アルラウネになった少女
後輩が部活をサボった。
「こんな時に休むって……なんなの?」
滴る汗が不快。季節は夏、前年以上の猛暑。
私は浅木美紗。園芸部の一応部長。と言っても、そろそろ引退も近いんだけど。三年生だし、他校との交流会ももう終わった。することといえば、こうやって暑い夏の中花の世話に出かけるだけ。
もちろん殆どの日は後輩がやってるし、私が出る今日も松本くんっていう園芸部じゃ珍しい男の子の後輩が来るはずだった。
「メールしても蓄積、電話も出ない。……電源切ってるなーこれ」
そこまで行きたくないわけ? 女子が多いからって入った手合いだと思ったら、意外と根性あって見直したのに。
うちの高校の花壇はビニールハウスの外にもある。なんせスポーツ重視の高校だからね。文化部の扱いなんてぞんざいなもん。今時、植物すら殺しかねないこの暑さで屋外花壇なんて。花に死ねって言うようなものよ。
私はまあ、見かけ上意外だって言われるけど、一応花が好きだし。あの甘いにおいとか。私がここで行かなかったら間違いなく全滅する。そんなの見たくないじゃない。
うちのとこは山の中腹あたりにある高校。その道中の、遮蔽物のない田園地帯がとにかく暑い。
「……おねえちゃん、だいじょうぶ?」
そんな中で、真黒いドレスに身を包んだ女の子が私に声をかけてきた。子どもだってのに黒い日傘を差していて、育ちが違うなーとか僻んでしまうほど。田舎にもまったく似合わない。
よく見ると髪は金髪、目は青色。日本人ですらなかった。
「うん、ありがとう。大丈夫よ」
滴る汗を首からかけたタオルで拭う。制服も下着が透けそうなほど濡れてるし、膝上までスカートを上げようと暑いものは暑い。
「おねえちゃん……ちゃんと、水分とらないと」
ハーフの子なのか、流暢な日本語で言って、某青いスポーツドリンクのペットボトルを私に差し出してきた。一応水分はあるし大丈夫って言ったんだけど、「いいから」と押し切られ受け取ることに。
「きをつけてね。おねえちゃん」
「ありがと」
今飲もうかなーと思ったけど、首にあててシップ代わりにしたほうが良さそう。
そうやって私は、一人きりで高校を目指す。
ビニールハウスの中もどこもかしこも暑い。暑い。とにかく暑い!
家から持ってきたぬるいお茶で体は冷えず、ずっと冷たいままのドリンクで脇の下やらを冷やさなければ本当に熱中症だったかもしれない。
「はー……どうしてこんな時に限って休むかなーほんとに……」
松本くんへの恨み節も尽きない。次の部活でビニールハウスの改善交渉にでも行かせよう。あの頭の固い顧問のとこへ。
ようやく屋外の分以外の水やりは終了。ついに最後の水分が尽きたから、頼れる保冷剤のドリンクを飲むしかない。
横のジョウロには水がたくさん入っているけど、これを飲むわけにもいかないしね。
「どういう仕組みなんだろう? まだ冷たい……」
その某スポーツドリンクは軽く一時間は経っているはずなのに、ずっと冷たい。なんにせよ有難い。
それを一気に、飲んだ。
「っはあー! 生き返るっ!」
効果はてきめん。体が一気に冷える。「さて!」とかなんとか声を上げて、ジョウロを掴んだ。
「…………水?」
ゆらゆらと揺れるジョウロの中の水に、私の顔が映っている。なんだかうつろな目で、夢を見ているような顔。
水が飲みたい。飲まないと死んじゃう。
私はそのジョウロを両手で抱え、口へ流し込むように水を飲み干す。体の隅々、指の先まで水が行き渡り、体の各部に水が溜まっていく。
「まだ、まだ必要……」
ふらふらと近くの水道に寄って、頭から水をかぶる。流れていく水を舌で飲み。両手を滴る水に添えると、そこに清浄な水が吸い込まれていく。
「水、もっと……水……」
私はカッターシャツを脱いで、水道の水を全身に塗りこむ。肌についた水はすぐに体内に吸収され、強烈な渇きを生む。頭上の太陽が命を奪うような錯覚。
私はふと、水やりを終えた後のビニールハウスを思い出す。動きの悪い足でビニールハウスへ入り、邪魔な靴を脱いで土に素足をつける。
「はぁ……おちつく」
足の裏から直に水分を吸収する。ビニールハウスの端にはちょうど水道もあって、歩くのが面倒なので腰から細い蔓を伸ばす。でも蛇口が硬い。
「もう……! ちゃんと整備しときなさいよ」
小さな花の咲く腐葉土の上を這って――あ、これって水分をたくさん吸えて合理的――蛇口をひねる。流れる水に私の蔓を添えておいて、また元の位置に座り込む。
強烈な渇きが満たされていく。
「はー……」
そして数分経って、私は『アルラウネ』として完全に魔物化するための第一段階に成った。
肌と髪の色が薄くなり、両手がどことなく植物の葉を思わせる鋭利さをもつ。スカートの裾から何本か、伸縮できる蔓が伸びている。
「ふふん……じゃ、次は場所探しね」
どういった場所が、私が花を咲かすのに適しているか――それも既にわかっている。体内の魔力が、早く花を咲かせたいと疼いている。
人間だった頃園芸部でよかった。土の質は全部覚えてる。こんなビニールハウスの中じゃ光を得られないし暑い。そして男が来ない。外よ外。
「あ……そうだ。水やりしとかないと」
ふと思い出して、私はジョウロをもってやりかけだった屋外花壇の水やりを続行した。花になった私が花に水をやるのもなんだかシュールだなとか思ったら、そのまま一人で爆笑。残った水は自分で飲んだ。
そうそう。水は大事。水がないと死んじゃうからね。私も、この意思なき花たちも。
「あ。これってすごくいいかも。園芸部みんなアルラウネだったら、水やりも絶対サボらないんじゃない?」
見た目で園芸部ってすぐわかるし。これいいかも。
なんてことを考えながら、私はまず一つ目の花壇に足を入れる。そして顔を近づけて、土をわずかに口に含む。何度かくちゅくちゅと口の中で転がして、吐き出す。
「まあまあね……土作りが効いたみたい」
私の白い唾液にまみれた土は、微かに甘い匂いを発している。これはアルラウネの体液――蜜へと、私の体液が変化しつつある証かな。
ちょっと気になって、もう一度その唾まみれの土くれを口に含んでみる。甘い。大丈夫かな。自分の蜜でこんなに感じてしまうなんて……。
邪魔になるだけだし、スカートと下着を外す。男を誘うために蔓を使ってそのへんに撒いておいた。
「……? 私、何を噛んでるんだろう……?」
それにどうしてほとんど裸なんだろう? 外で裸? それに噛んでるこれは土?
