読切小説
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雨傘
 ある秋。

 まだ緑の部分もあるが山が黄色、赤に変わりだし、今年も秋になったなと思った。
 この季節になると、別になにがあるわけでもないが、この景色を見たくなってここに来る。そして山が様々な色になることはアタシにとって好都合だった。

 アタシはゲイザーという魔物らしい。性別はメス? 女? 年齢はどれくらいなんだろうなぁ。そんなにいってないと思うけどな。わからん。

 ゲイザーの特徴といえば、肌は灰色と黒、鋭くとがった歯、フワフワ浮けるし背中には目のついた触手、そし赤く光る大きな一つ目。
……どっからどう見ても人間とは違う形の生物。

 この姿だと、普段隠れて景色を見ることがができない。だが、山が様々な色に染まっているのおかげで木の上にいる今は見つかりにくくなってるだろう。まぁもし見つかっても木の上ならカラスかなんかと見間違えるさ。

 この山に人が入ってくることは滅多にない。
 一応、山には町同士を繋ぐ一本の道があるがそれも谷と山に挟まれている、魔物から言わせてもらっても危ない道だ。その道にはたまにバスが通るのだが別に誰が降りてくるわけでもない。


「……ここは毎年かわんねぇなぁ」
 アタシは独り言をつぶやいた。

 普段人を驚かせてばかりいるが正直…寂しいところがないといったら嘘になる、怖がらせに行ってる時はまだ良いが、何もしてないのに驚かれる、怖がられる、それは少し悲しい。暗示を目からかけることもできるが、そうしたところでアタシを直接見てるわけではない。
 その様々な気持ちを少し和らげるためにこの時期はここに来て、誰とも関わらず景色を見るのだ。

 太陽の光が山に当たり、山はキレイな色に染まっている。

その中、1日に数台しか通らないバスが危ない細い道を通っていった。



……景色に見とれているうちに、日はだいぶのぼっていた。

(あぁ、もうだいぶ時間がたったな。今日はなにしようかなぁ……もうちょいと景色見て考えるとするかな)

 そのときだった。
 足音と変な歌が近づいてきた。

(人間か?)

 予想通り人間だった。
 その人間は歌いながら細い道を歩いている、誰もいないと思っているのだろう、かなり大声で歌っている。

「……チッ」

 こっちは景色見て和んでいたというのに変な歌で全部パーになったきがする。とても不愉快だ。

 今日の予定は決まった。……一日中寝てやる。やる気もなにもかも削がれた。

 そして家とは名ばかりの洞窟には入り、その人間にいらいらしながら、がっつりと寝た。



 目が覚めたのは夜だった。外は真っ暗、バスの通る音で起きた。
(夜か……)
 アタシはゆっくり外にでた。

 外で少し伸びをしてから少し移動し道が見えてくる少し前。……また足音がした。
 木の陰から覗いてみると朝の奴のようだった。

(なんだぁ? アイツ)
 朝とはうってかわってとぼとぼ歩いている。まるで別人のようだ。
(なにがあったんだ、変な奴……だいたいバスにのればいいのにな、バカだな)

 そんなこと考えているうちにそいつは通り過ぎた。
(ほんとになにしてたんだアイツ)
 考えてもわからない。もやもやする。
(いちいち歩いてこの道通るなよ、こっちも落ち着けねぇ)
……またイライラしてきた、ほんとに不愉快だ。

(もういい。なにも考えたくないからまた寝てやる)
 そう思いまた寝床についた。



――翌日以降、ソイツは何日後も何日後も歩いて道を通った。


 二週間後。

 今日は雨、最近天気よかったが、ガッカリだ。

 アタシは雨は嫌いだ。
 なぜかって? まず一つはただ単純に濡れるのが嫌だからだ。もう一つは、、次晴れたとき水溜まりが鏡になるから……自分の姿が見えてしまうからだ。

