読切小説
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石ころ長者
ある街に、二酸化というアホで、勉強もできない、運動もできないが、心優しい(笑)青年がおった。
ある日、夜に眠っていると夢の中に大きな龍が現れて、二酸化にこう言うた。


「朝起きて一番最初に手にした物を大事にしなさい、二酸化」


ハッとして起き上がり、二酸化は辺りを急いで見回した。
だが起きてもいつも通りの自分のアパートで、龍もいなんだ。


「よっこらせっくす……っととっ!? あ、いやんっ!」


躓いて転んでしまい、思わず落ちていた石ころを手にとってしまった。
なかなか綺麗な石ころで、黒くツヤツヤであり、なんとなく昨日拾ってきた石ころだ。


「うーん……」


石ころを見てから捨てようとしたが、二酸化は龍の言うた事をすぐに思い出して、手に持ったまま外へ出た。
龍からの贈り物だとも思えばけっこういい。
よかれば石好きの刑部狸にでも売ろうかと考えていると、


「あの石が欲しいよぅ」


と、声が聞こえた。
声の聞こえた方には小さなドラゴンの娘と母がいて、二酸化の石を見ておった。
二酸化はしばらく考えたが、自分みたいな不細工でキモイ男より、ドラゴンのような可愛い娘に石をあげた方がいいだろうと思い、どうぞと手渡した。


「す、すまない、私の娘が。礼には足りないかもしれないが、このアラクネのセーターを受け取ってくれないか」


ドラゴンの母から綺麗なアラクネの糸で作られたセーターを受け取る二酸化。
ドラゴンの娘には「だいじにするー」と言われ、手を振って別れた。


「やあ、綺麗な石ころがアラクネのセーターになった」


でも何でドラゴンがアラクネのセーターを持っていたんだろうと考えながら、セーターを持って上機嫌で歩いていると、身体を震わせるワーシープとその夫がおった。
なぜワーシープは震えているのかと聞けば、毛を刈ってしまい、今寒くて動けないということだ。


「良かったらどうぞ」


二酸化はアラクネのセーターを差し出した。
ワーシープは少しながらも震えが止まり、夫とお礼を述べた。


「お礼です、本当にありがとうございます」


ワーシープの夫から妻の毛で作った安眠枕を受け取った。


「やあ、綺麗な石ころがワーシープの安眠枕になった」


ワーシープの安眠枕を持ち、今日から安眠できるよやったね二酸化!などとやりながら歩いていると、ため息をついた男がおった。
理由を聞けば男の子供であるハーピーがやんちゃでなかなか眠らず、いつも遅起きで学校に遅刻するとのことだった。


「効果あるかわかりませんけど、どうぞ」


二酸化はワーシープの安眠枕を差し出した。
男は大喜びをして、二酸化に巨大な卵を渡した。
何かと聞けば嫁の産んだ卵とか。


「や、やあ、綺麗な石ころがハーピーの卵になった……」


引き気味に卵をゆっくり運びながら歩いていると、刑部狸が妖狐と睨み合っていた。
何かと聞けば二人がぶつかって、妖狐の買った卵(10個入り98円)が全て割れてしまったらしい。


「あの、一回分しか使えないですけど良かったら」


二酸化がハーピーの卵を差し出すと妖狐は喜んで受け取り、その場を去っていった。
残された刑部狸にお礼を言われ、なんと高そうな茶釜を貰えた。


「やあ、綺麗な石ころが茶釜になった」


これいつ使うんだ、売ろうにもどこで売りゃいいんだ、こりゃ無意味だ、なんと考えて歩いていると、和服を着たヴァンパイアがワーバットを叩いていた。
急いで止めて理由を聞けば、ワーバットが茶釜を借りるのを忘れ、茶道教室を中止することを強いられているそうな。


「まだ使ってない新品なんですが……良かったらどうぞ」


茶釜を差し出すとヴァンパイアは目を見開いたが、すぐにお礼を言って、二酸化に無理やり剥ぎ取ったワーバットの下着をくれた。
とりあえずパンツをかぶって、二酸化は歩き始めた。


「やあ、綺麗な石ころがワーバットのパンツになった」


警察のアヌビス(独身)から全速力で逃げ、歩いていると、道端で泣いているダンピールがいた。
パンツをかぶったまま真面目に話を聞いていると、ヴァンパイアハンター(笑)になったはいいが、ヴァンパイアの手下一人も見つけられないとか。


「脱ぎたてほやほやの下着に魔力残ってるかな」


パンツをダンピールにあげると、ダンピールは大喜びしてパンツのクロッチ部分を思い切り嗅いで、二酸化にお礼だとブラジャーをくれた。


「やあ、綺麗な石ころがダンピールのブラジャーになった」


とりあえずブラジャーを持って、ノーブラの上にパンツを頭にかぶっているダンピールを捕まえている警察(アヌビス・独身)に見つからないよう、森の中を静かに歩いた。
奥に行くと、ウシオニとジョロウグモがお互い首を傾げていました。
理由を聞けばウシオニに合うブラジャーがないとのことで、ジョロウグモが作ろうにも流石にブラジャー作成は無理とのことだ。


「ダンピールサイズなら合うかな、良かったらどうぞ」


持っていたブラジャーはなんとウシオニにピッタリでした。
ウシオニは去り、ジョロウグモはお礼を言って、二酸化に綺麗な和服を作ってくれました。
黒色で後ろにドクロマークと二酸化好みにしてくれました。


「やあ、綺麗な石ころがジョロウグモの仕立てた和服になった!」


かなり上機嫌で二酸化は帰り道を歩いた。
だがそこに、しょぼくれた稲荷と青年がおった。
理由を聞けば稲荷はあるが、青年に結婚式の衣装がないのだとか。
青年の家は貧乏で、衣装を借りるのさえ難しいのだと泣きながら稲荷は言う。
二酸化は少しも迷わず、ドクロマークの衣装を渡した。


「俺の為に作られたから合わないかもしれませんが、良かったらどうぞ」


二人は大喜びして、二酸化に結婚式の招待状をくれた。
是非来てくださいと、二人は幸せそうに去っていった。


「やあ、綺麗な石ころがめでたい結婚式の招待状になった」


グレードダウンだとも気にせず、二酸化は招待状を見ながら家であるアパートについた。
そこに、肩を落とした隣に住むセイレーンが現れた。
理由を聞くと、どうやら今日も路上ライブで男が引っかからなかったとか。


「もしかしたら独身の男がいるかも、どうぞ」


結婚式の招待状を渡すと、セイレーンは大喜びどころか狂喜乱舞して部屋に入っていった。


「ありゃ、何もなくなってしまった……」


気がつけば二酸化の手には何もなかった。
だがセイレーンの笑顔、みんなからのありがとうで満足してしまった二酸化は、ため息をついて自分の部屋に入った。


「お帰りなさい」


と、自分の部屋には――見覚えのない魔物の女がいた。
二酸化は首を傾げ、誰だと尋ねると、


「朝からずーっと見てましたよ? 私は君の優しい心に胸を打たれました! 不束者ですが、どうぞよろしくお願いします!」


二酸化はきょとんとしたが、すぐに手を握られた。





「やあ……綺麗な石ころが綺麗なお嫁さんになっちゃった」





石ころ長者はこれにておしまい。
めでたしかな、めでたしかな。
13/04/14 09:06更新 / 二酸化O2

■作者メッセージ
こんな奇跡がおきたらいいのに(遠い目)

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