竜狩りと腐れ日の竜
「――ォオラァッ!!」
気合い一閃。降り下ろした斧が薪を真っ二つに割る。
斧を持ち上げ木を設置、再び斧を降り下ろす。
「――さん!!」
「……ん?」
さて、もう一度――と振り上げた彼の頭上から響く声に彼は空を見上げた。
太陽の光に目を細めると、太陽の中からなにかが降ってくるのが見える。
翼を広げたそれは鳥に見えるし、その姿は人間のように見える。
「ドランさん! 緊急の呼び出しです!!」
緑の鱗と甲殻に、小さな角。腕と一体化した翼。飛翔に特化したドラゴンとはまた違うタイプの竜である、ワイバーンだ。
いつものことながら上空から迫るその姿に表現しきれない感情を抱くが、すぐにそれを消滅させ彼女の話を聞くことにした。
「呼び出し? そんな、俺の力が必要になるような――」
「腐りが出た、と言えば分かると」
腐りが出た、その言葉を聞いた瞬間、彼の身体は風となった。
「――え、あのドランさん!?」
家に駆け込んだ男を追ってワイバーンも家に入る。
服を脱ぎ捨て、鞣し革の服を着る。鎧立てに置かれた脚甲、胴鎧、手甲、兜を被り、壁にかけてある大きな袋を背中に掛ける。
次に大きな麻袋を担ぐと家の外へ。普段とがらりと変わった雰囲気の彼を邪魔しないように壁に寄ったワイバーンを気にすることなく家の裏手にまわった彼は、幾つかの大きな箱を台車に乗せる。
「――おい」
「ひゃい!?」
「とりあえず数人、これ運べる奴を手配してくれ」
「わ、分かりましたっ!!」
慌てて飛び立つワイバーンの背中を見送り、彼は愉しそうに笑った。
長かった。ようやく奴を狩れるのだ、と。
ドラゴニアの女王からの依頼は至極簡単。ドラゴンの墓場の外れに突如として現れた腐れを調査してほしいというものであった。
腐れ、とは大地を侵食する謎の物質だ。腐れ日の竜より漏れるそれは、大地と生命を腐らせ燃やす。そこに例外はない。
それが発生すると、周囲の大地が瞬く間に変色し奇妙な煙を発し始める。どうやらそれを近隣の魔物が確認したようだった。
幸いなことに被害は一切出ていないというが、それも時間の問題だろう。
異界からの来訪者である自分が男のままであるのと同じく、奴もまた、この世界ににつかない命を奪う者であると見て間違いはないはずだ。
「さて――と、相変わらずヒッデェ土地だことで」
ワイバーンやドラゴンたちの力を借りてたどり着いた腐れ。そこは生前見た光景と同じく、命が腐り燃える世界であった。
ここには例外がない。全てが等しく腐り、全てが等しく燃える。鼻につく激臭にやれやれと肩を竦めると、彼は腐れの中を歩き始めた。
「――防腐処理凄いな……」
歩き始めて彼が感じたのは、こちらの世界に来て行った防腐処理などの各種腐れ日の竜対策の効果だ。
彼の元居た世界では、いくら対策しても最終的に彼の手元に残ったのは、腐れ日の竜と同等の存在である天災たちからもぎ取って作られた武具のみで、飲み薬も爆弾も、全て腐るか燃え尽きてしまっていたのだ。
それがこの世界の魔法では、一切腐る様子も何もないのだからどうしたことか。感動しながら彼は真っ直ぐ腐れの中を歩く。
腐れの濃い場所に居る。それは何十回と殺してきたからこそ分かる腐れ日の習性だ。どこが濃いかも、手に取るように分かる。
しかし、同時に違和感も感じていた。
腐れは大地を腐らせる。過去に悪い足場で戦わざるを得ない状況になってしまったことは多々あるのだが、今回何故か腐れ日に近づくにつれて大地がしっかりとしていくのだ。
腐れ日が弱っているのか、彼は考える。
腐れ日の竜が弱ると必然的に腐れの効力も落ちる。しかし、それにしては入り口の腐れの具合は凄まじいものであったし、それに自分がこちらに来てもう三月と半。強靭な肉体と強力な再生能力、そして理不尽なまでの不死性を持った天災級の竜である腐れ日の竜が快復していない筈がないのだ。
「どういうことだ……」
分からないことが多すぎる。警戒を強め慎重に足を運び――見つけた。
それは山脈。山のように巨大な身体、剣山のように身体を突き破る肋骨と、骨ばった多肢。穴だらけの被膜を広げ、玉のような瞳が虚空を見つめていた。
腐れ日の竜、その最初の形態である数多の竜を無理矢理くっつけたようなグロテスクな姿。
この姿で一定期間を過ごした腐れ日の竜は、その殻を破り真の姿に至る。
つまり、この状態で決着を目指すのが最もよい選択であった。
「妙だな……」
歩みを止め腰を低くしつつ彼はつぶやく。
腐れは腐れ日の竜の探知器官の役割を担っているという研究結果があるように、ここまで踏み込んできたなら既に臨戦態勢になっていてもおかしくないはず。
だというのに、腐れ日は一切活動する様子を見せない。
だが、これは同時にチャンスでもある。背中に掛けた片刃の巨大剣――竜狩りの太刀の柄に手を添えつつ尻尾を台車に積まれた箱に巻き付け、投石器めいて発射した。
綺麗な放物線を描き落ちていく木箱。それは腐れ日の身体に接触した瞬間、巨大な炎の花と化す。
「効果は――ッ」
瞬間、強烈な死線が彼を貫いた。
主は上。空を見上げた彼は、自分が子供の頃に戻ったことを感じた。
