読切小説
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森の教会で二人
「クソッ! こんなところで雨に降られるってんだからやってられっか!」

 泥濘に足を縺れさせながら森の中を全力で駆ける影。
 深く被った外套に、大きな背嚢。そして擦り切れた厚底のブーツ。これらの特徴からして旅人であるということが伺える。
 急な出来事だった。森の中で新しく村を作ろうとしている夫婦が居る、と言う話を聞いて、その噂の森の近くまで来たのは良かった。
 雲一つ無い青空。旅をするには絶好の日だったが、彼が森に入って暫くするとポツと雫が落ちた、と彼が立ち止まり空を見上げるのが早いか急にタライを逆さまにしたような豪雨に見舞われた。
 憎たらしいまでの晴天なのにそんなこと関係ないとばかりに叩き付ける豪雨。狐の嫁入り、と言う言葉が東国にあると聞くが、こんなものは嫁入りで流す物ではない。最早交わりで感極まってぶちまけている潮吹き。狐の潮吹きだ! と良く分からない下らないことを考えながら全力で走る。

「ありゃ建物か!? 助かった!!」

 口に雨水が入ってくるが気にしていられない。非難する場所を見つけられた。それだけで歓喜の声を挙げてしまう。
 目的地が見えたことによって水を吸って重くなっていた装備すら軽く感じる。先程よりも歩調を上げて建物に向かって走り――扉を蹴り破るようにしてその建物に転がり込んだ。

「くはッ! あー、助かったぁ…」

 幾ら旅をしていると言っても足元の悪い場所を全力で走ったのだ。疲労によって思わず床に転げて息を荒げる。
 だが、いつまでも倒れているわけにもいかないと息を整えて立ち上がると周りを見渡した。
 大小様々な損傷個所がある規則正しく並べられた長椅子。窓の豪勢なステンドグラスは神話の一場面でも表現しているのだろうか、数多くの人が描かれており、それが日の光と豪雨を浴びて幻想的に蠢いていた。
 そして何より、祭壇と思わしき場所にある半壊の像。恐らくは昔の教会か何かなのだろう。とりあえず、教会ということは貴賓室や客間、居住スペースなどがあったはずだ。過去に訪れた教会の間取りを思いだしながら歩く。
 ボタボタ、ズルズル、と水を含んで重くなった外套が床を擦る。いくら防水性に富んだ材質であってもあんな馬鹿みたいな雨の前には無力だったらしい。ああ、これじゃあ荷物も全滅かもしれないなと憂鬱な気持ちになりながら奥にある扉を開ける。
 純白の布に包まれた濃いワインレッドの宝石が目の前に広がった。いや、良く見れば人だ。ベールを纏った見麗しい女性。日の光もかくやと言った純白の肌に良く映える濃いワインレッドの瞳。瞳に映る自分の姿を見て、随分と不審者チックだなとどこか他人事のように彼は考えて――。

――ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!??

 ゴシャッ!! と言うナニカ大変な物を潰したような音と共に森に一人の男の悲鳴が轟いだ。




「ご、御免なさい!!」

 教会の居住区、パチッと薪が燃えてその暖かさが身体に染み入る。上半身を毛布に包ませた男の前で、一人の女性が必死に頭を下げていた。

「構わないって。ほら、俺もあんな格好だったわけだし」
「でも、困った人をフライパンで叩くなんて…」

 今にも泣きそうな女性にもうどうでもいいから、と投げやりに返す。仕方ない。かれこれこのやり取りは数十回目なのだから。いくら目の前の女性が責任感が強いと言ってもこれだけ同じやり取りを繰り返せば誰だって面倒くさくなるだろう。
 だが、それでも彼が律儀に言葉を返しているのは、彼の視界の隅、床に放置された歪んだ鉄の塊が何かを知っているからだ。
 フライパン。正確にはフライパンだったもの。
 彼女と会ったあの時、一体あの細腕でどういう力をしているか分からないが、叩く、と言うより叩き潰すと言った方が正しい威力を持ったソレを思い切り振り下ろされた彼は、迷わず防御魔法を発動した。だが、それでも彼が床でのたうち回ってしまうほどの威力をしていた、と言えばどれだけ凄まじい一撃だったか分かっていただけるだろうか?

