読切小説
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海原恋慕
 明け方の海はやけに静かだった。風はなく、波も比較的穏やかである。今日は絶好の釣り日和だ。

「……よし、と」

 ジパング風の衣装に身を包んだ青年は竿を下ろし、前方を見やる。煌く太陽に寄って海はキラキラと輝いており、幻想的な光景を醸し出していた。息を吸い込めば清浄な空気が流れ込んできて、実に心地よい。

「さて、どこで釣るかな……?」

 最も効率よく釣果を得るため、青年は岩瀬をぐるりと見渡した。いつもの場所で安定した釣果を取るべきか、はたまた未知の場所に踏み込んでみるか……そんなことを考えている時だった。

「ん?」

 ふと、岩陰に人の姿が見えたような気がしたのは。

「誰だ……?」

 ここの岩瀬は穴場であり、彼以外は近づかない。そもそも、こんな朝早くに人がいるわけがない。彼は不安感に苛まれつつも竿を剣のように構えて人影が見えた方へと詰め寄っていく。
 息を殺し、なるべく物音を立てず進んでいく。ぬめる岩肌に足を取られつつも、なんとか大きめの岩の後ろに身を隠す。すでに人の気配までは間近に迫っており、耳を澄ませば波の音に紛れて何かを呟くような声が聞こえた。
 それは念仏のようだったが、どうにも聞き取りにくくてならない。それが無性に不気味で彼は額からだらだらと汗を流していた。
 彼はごくりと息を呑みこみ、そっと岩陰から顔を覗かせる。すると、彼の視線の先にいたのは――目を奪われるほどの美女だった。
 艶やかな黒髪に、白磁のような白い肌。おそらく、先ほどまで水に浸かっていたのだろう。着ている尼服のようなものはピットリと体に張り付いており、彼女の体のラインをくっきりとさせている。服の上からでもわかる胸の膨らみを見て、彼は一瞬ドキリとしてしまった。
 だが、彼はすぐにハッとする。彼女の体が人間のものではない、異形のものだったからだ。
 背中には大きな亀の甲羅を背負っており、髪は波に揺れる海藻のような緑色。フォレストグリーンの瞳は潤んでおり、水平線の彼方を見やっている。
 彼女の正体は海和尚という魔物だ。ここジパングに住まう魔物である。
 青年も魔物の存在については知っていた。そして、それと関わっては危険だということも。
 ――だが、不思議と目が離せなかった。もっと見ていたい、と本能的に思ってしまう。それほど、海に向かって祈りを捧げている彼女の姿は魅力的だった。

「……綺麗だ」

「ッ!? 誰!?」

 思わず呟いた言葉を敏感に聞き取った彼女はサッと身を屈めた。それを受け、青年もつんのめるようにして岩陰から躍り出てしまう。
 そうして、二人の視線が混じり合い、一瞬の静寂が流れた。が、それを最初に破ったのは青年の方だ。彼は尻餅をついた状態のまま彼女の方に手を向ける。

「ま、待ってくれ! こ、殺さないでくれ! 別に危害を加えるつもりはないんだ!」

 必死の言い訳をしながら、這うようにして距離を取る。が、前方の彼女も怯えた様子で震えていることに気づき、はたと動きを止めた。

(……えっと、どういうことだ?)

 彼は混乱する頭で必死に考えを巡らせる。まずは状況判断だ。
 目の前にいるのは見目麗しい女性――いや、魔物。本来ならすぐにでも逃げるべき相手だ。しかし、不思議と目が離せず、当の彼女もこちらの姿を見てガタガタと震えていた。
 またしても沈黙が流れる。波の音だけが虚しく反響し、二人の間だけ時間が止まっているようだった。

「あ、あの……」

 ともすれば、波の音にすらかき消されてしまいそうなほどか細い声。その発信源は海和尚だ。彼女は目を潤ませたまま静かに問いかけてくる。

「わ、私は別に貴方に危害を加えるつもりはありません……ただ、一つだけお聞かせください」

「な、何だ?」

「ど、どうして私のことを見ていたのですか……?」

 言われて、青年はグッと言葉に詰まった。本当のことを言えば、反感を買うかもしれない。だが、相手は魔物だ。言わなければもっとひどい目に遭わされるかもしれない。
 彼は葛藤していたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「それは、その……君が、綺麗だったから」

「……え? ええええええっ!?」

 先ほどまでのか細い声とは打って変わって、彼女は仰天しつつ大声を張り上げた。その勢いのまま立ち上がり、赤くなりつつある頬を押さえてその場であわあわと首を振る。

「そ、そんな綺麗だなんて……わ、私なんてとてもとても……いや、嬉しくはあるのですが、言われ慣れてないので……」

 彼女は熟れすぎたリンゴのように顔を真っ赤にしていた。その姿がまた愛らしく、そしてどこかユーモラスで、青年はついぷっと吹き出してしまう。
 彼はククク、と笑いをこらえながらキョトンと首を傾げている海和尚を見つめた。

