ハート 〜銀狼物語〜 

※作中に残酷描写、暴力描写があります。
 苦手な方はブラウザの「戻る」でも押してください。

















狼の唸り声が私を囲む。
銀色の瞳が2光1対で私を見つめる。
マスケット銃で撃ち抜かれた私の両足からは止めどなく血が流れて水溜りを作る。
赤と黒の血が混じりあって綺麗。
きっと私はこの子達に食べてもらえるから。
その中の1匹が私に近づいて私の血に染まった太ももをぺろりと嘗める。
ぞくりとした快感。
ぬるりとした感触。
ずきりと痛みが混じって。
他の子たちが一斉に私に近づいてくる。
震える唇で。
奮える恍惚の中。
私は呟く様に言った。

――ありがとう





ハート





「お母さん!全部剥けたよ!」
「偉いわね。一人でくるみが剥けるようになったのね」
「むぅ〜。ずっと前から剥けるもん」
「半分くらい潰しちゃってたけどね」
「…でも剥けてたもん」
「ふふ。でもこれでパンもクッキーも作れるわ。ありがと」
「味見は任せてね!」
「ふふ。味見だけはずっと前から一人でできたものね」

幸せな時間。
私のお気に入りの時間。
こんな風に雪が降り始めるようなシンとした空気。
もうすぐお父さんが帰ってくるね。ってお母さんと話しながら二人で料理するの。
料理が出来上がるころになると肩に雪を乗せたお父さんが帰ってくる。
「ただいま」
って言ってコートを脱ぐと一番最初に私のところに来て頭を撫でてくれる。
お父さんの大きくて優しい手。
外の寒さで冷たくなった手が気持ちいい。
3人でご飯を食べるとお母さんと二人でお片付け。
終わったらお父さんがまた私の頭を撫でて、
「今日もお手伝いして、ソフィアは偉いな」
と言ってくれる。
今度は暖かな手で。
そして3人で一緒に眠るの。
外は雪が降ってるのにここはとても温かで。
私が幸せの中にいるって。
そう思えるの。

…でも、あの日だけは少し違ってた。


「お父さん遅いわねぇ」
「だねぇ〜。ソフィアお腹すいたぁ〜」
「そうねぇ…」

私たちはとうとうお父さんを待たずにご飯を食べてしまった。
それでもお父さんは帰ってこなくて。
お母さんは私を先に寝かせるとランプをもって外に探しに行った。
次の日の朝は、一人だった。
私は雪の降り止んだ真っ白な森へ二人を捜しに行く。
真っ白な雪におひさまが跳ねかえって、目が痛くなるほど眩しい。
私は一歩一歩お母さんの作ってくれたかんじきで雪を踏みしめながらお母さんとお父さんの名前を呼び続ける。

「きゃあ!」

雪を踏み外して転ぶ。
いつもなら暖かい手を伸ばしてお母さんが引き揚げてくれるのに。
襟元から少し雪が入っておなかのあたりで溶けていく。
雪が溶けていくと私の目から涙があふれた。

「ぐす…お母さぁん。お父さぁん!」

私の声を消し去る真っ白な空。
真っ白な木々。

私はとうとう二人を見つけられないまま町まで来てしまった。
すると肉屋のおじさんが泣いている私に声をかけてくれた。
二人のことを話すとおじさんはすぐに街の男の人たちを連れてお父さんとお母さんを探しに行ってくれた。
私はお巡りさんのおうちでおまわりのおじいさんとずっとおしゃべりしてた。
おじいさんはいっぱい慰めてくれたけど、それでも涙は止まってくれなくて。

夕方になると男の人たちが返ってきた音で目を覚ました。
瞼を上げようとすると目が酷く傷んだ。

「……二人は神に捧げられた」

ぽつりとおじさんが言った。

狼の神様がお父さんとお母さんを食べちゃった。


この町では狼は神様だから、狼に食べられた人は神様の下で永遠に幸せになれるんだっておじいさんが教えてくれた。
そして、離れた町に私を引き取ってくれる親せきがいるというので、私はそこに行くことになった。
私はちっとも嬉しくなかった。
私はただ、二人を返してくれれば、それでよかった。







「またこんなところで居眠りしてやがったのか!働かねぇのならうちには置いてやんねぇって言ってるだろうが!」

――ガン!