……まぁ一つ目は解決してる。
 昔驚いた人間が逃げ出した時、おいていったカサ?という物があるからだ。
 これはとても便利だ。濡れなくて済むし、晴れの日しまっておけば場所も取らない。

 いつものバスは雨の中進んでいく。

 その後、今日もアイツはその中歩いてきた。ぴちゃぴちゃとアタシと同じくカサをさしながら。

(雨の日ぐらいバス乗れよバカ、理由はしらないけど、ちょっと乗る努力しろよ)

 雨はアイツの歌をかき消すほど降っていた。



 その日の夜、雨もまだ止んでいない。
 だが、またバスの後に足音がした。

(帰りも歩きか、なにを考えてるんだよ……


 目をあいつに向けたときすぐに朝との違いに気づいた。

(ん?……カサは?)

 そう、カサをささずベチョベチョになりながら歩いていたのだ。
 なぜささないのかと思いよく見ていると、それ以前にカサは持っていないことに気づいた。

(……なるほど無くしたのか、筋金入りのバカだな。ここまでくると清々しい……というか誰かに借りればよかっただろうよ)

 そこでハッとした。

(アイツ、誰かと一緒いるの見たこと無いな)

(そうか――同じだな――)

 そう思うと体が勝手に動いていた。
 驚かしてばっかでなくたまには少し良いことしてやろうと思ったんだ。



 とぼとぼ下を向いて歩いているアイツの前にピチャッと降りた。

「いよぅ、寒そうだねぇ」
「……!、ぇ」
 アイツはアタシを見て固まっている。


 そこから約10秒の空白。
 そのなんとも言えない時間にアタシは耐えられなくなり言った。

「……なんか言ったらどうよ?」
「…………」
 何も言ってくれない。

(なんか言ってくれよ、頼むよ)

「……あなたはどなた、ですか?」
 とても小さい声だった。

「……キシシッ……誰でしょうかねぇ?まぁ人間じゃないんだけどさぁ?」
「……………」
「あ、あとその丁寧な言葉使いやめてくれよな、くすぐったい」
「……………」
 コイツは明らかに警戒している。

「おっと、別に何かしようってわけじゃねぇぞ?」
「……………」

……ダメだな、なにを言っても警戒されたままだ。まぁいいか。

「――ほらよ」
 アタシは刺してたカサを閉じて投げた。

「……?」
「使いな、魔物にも優しいところあるだろ?」
「え……」
 あ、こいつまだ警戒してるな? 罠だと思ってんのか。

「キシシッ、これは普通のカサだぞ? 昔拾った(奪ったに近いけどな)ものだからな?」
「……違、あ、あなたは?」
 アタシ?


「濡れちゃい、ます、よ?」


「――見ず知らずの魔物の心配するなんてよっぽどお人好しだな、いんだよそんなこと」
「で、でも「うるせぇな早く使えって、グズグズしてると襲うぞ!」」
 こいつはビクッと驚いた表情をしている。

 そしてまた小さな声で、
「……ぁ、ありがとう」

「ッ……礼なんていいんだよ……じゃあな」


 アタシは元居たところにかえった。

……かえったと言うよりは逃げたか。
 ありがとうなんて、初めて言われた。心配してくれたのも初めてだったかな。正直どうすりゃ良いかわからなかった。
 だめだ、調子くるったな今日はまた早く寝よう。




 翌日。

 今日は昨日の雨が嘘のように晴れた。
 雨の日より気分が良い……水溜まりがいやだが。
(まぁ今日も景色でもみよう。雨上がりもきれいなんだよなぁ。ここの景色、ま、今日も邪魔されるだろうけどな)

 バスが通った後やっぱりアイツの足音がした。

(またか……って歌はどうしたんだ、それになにキョロキョロしてんだ)

 まるで何かを探しているようだった。

 しばらくするとキョロキョロするのをやめ何かを置き、頭を下げてまた歩いていった。

(……なにしてたんだ?)
 アイツが置いていった物が気になり、見に行くことにした。


 そこにはカサと手紙がおいてあった。
 だが置いてあるカサは昨日渡したものではない。
 手紙はの内容は、

「――傘をかしてくれてありがとう。借りた傘は古い物だったからよかったら新しいの使ってください。」

「……ッ」
 なんだこの手紙は、何の意図だ?……罠のカモフラージュか?昨日驚かせたから復讐か?カサに何か仕掛けてあるのか?

