四つ目の話〜牧場物語〜
――んぁっ、ふぅ……んっ……
――ん…れぇあ……んちゅっ……
夢を見た。正確に言えば夢のような出来事を見た。
それは彼がこの家に来た頃のこと。禁欲生活のようなことをしたあげく、暫くすると禁欲していたことすら忘れて三人でずっと繋がりっぱなしになってしまっていたこと。そんなことをしていたせいで生活が大変なことになってしまったこと。
――んっ、ふふっ……眠ってるのに、ここは起きてるんですね…
――毛に包まれてぐっすり。ほぉら、大好きな羊の舌ですよぉ?
彼女たちと繋がってから、彼の生活は一変したと言っても過言ではない。
彼女たちの乳をこれでもかと搾り、むしゃぶりつき揉みしだく。胸枕はおろか、Wパイズリ、母乳プレイだってしてもらった。代わりに、彼女たちの要望で授乳手コキなんかもやらされたし、野外プレイとか、家畜プレイとかやらされたりもした。
教団時代が嘘のような堕落と快楽の生活。だが、それは彼にとって心地よい物であった。
心地よい、とは言うがそれは下の世話とかそういうものではない。
彼女たちの人柄に触れ、共に暮らし、生きる為に畑を耕し、商いをこなす。常に敵を警戒し、魔物は敵と定めて剣を振り回す。毎日毎日主神への祈りの言葉を叫び、同僚が魔物に連れ去られる姿を見るしかない。そんな息のつまる生活をしていた教団時代のことを考えると、ここまでのびのびと穏やかに暮らしているのは本当に夢のようだ。
だが、夢ではない。ホルスタウロスとワーシープという二人の魔物。全く違う種族であるそんな二人と共に暮らす生活は本当に日々が楽しく、気持ちが良い。
これは結構ふしだらで不真面目な考えだろうが、愛している、愛したいと思った二人の女性と共にこうして穏やかに暮らすと言うのは中々良いことなのではないだろうか。ここならば教団の手が届くことは無いだろうし、仮に襲われたら自分が打って出ればいい話。
上に跨られて、巨大な乳房をゆっさゆっさと揺らしながら淫らに舞う牛の女性の夢を見ながら彼はそんなことを考えていた。
――ああ、夢なのに本当に気持ちいい。下半身が本当に彼女たちに包まれているようだ…。
――ふふ、ビクビクしてますね…。でそうなんですか?
――いいよぉ? ほぉら、大好きなおっぱいで挟んであげるから、ね?
「――ん?」
彼がそれに気づくのは必然であった。
微睡の中で響く愛しい二つの声。そして下半身を覆う温もり。夢でありながら味わえる甘美な感覚に、おや、と首を傾げる彼。
すると、彼の意識は一気に浮上した。
「あ、おはようございます。カイさん」
「おはよぉ、あ、な、た?」
「んぁ? …ああ、ティーアにアリス。おはようそしてありがとう」
彼が起きたことを確認して、微笑みながら挨拶をしてくれる二人。その微笑みはまるで妖精のような可愛らしさと美しさを醸し出しているが、問題はその格好であった。
ティーアもアリスもどちらも顔と言わず髪と言わず白濁液を垂らし、彼女たちの純白の乳房に彼の凶悪な逸物を収めている。勿論上半身は裸。良く見れば下半身にも何も履いていないことが伺える。
そんな二人に対して行った反応が、ありがとう。なぜかなんて分かり切っていることだ。
ただでさえ性欲の強い彼。そんな彼の長年の夢である、朝立ちを収めてくれる可愛くてエロい恋人。それが一日と言わず、つながったその日から今までずっと叶っているのだ。今だけなら彼女たちだけでなく、主神にだって感謝しても良いと思ってしまう彼はきっと悪くない。
「もう、なんでお礼言うんですか」
「あなたはそのままゆっくりしててねぇ?」
おかしそうにふふ、と笑うティーア。
己のセックスアピールに対してこうした反応をしっかりと返してもらえると言うのは、魔物として、何より女性として満たされるものがあるのだろう。先程よりもより強く情の炎を燃え上がらせた二人は、トロトロと溢れる母乳をお互いに掛け合いながら彼の逸物を丁寧に擦り上げる。
「くぉ!?」
「気持ちいい〜?」
「ああ、もう…最高…」
感無量と言った風に心の底から声を出すカイに、二人は嬉しそうに笑みを深め、その身体は喜びを表すようにより体内からむせるような雌の匂いを噴出させる。
ホルスタウロスにとって胸とは生活に必要な道具であると同時に、彼女たちの種族を表し、彼女たちの魅力を伝える為のアイデンティティのようなものである。これは、ワーシープでありながら母乳を生活の基盤の一部としているアリスも同じ。
そんな彼女たちにとって、こうして愛しい男性が自分たちの大切なところで気持ち良くなっているという事実は、何物にも代えがたい。心が満たされる感覚に突き動かされるように乳房を寄せ合い、逸物に密着させる。
これは堪らない。
手で揉むだけで射精しそうになるくらい心地の良い二人の乳房。揉んでも揉んでも揉み飽きさせないそのどこまでも深い柔らかさとまるで高級な絹にでも包まれているような心地よさは、二人の母乳と言う潤滑油とグロテスクな逸物を乱れる二人の胸に擦らせるという視覚的刺激によって射精に導かれる。
「あ、やべっ――うっ!?」
「んっ! あ」
「一杯…すごい…」