「いや、悪い。てっきり、魔物ってもっと怖いかと思っていたんだ」

「そ、それは誤解です。わ、私たちは貴方たち人間と友好的な関係が作りたいと……」

「そうなのか? いや、君の態度を見ればそれが嘘じゃないのはわかるけど……まぁ、いいや。それより、君の名前を教えてくれないか?」

「ふぇっ!? わ、私のですか!?」

 青年は真摯な眼差しを向けたまましっかりと頷く。海和尚は戸惑っている様子だったが、やがておずおずと口を開いた。

「えと、その……キコと申します」

「キコ、か。いい名前だ。なぁ、もっとそっちに行ってもいいかい?」

「え!? あ、あ、はい! どうぞ!」

 彼女はぴょんとその場で飛び上がり、近くの岩場に腰掛けてポンポンと自分の隣を手で叩いて示す。青年はまた可愛らしい仕草をしてみせる彼女を見てクスリと笑いつつ、その横に腰掛けた。
 そこで彼はようやく彼女の瞳を見据えることになる。深い緑色をした瞳はずっと見ていれば引き込まれてしまいそうだ。プルリとしたピンク色の唇も健康的で、顔立ちもとても整っている。

「……やっぱり、綺麗だ」

「あ、あ、あの、その、えと……ありがとう、ございます」

 キコは顔から湯気を出さんばかりに真っ赤になっていた。そこでようやく青年も視線を外し、彼女ほどではないとはいえ頬を紅潮させる。

「……ごめん。それにしても、どうしてこんなところに?」

「あ、はい。私は海神様に祈りを捧げていたんです。いつもは別の場所でやるんですけど……今日はいい天気で、ここだといい風景が見れそうでしたから」

「確かにな。絶景だ」

 彼の言葉に、キコは大きく頷く。視界いっぱいに広がる海原は蒼く、見ていると心が洗われるようだ。

「ところで、どんなことを祈ってたんだ?」

「ひゃいっ!?」

 思わぬ問いかけに、キコは素っ頓狂な声を上げた。その直後だ。

「あ、あれ? あわわわわっ!?」

 バランスを崩したせいだろう。彼女は後ろ向きに倒れ込んでしまう。
 ガンッという固いもの同士がぶつかり合う音に顔をしかめつつ、青年は彼女を見やった。

「ひ、ひぃいい……。お、起こしてください……」

 幸い外傷はないようだった。が、彼女は甲羅が邪魔で起き上がれないらしい。彼女は手足をばたつかせ、必死にもがいていた。
 が、そのせいで彼女の服がめくれて見えてはいけないところまで見えてしまっている。形のよい胸の先にある桃色の乳頭や、服の裾から覗く白い太もも。そして、うっすらと茂った陰毛。その扇情的な様に、青年はごくりと息を呑んでしまう。
 と同時に、彼は自らの股間に熱を感じていた。しかし、それに気づいていないキコは起き上がろうと必死に手足をばたつかせており、それが衣服を乱れさせているのだが全く持って気づいていない。

「う、う〜んっ!」

 最後に一度ぐ〜っと手足を伸ばした彼女はだらんと体を弛緩させる。そうして諦観のため息をつきながら、涙に濡れる瞳で青年を見つめた。

「あ、あの、すいません。起こしていただけませんか?」

 答えはない。青年はただ無言で歩み寄ってくるだけだ。どこか異様な雰囲気を漂わせつつも腕を掴んでくる彼に、キコは優しい笑みを返す。

「あ、ありがとうございます……ですが、その……あの……あ、熱いものが……」

 彼女の視線は彼の股間部に向いていた。服を盛り上げるほど屹立した肉棒はビクビクと脈打っており、彼女の太ももに熱を与えてくる。

「……キコ」

「は、はい?」

「……先に謝っておく。すまん!」

「え?」

 と、彼女が間の抜けた声を漏らすと同時、服を思い切り捲られた。そのせいで日歩が丸出しになり、冷たい海風が女陰を撫でる。それだけで甘い痺れが広がり、キコはブルリと身を震わせた。
 が、次の瞬間。自分が何をされているのか理解したのかあわあわと口を動かし始める。

「ひゃ、ひゃぁあああっ!? え、あれ、私、どうして!?」

「お前が悪いんだ……さっきから胸もアソコも丸見えだったんだからな!」

 言われてようやく気付いたらしい。彼女はパチパチと目を瞬かせ、今にも失神しそうになっていた。が、それを遮るように自らの下腹部に熱を感じる。見れば、彼が男根を秘裂にあてがっているところだった。

「や、やめ……」

 抵抗しようと試みるが、それも仰向けになった状態では無駄。青年は伸ばしてきた彼女の手をがっしりと掴み、押さえつける。いくら魔物でも、彼女は非力な方だ。ごくごく平均的な力しか持たない彼にすら抑え込まれてしまう。
 そうしている内にも男根はずぶずぶと入っていき――