 おそるおそるカサを開く。

「普通だ」
 普通どころかきれいな白いカサだった。

(これは、ホントに貰って良いのか?)

「も、貰っていいよな、お、置いといたってもったいないしな」
 そう一人つぶやいて、白いカサを抱きしめいつものところに戻った。

 その帰り道、アイツはカサがなくなったのを見てか、少しスキップしながら帰って行った。




 翌日。

 ザーッと朝からまさかの雨、晴れてたのは昨日だけのようだ。
(っくそ。もう少し晴れは続いてくれるかとおもってたんだけどなぁ)
 そんなことを思いながら右手に閉じたカサを使って良いものか、考えていた。
「あ、雨だし使っていいよな……も、もったいないよな」
 そうつぶやきカサをさした。

 雨の中さして思った。このカサは凄い。盗ったカサにくらべて頑丈で風で歪んだりしない、それに大きい。触手も濡れなくてすむ。
「……ほ、ホントにアタシが使って良いものなのか?」
疑問に思う。
「……も、もしかしてアタシに渡したんじゃなかったのか?それはまずいな。……いやでも……」



 そうこうしているうちにまたあの男の足音がした。

(ハッ、色々考えすぎたな、バスももう行ったのか……って)
 アタシは男を見て驚いた、カサをさしてなかったのだ。今は雨は少し弱いが普通に降っている。

(な、なんでだよ! バカかアイツ!)

 カサをくれたのにアタシに渡した男はべしょぬれ。そのことが気にかかり、気がつけばまたアイツの前にアタシは行っていた。



「オイ……」
 またアイツはビクッと震え身構える。

「オマエは何を考えてるんだよ」
 そう言うと。

「……? あ、い、いや、雨の日に濡れていたら、ま、また会えるかなって」

「……は?」
 この男は訳のわからんことを言う、魔物、人間からみたら化け物、そんなアタシに会いたかったのか? コイツは。

「え、えーと……あの傘のこと…言っときたくて」

「……?」
カサ? アタシの持ってるこのカサのことか? やっぱり取り返しにきたのか?

「……えと、ありがとう」

 予想と反した言葉にかたまってしまった。

「そ、それと、ごめんなさい。一昨日は、自分の偏見で、何かされるって考えて」

 コイツは追い打ちをかけるように訳のわからんことを言う。軽く頭はパニックだ。

「あ、あれ? お、おーい?」
「……もしかして白い傘気に入らなかった、かな?」

 やっと少し頭の中が整理されてきた。
 でも言いたいことはまとまってなかった。

「……い、いや、な、何となくやっただけだし、こっちも驚かしてわ、悪かったって言うか、さ、あ、カサは、えと、あ、ありがとう?」
 すっごいしどろもどろになってしまった、恥ずかしい。

「……よかった」
 コイツは安心した顔をしているが、何も良くない。

「……でもよ、か、返すよ今こそ使えよオマエ。」

「え?」
 不思議そうな顔をしている。

「カサはう、うれしいけどよ、くれたオマエが濡れてたら、な、なんか気になるって言うか、さ?」
 正直に思ったことを言った。

「……なら、いっ、一緒に入っていき、ません?、あげたもの自分でつかうのも」

 コイツは本当に何をかんがえている。アタシと一緒にカサに入って何になるんだよ、一人で入った方が広くて良いだろ。それにアタシは魔物なんだぞ。

「……こんな化け物と同じカサに入ってなにをする気だ」
 アタシは声を低くしていった。

「ば、化け物? そんなことおもってないよ? 人間じゃないのはわかるけど。じ、自分が濡れてまで相手に傘をわたすなんて、人間でもいないとおもうよ」

「……肌の色、歯、目をしっかりみても見ても化け物でないってか?」
 少し声を荒げていった。

「に、人間とは違うけどさ、き、綺麗だと思うよ、はだも歯も、と、特に、えっっと……その、目は」
 さっきまでの強気に言ってたのが、急に頭が真っ白になった。キレイ? ナニガ?