あまりの心地よさに身を任せすぎていたために射精のタイミングを把握できず、思わず射精してしまう彼。
普段からホルスタウロスのミルクを直飲みしていることもあるのだろう。射精機能が増強されている彼の逸物からは、まるで間欠泉のように白濁液が吹き出し、逸物が射精の度にビクビクと跳ねることで、彼女たちの身体に精液がまき散らされる。
まるで自分のものであるとマーキングするかのように次々と彼女たちに降り注ぐドロドロとした精液。鼻に絡みつく精液の匂いに恍惚の笑みを浮かべる二人は、数秒たってもまだビクビクと精液を吐き出し続ける逸物を見てギュッと胸を寄せる。
「うあっ!?」
「あぅ……む、んちゅっ…」
「はふっ、ん、れぇぁ……ふっ、ん…」
乳肌が擦れ合い、射精直後の敏感な逸物が跳ねる。ピュッと大きく跳ねる亀頭を舌で捕らえた二人は、そのまま豊満な乳肉で竿を固定するとまるでアイスクリームでも舐めるように鈴口から溢れる精液を舌でねめとる。
そのあまりにもねっとりとした二人の奉仕に精液を漏らしながら呻き声をあげる彼。玉の中身を全てねめとらんとする二人の舌技は射精を終えても終わることは無く、そのザラザラとした舌で再度射精を促そうと蛇のように亀頭に絡みつく。
「ぐっ、ちょっと、ちょっと待ってくれ二人とも!」
「どうしたんですか?」
「満足してないよねぇ?」
彼の静止を受けて止まる二人。しかし、折角の奉仕を受け入れてもらえないと言うのは不満らしく、どちらもむっと不満そうに頬を膨らませている。
「その、俺も二人と一緒に楽しみたいって気持ちはあるんだけど、ほら、まだ畑仕事もあるし、乳搾りだってあるだろ? 出荷もさ」
「むぅ、それもそうですけど……」
「でもぉ…」
彼女たちも只々繋がり続けるだけという爛れた生活は良くないということは分かっているのだろう。それは理解しているが、それと心は別問題と言ったところか。
それは彼とて一緒のことだ。彼女たちの中で最低でも二、三発は放出しないと満足しなくなってしまった身体ではどれだけ奉仕されてもされ足りないという気持ちはある。だがそのせいで自分の生活を疎かにするわけにもいかないし、やはり彼女たちのミルクが評価されていると言うのは同じ仕事仲間として誇り高い。
ここで評価を落とすのも悪いことだし、と理屈で欲望を抑えつつ起き上がった彼は二人の身体をぐいっと引っ張った。
「ひゃっ!?」
「んっ……良い匂い」
「明後日からは二日三日休みだろ? その時に目一杯楽しめばいいじゃないか。我慢するのもありだろ」
笑いながらの提案に、二人も渋々と言った風に頷くのだが、言ってる本人の股間は今にも彼女たちに襲い掛かりそうなほど凶悪な角度を保っているし、ティーアは母乳の垂れる乳房をこれでもかと押し付けているし、アリスは自慢の羊毛を彼の身体に押し付けている。
「ってこらアリス!」
「いったぁい!?」
「ったく、寝かせようとするな…」
「えー、でも満足――」
「あああああ!! はいとりあえず飯にしよう飯に!!」
二人の手を取り立ち上がると、彼は立ち上がって風呂場に向かうことにする。
とりあえず身体を清め、そしてご飯を食べないと。
尚、身体を清める目的で三人で一緒に水浴びをした結果互いの身体を隅々まで洗いっこするハメになるのは当然のことと言えよう。
※※※※※※※
「――ふぅ、えらい目にあった…」
畑に鍬を振り下ろしながら、カイはそう呟いた。
身体を清めると言った端から水浴びで彼女たちに精液をぶちまけ、身体の隅々までしっかり洗わないとなという名目の元自慢の逸物を彼女たちの膣内に突っ込んで中出しすること合計八回。
乳搾りをすることになって二人の乳を絞るのに、後ろからじゃないと乳を絞らせてもらえないので後ろに回れば、ティーアのムチムチした巨尻に我慢できなくなって挿入。乳を搾りながら三発。アリスの太腿に挟まれて一発と、乳搾りながら中に三発。
自分のことながら異常な射精量である。しかも勢いは萎えることは無い。いくら普段から精のつく料理を食べているからと言っても限度がある。もしかしたら既に魔物化しているのかもしれないなどと考えつつ、彼は畑の土を弄る。
今彼が育てている作物は、芋とニンジンなどの野菜。そして魔界の植物である虜の果実など。
魔界の作物は、魔物が合体して居れば自然と成長するものという話を聞くが、やはり土いじりがしたい彼としてはただ放置しておくことはあまりしたくない。それに、彼自身いくら魔物のことが好きと言っても人間としての生活に未練が無いと言うわけではなく、あくまでも魔物を隣人として人間として生活していくことを考えている。
そう言った考えにより、彼はこうしてしっかりと魔界の植物と人間の植物を一緒に育てているのだ。
「うーん、でもいつかこの畑も野菜とか育てなくなるのかねぇ…」
彼女たちの元にやってきてからこの方土いじりなどを専門に仕事をしてきたせいか、土いじりに愛着が湧いていることもあって、将来的に世話をしないようになるのは避けたいなと考える。
そうやってブツブツ呟きながら農作業をしていた彼だが、ふと遠くの方から声が聞こえたのでそちらを見上げる。
