読切小説
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はじめてをもう一度
 お皿を二つ、コップも二つ、茶碗も二つ、箸も二つ。
 全部二つずつ。朝日に照らされたテーブルに向かい合わせに並んだ食器を眺めて、頬が緩む。
 誰かと食事をするのは楽しい。それが、とびっきり可愛くて、愛おしい人となら尚更に。
 「食器、並べましたよー!」
 台所に向かって声をかければ、そこで作業をしていたエプロン姿の黒い女性が振り返る。
 「すいません、手伝わせてしまって…悠乃くんは、じっとしていても良かったんですよ…?」
 申し訳ないのか、嬉しかったのか、ちょっと涙ぐんでいる。
 「いやいやそんな!ノナさんにはお世話になってるんですし、これくらいはやりますよ!」
 女性…ノナさんに満面の笑みを返したら、ポロポロと泣かれてしまった。




 ノナさんは魔物娘、バンシーだ。死に逝く人の前に現れ、涙を流して寄り添う者だ。
 彼女と出会ったのは一ヵ月ほど前。寒い寒い冬の日。オレ…相生悠乃(あいおい ゆの)が命を落とした日。
 16年間頑張って生きてきたが、そこが限界。親がいないものだから一人寂しく死んでしまった。ちなみに死因は餓死。オレは大変貧しかった。
 家で死んでいたところをノナさんに助けられて、そのまま彼女の元で保護されたのが始まり。
 そう、オレは一度死んでいる。そして、バンシーであるノナさんに蘇生させてもらったのだ。
 「生きてるって素晴らしいなぁ……」
 いや、死んでいるんだろうか?まぁいいや、どっちでも。
 ノナさんとの暮らしはとっても楽しい。一緒に食卓を囲むのも、誰かとお喋りするのも、時間を共にするのも、生前では絶対に叶わないことばかりだ。
 ただ、彼女との生活はいいことばかりでもなく………
 「あーん…」
 「…あの、自分で食べられますから」
 目の前に小さく切り分けられた目玉焼きが差し出される。
 どういうわけか、ノナさんは際限なくオレを甘やかそうとするのだ。
 嫌なわけではないが、なんというか、恥ずかしい。
 「……………あーん…」
 「いや、いいですって。…恋人じゃないんですから」
 たぶん、オレと彼女が恋愛関係にあれば恥ずかしがりながらも受け入れたと思う。
 が、悲しいかな。オレ達はそういうのではない。
 バンシーに蘇らせてもらった男性は、傍で泣いていた彼女たちに真っ先に襲いかかるらしい。
 泣き声に劣情を煽られ、曖昧な意識のまま、彼女たちと交わるそうだ。
 しかし、オレにはその記憶がない。したのは間違いないはずだが、その体験がすっぽりと抜け落ちている。
 「えーと、気にしなくていいんですよ?……その、色々と」
 色々。つまりは、シてしまったこと。
 魔物娘にとって最も重要なことだというのは理解しているが、当のオレは忘れてしまっている。
 ノーカウントにはできないが、かといって簡単に認めることも難しく。
 だから、オレとノナさんは恋人じゃない。
 恋人と呼ぶのは、図々しすぎる気がするから。
 「………………ぐすっ」
 「ああっ!?泣かないでください!悪かったですから!」
 彼女たちバンシーは尋常じゃなく涙もろい。嬉しいことがあっても、悲しいことがあっても、すぐに泣き出してしまう。
 何なら今朝おはようの挨拶をしたオレを見ただけ涙を零したくらいだ。
 曰く、申し訳ないらしい。なにがだろうか?
 その際のやけに熱っぽい涙目にぞくっとしたのは内緒だ。
 と、このようにノナさんは些細なことでも泣いてしまう。この一ヵ月で幾度となく見てきたが、まだ慣れない。
 「その、美味しいですね!いやー、ノナさんの作る料理なら毎日食べたいなぁ!」
 とりあえず自分の皿の目玉焼きを頬張って見せる。強引に話題を変えて泣き止ませたかった。
 「そんな、美味しいだなんて……うぅ…」
 手の甲で目元を拭うノナさん。そうだった、彼女たちは嬉しくても涙するのだ。
 嬉しいのと悲しいのがごちゃ混ぜになって、さらに雫が溢れていく。
 「ティッシュ、ティッシュ!」
 紙を取って、彼女の顔を拭く。
 「ひくっ…すいません……いつも……」
 瞼を閉じて、雫を取り除かれるのを享受する。
 こうなったら、簡単には泣き止まないのだけど。
 「……私のほうが、お姉さんなのに……こんな……」
 恥ずかしいとか、情けないとか、色んな感情がぐちゃぐちゃになっているのだろう。
 ティッシュが水浸しになっても、溢れて止まない。
 「まぁまぁ、オレのほうがいっぱいご迷惑おかけしてますから!」
 それに、こうやって彼女に触れるのは密な楽しみなのだ。
 紙ごしでも、その柔らかい頬に触れるのは気持ちいい。
 さらりとした黒い長髪に指が当たる感触はなんともいえない。
 目を瞑ってされるがままの彼女の姿はクラクラするくらいに可愛いし、それを間近で見られるのはたまらない。
 可愛い、愛おしい、欲しい。
 静かに涙を零す淑やかなノナさんが、一番綺麗で、一番好きで……
 (………一番、欲情する)
 彼女に見えなくて良かった。きっと、今のオレは酷い顔をしている。
 欲望をむき出しにしたケダモノじみた顔をしていると思う。
 こんなにも優しくしてくれる恩人にそんなのは知られたくない。この想いはそっと胸に仕舞おう。
 ノナさんとオレは、恋人でもなんでもないのだから。
 