「えっと、その、確かにシスターとしては良くない格好だと思いますけど。あまり見ないでください」

 彼女の言葉に訳が分からず顔を上げる。
 彼女はその白い肌を赤く染めて顔を背けていた。服装? 首を傾げて相手の服装をよく確認する。
 頭部のベールはレースが多く、どこかウェディングドレスにつけるベールのようなデザインとなっており、とても可愛らしい。普通はボディラインが浮かばないはずの修道服は、胸元を十字架の形に切り取られており、しかもその切り取り方が大胆で下手をすれば一般よりはるかに大きい爆乳が零れ落ちてしまいそうだ。更に言えば彼女が恥ずかしそうに身を守るように胸の下で手を交差させてるせいで只でさえ大きな胸が強調され本気で零れ落ちかけているように錯覚させる。
 だが、それよりも彼が目を付けたのは尻から太腿にかけてのデザイン。
 出てる。何がとは言わないが出ているのだ。スカートの両脇は、腰まであるソリットで深々と切り裂かれ、その白い太腿が晒されていた。しかも、ソリットが深すぎるせいで、本来下着のラインが出ている部分ですら丸見えなのだ、と言うか簡素な革ベルトが二三つけられているだけで下着のラインが全く見えないと言うか穿いてない?
 いや、それよりも何よりも、太腿だ。腰の括れから大きな尻にかけてのクイッとしたのもいいが、やはり大胆に晒された尻から太腿にかけてのライン。ムチムチとした肉付きの良い、シカを思わせる太腿は、二―ソックスのような長い靴下の締め付けによりぷにっとした部分が丸見えで。しかも彼女が身体をくねらせるせいで胸も太腿も妖しくこちらを誘う。
 だが、そう言った肉感的なモノだけがこの雰囲気を醸し出しているのではない。白いのだ! 彼女の純白の肌と金糸のような金髪は黒い修道服に良く映える。特に胸元と太腿はそこだけ色が違うせいで尚のこと強調されてしまうのだ。

――これは……確かに悪いが。男に、と言うか股間にクル、てか本当に股間に悪い。

 彼は、自分が毛布を被っていてよかったと心の底から思った。なぜなら、彼女の魅力的すぎる身体を前に股間の物は既に臨戦態勢に入っており、人並みよりも少々大きいせいで毛布の中でも尚下手に動けば見えてしまいそうなのだ。恩人に欲情したとあれば今の状況が終わってしまう。少々前屈みになりながら口を開いた。

「いや、確かにシスターとしてはどうかと思いますが、良いんじゃないですか? とても良く似合っていますよ?」
「本当ですか!? 良かった」

 心底ホッとしたように笑う彼女。動作一つでその蠱惑的な身体が揺れ、否が応にも視線が吸い寄せられそうになる。純粋な可愛らしい笑顔とのギャップが彼を理解不能な苦しみに追い込んでいた。

「えっと、貴女はここの教会に?」

 とりあえず話を変えなければ拙い、そう考えた彼は彼女に問いかけた。うん? と首を傾げたが、彼女は自己紹介をしていないことに気づいたらしく御免なさいとまた慌てた風に頭を下げて。