喧しい声と一緒に頬に痛みが走った。

「ごめんなさい」

私はそれだけ言うと機を織る作業を再開した。


もう何日も何も食べてない。
お母さんが褒めてくれたブロンドの髪は枯草のようになって、引っ張るとぽろぽろと抜けていく。
目の前が霞んで背もたれのない椅子から転げ落ちそうになる。
それでもご主人様は休ませてくれない。
お父さんとお母さんのことを思い出す度に溢れるほど流れていた涙は、今ではどんなに目に力を込めても1滴も出なくなっていた。
泣ければきっともっと楽になるのに。
空腹と胸の痛みの区別がつかなくなってどれくらい経つんだろう。
もう、私の胸はずっと痛いままだ。


今日は10日ぶりに水以外に黒パンがもらえた。
かじると奥歯が抜け落ちてしまったけど、それでもとてもとてもおいしかった。


織れた布を抱えて表のご主人様のところに持っていく。
通りには私と同じくらいの年の子がきれいな服を着て、可愛く笑いながらおしゃべりしてた。
私は、ご主人様にいただいた服と同じくらいぼろぼろの身体をしていた。
笑おうとしても、笑い方、忘れちゃった。


私がご主人様のところにきて今日で3年になる。
もう、私の身体はいくらご主人様に鞭で叩かれても何も痛くなくなっていた。
ただ、胸だけが、いつまでもいつまでも痛くて…。


ご主人様のお店が大きくなったおかげで、ここには私と同じような子が何人もいる。
おかげでご飯が毎日1回もらえるようになった。
私が食べようとすると、私よりもずっと小さな子が自分の分を食べ終えて、じっと私の方を見ていた。
私は何も言わないまま半分のパンをちぎってその子にあげた。

「ありがとう!」

その子はおいしそうに1口で食べてしまった。
私はその子の笑顔でおなかいっぱいになった。
だから、それから毎日その子にパンを半分あげることにした。


それから3年がたったある日、ご主人様が私の襟元を掴んで私を持ち上げた。
枯れ木のような私の身体はご主人様の岩のような腕に持ち上げられてプランと持ちあがる。

「またお前の織った布が返品されたぞ!これで何度目だと思ってやがるんだぁ!」

左のほっぺを殴られて、私は頭から石の床に転がった。
あ、血が出てる。

「てめぇ!なんとか言ったらどうなんだ!」

今度は顔をけられて鼻血が出た。
涙が出ない私だけど、ちゃんと血は流せるんだ…。

「待ってくださいご主人様!お姉ちゃんはもう働けないくらいフラフラなんです!」

何人かの子がご主人様に言い寄ってる。
あの子もいた。
うれしいな。私なんかのために…。馬鹿だな。
その子たちがみんな殴られているのを私は黙って見てた。
ご主人様は余ほど頭に血が上ったんだろう。
耳まで真っ赤にして何を言っているかもわからないような大声で怒鳴った。
その怒りが私一人に向いたのは幸いだった。


ご主人様に折られた脚はみんなが添え木を当ててくれて、機織りをする分には問題ないくらいに体は動いた。
でも、3日前からご主人様の様子がおかしい。
私に酷いことをちっともしなくなった。
私はそれがとても不気味に思えて仕方なかった。


それから5日がたった。

「ソフィア。今までご苦労だったな。今日はご褒美をやろう」

ご主人様が気味の悪い笑顔で私を呼び出した。
私は折れた脚で素直についていく。

――クイ

「ん?」

あの子が私の服の裾を引っ張っていた。

「大丈夫よ。ありがと。あなたは優しいのね」

ちゃんと、笑えてたかな?



ご主人様は私を一人倉庫に連れてくると、稲束の上に掛けられた麻布の上に私を突き飛ばした。
ご主人様が醜い顔をゆがめて笑う。

「使えねぇゴミのくせに、身体だけは大人びてやがるな」

ニヤニヤと笑う顔に私は吐き気がした。



どれくらい時間がたったんだろう。
私は股から流れる血が黒く乾いたころには意識を取り戻していた。
ここはどこだろう?
真っ暗で、乾草のにおいがする。
時折、ガタガタとゆれるのを感じる。

それからしばらく眠ると、私は頬を叩いて起こされた。

「外に出ろ」

ご主人様に言われて馬車を降りた。

「すまねぇが、一応お前は親族なんでな、殺したとばれると色々とまずいんだ」

ご主人様が言い終えるか終えないかのうちに轟音がして、私は前のめりに倒れた。
じくじくとした痛みを右の太ももから感じ、暖かいのが広がっていく。
ずっと感じることのなかった胸以外の痛み。
その時はじめてご主人様が長い銃を持っているのに気がついた。
ああ、私撃たれたんだ。

そのあともう一本の脚も同じように撃たれると、ご主人様は私の髪を掴んで、ずるずると私の身体を引きずって行った。
森の中に入ると、私はあるにおいに気がついた。
埃っぽいような湿っぽいような匂い。
もうすぐ雪が降るんだ…。
私の足から流れ続ける血が2本の線を描いていく。
大きな木の根元につくと、ご主人様は私を頬り出して、解放してくれた。

「お前はこれから使いの途中で狼に食われて死ぬことになる。なぁに、ちゃんと狼どもが嗅ぎつける様に血のにおいをたっぷりとさせてるからな。じきにお迎えが来てくれるさ。神様に感謝するんだな。あと、ほらよ。これまでの給料だ」