頭の中に霞がかかったような、なにかすべてに対応しなきゃいけないけど、どうすればいいかわからないような。
「うーん……」
「あ、そうだ。アルラウネ。何言ってんだろう」
いけない。大事な時に意識が途切れるなんて。私は土を吐き出して、隣の花壇の土も味見する。その隣も、その隣も。
そうやって吟味すること数分、途中何度か水分を補給しつつ、私は七番目の花壇に花を咲かせることにした。両足を土に入れて、体育座りの要領で体を抱え込む。蔓が私の周りを取り囲みながら、穴を深くしていく。
後は私の魔力を外に放出すればいい。アルラウネは人間を魔物に変える力がないのを見ればわかるように――自分の魔力を外に出すことは苦手。でも花を咲かせるには、そうするしかない。
だから。
「んっ……」
私は胎児のように丸まり、決して大きくない胸の先端、乳首を手でいじる。魔物になったことですぐに高まりが来て、とろりと一際甘い匂いのする液体が土に溜まる。それがすぐに青い光を発し、私の体を硬い葉で包んでいく。最初に蕾を形成するため。
決して下をいじっちゃいけない――そんな制約がもどかしい。それでも私は、辺りに男が――明くん(園芸部の副部長)がいることを想像して、何ヶ月かまえの布団の中のように――オナニーする。
「あきくん……っ。来て……」
もうすぐ。私が立派な花になれば、きっと呼び寄せられる。そのために私はもっと。もっと淫らに。もっと喘がないと。魔力が放出されない。
せめて夜だったらよかったなと思う。昼だとどうにも――何か心のどこかで、引っ掛かりを感じてしまう。
私の色々なところから出た体液が土に積み重なり――ついに蕾が完成した。私は硬い蕾の内側でゆっくりと、足を真下へ伸ばす。
まだ細いけど、私の足元には愛する男と一緒に過ごすための小さな部屋がある。そこで蔓を伸ばし、蕾の本体とつながる。
アルラウネとしての完全体になる準備は整い。そして。
花が咲く。
私の中で魔力が花開き、私の体を作り変えていく。髪や肌が完全にライトグリーンに変わり、胸も開花――つまりは大きくなる。
「ふふふふ……」
私はここから動けなくなると同時――花になったんだ。
園芸部が花を育てる場所だから、当然私が咲いた場所も風通しがいい。それはつまり、私の蜜の匂いが広がりやすいということ。
アルラウネの蜜はすべての魔物が欲しがる最高の媚薬。撒いておけば男どもは盛りがつき、貞淑な人間の女でも、男との接触を求めるようになる。
どうしてわかるのかって? 自分の体だからよ。私はアルラウネの美紗だから。
「そろそろ来る……?」
携帯を見ると、園芸部の副部長――速見明くんが来る時間。体のあちこちから蜜が零れ落ちる。花弁の内側はもう、黄色い蜜で満たされている。
ツン、と突く男の匂いがした。
「きたっ……!」
間違いなく明くん。私の女としての直感でわかる。
私は花弁の中に閉じこもり、蔓だけを外に出す。
「な、なんだこれ……? 誰かのいたずら……?」
明くんが近寄ってくる。私は立ち上がり、明くんに全身を晒した。
何も着ていない、裸の私。明くんは私を見ている。私の胸。その両手が僅かに動いたのを私は見逃さない。
「明くん!」
蔓を伸ばし、絡めとってそのままキスする。唾液が変じた蜜を流しこむと、明くんの目は少し虚ろに、明くんの男の匂いは更に濃くなる。
「あ、浅木、さん……」
明くんの両手が私のわき腹あたりで動く。私はその両手を掴んで、自分の胸へとあてがう。
「触って。揉んで……めちゃくちゃにして」
「あ、あ、でも……だめ」
体は正直。明くんの指が私の大きな胸に食い込み、気配を察知して以来立ちっぱなしの乳首をようやく癒す。
「ひゃんっ!」
「あ、あああ、あ……」
魔物になって私は喘ぐこともうまくなった。嬉しい。
明くんの目が段々はっきりしてくる。それは男の目。私も喘ぎながら、その目に釘付けになってしまう。
「さあ。ひとつに、なろう?」
「……ああ。そう、だね」
明くんを蔓で持ち上げて、お互いにキスして、胸を揉まれながら、花弁の中へ引き込む。明くんは私の気持ちをわかってくれたみたいで、もどかしそうに制服のズボンを脱ぐ。カッターシャツは私が破いてあげた。
裸の体が擦れあう。明くんは私の予想通り、意外とがっちりした体つきだった。
顎の下に手を入れられ、上向いてキスさせられる。それはとても幸福。人間だった頃の私じゃ出来なかった。
「あはっ……♪ 当たってる……♪」
私の秘所を撫でるものを感じる。熱い汁――我慢汁が始まりを告げる。
魔物としての至福の時。愛しい人とのセックスが。
分厚い花びらが閉じて、私たちの愛の巣が完成した。
私たちの蜜月を邪魔したのは、あのドリンクをくれた小さな女の子だった。
「もしもしー。楽しいところごめんなさいー」
「……なに? ああ、あの時の……。ありがとね。私をアルラウネにしてくれて」
いえいえー、と小さな女の子は言う。私は花びらを開き、明くんに抱きついたまま二人で姿を現す。小さな女の子は満足げに笑った。
「無事に夫を手に入れたんですねー。うらやましいですーわたしも欲しいです」
「あげないからね。ねー明くん」
明くんは笑ってわたしにキスをする。お互いに黄色い蜜にまみれて、性欲がおさまることがない。特に明くんはよっぽど溜め込んでいたみたいで……今でも下のほうでは繋がっている。
「あー、それでなんですけどー。ミサさんには一つお願いがあるんですー。この種を、なるべくたくさんの女性……あ、もちろん初潮をむかえた後の女性に限りますー。捕まえて、植えつけて欲しいんですよー」
女の子は懐から小さな、大豆ぐらいの黒っぽい種をいくつか取り出す。それは少しヒビが入っていて、中で何かが動いている。
「植えつける場所は女性器ですー。アルラウネの力を持ってすればたぶん楽勝ですー。そうですねー。手の早い子だったら自分から植えてくれるかもしれないですー。男性の匂いを発するのでー」
「これ……何の種なの?」
女の子は淫靡に笑った。
「ふっふー。まあ植えてみればすぐにわかりますよー。捕まえて渡してあげれば、たぶんそれで終わりですよー。いやー。蜜ってすごいですねー」
女の子は私の体についた蜜をすくって舐める。見た目にあわない、歳経た娼婦のような笑みを浮かべた。
「あ、それとー。基礎知識にないので教えておくとー。私は『魔女』ですー。こう見えても五十年ぐらいは生きてるんですよー」
えへん、と胸を張る魔女。その言葉は嘘に聞こえない。
私はひととおり頷いて、そして。身近な女性を考え――ある子が浮かぶ。
「……この種。陵辱とかに使えるかしら?」
「おっ。鋭いですねー。たぶん植えられたほうは適合するまでそんな感じですねー。ふっふー。その顔だと、植えたい人がたくさんいるんですねー?」
「そう。うーん、とりあえず園芸部全員、かな?」
「あれ? 美紗、後輩たちを可愛がっていたんじゃないのかい?」
私は明くんにまたキスして、首を振る。
「可愛がっていたけど。なーんか、みんな明くん狙ってた気がしてムカつくのよね。明くんは私だけのもの。ずっと前から決めてたんだから」
「そっか。嬉しいよ」
明くんがまた奥まで挿れてくる。「あんっ!」と喘ぎ声を上げて、私は舌を明くんと絡ませる。この声もすべて、校内に届いているだろう。
淫乱な空気に包まれた校内に。
「じゃあ、お願いしますよー。わたしはちょっと、やることがあるのでー」
また始まったセックスに手を震わせながらも、私は魔女を見送った。
私が携帯で呼び出したのは、一つ下の園芸部の後輩。和泉さん。
『二年生の松本くんが部活をサボったから代わりに来なさい』と送っても来なかった。でも『副部長も待ってるから』と送るとすぐに返事が来た。これで丸わかり。許せない♪
「最初の犠牲者確定、っと♪」
手元にある種は、事後の今はあまり感じないけれど……性欲が高まった時には、強い男の匂いを発していた。まあ、どこの匂いかなんて言うまでもないわね。
なるほど。私の蜜で欲求不満になった女はこれを自分から……ってことね。まあ、私には明くんがいるから効かないんだけど。
その様子を考えただけで笑いがこみ上げてくる。あのクール気取りの子が自分からこれを……ふふっ。
「そもそも園芸部のくせに手が汚れるのを嫌うってなんなの? 馬鹿なの?」
私が花弁に腰掛けて愚痴っていると、ぽんぽんと頭を叩かれた。この花の下の部屋にいた明くんだ。私の魔力が増えたことで、花の下にある私と明くんの部屋も大きくなったというわけ。
「まあまあ。怒らなくていいじゃないか。美紗は笑っている方がいいよ」
「ふふ。ありがと。明くん」
また明くんの濃密なキスをしていると――遠くのほうに和泉さんが見えた。一丁前に髪なんて整えながら、どことなく嬉しそうに歩いてくる。
私は名残惜しいけど明くんとの唇を離す。明くんは手を振って、私の足元を通って花弁の下へ隠れた。
私も花びらを閉じて隠れる。ただし蔓をそこらじゅうに伸ばして。
「……何これ?」
目の前に立ったのを見計らい、蔓で和泉さんを絡め取る。花びらを開いて姿を現す。
「な、え、あ、浅木先輩……?」
「こんにちは和泉さん。暑い中ごめんね」