青空を掴まんと広げられた大翼。大地を掴む強力な四肢。力強い生命の息吹を放つ瞳と、純白のヴェール。
幼い頃に憧れ、恋い焦がれた竜が、そこに居た。
「――ッ!!」
声にならない声。人間の言語を捨て去った野性の咆哮が空を揺らす。
それに呼応するように天が叫び、空が轟ぐ。
――嗚呼、お前もそうだったのか。
いくら竜の呪いを受けて竜の力と体の一部を得たとしても、竜の言葉なんてわかる筈もない。だが、この時彼は確かに理解した。
腐れ日もまた自分を待っていたのだと。この瞬間を待っていたのだと。
天から腐れ日が舞い降りる。爆弾、毒、様々な物を用意してきたがそんなものは必要ない。
待ち合わせ場所に立つ恋人を抱擁するように、彼は巨大剣を大上段から振り抜いた。
腐れ日が歓喜の咆哮を上げ、彼が狂喜の咆哮を放つ。
他の天災と比べれば些か小型ではあるが、それでも下手な民家よりよほど大きい身体。純白の甲殻は砦の様に堅牢で彼の剣を通さない。
それでも彼は剣を振るう。勝つか、負けるかではなく、狩るために。彼の剣は彼の爪と牙となって腐れ日の身体に食らいつく。
「ガッ!?」
だが、力の差は歴然だった。そもそも、身体の構造からして違いがありすぎる存在に対して真正面から挑んで勝利できるほど人間の身体は強固に作られていない。いくら人外となったとしてもその力はあくまでも人から外れているだけであって、元々規格外の存在と比べればその力はあまりにもか弱い。
「ぐっ……はっ、いいねぇ……嫌いじゃねえよ、そういうのは」
身の丈を越える巨大剣を地面に突き刺して支えとする。
元より真正面から戦って勝てるほど竜は甘い存在ではない。それを分かっていても尚、彼は立ち上がり、剣を振りかざす。
振り下ろし、振り払い、打ち据えられる。その繰り返しがどれだけ行われただろうか。
その瞬間は唐突だった。
「ぬ――」
振り下ろした巨大剣がガッチリと噛み込まれる。
頭部への振り下ろしに対して腐れ日はそれを牙で拘束することで対処したのだ。
この厄介な武器さえ失ってしまえば、人間に対抗する術はない。長年の戦闘からそれを理解していた腐れ日だからこその対応。そして腐れ日はそのまま彼を天高く放り投げた。
まるで木の葉のように天高く飛びあがる肉体。だが、彼の狙いはそれだった。
腐れ日の巨体に致命的な一撃を加えるのは地上からでは難しい。しかし、上空ならば、腐れ日の上をとればどうなるだろうか。
呪いによって強靭となったのは肉体だけではない。歯を食いしばり巨大剣を振ることで彼は空中で体勢を立て直す。
落下方向は斜め。回転する身体をなだめつつ彼は狙いを絞る。
当たるかどうかは賭け。勝てば勝てるが、負ければ待っているのは死。いつも通りだ。兜の下で唇を舐め、彼は大きく剣を振りかぶる。
彼の下には顎。漆黒の闇が彼を迎え入れるべく開かれる。
落下を始めた彼の肉体は、隕石めいて腐れ日の顎に迫り――
「――ァアアアアアッッ!!」
雄叫びを塗り潰す絶叫が響く。
大地に突き刺さる角。重力と回転による遠心力によって威力を倍増させた巨大剣が腐れ日の角を枯れ枝のようにへし折ったのだ。
全身を仰け反らせて腐れ日が叫ぶ。竜の象徴であり強さの源でもある角。白色のそこから血を噴出させながら角を折った下手人を探すために首を下ろした。
呆気ない、あまりにも呆気ない幕引きだった。
回転により前後不覚になりながらも、視界一杯に広がる地面に写る影を見てがむしゃらに突き上げた巨大剣。その切っ先がズブリと腐れ日の首に吸い込まれた。
奇しくもそこは前居た世界で彼が与えた傷の位置。
巨大剣は数多の竜を斬り、その亡骸と生き血で作り上げられた武器であり、その刃は竜の強力な再生能力を阻害する効果を持つ。
それは腐れ日にも有効であり、見た目こそ完治していたが、その肉体は既に限界だったことが分かる。
――ォォォ……
純白の身体を朱に染め上げ、腐れ日が哭く。
激痛による悲鳴ではなく、傷つけられた怒りによる絶叫でもない。それはまるで、別れを惜しむような何かを堪える様な鳴き声。
あふれ出る腐れ日の血を全身で浴びる彼の頭上で一際大きく、天を仰ぐように仰け反った腐れ日が、ドウッとその身を地面に横たわらせた。
下敷きになるのを避けるため、自由の効かない四肢を無理矢理動かして転がる様に退避した彼は、覚束ない足で立ち上がると巨大剣を引きずりながら腐れ日の顔に近づいていく。
見上げるほどの顔に、ちらりと見える牙。
と、深い海のような藍色の瞳と彼の視線が交差する。
開ききった瞳孔を収縮させようと蠢く眼を見て、なぜか彼は兜を脱ぐと自らの顔を曝した。
それは、生涯を通して最も強力だった、宿敵とも呼べる敵に対する敬意もあったのだろう。ただ何となく、自分の顔を覚えてほしかったという気持ちもある。
彼の顔を見たのか、パチリと瞬膜が閉じられ、ニィ、と腐れ日の口がつり上がった――気がした。
沈黙が訪れる。念願の腐れ日の竜の討伐。嬉しい筈なのに、彼の胸中はまるでぽっかりと穴が開いたようであった。
腐れ日の身体を解体する気にもなれず、彼はドカッとその場に腰を下ろすと四肢を投げ出して地面に倒れた。