ご主人様はそう言って私の足元に3オーズの銅貨を投げ捨てた。
確か神様の世界の門をくぐるための入場料だ。

「化けて出るなよ、呪うなよ。恨むんだったら時代を恨め。こうでもしないと俺たちは食っていけねぇんだ」

そう背中でいうと、ご主人様は大きな肩を揺らしながら私の描いた血の道を歩いて帰った。
私はあの人にも情はあるんだなと、ぼやけていく頭で思った。












――ありがとう

私は私の脚をむさぼる狼たちに言った。
お父さんとお母さんもこうやって食べられて神様のところへ行ったのかな?
ブチりブチンと音がして私の太もものお肉が千切れていく。
真っ白で綺麗な顔を私の血で染めて、この子達は私のお肉を食べてくれる。
ずっと感じていた痛みと焼けるような熱さが身体から消えていく。
ずっとずっと私を苦しめていた胸の痛みが消えていく。

――スリスリ

私は私の身体をまたいで左腕を食べている子の頭を撫でた。

――おいしい? よかった…

白くなっていく景色。
白い結晶が黒い空から降ってきた。
そして最後に私は彼女を見つけた。

真っ白で、綺麗な女の子。
私を見て驚いたような顔をしていた。


































あれ?
なんだろう…。
頬が暖かい。
滑らかで、少しざらざらした感触。
神様が撫でてくれてるの?

私は重たい瞼を開いた。

「……あなたが、神様?」

声が酷くしわがれている。

「っ!?」

――バッ

私の頬を撫でていたのは真っ白なかわいい女の子だった。
ううん。正しくは撫でていたんじゃなくて、ぺろぺろと舐めてくれていた。

「まだ生きていたの…」

鈴が鳴るようなかわいらしい声。

「わたし…狼に食べられて…死んだんだよ?」

私の喉から絞られたような声が出る。

「…大した生命力ね」

そう言いながら女の子は私の方にとことこと戻ってきた。

「大丈夫…。もう少し眠りなさい」

そう言ってふさふさとした銀色の毛が生えた腕で私の頭を撫でくれる。
私は暖かくて、気持ち良くて、深い眠りに落ちて行った。




薬草のにおいがする。
お母さんがよく私が怪我をすると薬草の汁を塗って治してくれた。

おひさまのにおいがする。
身体が暖かくて…。
お父さんとお母さんに抱きしめられて眠る。
おひさまのにおいで目を覚まして、
「お父さん、お仕事遅れるよ」
って起こしてあげるの。
早くお父さんを起こしてあげなきゃ…。




「………」

私を抱きしめてくれるふさふさとした小さな手の感触。
目の前でお人形みたいな可愛い女の子が私を抱きしめて眠っている。
女の子がとっても暖かい。
銀色の髪に顔を近づけて くん とにおいを嗅ぐ。
おひさまのにおいがした。
左手はしびれてしまったのか、動かせない。
右手をもぞもぞと取り出して女の子の小さな頭をなでる。
ピクピクと女の子の頭に着いた狼の耳が動く。
とっても可愛い。
この子が神様なのかな?

「うみゅ…あれ?…」

女の子が大きな目を半分だけ開けて、眠そうに私の顔を見る。

「おはよう。神様」

そして、もう一度頭を撫でる。

「ふみゅ〜…」

神様が気持ちよさそうに目を細める。

「…もう、身体、大丈夫なの?」

よかった。神様撫でられるの嫌いじゃないみたい。

「うん。こうやって、神様の処に来れたもの」

私が静かに答える。
大きな毛布の中はお互い裸なんだってわかる。
神様のすべすべの肌。ふさふさの毛。気持ちいい。

「…あなた、勘違いしてるわ」

神様が言った。

「勘違い?」

そう答えながらも、神様を撫で撫で…。

「うみゅ…。うん。勘違い。 私、神様じゃないよ」
「? じゃあ、天使様?」
「私はレーシィよ」
「レーシィ?神様の名前?」
「私の名前。それにここは森にある私たちのねぐらの中。天国じゃないわ」
「へぇ…」

よくわからない。
あんなに狼たちに体食べられて、生きてる訳ないもの。

「私があの子たちに食べられてたあなたを助けてあげたの」
「…どうして?」
「…わからないわ。でも、あの子たちに優しく語りかけてたあなたを見てたら、食べちゃだめだって思ったの」
「ふ〜ん。…あなたって残酷なことするのね」
「え!?」

私の答えに驚いたのか、女の子は口をポカンと開けて、細めていた大きな目を目いっぱい見開いて私を見た。

「私たちはお前を助けてやったのよ!? なんでそんな言い方するのよ!」
「もう少しで神様のところに行けたの。神様のところでお母さんとお父さんに会えたの。でも、死んでないんだったら、神様のところに行けないわ」
「…………」

女の子は呆れてしまったのか、返す言葉が見つからないのか、しばらく口をパクパクすると、黙り込んでしまった。

「でも、私を助けてくれたんでしょ? ありがと」
「………」

私が言っても答えを返してくれない。
しばらくそのままで女の子の髪を撫で続けていた。
私の頭は何も考えようとしない。
ずっと前から私の頭はそういう風になってたの。
考えれば考えるほど痛くなるから。
ずっと同じことをして、言われたことにだけ答えていればそれ以上痛くはならないから。
私はとっくに壊れていたのかもしれない。