私は穏やかな口調で、和泉さんの胴を絡めて自分の目の前まで近づける。私が裸であること、巨大な花があること、蔓に絡め取られていること、さてどれに驚いているのか。
「は、離してください浅木先輩! 速水さんがいるって聞いたのに!」
和泉さんの頬は赤く、自由な腕が胸に伸びようとして、すぐに引っ込む。この学校中に広がるほど強烈な蜜の匂いにずっと当てられて……しかも好きな人の元へ行くわけだから。興奮しているのね。
それでも蔓から抜け出そうともがいたりせず、ただ鋭利な目で私を睨んでいる。制服のボタン一つ外さず。内股をこするのも必死でこらえている。泰然を装っている。
流石、クールキャラで通しているのは伊達じゃないみたいね。それがムカつくんだけど。
「ねえ和泉さん。速水くんのこと、好きなんでしょ」
「な、そ、そんなことありません。それより離してください。あと服を着てください。いくら浅木先輩に女っ気がないからってはしたないです」
私は蔓を和泉さんの内腿に巻き付けた。「ひゃわわっ!」と声をあげてすぐにいつもの表情に戻そうとする。
「誰が女っ気がないって?」
「あ、浅木先輩が女っ気がないって言ってるんですっ! こ、こんな、私に……はしたないこと……!」
「今からあんたも、もっとはしたないことをしてもらうけどね」
私は魔女からもらった種を一つ取り出す。それを見て匂いに気付いた途端、和泉さんの表情が変わる。理性的な顔つきを維持できなくなり、媚びたようなまなざしを向ける。
「あ、あ、それ……」
「欲しい? ねぇ欲しいでしょ? あ・げ・る」
ぽとりとそれを手に落とすと、和泉さんはぱあっと笑顔を浮かべる。片手を襟の内側に突っ込んで胸をいじりながら、それの――男性器の匂いを発する種を嗅ぐ。
「はぁっ……い、いれ、たい……」
「そう? じゃあ、手伝ってあげる」
足首に蔓を巻き付け、ぐっと足を上にあげる。こっちからはよく見える。無駄に大人びた下着がよーく濡れている。人間相手でもこんなに効くのね。私の蜜は。
「だ、だれが、そんな、こと……!」
「ふーん? じゃあ、ちょっと飲む?」
私は和泉さんに口づけする。私の涎――つまりアルラウネの蜜を一気に体内に流し込む。和泉さんの白い肌が一気に赤く染まる。普通の人間に耐えられるものじゃない。
もう理性はほとんどない。私たちと同じ――性欲に従う魔物に近い。
「わ、だ、だめ。お、おかしくなる……おかしくなっちゃう……」
種を持った手が震えながら下着の内側へ入っていき、ぐっと種をその内に、押し込んだ。
「成功♪ もういいわよ」
私は蔓をほどく。だけど和泉さんは立てずに地面に座り込んだ。「ひゃんっ」と喘いで、我慢できずに胸をいじりはじめる。もうそこにクールキャラの面影はなく、私は胸がすっとする心地だった。
「ど、どうして……? と、とまらない……っ」
「止める必要なんてないのよ。まあ、明くんは渡さないけどね」
私は気付いていた。
和泉さんが擦り続ける股の隙間から――ピンク色に近い『触手』としか思えないものが萌芽していることに。
「きゃっ! な、なに! なにこれっ!!」
和泉さんが慌てて立ち上がると、スカートの内側から、襟元から、裾から長い触手が飛び出てうねうねと動き回る。絶叫しようとした口を触手が塞ぐ。
「すごい……。こんな植物の種だったんだ。素敵♪」
あの触手は和泉さんの意識と分離しているらしく、一つが引き剥がそうとする手に絡みつき、他の触手が胸をまさぐっている。力を入れようとすれば喘ぎ声になり、自分の手までオナニーに参加しようとしてしまう。
私は笑い転げていた。いい気味! いい気味よ! 明くんとセックスしようなんて甘い!
「や、やめてっ。わ、私はもっと、ひゃんっ! お、おとなしく……だ、だめっ」
最初に生えた触手が秘所と繋がっているものだから、動くたびに刺激されて、もう立ち上がることも出来ないみたい。おまけに私の蜜をたくさん飲んだから性欲がおさまることもない。
「認めたほうがいいわよ。自分が淫乱なメスだったって」
「だ、誰がそんなことっ! わ、私はそんなことは」
「そこでずっと喘ぎなさい。私は明くんとイチャイチャしとくから」
明くんを呼ぶと、明くんが下の部屋から出てきてくれる。「やあ、和泉さん」と笑顔で言っただけで、和泉さんは淫乱な笑顔になり、一匹のメスになる。
同時に触手が一斉に向かってきたから、蔓で打ち落とした。どうやらこの触手に人の夫とかそういう見境はないみたいね。
「は、速見さん、わ、わたしにいれてっ。あ、あつい。あついんですっ」
和泉さんは触手と一緒にオナニーをしはじめる。もう欲望に抗うことは出来ない。
当然、明くんは苦笑いを浮かべた。
「うーん。ぼくには美紗がいるから無理かな。ごめんね」
私は嬉しくなって明くんに抱きつき、キスをした。その様子をオナニーしながら和泉さんは見る。
「あんたも探せばいいのよ。ほら。校内行って、適当な男でも捕まえてきたら」
「はぁっ……そ、そう。ね。はやくほしい……精液……あつい。あついよぉ……」
触手が歩行を支え、和泉さんはオナニーし続ける。さっきと逆じゃない。と気付くとまた笑ってしまった。
校内で男女問わずの悲鳴が上がり始めたのは、それから数分後のこと。
あの触手型の魔物はローパーというらしい。
しばらくして戻ってきた魔女にそう聞いた。魔女はとても嬉しそう。
「これで一気にローパーが増えますー。ローパーは最初は『ローパーの胚』状態で宿主とばらばらの動きをするんですけど、完全体になると宿主と一体化するんですよー。まあもちろん宿主の思考はローパーになってるんですけどねー」
「へぇ。いい植物じゃない」
私はその後も、呼び出せる限りの園芸部の女子部員と、個人的に気に入らないクラスの連中を呼んだ。みんな蜜のせいでいとも簡単に自分で種を植えてローパーの胚になる。適当にけしかけてやればすぐに校内に入って暴れ始めるし、扱いやすいわ。
なんてことを思っていると、重いものを擦るような音で和泉さんが近寄ってきた。顔を紅潮させ、たくさんの触手を撫でながら。とても幸せそうに。
「浅木せんぱいー。ありがとーございますー。わたし、とってもしあわせです」
「でしょ? たっくさん精液飲めた?」
「もちろんですー」
スライムのような半液状の足元がボコボコと沸騰している。
「これがローパーの完全体ですねー。近くの上位魔物の言うことを聞くよう設計しておいたのでー。完全体は好きに使ってくださいー」
まあ。なんてこと。これで和泉さんは私の思い通りに動くわけね。
「そうね。じゃあ、手当たり次第に女を襲いなさい。私の蜜も少しあげとくから」
ペットボトルに入れたアルラウネの蜜を持たせると、黒い種をぎらつかせる触手がうねうねと動く。そうか。こうやってローパーは増えていくのね。
和泉さんは緩慢な動きで敬礼をして、新たなローパーを殖やすために学校へ入っていく。私が種を植え付けたほかの子もすぐに戻ってくるはず。
「よかったですー。ミサさんのおかげでここが最初の拠点になりそうですー。じゃあ最後にこれー。私たち魔物の代表格の魔力薬ですー」
「何の魔物?」
「サキュバスって知ってますー? まあ要するに淫魔ですー。誰でもいいですけどー、面白いことになりそうな子に飲ませてあげてくださいー」
面白いことになりそうな子……。陵辱したいわけじゃないけど、面白いことになりそうな子……。
私を見上げる、ある女の子の顔が浮かぶ。
「ありがと。後で呼んでみる」
「いえいえー。わたしはバフォ様に報告があるのでー。しばらくお別れですー。実験は大成功ですよー。希少ワーウルフのサンプルも取れましたしー。やっぱりこっちの世界はいろいろ違うんですねー」
魔女はそう言って、どこかに行った。
なんだかわからないけど、あの子のおかげで今私はアルラウネとなって、明くんと夫婦になれた。
「私のほうこそ……ありがとね」
そう呟いてまた、明くんとセックスをはじめた。
『ちょっと話があるから』
そんなメールでも来てくれるのが、私の二歳下の後輩、夕菜ちゃん。
私のことを慕ってくれるし、部活も真面目に来るし。私もこの子がいるから園芸部の辛い仕事がんばれるし、色々ノウハウを教えたりもする。私にとって大切な後輩。
だからこそ……魔物の代表格・サキュバスにしてあげたい。そしてもっともっと楽しくしてほしい。勉強や園芸なんかよりずっとずっと楽しいことがあるんだから。
「待っててね。もうすぐサキュバスにしてあげるから」
私は明くんとセックスしてすぐに高まる性欲を一旦おさめた後、瀟洒なデザインの瓶を持って静かに待つ。夕菜ちゃんが来るのを。
私は真面目な雰囲気を出すために制服を着て、閉じた花弁の上に座っている。蔓が内側と繋がっているから動くことはできないけどね。
待ち時間退屈だから、(ブラがないので)カッターシャツ越しにでもわかるほど立った乳首をいじっていると……ふらふらと夕菜ちゃんがやってきた。
背が低く胸もちっさい。子どもっぽいけど、確かに初潮は迎えているし性も知っている。だから夕菜ちゃんは校内に満ちる私の蜜の匂いで、理性が薄れている。
それでも一生懸命、パンと頬を叩いたりして目を覚まそうとしているのには、私自身嬉しく思う。
だから早くサキュバスにしてあげたい!