青空がとても目に染みる。
※※※※
彼が目を覚ましたのは、それから数刻ほど時が過ぎてからだった。
沈みかけの茜色に染まる太陽を見て、こんなところで寝るなんて、魔物に食われても文句は言えないぞ、と気が抜けているらしい自分を叱咤する彼。
だが、そう心の中で言ってみたものの、彼の身体は今一力が入ってくれない。
消えない消失感に悩まされつつも起き上がった彼は急いで腐れ日の死体を処理して帰宅しようとして、そこで初めて腐れ日の死体が存在しないことに気が付いた。
これには彼も大慌てである。いくら異世界だとしても死体が無くなるなんてどういう要件だ。しかも腐れ日は彼にとって大切なもの。それをもし奪われたのだとしたら彼は自分のポリシーを破ってでも取り返さなければならない。
なくなった死体を探すべく歩き出そうとした彼の背後で響く足音。
ゆっくりと砂を踏みしめる音に下手人か、はたまた魔物か、と巨大剣に手を添えて振り返る。
「ぁ……ぁぁ」
フラフラと覚束ない足取りで近づいてくる人影は、魔物だ。
力強い翼と四肢、そして鋭い爪と、側頭部の角。身体的特徴は魔物であるドラゴンのソレ――なのだが、何かがおかしい。
誇り高いドラゴンにはありえない覚束ない足取りに、引き締まった肉体ではなく、膜によって締め付けられた場所からむっちりとはみ出した肉は、その肢体がどれだけ柔らかいかを表していた。
そうした身体的な特徴だけではない。何より顕著なのは、その表情だ。
だらしなく緩んだ口元からは絶え間なく唾液が溢れ、青色の瞳には知性の光は無く、だが何かを求める本能のみが映る。
魔物ならあまり手荒な真似はしたくない。そんな気持ちもあって相手の出方を窺う彼。
相手は恐らくドラゴンのはずだが、ドラゴンではない。だが、ワームでも、ワイバーンでも、他のレッドドラゴンなどの別種の竜種というわけでもない。
どうにも上手く働かない頭を総動員して相手の正体を探る彼――それが致命的な隙を生んだ。
「――ァアッ」
先程までの千鳥足からは微塵も想像できない瞬速に反応が遅れた。
謎のドラゴン擬きの突撃をまともに受け止めてしまい転倒してしまう彼。その上にドラゴン擬きが圧し掛かる。
完全にマウントを取られてしまった。急いで抜け出さなければと彼女の腕を掴もうとしたその瞬間、彼の唇にドラゴン擬きの唇が合わさった。
氷のように冷たくも、ふわふわと柔らかい唇がかさついた彼の唇を潤し、戸惑う彼の唇を舌がこじ開ける。
彼女の唇の柔らかさに一瞬対処が遅れてしまい、目を見開いてもがこうとする彼であるが、そんな彼の口内に何かが流し込まれる。
それは唾液ではないが、液状の物。嗅ぎなれた独特の匂いは腐れ――ドラゴン擬きと視線がぶつかり、そこで初めて、生気のない彼女の中で唯一溢れる感情、情欲の炎に気づき、そこでようやくこのドラゴン擬きは、ドラゴンゾンビという魔物だと思い出した彼。
だが、彼が思考できたのはそこまでだった。
ドラゴンゾンビのブレスは、対象の男性の理性や抵抗する感情を腐らせる効果がある。
そんなものを至近距離、しかも体内に直接取り込んでしまえばどうなるかなんて、分かり切ったモノである。
「――ンッ……」
彼女の表情が蕩ける。
理性を腐らせた彼が彼女の身体を力一杯抱き寄せ、彼女の口内に舌を差し込んだ。
硬い鎧に彼女の豊満な女体が沈み込み、鎧越しの筈なのにその柔らかさを直に感じる。
自らも彼の背中に手を回し、甘ったるい唾液を交換し合う二人。
彼女を抱きしめていた腕を離すと、彼女は嫌がる様にその身をさらに密着させる。彼は彼女の口腔を味わいながら腰を浮かせ、痛いくらいに張りつめた股間をインナーを引き裂くようにして露出させる。
溢れ出す雄の臭いに気が付いた彼女は尻尾を器用に使って自分の股間を覆う骨を除け、自ら進んで股間を彼の逸物に押し付けた。
互いに抱き合ってキスをしているだけで、はやく挿れてと鳴く彼女を焦らす様に灼熱を帯びた肉棒を擦り付ける。
「――ん、ンッ……ふっ、ぁ」
彼女の顔が歓喜に融け、甘い吐息が溢れ出す。
だが、足りない。喜びの涙を流しながら媚びるように必死で身体を擦り付ける彼女。
そのどこに触れても沈み込む柔らかい肢体が彼を刺激する度に、肉棒からは我慢汁が溢れさらに濃い臭いが二人を包む。
肉棒の先端が彼女の陰唇に引っかかる。アハッと彼女の唇がつり上がり、強請る様に腰を浮かした瞬間、彼は腰を勢いよく突き出した。
「ォオ――ッ!?」
「ンァ――」
頤を突き出し二匹の竜が声をあげる。
焼けた鉄棒のように熱い肉棒をそれを上回る情欲の炎によって熱せられた膣が包み込む。
彼女の身体と打って変わって燃え滾るマグマの様に熱い膣内。肉棒を吞み込んだ膣壁はまるで解きほぐす様に肉棒を柔らかく激しく搾りたてる。
「うぁっ」
呻き声と共に肉棒が震え、白濁液を噴出する。
極度の興奮状態と天国とも言える膣内の感触が彼の限界を突き破ったのだ。
ビクンビクンと肉棒が跳ねる度に膣壁が収縮し、もっと出してと強請る。
「ンヒィ!? あっ……ふぁっアアっ!?」
どちゅッと音を立てて肉棒が膣を抉った。