「あひゃあぁああああっ!」

 彼女の未開通だった女陰を貫いた。

(す、すごいです、これ……)

 びくびくと体を痙攣させながら、彼女はそんなことを思う。
 破瓜の痛みはほとんどない。不思議と心地よさが胸に満ちていた。

(嗚呼、祈りが通じたのですね……感謝します)

 彼女は内心で海神に礼を言い、再び彼の方に視線を戻す。彼の方は肩で息をしながら必死に腰を振っていた。その度に自らの内を抉られる感覚がして、キコは口から喘ぎ声を漏らす。
 彼の動きは意外にも優しく、こちらの体を労わってくれるようなものだった。それが甘く心地よく、キコはうっとりと目を細める。
 そうして、彼の目を見据えつつ自ら胸を曝け出した。その拍子に胸がプルリと揺れ、彼の視線が突き刺さる。それを感じて身震いしつつ、彼女は自分の乳頭をつまみつつ口を開いた。

「あの、こちらも、お願いします」

「……あぁ」

 腰を動かしつつ、青年は彼女の乳頭に舌を這わせる。ピリリとした快楽電流が体を駆け抜ける感覚に戸惑いながらもキコの体は確かに悦びを感じていた。
 犯され、蹂躙され、自分の中が埋められていく悦び。彼女は長年の夢が叶ったとばかりに歓喜しながら甘い声を漏らす。
 ほとんど無意識だろうが、彼女の体は男を受け入れる態勢に入っていた。わずかに腰を浮かせ挿入しやすい体制を整えてやりつつ、自らも腰をみだらに動かす。
 ぐちょぐちょと淫靡な音がこだまし、結合部からは泡立った愛液がこぼれていた。

「キコ……そろそろ……」

 彼も限界が近いのだろう。男根は膨張し、ますます激しく脈打っている。それを感じつつ、キコは彼の首に手を回した。

「いい、ですよ。わ、私が悪いんですから……ね。だから、射してくだ、さい。茶、ちゃんと受け止めますから……」

「……すまない」

 言いつつ、青年はキコの乳首にわずかながら歯を立てた。刹那、鋭い痛みと激しい愉悦が訪れ、キコは身をのけぞらせる。
 それと同時に彼女の膣内がキュッとすぼまり、彼の男根を激しく包み込んだ。これまでは緩やかに絡みついてきていたが、急な刺激を受け彼はグッと唇を噛み締める。

「射るッ!」

「あ……あひゃぁああああああっ!」

 マグマのような熱い精液が流れ込んでくる感覚。キコは四肢をピーンと伸ばし、やや腰を浮かしている。口の端からはよだれがこぼれ、それがやけに扇情的だった。
 精液の勢いはすさまじく、子宮を激しく打ち据える。さらに奥まで埋め尽くされ、彼女は満足げに息を吐いた。

「あ……ま、まだ射てます……」

 下腹部――ちょうど子宮の辺りに手を置きながらキコは呟く。そして彼に視線を戻してから、ふっと淡い笑みを浮かべた。

「もう、収まりましたか?」

「……あぁ。すまない。なぜか、自分を抑えられなかったんだ」

 だが、彼を責めることは誰にもできはしない。海和尚たる彼女は天然の魔性なのだ。その魅力に抗うことは無理に等しい。
 はだけた衣服を直しつつ、キコは青年の顔を見つめる。その時の彼女の目はややうっとりとしているようだった。

「あ、あの。私は気にしていませんから」

「だとしても、だ。俺は女の子にどうしてひどいことを……」

 心底答えたのだろう。彼は額に手を置き、項垂れる。が、そんな彼の手を握り、キコは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「いいのです。ただ、どうしても貴方が責任を感じるなら、一つだけお願いがあります」

「……何だい?」

「え、えっとですねぇ……その……」

 キコはもじもじとして俯いている。また顔を赤くしている彼女を見ていると、またしても股間にうずきを覚えた。
 キコはしばらく言い淀んでいたが、やがてキッと眉を吊り上げ、一世一代の告白をするように声を張り上げる。

「そ、その! も、もしよろしければまた明日も来てくれませんか……? 変な話だとは思うんですけど、その……貴方のことをもっと知りたいんです」

 それは紛れもない彼女の願いだった。だからこそ、青年はしっかりと頷きを返す。

「もちろん。明日も、明後日も。ずっとここに来るよ」

「ほ、本当ですか? ありがとうございます……ふ、不束者ですがよろしくお願いします……?」

「あぁ……って、ん?」

 青年は首を傾げるが、当のキコはすっかり自分の世界に入り浸って何やらぶつぶつと呟いている。彼はまだ何か言いたそうだったが、悶える彼女を見ていると言う気も失せたようだ。


 ――この数年後。キコが彼の嫁として村に迎え入れられたのはまた別の話。
16/09/22 00:26更新 / KMIF

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