「私、二年前にこの教会に配属となりました。フェル・アプルです」
「俺は、シュトル・ムート。旅人をやっています」

 柔らかく微笑んで手を差し出したシュトルに、フェルははっとするような笑顔で答えた。
 それが、二人の出会いであり、長きにわたる教会修復生活の始まりでもあった。



 シュトル、彼が教会に来てから数週間が経過した。あの後、フェルの紹介でまだ開発途中だと言う村を見学しに行き、そこで運命的ともいえる出会いを果たした。
 村長のシスと、その夫であるラオである。本当ならラオが村長になったらしいのだが、色々あって結局妻であるシスが村長となったらしい。
 そんな夫婦と出会い、彼はその人柄に惚れた。
 シュトルは、自他に認める不幸な男である。
 藪を突けば蛇に襲われ、森を歩けば蜂に襲われる。牛や馬に襲われることすら多々あった。彼がまだ子供の頃、魔物が今の魔物の姿をしていない頃にはよく魔物に攫われていたし、そう言うことが重なって彼自身歩けば転ぶような、そんな不幸な男なのだ。ちなみに、魔物が女性型になってからは未婚の魔物に襲われることが多かった為、逃げるだけなら勇者よりも凄いと言う謎の自負を持つ。
 それはさておき、人と比べて不幸だった彼は、近所のおじさんおばさんに良くされ、彼自身そういう人達にとても良くなついていたのを覚えている。
 だからか、彼は将来そう言う人に優しい人になりたいと常々思っており、彼が村を飛び出して安住の地を求めるのは、同時に見知らぬ土地で誰かに優しさを分け与えれる人になりたいと言う彼の夢が理由であった。
 そんな彼に、村長夫婦は正しく理想と言っても差支えない存在だった。大人子供から慕われ、困っている人にしっかりと手を差し伸べられる。だが、時にしっかりと相手を叱ったり、教えようと奮闘する姿に、昔良くしてくれた人たちの面影を感じた彼は、どうかこの村の開拓の手伝いをさせてもらえないだろうか!! と東国、ジパングと呼ばれる土地に伝わる土下座を使ってまで頼み込み、教会で良いのならばと許可を貰い、現在教会でフェルと二人生活している。
 だが、そんな彼には目下一つの悩みがあった。人によってはくだらないかもしれないが、彼にとっては死活問題に等しい一つの問題が。

「ラオさん、ちょっと良いッスか?」
「どうしたシュトル。こんな時間に」

 ラオは深刻そうな表情をするシュトルを見て、妻に目配せする。それを察したシスは、仕方ないねと言う風に肩を竦めると何処かに出かけていった。

「すんません、折角の二人の時間を」
「構わないさ。後で埋め合わせはするしな」

 どこか楽しそうに言うラオに、これが長年連れ添っている夫婦の距離なのかと少し憧れを抱きながら、彼に言われて席に座る。

「酒はいるか?」
「いや、構わないっす」

 ジョッキを片手に、どうしたんだ? と優しく問いかけてくるラオに、思わず涙ぐみながらシュトルは言った。

「フェルがエロイんっスよ」
「は?」

 フェルが、エロイ。怖いとか凄いとかじゃなくてエロイ。いや、エロイは凄いともいうか。身体を硬直させて思わずそんな的外れなことを考え始めたラオの様子に気づいていないらしく、シュトルはそのまま言葉をつづける。

「エロいんスよ。いや、良いのよ? 彼女みたいな可愛い子が笑顔で声をかけて来たら男として嬉しいよ? でもさ、あの修道服は何だ!? 身体のライン丸出しじゃねえか!! 胸元あおいだらピンク色の何かが見えるし、汗かいたら突起物丸出しだぞ!? ソレに太腿なんてあんな凶器を抜き身で振り回しやがってこの間風吹いて丸見えだったじゃねえかと言うか下着着ろよマジで!!」

 硬直するラオのことなど放っておいてシュトルはドンドン話を進める。やれ、風呂場で裸の彼女に会っただの、木材運んでるときに彼女がバランス崩したから慌てて受け止めたら胸を思い切り揉んだだの、階段から落ちたら股間に頭突っ込んでただの、そのせいで暫く避けてたら泣かれそうになったから慌てて許しを請うたら今度はベタベタくっついて来るようになるし食べ物アーンとか止めい! 彼女のような美女が駆け寄ってくるときのあの幸福感、そして揺れる胸を見る背徳感! でも胸も素晴らしいがやはり尻から太腿にかけてのラインが最高だと思うんだよ一度膝枕してもらったけど天国かと思ったね!

「おい、熱弁中悪いが、一体どこが困ってるんだ?」

 ラオが堪らずストップをかける。シュトルはそうなんスよと息を強める。

「最近、夢でフェルにフェラしてもらったり、手や太腿で扱いてもらう夢を見るんだ…」

 しかもそれが無茶苦茶気持ちよくて、俺が思い切り射精すると彼女がとても嬉しそうに笑うからどうしようも無いんだよ。彼が疲れ切ったように言う。

「あー、そう言う夢を見るからって別に悪いことじゃないだろ?」
「馬鹿! 同居してる奴がそんなことを考えてるなんて知ったら嫌だろ!? 正直、フェルに嫌われたら生きていける自信ないぞ…」