この牧場にやってくるのは商人の刑部狸や近所の夫婦など。それ以外の人間や魔物がこの牧場に近づいてくることはまずない。ならば教団かとも考えられるが、教団の兵士がこの牧場に近づけるとも思えないし、第一教団ならこんな楽しそうに談笑しながら歩いてくるなんてありえない。
「――でね?」
「…な――」
遠くの方から歩いてくるのは、露出の激しい女性二人と、女性と比べると頭一つ以上高い身長の男性。
女性の方は、一人は胸元がハート型にくり抜かれた水着のような服に身を包み、もう一方はまるでヒモのような形状の布を胸に巻き、腰はダボダボのズボンを履いている。
羊のように巻かれた角、腰からはえた翼。サキュバス種のようだ。
はて、と彼は首を傾げる。確かにサキュバスの夫婦も居ると言えば居るが、あんな夫婦は見たことが無いし、何より魔物の夫婦でありながら一夫多妻せいというのも驚きだ。
魔物は基本的に一夫一妻。中には様々な種族の魔物を妻としている業の深い者もいるようだが、ありあまる魅力故に男性は一人の魔物を相手にするので精一杯。
しかも、サキュバスと言えばThisisThe魔物と言っても過言ではない存在。その好色性とエロさは他の魔物の追随を許さない。そんな魔物を二人妻にしているとは、あの男は中々業が深い者と見た。
と、相手側も気づいたらしい――のだが、なぜかサキュバス側の中で一番小柄なヒモロリ爆乳サキュバスがこちらに向かって突っ込んでくる。
「ぉお――」
「ん? んん?」
一体どうしたのだろうか。ドンドンと速度を上げる彼女に目を細めるカイ。
シルエットが徐々にハッキリとしてくる。ロリ、というよりは中性的と言ったほうがいいか。少しだけ男っぽさのある顔立ちをしたヒモロリ爆乳サキュバス。だが彼はその顔に何か引っかかる物を感じた。
奥の方を伺えば、身長の高い水着サキュバスと業の深そうな男も走ってきている。その男、微かに把握できる顔のパーツが彼の脳裏に電撃をはしらせる。
「たいちょぉおおおお!!」
「ネル!? 何故ネルが女性に!? なったのか、まさか自力で想いを伝え女体化を!? ねるぅぼぉああああ!?」
ヒモロリ爆乳アルプこと、ネル、渾身の頭突きである。
見事に鳩尾に角を食い込ませたカイは、そのまま畑に崩れ落ちる。
「……わぁああああ!? 大丈夫ですかたいちょぉぉおお!?」
「ネル、お前……まさか」
「まさか人間を傷つけられない魔物の制約を破る――恐ろしい子ッ!!」
「ちょっと本気で引かないでくださいよ先輩!! お姉さまも止めて!!」
カイの率いていた部隊の二人。
むっつりスケベ、ウィル。そんなアルスを愛して止まなかった重たい男の娘、現在ロリ系爆乳娘、ネル。そしてそんな二人をくっつけつつ自分は夫と妹兼娘を手に入れると言う高度な家族計画を成功させたサキュバス、プルス。
彼の上で行われているそんな三人のやり取りは、騒ぎを聞きつけてやってきたティーアとアリスが彼の上にのっているネルに激怒するまで収まらないのであった。
「す、すいません……」
出会ったときの勢いは何処へやら。まるで借りてきた猫のように首を竦めてシュンとソファに座るネル。
そんな彼女を見てカイは思わず苦笑しながら言う。
「構わねえよ。行き先言わずに脱走した俺が原因なわけだしな」
しかし、と彼は目の前に居る二人の姿を見る。
プルスと名乗ったサキュバスは――まあ、胸の突起が分かってしまうほど薄い生地と大きく開いた穴。そして下半身も明らかにそういう行為をしやすいように考えられた薄く狭い布地。百歩譲ってサキュバスだから良いとして、問題はその隣だ。
爆乳である。大きなおっぱいである。まさしくおっぱいである。おっぱいである。ギリギリ乳首と乳輪の見えないクロスされた紐のような布が一枚。ソレに対して下半身は男物のズボン。だが、あの感じからして脱がしやすいように態と大き目のズボンにしている可能性がある。というかチャックの位置が明らかに下過ぎる。コレ何をするための穴なんですかねぇ。
そんな彼女たちの服装を見ていれば、自然と彼のことも分かってくる。
「…ウィル」
「なんだよ隊長」
「この、ムッツリスケベがッ!!」
吠える。それはもう全力で吠える。
「なんだよお前マジでどういうことだ!! サキュバスの方は百歩譲って許すけどよ、ネルちゃんは駄目だろネルちゃんは!! お前、よりによって元後輩に対してなんだこのけしからん格好は!! 何ですか? 露出プレイ中ってか? ええ?」
「そんなことするはずないだろうが馬鹿!! それにそれはネルが好きでやってるだけであって――」
「なるほど、つまり隙あらば胸にむしゃぶりついてくるウィルの気持ちを汲んだネルちゃんの愛の証と言うわけだ」
「うぐっ!?」
「お前、あれだろ、隙あらば揉む奴だろ。野外でも屋内でも隙あらば乳房揉みしだいて乳首弄りたい奴だろ。でも素直に欲望を曝け出せないからそうやってネルちゃんが意志を汲んであえて露出の高い服を着てくれることを待ってんだろ?」
「ごふぁ!?」
