読切小説
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砂漠の番犬 〜使命〜
「熱い…熱すぎる…」
カンカンと燃え盛る太陽が俺を暑く照らしている。ここは砂漠のド真ん中。
その砂漠をシーフのような軽装備で歩く俺はバカなんだろうか。
そもそもなんでこんな所をこんな装備で歩いてるのかというと、ただの金欠さ。
依頼を受けてそれを遂行し報酬を貰うという仕事に就いている以上、依頼が来なければ金欠になるのは当たり前だ。
腕にはある程度自信はあるが他の便利屋やギルドの知名度が高すぎるためあまり依頼が来ない。
「ま、今回の依頼はかなり高額だ。成功すれば当分は安泰だな」
依頼主はかなりの金持ちの貴族だ。
権力を振りかざすような貴族は嫌いなのだが生活がかかっている。絶好のチャンスというしかねぇ。
汗にまみれた顔がニヤける。おおっといかん、そういうのは依頼をこなせてから考えるもんだ。
そんなことを考えているうちに今回の目的の遺跡が見えてくる。
俺は日光から逃げたいあまり走って遺跡に突入した。
「暗いな…」
遺跡の中は暗く、辺りを見渡すには明かりが必要な状態。
肩がけの収納しやすいバッグから魔力が原動力のランタンを取り出す。金はあまりないが俺には人脈がある。
その中に試作品のテストという名目で様々な魔法道具を提供してくれるやつがいるのだ。
ランタンを腰のベルトに括り付け、なるべく両手が空くようにする。こうしないと、もし何かがあった時に困るからな。
遺跡の中は意外に広く高く跳躍しても天井には頭をぶつけなさそうだ。
だが横幅が狭い。こんな通路で罠にあったらひとたまりも無いな。
明かりを頼りにどんどん地下に進んでいくといよいよ本番。
ーーー遺跡の醍醐味…罠だ。
明らかに不自然な線が床に刻まれてる。
「見え見えだな。…と見せかけて」
その線よりも奥のスペースに石を投げ、石が地面に落ちると床がバクンと開く。
線を怪しんで跨ごうとしたら落とし穴に落ちるという典型的なトラップだ。
古臭い手だがこのタイプの罠は応用が利くのは承知の上、まだまだ連続で仕掛けられているだろう。
そんな予感が的中し、後ろから槍が突き出してくる気配を感じる。
「おおっと!」
前方に跳び落とし穴を飛び越え着地、どうやら落とし穴が作動すると動く仕掛けのようだ。
さらに後ろの両サイドから巨大な刃が回転しながら押し寄せ、天井が少しずつ低くなっている。顔が冷や汗にまみれる……奥に逃げるしかない。
「うおああああぁぁぁぁぁ!」
迫り来る刃は予想以上に速く、声を上げながら走る。
前方に突然、壁が出現する。その不自然さからどうやらこの遺跡はカラクリではなく魔法で動いているらしいことがわかる。
「邪魔すんじゃねぇ!」
俺は腰のホルスターから二つの銃を取り出し前方に向ける。
コレも例の試作品だ。俺の魔力を弾丸に変換させ撃つという仕組みの二丁拳銃。その威力は込める魔力の量に比例する。
壁を貫通させるために大量の魔力を込めて引き金を引く。
すると、銃口に魔方陣が展開され魔力の塊を発射する。
巨大な弾丸は壁を貫通し人が通れる穴が開いて思わずよしっと小声で言う。
が、まだ油断してはならないと警戒する。
案の定、壁を壊して発生した煙の奥で光るものが押し寄せて来るのがわかる。
煙から出た光る物体は…回転する刃、後ろから追ってくるものと同タイプの物なのだが、状況が状況だ。
「後ろも前も手詰まり。天井は低くなっていて飛び越えることができねぇ…」
逃げ場が無い…一瞬だけその言葉が頭をよぎったが。
「まだ下があるんだよぉ!」
半ばヤケクソに叫び地面に向かって銃口を向け、弾を撃った。
老朽化しているせいか予想以上に穴が開きそこに身を隠す。
壁に刃がしまわれ、何とかやり過ごすことができたが天井はゆっくりと…だが確実に低くなっていく。
「チッ!」
舌打ちをしながら穴から出て次の通路へとスライディングの形で逃れることができた。
呼吸を整え、奥に進んでいく。