「………わからない」
「ん?」
「お前がわからない。お前の目を見てても何もわからない!」
「?」
「私は目を見ればそいつの考えていることがわかる。特にバカな人間は。 でも、お前が何を考えているのかわからない」
「ん〜。何も考えてないよ」
「……」

それでも女の子は私の顔をじっと見ていた。
そして、しばらくすると悩み始めた。

「わからない!」

突然女の子が毛布を引き剥がして立ち上がった。
女の子の身体は太ももから真っ白な毛がふさふさと生えていて、お尻からはもふもふした大きな尻尾が生えていた。
腕も真っ白な毛が生えていて、掌はピンクの肉級が付いてる。

「かわいい」

あ、少し照れた。

「お前!いったい何なんだ!本当に人間なのか!?」
「そうだよ」
「わからない!」

そう言って両手を大きく広げて感情を示すと、女の子は私に毛布をきれいに掛けなおして、洞窟から出て行った。
その時始めて気がついた。
ここは洞窟で、結構広い。
そして、私と女の子以外にあの時私を食べてた狼たちがゴロゴロと丸くなって寝ていた。

あと、私は両足を太ももの途中から、左腕を肘の上から失くしていた。



女の子が出ていってしばらくたった。
脚と左手がないととっても不便。
でも、どっちも女の子がやってくれたのか、薬草を塗って、きれいに布で巻いてくれてあった。
相変わらず、痛みは感じない。
失くしたことへの悲しさも。

私の空っぽの心はこういう時にとても便利。



私が狼の一人の横に寝そべって、その大きな身体を撫でていると、女の子が飛ぶように帰ってきた。
手には血が滴る大きな鹿が握られていた。

「みんな!ご飯を獲ってきたわ!」

女の子が大きな声で言うと、それまでゴロゴロしてた狼たちがのっそりと起き上がってそちらに歩いて行った。
私が撫でていた子もゆっくりと起き上がってこちらをちらりと見ると歩き出した。
女の子は慣れた様子で毛皮を剥ぐと、爪を伸ばして脚のところを一握りほどちぎって、こちらに歩いてきた。

「お前の分だ。食え」
「嬉しい。ありがとう」

私がお礼を言って、右手で受け取る。

「…お前、やっぱり変だ」
「そお?」
「うん。ふつう人間はこんなものを見たら驚くし怖がる」

そう言って女の子は私の持った生肉を指さして言う。

「それに、嬉しいと言ってるのに全然嬉しそうじゃない。相変わらず何も考えていない目をしている」
「ん〜。そうかも」
「は?」
「私ね、ずっと前から嬉しいって、どんなだったか思い出せないの。嬉しいって思っても、なんだか外側だけで、胸の中まで嬉しいのが届かないの」
「…わからない」
「私にもわからない」
「…あの子たちのこと、怒ったり恨んだりしないのか?」
「え?なんで?」
「お前の手足を食べたのはあいつらだぞ」
「ううん。いいよ。私のこと食べてくれるんだ、って、うれしかったんだ、私」
「やっぱりお前、変だ」
「私もそう思う」

私はそう答えて血のついたお肉をかじった。
ぬるぬるして食べにくかったけど、見た目よりもずっとずっとおいしかった。

「ああ、手がべたべたになっちゃった」
「貸してみろ」

そういうと女の子は私の右手を掴み、ぺろぺろと舐めてくれた。

「んふふ。あはは。くすぐったいよぉ」
「……」

私がくすぐったくて笑うと、女の子がぽかんと口を開けて私の顔をじっと見ていた。

「初めてお前がちゃんと笑ったのを見た」
「え?」
「今度はちゃんとお前の心も笑ってた」
「え?そお?私はよくわからない」
「もっと舐めてやる」
「あははははは。うひゃあ」