■■■■■■■■■■■■



 
 「にがっ!うぇ……初めて飲んだけどそんなにだな、コーヒーって」
 ノナさんをなだめて、朝食を一緒に食べて、家事を一通り終えて。
 現在オレはリビングで一人、マグカップを傾けている。
 この場に彼女がいたらきっと美味しく淹れてくれるのだろうけど、生憎ノナさんは留守だ。近所のスーパーで買い物をして来てます、とのこと。
 「冒険するもんじゃないね。えーと、牛乳牛乳……」
 冷蔵庫を漁りパックごと持ってくる。残り少ない。
 「使い切って大丈夫かな……」
 たぶん、今頃ノナさんが調達しているだろう。
 考えながら、テレビの前を横切る。
 「………ん?」
 暗い液晶に映る自分の姿に違和感を覚える。
 「なんだろう、痣かな…?」
 首筋に痣のようなものがある。はて、虫にでも刺されてのだろうか?
 痒くはないけど、知らぬ間に身体に異常が現れるのはちょっと怖い。
 「一度死んでるしなぁ…ノナさんに聞いてみようかな」
 コップに牛乳を注ぐ。
 人並に動けて、普通に生活している。時々、本当に死んだのか疑問に思うこともある。
 「死んだ記憶はあるけど……一番大事な直後がなぁ…」
 詳細を聞く気にはならなかったが、やはりオレはノナさんに襲いかかったらしい。
 事情を説明してくれたときの彼女の赤らんだ顔と潤んだ瞳は、伴侶を得た魔物娘のそれに違いなかった。
 「…………やっぱり思い出せない」
 余程頭が悪かったのか、オレにはその時の記憶がない。
 ノナさんを犯したという事実はあっても、自分の中にだけそれがない。
 「妬ましいな、過去のオレ」
 心底、そう思う。あんなにも綺麗な人を汚せたなんて、羨ましくってしょうがない。
 今のオレにはできないことを、過去のオレはやれたのだ。
 最初の一回には意識が朦朧としてたとか、仕方ないとか、そういうのがある。だけど、二回目以降にはそれがない。
 「オレとノナさんは恋人でもなんでもないしね。」
 正直、オレ達の関係が何なのかはわからない。恋人と呼ぶには気まずいし、他人と呼ぶには関わり過ぎている。
 だから、一番居心地がいい保護という関係に落ち着いた。オレは、ノナさんに保護されているだけ。それが、最も楽だった。
 「好きだけどやっぱこう…襲ってるしなんか…いっけね牛乳入れ過ぎた!」
 考え事しながらやるものじゃなかった。コップの淵のギリギリまで注がれてコーヒー牛乳が溢れそうになってる。
 「うへぇ…これコーヒーの味しないって。大きい容器に移して足そうか…」
 溜息をつく。生き返ってから、どうにも空回りばかりだ。
 ボトルコーヒー一本を犠牲に大き目のボウルで作り直したコーヒー牛乳は、そんなに美味しくなかった。




■■■■■■■■■■■■




 「…ただいま戻りました。」
 「おかえりなさい!うわ、大荷物ですね!」
 玄関にてノナさんの手に下げられた大きなビニール袋を預かる。
 いつもお世話になっているから、これくらいの手伝いはしなければ。
 「すいません、いつもありがとうございます…」
 「いやいや、なんてことないですよ。台所に運ぶので大丈夫です?」
 お願いします、とお辞儀しかけたノナさんが一点を見つめて停止する。
 どうやら、オレの首筋の痣を見ているようだ。
 「あ、これですか?なんか虫に刺されたんですかね?さっき気づいて…」
 「え!?あっ、そ、そうですか…気づいちゃいましたか…?」
 顔を赤くしてびくりと跳ねた。彼女のびっくりした様子は初めてだ。
 「?まぁ、目につく場所ですし」
 「で、ですよね、目立ちますよね………嫌、でした?」
 もじもじと、小さな声で尋ねてくる。
 どうしたのだろうか?照れたように目を潤ませて、ちらりとこちらをうかがってくるけど。
 「嫌って言うか、怖いですよね。得体の知れない痕が身体に…なんで泣くんですか!?」
 朝とは比べ物にならないくらいに泣いている。それはもう、驚くくらい。
 「ひぐっ、ごめ…ごめんなさい……怖い、ひっく、ですよね…ぐすっ」
 「号泣じゃないですか!」
 しゃくりあげながら涙を零すノナさん。大概涙もろいが、今日は特に酷い。
 ハンカチもティッシュの手元にないから、指で目元の雫を掬う。
 「泣かないで大丈夫ですから!うわ肌スベスベしてる!」
 口からそんな言葉が出てきたあたり、オレも若干パニックになっていたようだ。
 指先に触れるノナさんの感触が気持ちいい。ちょっと冷たい体温に、白くてきめ細かな肌。いつまでも触っていたくなる魔性の身体。
 「涙暖かい…って、これじゃ全然ダメじゃん!」
 温い雫で両手の指はいつの間にかびしょ濡れになっていた。
 ノナさんの涙に塗れた手はなんだか美味しそうで、口に突っ込んでその味を確かめたくなったがなんとか耐える。
 「タオルかなんか持ってきますね!手じゃ涙が広がるだけなんで!」
 洗面所にあったっけ。なんて考えて踵を返そうとして、両の手首をがっしり掴まれた。
 「ノ、ノナさん…?どうしました?」
 「……ひくっ…すいません、お借りします」
 「借りるって何をおおわぁあああああああああ!?」
 胸元に顔を埋めてきた。細い両手が背中に回され、逃げられなくなる。
 女の人の良い匂いがする。甘い匂い。シャンプーとか香水とかじゃなくて、ノナさんの匂いだ。
 「ぐすっ……ごめんさい……ん、ふふっ……泣き止むまで、ですから……」
 すすり泣く声が鼓膜から入って、脳髄を甘く犯す。
 彼女の声が、匂いが、温度が気持ちいい。気持ちよくて、もっと欲しくなる。
 行き場をなくした腕が宙を掻く。オレは今、獣欲と戦っているのだ。
 「心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却……」
 落ち着け、反応するな!体、というか股間がぞわぞわするが勃つんじゃない!
 清純な関係なんだよオレとノナさんはさぁ!
 「んっ……悠乃くんの胸、安心します…ふ、ふふっ…ぐすっ」
 こんなにも綺麗な人に涙声でそんな風に言われたらさぁ!余計ムラムラするじゃないですか!
 分かってやってないかこの人!ほら、胸の感触が凄いもん!絶対押し付けてるでしょ!
 大きい胸が身体に当たって、より理性が削られる。服に彼女の涙が染みていくのが分かる。
 (心を無にするんだ……手を出しちゃダメだ…!)
 うろ覚えの般若心経が脳裏に木霊する。ありがとう、般若心経。
 オレは生まれて初めて神に感謝した。
 「……………………意気地なし」
 都合のいいことに、オレの耳は胸の中の彼女がぼそりと言った言葉を聞き逃してくれた。
 それからノナさんが完全に泣き止み、体を離すまでの数十分。
 地獄めいた天国を、オレは嫌ってくらいに味わった。