「あ、浅木先輩。こんにちは」
「こんにちは。夕菜ちゃん。ごめんね。いきなり呼び出して」
夕菜ちゃんの頭をなでてあげると、夕菜ちゃんは笑顔を浮かべる。これが可愛くて。だから早く、サキュバスにしてあげたい。
「ねえ夕菜ちゃん。サキュバスって知ってる?」
「えっ? あの、男の人を誘惑する悪魔、でしたっけ……」
「そう。今から夕菜ちゃんを、サキュバスにしてあげるから」
私は魔女からもらった瓶を、夕菜ちゃんに手渡す。蓋をあげてあげると、ツンとした甘い匂いが立ち込める。
「これを飲めばサキュバスになれるの。さ、飲んで?」
「え? あ、あの、どういうことですか?」
夕菜ちゃんは本気で意味がわからないという顔をしている。さては好きな男の子とかいないのね。
「夕菜ちゃん。夕菜ちゃんはね、とっても可愛いと思う。だからもっと、もっと男を振り向かせてやるべき。そのためにサキュバスになるの」
「男を……? あの、どうしてそんなことするんですか? それより浅木先輩、なんだか髪が、緑っぽい……?」
「ああ。私はアルラウネだから。花の魔物なんだけどね。夕菜ちゃんも植物にしようかなって思ったんだけど、夕菜ちゃんは可愛いし、サキュバスがいいと思って」
「いや。あのっ。意味が、わからないんですけど……」
「わからなくないでしょ。最高の幸せじゃない。男とセックスすることって」
夕菜ちゃんは私がセックスと言ったことに驚いたのか、思わず顔を伏せて、でもキッと顔を上げて、どこか怒ったように言う。
「わ、私は。私はそうは思わないです。浅木先輩が言っても、そんなことじゃなくて。もっと、お花を世話することとか」
「浅木先輩はそんなのじゃなかったはずです。もっと花が好きで。ちょっと豪快だけど優しくて。憧れでした。決してそんな、淫らなことを言う人じゃなかったですっ」
「はぁ…………?」
いや、そんなのじゃないって言われてもね。私は昔から私なんだけど。よくわかんない。
私は少し焦れてきていた。夕菜ちゃんは奥手すぎる。二年の優ちゃんもそうだけど、奥手が多いのよ園芸部って。
私は夕菜ちゃんにキスした。蜜を流し込むと夕菜ちゃんの顔が一気に赤くなる。
「な、なんですか、これっ……か、からだがあつい……」
「疼いてるのよ。夕菜ちゃんの女の子の部分が」
それでも夕菜ちゃんは瓶をもっておろおろするばかり。まさか本当にオナニーすら知らないのかもしれない……そう考えると、なんだか悲しくなった。
これは尚更サキュバスにして楽しみを知らないと!
「それ、飲んで。大丈夫。すぐに終わるから」
私は夕菜ちゃんを蔓で抱いて言う。ぼんやりした顔でそれを飲むと、夕菜ちゃんが魔物へ変異をはじめる。
「な、なんか、生えてくる……っ」
うずくまった背中から悪魔のような羽。スカートの裾からハート型のしっぽが出て、頭には角が生える。背が伸びて、顔に少しだけあった染みやほくろがなくなって、明らかに――女としてレベルが上がっている。
「こ、これが、サキュバス……?」
「そう。後は男を探して、セックスしてやればいい。わかるでしょ?」
夕菜ちゃんは少しぼうっとして、
「……あ。はい。わかります。ちょっと体がうずいて……お、男の人と、その……したいです」
すごいサキュバス効果。夕菜ちゃんは淫靡な笑みまでできるようになってる。
「あのっ。あ、浅木先輩」
「なぁに?」
夕菜ちゃんはぺこりと頭を下げた。
「サキュバスにしてくれて、あ、ありがとうございますっ」
「どういたしまして。いい夫を見つけてね」
「はいっ」
サキュバスの夕菜ちゃんは幸せそうに笑った。
その後はまあ……もう誰にも止められなかった。
夜遅くなればローパーになった子を心配して他の生徒や保護者が寄ってくる。そこを捕らえてローパーにしたり、夕菜ちゃんから拡散したサキュバスになったり。
人間も魔物も夜になれば性欲が高まるものだから、部活の連中をひたすら捕まえてセックスする子もいるし、逃げ惑う友達を捕まえてサキュバスに変えていく子もいる。ああ、もちろん私の蜜効果もある。
ローパーたちを使って、学校の水道に蜜を流したからね。今頃すごい密度の匂いが立ち込めているはず。
「どうしてそんなことするの!」とか「目を覚まして!」とか。そういう言葉ももう聞き飽きたなぁ、と校舎の裏庭から見て思う。
なんか、ローパーの報告を聞く限り水泳部がすごかったらしいんだけど……まあ、いきなり水の中に蜜が入ってくるわけだしね。水着越しにオナニーでもしてたのかしら。
時間が遅くなればなるほど心配した大人たちや兄弟が集まってきて、それを狙ってたくさんの元生徒な魔物たちが群がる。女子がいれば仲間にするし、男子がいればどこかの教室や保健室なんかに連れ込んでセックスだし。
サキュバスは魔法も使えるし、もう怖いものなしかな。と思う。
そうそう。深夜に会った夕菜ちゃんは立派なサキュバスになっていた。あの時は色も薄かったけど、今は黒い羽に黒い角という完全なサキュバス。
胸もすごく大きくなっていたし、美術部の男の子と無事夫婦になれたみたい。とっても幸せそうだった。
私はまた園芸部として、別のものを育てることにした。『虜の果実』っていう魔界の植物らしいんだけど、私の蜜と同じぐらいの媚薬作用をもった素晴らしい果実。
従順なローパーに世話をさせたりもしているしね。
蛇足だけど、今回の召集で来なかった松本くんと優ちゃんは……夜中に学校に来た。優ちゃんはワーウルフになっていた。私はあのサボりもすべて納得。
「時々蜜をもらいに来ますね。浅木先輩」
「まあ、いいけど。優ちゃんも可愛くなったね」
「わうわうっ。今は琢哉様のペットです。わう」
「どうです? ユウ、かわいいでしょ? 今度は芸を仕込んでみようかなと思うんです」
「……あーはいはい。ごちそーさま」
これで私の知る限りだいたいの人は魔物になった。妹はさっき呼び寄せて夕菜ちゃんにサキュバスにしてもらったから。今頃お母さんもサキュバスになってるんじゃないかしら。
まあそうやって。騒動ばかり続いたけれど。
「明くん。だいすき」
「ぼくもだよ。美紗。今日も始めようか」
「うん。セックス、しよ♪」
終わりなく、幸せは続く。
私には夫がいるし、花の中でずっとずっと一緒なのだから。
「こんな時に休むって……なんなの?」
滴る汗が不快。季節は夏、前年以上の猛暑。
私は浅木美紗。園芸部の一応部長。と言っても、そろそろ引退も近いんだけど。三年生だし、他校との交流会ももう終わった。することといえば、こうやって暑い夏の中花の世話に出かけるだけ。
もちろん殆どの日は後輩がやってるし、私が出る今日も松本くんっていう園芸部じゃ珍しい男の子の後輩が来るはずだった。
「メールしても蓄積、電話も出ない。……電源切ってるなーこれ」
そこまで行きたくないわけ? 女子が多いからって入った手合いだと思ったら、意外と根性あって見直したのに。
うちの高校の花壇はビニールハウスの外にもある。なんせスポーツ重視の高校だからね。文化部の扱いなんてぞんざいなもん。今時、植物すら殺しかねないこの暑さで屋外花壇なんて。花に死ねって言うようなものよ。
私はまあ、見かけ上意外だって言われるけど、一応花が好きだし。あの甘いにおいとか。私がここで行かなかったら間違いなく全滅する。そんなの見たくないじゃない。
うちのとこは山の中腹あたりにある高校。その道中の、遮蔽物のない田園地帯がとにかく暑い。
「……おねえちゃん、だいじょうぶ?」
そんな中で、真黒いドレスに身を包んだ女の子が私に声をかけてきた。子どもだってのに黒い日傘を差していて、育ちが違うなーとか僻んでしまうほど。田舎にもまったく似合わない。
よく見ると髪は金髪、目は青色。日本人ですらなかった。
「うん、ありがとう。大丈夫よ」
滴る汗を首からかけたタオルで拭う。制服も下着が透けそうなほど濡れてるし、膝上までスカートを上げようと暑いものは暑い。
「おねえちゃん……ちゃんと、水分とらないと」
ハーフの子なのか、流暢な日本語で言って、某青いスポーツドリンクのペットボトルを私に差し出してきた。一応水分はあるし大丈夫って言ったんだけど、「いいから」と押し切られ受け取ることに。
「きをつけてね。おねえちゃん」
「ありがと」
今飲もうかなーと思ったけど、首にあててシップ代わりにしたほうが良さそう。
そうやって私は、一人きりで高校を目指す。
ビニールハウスの中もどこもかしこも暑い。暑い。とにかく暑い!