「しかもズボン、ズボンか…あえて男物のようなものを着させることで背徳感倍プッシュだな。更に言うなら下にある穴から何かを出し入れすればどこでも一緒と言うわけだ。いやぁ、素晴らしい欲望だな。流石我が部隊員。隊長として鼻が高いな」
「ぐわぁああああ!! やめろぉおおおお!!」
頭を抱えて悶え苦しむウィル。
いくら魔物の恋人が居て、あんなことやこんなことをしたと言ってもやはり他人から己の欲望を曝け出されるのは辛いようだ。
それを見て愉悦ッと言わんばかりにニヤニヤと表情を歪めるカイ。そこにはいつもティーアたちに見せるものとはまた違った、旧知の仲であるが故の遠慮無さと幸せがあった。
※※※※※※
「凄い賑やかでしたね」
食後のミルクを出しながらティーアが微笑む。
事実、今日の牧場はいつもの数倍は賑やかだった。
カイがアルスをからかって怒らせる。カイがアルスをけしかけて二人とあんなことやこんなことをさせる。カイがアルスをからかって決闘になる。九割九分九厘どこぞの元教団兵共がうるさかっただけだが、それでもティーアたちにとってまだ知らないカイが見れたと言うのはそれだけでも嬉しいことであった。
それに、魔物は魔物同士で情報交換を行えたのでそちらも有意義であったのだが。
「うん。楽しかったねぇ」
いつものように間延びした言葉だが、アリスも嬉しそうである。
だが、カイだけは一人難しい顔をして何かを考えているようであった。
そんな彼の表情を見て、どうかしたのかと心配になる二人。しかし、声をかけることはない。何故なら、彼がそういう表情をしている時は常に彼女たちのことを考えているときだからだ。
そして、考えがまとまったらしい彼は真剣な表情で二人を見る。
「ティーア、アリス」
いつになく真剣な様子の彼に、二人も居住まいを正す。
一体何を言うのだろうか。彼を不思議そうに見上げる彼女たちを見て、彼は静かに目を閉じると、膝を着いて頭を垂れた。
それは、教団の兵士が司祭などに対して行う敬礼の姿。わが身を捧げるという意味があるとされる姿勢。
「どうか、俺と一緒になってくれないだろうか!!」
静かに、だが力強く彼は言う。
「二人一緒に、なんて不純極まりないと思うし、何事かと思うだろう。けど、俺は二人と共にありたいと思った。ただ、ホルスタウロスが好きとか、ワーシープが好きとか、そういうんじゃない。巨乳が好きとかそういうのでもない。俺は、ティーアとアリスという女性と共にこの牧場で過ごしたい。今みたいな居候で肉欲で繋がるんじゃない。俺はお前たちを愛し、そして幸せにしたい!! だから、どうか俺と一緒になってくれないか!!」
主神に祈る様に、全てを捧げる覚悟で言葉を贈る。
彼女たちがどう答えるか、それは分からない。だが、ただ欲望のままにつながるのは駄目だと思ったのだ。
アルスは確かにムッツリスケベで彼女に欲望丸出しであるが、彼とネルたちの間には確かな信頼と愛情があった。だから彼女たちもああいう服装を許していたのだろう。まあ、本人たちの適性もあるのだろうが。
そうした皆の姿を見ていて、自分は果たして彼女たちにああいう表情をさせられているだろうか、と考えたのだ。
あのような幸せそうな姿を、自分は自分の欲望のためだけにこの牧場に来て、欲望のままに振る舞ってきた。それは彼女たちの表情を曇らせているのではないか。
これは、告白だ。愛の告白であると同時に、自分の告白。
どう転ぶにせよ、今までのようにはいかないだろう。この牧場から出ていけと言われることもあるかもしれない。だが、それは仕方のないことだ。
頭を垂れる彼の視界がふっと暗くなる。それは影がさしたからだ。近づく二つの気配。
自分は一体どうなるのか。だがそれは彼女たちに任せるとしよう。
――アッー!?
その日から数日間、とある村はずれの牧場から野獣の如き咆哮が延々と響き渡ったと言う。屋内外あらゆる場所から濃い濃厚な香りが放たれ、至る所に白濁液が落ちていた、という話だ。
とある森、とある村の外れに、カイリス牧場と言う名前の牧場がある。
そこでは多くの牛や羊、馬や山羊が暮らしており、その乳や畑でとれた作物を出荷することで生活しているのだと言う。
そこの名物は、世にも珍しい羊のミルクと、牛のミルク。どちらも濃厚な味わいをしており、この牧場で一番人気のようだ。
また、そんな牧場は、一人の夫と複数名の妻が経営していることでも有名である。しかも、夫は有名な教団の兵士であったということなのだが、そんな夫は現在妻と一緒に仲良くイチャイチャと暮らしており、魔物たちの間――特に教団の兵士に気がある魔物たちの間では、この牧場の作物を食べれば夫婦のように暖かく淫らな夫婦になることができるというジンクスが出来ているようである…。
――ん…れぇあ……んちゅっ……
夢を見た。正確に言えば夢のような出来事を見た。
それは彼がこの家に来た頃のこと。禁欲生活のようなことをしたあげく、暫くすると禁欲していたことすら忘れて三人でずっと繋がりっぱなしになってしまっていたこと。そんなことをしていたせいで生活が大変なことになってしまったこと。
――んっ、ふふっ……眠ってるのに、ここは起きてるんですね…
――毛に包まれてぐっすり。ほぉら、大好きな羊の舌ですよぉ?