「えっと、一緒に入っていったらダメかな、お話もしてみたいし」

「え、えと」
 アタマが回らない。
「お願い!」
「え、あ、う、うん」
 肯定の返事をしてしまった。

 この男はにこっとしてカサに入ってきた。
 ええと、どうすればいいかわからない、なんでOKしたんだアタシ。えーと、あ! 驚かせばいいのか驚かしてカサから出せば!

……でもどうやって? もうこんな近くにいるのに? 向こうはこっちの正体知ってるのに? いっつも他のやつは見た目で驚いてたからな、どうすりゃいいんだろ……それにカサから出したらまたさっきみたく同じ状況になるじゃないか。


「ねぇ…名前は?」
 沈黙を破ったのは男からだった。

「な、なまえ?アタシのか?」
「うん」
「えと、うーんとな」
「……え、な、悩むようなこと聞いたかな?」
 コイツは困った顔をして言ってきた。

「……名前なんてほぼ使ってないからな。忘れたよ」
 そんなこと聞く前にみんな驚いてすぐ逃げるからな。

「え、そ、そんなもんなの?」
 コイツは納得しない様子。
「まぁ、他のヤツはしらないが、使わないとなぁ。」
「そっか……」
……また沈黙

「……なぁ、もうそろ学校につくんじゃないか? アタシはそろそろ帰るぞ?」
 静かな空気に耐えきれずそう言った。

「あ、うん、そうだね」
「……じゃあな」
 アタシはカサから出た。

「……待って!、傘持ってってよ」
「良いのかよ?」
「うん!」
 コイツは笑顔でそう言った。そんな顔されたら断るに断れない。
「ありがとよ」
「っあ、あと1つ!」
「……?」
「あのさ、また一緒に話しながら歩いてくれないかな。」

 あぁ……また訳のわからないことを言う。
 何が目的なんだ、どうしたいんだ。アタシが混乱しているあいだに、暇なときでいいとか、色々言っているが頭に入ってこない

「…だめかな」
 返事をしないアタシを見てコイツは不安そうにこっちを見てきた。

 ここでアタシは一度冷静に考えていた。
 コイツが何を考えているかわからないが、アタシだって話し相手は欲しい。皆すぐ逃げるからまともに誰かと話したことがない。それに……
 もしかしたらコイツはアタシの容姿を見てくれるかもしれない。
 もしかしたらコイツはアタシの性格を認めてくれるかもしれない……


「……まぁ良いよアタシも暇だしな」

 そう考えが浮かんだら断る要素がなかった。
 目の前ではパァっと明るくなりにこっとしてありがとう、と目を見て言ってきた。
……何故だか暗示をかける気はしなかった。



 そこから数日間、行き帰りでたまに会って一緒にたわいもない話をした。

 数日後。

 アタシはふと、
「なあ、何でバスに乗らないんだ?」
 と、聞いた。
 うーんと少し悩んだ様子ののち、
「……なら君はなんでここにいるの?」
 と、質問返しをしてきた。

「まぁなんとなくかな?」
 アタシは思ったことを答えた。すると、
「自分も同じ。なんとなくだよ。」
 コイツそう言った。

 そしてそんなことよりさ、とコイツは話を変えた。

……明らかに何かを隠したような返事だった。
 隠し事がないヤツなんて世の中にいない、そう思うからアタシはこんなこと深く追求はしない。
 だか何故こんな当たり前の質問に対して答えを渋るのかアタシは気になった。