 思わず頭を抱えて唸るシュトルに、ラオが笑いかける。

「大丈夫だ。俺もそういう時期があったからな」
「いや、でもラオさんは夫婦じゃないですか」
「ちなみに、会って数時間後だ」

 驚愕のカミングアウトに思わず間抜け面を晒すシュトルに、ラオが笑いかける。

「大丈夫、アレならいっそ告白とかしてみたらどうだ?」
「あー、その、考えときます」

 曖昧な答えを返すモノの、ヘタレめ、と笑われて反射的に分かりましたよと大声で言ってしまうシュトル。
 しまった、そう考えるよりも先にラオがニヤニヤと笑いながら一本の小瓶をシュトルに押し付ける。どうやら何かの飲み物らしい。一体なんですか? と首を傾げるシュトルに、お守りだと言うと彼を無理矢理立たせて外まで押し出していく。

「ちょっ!? 俺まだ話し足りないんスけど!?」
「はいはい、惚気は良いからとっとと教会に帰った。愛しのフェルちゃんが待ってるぞ?」

 確かにラオの言う通り、フェルはシュトルが帰宅するまで食事をとりたがらない。自分の為に待ってくれる、それは嬉しくあるのだが、逆に言えば自分が帰宅しない限りご飯を食べないということだ。空を見れば月が結構昇ってきている。これは急いで帰らなければまた泣かれてしまうかもしれない。
 大慌てで駆けていく背中を、ラオと茂みから出てきたシスが見送る。

「若いって良いわねぇ」
「何言ってんだシス。お前はまだまだ若いじゃない――って、どうしたんだそんなに発情して」
「いやー、もうなんて言うの? あの二人がいじらしいと言うか、その、昔話をちょっと、ね?」

 昂っちゃったと微笑む彼女に、おいおいと苦笑しつつも近づいて抱きしめてやるラオ。
 不思議なことに、重なり合う影はとても大きなものであったらしい。



 教会は随分と様変わりしていた。蔦に覆われていた外壁は磨かれ、本来の白い壁が森の中浮かび上がって見える。
 中の長椅子もほとんどが新調され、床もその多くの部分が張り替えられた。
 そして、主神の像の置かれていた場所、現在そこには一つの巨大な絵が掲げられている。何やら神聖な建物らしいのだが、その絵の中には多くの身体の一部、もしくは全体が異形の女性と男性が交わっている姿が描かれている。
 それは恐らく教会の本来の教えからすれば冒涜的なモノなのだろうが、シュトルはその絵を少し気に入っていた。
 その絵の中の人物達は、皆それがどのような交わり方であってもお互いが想い合っているように感じられたからだ。いずれフェルともこういう風になりたい、そうこっそりと考えているシュトルからすれば、この絵はある意味で目標ともいえるだろう。
 そんな教会の中を抜け、居住区にしている部屋へと入る。

「ただいまー」

 心配かけてしまったかもしれない。極力明るい口調で扉を開けるが、そこには誰も居ない。
 いつもならばフェルが子犬のように擦り寄ってくるはずなのだが、どうしたのだろうか? シュトルは首を傾げる。だが、暖炉の火が消えて居ないことから、遠出をしているわけでは無いようだ。
 シュトルはとりあえず彼女を探すことにした。部屋から繋がる台所にはその姿は無く、懺悔室――何やら彼女なりに自分に言えない悩みがあるらしく、何かあると良く入り込んでいる――には何故か彼女の被っているベールが脱ぎ捨てられていた。
 まさか、誘拐? ベールを見て流石に焦ったシュトルは、急いで自分たちが寝室にしている部屋へと向かった。
 廊下から見て奥側が彼女の部屋、なのだが、手前の自分の部屋から甲高い声が聞こえる。

――まさか、フェル!?

 最悪の事態を考えて彼は気配を殺して扉の前に立つ。扉越しでは良く聞こえないが、言い争っているわけではなく、もぞもぞと何やら息を荒げているようだ。
 体調でも悪いのか? ならなぜ自分の部屋に居ないのだろうかと考えるも、一体何が起こっているのか分からないので用心して音を立てないように扉を開ける。

「んぁああ!!」

 手が止まる。反射的に腰を極限まで低くして扉をほんの少しだけ開けて中を覗く。
 彼女が、居た。シュトルのベッドに頭から飛び込んでいる体勢の彼女は、尻を高く掲げるようにして自慰をしていたのだ。