家から持ってきたぬるいお茶で体は冷えず、ずっと冷たいままのドリンクで脇の下やらを冷やさなければ本当に熱中症だったかもしれない。
「はー……どうしてこんな時に限って休むかなーほんとに……」
松本くんへの恨み節も尽きない。次の部活でビニールハウスの改善交渉にでも行かせよう。あの頭の固い顧問のとこへ。
ようやく屋外の分以外の水やりは終了。ついに最後の水分が尽きたから、頼れる保冷剤のドリンクを飲むしかない。
横のジョウロには水がたくさん入っているけど、これを飲むわけにもいかないしね。
「どういう仕組みなんだろう? まだ冷たい……」
その某スポーツドリンクは軽く一時間は経っているはずなのに、ずっと冷たい。なんにせよ有難い。
それを一気に、飲んだ。
「っはあー! 生き返るっ!」
効果はてきめん。体が一気に冷える。「さて!」とかなんとか声を上げて、ジョウロを掴んだ。
「…………水?」
ゆらゆらと揺れるジョウロの中の水に、私の顔が映っている。なんだかうつろな目で、夢を見ているような顔。
水が飲みたい。飲まないと死んじゃう。
私はそのジョウロを両手で抱え、口へ流し込むように水を飲み干す。体の隅々、指の先まで水が行き渡り、体の各部に水が溜まっていく。
「まだ、まだ必要……」
ふらふらと近くの水道に寄って、頭から水をかぶる。流れていく水を舌で飲み。両手を滴る水に添えると、そこに清浄な水が吸い込まれていく。
「水、もっと……水……」
私はカッターシャツを脱いで、水道の水を全身に塗りこむ。肌についた水はすぐに体内に吸収され、強烈な渇きを生む。頭上の太陽が命を奪うような錯覚。
私はふと、水やりを終えた後のビニールハウスを思い出す。動きの悪い足でビニールハウスへ入り、邪魔な靴を脱いで土に素足をつける。
「はぁ……おちつく」
足の裏から直に水分を吸収する。ビニールハウスの端にはちょうど水道もあって、歩くのが面倒なので腰から細い蔓を伸ばす。でも蛇口が硬い。
「もう……! ちゃんと整備しときなさいよ」
小さな花の咲く腐葉土の上を這って――あ、これって水分をたくさん吸えて合理的――蛇口をひねる。流れる水に私の蔓を添えておいて、また元の位置に座り込む。
強烈な渇きが満たされていく。
「はー……」
そして数分経って、私は『アルラウネ』として完全に魔物化するための第一段階に成った。
肌と髪の色が薄くなり、両手がどことなく植物の葉を思わせる鋭利さをもつ。スカートの裾から何本か、伸縮できる蔓が伸びている。
「ふふん……じゃ、次は場所探しね」
どういった場所が、私が花を咲かすのに適しているか――それも既にわかっている。体内の魔力が、早く花を咲かせたいと疼いている。
人間だった頃園芸部でよかった。土の質は全部覚えてる。こんなビニールハウスの中じゃ光を得られないし暑い。そして男が来ない。外よ外。
「あ……そうだ。水やりしとかないと」
ふと思い出して、私はジョウロをもってやりかけだった屋外花壇の水やりを続行した。花になった私が花に水をやるのもなんだかシュールだなとか思ったら、そのまま一人で爆笑。残った水は自分で飲んだ。
そうそう。水は大事。水がないと死んじゃうからね。私も、この意思なき花たちも。
「あ。これってすごくいいかも。園芸部みんなアルラウネだったら、水やりも絶対サボらないんじゃない?」
見た目で園芸部ってすぐわかるし。これいいかも。
なんてことを考えながら、私はまず一つ目の花壇に足を入れる。そして顔を近づけて、土をわずかに口に含む。何度かくちゅくちゅと口の中で転がして、吐き出す。
「まあまあね……土作りが効いたみたい」
私の白い唾液にまみれた土は、微かに甘い匂いを発している。これはアルラウネの体液――蜜へと、私の体液が変化しつつある証かな。
ちょっと気になって、もう一度その唾まみれの土くれを口に含んでみる。甘い。大丈夫かな。自分の蜜でこんなに感じてしまうなんて……。
邪魔になるだけだし、スカートと下着を外す。男を誘うために蔓を使ってそのへんに撒いておいた。
「……? 私、何を噛んでるんだろう……?」
それにどうしてほとんど裸なんだろう? 外で裸? それに噛んでるこれは土?