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 「わぁ、美味しい!同じコーヒーなのに!」
 「ふふっ、それは良かった。先程のお詫びに、なりましたか…?」
 リビングのソファーに腰かけて、コップに注がれたコーヒーを飲む。苦いのと甘いのが混ざった独特の味が、口中に広がっていく。
 その様子を見て、白いシャツを抱えて隣に立っていたノナさんが嬉しそうに顔を綻ばせる。
 「ごめんなさい。服、濡らしちゃいましたから」
 彼女が持っているのは、さっきまでオレが着ていた物だ。胸元からお腹の辺りまでぐっしょりと涙で濡れたので着替えさせてもらった。
 「でも、コーヒーを淹れるだけでいいんですか?もっと、したいことがあればしますよ…?」
 「これ以上は刺激が強いので!」
 あの後、申し訳がなかったらしく、ノナさんは服をダメにしたお詫びに何でもするなんて言い出した。
 色々と邪な願望が浮かんだが、それを頼むと罪悪感とかでもう一回死にそうなので、適当なことをお願いした。
 美味しいコーヒーが飲みたい。それを聞いたノナさんが淹れてくれたそれは、少し前に自分で作った物とは比べ物にならないくらい美味しい。
 「これくらいなら、言ってくれたらいつでもしてあげますよ…?」
 「じゃあ、もう十杯くらい欲しいです!」
 「それは……駄目です。眠れなくなりますから」
 ごもっともだ。まぁ、オレは彼女が留守にしている間にボトルを空けているわけで。
 (夜、寝れるかなぁ)
 おそらく無理だろう。ノナさんには言わないけど。
 「……………………ん」
 立っていた彼女が隣に座る。肩が触れるくらいに近い。
 一瞬、心臓が止まりそうになった。
 「悠乃くん、我慢していませんか…?」
 「え?いや、特に……っ」
 言い終わる前に、首に腕を回されて一気に彼女の方へ倒される。
 痛みも衝撃もない。あるのは、甘い匂いと温かい太ももの感触。
 横になった視界から、ノナさんに膝枕をしてもらっているのだと気付けた。
 「ノ、ノナさん…?」
 動悸が激しくなっているのが分かる。
 頬に伝わる彼女の温度に、顔にかかるさらさらした長髪に、頭を撫でる様に抑える手に、体温が上がっていく。
 見上げれば、黒衣に隠された大きな双丘と、優しそうに微笑む綺麗な顔が映った。
 「いっぱい、甘えてください。なにも気にする必要なんてなんですよ…?」
 熱っぽい息がかかる。たまらなくて身じろぎをしたら、近くで粘ついた水音が聞こえた気がした。
 幻聴だ。きっと、都合のいい妄想だろう。
 「………オレは、何も覚えてませんから」
 オレは、本当ならこの場に居てはならない人間なんだ。彼女にそんな風に優しくされるべき存在ではないんだ。
 襲ったとか、全然実感がなくって。死んだと思ったら生きてて、しかも目の前には綺麗な女の人がいて。
 「正直、どうすればいいか分からないです」
 オレを取り巻く世界は一瞬で変わった。
 ノナさんに拾われたことに不満なんてありはしないけど、戸惑いはある。
 このまま甘え続けるべきか?
 あるいは、彼女と離れるべきか?
 出会ってから今まで、散々迷ってきたが未だに答えは出ない。
 「……あ」
 温かい雫が数滴落ちてくる。
 最低だ。また、彼女を泣かせた。
 「ずっと…こうしていて、いいんです。…私は…貴方を……」
 仰向けになって手を伸ばす。
 目元に指を這わせれば、びくんと身体が震えた。
 「泣かないでくださいよ。ノナさんに出会えて、幸せですから」
 それは本心だ。こんなにも人に優しくしてもらったのは初めてだし、彼女と一緒にいると、心が温かくなる。
 ノナさんと一緒に過ごせる。それは、死んでもいいくらいに嬉しいことだ。
 むしろ、命一つじゃ足りないほどだろう。死ぬだけでこんな幸福が手に入っていいのかと時々思いさえする。
 これ以上は望めない。愛し合いたいとか、恋人になりたいとか、望んじゃいけない。
 オレは生き返らせてもらっただけ。ノナさんの善意に付け込むのは、違う。
 「悠乃くんは……ずっと、ここにいてくれますか…?」
 涙で濡れた不安そうな瞳に射貫かれて、喉の奥がきゅっとなる。
 どうしてそんなことを聞くのだろうか。
 仮に、彼女がオレを想ってくれているとして、オレは応えるべきだろうか。
 より深く彼女に触れる権利が、オレにあるだろうか。
 誤魔化すようにノナさんの頬を撫でる。
 何も答えることができなくて、彼女はずっと泣いてた。