彼女たちと繋がってから、彼の生活は一変したと言っても過言ではない。
彼女たちの乳をこれでもかと搾り、むしゃぶりつき揉みしだく。胸枕はおろか、Wパイズリ、母乳プレイだってしてもらった。代わりに、彼女たちの要望で授乳手コキなんかもやらされたし、野外プレイとか、家畜プレイとかやらされたりもした。
教団時代が嘘のような堕落と快楽の生活。だが、それは彼にとって心地よい物であった。
心地よい、とは言うがそれは下の世話とかそういうものではない。
彼女たちの人柄に触れ、共に暮らし、生きる為に畑を耕し、商いをこなす。常に敵を警戒し、魔物は敵と定めて剣を振り回す。毎日毎日主神への祈りの言葉を叫び、同僚が魔物に連れ去られる姿を見るしかない。そんな息のつまる生活をしていた教団時代のことを考えると、ここまでのびのびと穏やかに暮らしているのは本当に夢のようだ。
だが、夢ではない。ホルスタウロスとワーシープという二人の魔物。全く違う種族であるそんな二人と共に暮らす生活は本当に日々が楽しく、気持ちが良い。
これは結構ふしだらで不真面目な考えだろうが、愛している、愛したいと思った二人の女性と共にこうして穏やかに暮らすと言うのは中々良いことなのではないだろうか。ここならば教団の手が届くことは無いだろうし、仮に襲われたら自分が打って出ればいい話。
上に跨られて、巨大な乳房をゆっさゆっさと揺らしながら淫らに舞う牛の女性の夢を見ながら彼はそんなことを考えていた。
――ああ、夢なのに本当に気持ちいい。下半身が本当に彼女たちに包まれているようだ…。
――ふふ、ビクビクしてますね…。でそうなんですか?
――いいよぉ? ほぉら、大好きなおっぱいで挟んであげるから、ね?
「――ん?」
彼がそれに気づくのは必然であった。
微睡の中で響く愛しい二つの声。そして下半身を覆う温もり。夢でありながら味わえる甘美な感覚に、おや、と首を傾げる彼。
すると、彼の意識は一気に浮上した。
「あ、おはようございます。カイさん」
「おはよぉ、あ、な、た?」
「んぁ? …ああ、ティーアにアリス。おはようそしてありがとう」
彼が起きたことを確認して、微笑みながら挨拶をしてくれる二人。その微笑みはまるで妖精のような可愛らしさと美しさを醸し出しているが、問題はその格好であった。
ティーアもアリスもどちらも顔と言わず髪と言わず白濁液を垂らし、彼女たちの純白の乳房に彼の凶悪な逸物を収めている。勿論上半身は裸。良く見れば下半身にも何も履いていないことが伺える。
そんな二人に対して行った反応が、ありがとう。なぜかなんて分かり切っていることだ。
ただでさえ性欲の強い彼。そんな彼の長年の夢である、朝立ちを収めてくれる可愛くてエロい恋人。それが一日と言わず、つながったその日から今までずっと叶っているのだ。今だけなら彼女たちだけでなく、主神にだって感謝しても良いと思ってしまう彼はきっと悪くない。
「もう、なんでお礼言うんですか」
「あなたはそのままゆっくりしててねぇ?」
おかしそうにふふ、と笑うティーア。
己のセックスアピールに対してこうした反応をしっかりと返してもらえると言うのは、魔物として、何より女性として満たされるものがあるのだろう。先程よりもより強く情の炎を燃え上がらせた二人は、トロトロと溢れる母乳をお互いに掛け合いながら彼の逸物を丁寧に擦り上げる。
「くぉ!?」
「気持ちいい〜?」
「ああ、もう…最高…」
感無量と言った風に心の底から声を出すカイに、二人は嬉しそうに笑みを深め、その身体は喜びを表すようにより体内からむせるような雌の匂いを噴出させる。
ホルスタウロスにとって胸とは生活に必要な道具であると同時に、彼女たちの種族を表し、彼女たちの魅力を伝える為のアイデンティティのようなものである。これは、ワーシープでありながら母乳を生活の基盤の一部としているアリスも同じ。
そんな彼女たちにとって、こうして愛しい男性が自分たちの大切なところで気持ち良くなっているという事実は、何物にも代えがたい。心が満たされる感覚に突き動かされるように乳房を寄せ合い、逸物に密着させる。
これは堪らない。
手で揉むだけで射精しそうになるくらい心地の良い二人の乳房。揉んでも揉んでも揉み飽きさせないそのどこまでも深い柔らかさとまるで高級な絹にでも包まれているような心地よさは、二人の母乳と言う潤滑油とグロテスクな逸物を乱れる二人の胸に擦らせるという視覚的刺激によって射精に導かれる。
「あ、やべっ――うっ!?」
「んっ! あ」
「一杯…すごい…」
あまりの心地よさに身を任せすぎていたために射精のタイミングを把握できず、思わず射精してしまう彼。
普段からホルスタウロスのミルクを直飲みしていることもあるのだろう。射精機能が増強されている彼の逸物からは、まるで間欠泉のように白濁液が吹き出し、逸物が射精の度にビクビクと跳ねることで、彼女たちの身体に精液がまき散らされる。