射精中も搾られいつ果てぬとも知れぬ射精地獄の中に居た彼の身体が、更なる刺激を求めて腰を突き出したのだ。
最奥を貫かれて彼女が狂喜する。彼女の喜びに感応するように膣壁が収縮、肉棒を奥へ奥へと誘い、それに惹かれて彼が腰を大きく突き動かす。
脳が焼き付ける様な快楽に人語を忘れてのめり込む二人。
肋骨のような捻じれた骨と破れた被膜の翼が彼を覆い、彼女の四肢ががぶりと彼の身体を抱きしめる。
だいしゅきホールドとは一見女性が男性を受け入れる姿勢に見えるが、まるで男性を捕食しているように見える。
「あッ……ふっ、はっ……」
「あっ……あっぃイッハッァアッアアアッ」
「ぐ……ウッ」
「アアアッッ!? ヒッ……あ゛あ゛あ゛」
「グォォッ」
周囲に噎せ返るほどの臭いと腐れをまき散らし、絡み合い、貪り合う竜の狂宴は続く。
「うっ……あ、さ?」
彼が意識を取り戻したのは、瞼を貫く光を受けた時だった。
ボーっとする視界の中に、黄色い太陽がまぶしく映る。
自分は一体何をしていたのだろうか。鎧の感触はなく、風の感触から自分が裸であることが分かる。
ここは一体どこなのか。四方を確認しようと身を起こした彼の股間から鋭い快感が駆け巡る。
「うぁっ!?」
その快楽に腰が砕けてしまい地面に倒れこんだ彼。
そうしている内にも彼の股間はぬめりとした温かいモノに包まれ、ザラザラとしたものに舐られる。
「ああっ!?」
鈴口を丹念に舐られ、彼はだらしない声を挙げて腰を震わせた。
全身を震わせるたびに腰の奥から吐き出される精液。肉棒を包む感触から何者かはそれを飲み物の様に飲み込んでいることが分かった。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
射精後特有の倦怠感に息を荒げつつ、彼は何とか首だけ持ち上げると股間の方を見た。
「うぁ!?」
「――あ、起きましたか?」
ちゅぽんっと腰が吸い取られるような快感に声を挙げた彼の顔を、下から四つ這いで這い上がってきた人影が見つめる。
風に靡く純白の長髪。深い海のような藍色の瞳と、側頭部から伸びる一本の角。
「良かった。もう起きなかったらどうしようって思っていました」
どれだけ気持ち良くしても起きないんですもん。安心したように眉尻を下げて微笑む女性。
骨のような白い甲殻に、ウェディングドレスのような純白の膜と、むしゃぶりつきたくなるむっちりと実った果実。
自分の腹の上に乗っているドラゴン。だが、彼は空を背に翼を広げたその姿に既視感を覚えた。
「――腐れ日の……」
彼の呟きに嬉しそうに笑顔を作る。
「はい。在りし日、私は腐れ日の竜と、そう呼ばれていました」
腐れ日、そう言われて彼の記憶が急激に蘇る。
甲殻を貫いた感触。柔らかく吸い付く肌。魂を吸い取られるような射精と彼を狂わせる悦びの声。
「で、でもあの時は――」
「……忘れたのですか? 私はこの姿の前に、もう一つ姿があるんですよ?」
拗ねるようにぷくっと頬を膨らませる自称腐れ日の竜に彼は慌てて言い訳をしてしまう。
「い、いやでもあの時はドラゴンゾンビで――」
「そもそも私はドラゴンゾンビですよ?」
ぷいっとそっぽを向く自称腐れ日の竜に困惑が隠せない。
まさか宿敵である竜がこんな美しく肉欲を刺激する女性になっているなんて誰が想像するだろうか。だが、そんな彼の眼に彼女が腐れ日の竜であるという証拠が映った。
「――その、角と首筋の……」
「はいそうです。貴方が折った角と、貫いた首です。分かっていただけましたか?」
認めるしかない。彼女は腐れ日の竜だ。
なぜか胸に安心感が溢れ、彼の身体から力が抜ける。
そうか、そうだったのか。腐れ日は――と、そこまで考えたところで股間を握る感触に気が付いた。
「って、何をやって――」
「何をって、交尾ですよ?」
何を言っているんですか? とキョトンと返されて思わず口ごもる彼。
「よい――しょっ」
「おいま――くぁっ!?」
待てという静止が一瞬で吹き飛んだ。
記憶の中にある膣とはまた具合が違う。
灼熱のような熱さはそのままだが、柔らかくどこまでも沈み込んでいくような感触ではなく、優しくも力強く肉棒を食む膣壁。
「どうですか? あの時の私と全然違いませんか?」
「あ、うぁ……」
「ふふふ、そうですか、良かったです」
こねるように腰を回されるだけで、膣内の肉棒が四方八方から全く別の圧力と襞に引っかけられ彼は快感に耐えることしか出来なくなってしまう。
そんな彼の様子を見て上機嫌に笑う彼女。その表情は飢えている時と同じように悦びに蕩け、その瞳には愛する者と交わる狂喜の炎が燃え上がっていた。
腐れ日の竜の名は健在。彼女はこの世界のドラゴンゾンビとなることで、唯一無二の腐ること無き宝と交わり、喜びの咆哮を轟かせるのであった。
この後、二人が交わる場所は前の世界と同じように腐れが発生するようになるのだが、その性質は腐れ日が魔物となったことで変化。これに触れる、もしくは臭いを嗅いだものは例外なく理性を腐らせられ、情欲の炎を燃え上がらせたという。
近づくだけで無差別に生物を発情させる魔界の誕生に、一部魔物が喜んだとか。