「はぁ…ぁ…シュトルぅ、良いです。そこ…」

 今まで聞いたことが無い、甘えるような舌足らずの声。発情した雌のソレを聞いて頭の中が真っ白になる。何も考えられず、そして彼女の姿に釘づけにされる。
 何度か事故で触れたことがあるが、こうして遠目から見るとハッキリ分かる桃のように肉厚な尻に、白い肌の中少しだけ黒ずんだ色をしている菊門。
 彼女の普段の様子を考えると考えられない、大きく出た大陰唇の間を、彼女の指が拙く行き来する。遠目からでも分かるほどに指と大陰唇はてらてらと濡れ、それは彼を捕らえて離さない太腿にまで伝わっているのがよく見える。

「あ、そんな激しく!? シュト、ん!!」

 微かな恋心を抱く彼女の、今まで見たことのなかったあられもない姿と、そんな痴態を自分の部屋で――しかも自分が寝るベッドの中で行っていると言う状況が彼を否が応にも興奮させる。
 気づけば彼は自分のズボンから自分の愚息を取り出して扱き始めていた。
 完全に無意識だった。心なしか彼の陰茎は普段よりも大きくなっており、いつもの大きさでも十分なのに、それ以上に凶悪なフォルムに変化していた。

「シュトル、シュトル、シュトルぅ!」
「フェルッ!! うぅっ」

 それからどれだけ経っただろうか? 最早彼女の姿しか見えてない彼と彼しか頭に無い彼女の自慰は最高潮を迎え、お互いほぼ同じタイミングで達するのであった。
 彼の射精は普段の倍激しく、扉の隙間から部屋の床に飛び散るほどの量を放ち続けた。彼女は絶頂のあまりブシャッと思い切り潮を吹きだし全身をけいれんさせる。

 二人同時に息を吐き切るが、そこで想定外の事態が起こった。
 彼が扉を抑えるのを止めたのである。普段を遥かに上回る絶頂故に仕方ないのかもしれないが、全身を巡る心地よい倦怠感に身を任せてしまったのだ。
 彼と言う抑えが無くなったため、扉が自然と開きだす。しかも、タイミング悪く扉の金具がキィ…と微かな音をたてるおまけ付きだ。
 痙攣が収まり、少しずつ目の焦点が会い始めた彼女と彼の視線が交差する。互いの服装を確認する。どちらも下半身丸出し。しかも、絶頂を迎えた癖に二人ともこれでは足りないとばかりに蜜を量産し、硬度を増して疼いていた。

「フェル…」
「シュトル」

 彼女がゆっくりと体勢を変えるのと同時に、彼もその場に立ち上がるとフラフラとした足取りで彼女の元に向かう。
 仰向けになった彼女にゆっくりと覆い被さると、そのままキスを一回、二回。ついばむような、何かを確かめるようなキスを何度か繰り返した二人は、互いの顔を見つめる。
 フェルの顔は火に当てられたかのように火照り、その瞳は情欲の雨に濡れていた。だが、良く見てみればいつも見につけているベールが無いおかげで見えるものがある。耳だ。エルフのように長いものの、先端が重さのせいか垂れている、何とも彼女らしい耳。思わず口元を緩ませた彼に釣られたのか、彼女も聖母のような穏やかで母性に溢れた笑みを浮かべる。

「言いたいことがあるけど…」
「はい、今は…」

 二人とも互いに言いたいことが沢山あった。沢山あったが、今はそんなことよりも大事なことがある。
 彼女が全身をラミア種もかくやと言わんばかりに絡みつかせ、彼はそんな彼女に答えるようにキスをしながら腰をゆっくりと進めていく。
 そして――。