まるで自分のものであるとマーキングするかのように次々と彼女たちに降り注ぐドロドロとした精液。鼻に絡みつく精液の匂いに恍惚の笑みを浮かべる二人は、数秒たってもまだビクビクと精液を吐き出し続ける逸物を見てギュッと胸を寄せる。
「うあっ!?」
「あぅ……む、んちゅっ…」
「はふっ、ん、れぇぁ……ふっ、ん…」
乳肌が擦れ合い、射精直後の敏感な逸物が跳ねる。ピュッと大きく跳ねる亀頭を舌で捕らえた二人は、そのまま豊満な乳肉で竿を固定するとまるでアイスクリームでも舐めるように鈴口から溢れる精液を舌でねめとる。
そのあまりにもねっとりとした二人の奉仕に精液を漏らしながら呻き声をあげる彼。玉の中身を全てねめとらんとする二人の舌技は射精を終えても終わることは無く、そのザラザラとした舌で再度射精を促そうと蛇のように亀頭に絡みつく。
「ぐっ、ちょっと、ちょっと待ってくれ二人とも!」
「どうしたんですか?」
「満足してないよねぇ?」
彼の静止を受けて止まる二人。しかし、折角の奉仕を受け入れてもらえないと言うのは不満らしく、どちらもむっと不満そうに頬を膨らませている。
「その、俺も二人と一緒に楽しみたいって気持ちはあるんだけど、ほら、まだ畑仕事もあるし、乳搾りだってあるだろ? 出荷もさ」
「むぅ、それもそうですけど……」
「でもぉ…」
彼女たちも只々繋がり続けるだけという爛れた生活は良くないということは分かっているのだろう。それは理解しているが、それと心は別問題と言ったところか。
それは彼とて一緒のことだ。彼女たちの中で最低でも二、三発は放出しないと満足しなくなってしまった身体ではどれだけ奉仕されてもされ足りないという気持ちはある。だがそのせいで自分の生活を疎かにするわけにもいかないし、やはり彼女たちのミルクが評価されていると言うのは同じ仕事仲間として誇り高い。
ここで評価を落とすのも悪いことだし、と理屈で欲望を抑えつつ起き上がった彼は二人の身体をぐいっと引っ張った。
「ひゃっ!?」
「んっ……良い匂い」
「明後日からは二日三日休みだろ? その時に目一杯楽しめばいいじゃないか。我慢するのもありだろ」
笑いながらの提案に、二人も渋々と言った風に頷くのだが、言ってる本人の股間は今にも彼女たちに襲い掛かりそうなほど凶悪な角度を保っているし、ティーアは母乳の垂れる乳房をこれでもかと押し付けているし、アリスは自慢の羊毛を彼の身体に押し付けている。
「ってこらアリス!」
「いったぁい!?」
「ったく、寝かせようとするな…」
「えー、でも満足――」
「あああああ!! はいとりあえず飯にしよう飯に!!」
二人の手を取り立ち上がると、彼は立ち上がって風呂場に向かうことにする。
とりあえず身体を清め、そしてご飯を食べないと。
尚、身体を清める目的で三人で一緒に水浴びをした結果互いの身体を隅々まで洗いっこするハメになるのは当然のことと言えよう。
※※※※※※※
「――ふぅ、えらい目にあった…」
畑に鍬を振り下ろしながら、カイはそう呟いた。
身体を清めると言った端から水浴びで彼女たちに精液をぶちまけ、身体の隅々までしっかり洗わないとなという名目の元自慢の逸物を彼女たちの膣内に突っ込んで中出しすること合計八回。
乳搾りをすることになって二人の乳を絞るのに、後ろからじゃないと乳を絞らせてもらえないので後ろに回れば、ティーアのムチムチした巨尻に我慢できなくなって挿入。乳を搾りながら三発。アリスの太腿に挟まれて一発と、乳搾りながら中に三発。
自分のことながら異常な射精量である。しかも勢いは萎えることは無い。いくら普段から精のつく料理を食べているからと言っても限度がある。もしかしたら既に魔物化しているのかもしれないなどと考えつつ、彼は畑の土を弄る。
今彼が育てている作物は、芋とニンジンなどの野菜。そして魔界の植物である虜の果実など。
魔界の作物は、魔物が合体して居れば自然と成長するものという話を聞くが、やはり土いじりがしたい彼としてはただ放置しておくことはあまりしたくない。それに、彼自身いくら魔物のことが好きと言っても人間としての生活に未練が無いと言うわけではなく、あくまでも魔物を隣人として人間として生活していくことを考えている。
そう言った考えにより、彼はこうしてしっかりと魔界の植物と人間の植物を一緒に育てているのだ。
「うーん、でもいつかこの畑も野菜とか育てなくなるのかねぇ…」
彼女たちの元にやってきてからこの方土いじりなどを専門に仕事をしてきたせいか、土いじりに愛着が湧いていることもあって、将来的に世話をしないようになるのは避けたいなと考える。
そうやってブツブツ呟きながら農作業をしていた彼だが、ふと遠くの方から声が聞こえたのでそちらを見上げる。