ここら辺は照明があって明るい。ランタンは消したほうがいいだろう。
しばらく進むと大広間のような部屋が見え、その入り口の脇に隠れ息を潜める。
……何かがいる。そんな気配を俺は感じた。
懐から試作品である小型のサーチャー(名前の通り周囲の生体反応を見る道具)を取り出し、辺りを調べる。
一匹…いや、一人と言うべきなのかサーチャーが探知した方を壁越しに確認すると人影が見えた。
これ以上はヤバイと思い身を潜めようとするが…
「そこにいるのはわかっている…。出てきたらどうだ」
とても澄んだ。だが冷たい声があたりに響き渡る。
その声は美しく、思わず従ってしまいそうになるが、そういう訳にもいかない。
まず声からしておそらく女だろう…女は声音からいって警戒している。
俺は戦う気など全く無い。だからまずそれを示さなければいけないだろう。
まず肩がけのバッグを放り投げ、二丁の拳銃もホルスターごとバッグに重なるように投げる。
さらに服や袖、靴に隠してあるそれぞれ形も大きさも違うナイフもそこに捨てる。7本にはなるだろうか。野外調理用のナイフも一応…捨てておく。
ランタンは……中に何か仕込んであるとか疑われるかもしれんからこれも外しておこう。
一通り身に着けているものを外し終えたら姿を現す。
「それで全部か?」
「ああ、なんだったら脱ごうか」
姿を現した俺を見るなり女は質問し、俺はもしものことの対策のために辺りを見渡し地形を頭に叩き込みながら答えた。
アンタは何者だ、そう訊こうと女の方を見る…すると喉から声が出なくなってしまった。
原因はその女の容姿だ。綺麗に整った顔、鋭い眼、褐色で美しく長い肢体。
そして流れるような黒い髪、体の各部である獣の手足や耳、尻尾はどれも彼女の美しさを際立たせるものだった。生唾を飲み、見とれながらも自分の知識を最大限に展開する。
砂漠の遺跡に棲み、その遺跡を守る守護者のような魔物…アヌビスだ。
「お前…何者だ?」
言おうとした台詞を言われ、我に帰る。
「ト、トオル。便利屋だ」
アヌビスは俺の返答に無表情で頷き、戦意が無いことを察してくれたのかいきなり襲うことも無かった。
「トオル…聞き慣れぬ響きだな。もしや東の方出身か?」
彼女の質問に頷くばかりだ。そしてやっと聞き返すことができた。
「えっと…アンタは何者だ?アヌビスなのはわかるんだが…」
「…私はルーシー・D・ベルドッグ。この遺跡を守護する者だ。お前はさっきの挙動から察するに争う気は無いようだが…狙いは何だ?」
アヌビスは遺跡を守護する者だから聞くのも当然だろうな。彼女…ルーシーは手に持っている杖を俺に突きつける。
「安心しろ、私は無益な殺生は好まん。お前に戦意が無いこともわかっている。だが、返答によってはお前を襲うことになる…ただそれだけだ」
ここで言う、襲うとはおそらく精を吸うことだろう。結果的に吸い尽くされ死ぬことになるのだがそんな死に方は男としてゴメンだ。彼女の鋭い眼光に射抜かれ少し身震いしたがすぐに平静を取り戻し正直に…
「お偉い貴族様直々の依頼でこの遺跡の調査に来た。ぶっちゃけると貴族で無駄に権力を振りかざすやつは嫌いだが、こっちも生活がかかってるんでな」
貴族の部分だけ精一杯の皮肉を込めて答える。
「依頼主はだれだ?」
彼女はさらに追及する。まあ隠す必要も無いだろ。
「ベルド卿とかいう小太りした感じの悪いおっさんだ」
俺の答えに彼女は合点がいったように頷く。何か心当たりでもあるのか?
「フム…随分と正直だな。ここに来た者たちは大抵、誤魔化そうとしたり私に襲い掛かろうとしたというのに、お前の声には一点の曇りもない」
どうやらあの耳は飾りではなく本当に聞こえるようだ。それに正直に話したのは、別に聞かれて困るような内容ではないし俺の経験上、こういうのは素直に従って答えたほうが良い。
「で、俺はアンタに襲われるのか?だったら抵抗させてもらうぜ」
今は丸腰だが身構える。だがルーシーは首を振り、
「いや、もう十分だ。お前が正直なのはよくわかった。信用に値してやろう。だから抵抗するフリもやめろ…見苦しい…」
呆れた様にため息をつく。どうやら観察力も相当の物らしいな。
彼女がつきつけた杖を戻すのを見てから身構えるフリをやめる。
「そうかい。信用してくれてサンキューな。じゃ、俺はこの辺でおさらばさせてもらうわぁ。」
ベルド卿について心当たりがあるのは気になるがこれ以上の深追いは危険だ。彼女の気が変わらないうちに俺は捨てた装備を拾い集め、この遺跡から出ることにした。依頼は…まあトラップに阻まれて進めませんでしたと言えば良い…依頼内容はあくまで遺跡の調査だ。
最深部まで行ってないから報酬は全部受け取れないだろうが、命には代えられない。
「待て」
そんな俺をルーシーは引き止めた。近づいてくると彼女の背は俺とあまり変わらないことに気づく。
「今日はここに泊まるといい。今の時間帯、この遺跡の近辺は昼から夕方にかけて大量の砂嵐が発生する。さらに夜は人を喰らう化物の餌場になる。どちらにせよお前に遺跡の中にいる以外に選択肢はない」
そんなに危ないのかよこの砂漠。泊めてくれることはありがたいのだがアヌビスはこの遺跡を守護する者だ。
俺の様な部外者を止めるからにはそれなりに理由があるだろう。考えを察してくれたのかルーシーは口を動かす。
「言ったであろう、お前を信用に値してやると。本来は脅迫してやっているがそれは趣味ではない。私はこの遺跡を守る立場にあるためここから出ることができないのでな。だからお前を泊める代わりに…」
「情報が欲しいってか?」
彼女の言葉から察し、会話を繋げると頷いてくれる。
「そうだ。基本的な知識は盗掘者などが持っていた書物を読んで知っているがそれでもやはり実体験した者の見聞のほうが参考になる。どうだ?」
彼女は最後に泊まる気はないかと聞いてきた。というか、泊まるしか道は無い。
ということで今日一日だけ、このアヌビスの住居とも言うべき遺跡に泊まる事になった。
「では、お前はこれから侵入者ではなく客人だ。客としてここにいる以上、私のルールに従ってもらうぞ」
そう言いながら彼女は手に持っている小さなノートに何かを書きながらぶつぶつと呟く。
俺が泊まることによって今日の予定の変更が必要だとか言っていたが何をどこまで書いているのかが気になるな。
書き終わったのか、フウっと息をつき満足そうな笑みを浮かべる。その微笑がなんとも艶かしく思えてしまう。
「まず、お前の今日のスケジュールだが現在午後の5時だ。今から1時間の間は自由行動。遺跡の罠の対象はお前を外すから奥に行かない限り好きにするといい。6時からはゆっくりと話し合いながら夕食を食すとしよう。そして大体7時を目安に私の娯楽に付き合ってもらう」
「待て待て待てぇ!?」
自分の行動を何から何まで決められることに抵抗を感じ彼女の言葉を止める。
それに何か問題でも?という顔で俺を見るルーシー。
「どうした?私の作ったスケジュールに不満があるのか?確か、東の国の言葉には郷に入っては郷に従えという言葉があるはずだが」
こいつ、よく知ってんなぁ〜。俺はため息をつき、彼女に続けろとアイコンタクトで伝える。もう諦めた方がよさそうだ。
「…8時からは基本的に自由時間だがその間に湯に入り体を清め、歯を磨くなどの就寝準備を最低限してもらう。そして9時には寝室に入ってもらうぞ」
ガキか俺は!?。9時に寝るってどこのお子様だよ。俺の不満気な顔をみて…
「ちなみに、コレを守れないのであれば罰を受けてもらうぞ。心することだな…フフ♪」
不適な笑みを見せ、どこか楽しそうにルーシーは話す。その仕草も心にグッとくるものがあったが煩悩を振り払う。
俺は完全に心が折れ、この時間に厳しい上司の様なお人に従うことにした。



