連載小説
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menu1:バタートーストとゆでたまご
 日曜日、安息日、休息の日、神が世界創生の時に休息を取れと定めた日らしい、その古くからの風習は魔物の世界となった今の時代でも残っている。
 こんな日だからこそ惰眠を貪りたいのだが、普段の生活習慣からの影響で、自然といつもの時間に目が覚めてしまうのは少々憎らしい。
 軽く身体を起こせば、俺の隣で亜梨子ちゃんはまだ可愛らしい静かな寝息を立てている、その寝顔をもう少し長く見つめたい欲求を自制すれば、俺は彼女を起こさないように静かにベッドから下り、寝室を出て服を着て、洗顔を済ませ身だしなみも整えれば、そのままキッチンに向かい朝食の準備をはじめた。
 今日は朝食は軽めにして、どこかに遊びに行こうか、そう考えながらエプロンを締め、卵を二つと水を鍋に入れ火にかける。


 亜梨子ちゃんはいわゆるハネムーンベイビーで、兄貴達が日本に帰ってから産まれた。
 彼女が生まれる前から万年新婚夫婦の兄貴達は魔力生成の為に家ではずっといちゃついており、その影響をうちのお袋が真っ先に受けてしまった。
 そうお袋はいつの間にか魔力に侵食され若返っていった、そう魔物娘化したのである。
 年齢を重ねるたびに身体に蓄積した痛みもなくなり、たるんだ肌は今や20代の肌にお袋は大いに喜び、さらに親父までもインキュバス化していき、兄夫婦と同じように飽きること無くずっといちゃついていた。
 そんな中亜梨子ちゃんが産まれ、俺はなにかと彼女の世話を焼くことになるのは自然の流れのようなものだ。
 丁度思春期まっただ中の俺には家の中はちょっと過ごしにくい環境だ、まあぶっちゃけ孤立してたような感じだった。
 そんな中彼女の世話をすることは、俺が家の中で自分の居場所を存在を感じる唯一の場所、俺は亜梨子ちゃんに愛情をいっぱい注いだ。
 魔物娘の成長は早く、すぐに手があまりかからなくなった。
 亜梨子ちゃんにとっても、家の中で一番構ってくれる俺に懐くのは当然の事だっただろう。

 友人知人からは子連れと揶揄されたり、ずっとこの10年女っ気がないのはこの子のせいかもしれないが、俺は恨み言を言うつもりはない。

 はっきり言って亜梨子ちゃんは可愛いんだ、その容姿だけでなく仕草や行動のすべて、その一つ一つが俺を癒してくれるし、この子を守りたい、守れるほど強くなりたいとも思う原動力になっていったのだ。
 たぶんこの子に彼氏ができたとしたら、兄貴以上に反対するかもしれない……実の親以上に俺は親バカになれる自信がある、ぶっちゃければこの子をどこの馬の骨かわからん奴にやるつもりは無い。

 そして1ヶ月前、俺が仕事の都合で家族と離れて暮らすことになった時、亜梨子ちゃんが俺についていくと言ったのには少々びっくりしたが、あの家から俺がいなくなると、彼女の居場所がなくなると思った俺は兄貴夫婦に相談した。
 結果はあっさりと承認がとれた、娘を末永くよろしくなというキツイジョークもおまけつきだ。
 二人の新生活は、結構楽しくやっている。
 主夫業と仕事との両立は難しいものだが、亜梨子ちゃんも出来る範囲の家事をやってくれるのでかなり助かっている。
 嫁にいかないでくれと心の奥から叫び声をあげたくなるほど良い子だよ。


 さて、思いで話はこれくらいにして朝食の準備に戻ろう。
 卵を茹でている間に、食パンを切り分けていく、俺の分が厚切り2枚、亜梨子ちゃんの分は厚切り1枚。
 新居の近所に美味いパン屋があることが判明してからは、食パンはそこで一斤丸々買うことにしている、この方が体調や気分により食べたい量が調整できるし、トースト用、サンドイッチ用、ハニートースト用等その時の欲しい用途に合わせて必要な大きさのパンが確保できるのが嬉しい。

