読切小説
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あくまでもがんばれ
 白いユリが象徴するものは、純潔という。僕の恋人たるユリは、白とは程遠いような青い肌と髪をセーラー服で飾り付けているが、性格も純潔とは程遠いようである。夜闇に吊られた赤い月のような瞳の色は、背徳的かつ官能的魅力を胸に刺してくる。それもそのはず、ユリは魔物娘なのだ。
 僕がユリに交際を申し込んだとき、彼女は「私はデビルなのよン」と言った。そしてなぜか得意げに「私と付き合ったら、君、ダメになっちゃうかも」とぺったんこな胸を張った。
 ユリと付き合い始めた当初は友人から「ロリコン」だの「物好き」だの色々言われたけれど、ここの高校に通う魔物娘はユリに負けず劣らず超個性的な面々ばかりで、今では友人たちだって十二分に「物好き」な交際をしているようだ。まあ、それにしたってユリは変わった女の子だと思うし、そんな彼女に惚れた僕自身「物好き」だと苦笑してしまうことも少なからずある。
 そして僕は今まさに、その少なからずある苦笑で頬をぐにゃぐにゃとやっているのだった。いつもだったら、放課後のチャイムがなって数十秒と待たず、僕のところへ飛んできて「帰りましょう」と柔らかい身体を絡みつかせてくるのだが。
 ――体育倉庫にて……♥
 いつ仕込んだのか、制服のポケットから出てきたごく小さいメモには、その大きさに見合って短く記してあった。ユリのニヤニヤとしたあの顔を思い浮かべながら、僕は渡り廊下を――できるだけ時間をかけて、だ――歩いて行った。また、なにか突拍子もないことを思いついたらしいな。
 期待していないと言えば嘘になる。僕は健全な思春期の男児で、恋人のユリがメモにハートマークを書いているのは、つまりそういうことなのだ。
 帰宅する生徒、部活へ向かう運動部員たち、慌ただしく走る抜ける生徒会委員――それらを視界に入れたり追い出したり。じっくり時間をかけたつもりだが、あっという間に体育倉庫へと到着した。
 ドアの前で何回か深呼吸して、ともすれば前のめりな気持ちを抑えようと躍起になった。このことは、いつもユリに笑われている。「結局はすること、同じなのにねー」なんつって。
 爪が伸びていないかとか口臭は大丈夫かとか、今更、確認する。そしてまあ、結局はよく分からないまま、前のめりなままドアを開けて、素早く中へ入ると後ろ手に閉めるのだった。隙間から微かに明かりが入るだけで薄暗く、慣れない目にユリの姿はまだ捉えられない。
「ユリ、僕だ。居るか」
「せっかくの秘密の逢引、色気のない挨拶じゃないかしらン」
「どう言えば、良かったかな」
「ううん、色気のないアナタが好き」
 ぴょんと胸元に飛び込んできた声を受け止める、ようやく薄明かりがユリの青い肌を僕の目まで運んできた。そして、どちらから示し合わせるでもなく口づけを数回交わす、それからようやく自分の抱いているユリの肩が埃っぽい空気に露出していることに気がついた。丸みのある肩、やはり青い――思わず撫でるとユリは軽い嬌声をあげた。
「いやん♥」
「綺麗だな……?」
「ふふん」僕の腕の中で彼女は笑った。「まずは結界をはってくださる?」
「わかってるよ」僕は彼女を離すと、さっきのメモをドアに押し付けた。手を離しても、メモはひらりとも落ちず――結界ははられた。この紙が離れずにいる間は、体育倉庫に何人たりとも侵入は許されない。悪魔が魔術を使うのは常識、とはユリの談だが、未だに僕には不思議な力だ。
「さて、と……」改めて、ユリのほうへ向き直る。
「じゃじゃーん! どう?」
 ユリは両手に持ったポンポンをゆさゆさとやり、得意気に言った。どことなく薄い感じのする生地が彼女の幼い体躯を包み、プリーツスカートがひらひらと肉付きの良い脚の上に振れている。胸元にはパンチの効いたデザインのロゴ、緩やかに下って見るとちらちら青いお腹が見えている。チアガールのユニフォームをどっかから拝借してきたらしいな。