最初の一時間はすぐに過ぎていった。時間を確認しさっきの大広間に戻ると芳しい香りが鼻をくすぐってきた。
「時間通りだな。もう夕食はできているぞ」
ルーシーが石でできたテーブルに料理を置いていた。だが俺の目にはそれよりも注目する物があった。彼女は…エプロンを着ていた。
なぜこの場に?どうせここに来た不届き物の所持品だったのだろう。
たかがエプロン、されどエプロン。しかも元々薄着であった彼女がそれを着ると…俗に言う裸エプロンのように見えるのだ。実際にはちゃんと着ているのだが俺の馬鹿な目は服の情報を読み取らず目の前のアヌビスの悩ましい体とエプロンしか映らないようにしていた。
「何をしている?早く来ないか。せっかくの客に振舞う料理が冷めてしまう」
俺の心情を知ってか知らずか。早く食べろと急かしてくる…やはりこの手の事には疎いようだ。自分が今どれだけ輝いているのか知らずに…。
っと、妄想はこれまでだ。さっさと石でできた椅子に座りうまそうな匂いの正体を確認する。
どこで仕入れたのであろう…精力のつく料理ばかりだ。
ふんだんに使われた胡麻がいい感じにアクセントを加えてある。
ルーシーは俺と向かい合うように座ると食事をとり始める。
「さて、私が外の情報で今一番に知りたいのはベルド卿とやらの人物の事だ。お前はその者のことをどれぐらい知っている?」
食事もそろそろ終わる頃に口を開いた。質問に答える前に彼女がなぜベルド卿について知りたがるのかを先に聞いておこうか。
「その前に、何でアンタがベルドを知っているのかが俺は気になるな」
気に食わない貴族の名前を呼び捨てにし、彼女に問う。
「そうだな。先に話しておこう。」
彼女は手に持っていた食器を置き、一息ついてから話す。
「この遺跡に侵入して来た者の多くはそのベルド卿とやらの依頼で来るのだ。恐らく、この遺跡の奥に眠っている秘宝を狙っているのだと思うのだがいつ痺れを切らして多勢で仕掛けてくるかもわからん。だから対策が打てるように情報が欲しいのだ」
なるほどな、だったら俺のほうに依頼が来たのも納得がいく。つまり金は幾らでもつぎ込んでいいから少しでもこの遺跡の情報が欲しいって事か。
遺跡の秘宝についてはこんな遺跡があるぐらいだからある程度予想していた。
「フーン。だったら俺を信用して正解だったかもな。」
口直しに腰の巾着袋からハーブのエキスが詰まった粒をつまむ。
「便利屋っつうのは互いの信用が大事だからなぁ。俺は相手が怪しいとわかったら少し探る主義なんだよ」
その言葉にルーシーの瞳が少しだけ明るくなったがすぐに暗くなる。
「何が……あったのだ?」
彼女の最も危惧する事。このまま隠しても何にもならないと思い、口を開く。
「たくさんの兵士が遠出をするように荷馬車に道具や食料をつぎ込んでた。そのほとんどが砂漠を渡るために使われる物だった」
俺の言葉に覚悟はしていたがいざ知ってしまった彼女の鋭い目には、様々な感情が入り混じっているのが見て取れる。
「そうか…近いうちに攻めてくるのだな」
顔を俯かせる彼女に言葉をかける事ができなかった。いままで彼女が遺跡を守れたのは、相手が少数で一人一人の力量もそれほど強くは無かったからだろう。
だが兵士は違う。多勢で攻めてくるし力量も彼女が相手をしてきた奴等と全然違う。
「慰めの言葉はいらん…いずれ狙われると思っていた。それにお前は所詮他人だ。私に気遣う道理も無いだろう」
こんな事を言うのは軍を相手に守りきれないと悟っているからだろう。
よく目を凝らすと少し涙を浮かべているような気がするが…それより。
俺は思わず噴きだしてしまった。
「な、何を笑っているのだ!!」
目の前の行動に驚きながらも怒りを露にする。いやだって…
「クク…いや、だってお前、その顔で口元に…ブッハッハッハッハ!」
「口元?」
笑いまくる俺を見ながら怪訝そうに口元に手を当てそして笑いの原因を彼女はつきとめた。
「なっ!?」
さっきの料理に入っていた胡麻の一粒(大きめ)が付いていたのだ。
「お前…意外とカワイイんだな」
そしてこの一言が引き金となったのか彼女は顔を耳まで真っ赤にさせ、
「き、貴様ぁ!!」
机に手を叩きつけ勢いよく立ち上がる。耳も尻尾もピンと立ちそれが彼女の美しさを可愛さに変換させる。
「その顔」
俺は笑い涙を浮かべながら、彼女に言う
「お前は、そっちの顔の方が似合ってると思うぞ。少なくとも…俺は悲しんでる表情なんて見たくねぇ」
いきなりの発言にルーシーは目を見開き、耳まで真っ赤だった顔がさらに赤く染まる。
「わ、私は怒っている方がいいということか…?」
こっちを睨み、恥ずかしさを紛らわすために質問する。
「そうは言ってねぇけど、やっぱ怒るとか笑うとかって、元気でいるって証拠だと思うんだよ。だから、相手が誰であれ…俺はそんな風にいて欲しいんだ」
自分の素直な心の内を明かす。そうすると彼女は怒るのをやめ、
「もういい。お前のせいで悩む気が失せた」
プイっと顔を横に向け食器を片付ける。その顔はまだ赤いままだが、指摘してしまうと何をしでかすかわからない。
だが、彼女が少しでも元気になってくれたことには心から安堵する。