気合い一閃。降り下ろした斧が薪を真っ二つに割る。
斧を持ち上げ木を設置、再び斧を降り下ろす。
「――さん!!」
「……ん?」
さて、もう一度――と振り上げた彼の頭上から響く声に彼は空を見上げた。
太陽の光に目を細めると、太陽の中からなにかが降ってくるのが見える。
翼を広げたそれは鳥に見えるし、その姿は人間のように見える。
「ドランさん! 緊急の呼び出しです!!」
緑の鱗と甲殻に、小さな角。腕と一体化した翼。飛翔に特化したドラゴンとはまた違うタイプの竜である、ワイバーンだ。
いつものことながら上空から迫るその姿に表現しきれない感情を抱くが、すぐにそれを消滅させ彼女の話を聞くことにした。
「呼び出し? そんな、俺の力が必要になるような――」
「腐りが出た、と言えば分かると」
腐りが出た、その言葉を聞いた瞬間、彼の身体は風となった。
「――え、あのドランさん!?」
家に駆け込んだ男を追ってワイバーンも家に入る。
服を脱ぎ捨て、鞣し革の服を着る。鎧立てに置かれた脚甲、胴鎧、手甲、兜を被り、壁にかけてある大きな袋を背中に掛ける。
次に大きな麻袋を担ぐと家の外へ。普段とがらりと変わった雰囲気の彼を邪魔しないように壁に寄ったワイバーンを気にすることなく家の裏手にまわった彼は、幾つかの大きな箱を台車に乗せる。
「――おい」
「ひゃい!?」
「とりあえず数人、これ運べる奴を手配してくれ」
「わ、分かりましたっ!!」
慌てて飛び立つワイバーンの背中を見送り、彼は愉しそうに笑った。
長かった。ようやく奴を狩れるのだ、と。
ドラゴニアの女王からの依頼は至極簡単。ドラゴンの墓場の外れに突如として現れた腐れを調査してほしいというものであった。
腐れ、とは大地を侵食する謎の物質だ。腐れ日の竜より漏れるそれは、大地と生命を腐らせ燃やす。そこに例外はない。
それが発生すると、周囲の大地が瞬く間に変色し奇妙な煙を発し始める。どうやらそれを近隣の魔物が確認したようだった。
幸いなことに被害は一切出ていないというが、それも時間の問題だろう。
異界からの来訪者である自分が男のままであるのと同じく、奴もまた、この世界ににつかない命を奪う者であると見て間違いはないはずだ。
「さて――と、相変わらずヒッデェ土地だことで」
ワイバーンやドラゴンたちの力を借りてたどり着いた腐れ。そこは生前見た光景と同じく、命が腐り燃える世界であった。
ここには例外がない。全てが等しく腐り、全てが等しく燃える。鼻につく激臭にやれやれと肩を竦めると、彼は腐れの中を歩き始めた。
「――防腐処理凄いな……」
歩き始めて彼が感じたのは、こちらの世界に来て行った防腐処理などの各種腐れ日の竜対策の効果だ。
彼の元居た世界では、いくら対策しても最終的に彼の手元に残ったのは、腐れ日の竜と同等の存在である天災たちからもぎ取って作られた武具のみで、飲み薬も爆弾も、全て腐るか燃え尽きてしまっていたのだ。
それがこの世界の魔法では、一切腐る様子も何もないのだからどうしたことか。感動しながら彼は真っ直ぐ腐れの中を歩く。
腐れの濃い場所に居る。それは何十回と殺してきたからこそ分かる腐れ日の習性だ。どこが濃いかも、手に取るように分かる。
しかし、同時に違和感も感じていた。
腐れは大地を腐らせる。過去に悪い足場で戦わざるを得ない状況になってしまったことは多々あるのだが、今回何故か腐れ日に近づくにつれて大地がしっかりとしていくのだ。
腐れ日が弱っているのか、彼は考える。
腐れ日の竜が弱ると必然的に腐れの効力も落ちる。しかし、それにしては入り口の腐れの具合は凄まじいものであったし、それに自分がこちらに来てもう三月と半。強靭な肉体と強力な再生能力、そして理不尽なまでの不死性を持った天災級の竜である腐れ日の竜が快復していない筈がないのだ。
「どういうことだ……」
分からないことが多すぎる。警戒を強め慎重に足を運び――見つけた。
それは山脈。山のように巨大な身体、剣山のように身体を突き破る肋骨と、骨ばった多肢。穴だらけの被膜を広げ、玉のような瞳が虚空を見つめていた。
腐れ日の竜、その最初の形態である数多の竜を無理矢理くっつけたようなグロテスクな姿。
この姿で一定期間を過ごした腐れ日の竜は、その殻を破り真の姿に至る。
つまり、この状態で決着を目指すのが最もよい選択であった。
「妙だな……」
歩みを止め腰を低くしつつ彼はつぶやく。
腐れは腐れ日の竜の探知器官の役割を担っているという研究結果があるように、ここまで踏み込んできたなら既に臨戦態勢になっていてもおかしくないはず。
だというのに、腐れ日は一切活動する様子を見せない。
だが、これは同時にチャンスでもある。背中に掛けた片刃の巨大剣――竜狩りの太刀の柄に手を添えつつ尻尾を台車に積まれた箱に巻き付け、投石器めいて発射した。
綺麗な放物線を描き落ちていく木箱。それは腐れ日の身体に接触した瞬間、巨大な炎の花と化す。
「効果は――ッ」
瞬間、強烈な死線が彼を貫いた。
主は上。空を見上げた彼は、自分が子供の頃に戻ったことを感じた。