この牧場にやってくるのは商人の刑部狸や近所の夫婦など。それ以外の人間や魔物がこの牧場に近づいてくることはまずない。ならば教団かとも考えられるが、教団の兵士がこの牧場に近づけるとも思えないし、第一教団ならこんな楽しそうに談笑しながら歩いてくるなんてありえない。
「――でね?」
「…な――」
遠くの方から歩いてくるのは、露出の激しい女性二人と、女性と比べると頭一つ以上高い身長の男性。
女性の方は、一人は胸元がハート型にくり抜かれた水着のような服に身を包み、もう一方はまるでヒモのような形状の布を胸に巻き、腰はダボダボのズボンを履いている。
羊のように巻かれた角、腰からはえた翼。サキュバス種のようだ。
はて、と彼は首を傾げる。確かにサキュバスの夫婦も居ると言えば居るが、あんな夫婦は見たことが無いし、何より魔物の夫婦でありながら一夫多妻せいというのも驚きだ。
魔物は基本的に一夫一妻。中には様々な種族の魔物を妻としている業の深い者もいるようだが、ありあまる魅力故に男性は一人の魔物を相手にするので精一杯。
しかも、サキュバスと言えばThisisThe魔物と言っても過言ではない存在。その好色性とエロさは他の魔物の追随を許さない。そんな魔物を二人妻にしているとは、あの男は中々業が深い者と見た。
と、相手側も気づいたらしい――のだが、なぜかサキュバス側の中で一番小柄なヒモロリ爆乳サキュバスがこちらに向かって突っ込んでくる。
「ぉお――」
「ん? んん?」
一体どうしたのだろうか。ドンドンと速度を上げる彼女に目を細めるカイ。
シルエットが徐々にハッキリとしてくる。ロリ、というよりは中性的と言ったほうがいいか。少しだけ男っぽさのある顔立ちをしたヒモロリ爆乳サキュバス。だが彼はその顔に何か引っかかる物を感じた。
奥の方を伺えば、身長の高い水着サキュバスと業の深そうな男も走ってきている。その男、微かに把握できる顔のパーツが彼の脳裏に電撃をはしらせる。
「たいちょぉおおおお!!」
「ネル!? 何故ネルが女性に!? なったのか、まさか自力で想いを伝え女体化を!? ねるぅぼぉああああ!?」
ヒモロリ爆乳アルプこと、ネル、渾身の頭突きである。
見事に鳩尾に角を食い込ませたカイは、そのまま畑に崩れ落ちる。
「……わぁああああ!? 大丈夫ですかたいちょぉぉおお!?」
「ネル、お前……まさか」
「まさか人間を傷つけられない魔物の制約を破る――恐ろしい子ッ!!」
「ちょっと本気で引かないでくださいよ先輩!! お姉さまも止めて!!」
カイの率いていた部隊の二人。
むっつりスケベ、ウィル。そんなアルスを愛して止まなかった重たい男の娘、現在ロリ系爆乳娘、ネル。そしてそんな二人をくっつけつつ自分は夫と妹兼娘を手に入れると言う高度な家族計画を成功させたサキュバス、プルス。
彼の上で行われているそんな三人のやり取りは、騒ぎを聞きつけてやってきたティーアとアリスが彼の上にのっているネルに激怒するまで収まらないのであった。
「す、すいません……」
出会ったときの勢いは何処へやら。まるで借りてきた猫のように首を竦めてシュンとソファに座るネル。
そんな彼女を見てカイは思わず苦笑しながら言う。
「構わねえよ。行き先言わずに脱走した俺が原因なわけだしな」
しかし、と彼は目の前に居る二人の姿を見る。
プルスと名乗ったサキュバスは――まあ、胸の突起が分かってしまうほど薄い生地と大きく開いた穴。そして下半身も明らかにそういう行為をしやすいように考えられた薄く狭い布地。百歩譲ってサキュバスだから良いとして、問題はその隣だ。
爆乳である。大きなおっぱいである。まさしくおっぱいである。おっぱいである。ギリギリ乳首と乳輪の見えないクロスされた紐のような布が一枚。ソレに対して下半身は男物のズボン。だが、あの感じからして脱がしやすいように態と大き目のズボンにしている可能性がある。というかチャックの位置が明らかに下過ぎる。コレ何をするための穴なんですかねぇ。
そんな彼女たちの服装を見ていれば、自然と彼のことも分かってくる。
「…ウィル」
「なんだよ隊長」
「この、ムッツリスケベがッ!!」
吠える。それはもう全力で吠える。
「なんだよお前マジでどういうことだ!! サキュバスの方は百歩譲って許すけどよ、ネルちゃんは駄目だろネルちゃんは!! お前、よりによって元後輩に対してなんだこのけしからん格好は!! 何ですか? 露出プレイ中ってか? ええ?」
「そんなことするはずないだろうが馬鹿!! それにそれはネルが好きでやってるだけであって――」
「なるほど、つまり隙あらば胸にむしゃぶりついてくるウィルの気持ちを汲んだネルちゃんの愛の証と言うわけだ」
「うぐっ!?」
「お前、あれだろ、隙あらば揉む奴だろ。野外でも屋内でも隙あらば乳房揉みしだいて乳首弄りたい奴だろ。でも素直に欲望を曝け出せないからそうやってネルちゃんが意志を汲んであえて露出の高い服を着てくれることを待ってんだろ?」
「ごふぁ!?」