■■■■■■■■■■■■




 「んー、まったく眠れない!」
 ベッドに横になること一時間。深夜、真っ暗な部屋にて。
 原因は間違いなく昼間に飲んだコーヒーだろう。目がギンギンに冴えている。
 「今日は早く寝たいのに……」
 暗い天井を見つめて独り言ちる。昼間の一件から、ノナさんの涙が止まることはなかった。夕食を食べても、お風呂に入っても、いつまでも泣いていた。
 なにがいけなかったのか、よく分からない。しかし、彼女にとってどうしようもなく辛いことだったらしい。
 陰りのある顔が悲しみで染まるのは嫌だ。どうせなら嬉し涙を流して欲しい。
 ノナさんにはたくさんお世話になった。
 温かい居場所をくれた。こうしてふかふかのベッドで眠れるのも彼女のおかげだ。
 毎日美味しい料理を食べられるのも、全部そうだ。
 「恩返し、したいなぁ……」
 今生きているのだってノナさんがいたから。
 瞼を閉じれば、いつでも彼女との日々を思い出せる。
 「最初の頃は、添い寝してもらってたっけ」
 現代で餓死する程度には劣悪な家庭環境で生きてきたからか、そもそもベッドで寝るというのに慣れなかった。その上寝たら寝たで数分後には悪夢で飛び起きる始末。
 だから、始めの頃はノナさんが側にいた。抱きしめられながら眠れば、朝まで安心して意識を手放せた。
 『大丈夫ですよ……ずっと、私が傍にいますから…』
 微睡んでいる間、頭を撫でながら毎晩そう言ってくれた。
 「今では一人でも眠れるけど……やっぱり寂しいね」
 呟く声に返答はない。久しぶりに、孤独感に襲われた。
 別々のベッドを使うようになったのは一週間ほど前。今から彼女の寝室へ行けば、隣に迎え入れてくれるかもしれない。
 とはいえ、いつまでも甘えてたらいけない。なんとなく、自立しなければいけない気がするのだ。
 「………寝よ」
 ノナさんと距離を取るとか、もっと近づくとか、考えていると憂鬱な気分になる。
 オレが全部覚えていれば、生き返った直後の交わっている記憶があれば、きっと気兼ねなく甘い関係になれたのに。
 などと考えながら眠ろうと頑張っていると、扉の開かれる音が聞こえた。ノナさんが部屋に入って来たのだろう。
 「……悠乃くん…起きてますか…?」
 涙声が響く。
 なんとなく返事をしたくなくて、狸寝入りを決め込む。たぶん気まずかったんだろう。
 「…………寝て、ますよね……ふ、ふふっ…❤」
 掠れながらも色っぽい声色で小さく笑っている。
 おっと?嫌な予感がしてきたぞ?
 足音は一切聞こえないが、彼女の気配が近づいてくるのを感じる。
 やがてベッドが軋んで、水滴と熱い吐息が身体の上に降って来た。
 目を閉じているから分からないが、おそらくノナさんは四つん這いになる形でオレの上にいるらしい。
 迷いがない。あれ?なんか手慣れてません?
 「…悠乃くんが、悪いんですよ…❤私のこと、好きなくせに……素っ気ない態度ばかり…❤」
 ぐちゅぐちゅと粘液をかき回す音と共に、首筋をくすぐる熱っぽい吐息がゆっくりと近づいて……
 「あー……んむ…」
 柔らかい唇が首に押し付けられ、強く吸い付かれる。
 耳のすぐ近くから喘ぎ声が聞こえ、背筋がぞわぞわして声が漏れそうになった。
 キスの快楽と、彼女がこんなことをしているという事実に頭が混乱する。
 「っ、はぁ……❤ふふっ、また…目立つ場所に着けちゃいました…❤」
 首筋。キス。
 脳裏に昼間見つけた赤い痣が過る。
 (あれ、キスマークか…!?)
 道理であの時は様子がおかしかったわけだ。納得…しかけたがよく考えると昨夜も似たような事をされたってことじゃないか!?
 「私の、悠乃くんです…❤虫刺されじゃなくて…私なりの、虫除け…ふ、ふふっ❤」
 その虫はおそらく人みたいなカタチをしているんだろうな。などと考えている場合ではない。
 彼女は熱に浮かされて完全に正気を失っている。発情しているとも言えるだろう。
 情欲に焦がれた魔物娘と、男。エスカレートすればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。
 意を決して瞼を開く。
 「……………あっ…」
 目の前に、すっかり発情したノナさんの顔があった。
 しばらく涙で潤んだ目と見つめ合っていたが、状況を理解したらしく、彼女の赤らんだ顔から血の気が引いていく。
 「…………起きて、ました…?」
 目を合わせたまま無言で頷く。
 ノナさんが上体を起こして、へたりとベッドの上に座り込んだ。
 「あ、あのー、ノナさん………」
 「ち、違うんです!これは、違うんですよ!」
 涙を零しながら、羞恥で顔を真っ赤にしてあたふたと先程までの行為を否定し始めた。
 「これはその……そう!アンデッドとして蘇った男性には魔力を捧げないといけないので!いや、普段は寝ているところに夜這いなんてしないんですけどねっ!今夜はなんとなく、なんとく!け、決して自慰で我慢できなくなったとかではありませんからねっ!」
 とんでもない爆弾発言を放ち、焦りながら言い訳を並べている……。
 暗闇だから分かりにくかったが、よく見ると彼女は洗濯に出したオレのシャツを着ていた。というか、オレのシャツ以外着ていない。
 「その恰好…どうしました?」
 「へ?…あっ!いや寝巻がなくって!でもこれいい匂いしますよね、悠乃くんに包まれているみたいで大変興奮するのでいつも愛用して……こほんっ!」
 シャツの前は全開にしているため、胸の谷間からへそ、更にはぽたぽたと粘液を零す割れ目まで丸見えだ。
 服の上からでも分るほどに乳首は立っていて、彼女が動く度にその大きな胸と共に揺れる。
 色香に狂わされて、頭が桃色に染まっていく。
 もっと泣くところが見たくなる。そのいじらしい姿が、もっと欲しくなる。
 「これ、キスマークだったんですね?」
 「は、初めてつけましたけどねっ!」
 「『私なりの虫除け』……」
 「うわあぁぁぁぁぁぁぁん!忘れてください!」
 泣き叫びながらシーツに顔を埋めた。普段の様子とはまた違う、全く余裕のないノナさん。
 庇護欲に似た性欲が沸き上がる。このまま、彼女と一つになれたら……
 「……なんで、ここまでするんですか?」
 理性がブレーキをかけた。
 我ながら女々しいと思うけど、このまま手を出すのは、なんだか違う気がして。
 「オレは、全然覚えてないんです。貴方と繋がったこととか、まるで実感がなくて…」
 彼女を見ることができなくて、顔を伏せる。
 「本当にノナさんとしたのか分からなくて、自信がないんです。オレは、隣にいていいのかなって」
 一緒になった確証があれば、すんなりと受け入れられた。彼女の初めてを奪った証明があれば、胸を張って抱くことができたかもしれない。
 オレがしたのは本当でも、オレには確かめる術がない。
 彼女が愛してくれたのが間違いなく自分だと、はっきりと言い切れない。
 「怖くて、不安で……オレは、貴方に触れていいん……んぅ!?」
 うつむいていたところにいきなり抱き着かれ、そのまま唇が重なる。
 突然のことだったためか、口内に侵入してくる舌を拒めず、くちゅくちゅと色っぽい音を立てて絡まっていく。
 彼女の舌が、口の上から下、歯の裏まで、余すところなく這いまわる。
 唾液を啜られ、引っ張られた舌を唇で挟まれ、弄ばれて。
 …………しばらくそうされて、満足したのかのように唇が離れた。
 それでも、背中に回された腕はそのまま。ちょっと頭を動かせばまたくっつくほどに近い距離。
 互いの心音が伝わるほどに密着した状態で、ノナさんがじぃっと見つめてくる。
 「まだ、足りませんか……?」
 ノナさんは泣き続けていた。
 キスしている間も、今も、止むことなく涙を流している。
 とても悲しいから、泣いている。
 「私は……悠乃くんが大好きです…!何かを忘れたとしても、貴方だけが好きなんです…!」
 それは、オレが求め続けていた言葉。
 欲しかった許しそのもの。
 「貴方が欲しかったから、こうしているんです!生きて、一緒にいて欲しいから……私は…!」
 言葉が紡げないほどに泣いて、執着するように肩に抱き着く。
 「こんな、にも…想ってるのに…!なんで……分からないんですか!」
 嗚咽混じりに吐き出されたのは、怒りと悲しみ。そして、どうしようもない愛慕。
 最初から手を取ればよかった。そうすれば、ノナさんはこんなに泣かなかったかな。
 なにも気にしなればよかった。そうすれば、もっとノナさんと幸せになれたのかな。
 「……ごめん、ノナさん。素直になれなくて、ごめんなさい」
 恐る恐る、震える彼女の身体を抱きしめる。
 腕の中のノナさんが愛おしくて、恋しくて、心が満たされていく。
 この温もりを知っていれば、こんなに時間がかかって拗れるはなかったのに。
 「……悪く思うなら……泣き止ませて、ください」
 肩から顔を離して、再び直視してくる。
 両の眼は何かを期待するように、色っぽく蕩けていた。
 「えーと…………」
 気の利いたやり方なんて知らない。
 それでも必死に考える。これは、オレたちの最初の一回だ。