「また変なことを思いついたね」
「あらン、好きなくせに♥」
 彼女はどこからか冊子を取り出した。僕が自室へこっそり隠していたチアガールコスチュームのグラビア写真集だった。無言で手を出すと、彼女はすかさず写真集を引っ込めた。
「と、取りやがったな」
「人聞きの悪い、参考にしただけよ」ユリはそう言うと、写真集を隅へやるついで、ポンポンを手放した。
「チアガールコスの女の子とえっちしたいんでしょう?」
「人聞きの悪い……」
「ほらぁ、こうやってY字に広げた脚とか見て興奮してたんでしょ♥」
 ユリは太腿の辺りに手を添えて、脚を持ち上げた。なにも訓練を積んでいないだけあってその動作はぎこちなく、太腿の先で膝は曲げられたままだった。そのあんまりな光景に吹き出しそうになるが、僕は真逆に唾を嚥下してしまった――舞台幕のように開いたスカートの中に彼女はなにも穿いていなかったのだから。その青い肉間で微かに赤みを帯びた性器は、ユリ自身の指によって形を変えさせられ、じんわりと染み出した愛液によって粘っこい水音を立てた。
 僕は傍に置かれたマットの上へユリを押し倒すと、唇を重ね、彼女の口内に舌を走らせた。
「ちゅっ、んっ……ふ♥ もう、いけない人♥」
「あんなひどいY字バランスがあるか……あくまでコスプレだな」
「悪魔でコスプレなの」
「つまらない」僕が笑うと、今度はユリから唇を重ねてきた。
「なんでも、我慢しなくていいの。着せたいものがあったら言って、したいことがあったら言って? お願い……願いを叶えるのが悪魔だから♥」
「そして、破滅するわけか」
「昔はね♥」
 ユリはまた唇を寄せて、舌を絡ませた。魔物娘だけあって、セックスの技巧は彼女のほうが一枚も二枚も上手だ。啜り合うようなキスをしているうちに、いつの間にか僕のほうがマットを背に寝ていた。彼女は子どものような手指で、僕のワイシャツのボタンをぷちぷちと外した。そしてベルトをガチャリと解いて、チャックを開け――手際の良さに見入っていると、僕はすでに裸にひん剥かれている。隙間から漏れる明かりへ埃が光り、降り積もる先は屹立したペニスの先だろうか。すでに我慢汁が鈴口の先端へ溜まり始めていた。
「んん……もっと焦らそうと思ったんだけどぉ、もうしちゃうね♥」
 ユリは早口に言うと、両手を僕の胸について、濡れそぼった自らの性器へペニスをずぶずぶと突き立てた。彼女の膣内は狭く、しかし弾力があり柔らかく、キュウキュウと隙間なく包み込んできた。
「あっ♥ ……♥ んひっ、ひっ♥」
 飢え、乾いた人が食べ物と水とを口に詰めるようだった――ユリは悪魔的な笑みを快楽とぐしゃぐしゃに混ぜながら、くねくねと下半身を動かした。今までに幾度も身体を重ねてきたが、ユリは騎乗位が一番お気に入りらしい。しかし、この体勢は新鮮だった。いつものセックスはお互いに真っ裸ですることが多かったから。ユリの肩やお腹、太腿など露出は多いのに、胸や股間――結合部はチアガールのユニフォームにすっかり隠されているのだった。
「くっ、くくくっ♥ あはははっ、あはっ♥ だっらしない顔! ねえ、アナタ……鏡で見せてあげたいわ♥」
「あっ、う……そう、じゃないだろ」
「ん? なぁによ、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれない……♥」
「……チアガールは……応援するもんだろ」
「え……ぷっ! あっははははは♥ そうよね、そう、チアガールは応援しなきゃね♥ ほらっ、頑張って射精して♥ んっ、ほらぁ♥ もう少しだよー♥」
「く、あぁっ……!」
 射精を告げるように腰を浮かしても、ユリは動きを止めなかった。爆ぜるような射精だった。プリーツスカートの内の内で、ビュルビュルと精を吐いていた。背骨を一周してきた感覚が尿道でずるずると引っぱり出されるような、そんな感覚。内側と外側から押し付けられるような快楽の波は、途切れながら続いた。