「そういえばもう7時か…ではついて来い。私の娯楽に付き合ってもらう」
食器を片付けた彼女は別の部屋に行ってしまう。俺は彼女について行き部屋に入るとそこは小さな部屋。その中心にテーブルと向かい合うように椅子がある。
テーブルの上にはチェスボードがあった。
「あれをやるのか?」
俺の問いに頷き、ルーシーは心なしか楽しそうに、
「うむ、ルールは理解しているが相手がいなかったのでな。しばらく相手をしてもらうぞ。」
俺はルーシーと向かい合いチェスを開始する。
しばらく続ける…現在0勝4敗。俺の完敗であった。
「…お前はどうして便利屋になったのだ?」
駒を置きながらルーシーは不意にこっちをみて聞いてくる。
「どうしてそんなこと聞くんだよ?」
彼女の駒に対抗できるように駒を動かす。
「べ、別に…ただの興味本位だ。それほど深い意味はない」
駒を動かすがそこは予想していた場所だったのですぐに反撃する。
「そうだなぁ。昔は国を守る兵士だったもんさ」
「お前が…?。冗談を言うな」
笑いながら彼女は反撃する。しまった、さっきのは誘いだったか。
「冗談じゃねえさ。…でも守れないものがいろいろとあったんだよ。上の命令を聞くことばっかで表面的には国を守れても…実際には全然守ることができなかったんだ。」
俺の言葉を聞いていくうちに彼女の手は止まった。
「だから兵士をやめて便利屋になった。今はかなり楽しんでいるさ、周りのガキ共と一緒に遊んだりしているしな」
「お前は…自由なのだな」
羨望の、しかしどこか寂しい笑みを彼女は見せた。その内を察する事はできない。
「チェックメイト」
そして……1時間で5敗してしまった。


「もう8時か…ではお前は先に身を清めるために浴室に行け。私は後で入る」
チェスで一時間5敗という個人的最高記録を更新してしまい部屋の隅で泣いている俺にルーシーは言った。
ああ…二人で洗いっこはないんですね、わかります。
言われたとおりの道を進んで浴室に向かう。小さい頃は、よく幼馴染(女)と一緒に入ったもんさ。
遺跡になぜ浴室があるのかというとこの辺りには水脈があってそれを繋ぎ、魔法で湯にしたりして身を清めるらしい。
そんなに広くも無いが狭いわけではない。二人ぐらいならゆったりできるだろう。俺が服を脱ぐと無駄な脂肪や筋肉がついてない引き締まったバランスのいい体が露にn(やめとこ。野郎の脱衣シーンなど誰が望むものか)。
俺はまずシャワーを浴びる事にする。これは壁にある魔方陣から湯が出る仕組みだ。全く便利な世の中になったもんだ。
心地よい湯の流れる音を聞きながら異質な音に気づく。
何かの足音だ、だがこの遺跡にいるのは俺とルーシーしかいない。…まさか!?
「は、入らせてもらうぞ」
少し上擦った声で彼女は浴室に入ってきた。その一糸纏わぬ姿はまさに女神のようだった。
「な、なんだよ。お…俺の後に入る予定だったんじゃないのか?」
女性の裸体を見た事無い俺は心臓がバクバクと動くのを感じる。
そんな彼女は頬を赤くしながら二つの腕で上と下を隠しながら
「いや、その…確かにお前を信用してはいるが何をしでかすかわからん。だから監視が必要だと思い…その…」
だが尻尾はどちらかというとピコピコとかわいらしく動いてる。犬が尻尾を振るのって喜んだりしてるときだよな?。彼女は耐え切れないようにさっさと湯船に浸かるために浴槽に入る。
「おかしい…いままで数々の男を堕としてきたというのに…なんだこの胸の締め付けは…」
湯船に口まで浸かりぶくぶくと泡を吹いている。
胸の締め付けってなんだよ?。俺も女の前で全裸なので居心地は悪いがそんな感じはしない。シャワーをやめ、湯船に入ろうとする。
「も、もういいのか?」
「ああ、俺が浴びてから結構時間たってるからな」
しかし、風呂場の床というのは滑りやすいものだ。
ルーシーが立ち上がり俺と位置を変えようとする瞬間、俺はバランスを崩しツルンっと気持ちのいい音を発しながら転んでしまう。
だが床に鼻をぶつける事は無かった。だがそのかわり、ぱふっと擬音が聞こえてしまう錯覚を覚えるほどの柔らかい何かに顔をぶつけた。
何に当たったのかわからないまま見上げると目と鼻の先に彼女の顔があった。
一瞬だけ時が止まる。
何とか状況を理解し自分のものとは思えぬ速さで後退する。
「えあ!?えっと??その……スマン!!」
「………………」
だが彼女は無言…よほど怒っているのだろうか
「………ん…ハァ…」
いや、明らかに様子がおかしい。てっきり貴様ぁ!!とか言って怒ると思っていたのに。
今の彼女は艶かしくもじもじと動きまるで体が火照って抑えられないような。
ってちょっと待て、たしか前に読んだ図鑑の内容に、
{男から襲えばたちまちウルフ種の本能のままに交わりを求めるでしょう}
とか書いてあった気がする。そして俺が転んだ事によるこの状況。
完全に図鑑と一致してはいないか?
つまり…発情してる?
「男…ん………オトコ…」
彼女が飛びかかろうとするのが速いか、俺がとある物に手を伸ばすのが速いか、答えはわかりきっている。
発情しているせいなのか、甘い香りが辺りに充満する中、彼女に押し倒される。彼女は唾液を舌からダラダラと流しそれが顔に落ちる。そのまま…というわけにはいかない。
咄嗟に巴投げの要領で彼女を投げ、壁にぶつける。いやぶつける気は無かったが結果的に…だ。
そしてすぐさまさっき手を伸ばした物に触れる。壁の魔方陣だ。魔方陣が輝き、ザァーっと勢い良く水が噴出された。
しかも温度は思いっきり「冷」にして威力も最大にしてある。
「キャウン!?」
いきなり冷水をぶっかけられ子犬の様なかわいらしい悲鳴を上げ尻尾を立たせた。シャワーを止めると呆気にとられるルーシーを見た。
「…わ、私は…何を?…」
どうやら記憶がはっきりしてないらしい。
彼女の意識がはっきりしてから話した。風呂から上がりすでにお互いに服を着ている。
「そうか…それは迷惑をかけた。本当にすまない」
「まあ、過ぎた事だし別にいいけどよぉ」
正直あのまま抵抗しなかったらどうなっていただろうか。期待と不安が入り混じりながら俺は答える。
「しかし、長居しすぎたな。もうすでに9時前だ。歯を磨いて寝室に向かうぞ。」
切り替えが早いのかルーシーは早々と準備をして歯を磨いている。
俺も歯を磨く。こんなにきっちりした生活は何年ぶりだろうか。
一通り磨き終わった後、口をゆすぐ彼女を見ているとさっきの風呂のかわいい悲鳴を思い出しニヤニヤとしてしまう。
「どうした?私の顔に何かついているのか?」
「いや、お前のさっきの、キャウン!って悲鳴がかわいいなって思ってさ」
食事の時のようにまたもや頬を赤く染める。なにやらプルプルと震えているが…
「おい…?」
彼女はいきなり俺を蹴り飛ばす。元がウルフ種なだけにその脚力は凄まじいものだった。
「ゴフ!?」
吹っ飛ばされ、別の部屋まで直行。そして柔らかい物に背中から落下する。
ベッド…しかも二人が眠れる大きさだ。
「そこに直れ!!今まで我慢してきたが散々からかいおって!お前にアヌビスの恐ろしさを教えてやる!!」
ルーシーは俺がベッドの上で体勢を整える前に目にも止まらぬ速さで覆いかぶさりマウントポジションを取る。
「いや待て!?俺だってお前が落ち込んでたから元気にしてやろうと思って」
「問答無用!!」
抵抗する俺を無理やり抑え込んだルーシーが俺の胸の辺りに人差し指を置くとなにやら呪文のようなものを呟き始めた。
体に異変が起こる。なにやら体がむず痒くなり暴れて服が肌に擦れるだけで甘い刺激になっていき抵抗する気を失わせていく。
「マミーの呪いだ。コレを受けた者は肌に触られたときの感覚を全て快感に変えその快感を何倍にも増幅させる」
「うあ…ああぁ」
彼女が肌に触れるとその刺激は言葉にならない快感となり、脳を襲う。
「お前…9時から寝るんじゃ…無かったのかよ」
震えている口を動かし、途切れ途切れに言葉を吐く。
「たしかに私は9時から寝室に行くといったが寝ろとは言ってないぞ。こういうお楽しみは隠しておくものだと本に書いてあったのでな」
何の本だよ…?俺はまだ抵抗を試みるも彼女が抑え込んでいるため動けない。
しかも抵抗すればするほど服や彼女の体と擦りあってしまうのでますます体の力が抜けていく。
上気した顔で彼女は顔を近づける。生唾を飲み込み・・
「安心しろ。私は吸い尽くす気など無い。だが、ずっとお前のオスの匂いを嗅いでいるのでな…もう我慢の限界だ…」
「やめ…俺はそんなのゴメ!!?アーーーーーーーーーッ!!!」
俺は悲鳴を上げ、ただ彼女にされるがままだった。