 いつも通り学校が見える手前で別れた後、隠れて追うのも悪い気もしたが、学校の近くまで行って何かあるか見に行こうした。

 午前中は来ず、外で群がって球を蹴って遊んでいる人間に紛れているかと思ったがいなかった。

(チッ……流石に中までは見えないか)


 午後になって、日が落ち始めた頃アタシは正直もう何もないのではないかと思っていた。
 アイツを待たせるのも癪なのでいつも会う場所に戻ろうとしたとき、校門の手前でアイツを見つけた。

 何をしてるのかと少し近づき聞き耳を立てる。



「おいおまえ、なんか最近楽しそうだな」
「な、なにがあったんですかねぇ?」
 2人の男がアイツに詰め寄っていた。
「……別に」
 アイツは素っ気なく返した。すると、

「気に入らないなぁ……うりゃ!」
「ッ!いって」
 2人うちの1人がアイツの腹を殴った。

「……知ってるぞ、お前髪の長い女の人と一緒に帰ってるだろ」
 腹を殴った男はそう言った。
「え?そうなんですかぁ?」
 横にいる男は相づちをそう打つ。
「あぁ、暗かったからほぼシルエットしか見えなかったがな、女なのはわかった」
「それは気に入りませんねぇ」
「顔殴っちゃダメだぞ目立つからなっ!」
「ぐ、、」


 何が何だかわからない光景だった、が、あまりよくない状況なのはわかる。

 アタシは止めに出ようとした。しかし体が動かなかった。
(……あの2人、アタシの話をしてたか?もしかしてアタシのことが原因か? アタシと一緒に居るからこうなってるのか?)

 一度やな考えが浮かぶと消えなくなるのは誰もが同じで、この状況でアタシが出て行ったら悪化するのではと思い、止めに入れなかった。


 そうこうしているうちに2人の男どもはいなくなっていて、いて…今日もバスに乗れなさそうだなぁ、と、言ってるのが聞こえた。

……アタシは急いでいつもの場所に戻った。



 コイツはいつも通り歩いてきた。
 アタシはそいつの前におりた。

「こんにちは……こんばんはかな、遅れてごめんね」
コイツは何もなかったかのように話してきた。だがアタシはさっきのことが気になってならなかった。

「……オイ」
「どうしたの?暗い顔して」
「さっきのはなんだよ」
 コイツは肩を一瞬ぴくつかせた。
「なんのこと?」
「……校門での事だよ、見たんだよ」
 またぴくっと体が動いた。
「あ、あれはねそう言う遊びなんだよ…」
「あんな暴力受けてか」
 さっきよりびくっと震えた様子だ。
「べ、別に痛くないんだよあてられてないんだよ?」
「痛いって言ってたじゃないか」
「それは……」
 コイツはまだ何か言い訳を考えようとしていた
「……まぁ言いたくないのはわかる。それでだ、もう一緒に帰れない方が良いんじゃないか?」
「ぇ」
 こっちを見てきた。

「一緒に居るのは、そのうれしいけどさ、迷惑かけてるなら……離れるよ。アタシは」
「め、迷惑なんて!」
「かけてるだろ」
 首を横に振っている。

「……アタシと一緒にいるからいじめ?を受けてるんだろ。」
 コイツには一言も言わせず続ける。
「アタシは正直自分で分かってるよ。アタシは化け物だって、ずっとそうやって言われてきたからな。だからこの姿褒めてくれた時すっごい嬉しかったんだ。でもな、そう言ってくれたやつがアタシのせいであんな仕打ち受けてんのは耐えられねぇんだよ」