 「ノナさんを、愛しています。どうか、死ぬまで一緒にいてくれませんか?」
 「…………はい」

 笑いながら、泣く。
 全然泣き止んでくれないじゃないか。
 幸福に満ちた表情で嬉しそうに涙を流していたから、そっと唇を重ねた。
 それでも、涙は止まらない。それどころか、より多く零れていく。
 結ばれた幸せに包まれて、ずっと。
 オレ達は泣いて、喜びを分かち合った。




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 「でも結局こういうことはするんですね…!」
 魔物娘と同じ寝室にいて、拒む理由がなくなったのならばやることは一つだ。
 ベッドの上に座って、豊かな胸でオレのモノを包み込むノナさんが妖艶に笑う。
 「ふ、ふふふっ…❤散々、おあずけされましたから❤……もう、我慢できません…❤」
 柔らかくてすべすべのおっぱいが上下するたびに、すっかり大きくなった愚物がびくびくと痙攣する。
 やばい、気持ちいい。気を抜けば射精してしまいそうだ。
 「ふぅ…もっと、気持ちよくなってください…❤」
 吐息が当たるだけで痺れるような快楽が走る。
 それを眺めて嬉しそうにする姿は、普段の大人の女性らしいノナさんとは全然違って、そのギャップに余計に興奮してしまう。
 「悠乃くんは、こうされるの…好きですよね?いつも胸ばっかり見てたの、知ってますから…❤」
 「顔も見てましたよっ、なんなら腰回りも見てましたっ!ノナさんは全部魅力的だから!」
 快感に涎を垂らしつつ告白する。
 脳髄が腐り落ちたみたいに、ろくな思考が残ってない。あるのは、目の前で奉仕する女性に対するどうしようもない愛情だけだ。
 「キスしたいとか、お尻を撫でたいとか、胸を揉めたらとかっ!そんなのばっか考えてました!」
 今日だって抱き着かれたときとか膝枕されたときとか我慢するのが大変だった。
 こうして胸で扱かれるなんて夢みたいだ。
 想像よりも柔らかくて、動きに合わせていやらしく変形する膨らみが性感を追い詰め、すっかり蕩けた憂い気な美貌が頭の中を犯していく。
 「あぁ、嬉しいです…❤こんなに、私で興奮してくれて❤……そろそろ、でそうですか?」
 余裕がないのを察して、更に動きを激しくされる。
 先走りで濡れた肉棒が谷間を通過する度に、ぱちゅぱちゅと卑猥な音を立てていく。
 「こうして、先っぽばっかりいじめられるが好き、ですよね…❤ふふっ、ふふふ…❤」
 全体を包むように動かされていた豊乳が、先端を重点的に責めはじめた。
 互い違いに胸が行き来し、より激しく水音が響く。
 亀頭を撫でられる刺激に思わず息が漏れた。
 上手い。まるでオレの身体を知り尽くしているみたいに、的確に弱点を追い詰められていく。
 「これすると、腰がガクガクして…すぐに、出ちゃいますよね❤……いつも、気持ちよさそうにしてますよね❤」
 「………いつも?」
 ノナさんの言葉に違和感を覚え聞き返す。
 「はい❤……昨晩もこうして弄ってあげると………あっ」
 快楽の雰囲気に流されて迂闊なことを口走ったらしく、答えている途中で「しまった」といった顔をした。
 射精直前の快楽が少し収まり、代わりにやんわりとした怒りが湧いてくる。
 「ノナさん、ノナさん。どういうことですか?」
 「……あの、今のは聞かなかったことに……」
 「ダメに決まってるでしょ!?」
 彼女の細い肩をしっかり掴んで押し倒す。
 「詳しく聞かせてもらいましょうか…!」
 逃げられないように両手首を抑えて拘束し、泣きそうなノナさんを見下ろす。
 先走り汁でぬめる両胸の頂点ははちきれそうに勃っていて、股は愛液で濡れていた。
 瞳に涙を溜め、怯えたように小さく震えている。いつもなら可哀想とか、もうやめようとか思うところだが、今回はそうはいかない。
 「ノナさん、貴方オレが寝ている間になにをしてたんですか…?」
 「な、なにもしてませ……ひぅっ!?」
 たわわに実った胸を揉みしだく。軽く力を込めただけで指が沈み、それに合わせてノナさんは嬌声を上げた。
 「嘘をつかないでください!襲ってますよね!?知らない間にやってますよね!?」
 「ひゃっ!だめっ❤むねっ、よわい、ひぃん❤」
 揉みながらぷっくりした乳頭を指先で転がすと、甘ったるい声と共に泣き出した。涙が出るほど気持ちいいらしい。
 「あっ❤…ひぃっ❤……だめ、だめっ❤」
 ころころころころ、円を描くように頂点を撫でてあげれば、断続的な喘ぎ声が。
 「やぁっ❤それっ、きもちいぃっ❤」
 かりかりかりかり、爪で優しく引っ掻いてあげれば、何度も身体が跳ねる。
 「だめ、だめだめだめっ❤ひぃぃっ❤」
 こりこりこりこり、つまんで捩じれば背中を反らして感じ入る。
 「正直に言ってくれないと、ずっと乳首弄りますよ。」
 「まって!かるくっ、イってますからぁっ❤…ちくびぃ、だめですからぁ❤」