そのあと、とっくにお肉の脂が落ちても、ずっと掌を舐め続けられた。

次の日の朝、私はまた女の子に抱きしめられたまま目を覚ました。

――すぅすぅ

女の子の可愛い寝息が聞こえる。
私はその頭を撫でる。

――うみゅう…

あ、少し嬉しそうになった。
この子はとっても撫でられるのが好きみたい。

しばらくそうしていると突然気がついた。
おしっこしたい…。
でもどうしよぉ…。
私、一人じゃ歩けないし…。
私がしばらくもぞもぞとしていると、

「ん…おふぁよぉ…」

女の子が大きな目を半分だけ開いて目を覚ました。

「…ん?どうした? …おしっこか」

そう言うと、女の子は私の身体を抱きかかえたまま、立ち上がって歩きだした。

「ありがと」
「いいよ。私が世話するってみんなに言いだしたのは私だ。お前は大人しく世話されればいい」
「ありがと…」

この子やっぱり、すごく優しい。

洞窟の外に出る。
私、裸だからすっごく寒い。

「あ、うぅ…」

――じょろろろろろ

「あわぁぁ!!」
「あうぅ…ごめんなさい…」

ずっと我慢してたのに、突然寒くなって、漏れちゃった。
止めようと思っても全然止まらない。
そうしてる間にも

――しょわぁぁぁぁぁぁ…

私は女の子に抱きかかえられたまま、女の子のお腹の上でおしっこを出し切ってしまった。
もわっと湯気が立つ…。

「…ごめん……」
「……はぁ…。いいよ。別に。洗えばいいことよ」

そう言って女の子は私を抱く力を強くすると、ぐっと飛び上がって、すごい速さで小さな泉にやってきた。

「すごぉい。こんなところがあったんだ…」
「川だと水が冷たすぎるからな。まぁ、ここでも十分冷たいだろうけどな」

そう言ってゆっくりと女の子は私を抱き抱えたまま水の中に入っていく。

「くひゅっ!」

背中とお尻に冷たい水を感じる。
でも、肌が触れ合ってるおなかの方だけは妙に暖かくて…。

「おい。そんなにくっついてたら一番問題のお腹が洗えないだろ…」
「うう…。だって冷たいんだもん…」
「しょうがないなぁ」

そう言って女の子はさらに深い所に行く。
もう肩まで水につかってしまった。

「あうぅぅぅぅ。つめたいぃぃぃ」

そして、そのままゆっくりと身体が離される。

「うひゃぁ」

さっきまでくっついていて暖かかったお腹にも冷たい水が流れ込んでくる。
そのせいでぴゅっと残っていたおしっこが出てしまった。

――じゃばじゃば

女の子が水を送って、身体を洗ってくれる。

「ついでに、傷口も洗ってしまうね」

そう言って浅瀬に言って私を座らせると、包帯を素早く外していく。
赤くはれ上がった皮膚が見えてくると、今だ傷口が残った手足が見えてくる。
どうやら女の子が縫ってくれたらしく、傷口はきれいに縫いとめられていた。
女の子が傷口をこすると、薬草の色が水に溶けだして、緑色に水が薄く染まる。
そのあと、女の子が包帯を適当に洗って、私を抱きかかえると、またひとっ飛びで洞窟まで戻った。
私は凍え死にしそうだった。

その日は何ともなかったけれど、次の日から、案の定私は熱が出た。
女の子はずっと私にくっついて抱きかかえて体を温めてくれた。

「あなたまで伝染っちゃうよ?」
「大丈夫だ。私はお前ら人間みたいに柔じゃない」

そう言ってずっとずっと抱きしめていてくれた。
とっても暖かくて、とても嬉しかった。


その日からしばらくたっても、私の体調は良くならなかった。
もう熱はないのに、ずっと体がだるくて、頭痛が治まらない。

「大丈夫か?」

女の子が心配そうに覗き込む。

「わからないの。今までこんなに痛くなったこと一度もないのに…」

私はずっと、何をされても痛みを感じなかった。
ううん。たぶん。身体は痛んでいても、心がそう感じなかったから、痛みを感じなかったんだと思う。
なのに、今はとっても頭が痛い。
それに、ずっと胸が締め付けられるような感じになってるの。

「たすけてぇ…」

私は無意識に助けを求めていた。
女の子は、ただずっと私を抱きしめていてくれた。



どれだけ眠っていたんだろう…。
痛みはすっかり良くなっていた。
洞窟の入口から青白い光が差し込んで、白い床に反射して、洞窟全体がほんのりと明るかった。
目の前には女の子の寝顔があった。
その顔は少ししかめっ面になっている。
私はその頭を撫で撫でする。
ほぅっと女の子の顔がゆるみ、笑顔になった。
見れば、狼のみんなが私たちの周りに集まっていた。

「…みんなこんなに心配してくれてたんだ…。嬉しいな…」

そう思ったら、頬を何かが伝った。

「え?」

私は右手でそこに触れると、そこは濡れていた…。

「……私、泣いてるの?」

ぽろぽろ、ぽろぽろ
私の涙が横たわったままの私の顔を流れ落ちていく。
それと同時に、私の心から何かがあふれてきた。
私は叫びたい気持ちになって、とうとう声を出してしまった。

「うあぁぁぁぁぁん!ええぇぇぇぇ!」

私の声が洞窟に響き渡った。
隣で女の子がビクンと起きて、私が泣いてるのを見て、キュって抱きしめてくれた。

「…大丈夫だよ。私がいるよ。みんなもいるよ」

女の子が優しい声で私に言ってくれる。
それでも、後から後から涙と声があふれて止まらなかった。


私が泣きやんだのは、だいぶ経ってからだった。
もう声もガラガラで、空っぽだったはずの心もどくどくと脈打って、何が何だかわからなくなっていた。

「……落ち着いた?」

彼女が私の顔を覗き込んでいる。
彼女の大きく銀色の瞳には真っ赤に目をはらした私が写りこんでいた。

「わからないの…。なんだか、嬉しいって思ったら、…ぐす…突然爆発しちゃったみたいになって…えぐ…とまらなぐなっぢゃっで…」

――ぺろっ

彼女が私の瞼を舐めた。

「あなたの涙、とっても甘いわ」
「ふえぇ?」
「やっと、心から喜んでくれた。心から泣いてくれた」
「え?」
「ずっと心配だったの。空っぽのあなたの目は、とても苦しそうで…」