 少しの沈黙、コイツは下を見ている

「だからさ、もう帰るのは「ちがうよ」」
 いきなり口を挟んできた。

「き、君のせいじゃないよ!」
 この後に及んでまだコイツはこんなことを言う。
「……かばってくれてるのか?」
「違う、ホントに違うんだって!」
「嘘だ」
「ほんとに違う!」



 もう面倒臭い。

「おい」

 少し気が引けるが、

「……な、なに?」

 この方法がいい。

「アタシの眼を見ろ」

 コイツには暗示のことを伝えてはない。

「……?いいけど」

 ああ、これでお別れになりそうだな。

「よしいいな?」

……せめてコイツとはもう少し良い別れ方をしたかったかな。



『素直になれ。嘘をつくな。本心を言え。』



 暗示をかけた。コイツはびっくりした眼のまま固まった。
 そして少しすると…




 コイツは目に涙を浮かべて抱きついてきた。

(な!)
 予想外の行動で声が出なかった。

「……や、だ」
 コイツは女の子みたく小さい声で話し出した。
「い、居なくならないでっっ! ……独りにしないでよ」

「……ぇ?」
「お願いしますっ。なんでも、しますから、一緒にお話してくだ、さい」
ぼろぼろ泣きながらアタシにそう言ってきた。

「お、おいちょっと待てよ」
「は、はい! 待ちます、から」
「ぇ……ホントに、アタシのせいじゃないのか?」
「き、君のせいじゃない!」
 コイツは急に声を大きくした。

「な、ならなんであんなこと、されたんだよ」

「……背が小さくていつもクラスで暗いからって。目障りだって、見てて腹立ってくるっ言って」

「……ぇ?」
 予想外の解答に変な声が出る。

「だから……明るくなろうと思って歌を歌ったりしていたんだ」
 あれはそんな意味だったのか。……効果はあるのか怪しいが。

「他の学校のヤツは?」
 コイツは首を振ってこう言った。
「誰かに相談しようにもアイツらに相談したことばれたら……もっと酷い目に」
「…………」
「それにもしアイツにたてついたら、今度は自分があんな目に遭うのを皆怖がって、クラスで話しかけてもくれなくて……お願い、独りにしないで!」


 コイツはこんなに悩んでいたのか、やはり最初に感じた自分と同じ香りは正しかったのかもしれない。
 何もしていないのに嫌われる。そのつらさは痛いほどわかった。

 アタシは抱きついてきたコイツを抱きしめ返した。するとびくっとしたあと、安心したのかさらに激しく泣き出した。




 どれくらいたっただろうか。夕焼け空だったはずなのにもう当たりは真っ暗になっている。
 コイツはだんだんと落ち着いてきたみたいだ。
おそらく暗示もきれてきたんだろう。

「――ねぇ?」
 コイツは久々に口を開けた。
「ん? どうした?」
「……ごめんなさい……甘えちゃって」
そう蚊の鳴くような声で言った
「あー、これはアタシが悪いんだごめんな」
 うるんだ目でこっちを見ながら頭にクエッションを出している。
「……オマエに暗示をかけたんだよ」
「暗示?」
 まだわかってない様子だった。
「……まぁ、素直になる魔法でもアタシがかけたと思っといてくれ」
 説明も難しいのではぐらかすことにした。
「う、うん? よくわからないけど。取りあえず、歩こっか、もう真っ暗だし、帰らなきゃ」



「で、オマエはこれからどうするんだ」
 アタシ達は歩きながら話し出した
「別にあと半年耐えれば卒業なんだ、今反撃したらそれこそアイツらと同じになっちゃうからさ。反撃はしたくない」
「卒業したあとはどうする気だよ」
「卒業したらどこかに引っ越そうと思ってたんだ」
「どこに?」
 コイツは腕を組んで考え出した。