青空を掴まんと広げられた大翼。大地を掴む強力な四肢。力強い生命の息吹を放つ瞳と、純白のヴェール。
幼い頃に憧れ、恋い焦がれた竜が、そこに居た。
「――ッ!!」
声にならない声。人間の言語を捨て去った野性の咆哮が空を揺らす。
それに呼応するように天が叫び、空が轟ぐ。
――嗚呼、お前もそうだったのか。
いくら竜の呪いを受けて竜の力と体の一部を得たとしても、竜の言葉なんてわかる筈もない。だが、この時彼は確かに理解した。
腐れ日もまた自分を待っていたのだと。この瞬間を待っていたのだと。
天から腐れ日が舞い降りる。爆弾、毒、様々な物を用意してきたがそんなものは必要ない。
待ち合わせ場所に立つ恋人を抱擁するように、彼は巨大剣を大上段から振り抜いた。
腐れ日が歓喜の咆哮を上げ、彼が狂喜の咆哮を放つ。
他の天災と比べれば些か小型ではあるが、それでも下手な民家よりよほど大きい身体。純白の甲殻は砦の様に堅牢で彼の剣を通さない。
それでも彼は剣を振るう。勝つか、負けるかではなく、狩るために。彼の剣は彼の爪と牙となって腐れ日の身体に食らいつく。
「ガッ!?」
だが、力の差は歴然だった。そもそも、身体の構造からして違いがありすぎる存在に対して真正面から挑んで勝利できるほど人間の身体は強固に作られていない。いくら人外となったとしてもその力はあくまでも人から外れているだけであって、元々規格外の存在と比べればその力はあまりにもか弱い。
「ぐっ……はっ、いいねぇ……嫌いじゃねえよ、そういうのは」
身の丈を越える巨大剣を地面に突き刺して支えとする。
元より真正面から戦って勝てるほど竜は甘い存在ではない。それを分かっていても尚、彼は立ち上がり、剣を振りかざす。
振り下ろし、振り払い、打ち据えられる。その繰り返しがどれだけ行われただろうか。
その瞬間は唐突だった。
「ぬ――」
振り下ろした巨大剣がガッチリと噛み込まれる。
頭部への振り下ろしに対して腐れ日はそれを牙で拘束することで対処したのだ。
この厄介な武器さえ失ってしまえば、人間に対抗する術はない。長年の戦闘からそれを理解していた腐れ日だからこその対応。そして腐れ日はそのまま彼を天高く放り投げた。
まるで木の葉のように天高く飛びあがる肉体。だが、彼の狙いはそれだった。
腐れ日の巨体に致命的な一撃を加えるのは地上からでは難しい。しかし、上空ならば、腐れ日の上をとればどうなるだろうか。
呪いによって強靭となったのは肉体だけではない。歯を食いしばり巨大剣を振ることで彼は空中で体勢を立て直す。
落下方向は斜め。回転する身体をなだめつつ彼は狙いを絞る。
当たるかどうかは賭け。勝てば勝てるが、負ければ待っているのは死。いつも通りだ。兜の下で唇を舐め、彼は大きく剣を振りかぶる。
彼の下には顎。漆黒の闇が彼を迎え入れるべく開かれる。
落下を始めた彼の肉体は、隕石めいて腐れ日の顎に迫り――
「――ァアアアアアッッ!!」
雄叫びを塗り潰す絶叫が響く。
大地に突き刺さる角。重力と回転による遠心力によって威力を倍増させた巨大剣が腐れ日の角を枯れ枝のようにへし折ったのだ。
全身を仰け反らせて腐れ日が叫ぶ。竜の象徴であり強さの源でもある角。白色のそこから血を噴出させながら角を折った下手人を探すために首を下ろした。
呆気ない、あまりにも呆気ない幕引きだった。
回転により前後不覚になりながらも、視界一杯に広がる地面に写る影を見てがむしゃらに突き上げた巨大剣。その切っ先がズブリと腐れ日の首に吸い込まれた。
奇しくもそこは前居た世界で彼が与えた傷の位置。
巨大剣は数多の竜を斬り、その亡骸と生き血で作り上げられた武器であり、その刃は竜の強力な再生能力を阻害する効果を持つ。
それは腐れ日にも有効であり、見た目こそ完治していたが、その肉体は既に限界だったことが分かる。
――ォォォ……
純白の身体を朱に染め上げ、腐れ日が哭く。
激痛による悲鳴ではなく、傷つけられた怒りによる絶叫でもない。それはまるで、別れを惜しむような何かを堪える様な鳴き声。
あふれ出る腐れ日の血を全身で浴びる彼の頭上で一際大きく、天を仰ぐように仰け反った腐れ日が、ドウッとその身を地面に横たわらせた。
下敷きになるのを避けるため、自由の効かない四肢を無理矢理動かして転がる様に退避した彼は、覚束ない足で立ち上がると巨大剣を引きずりながら腐れ日の顔に近づいていく。
見上げるほどの顔に、ちらりと見える牙。
と、深い海のような藍色の瞳と彼の視線が交差する。
開ききった瞳孔を収縮させようと蠢く眼を見て、なぜか彼は兜を脱ぐと自らの顔を曝した。
それは、生涯を通して最も強力だった、宿敵とも呼べる敵に対する敬意もあったのだろう。ただ何となく、自分の顔を覚えてほしかったという気持ちもある。
彼の顔を見たのか、パチリと瞬膜が閉じられ、ニィ、と腐れ日の口がつり上がった――気がした。
沈黙が訪れる。念願の腐れ日の竜の討伐。嬉しい筈なのに、彼の胸中はまるでぽっかりと穴が開いたようであった。
腐れ日の身体を解体する気にもなれず、彼はドカッとその場に腰を下ろすと四肢を投げ出して地面に倒れた。
青空がとても目に染みる。
※※※※