「「あ――」」

 その時の感情を何と表現すればいいのか。パズルがかみ合ったように、磁石が吸い寄せ合うように、表現方法は多々あるが、そんなものは些細なモノでしかない。

 あるのは歓喜。魂の全てが互いの存在を絡みつかせ、混じり溶ける。
 フェルは性交渉の経験の無い処女だ。その為、規格外の大きさの陰茎を入れられた膣は、処女であることも合わさり、本来想像も出来ないような激痛が奔るはずなのに、それは激痛ではなく正しく天に昇るかのような暴力的な快楽となって彼女の視界を染め上げ、それに身体が共鳴する。
 シュトルもまた、快楽に意識を飛ばす彼女と同じような状態であった。
 旅人であるが故に娼婦などを利用したこともある彼であったが、その規格外の大きさの陰茎のせいで中々気持ちよくなることは無かった。事実、他人にしてもらうよりも自分でしたほうが気持ちよかったほどだ。
 だが、これは違う。最早思考すらままならない状態で彼はそう思った。
 幾ら先程までの自慰で緩くなっているとはいえ、初物の膣肉はしこりを残している為キツイのだが、その癖彼女の人柄のように彼の陰茎をしっかりと抱え込んで離さない。
 肉襞の一つ一つが彼の陰茎の形を覚えんとするかのごとく絡みつき、しこしこした固い肉壁が彼の陰茎を締め上げる。まるで彼女の膣に自分の陰茎が溶けていくような錯覚に襲われるシュトル。
 濁流のように意識を吹き飛ばす快楽を前に、前後すら分からない二人はただ互いを感じることしかできない。ギュッと抱き合った二人は感じられる体温に思わず二人してホッと息を吐いた。
 瞬間、今まで絡みついて離れないと言わんばかりだった膣が緩み、同時に無駄な力の抜けた陰茎がズルっと言った風に一気に突き抜けると膣の最奥部、子宮口に到達し、それを突き破らんと――。

ッ――――――!?!?

 声すら出ない快楽を前に二人は全身を硬直させる。それはそのまま繋がっている膣と陰茎を刺激し、二つが激しく痙攣し合う。
 ドピュッ、そう聞こえてくるような気がする程に激しい射精。陰茎が跳ね上がり精を吐きだす度に、内部を抉られる膣が反応して更に陰茎を締め上げる。

 無限ループとも言えるような二人の絶頂は数分間続き、一段落つく頃には二人の股間からは二人の体液の混ざり合ったモノがダラダラと滝のように溢れ出していた。

――これでいいのか? これで終わりか?
――いや、足りない。これだけで足りるはずが無い。愛する者を愛する行為がこの程度で終わるはずが無い。

 白みがかった意識の中で二人ともがそう考え、そして二人が動き出す。
 野獣のように腰を振り貪り喰らおうとする彼を、踊り子のような妖艶な腰遣いで諌め、逆に貪ろうとする彼女。
 二人の宴は始まったばかりだ。そして、そんな彼らに当てられたように、月明かりに照らされた万魔殿の絵画の中に居る人々も愛する者を愛するために腰を振るのであった。



 そんな二人の交わりから数年後、二人は自分たちの教会で挙式を上げた。
 この教会で誰かの式とかやってみたい、そう笑い合っていた彼らであったが、まさか自分たちがその第一号となるとは予想していただろうか?
 そんな彼らは現在、村の名物神父とシスターとして親しまれている。それは、彼らの人柄もあるが、神父となったシュトルが広めようとしている教えにあるだろう。

曰く、隣人を愛せよ。

 教え、と言うより彼の出会ってきた人々、フェルとの出逢い、村長夫婦との出会いが彼にその生き方を教えてくれた。
 ほんの少し誰かに優しくするだけで、世界は優しくなれるんだ。それは人間であっても魔物であっても同じ。この教えをこの村だけでも浸透させたい。そんなシュトルの想いに共感してくれたフェルと共に、万魔殿に行くこと無く、時折近くの親魔領に講演などに行くことで生計を立てている。
 残念なことに子供はまだ生まれていないが、老後は万魔殿でゆっくりとイチャイチャして暮らそうとズッコンバッコンしながら笑い合っているのだから、きっと将来は明るいことだろう。

 そして、そんな彼らは今一人の男性に気を向けている。
 グラス・ブルーメ。教会から派遣されてきた教会騎士ではあるが、恐らく末端の一兵卒である。
 最初の頃は頑なな態度が多かった彼だが、最近ではその穏やかな表情に良く似合う春風のような笑顔を見せることが多くなってきた。
 そんな彼を慕っている村の娘たち――もちろん、そのほとんどが魔物娘である。人間の女性もいるが少数派だ――も多いと聞くし、早くイチャイチャしている姿を見たいものだ。

 この時の彼ら、ひいては村の人誰もが、まさかグラスが一人のアルラウネに心奪われてしまうとは思ってもいないのであった。
15/03/23 23:19更新 / ソルティ

■作者メッセージ
なぜだ、なぜ(エロをエロく)書けん!?(某木星帰りの人風に)

初感想がうれしくて書いた。さらに言えばエロにも初挑戦した。そのせいで文章量が約倍。ROM専にここまでさせる魔物娘、やはり恐ろしい存在っ!!
裏設定がいっぱいあったけど文章で表現しきれなかった。でも、イチャイチャがかけたから別にいいよね!

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