「キシッ、あてはねぇのかよ」
「う、うん」
 苦笑いしながらこっちを見た。


「な、なぁ、さっき何でもするっていったよな?」
「え、」
 コイツは少しおびえた顔を見せた。
「約束は守れよ。」
「う、うん、……何すればいいの?」

「……どこいくにしろアタシもつれてけよ」

 表情がパーッと表情明るくなる。
「ありがとう!!」
「何も礼を言われることはしてないぞ?」

 そこからはいつも通り話をした………


 翌日。

 アタシは1つやっておきたいことがあった。


「はぁ……あと半年で卒業かぁ」
「そうですね、あ、バスの時間やばいっすよ? 乗り遅れますよ」
「お、そうだな少し急ぐか」

「おい止まれ」

 アタシはアイツをいじめていた2人の前におりた。

「なんだ……ひっ!!!」
 2人の顔が真っ青になる。

「こっちを見ろ」
「ひ、一つ目?」
「ば、化け物!」
 アタシはキッと2人を睨む
「……チッいいからこの眼を見ろ、さもないと」
「わ、わかった。

 2人は震えながらこっちを見てきている 。

「よしいいな……」


『アタシのことは忘れろ。アイツに2度と関わるな。』


「……じゃあな」
 唖然としている2人を背にいつものところに行った。
 あの2人には何も手出ししないでくれって言われたけどこれぐらいはいいだろう。

……案の定、次の日なんかしたでしょ、とアイツから言われたが。




 半年後。

「ありがとね、半年後以上付き合って貰っちゃって」
「いんだよ別に、アタシの勝手だから。」
 彼は無事卒業した。頭も悪くなかったらしく進学を進められたが断ったらしい。……一つ目の化け物と話してる時点で頭は良かったにしろ変なのは間違いないが。

「あのさ、言いたいことがあるんだけど……」
「ん?」
「……えっとさ、卒業だから言おうって決めてたんだけど」
 彼はもじもじした様子で何かを言うのをためらっているようだった。
「なんだよ」
 少し強く言ってみた。
「えとっ……付き合ってください……あの結婚もかんがえて」
「…………」
 唖然とした。まさか。

 彼は深呼吸して話し出した。
「……あの雨の日に君に会えてなかったら自分はもうつぶれてたと思う。君がずっと話してかけてくれて、甘えさせてくれて、そのおかげで頑張れた。今度は君を頑張って恩返しするから、さ」
 彼は真っ直ぐアタシの目を見て言ってきた。
 彼は嘘を言っているように見えなかった。

「ホ、ホントに良いんだな?」
「うん」
「オマエは不幸になるぞ……その、周りから変な目で見られるからな」
「他人なんて関係ない。君と一緒に居られたら幸せだよ」
彼は顔から火が出そうな台詞をなんなくいってきた。
「っ! ……ホンキにするぞ」
「うん」
 私は彼に抱きついた。
 彼は抱き返すしてくれた。

「アタシはオマエのこと絶対逃がさないからなっっ」
 うん、と、言い彼はやさしく頭をなでてくれた。



 それから少しして彼と一緒に人っけのないド田舎に引っ越した。少し不便なところもあるが、彼は人目を気にしなくて良くて楽だ、と言っていた。

 彼は結婚を前提に付き合ってくれ、と、言ったがこれではもうほぼ結婚に近いのではないか? 
と思う。

……まぁなんにせよアタシは幸せだ。今はそれだけでいい気もする。


 春が終わり夏が近づき雨が降る時期になった。
アタシは雨が嫌いだった。でも最近雨の日に外を歩くのも少し良いかなとも思ってるんだ。

――狭いカサの中2人でくっついて居られるから――
16/10/13 00:13更新 / ポルックス

■作者メッセージ
 読んで頂きありがとうございます。小説などを投稿したことがないので、どう書こうとても苦戦しました……紅葉の季節に書き出したはずが一度断念してこんな時期に……
 文章に何度も修正をかけたのでおかしなところがあるかもしれません。
 ここが良かった。ここはこうした方が良いなど様々な意見を、今後に生かしていきたいと思っているので、どんな感想でも書いていただけるとうれしいです。

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