彼が目を覚ましたのは、それから数刻ほど時が過ぎてからだった。
沈みかけの茜色に染まる太陽を見て、こんなところで寝るなんて、魔物に食われても文句は言えないぞ、と気が抜けているらしい自分を叱咤する彼。
だが、そう心の中で言ってみたものの、彼の身体は今一力が入ってくれない。
消えない消失感に悩まされつつも起き上がった彼は急いで腐れ日の死体を処理して帰宅しようとして、そこで初めて腐れ日の死体が存在しないことに気が付いた。
これには彼も大慌てである。いくら異世界だとしても死体が無くなるなんてどういう要件だ。しかも腐れ日は彼にとって大切なもの。それをもし奪われたのだとしたら彼は自分のポリシーを破ってでも取り返さなければならない。
なくなった死体を探すべく歩き出そうとした彼の背後で響く足音。
ゆっくりと砂を踏みしめる音に下手人か、はたまた魔物か、と巨大剣に手を添えて振り返る。
「ぁ……ぁぁ」
フラフラと覚束ない足取りで近づいてくる人影は、魔物だ。
力強い翼と四肢、そして鋭い爪と、側頭部の角。身体的特徴は魔物であるドラゴンのソレ――なのだが、何かがおかしい。
誇り高いドラゴンにはありえない覚束ない足取りに、引き締まった肉体ではなく、膜によって締め付けられた場所からむっちりとはみ出した肉は、その肢体がどれだけ柔らかいかを表していた。
そうした身体的な特徴だけではない。何より顕著なのは、その表情だ。
だらしなく緩んだ口元からは絶え間なく唾液が溢れ、青色の瞳には知性の光は無く、だが何かを求める本能のみが映る。
魔物ならあまり手荒な真似はしたくない。そんな気持ちもあって相手の出方を窺う彼。
相手は恐らくドラゴンのはずだが、ドラゴンではない。だが、ワームでも、ワイバーンでも、他のレッドドラゴンなどの別種の竜種というわけでもない。
どうにも上手く働かない頭を総動員して相手の正体を探る彼――それが致命的な隙を生んだ。
「――ァアッ」
先程までの千鳥足からは微塵も想像できない瞬速に反応が遅れた。
謎のドラゴン擬きの突撃をまともに受け止めてしまい転倒してしまう彼。その上にドラゴン擬きが圧し掛かる。
完全にマウントを取られてしまった。急いで抜け出さなければと彼女の腕を掴もうとしたその瞬間、彼の唇にドラゴン擬きの唇が合わさった。
氷のように冷たくも、ふわふわと柔らかい唇がかさついた彼の唇を潤し、戸惑う彼の唇を舌がこじ開ける。
彼女の唇の柔らかさに一瞬対処が遅れてしまい、目を見開いてもがこうとする彼であるが、そんな彼の口内に何かが流し込まれる。
それは唾液ではないが、液状の物。嗅ぎなれた独特の匂いは腐れ――ドラゴン擬きと視線がぶつかり、そこで初めて、生気のない彼女の中で唯一溢れる感情、情欲の炎に気づき、そこでようやくこのドラゴン擬きは、ドラゴンゾンビという魔物だと思い出した彼。
だが、彼が思考できたのはそこまでだった。
ドラゴンゾンビのブレスは、対象の男性の理性や抵抗する感情を腐らせる効果がある。
そんなものを至近距離、しかも体内に直接取り込んでしまえばどうなるかなんて、分かり切ったモノである。
「――ンッ……」
彼女の表情が蕩ける。
理性を腐らせた彼が彼女の身体を力一杯抱き寄せ、彼女の口内に舌を差し込んだ。
硬い鎧に彼女の豊満な女体が沈み込み、鎧越しの筈なのにその柔らかさを直に感じる。
自らも彼の背中に手を回し、甘ったるい唾液を交換し合う二人。
彼女を抱きしめていた腕を離すと、彼女は嫌がる様にその身をさらに密着させる。彼は彼女の口腔を味わいながら腰を浮かせ、痛いくらいに張りつめた股間をインナーを引き裂くようにして露出させる。
溢れ出す雄の臭いに気が付いた彼女は尻尾を器用に使って自分の股間を覆う骨を除け、自ら進んで股間を彼の逸物に押し付けた。
互いに抱き合ってキスをしているだけで、はやく挿れてと鳴く彼女を焦らす様に灼熱を帯びた肉棒を擦り付ける。
「――ん、ンッ……ふっ、ぁ」
彼女の顔が歓喜に融け、甘い吐息が溢れ出す。
だが、足りない。喜びの涙を流しながら媚びるように必死で身体を擦り付ける彼女。
そのどこに触れても沈み込む柔らかい肢体が彼を刺激する度に、肉棒からは我慢汁が溢れさらに濃い臭いが二人を包む。
肉棒の先端が彼女の陰唇に引っかかる。アハッと彼女の唇がつり上がり、強請る様に腰を浮かした瞬間、彼は腰を勢いよく突き出した。
「ォオ――ッ!?」
「ンァ――」
頤を突き出し二匹の竜が声をあげる。
焼けた鉄棒のように熱い肉棒をそれを上回る情欲の炎によって熱せられた膣が包み込む。
彼女の身体と打って変わって燃え滾るマグマの様に熱い膣内。肉棒を吞み込んだ膣壁はまるで解きほぐす様に肉棒を柔らかく激しく搾りたてる。
「うぁっ」
呻き声と共に肉棒が震え、白濁液を噴出する。
極度の興奮状態と天国とも言える膣内の感触が彼の限界を突き破ったのだ。
ビクンビクンと肉棒が跳ねる度に膣壁が収縮し、もっと出してと強請る。
「ンヒィ!? あっ……ふぁっアアっ!?」
どちゅッと音を立てて肉棒が膣を抉った。
射精中も搾られいつ果てぬとも知れぬ射精地獄の中に居た彼の身体が、更なる刺激を求めて腰を突き出したのだ。
