で嬉しそうに告げる。

「今日も…お姉ちゃんに全部あげるね…全部、全部吸って…♪」
「そう…♥私のために頑張ったくれたのね♥」
「うんっ!…えへへ」
「ふふ、いいわ♥また。全部吸ってあげる♥」

そういうと、彼女は作りかけのマフラーを机に置くと、少年の手を取り寝室へと向かう。
かつて勇者となるために耐えていた辛い修行は、今は彼女のための修行へと変わっていた。
気持ちよくなるため、そして彼女に喜んでもらうために少年は日々努力を続ける。
そして、全てを吸われ、また1から全てを始める。
終わることのない、永久に続く堕落した快楽に染まった甘く蕩ける生活。

今日もまた、彼らの家からは悦びの声が響き渡る。


「えへへ…お姉ちゃん…全部、吸ってぇ…♥」
17/07/01 01:25更新 / クヴァロス

■作者メッセージ
宿屋の店主「あいつら金も払わねぇで逃げやがった、ちくしょうめ!!」


さて、今回のお話は如何でしたでしょうか?

甘い誘惑に徐々に身も心も蕩けて堕ちていく、そんなお話しでした。
どこまでも堕落し、そしてそれを心から喜んでくれる、受け入れてくれる彼女が居る限り、
少年はきっとどこまでも堕ち続けるのでしょうね。
甘い、それでちょっと切ないお話しを楽しんで頂けたなら幸いです。


さてところで、勇者がまた一人減りましたが………教団サン大丈夫ですか?

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