「フフフフ……中々美味だったぞ♪」
楽しげに呟くご機嫌な声が聞こえた気がするが、今はそれより…眠い。
ドサッ…



「起きろ。何時まで寝ているつもりだ」
声が聞こえ、意識が覚醒する。が…ひどく体が重い。
「昨日の晩は長かったからな…フフ♪」
かなりご機嫌なルーシー。こっちはこんなにも体が重いというのになぜ彼女は平気なのか…鍛えてあるんだろうな。そっち方面に。
「さて、今は午前8時の辺りだ。すぐに朝食を済ませ砂嵐が多量に発生する昼になる前にこの遺跡から離れろ」
俺は自分のバッグの中に入っている朝食用の携帯食料を食べる事にする。
朝食が食べ終わり、身に着けている装備のメンテナンスを始める。
特に銃は試作品の中で一番デリケートなだけに定期的に見ておかないとすぐに調子が狂ってしまうのだ。
「悪いけど、トイレとか無いか?」
メンテも終わり、俺は彼女に聞く。
いわれた道の通りに進むとトイレに使われている部屋がある。
遺跡の中だからあまり期待しなかったが、どうやら定期的に掃除をしているようであまり汚くは無かった。
…ルーシーは近くにいない。
懐から小さな道具を取り出す。えっと、確かここを押すと…
「ヤッホー、トオル。ウチの試作品の数々はどうや?」
「バカ…声がでけぇ」
小さな道具から声が聞こえる。遠くの相手と会話する事ができる道具だ。
個性的なしゃべり方をする女…メルティ・プラム。
俺に数々の道具を試作品のテストとして提供してくれる発明家だ。…まあ頭脳は折り紙つきだが作るものがよく言えば個性的、悪く言えば非人道的な発明品を多く作るためちゃんと頼んでおかないとまともな物を作らないのが難点だ。
「まぁ挨拶はこれくらいにしといて。アンタがウチに連絡するんはあの情報が欲しいからやろ?」
「そんなトコだ…どんな感じだ」