 「イってないで何しでかしたか言ってくださいよ!」
 左の胸に唇を落として、散々弄んだ先端を舐めしゃぶる。
 唾液を絡めた舌で撫で上げ、吸い上げ、優しくつつく。
 「ひゃあああああぁぁぁっ❤」
 もう片方も忘れずに指でこすり続ければ、悩ましい悲鳴が木霊する。
 大粒の涙を流してびくんびくんと暴れ出しても止めない。むしろ、泣くほどに感じているノナさんの姿により一層興奮して、責め立てる舌が激しくなっていく。
 「いひぃっ❤い、いいますぅ❤ひゃんっ❤がまん、できなくてっ!ゆのくんがっ、ねてるのにぃ❤かってにっ❤こーび、してましたぁっ❤」
 案の定、ノナさんは寝ている間にオレを犯していたらしい。
 「オレ滅茶苦茶悩んでたんですけど…」
 「だってぇ、すきなんです❤……おなにーじゃあ、たりなかったんですぅ❤」
 発情しきっただらしない表情で、いつもの彼女からは想像できないはしたない言葉と声で。
 涙と涎でとろとろの彼女から目が離せない。
 嗜虐的な笑みが浮かぶ。もっといっぱい感じさせて、泣かせたい。
 「襲ったのは昨夜だけですか?」
 「……………………………………はい…」
 分かりやすく目が泳いだ。
 「ひぃぃぃぃぃぃぃん!?やっ❤うそですっ❤らめっ❤そこ、なでたらぁっ❤」
 際限なく粘液の溢れる蜜壺の入り口に手を這わせる。
 ぐちゅっぐちゅっ、まとわりつく愛液で指が滑り、往復すれば割れ目から粘ついた液がさらに零れた。
 「ひゃっ、ひゃっかい!ひゃっかいくらいぃ、ゆのくんとっ、せっくすしましたぁっ❤❤むぼうびな、ぁあんっ❤ゆのくんにむらむらしてぇ❤シちゃいましたぁっ❤」
 「百!?ってことは日に三回もやったんですか!?」
 「だって、だってっ❤起きなかったからぁっ❤…んぁああっ!?クリいじっちゃらめぇっ❤」
 すっかり勃起した淫核を愛液がたっぷりついた指で集中的に虐める。乳頭を舐めしゃぶるのも忘れない。
 「らめっ!らめぇぇぇぇぇぇっ❤ゆるひてっ❤それっ、おかしくなるからぁっ❤」
 髪を振り乱して悦楽に浸るノナさんが可愛くて、その敏感な豆をキュッと摘まむ。
 「あ、ぁぁぁっ❤ごめんなさいっ❤ねこみをおそうような…んぁっ❤えっちなおねえさんでごめんなさいぃっ❤」
 口では謝罪をするが、本人にその気は皆無みたいだ。その証拠に割れ目はひくひくと蠢き、身体を撫でれば撫でるだけ感度が上がってより感じていっている。
 「わたしっ、ぜんぜん、ひぃっ❤たえられませんでしたぁ❤そいねっ、きもちよくなって❤じぶんでっ、なぐさめられなくてぇ❤えっちしてましたぁ❤」
 完全に理性が腐敗したのだろう。過去の所業、もとい痴態を必死に叫んでより快楽を貪ろうとしている。
 「何時からそんなことしてたんですか!?ちょっとは我慢できてたでしょ!?」
 「あんっ❤ゆのくんがきた、そのひにっ!シちゃいましたぁっ❤きもちよくてぇ、ハマっちゃいましたぁっ❤」
 「一日ももたなかったんですか!?どうなってるんです!?とんだ変態じゃないですか!」
 怒ったような口調で責め立てて、同時に激しく性感帯を刺激すれば、赤みの差した肢体が面白いくらいに跳ねる。
 あんなにも優しくて、オレを甘やかしてくれたノナさんが、ただただ獣のように性の快感に溺れている。
 舌を突き出し、悦に涙を流して乱れる彼女に、物静かなお姉さん然とした面影は最早ない。
 「やめようって、おもっても…きゃぅっ❤ゆのくんをみたら、うずいちゃうんですぅっ❤がまんっ、むりっ❤ぜったいむりぃ❤…ひゃぁあんっ❤」
 陰りのある美貌を色香で染めて、あられもない姿を曝す。
 大好きなノナさんをこんなにも淫らな有り様にして、楽しんでいる自分がいることを自覚する。
 このノナさんを知っているのは自分だけ。ノナさんをこんなにできるのも自分だけ。その実感が、支配欲を満たす。
 「はぁっ❤…はぁっ❤……きてください❤……せつなくて、わたし、わたしぃっ❤」
 媚びへつらい、足を開いて挿入をねだる。
 絶え絶えの息とともに上下する肩と胸、立ち込める甘い香り、ぱくぱくと痙攣する膣口。
 眩暈さえする淫靡な光景に、生唾を飲み込む。
 「あなたの、すきにしてぇ❤…わたしをっ、あなただけのものにしてくださいぃ❤」
 理性の糸が、切れた。
 太ももを掴んで固定して。
 いきり勃った逸物をノナさんの膣内にぶち込む。
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ❤」
 一息に最奥まで突き挿れれば、膣壁が収縮し、精を搾り取ろうとうねりだす。
 挿入の快楽をこらえきれず、肉棒が脈打ち白濁液を吐き出した。
 「…………………………………………ぁは❤」
 ノナさんも、白目を剥きエビ反りになって絶頂している。
 空気を吸おうと必死に口を動かして、中出しされる快感に言葉にもならない喘ぎ声を漏らす。