そう言って彼女は可愛らしく笑った。
とても優しい笑顔で。
その笑顔見たら、また何かがはじけた。

「ずっと辛かった、痛かった、苦しかった、悲しかっだ!ずっどずっど!むねがい゛だぐで、ぐるじくで!えぇぇぇ」

私は彼女の胸に顔を押し付けて泣いた。

「大丈夫だよ。私が、私たちがいるよ」

ぽんぽんって、私の背中叩いてくれて、狼たちも私たちを覗き込んで心配してくれてた。
ほんとに嬉しかった。
空っぽだった心、お湯が注がれたみたいに温かくなって、なのに、なのに涙がまたあふれて止まらなくなった。








あれから随分と時間が経った。
狼たちが、森の動物たちみんなが冬眠している間、レーシィはそれまで獲って貯めていたたくさんの毛皮を、
「人間なんて大嫌いだ。ほんとは近づきたくもないけどな」
と文句を言いながら、街に行ってたくさんの食料に換えてきてくれた。
おかげで私たちは冬眠している狼たちに囲まれながらゆったりと冬の間を洞窟の中で過ごした。
その間、ほとんど私たちは抱き合っていた。
あれ以来、彼女がそばにいるだけで嬉しくなれる、幸せになれる。
彼女の声を聞くだけで私は、私の心は満たされる。
彼女の体温にふれるだけで、これまで感じることすらも避けていた痛みが癒えていく。
ある意味私たちも冬眠していたのだ。
おかげですっかり私の身体と心は良くなった。
手足は失くなっちゃったけど。それでも右手が残っていれば彼女を撫でることができる、抱きしめることができる。
身体があれば、彼女に抱きしめてもらうことができる。
そして、優しい彼女は私の気持を全部受け止めて、還してくれる。
私は心が凍りついていたすべての時間を、たったひと冬で取り戻せた気がした。

でも、それと同時に怖くなったの。
彼女はなんでこんなにも優しくしてくれるんだろう?
私がかわいそうだから?
私が哀れだから?
彼女は私をどう思ってるんだろう。
彼女の気持ちを知りたい。
でも、知ってしまうと戻れない気がする。
もしかしたら彼女はいつか私から離れて行ってしまうかもしれない。
そうしたら、私は…。

私はただただ彼女を抱きしめた。


そうして春になって、外では草木が芽吹き始めた。
狼たちも目を覚まし、寝ぼけたシカやウサギを狙って走り出した。
レーシィもその手伝いに行っている。
私はその間、群れの雌狼と一緒にねぐらのお留守番をしていた。
暖かくてふかふかの狼の毛皮にもたれかかってると、どうしても眠くなってくる。
私は今、彼女の毛皮に埋もれながら、彼女の身体や頭を撫でていた。
その手が遅くなってきたことに気付いたのか、彼女はこちらを見て、
「ねてもいいわよ」
と合図してくれた。
ずっと狼たちと一緒にいると、なんとなく表情で心が分かってくる。
レーシィが私の目を見ただけで気持ちがわかるのは、たぶんこのせいなんだろう。
人間と違った心と心の対話は、私にとってとても心地よかった。


「ただいま」
「ん?…ああ、おかえりぃ〜」

私が目を覚ましてレーシィに返事をした。

「ずいぶんとのんびりね。お留守番はそんなに心地よかった?」
「うん。ふかふかでほこほこだったよ」
「はぁ。まったく。この森はあまり外敵が居ないからいいようなものの」
「いないならいいじゃ〜ん」
「寝るなっ!」
「ふえ?」
「もうご飯よ。ほら、だっこしてあげるから」
「ふぁ〜い」

私は彼女に向って右手をのばした。
彼女はそれをくぐるように肩にかけ、私の身体を抱きしめて抱っこしてくれた。

「ふみゅ〜。レーシィのにおいだぁ〜」
「ああ、こら、くすぐったい!耳元で息を吸ったり吐いたりするな!」
「えへへ。いいにおい」
「…そう?汗臭くない?」
「ううん。そんなことないよ。ミルクみたいな甘いにおいがする」
「そう。ずっとこの子達と暮らしてるから、感じなくなってたのかと思ってたわ」
「でも私、狼たちの獣のにおいも大好きだよ」
「もぉ…。あなたは私たちにべたべただからねぇ…。ほんとは臭いんじゃないか心配になるわ」
「ふえ?誰か他に嗅ぐ人がいるの?」
「ん?いる訳ないじゃない」
「よかったぁ〜。浮気かと思った」
「なんでそんな心配を?」
「むぅ〜。レーシィって鈍いのね」
「ん?」