………ついでに用を足してから便所を出る
「意外と長かったな。便秘か?」
俺が部屋に戻るとまるで家族のように彼女は言う。
「だめだぞ。毎日規則正しい生活をしてバランスのいい食事を摂らないと」
そこで彼女の言葉をやんわりと押し止める。
準備を始める。だがその準備は旅の準備ではなく、戦闘の準備だった。
「何をしている?。それでは今から戦地に赴くみたいではないか」
ああ、その通りだよ。
「率直に言うが今日、胸糞悪い貴族が集めた軍か来る。大体昼ごろに来るらしいから遺跡の罠もできるだけ張っておけ」
いきなりの言葉にルーシーは驚きを隠せない。
「な、何を言っているのだ!?昨日確かにお前は準備していると言ったが今日攻めてくるだと。一体なぜ知っている!?」
俺は一通り準備をし終えると冷静に答える。
「俺の仲間から、軍が動き出したって連絡があった。数は特定してはいないが遺跡を崩すには十分すぎる量って聞いたよ」
「そ、そんな…。だったら早く逃げろ!こんな所にいては巻き添えになってしまうぞ!」
俺の心配をしてくれてるのか…よほど親しくなってたんだな。けど、
「だったらお前はどうする?ここに一人で残って勝てない相手に挑み、そしてこの遺跡と一緒に朽ち果てるのか?」
「と、当然だ…。私はこの遺跡を守護する者。たとえ相手が誰であろうとここを死守する。だからおまえだけでも…」
「本気で言ってんのか…」
彼女の言葉を遮り低く、威圧する形で俺は口を動かす。
静かな怒りを間近で感じたルーシーは震える。その震えは俺の怒りによるものではなく、俺の言葉の意味を察したからだろう。だがそれでも言葉を続ける。
「お前、それでいいと思ってんのか…秘宝だかなんだか知らねぇけどそんなモンのためにお前は死ぬのか…?」
彼女の顔は、なぜ自分のためにここまで言ってくれるのかと思ってるように戸惑っている。
「嫌なんだよ。誰かが傷付いているのに自分は何もしないなんて。わかっているのに何もできないなんて…」
自分らしく無い感情をぶつける。昔の兵士だった頃…そこにいれば誰かを救える。そんな淡い希望を持った時を思い出す。
「だから俺もここに残る。一人じゃあできないこともあるけど、二人ならできることが増える。それに三人ならもっと増える」
「…三人?」
俺の言葉から時間が掛かりながらもルーシーは俺の言葉の矛盾を見つける。
そのとき、
「お〜〜い!!ウチが来てやったでぇ〜!!ウチがいれば百人力やぁ〜!」
うるさい声が響き渡る。いっつもいい所で来やがるんだ。
かわいらしいピンク色の髪をポニーテールにして結っている少女が元気よく飛び込んでくる。少女と言ってしまったが18歳だ。だがその慎重は150cmぐらいだろう。
「メルティ・プラム!ただいま見参や!」
えっへんと自信満々に自分の名前を高らかに叫ぶ。それは可愛いのだが着ている一枚のワンピースには不釣合いなほど様々な道具が取り付けられていた。
状況が飲み込めていないルーシーに俺が説明する。
「さっき仲間と連絡したって言っただろう。だからそのついでに役に立つだろうから呼んどいたんだ」
「そ、それはわかった。だがどうやってここまで来たのだ?砂漠を渡るにも大変だろうしこの遺跡の罠も作動させてあるぞ」
そんな質問にメルティはため息をつき、
「ウチの頭脳を甘く見んといてやぁ〜。あんな子供騙しみたいなカラクリ、チョチョイと動作の元を断って解体すればすぐに動かんくなるわ」
つまり俺が体験した罠を解体して止めたということだ。彼女の頭脳は並外れているがあの通路の天井まで止めたなら、身体能力も実はかなりのものなのか?
「ついでに改造もしといたで。これでこの遺跡はウチみたいに魔法道具の技術に精通し尚且つ度胸と身体能力があるやつしか入ってこられへん。ま、そんな都合のいい奴、ウチ以外にいるかは知らんがなぁ♪」
要は遺跡のことは気にせず外で迎え撃てって事だ。
「んで砂漠を渡って来れたのはその背中に背負ってるやつか」
メルティの背中にはなにやら回転するプロペラの装置がある。
「そや。ウチのトベ〜ルバード…コレがあれば砂漠の地形なんて関係ないんや。空を飛ぶのやからな」
ルーシーは外の文化が珍しいのか(まあ彼女の発明品は今の文化でも非常に珍しいが)マジマジと見ている。だが今の状況を忘れているわけでもなく、
「こんなことをしている場合ではない!いつ軍が来るのかもわからないのに」
「いや、昼頃って言っただろ」
「なぜわかる!?」
そこで彼女の出番だ。
「ウチのガンリキ4933(よく見え)が正確に居場所を探知しているからわかるんや」
メルティは地面に手を置くと円形の魔方陣が広がる。ちなみに4933とは、49=よく、33=三が重なる=三重(みえ)=見え。というこじ付けじみたネーミングだ。魔方陣の中心に大きな点がある。
「コレが現在地。この遺跡や、そしてこっから右…つまり東の方にあるこの小っこい点が集まってんのが敵や。ガンリキ4933は設置してある所とウチを中心にそこに何があるのかを探ってくれるんや」
どれぐらいにこの円形の地図が縮尺されているのかはわからないがまだ距離はある。準備だったらまだできるだろう。
「距離はまだありそうだな。では私は外に呪いを使った罠を張っておこう」
ルーシーは遺跡の外に行こうとし俺とすれ違い、一瞬だけ視線を向ける。その瞳は希望で満ちていた。
ありがとう…口にはしてくれなかったが彼女の目はそう語っていた。
部屋を出て外に向かったルーシーを手伝うために一緒に外に出ようとする所をメルティに服の裾を掴まれる。
「トオル。その試作品085を少し貸してもらえんか?」
何をする気かはわからないが悪いことはしないだろうと思い、腰のホルスターから銃を抜き彼女に手渡す。
「ありがとな。少しコレの調整と改造するんや。時間かかるけど敵が来るまでにはやっておくさかい。あとウチも忙しい身でなぁ、コレが終わったら帰るからウチがいなくてもキバレやぁ」
まさに神速とも言うべき作業の速度だった。何をしているのかまるで見えない。
俺はメルティの作業風景を見ながら待つことにした。



