イザナギ一号_x4:番外編『おまけ』
小さな窓から差し込む月明かり。
短くも長い旅路を経て帰った場所、日本の片隅、夜の闇の中で、青年は欠伸を漏らしていた。
名をイザナギ一号、もしくは伊邪那岐 壱剛。かつては魔物の娘達と戦う為に製造された改造人間の一体で、今は魔物の運営する『集会』による要監視対象者にして、研究所調査を職とする風来坊である。
記憶は失ったが、いまいち緊張感がないのは玉にキズ。
「あー」
悩むような、混乱するような呟き。布団の上で胡坐をかき、何かを静かに黙考する。
「エロい夢だったな………」
それこそ、描写するならば成人指定は間違いがないほどに危険な映像だった。
思わず下着を確認してみるものの、さすが改造人間、無意識化においては、ちょっとした思春期の粗相すら防止してくれるようだ。
しかし。
「………もしかして俺って、童貞じゃないとか?」
何か、成熟した美女とのアレやコレやを脳内で振り返り、状況を確認しようと必死で夢を思い出す。壱剛の場合、夢とは処理しきれなかった記憶の残滓である可能性が高く、その詳細な内容は、記憶喪失を解き明かす手掛かりになるのではと思っている。
頭の中を整理しているうちに、最近に起きた事で、どういった要素が記憶を揺り動かしたのかと羅列していく。
改造人間としての機能を利用し、新たな技を生み出した時か。
それとも、この場所へ帰ろうと、必死に願ったあの瞬間か。
不確かな記憶を確かめようと考えるたびに、夢の方はもっとあやふやになっていく。どうしていいのかも解らないまま悩んでいるうち、そのまま夢が霧散してしまった。
別段、どうしても思い出さねばならぬ話ではないとはいえ、こう、引っかかった小骨が喉につかえ、何か気分が悪いように感じてしまう。そのまま記憶も夢も、両方が思い出せなくなった。
「………寝るか」
そう思い、布団へ横になるも、誰かと、その、どこかの美女と、男女対抗クロスコンバントをやっている映像が、以前に思い出した記憶と合致しないようにも感じた。時系列の問題か、それとも、どちらも単なる妄想、本当の夢でしかないのか。
片方は確認とれたものの、それだって、テレビで放送されていたニュース映像から受けたシンパシーや、もっと根幹的、改造人間としての自覚していない能力かもしれない。そう考えた途端に、推理するにも情報が足らない事ばかりが発覚した。
どうしようもない。
そう諦めるものの、やはり眠れない。胸の中に蟠った感情が、脳の活動を止めてくれない。
「にゃあ」
その声に驚く。
呪いで一抱えもない大きさとなってしまったワーキャット種のシャンヤト。
いつ起きたのか、鼻先を肉球でぺたぺた触っている彼女は、寝ぼけ眼のまま、こちらの様子を観察し、鼻を動かしこちらを確認するよう嗅いでいた。。壱剛が驚きに眼を見開いていると、その間にもぞもぞと布団へ潜り込み、首筋へ顔を埋めるようにして場所を確保していた。
押し潰してしまうのではないかという危惧と、身体に感じる暖かさ。自分という存在が居なかった僅かな間とはいえ、彼女は寂しがってくれたのかもしれない。
それがたまらなく嬉しかった。誰かと繋がっていることに、たまらなく泣きそうになった。
両腕で彼女を抱き締めていると、その小さな暖かさがゆっくりと浸透し、胸の奥に残っていた苛立ちや焦りが押し流されていく。安心に肩から力が抜け、次第に眠気も戻ってきた。
おやすみ。
それだけを呟いた壱剛は、そのまま寝息をたて、楽しそうに眠るシャンヤトと共に、眠りに落ちていた。
「どーして私だけ!」
翌日、そう憤慨したのは、シャンヤトと同じく呪いによって、随分と小柄になってしまったアラクネ種の美女、クユ。出会ったのはシャンヤトと同じくほんの数ヶ月前だが、今では間違いなく仲間と呼んでいい相手の一人。
彼女の怒りにさえニヤニヤしてしまう事でまた怒られてしまう壱剛は、戻ってこれた嬉しさに我慢できなくなったのか、結局は彼女に抱きつき、必死に抵抗する彼女を腕の中に確保し、人形より少し大きいくらいの彼女に頬擦りまでした。
「や、やめ、やめてってば!」
そう言って恥ずかしがるクユだったが、抵抗らしき抵抗もしないまま、結局は根負けして抱き締められるに任せた。