春も中ごろになると、狼たちが色立ち始めた。
普通狼は群れのリーダーしか交尾しないけど、この群れのリーダーはレーシィだから、この群れでは恋愛は自由なんだって。
恋愛が自由なら、私がレーシィにアタックしても問題ないんだよね?
私がアタックして、レーシィを落として、レーシィを私だけのものにするの。
そうすればレーシィはずっと私といてくれる。
そうなると作戦も考えなきゃ…。
最近、レーシィは私とだけじゃなく、ほかの子たちと寝たりする。
そのせいで私も狼の子と寝てる。
ふかふかで気持ちいけど、やっぱり私はレーシィと寝たい。
って、そうじゃなくて。
つまり、二人きりになるときをうまく狙ってアタックしなくちゃいけないのだ。
二人っきりになれる時間…。
むぅ〜〜。
早くしないと他の子にレーシィを盗られちゃうかもしれない。
いくらレーシィが魔物だからって、人間だけが好きとは限らないもの。
だって、ワーウルフのくせに人間の男の人を狙わずに、ずっと狼と一緒にいるなんてどう考えても変よ。
きっとレーシィは獣姦でもお構いなし、いや、むしろ望むところなんだわ!
でも、もしそうだとしても私はレーシィが好き、レーシィがどんな変態さんでも、私はレーシィを愛し通してみせる!

「てぇい!」
「あいたぁ!」

いきなり背後からチョップを受けた。
狼やレーシィは肉球のせいで足音がしないから困る。

「なんで叩くのよぅ」
「あなたが明らかに善からぬことを企んでる顔をしていたからよ。恐ろしいほど邪な目をしていたわよ…」
「邪じゃないもん。恋する乙女心だもん」
「はぁ?何をわけのわからないことを…」

――キュピーン!

「ん?今へんな音が?…気のせいか」

そうだわ!閃いた!
この際だもの。恥を忍んでなんていられないわ!
恋は戦争よ!

――は〜じ〜め〜るのよ〜これはせんそ〜♪

「ん?変な歌が?…気のせいか?」

見せつけてやるのよ!レーシィの視線奪ってみせる!

「ぬわぁ!なんだかただならぬ邪なオーラが…」

「レーシィ!」
「はひぃ!?」
「おしっこ!」
「え?」
「おしっこ!!」
「はぁ…」

我ながら名案だわ。
私がおしっこするときはいつもレーシィが手伝ってくれるもの。
その時は当然二人きり。
そして… うふふふふふ。

「…なんだかすごい邪なオーラが…」
「ここでいいわよ」
「う、うん…」

――しょろぉぉぉぉぉ

「ふぅ…」
「終わったか?」
「あうぅ…ちょっとかかっちゃった…」
「また泉に行くか?」
「うん。そうして」

計算通り キラッ☆

「(ビクビク、ブルブル)」
「ここでいいわ、下ろして」
「ん?中まで浸からなくていいのか?」
「大丈夫よ」

そして私は水辺で私のおまんこに水をパシャパシャとかけておしっこを洗う。
いつもよりも念入りに。
そして

「ねぇ、レーシィ。ちゃんと洗えてるかなぁ?見てぇ」

そう言って体をレーシィの方に向けて、そこを開いて見せた。

「ちょ、何してるのよ」
「なんだかね…変な気分なの…。ここが疼いて…」

私はそのまま自分の手でそこを弄くり始めた。
見ればレーシィは私のそこをしっかりと見たまま固まっている。
これはいい感じだ。

「…ん」

――くち…くちゅ

レーシィの前で一番恥ずかしいところを弄ってる…。
そう思うとそれだけで粘液があふれてくる。
途中から私は演技じゃなくなっていた。
その時だった。

「ちくしょう!!」

突然レーシィが叫んだ。

「え?」

私は何が起こったかわからなかった。
気がつけば私は仰向けに倒れ、レーシィが私を押さえつけていた。

「…どうしたの?」
「あなたが悪いのよ!」
「え?」

レーシィが大きな声で言う。

「私にだって狼たちと同じように発情期があるのよ!それでもずっと我慢して、我慢して…。なのに…」

レーシィが歯をくいしばるように言う。

「こんなことされたら…もう抑えられない…」
「いいよ。壊れるぐらい、めちゃくちゃにして。私、レーシィのこと好きだよ。私がこの世で一番愛しているのはレーシィ。あなたなの」
「…痛くしたらごめんね」

消え入りそうな声でレーシィはそう呟いて、私の唇を激しく奪った。

――ちゅぱ…

大きな瞳。
水に映ったお月さま見たい。
じぃっとこっちを見てる。

「きて」

私はその瞳に笑いかけた。
レーシィは私の唇をもう一度奪うと、今度はそのまま下に手を伸ばしてくる。
前戯とレーシィのキスでトロトロになったそこはレーシィの指を吸い込むように迎え入れる。
でも、どんなに奥に入っても、私の証はそこにはない。