 「…………あ」
 既視感を覚える。
 いつだったか、同じようなことをしたような……
 「…そっか。初めても、こんな感じだったんだ。」
 全部思い出した。蘇生直後のオレも、挿入と共に射精して、ノナさんもそれでイッたんだ。
 夢遊病みたいにふらふらと。知性も意識もろくにないまま、誘われるように入れて自分本位に満足して終わったんだ。
 それでも、ノナさんは感じていた。オナホみたいに扱われつつも、被虐の喜びに泣いていた。
 下手くそ。そんな雑にやったのか。過去の自分に、どうしようもなく失望する。
 ……今なら、もっと………

 「はぁっ❤…はぁっ❤……ぁん❤…………気持ち、よかった?」
 いつものお姉さんの顔に戻って、首の後ろに腕を回してくる。
 一回昇りつめて満たされたのだろう。
 「……気持ちいいです。ノナさんは満足しましたか?」
 「はい…❤…悠乃くんと一つになれて、幸せでした…❤」
 ノナさん的にはイチャイチャピロートークをしているつもりらしい。
 なるほど。細い腕を握ってシーツの上に置き直す。
 「とっても、良かったです…❤また、シましょうね…?」
 「……またはないです。今しましょう」
 膣内に入ったままの肉棒は射精してなお固い。溶けるような熱と、未だに蠢くヒダのせいで全く情欲が収まらない。
 足りない。まだまだ、ノナさんを貪りたい。
 「ゆ、悠乃くん…?私、イッたばかりで……ひゃぁぁあああああ!?」
 限界まで引き抜いて、一気に突き入れ子宮を打ち上げる。
 「ひぃ❤…いまっ、びんかんなんですぅ!そんなっ、はげしくされたらっ❤…んぁぁあああっ❤」
 泣いて懇願したって腰を動かすことは決してやめない。
 涙するほど気持ちよさそうにしているのに、ここで終わらせるなんてないだろう。
 「えーと…このへんかな?ここ、弱い?」
 「あぁぁぁっ!?よわいっ、よわいですぅ❤だからぁっ、やぁっ❤こしっ、とめてぇぇぇっ❤」
 身体が彼女の弱いところを知っている。寝ている内に散々犯されたからだろうか。
 複雑な気分だが役に立っているから良しとしよう。
 弱点を重点的に突き上げていくと、さらに膣の締め付けが強くなった。喜悦の涙も絶えず流れて、ほぼイキっぱなしになっている。
 「イってるぅ❤ずっとイってますぅっ❤だめぇぇ…❤あたまばかになりますぅぅ❤」
 もっとだ。もっと泣かせたい。もっと気持ちよくして、涙でぐちゃぐちゃにしたい。
 過去の自分より気持ちよくさせたい。淡白なはじめての記憶を、今の快楽で上書きしたい。
 これは、ようやく結ばれてはじめての交わりだ。
 だから、この一回だけは忘れられない最高の一回にしたい。
 手を繋いで逃がさないよう固定する。指と指が複雑に絡まって、手のひらいっぱいにノナさんを感じられた。
 「…………ノナ、愛してる」
 耳元で囁いた瞬間、一際大きくノナさんが跳ねた。
 下の口から愛液を噴き出して、喘ぐこともできずに果てたようだ。
 「ぁ…❤…あぁ❤……んっ…はぁっ❤」
 「…耳、そんなにいいんだ」
 耳に息を吹きかけたらまた跳ねた。
 ああ、オレは一番見つけてはならないモノを見つけてしまった。
 「………んあぁぁぁああぁぁぁあっ❤なめるのらめぇぇぇ❤」
 耳たぶを甘噛みして、穴に舌をねじ挿れたっぷりと舐めてあげる。
 「んちゅ……耳ぐちゅぐちゅされて感じるんだ。……可愛い。もっとよがって?」
 甘い悲鳴の中でも聞き逃さないよう、唇が当たるほど近くで囁く。
 「ひゃぅ❤……かわ、いい?…わらひっ、ぁあんっ❤かわいいれすかっ❤」
 呂律が回ってないけど、嬉しそうにぽろぽろ泣いて浅ましい声を響かせた。
 目元は下がって、いやらしく口は歪んでいく。オスに媚びるメスの顔だ。
 「可愛いよ。この世の誰よりも愛してる。ノナが、大好き。……だから、もっと泣けっ!」
 「いひぃぃぃぃぃいいい❤なかっ、ごりごりきもちぃぃいいっ❤」
 抽挿のペースを早めて激しくする。
 奥を突くタイミングで愛を呟けば、どうしようもなく下品にノナさん……ノナが悶えた。
 「ノナっ、ノナ!気持ちいい!?」
 「ひゃいぃぃ❤きもちいぃぃっ!ずこずこ、しゅきぃっ❤ゆのもっ、きもちいい?わらひっ、きもちいいですかぁ❤」
 引き抜けばヒダヒダがカリ首にひっかかり、挿れ込めば媚肉に全体を撫でまわされる。
 イキっぱなしの膣はきつくて包まれるだけでとてつもない快楽に襲われる。
 そして、なによりも……
 「最高だよ、ノナ!キミだから、一番気持ちいいよ!」
 なによりも、愛おしい人だから。繋がっているのがノナだから。
 ノナのあらゆる全てが、気持ちいい。
 「うれひぃ…❤わらひもっ、あなたをぉ❤あいしていますぅ…っ❤」
 どちらともなく口づけを交わす。
 貪り合って、より深く愛し合う。
 息が続く限りキスをして、息継ぎをしようと離れたら寂しくなって、また唇をくっつける。
 何度も何度もそうして高め合い、これ以上ない幸福感に包まれていく。
 「っ…!ごめん、オレもう……!」
 だが、どうしたって終わりは訪れるもので。
 精液がせり上がって来ているのが分かる。ここが限界だ。
 「だしてっ❤わたしのおくにぃっ❤いっぱい、そそいでぇっ…❤」
 握り合う手と手に力が入る。
 「きちゃう❤わらひもイッちゃうぅっ❤いっしょっ、いっしょにぃ❤」
 子宮口に突き立てた瞬間、白濁が堰を切って溢れ出した。
 二回目とは思えないほどの大量の精を最奥で放たれ、ノナが大きくのけぞる。
 「ひゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ❤❤❤」
 絶頂に押し上げられたノナが泣き叫び、放たれる精の快感に酔いしれる。
 肉襞は収縮を繰り返し、一滴残らず精液を搾り取ろうと蠢いた。
 「くぁ❤…ひぃっ❤……ぁ❤…だいすきぃ……❤❤」
 その言葉を最後にノナが気絶する。
 オレも疲れ果てて、意識が遠のいていく。
 こうして最愛の人と繋がったまま、オレ達は安らかな眠りに落ちていった。