「遅い。何をしていた?」
外に出た俺をルーシーは睨む。
「メルティが銃の改造してくれたんだよ。何してくれたかわかんねぇけどな。それと、銃を改造し終わったら勝手に穴掘って帰って行ったよ」
あの穴を掘る道具…ミスタードリラーワタル君だっけ?また変な名前をつけたもんだ。まあアイツの事だから掘った穴にも色々仕掛けを施すだろう。
「気候が安定している。しばらくは砂嵐の心配も無いだろう」
隣の声を聞きながら辺りを見渡すと東の方で砂煙が見える。
恐らく敵であるベルドが集めた軍だろう。
だが混乱しているように見える、ルーシーが何かしたのか?
「私の呪いにまんまと引っ掛かった様だ。全員とは言わないがこれで一気に楽になるはずだ」
目を凝らすと兵たちが気絶しているのがわかる。マミーの呪いではないようだがもっと恐ろしい呪いなんだろうな。
逃れた敵が俺達を確認して向かってくる。遺跡に入る事よりまず邪魔者を排除しようと思ったんだろうが、甘いな。
銃をホルスターから抜き、射程範囲に入った奴から一人ずつ確実に弾を撃つ。
ルーシーは前線に立ち、杖を使った棒術と足技で確実に仕留めている。
「俺の弾は人体を貫かないからいいけど、殺すなよぉ!」
銃を撃ち的確に心臓に近い部分や頭に当てる。ただ当たって気絶だけで済むのはいいが彼女の攻撃は確実に人を殺す威力があった。
「なぜだ…こちらは殺されるかも知れないのに…ま、まあお前がどうしてもというのなら手加減してやらなくも無いが」
俺と背中合わせで陣形を組む。そんなツンデレイションは欲しくない。
「それに、まだまだ来るんだ。体力を温存しとけ」
相手も同じだろうがここは砂漠の真昼間、人間ならここで動くだけで体力がいつもの倍使われる。ルーシーは大丈夫だろうが俺がヤバイ。
「確かに一人一人にさっきの威力で戦うのは骨が折れる。ここはお前の言うとおり、気絶させる程度に力を抑えた方が良いな」
会話している間に囲まれる。誰も遺跡に入らなかったのは恐らくメルティの改造した罠を目の当たりにしたのだろう。
遺跡の入り口は、壁で塞がれていた。さらに周りには魔法障壁で固められていて遺跡を壊すことも中に入ることもできない。罠を張る以前に中に入れる気がないというアイツらしい造りだ。
「遺跡の方は心配無さそうだな。あのメルティとやらは徹底している。仮にあの魔法障壁を突破できてもまだ仕掛けがあるだろう。」
ルーシーは向かってきた敵を杖で殴りながら会話する。
「後はこいつ等を片付けるだけだが…それがまた難しいな」
一人ずつの倒ししていくが埒が明かない。太陽に照り付けられ体力は確実に奪われていく。
兵も半数になった所で相手は出方を伺うようになった。銃を使ってる分体力の消費はそこまで無いが魔力を放出しているだけにそっちの消費が激しい。
ルーシーも疲れの色を見せ始めた。
「ハァ…ハァ…このままでは…」
彼女は悔し混じりに息を吐く。遺跡の方はまだ大丈夫だが障壁が破壊されるのも時間の問題だろう。
そこで兵たちが後退し、その中で一番年齢の高い、40代ぐらいの男が出てきた。男はニヤリと口元を歪めている。気に食わない。
「このまま争っても埒が明きません。話し合いで解決するのはどうですか?」
この軍の隊長だろう…そいつは何やら下卑た笑いをしながら近づいてくる。先制を取ろうとするルーシーを抑える。
「あんた等は何でこの遺跡を狙う?」
ルーシーよりも先に聞く。今の彼女は守ることに夢中だから下手に喋らせると相手の気を悪くするかもしれない。相手が敵でも、できるだけ平和的に解決したい。
「別に汚い理由ではありませんよ。私たちはベルド卿に頼まれ、この遺跡の財宝を取りに来ただけですよ。そう…取りにね…」
男は妙に癇に障る声で言ってくる。見覚えがあるな…コイツは軍の中ではある程度有名だったはずだ…貴族と繋がりを持ち、その権力を使ってやりたい放題にやる嫌な奴としてだが。
「それよりもお嬢さん…非常に美しいですなぁ。その美しい肢体…アヌビスですか、珍しい…どれぐらいの値で売れますかねぇ〜。いっその事、私の愛玩具に…」
「だっ…」
「黙れ…」
男の下品な提案にルーシーが怒る前に前に出て、銃口を相手の顎に当てる。
つい[素]が出てしまったようだ。今の俺の動きは無音で音速のようにブレ、霧の様な動きだった。
「なっ!?」
俺の動きに驚愕し、後ずさる男。今までに無い一面を見て目を見開くルーシー。
…平和的に解決したかったが、駄目だ…こいつは腐ってる。
「弓兵!!撃て!」
男は焦りながら周りの兵に命令する。前方から大量の矢が飛んで来た。
「危ない!逃げろ!」
だが動かない。矢が迫り来る時にメルティから銃を改造してもらったときの台詞を思い出す。

「じゃあ、銃にちょと武器仕込んどいたさかい。もし危ないとか相手が多くて面倒だとか思ったらこれ使いん。アンタは…コッチの方が得意やろ?」

矢が全て砂に突き刺さり乾いた音を立てる。そのなか、俺とルーシーの周りにある矢は細切れになっていた。
銃をしまい、少し型破りな構えをとる。
手には何も持っていない。だが両手の指先から太陽の光が反射される。
「い、糸…?」
彼女は指先の光を反射している正体を見てその物の名前を口にした。
俺の指先一つ一つには、糸が付けられてあった。
「最近、銃ばっかだったからなぁ。コッチの腕が落ちてなきゃ良いけど…」
しゃがんで砂に指をめり込ませると、遠くにいる兵が悲鳴を上げた。
遠くからでは分からないがあそこには大量の糸が敵を襲っているだろう。
俺の魔力によって分裂し伸縮自在、硬度まで変えられ目標を切断、貫くことさえできる糸。メルティの手土産は何もかも、昔の物と同じだった。
「ったく…どんな考えがあってこんな物作ったのやら…」
殺傷力がありすぎるため適度なところでやめる。
「そんな馬鹿な!?」
今の攻撃に驚き、慌てふためく男、ルーシーは無言で俺の顔を見ている。立ち上がり、静かな怒りを持ちながら目の前の男に近づく。
「ひっ!!?」
男はへっぴり腰ながらも剣を振る。剣は縦に振られ、頭から斬られるはずだった。
だがその瞬間、剣が矢のように細切れになった。指先の糸が高速で動き、矢と同じように切断したのだ。
「さっきの動き、その武器はわが国の…朧月の、むぐ…」
「余計な詮索入れんなよ…」
何かを言いかけたがそのまま男を拘束する。硬度を変えられるため、相手には傷一つ付いていない。
「俺はな、あんた等みてぇに権力使って周りの奴らを蹴落とす奴が一番嫌いなんだよ。…あんたらの行いで一体どれだけの人間が不幸になった…」
男は目に涙を浮かべながらただ言葉を聞くのみだった。
威圧するように俺はさらに言う。
「この遺跡には一生近寄らないと誓うか?」
「ち、ちち…誓います!」
俺は拘束を解くと一目散に男は逃げ出した。兵たちも撤退の準備を始めている。止血すれば死ぬことは無いだろうな。
「………」
砂漠には無言の俺とルーシーだけが残った。