頭の中に霞がかかったような、なにかすべてに対応しなきゃいけないけど、どうすればいいかわからないような。
「うーん……」
「あ、そうだ。アルラウネ。何言ってんだろう」
いけない。大事な時に意識が途切れるなんて。私は土を吐き出して、隣の花壇の土も味見する。その隣も、その隣も。
そうやって吟味すること数分、途中何度か水分を補給しつつ、私は七番目の花壇に花を咲かせることにした。両足を土に入れて、体育座りの要領で体を抱え込む。蔓が私の周りを取り囲みながら、穴を深くしていく。
後は私の魔力を外に放出すればいい。アルラウネは人間を魔物に変える力がないのを見ればわかるように――自分の魔力を外に出すことは苦手。でも花を咲かせるには、そうするしかない。
だから。
「んっ……」
私は胎児のように丸まり、決して大きくない胸の先端、乳首を手でいじる。魔物になったことですぐに高まりが来て、とろりと一際甘い匂いのする液体が土に溜まる。それがすぐに青い光を発し、私の体を硬い葉で包んでいく。最初に蕾を形成するため。
決して下をいじっちゃいけない――そんな制約がもどかしい。それでも私は、辺りに男が――明くん(園芸部の副部長)がいることを想像して、何ヶ月かまえの布団の中のように――オナニーする。
「あきくん……っ。来て……」
もうすぐ。私が立派な花になれば、きっと呼び寄せられる。そのために私はもっと。もっと淫らに。もっと喘がないと。魔力が放出されない。
せめて夜だったらよかったなと思う。昼だとどうにも――何か心のどこかで、引っ掛かりを感じてしまう。
私の色々なところから出た体液が土に積み重なり――ついに蕾が完成した。私は硬い蕾の内側でゆっくりと、足を真下へ伸ばす。
まだ細いけど、私の足元には愛する男と一緒に過ごすための小さな部屋がある。そこで蔓を伸ばし、蕾の本体とつながる。
アルラウネとしての完全体になる準備は整い。そして。
花が咲く。
私の中で魔力が花開き、私の体を作り変えていく。髪や肌が完全にライトグリーンに変わり、胸も開花――つまりは大きくなる。
「ふふふふ……」
私はここから動けなくなると同時――花になったんだ。
園芸部が花を育てる場所だから、当然私が咲いた場所も風通しがいい。それはつまり、私の蜜の匂いが広がりやすいということ。
アルラウネの蜜はすべての魔物が欲しがる最高の媚薬。撒いておけば男どもは盛りがつき、貞淑な人間の女でも、男との接触を求めるようになる。
どうしてわかるのかって? 自分の体だからよ。私はアルラウネの美紗だから。
「そろそろ来る……?」
携帯を見ると、園芸部の副部長――速見明くんが来る時間。体のあちこちから蜜が零れ落ちる。花弁の内側はもう、黄色い蜜で満たされている。
ツン、と突く男の匂いがした。
「きたっ……!」
間違いなく明くん。私の女としての直感でわかる。
私は花弁の中に閉じこもり、蔓だけを外に出す。
「な、なんだこれ……? 誰かのいたずら……?」
明くんが近寄ってくる。私は立ち上がり、明くんに全身を晒した。
何も着ていない、裸の私。明くんは私を見ている。私の胸。その両手が僅かに動いたのを私は見逃さない。
「明くん!」
蔓を伸ばし、絡めとってそのままキスする。唾液が変じた蜜を流しこむと、明くんの目は少し虚ろに、明くんの男の匂いは更に濃くなる。
「あ、浅木、さん……」
明くんの両手が私のわき腹あたりで動く。私はその両手を掴んで、自分の胸へとあてがう。
「触って。揉んで……めちゃくちゃにして」
「あ、あ、でも……だめ」
体は正直。明くんの指が私の大きな胸に食い込み、気配を察知して以来立ちっぱなしの乳首をようやく癒す。
「ひゃんっ!」
「あ、あああ、あ……」
魔物になって私は喘ぐこともうまくなった。嬉しい。
明くんの目が段々はっきりしてくる。それは男の目。私も喘ぎながら、その目に釘付けになってしまう。
「さあ。ひとつに、なろう?」
「……ああ。そう、だね」
明くんを蔓で持ち上げて、お互いにキスして、胸を揉まれながら、花弁の中へ引き込む。明くんは私の気持ちをわかってくれたみたいで、もどかしそうに制服のズボンを脱ぐ。カッターシャツは私が破いてあげた。
裸の体が擦れあう。明くんは私の予想通り、意外とがっちりした体つきだった。
顎の下に手を入れられ、上向いてキスさせられる。それはとても幸福。人間だった頃の私じゃ出来なかった。
「あはっ……♪ 当たってる……♪」
私の秘所を撫でるものを感じる。熱い汁――我慢汁が始まりを告げる。
魔物としての至福の時。愛しい人とのセックスが。
分厚い花びらが閉じて、私たちの愛の巣が完成した。
私たちの蜜月を邪魔したのは、あのドリンクをくれた小さな女の子だった。
「もしもしー。楽しいところごめんなさいー」
「……なに? ああ、あの時の……。ありがとね。私をアルラウネにしてくれて」
いえいえー、と小さな女の子は言う。私は花びらを開き、明くんに抱きついたまま二人で姿を現す。小さな女の子は満足げに笑った。
「無事に夫を手に入れたんですねー。うらやましいですーわたしも欲しいです」
「あげないからね。ねー明くん」
明くんは笑ってわたしにキスをする。お互いに黄色い蜜にまみれて、性欲がおさまることがない。特に明くんはよっぽど溜め込んでいたみたいで……今でも下のほうでは繋がっている。
「あー、それでなんですけどー。ミサさんには一つお願いがあるんですー。この種を、なるべくたくさんの女性……あ、もちろん初潮をむかえた後の女性に限りますー。捕まえて、植えつけて欲しいんですよー」
女の子は懐から小さな、大豆ぐらいの黒っぽい種をいくつか取り出す。それは少しヒビが入っていて、中で何かが動いている。
「植えつける場所は女性器ですー。アルラウネの力を持ってすればたぶん楽勝ですー。そうですねー。手の早い子だったら自分から植えてくれるかもしれないですー。男性の匂いを発するのでー」
「これ……何の種なの?」
女の子は淫靡に笑った。
「ふっふー。まあ植えてみればすぐにわかりますよー。捕まえて渡してあげれば、たぶんそれで終わりですよー。いやー。蜜ってすごいですねー」
女の子は私の体についた蜜をすくって舐める。見た目にあわない、歳経た娼婦のような笑みを浮かべた。
「あ、それとー。基礎知識にないので教えておくとー。私は『魔女』ですー。こう見えても五十年ぐらいは生きてるんですよー」
えへん、と胸を張る魔女。その言葉は嘘に聞こえない。
私はひととおり頷いて、そして。身近な女性を考え――ある子が浮かぶ。
「……この種。陵辱とかに使えるかしら?」
「おっ。鋭いですねー。たぶん植えられたほうは適合するまでそんな感じですねー。ふっふー。その顔だと、植えたい人がたくさんいるんですねー?」
「そう。うーん、とりあえず園芸部全員、かな?」
「あれ? 美紗、後輩たちを可愛がっていたんじゃないのかい?」
私は明くんにまたキスして、首を振る。
「可愛がっていたけど。なーんか、みんな明くん狙ってた気がしてムカつくのよね。明くんは私だけのもの。ずっと前から決めてたんだから」
「そっか。嬉しいよ」
明くんがまた奥まで挿れてくる。「あんっ!」と喘ぎ声を上げて、私は舌を明くんと絡ませる。この声もすべて、校内に届いているだろう。
淫乱な空気に包まれた校内に。
「じゃあ、お願いしますよー。わたしはちょっと、やることがあるのでー」
また始まったセックスに手を震わせながらも、私は魔女を見送った。
私が携帯で呼び出したのは、一つ下の園芸部の後輩。和泉さん。
『二年生の松本くんが部活をサボったから代わりに来なさい』と送っても来なかった。でも『副部長も待ってるから』と送るとすぐに返事が来た。これで丸わかり。許せない♪
「最初の犠牲者確定、っと♪」
手元にある種は、事後の今はあまり感じないけれど……性欲が高まった時には、強い男の匂いを発していた。まあ、どこの匂いかなんて言うまでもないわね。
なるほど。私の蜜で欲求不満になった女はこれを自分から……ってことね。まあ、私には明くんがいるから効かないんだけど。
その様子を考えただけで笑いがこみ上げてくる。あのクール気取りの子が自分からこれを……ふふっ。
「そもそも園芸部のくせに手が汚れるのを嫌うってなんなの? 馬鹿なの?」
私が花弁に腰掛けて愚痴っていると、ぽんぽんと頭を叩かれた。この花の下の部屋にいた明くんだ。私の魔力が増えたことで、花の下にある私と明くんの部屋も大きくなったというわけ。
「まあまあ。怒らなくていいじゃないか。美紗は笑っている方がいいよ」
「ふふ。ありがと。明くん」
また明くんの濃密なキスをしていると――遠くのほうに和泉さんが見えた。一丁前に髪なんて整えながら、どことなく嬉しそうに歩いてくる。
私は名残惜しいけど明くんとの唇を離す。明くんは手を振って、私の足元を通って花弁の下へ隠れた。
私も花びらを閉じて隠れる。ただし蔓をそこらじゅうに伸ばして。
「……何これ?」
目の前に立ったのを見計らい、蔓で和泉さんを絡め取る。花びらを開いて姿を現す。
「な、え、あ、浅木先輩……?」
「こんにちは和泉さん。暑い中ごめんね」