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 お皿を一つ、コップも一つ、茶碗も一つ、箸も一つ。
 全部一つずつ。朝日に照らされたテーブルに並んだ食器を眺めて、頬が緩む。
 「あ〜ん❤」
 向かい側に座ったノナさんが小さく分けた目玉焼きを食べさせてくれる。
 まだ気恥ずかしいけど、こうされた方が美味しい気がするし、なによりも幸せだから享受する。
 「……んっ❤」
 お返しにコップに注がれたお茶を口に含んで、ノナさんに口移しで飲ませてあげる。
 彼女の甘い味がした。
 もう食器は一つずつでいい。いつまでも二人で使い回して食べさせ合うのだから。


 あれから完全にセーブが外れたノナさんとずっとイチャイチャしてる。
 ご飯はすべて食べさせっこ。家に帰ってきたらハグとキス。
 そして、夜には甘ったるい交わり。
 「膝枕、気持ちいいですか…?」
 ソファーの上のノナさんの足を借りて横になる。
 日に日にダメになっていく気もするけど、幸せなんだから仕方がない。
 「とってもいいです。落ち着く……」
 することがないときは常にスキンシップをするようになった。最早、彼女に触れていない時間のほうが短い。
 「コーヒーも淹れてきましたよ…。欲しくなったら、言ってくださいね…?」
 「わぁ…ノナさんのコーヒー、美味しくて好きです。」
 「ふふっ…じゃあ、もっと美味しくしますね…」
 言うや否や、マグカップに口をつける。
 飲ませてあげる、ということみたいだ。
 「んむ…❤……くちゅ❤」
 上体を起こして口づけをする。唇を舌でこじ開ければ、コーヒーが流れ込んできた。
 生温い。最初から口移しするつもりで作ったみたいだ。
 喉奥に流し込んでも、しばらくは互いの舌を絡ませ合い、コーヒーの味の口内を堪能する。確かに、いつもより美味しい。
 「…………あ❤」
 香ばしい苦みが消え、唾液の味に満足した頃、ようやく顔が離れていく。
 名残惜しそうに架かった唾液の橋の向かい側で、キスですっかり出来上がったノナさんと目が合った。
 「あぁ……幸せです…。悠乃くんと一緒にいられて……ぐすっ」
 睦み合っていたところで感極まったらしく、はらはらと泣き出してしまうノナさん。
 「もうっ。本当に涙もろいんですから。」
 嬉しそうな頬に手を添えて、伝う雫を指で掬う。
 「ぁ…❤」
 こうされるのが彼女のお気に入りみたいで、目元を這わせるたびに身悶えしてさらに涙を落とす。
 下からも色々溢れているのだろう。ノナさんが動けば浅ましい水音が聞こえた。
 「……泣いてるところも、可愛いですよ。」
 涙で濡れた指を舐める。しょっぱくて甘い、不思議な味が広がった。
 ノナの味だ。最も愛する人の味。
 「……あっ、悠乃くん❤……こんなにして…❤興奮、したんですか…?」
 下腹部に目を向けると、股間の辺りが張り詰めていた。
 いつの間にか勃起していたらしい。ノナさんの泣き顔を見るといつもこうなってしまう。
 どうやらオレは、彼女の泣いているところが最も好きで、最も欲情するみたいだ。
 「いいですよ…❤…もっと、なかせてください❤…あなた……❤」
 そんな風に誘われたら、我慢なんて出来るわけがない。
 強引に抱き寄せて、ノナを貪ることにした。


 死ぬまで、死んでも。
 オレは彼女を求めて、愛し続ける。
20/03/27 11:23更新 / めがめすそ

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