最奥を貫かれて彼女が狂喜する。彼女の喜びに感応するように膣壁が収縮、肉棒を奥へ奥へと誘い、それに惹かれて彼が腰を大きく突き動かす。
脳が焼き付ける様な快楽に人語を忘れてのめり込む二人。
肋骨のような捻じれた骨と破れた被膜の翼が彼を覆い、彼女の四肢ががぶりと彼の身体を抱きしめる。
だいしゅきホールドとは一見女性が男性を受け入れる姿勢に見えるが、まるで男性を捕食しているように見える。
「あッ……ふっ、はっ……」
「あっ……あっぃイッハッァアッアアアッ」
「ぐ……ウッ」
「アアアッッ!? ヒッ……あ゛あ゛あ゛」
「グォォッ」
周囲に噎せ返るほどの臭いと腐れをまき散らし、絡み合い、貪り合う竜の狂宴は続く。
「うっ……あ、さ?」
彼が意識を取り戻したのは、瞼を貫く光を受けた時だった。
ボーっとする視界の中に、黄色い太陽がまぶしく映る。
自分は一体何をしていたのだろうか。鎧の感触はなく、風の感触から自分が裸であることが分かる。
ここは一体どこなのか。四方を確認しようと身を起こした彼の股間から鋭い快感が駆け巡る。
「うぁっ!?」
その快楽に腰が砕けてしまい地面に倒れこんだ彼。
そうしている内にも彼の股間はぬめりとした温かいモノに包まれ、ザラザラとしたものに舐られる。
「ああっ!?」
鈴口を丹念に舐られ、彼はだらしない声を挙げて腰を震わせた。
全身を震わせるたびに腰の奥から吐き出される精液。肉棒を包む感触から何者かはそれを飲み物の様に飲み込んでいることが分かった。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
射精後特有の倦怠感に息を荒げつつ、彼は何とか首だけ持ち上げると股間の方を見た。
「うぁ!?」
「――あ、起きましたか?」
ちゅぽんっと腰が吸い取られるような快感に声を挙げた彼の顔を、下から四つ這いで這い上がってきた人影が見つめる。
風に靡く純白の長髪。深い海のような藍色の瞳と、側頭部から伸びる一本の角。
「良かった。もう起きなかったらどうしようって思っていました」
どれだけ気持ち良くしても起きないんですもん。安心したように眉尻を下げて微笑む女性。
骨のような白い甲殻に、ウェディングドレスのような純白の膜と、むしゃぶりつきたくなるむっちりと実った果実。
自分の腹の上に乗っているドラゴン。だが、彼は空を背に翼を広げたその姿に既視感を覚えた。
「――腐れ日の……」
彼の呟きに嬉しそうに笑顔を作る。
「はい。在りし日、私は腐れ日の竜と、そう呼ばれていました」
腐れ日、そう言われて彼の記憶が急激に蘇る。
甲殻を貫いた感触。柔らかく吸い付く肌。魂を吸い取られるような射精と彼を狂わせる悦びの声。
「で、でもあの時は――」
「……忘れたのですか? 私はこの姿の前に、もう一つ姿があるんですよ?」
拗ねるようにぷくっと頬を膨らませる自称腐れ日の竜に彼は慌てて言い訳をしてしまう。
「い、いやでもあの時はドラゴンゾンビで――」
「そもそも私はドラゴンゾンビですよ?」
ぷいっとそっぽを向く自称腐れ日の竜に困惑が隠せない。
まさか宿敵である竜がこんな美しく肉欲を刺激する女性になっているなんて誰が想像するだろうか。だが、そんな彼の眼に彼女が腐れ日の竜であるという証拠が映った。
「――その、角と首筋の……」
「はいそうです。貴方が折った角と、貫いた首です。分かっていただけましたか?」
認めるしかない。彼女は腐れ日の竜だ。
なぜか胸に安心感が溢れ、彼の身体から力が抜ける。
そうか、そうだったのか。腐れ日は――と、そこまで考えたところで股間を握る感触に気が付いた。
「って、何をやって――」
「何をって、交尾ですよ?」
何を言っているんですか? とキョトンと返されて思わず口ごもる彼。
「よい――しょっ」
「おいま――くぁっ!?」
待てという静止が一瞬で吹き飛んだ。
記憶の中にある膣とはまた具合が違う。
灼熱のような熱さはそのままだが、柔らかくどこまでも沈み込んでいくような感触ではなく、優しくも力強く肉棒を食む膣壁。
「どうですか? あの時の私と全然違いませんか?」
「あ、うぁ……」
「ふふふ、そうですか、良かったです」
こねるように腰を回されるだけで、膣内の肉棒が四方八方から全く別の圧力と襞に引っかけられ彼は快感に耐えることしか出来なくなってしまう。
そんな彼の様子を見て上機嫌に笑う彼女。その表情は飢えている時と同じように悦びに蕩け、その瞳には愛する者と交わる狂喜の炎が燃え上がっていた。
腐れ日の竜の名は健在。彼女はこの世界のドラゴンゾンビとなることで、唯一無二の腐ること無き宝と交わり、喜びの咆哮を轟かせるのであった。
この後、二人が交わる場所は前の世界と同じように腐れが発生するようになるのだが、その性質は腐れ日が魔物となったことで変化。これに触れる、もしくは臭いを嗅いだものは例外なく理性を腐らせられ、情欲の炎を燃え上がらせたという。
近づくだけで無差別に生物を発情させる魔界の誕生に、一部魔物が喜んだとか。
17/02/19 11:28更新 / ソルティ