「まだ出てる……♥ ほらっ、がんばれ♥ がんばれ♥」
 射精を応援されると、恥ずかしいような苛立つような、奇妙な感覚が喉の奥でひりついた。ようやく、長い射精が止んだけれど、ペニスは膣に収まったまま硬度を失わないでいた。
「どうだった、応援されながら射精する気分は? うふふっ、すっごく気持ちよさそうだったよ♥」
 ユリは体勢を変えないまま、僕の顔を覗き込みつつ言った。
「んっ……♥ でもさ、かーなーり、情けなかったよ♥」
 ユリの向ける嗜虐的な笑みは、背中まで回りこんでゾクリとした。
「最近、あーゆーの流行りみたいだけどさぁ、超変態っぽかったね♥」
「……ごめん」僕が小さく呟くと、ユリはそっと僕の髪を撫でてくれた。
「アナタはアナタのしたいことを、私にさせていいのよ♥ もっといじめてほしい? それとも甘やかしてほしかったのかな……♥」
 僕は身体を起こして、ユリをぎゅっと抱きしめた。ペニスが彼女の中でちょっと擦れた。
「僕も、ユリのしたいこと、したいと思ってる」
「嬉しい……♥」
 どちらからでもなく唇を啄み合い、その輪郭をなぞり、また舌を絡めて、思い出したように腰を揺すった。
「んっ♥ んっ、チアガール、似合う……?」
「似合う、似合うよ」
「よかった……♥」
 絡まり合って、今度は僕がユリの上へ覆いかぶさった。ユニフォームの下から手を滑らせ、彼女の平たい胸を指先で愛撫した。ぷにぷにとした手触りの中に一部分、より弾力のあるボタンを見つけると、すかさず転がす。結合部を覆うプリーツスカートにじわっと染みができる。
「ああっ♥ いい、いいよぉ♥ 好きぃ♥」
「僕もだ、ユリ……好きだっ、ユリ……!」
「キスしてぇ♥ ちゅーして♥」
 返事を省いて、背を少し屈めて唇に吸い付く。胸を撫ぜていた両手を彼女の背と後頭部に回して、より深く、深く繋がるように抱きしめた。二度目の絶頂はもうじき、くる。
 埃っぽい体育倉庫には水音と互いの吐息だけが滴っている。
「んちゅ……ひゃ……♥ もうダメ、きちゃう♥ くるぅ♥」
「僕も、出る……」
「一緒っ、一緒がいい♥ 一緒にイきたいよ♥」
 言うなりユリは強く強く抱きしめてきた。僕のペニスは彼女の体内の最奥へ押し込まれ、まるで互いの全てが絵の具を混ぜるように一緒になった錯覚に陥る。
 黄と青で何色だろう? そんな馬鹿げたことが一瞬間だけよぎった、僕とユリは絶頂し、そして転げ落ちるように熱く長いため息をついた。

 ――――

「ん、結界がとれてるな」
 身繕いを済ませて、僕はドアの傍へ落ちていたメモを拾った。
「誰か来たらヤバかったね」
 ユリはいたずらっぽく笑ったけれど、僕はまた苦笑いするしかなかった。
「ま、そんときはそんとき! さ、帰りましょう?」
 そう言って、ユリは僕の腕に柔らかい身体を密着させてきた。その表情になんとなくくすぐったい気持ちになって、僕はわしゃわしゃと彼女の髪を乱してみた。
「わっ、と……なに、どうしたの?」
「いや、やっぱり制服もいいな」
「あ、家帰ってから制服でする?」
「ああ、いいよ」
 その悪魔的な笑みに、僕はまた苦笑いを返す他なかった。そして、ユリが小脇に抱えている紙袋に目をやって、お願いしてみた。
「またさ、チアガールやってくれよ」
「もちろん!」
「ただ、悪魔が応援はガラじゃないかなぁ」
「昔は?」
「そういうことにしとこっか」
 ユリは凹凸のない胸を張って、笑った。
15/07/21 08:43更新 / ニノウデ

■作者メッセージ
いかんせんパパパッと書いたので、ずいぶんあっさりしたSSになりました、お久しぶりです。あっさりした割に、自分の嗜好が色濃く出たと思います。ちょっと言葉責めしてくれる感じのデビちゃんはかわいいですね。あとデビちゃんたちはチアガールコスが似合いそうですね。

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