読切小説
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ありふれた早朝の物語
「おきろーっ!」

こう叫ぶやいなや、いきなり俺の布団を引っペがしてきた!


………だが、起きない!俺はまだ起きるわけにはいかないのだ!

理由は主に三つ。
一つは、先日飲まされた分身薬(8人用!)の影響で、体の負担が抜けきっていないというものである。
(え、それ使って何してたのかって?…ハハハ、ここは図鑑世界だぜ)
もう一つの理由は、今日の夕方に黒ミサが開催されることだ。
黒ミサは結構体力を使うんで、今のうちに英気を養っておかなければいけない。
最後の一つ。これが一番重要なんd


「もう7時だぞー!しっかりしろー!」

ハイ、スミマセン。起きます。




「もーおにぃちゃんてば、相変わらずだらしないんだから」
「あー、いつもごめんな」
結局俺はこうして起床。朝食に備えて身支度を整えている。
サバトに入ったばかりの頃は今以上にグータラな俺だったが、世話好きの魔女…ドンナに色々注意されているうちに愛着でも湧かれたのか、あるとき突然お兄ちゃん認定されてしまった。情けねぇ。

「……かっこいい時はかっこいいのに」

訂正。実はいつだったか、こいつがサバトの勧誘している最中に、乱暴な奴に出くわしたこいつを助けたことがある。
たまたま通りかかってた俺だが、目の前で幼女が乱暴されかかってたのを見て、気付いたら体が勝手に動いていた。
丁度その日に黒ミサがあったが、まさかその日にあったばかりの男を連れてきて、あまつさえ皆の前で
「私のおにぃちゃんは、この人です!」
なんて叫ぶとは誰が予想できるもんだか。
(ちなみに当然このあと無茶苦茶セックスした)

「どう?おいしい?」
朝食は既にドンナが作ってくれていたようで、食卓の上にはパンとスープ、ベーコンエッグが並んでいた。
現在二人で食事中。いやー、相変わらずドンナの料理は旨いわ。卵の焼き加減、いい感じに半熟なもんで食った時にとろりと広がる黄身の食感とまろやかな味わい、薄いくせに外はカリカリ中はしっとりに焼き上げられたベーコンとのハーモニーが…
「うん、相変わらず最高……」
「よかったー……、じゃあ、早く食べちゃおうねぇ……///」
……おんやぁ?朝食を食べているだけなのに、頭がぼーっとしてきやがった。ドンナの方も同じらしく、顔に朱色が差し、声も色っぽくなってる。
そう、コイツの朝食は極上なのだ。味だけならな。問題は……

ほとんど毎朝、朝食に媚薬を入れてくる。

早起きしたくない三つ目の理由。これがあるから、朝目を覚ましたあとにちょっとベッドの中で休憩する俺は悪くねぇと思いたいのだ。
てか、健全な男子なら普通は朝勃ちしているものだろーが。それを咥えるでも何でもすりゃあいいのに、何故にわざわざ朝食まで待つかな。
ま、大方自作の媚薬の実験台にでもされているんだろーがな。

しかし今日の俺は一味違う!


「折角だけど、今日は遠慮させてもらうよ」
「なん……だと……!?」

そう、ドンナの方こそ自作の媚薬の効果により完全に欲情状態、熱でもあるかのように上気した顔からはぁはぁと白い息を吐き続けているが、なんと俺はちょっと頭がぼーっとしている程度で済んでいる!
いつもなら俺の方もエレクトが限界に達している頃合で、むしろ俺の方から襲いかかることが毎朝の習慣となっているだけに、俺だけがほとんど正気を保っていることは初めてだ。
「おいおい、お前毎回同じ種類の媚薬使ってるだろ?」
「ちがうもん!いつもだけど今までとはびみょーに変えてるもん!」
そりゃあ実験台なんだから、少しずつ変えるのは当然だな。
でもまあ、いくら何でも同じような種類の薬を毎回使われてたら、対策の一つくらいは考えつくからして。
「でも今回はそんなに派手には変えてないし、効かないわけ……、………まさか」
やっと気付いたかドンナめ。

「ついさっきお前の部屋から解毒剤を拝借しておいた」
「いや、媚薬は毒じゃないよ……というか勝手にもってかないでー!」

いつの間にかドンナも驚きとツッコミに夢中になって、媚薬の効果が薄れていたのだが……本人は気付かなかった模様。
ドンナは可愛いなぁ。



「うー、おにぃちゃんにハメられるなんて……一生のふかく!」
食事が終わったあとも悔しさが抜けていないらしく、壁に向かってジャブを叩き込んでいる。
てか微妙にやらしい言い方だな、魔物娘だから仕方ないとして。
「お兄ちゃんとしては、そう何度も妹の手のひらの上で踊らされるのはプライドが許さなくてね」
「そんなプライドすてちゃえばいいのに……」
今度はうつむいて人差し指同士をくっつけてる。漫画かいな。

「……ねえ、おにぃちゃん」
「何だね妹よ」
ドンナが俺の方に歩き出してくる。まずい。この構えはまずい。覚悟を決めなくては。
俺に密着するかしないかのところまで距離を詰めたあと、ドンナは両手を伸ばし……


「わたしとのエッチ……あきちゃったの?」
「ぐふっ!」


伸ばした両手を俺の腰に回し、上目遣いで訴えてくる!しかも涙目!
涙目+上目遣い=目がキラキラ。まるで少女漫画のような情景。漫画なら、甘える少女の周りに丸とか星とかのエフェクトがかかるところ。
ちなみに本人曰く、その気になれば魔法でこーいうエフェクトを出しながら甘えることもできるらしい。
流石にあざとすぎると分かっているのか、実際にやられたことはあまりないが。
「い、いやいや!飽きるはずないじゃないか!」
「じゃあどうして……」

甘え上手なドンナであるが、ここは兄として優しく諭してあげる……いや、こちらの都合を理解してもらわなくては。
まずはしゃがんで相手と目線を合わせる。片手で抱きしめ、もう片方の手で頭を撫でてやる。
「あぅ……」
ドンナはなでなでが大好きだ。だからこうしてやるとあっさり落ち着いてくれる。
顔は再び赤くなってるけどな。
「激しいエッチも、新しい媚薬も、今夜の黒ミサのためにとっておいてくれないか?」
「あ……」
お、顔つきが変わった。分かってくれたか。
ドンナ達魔女にとって、黒ミサは楽しいお祭り。だからこの時に思いっきり羽目を外すことが、結構な優先順位となっている。
これは、当の魔女たるドンナがよく知っている。
おまけに、俺はインキュバスになってまだ日が浅い。今ヤっても黒ミサでヤれないことはないが、本調子じゃなくなることは確かだ。情けない話だけど。
「そ、その……ごめんね」
ぐっは!またもや目キラキラ攻撃かよ!
でもまあ、今回は本人の反省の表れだからいいか。
「ありがとな」
なでなでを続けつつ、一応俺にも非が無くはないんで、謝っておく。
「ごめんな。もうちょっと力が付いたら、一日中楽しもうな……」
「ぅん……」



「じゃあ黒ミサまで何しようか?」
「うーん、じゃあまかいも畑の手入れでもするか!」
「うんっ!」


長い夜を楽しみにしつつ、今日も俺たちの一日が始まる。
14/06/26 21:10更新 / 灸CARVE

■作者メッセージ
初めまして、灸CARVEと申します。
まだまだ物書きには慣れてれておりませんが、よろしくお願いします。

関係ないですが、
まかいも畑の肥料にネバリタケを使うと里芋っぽくなる気がします。

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