「随分世話になったな…」
メルティの罠は自動的に解除され、遺跡の中に入ったときにルーシーは口を開く。
「いいって…少し暴れすぎたしな…迷惑だったろ…」
「そんなことは無い、メルティとお前がいなかったら私は死んでいただろうからな。」
彼女に裏の部分を少し見せてしまったがそれに触れることは無かった。分かってくれているんだろうな。
「お前に見せたいものがある…ついて来い」
ルーシーがさらに奥に進む。そこは絶対に入るなと彼女に忠告された場所だ。
通路を歩く足音だけが響く。この奥に何があろうかは予想が付いた。
その奥は小さな部屋、そして小さな棺が静寂と共に中心に置かれていた。
彼女は無言で棺を開ける。引き止めようとしたがその中身を見たとき、なぜ俺に見せたのかが、少し分かった気がした。
「がっかりか…?」
ルーシーは自嘲した笑みを見せる。棺を開けたそこには秘宝という豪華な物は無く、ただ白骨化した死体が眠っているだけだった。
「何も無いのだ…この遺跡には。だが私はこの遺跡で生まれた。この遺跡を守ることが私の使命…ただそれだけで私はここを守ってきた」
棺の蓋を置き、骨を拾う。
「ここの主はもう数百年前に朽ち、財宝もすでに持っていかれていた。私は何も無い…何の意味も無い場所を守っていたのだ」
骨を手で砕き、彼女はさらに続ける。
「本当は外に出るのが怖かったのかも知れんな…。だから秘宝のある遺跡を守るという虚像にすがりついていただけなのかもしれん…だがお前を見て思ったのだ。こんなことに意味はあるのか、私はもっと自由に生きられるのではないか…自由な生き方をするお前を見てな…」
「自由なんかじゃねぇよ…俺なんて」
その言葉を否定するが、彼女は首を振る。
「いや、お前は自由だ。だから少し羨ましかった…だから、その自由をお前の近くで分けて欲しい」
彼女の言葉に首をかしげる。自由を分ける?
「わ、分からないのか…だ、だからその…」
顔を赤らめるルーシーの言葉を待っている。まだ意味が分からない。
「いや、その…あの…」
トマトのように顔が真っ赤だ…大丈夫か?
「お…お前を…私の婿にしてやると言っているのだ!!」
耳、シッポ共に勢い良く立ち、眼をきつく閉じながら俺に言葉をぶつけてきた。
「……………はぁ?」
ルーシーのおかしな言い回しに思わず声が出た。自由を分けて欲しいから俺を婿にしてやる?文脈的におかしいと思うが…。
「お前に会ってから胸の奥が締め付けられ苦しいのだ、心のどこかで離れたくないと言っている。だから…」
素直な彼女の言葉を聞き、とても愛しく思ってしまう。
「俺なんかで…いいのか…?」
「お前なんかでも良いとかそんなのではない。お前じゃないといけないのだ…」
ルーシーは俺の背中に手を回し抱きついてきた。まるで大好きな人に甘える子犬の様だ。気が付くと、彼女の背中に腕を回している。
「あっ……」
そして、彼女の告白に応えるために唇を近づける。
一瞬の交わり、それだけでお互いの気持ちを確かめ合うには十分だった。



「ここがお前の家か…」
…一人暮らしの普通の家…だが一人で住むには広すぎたため、良く仲間を呼んでパーティとかをしている。そんな家だ。
俺の住む、城が中心にある城下町…マインデルタ。
活気に驚きながらも彼女は俺の家に来た。アヌビスは気に入った異性を自分の住処に連れて行くというが彼女は遺跡を出たがっていた。
だから遺跡を出て、俺の家に住むことのなったのだ。
その頃はもう夜だった。
「では、早速夜の営みを始めよう。夫を癒し、支え、交わるのは妻の務めだからな」
少しおかしい気がするがまあいいだろ。彼女は俺の袖を引っ張り、まるでこの家の構造を知っているかのように歩き出す。
「お前の匂いが一番するのはこの部屋だな」
案の定、そこは自室。どうやら匂いで分かったらしい…なんとも鼻の利く事で。
一人で寝るには大きめのベッドに彼女は座り、隣に座るように催促する。
「本当は身を清めてからの方がいいが…もう我慢できない」
彼女の隣に座るといきなり押し倒された。またもやマウントポジションを取られてしまったのだ。俺は受けに回るような性癖は持っていないが彼女には逆らえない。
「今宵は結ばれた記念だ…お互いの気が済むまでするぞ」
こうして、朝までこの夜の行いが続いた。別に俺はすぐに気が済んだのだが彼女がその何倍も激しかったのだ。

「そういえば…お互いを名前で呼んだことが無かったな…」
「ん?そうだっけか…」
寄り添う形でベッドで寝ていた時にふと、ルーシーが言った。
その後の言葉は分かり切っている…
「愛してるよ…ルーシー」
「私もだ…トオル」
俺達は幸せになるのかは知らない…だけど今は充分に幸せだった。



「トオル!!今日は6時までには帰ってくると言ったではないか!?」
「だから仕事が長引いてってやめろ!?その呪いは勘弁してくれ!!」
「問答無用!」
「アーーーーーーーーーッ!!!」
そんなこんなで家は恐妻家になり、今もその関係が崩れない。
ま、最近夜は俺が責めになれることが分かったから楽しみなんだけどな。


〜fin〜
09/11/15 23:09更新 / zeno

■作者メッセージ
どうも、zenoで〜す。
このメッセージは(これからの作品も)あとがきを先に見る派のために作品自体の内容解説は無しにしています。読んで下さった皆様、こんな長ったらしい文章を読んでいただきありがとうございました。微エロなんてこのサイトに相応しいものではないかもしれませんがこれが自分の精一杯です。これからもグダグダな文章でよければがんばって書きますのでよろしくお願いします。
最後に出てきたトオルの住む町はいろんな物語の舞台になっていくのでまだまだ同じ町でも登場人物が増えていきます。ネタが尽きないようにがんばります。

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