私は穏やかな口調で、和泉さんの胴を絡めて自分の目の前まで近づける。私が裸であること、巨大な花があること、蔓に絡め取られていること、さてどれに驚いているのか。
「は、離してください浅木先輩! 速水さんがいるって聞いたのに!」
和泉さんの頬は赤く、自由な腕が胸に伸びようとして、すぐに引っ込む。この学校中に広がるほど強烈な蜜の匂いにずっと当てられて……しかも好きな人の元へ行くわけだから。興奮しているのね。
それでも蔓から抜け出そうともがいたりせず、ただ鋭利な目で私を睨んでいる。制服のボタン一つ外さず。内股をこするのも必死でこらえている。泰然を装っている。
流石、クールキャラで通しているのは伊達じゃないみたいね。それがムカつくんだけど。
「ねえ和泉さん。速水くんのこと、好きなんでしょ」
「な、そ、そんなことありません。それより離してください。あと服を着てください。いくら浅木先輩に女っ気がないからってはしたないです」
私は蔓を和泉さんの内腿に巻き付けた。「ひゃわわっ!」と声をあげてすぐにいつもの表情に戻そうとする。
「誰が女っ気がないって?」
「あ、浅木先輩が女っ気がないって言ってるんですっ! こ、こんな、私に……はしたないこと……!」
「今からあんたも、もっとはしたないことをしてもらうけどね」
私は魔女からもらった種を一つ取り出す。それを見て匂いに気付いた途端、和泉さんの表情が変わる。理性的な顔つきを維持できなくなり、媚びたようなまなざしを向ける。
「あ、あ、それ……」
「欲しい? ねぇ欲しいでしょ? あ・げ・る」
ぽとりとそれを手に落とすと、和泉さんはぱあっと笑顔を浮かべる。片手を襟の内側に突っ込んで胸をいじりながら、それの――男性器の匂いを発する種を嗅ぐ。
「はぁっ……い、いれ、たい……」
「そう? じゃあ、手伝ってあげる」
足首に蔓を巻き付け、ぐっと足を上にあげる。こっちからはよく見える。無駄に大人びた下着がよーく濡れている。人間相手でもこんなに効くのね。私の蜜は。
「だ、だれが、そんな、こと……!」
「ふーん? じゃあ、ちょっと飲む?」
私は和泉さんに口づけする。私の涎――つまりアルラウネの蜜を一気に体内に流し込む。和泉さんの白い肌が一気に赤く染まる。普通の人間に耐えられるものじゃない。
もう理性はほとんどない。私たちと同じ――性欲に従う魔物に近い。
「わ、だ、だめ。お、おかしくなる……おかしくなっちゃう……」
種を持った手が震えながら下着の内側へ入っていき、ぐっと種をその内に、押し込んだ。
「成功♪ もういいわよ」
私は蔓をほどく。だけど和泉さんは立てずに地面に座り込んだ。「ひゃんっ」と喘いで、我慢できずに胸をいじりはじめる。もうそこにクールキャラの面影はなく、私は胸がすっとする心地だった。
「ど、どうして……? と、とまらない……っ」
「止める必要なんてないのよ。まあ、明くんは渡さないけどね」
私は気付いていた。
和泉さんが擦り続ける股の隙間から――ピンク色に近い『触手』としか思えないものが萌芽していることに。
「きゃっ! な、なに! なにこれっ!!」
和泉さんが慌てて立ち上がると、スカートの内側から、襟元から、裾から長い触手が飛び出てうねうねと動き回る。絶叫しようとした口を触手が塞ぐ。
「すごい……。こんな植物の種だったんだ。素敵♪」
あの触手は和泉さんの意識と分離しているらしく、一つが引き剥がそうとする手に絡みつき、他の触手が胸をまさぐっている。力を入れようとすれば喘ぎ声になり、自分の手までオナニーに参加しようとしてしまう。
私は笑い転げていた。いい気味! いい気味よ! 明くんとセックスしようなんて甘い!
「や、やめてっ。わ、私はもっと、ひゃんっ! お、おとなしく……だ、だめっ」
最初に生えた触手が秘所と繋がっているものだから、動くたびに刺激されて、もう立ち上がることも出来ないみたい。おまけに私の蜜をたくさん飲んだから性欲がおさまることもない。
「認めたほうがいいわよ。自分が淫乱なメスだったって」
「だ、誰がそんなことっ! わ、私はそんなことは」
「そこでずっと喘ぎなさい。私は明くんとイチャイチャしとくから」
明くんを呼ぶと、明くんが下の部屋から出てきてくれる。「やあ、和泉さん」と笑顔で言っただけで、和泉さんは淫乱な笑顔になり、一匹のメスになる。
同時に触手が一斉に向かってきたから、蔓で打ち落とした。どうやらこの触手に人の夫とかそういう見境はないみたいね。
「は、速見さん、わ、わたしにいれてっ。あ、あつい。あついんですっ」
和泉さんは触手と一緒にオナニーをしはじめる。もう欲望に抗うことは出来ない。
当然、明くんは苦笑いを浮かべた。
「うーん。ぼくには美紗がいるから無理かな。ごめんね」
私は嬉しくなって明くんに抱きつき、キスをした。その様子をオナニーしながら和泉さんは見る。
「あんたも探せばいいのよ。ほら。校内行って、適当な男でも捕まえてきたら」
「はぁっ……そ、そう。ね。はやくほしい……精液……あつい。あついよぉ……」
触手が歩行を支え、和泉さんはオナニーし続ける。さっきと逆じゃない。と気付くとまた笑ってしまった。
校内で男女問わずの悲鳴が上がり始めたのは、それから数分後のこと。
あの触手型の魔物はローパーというらしい。
しばらくして戻ってきた魔女にそう聞いた。魔女はとても嬉しそう。
「これで一気にローパーが増えますー。ローパーは最初は『ローパーの胚』状態で宿主とばらばらの動きをするんですけど、完全体になると宿主と一体化するんですよー。まあもちろん宿主の思考はローパーになってるんですけどねー」
「へぇ。いい植物じゃない」
私はその後も、呼び出せる限りの園芸部の女子部員と、個人的に気に入らないクラスの連中を呼んだ。みんな蜜のせいでいとも簡単に自分で種を植えてローパーの胚になる。適当にけしかけてやればすぐに校内に入って暴れ始めるし、扱いやすいわ。
なんてことを思っていると、重いものを擦るような音で和泉さんが近寄ってきた。顔を紅潮させ、たくさんの触手を撫でながら。とても幸せそうに。
「浅木せんぱいー。ありがとーございますー。わたし、とってもしあわせです」
「でしょ? たっくさん精液飲めた?」
「もちろんですー」
スライムのような半液状の足元がボコボコと沸騰している。
「これがローパーの完全体ですねー。近くの上位魔物の言うことを聞くよう設計しておいたのでー。完全体は好きに使ってくださいー」
まあ。なんてこと。これで和泉さんは私の思い通りに動くわけね。
「そうね。じゃあ、手当たり次第に女を襲いなさい。私の蜜も少しあげとくから」
ペットボトルに入れたアルラウネの蜜を持たせると、黒い種をぎらつかせる触手がうねうねと動く。そうか。こうやってローパーは増えていくのね。
和泉さんは緩慢な動きで敬礼をして、新たなローパーを殖やすために学校へ入っていく。私が種を植え付けたほかの子もすぐに戻ってくるはず。
「よかったですー。ミサさんのおかげでここが最初の拠点になりそうですー。じゃあ最後にこれー。私たち魔物の代表格の魔力薬ですー」
「何の魔物?」
「サキュバスって知ってますー? まあ要するに淫魔ですー。誰でもいいですけどー、面白いことになりそうな子に飲ませてあげてくださいー」
面白いことになりそうな子……。陵辱したいわけじゃないけど、面白いことになりそうな子……。
私を見上げる、ある女の子の顔が浮かぶ。
「ありがと。後で呼んでみる」
「いえいえー。わたしはバフォ様に報告があるのでー。しばらくお別れですー。実験は大成功ですよー。希少ワーウルフのサンプルも取れましたしー。やっぱりこっちの世界はいろいろ違うんですねー」
魔女はそう言って、どこかに行った。
なんだかわからないけど、あの子のおかげで今私はアルラウネとなって、明くんと夫婦になれた。
「私のほうこそ……ありがとね」
そう呟いてまた、明くんとセックスをはじめた。
『ちょっと話があるから』
そんなメールでも来てくれるのが、私の二歳下の後輩、夕菜ちゃん。
私のことを慕ってくれるし、部活も真面目に来るし。私もこの子がいるから園芸部の辛い仕事がんばれるし、色々ノウハウを教えたりもする。私にとって大切な後輩。
だからこそ……魔物の代表格・サキュバスにしてあげたい。そしてもっともっと楽しくしてほしい。勉強や園芸なんかよりずっとずっと楽しいことがあるんだから。
「待っててね。もうすぐサキュバスにしてあげるから」
私は明くんとセックスしてすぐに高まる性欲を一旦おさめた後、瀟洒なデザインの瓶を持って静かに待つ。夕菜ちゃんが来るのを。
私は真面目な雰囲気を出すために制服を着て、閉じた花弁の上に座っている。蔓が内側と繋がっているから動くことはできないけどね。
待ち時間退屈だから、(ブラがないので)カッターシャツ越しにでもわかるほど立った乳首をいじっていると……ふらふらと夕菜ちゃんがやってきた。
背が低く胸もちっさい。子どもっぽいけど、確かに初潮は迎えているし性も知っている。だから夕菜ちゃんは校内に満ちる私の蜜の匂いで、理性が薄れている。
それでも一生懸命、パンと頬を叩いたりして目を覚まそうとしているのには、私自身嬉しく思う。
だから早くサキュバスにしてあげたい!