「しかもズボン、ズボンか…あえて男物のようなものを着させることで背徳感倍プッシュだな。更に言うなら下にある穴から何かを出し入れすればどこでも一緒と言うわけだ。いやぁ、素晴らしい欲望だな。流石我が部隊員。隊長として鼻が高いな」
「ぐわぁああああ!! やめろぉおおおお!!」
頭を抱えて悶え苦しむウィル。
いくら魔物の恋人が居て、あんなことやこんなことをしたと言ってもやはり他人から己の欲望を曝け出されるのは辛いようだ。
それを見て愉悦ッと言わんばかりにニヤニヤと表情を歪めるカイ。そこにはいつもティーアたちに見せるものとはまた違った、旧知の仲であるが故の遠慮無さと幸せがあった。
※※※※※※
「凄い賑やかでしたね」
食後のミルクを出しながらティーアが微笑む。
事実、今日の牧場はいつもの数倍は賑やかだった。
カイがアルスをからかって怒らせる。カイがアルスをけしかけて二人とあんなことやこんなことをさせる。カイがアルスをからかって決闘になる。九割九分九厘どこぞの元教団兵共がうるさかっただけだが、それでもティーアたちにとってまだ知らないカイが見れたと言うのはそれだけでも嬉しいことであった。
それに、魔物は魔物同士で情報交換を行えたのでそちらも有意義であったのだが。
「うん。楽しかったねぇ」
いつものように間延びした言葉だが、アリスも嬉しそうである。
だが、カイだけは一人難しい顔をして何かを考えているようであった。
そんな彼の表情を見て、どうかしたのかと心配になる二人。しかし、声をかけることはない。何故なら、彼がそういう表情をしている時は常に彼女たちのことを考えているときだからだ。
そして、考えがまとまったらしい彼は真剣な表情で二人を見る。
「ティーア、アリス」
いつになく真剣な様子の彼に、二人も居住まいを正す。
一体何を言うのだろうか。彼を不思議そうに見上げる彼女たちを見て、彼は静かに目を閉じると、膝を着いて頭を垂れた。
それは、教団の兵士が司祭などに対して行う敬礼の姿。わが身を捧げるという意味があるとされる姿勢。
「どうか、俺と一緒になってくれないだろうか!!」
静かに、だが力強く彼は言う。
「二人一緒に、なんて不純極まりないと思うし、何事かと思うだろう。けど、俺は二人と共にありたいと思った。ただ、ホルスタウロスが好きとか、ワーシープが好きとか、そういうんじゃない。巨乳が好きとかそういうのでもない。俺は、ティーアとアリスという女性と共にこの牧場で過ごしたい。今みたいな居候で肉欲で繋がるんじゃない。俺はお前たちを愛し、そして幸せにしたい!! だから、どうか俺と一緒になってくれないか!!」
主神に祈る様に、全てを捧げる覚悟で言葉を贈る。
彼女たちがどう答えるか、それは分からない。だが、ただ欲望のままにつながるのは駄目だと思ったのだ。
アルスは確かにムッツリスケベで彼女に欲望丸出しであるが、彼とネルたちの間には確かな信頼と愛情があった。だから彼女たちもああいう服装を許していたのだろう。まあ、本人たちの適性もあるのだろうが。
そうした皆の姿を見ていて、自分は果たして彼女たちにああいう表情をさせられているだろうか、と考えたのだ。
あのような幸せそうな姿を、自分は自分の欲望のためだけにこの牧場に来て、欲望のままに振る舞ってきた。それは彼女たちの表情を曇らせているのではないか。
これは、告白だ。愛の告白であると同時に、自分の告白。
どう転ぶにせよ、今までのようにはいかないだろう。この牧場から出ていけと言われることもあるかもしれない。だが、それは仕方のないことだ。
頭を垂れる彼の視界がふっと暗くなる。それは影がさしたからだ。近づく二つの気配。
自分は一体どうなるのか。だがそれは彼女たちに任せるとしよう。
――アッー!?
その日から数日間、とある村はずれの牧場から野獣の如き咆哮が延々と響き渡ったと言う。屋内外あらゆる場所から濃い濃厚な香りが放たれ、至る所に白濁液が落ちていた、という話だ。
とある森、とある村の外れに、カイリス牧場と言う名前の牧場がある。
そこでは多くの牛や羊、馬や山羊が暮らしており、その乳や畑でとれた作物を出荷することで生活しているのだと言う。
そこの名物は、世にも珍しい羊のミルクと、牛のミルク。どちらも濃厚な味わいをしており、この牧場で一番人気のようだ。
また、そんな牧場は、一人の夫と複数名の妻が経営していることでも有名である。しかも、夫は有名な教団の兵士であったということなのだが、そんな夫は現在妻と一緒に仲良くイチャイチャと暮らしており、魔物たちの間――特に教団の兵士に気がある魔物たちの間では、この牧場の作物を食べれば夫婦のように暖かく淫らな夫婦になることができるというジンクスが出来ているようである…。
16/04/30 09:21更新 / ソルティ
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