「…ごめんね…。私の初めて…上げられないの」

それを言葉にすると、涙がこぼれた。

「じゃあ、私にあなたの全部を頂戴」
「うん。貰って。私の全部」

レーシィが私のそこに口づけをする。
最初の一回は優しく。二回目はくちゅりと音が鳴るくらい深く。
そして三回目は…。

「…きゃ!」

私のそこ、レーシィが入ってきて。
レーシィの舌が私の中を舐める。

――ビク、ビクン

身体が勝手に跳ねる。
脚のない脚に力が入って、とっくにふさがった傷口が少し痛くなるぐらい。

――ちゅぱ、クチュ

「…だめぇ!」

私はレーシィの頭をそこに押し付けてた。
気持ち良すぎる。

「あなた、可愛い」
「…ソフィアって呼んで。…私の、名前」
「ソフィア。好き」
「私も、レーシィ」

――レロ

「んっく!」

レーシィ、レーシィ、レーシィ!
レーシィが私を愛してくれてる。
綺麗な舌で私の恥ずかしいところを舐めてくれてる。

「ソフィア。イって」

――ちゅうぅぅぅぅ!

「あっ ――!」



「…はぁ…はぁ……」

心臓が私の胸を突き破って外に飛び出しそう。
とっても、気持ち良かった。

「……れーしぃ…」
「…ソフィア。さっき、言ってくれたよね」
「ん?」
「私にソフィアの全部を、くれるって」
「…うん。…私は、レーシィのものだもん」

それを聞くと、レーシィはぐったりと横になっていた私を抱き起した。
レーシィと座った姿勢で向き合う。
レーシィの銀色のまあるい瞳がゆれる。

「ソフィアの…人間の時間。貰ってもいい?」
「え?」
「私とおなじ、魔物になって…」

すごく、ドキドキしてる。
レーシィがまっすぐな瞳で私を見つめている。
私も早く応えなくちゃ。
その気持ちに、その言葉に。
その、心に。

「……うんっ! 喜んで」
「ソフィア……」

レーシィの顔が近づく。

――ちゅ

触れるようなキス。
そのまま顎を伝って首筋を降りて…。

――つぷっ!

「っ!!」

レーシィの牙が、私の首筋に突き刺さった。
すごく痛い。
でも、それ以上に嬉しいんだって、
私の心が教えてくれる。
レーシィに満たされた心。
大切な、大切なものが零れ落ちた私の心の穴。
そこから私の心はどんどん零れ落ちて。
おじさんに締め付けられて叩かれて。
残ってた心も全部絞り出されて。
空っぽになった私の心。
たった一つ。
たった一つ。
大切な大切なものがその穴をふさいでくれた。
今ではたくさんの大切なもの、そして大きな大きな一番大切なもので破裂しそうなくらいに満たされて。
それが今、はじけようとしてる。
心が、解き放たれる。
私の心をレーシィに貰ってほしくて。
この痛みは私の最初で最後の痛み。
私の人間として、魔物として。
その痛みは、私のからだじゅうに溶けていく心とともに、私の身体に結びついた。






「まってよ、ソフィアー!」
「競争って言ったでしょ!」

私は風になって木々の隙間を駆け抜ける。

「走り出してから言うのはずるいよ!」

レーシィもそのあとを追いかける。
風にゆれる金と銀の尻尾。
風になびく金と銀の髪。

「だって、そうでもしないとレーシィ、とっても速いんだもん」

力強く土を踏みしめる。
私の脚。
レーシィとおなじ、獣の脚。

「何もそんなに急がなくたって」
「だ〜めっ! みんなが待ってるよ。みんなの子供たちが」

あの後。
レーシィに魔物にしてもらった後。
私の身体の変化はとても長い時間がかかった。
あの時みたいに。
私の心が治った時みたいに。
ゆっくり、じっくり時間をかけて私の身体は変わっていった。
その間、ずっとレーシィや、みんなは私のことを心配してくれていた。
そして、私の手足はレーシィやみんなと同じ狼のものになった。
無くなった手足が生えてきたのはびっくりした。
でも、レーシィやみんなはとても喜んでくれた。
私もとても嬉しかった。
その時私は思いだしたの。

最初に失くした大切なもの。
私の家族。
最愛の人達。 …狼達?
そして、新しく手に入れた。
最愛の人。
私の大切な大切な心。


「「ただいま!」」

なんかレポートしなくちゃと思ってたらついつい筆が進んで…。
7時間ほどぶっ続けて書いちゃいました。
ん〜。量の割に時間がかかりました。
今回は一人称をより口語体で書いて、なるべく地の文をソフィアの心情そのものを表すように工夫しました。
エッチ前あたりのソフィアの驚きの変化には僕自身も驚いています。
でも、ソフィアがどうしてもっていうから…

12/07/28 03:24 ひつじ

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