「あ、浅木先輩。こんにちは」
「こんにちは。夕菜ちゃん。ごめんね。いきなり呼び出して」
夕菜ちゃんの頭をなでてあげると、夕菜ちゃんは笑顔を浮かべる。これが可愛くて。だから早く、サキュバスにしてあげたい。
「ねえ夕菜ちゃん。サキュバスって知ってる?」
「えっ? あの、男の人を誘惑する悪魔、でしたっけ……」
「そう。今から夕菜ちゃんを、サキュバスにしてあげるから」
私は魔女からもらった瓶を、夕菜ちゃんに手渡す。蓋をあげてあげると、ツンとした甘い匂いが立ち込める。
「これを飲めばサキュバスになれるの。さ、飲んで?」
「え? あ、あの、どういうことですか?」
夕菜ちゃんは本気で意味がわからないという顔をしている。さては好きな男の子とかいないのね。
「夕菜ちゃん。夕菜ちゃんはね、とっても可愛いと思う。だからもっと、もっと男を振り向かせてやるべき。そのためにサキュバスになるの」
「男を……? あの、どうしてそんなことするんですか? それより浅木先輩、なんだか髪が、緑っぽい……?」
「ああ。私はアルラウネだから。花の魔物なんだけどね。夕菜ちゃんも植物にしようかなって思ったんだけど、夕菜ちゃんは可愛いし、サキュバスがいいと思って」
「いや。あのっ。意味が、わからないんですけど……」
「わからなくないでしょ。最高の幸せじゃない。男とセックスすることって」
夕菜ちゃんは私がセックスと言ったことに驚いたのか、思わず顔を伏せて、でもキッと顔を上げて、どこか怒ったように言う。
「わ、私は。私はそうは思わないです。浅木先輩が言っても、そんなことじゃなくて。もっと、お花を世話することとか」
「浅木先輩はそんなのじゃなかったはずです。もっと花が好きで。ちょっと豪快だけど優しくて。憧れでした。決してそんな、淫らなことを言う人じゃなかったですっ」
「はぁ…………?」
いや、そんなのじゃないって言われてもね。私は昔から私なんだけど。よくわかんない。
私は少し焦れてきていた。夕菜ちゃんは奥手すぎる。二年の優ちゃんもそうだけど、奥手が多いのよ園芸部って。
私は夕菜ちゃんにキスした。蜜を流し込むと夕菜ちゃんの顔が一気に赤くなる。
「な、なんですか、これっ……か、からだがあつい……」
「疼いてるのよ。夕菜ちゃんの女の子の部分が」
それでも夕菜ちゃんは瓶をもっておろおろするばかり。まさか本当にオナニーすら知らないのかもしれない……そう考えると、なんだか悲しくなった。
これは尚更サキュバスにして楽しみを知らないと!
「それ、飲んで。大丈夫。すぐに終わるから」
私は夕菜ちゃんを蔓で抱いて言う。ぼんやりした顔でそれを飲むと、夕菜ちゃんが魔物へ変異をはじめる。
「な、なんか、生えてくる……っ」
うずくまった背中から悪魔のような羽。スカートの裾からハート型のしっぽが出て、頭には角が生える。背が伸びて、顔に少しだけあった染みやほくろがなくなって、明らかに――女としてレベルが上がっている。
「こ、これが、サキュバス……?」
「そう。後は男を探して、セックスしてやればいい。わかるでしょ?」
夕菜ちゃんは少しぼうっとして、
「……あ。はい。わかります。ちょっと体がうずいて……お、男の人と、その……したいです」
すごいサキュバス効果。夕菜ちゃんは淫靡な笑みまでできるようになってる。
「あのっ。あ、浅木先輩」
「なぁに?」
夕菜ちゃんはぺこりと頭を下げた。
「サキュバスにしてくれて、あ、ありがとうございますっ」
「どういたしまして。いい夫を見つけてね」
「はいっ」
サキュバスの夕菜ちゃんは幸せそうに笑った。
その後はまあ……もう誰にも止められなかった。
夜遅くなればローパーになった子を心配して他の生徒や保護者が寄ってくる。そこを捕らえてローパーにしたり、夕菜ちゃんから拡散したサキュバスになったり。
人間も魔物も夜になれば性欲が高まるものだから、部活の連中をひたすら捕まえてセックスする子もいるし、逃げ惑う友達を捕まえてサキュバスに変えていく子もいる。ああ、もちろん私の蜜効果もある。
ローパーたちを使って、学校の水道に蜜を流したからね。今頃すごい密度の匂いが立ち込めているはず。
「どうしてそんなことするの!」とか「目を覚まして!」とか。そういう言葉ももう聞き飽きたなぁ、と校舎の裏庭から見て思う。
なんか、ローパーの報告を聞く限り水泳部がすごかったらしいんだけど……まあ、いきなり水の中に蜜が入ってくるわけだしね。水着越しにオナニーでもしてたのかしら。
時間が遅くなればなるほど心配した大人たちや兄弟が集まってきて、それを狙ってたくさんの元生徒な魔物たちが群がる。女子がいれば仲間にするし、男子がいればどこかの教室や保健室なんかに連れ込んでセックスだし。
サキュバスは魔法も使えるし、もう怖いものなしかな。と思う。
そうそう。深夜に会った夕菜ちゃんは立派なサキュバスになっていた。あの時は色も薄かったけど、今は黒い羽に黒い角という完全なサキュバス。
胸もすごく大きくなっていたし、美術部の男の子と無事夫婦になれたみたい。とっても幸せそうだった。
私はまた園芸部として、別のものを育てることにした。『虜の果実』っていう魔界の植物らしいんだけど、私の蜜と同じぐらいの媚薬作用をもった素晴らしい果実。
従順なローパーに世話をさせたりもしているしね。
蛇足だけど、今回の召集で来なかった松本くんと優ちゃんは……夜中に学校に来た。優ちゃんはワーウルフになっていた。私はあのサボりもすべて納得。
「時々蜜をもらいに来ますね。浅木先輩」
「まあ、いいけど。優ちゃんも可愛くなったね」
「わうわうっ。今は琢哉様のペットです。わう」
「どうです? ユウ、かわいいでしょ? 今度は芸を仕込んでみようかなと思うんです」
「……あーはいはい。ごちそーさま」
これで私の知る限りだいたいの人は魔物になった。妹はさっき呼び寄せて夕菜ちゃんにサキュバスにしてもらったから。今頃お母さんもサキュバスになってるんじゃないかしら。
まあそうやって。騒動ばかり続いたけれど。
「明くん。だいすき」
「ぼくもだよ。美紗。今日も始めようか」
「うん。セックス、しよ♪」
終わりなく、幸せは続く。
私には夫がいるし、花の中でずっとずっと一緒なのだから。
12/09/10 19:21更新 / 地味