 パンを切り分ければフライパンを温め、ある程度加熱したら火を止める。
 冷蔵庫からバターを取り出して切り分ければ、温まったフライパンの中へ入れ、溶かしバターにする、この時加熱したままだとバターが焦げてしまうこともあるので、一旦火を止めるのがベストだと思う。
 そして食パンを溶かしバターの上に置き、スポンジに水を吸い込ませるように、食パンにバターをしっかりと吸い込ませていく。
 そのまましっかりとバターを吸い込ませた食パンをオーブントースターに入れ、加熱していく。
 空いたフライパンにはそのままベーコンを投入し、軽くカリカリになるまで火を通す、完全に火を通しすぎてはいけない、ちょうどいい歯ごたえのタイミングで引き上げるのが大事なのだ。

 丁度俺の分の食パンとベーコンが焼けた頃、寝室の扉が開き亜梨子ちゃんが出てきた、まだ眠そうに目を半開きにし、キャミソールの肩紐は片方ズレ落ち、小さく欠伸も漏らしている、明らかにお寝坊さんモードであるその姿も愛らしい。

「おにいちゃんおはよう……」
「おはよう亜梨子ちゃん、朝ごはんの準備できているから顔洗っておいで」
「ふわーい」

 まだ眠そうな声をあげながら洗面所に向かう亜梨子ちゃんを横目に、彼女の分の食パンをオーブントースターに入れ、彼女がお気に入りのマグにミルクを注ぎ、完成したゆで卵は殻を剥き、塩を添えた皿に入れテーブルに並べていく。

「んーバターのいい香りがする」

 彼女の分のトーストも焼け、食べやすいように半分に切りわける。
 そうしている間に亜梨子ちゃんが戻ってくる、寝ぐせが気になったのかシャワーも浴びたようだ、俺の隣を通る時、椿のほのかな香りが鼻孔をくすぐる。

「着替えそこにあるから、服来たらゴハンにしよう」
「えー亜梨子すぐ食べるよ」
「ちゃんと服を着なさい、立派なレディにならないとお兄ちゃん亜梨子ちゃんの事嫌いになるよ」

 もちろん嘘だ俺が亜梨子ちゃんの事嫌いになることなんて無い。

「あーうーわかった、お洋服ちゃんと着る」

 彼女が着替えを横目で見ている間にレンジで暖めたミルクの入ったマグを取り出し、角砂糖を二つ入れてよくかき混ぜる。
 二人の朝食がすべて揃えば、着替えも終わった亜梨子ちゃんと向かい合うように椅子に座り、手を合わせて。

『いただきます』

 二人同時に声がハモればアリスちゃんは楽しそうに微笑む、しっかりとバターが染み込み、さっくりとした歯ざわりのトーストを口にすれば嬉しそうに微笑み。

「美味しい、しっかりとバターも染み込んでるからお兄ちゃんのトースト好きぃ」

 ああ、この笑顔、この言葉が聞きたいからこそ作った甲斐があるというものだ、俺も釣られて笑みを浮かべる。
 ゆでたまごも芯のほうは軽く半熟の状態なのも、ベーコンの焼き加減も彼女が好む最高の状態、亜梨子ちゃんの為の朝食である、それが報われた瞬間である。

「亜梨子ちゃん、今日はどこかおでかけしようか?」

 砂糖抜きのホットミルクを飲みながら、彼女に問いかけるのは俺が一つ目のトーストを食べ終わり、2つ目に手をつけた時だ。

「ホント! お兄ちゃんとデート?」

 パァァっと亜梨子ちゃんの顔に笑顔が浮かぶ、お出かけがかなり嬉しいらしい。

「そうだね、デートだね。 亜梨子ちゃんはどこか行きたいトコがある?」
「あ。それなら、えっとえっと……」

 そう考え事をしている亜梨子ちゃん、その視線は俺の手元にあるトーストに向けられていた。

「あ、半分こする?」
「うん!」

 手に持っていたトーストを半分こして亜梨子ちゃんに手渡せば、俺達は今日はどこにでかけようかと相談をはじめた。
12/05/01 07:49更新 / 鬼謀大佐
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■作者メッセージ
大佐です、なんとなく飯SSが書きたくなりました。
大佐です、魔物娘SSなのにエロシーンがありません、俺のSSなのに!
大佐です、まだまだ続くんじゃよ、そのうちエロ書くかもしれんのじゃよ。
大佐です、直接的なエロはないけど、間接的には書いてるのじゃよ、イメージしろ!
大佐です、夜中に見ると腹が減るSSを目指します。

大佐です、大佐です、大佐です……。

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