「にゃあ!」
「あ! こら! あぶないわよ!?」
クユを抱き締めるその腕に、同じようしがみつくシャンヤト。慌てて手を貸すクユの慌て様に、また、壱剛は笑う。
そして、彼らが、再び戻るであろう日常。
そこには、聊か物騒な危機もあるだろう。
だが、彼らなら、幸せになれる気もした。
なって欲しいと願う誰かは居た。
短くも長い旅路を経て帰った場所、日本の片隅、夜の闇の中で、青年は欠伸を漏らしていた。
名をイザナギ一号、もしくは伊邪那岐 壱剛。かつては魔物の娘達と戦う為に製造された改造人間の一体で、今は魔物の運営する『集会』による要監視対象者にして、研究所調査を職とする風来坊である。
記憶は失ったが、いまいち緊張感がないのは玉にキズ。
「あー」
悩むような、混乱するような呟き。布団の上で胡坐をかき、何かを静かに黙考する。
「エロい夢だったな………」
それこそ、描写するならば成人指定は間違いがないほどに危険な映像だった。
思わず下着を確認してみるものの、さすが改造人間、無意識化においては、ちょっとした思春期の粗相すら防止してくれるようだ。
しかし。
「………もしかして俺って、童貞じゃないとか?」
何か、成熟した美女とのアレやコレやを脳内で振り返り、状況を確認しようと必死で夢を思い出す。壱剛の場合、夢とは処理しきれなかった記憶の残滓である可能性が高く、その詳細な内容は、記憶喪失を解き明かす手掛かりになるのではと思っている。
頭の中を整理しているうちに、最近に起きた事で、どういった要素が記憶を揺り動かしたのかと羅列していく。
改造人間としての機能を利用し、新たな技を生み出した時か。
それとも、この場所へ帰ろうと、必死に願ったあの瞬間か。
不確かな記憶を確かめようと考えるたびに、夢の方はもっとあやふやになっていく。どうしていいのかも解らないまま悩んでいるうち、そのまま夢が霧散してしまった。
別段、どうしても思い出さねばならぬ話ではないとはいえ、こう、引っかかった小骨が喉につかえ、何か気分が悪いように感じてしまう。そのまま記憶も夢も、両方が思い出せなくなった。
「………寝るか」
そう思い、布団へ横になるも、誰かと、その、どこかの美女と、男女対抗クロスコンバントをやっている映像が、以前に思い出した記憶と合致しないようにも感じた。時系列の問題か、それとも、どちらも単なる妄想、本当の夢でしかないのか。
片方は確認とれたものの、それだって、テレビで放送されていたニュース映像から受けたシンパシーや、もっと根幹的、改造人間としての自覚していない能力かもしれない。そう考えた途端に、推理するにも情報が足らない事ばかりが発覚した。
どうしようもない。
そう諦めるものの、やはり眠れない。胸の中に蟠った感情が、脳の活動を止めてくれない。
「にゃあ」
その声に驚く。
呪いで一抱えもない大きさとなってしまったワーキャット種のシャンヤト。
いつ起きたのか、鼻先を肉球でぺたぺた触っている彼女は、寝ぼけ眼のまま、こちらの様子を観察し、鼻を動かしこちらを確認するよう嗅いでいた。。壱剛が驚きに眼を見開いていると、その間にもぞもぞと布団へ潜り込み、首筋へ顔を埋めるようにして場所を確保していた。
押し潰してしまうのではないかという危惧と、身体に感じる暖かさ。自分という存在が居なかった僅かな間とはいえ、彼女は寂しがってくれたのかもしれない。
それがたまらなく嬉しかった。誰かと繋がっていることに、たまらなく泣きそうになった。
両腕で彼女を抱き締めていると、その小さな暖かさがゆっくりと浸透し、胸の奥に残っていた苛立ちや焦りが押し流されていく。安心に肩から力が抜け、次第に眠気も戻ってきた。
おやすみ。
それだけを呟いた壱剛は、そのまま寝息をたて、楽しそうに眠るシャンヤトと共に、眠りに落ちていた。
「どーして私だけ!」
翌日、そう憤慨したのは、シャンヤトと同じく呪いによって、随分と小柄になってしまったアラクネ種の美女、クユ。出会ったのはシャンヤトと同じくほんの数ヶ月前だが、今では間違いなく仲間と呼んでいい相手の一人。
彼女の怒りにさえニヤニヤしてしまう事でまた怒られてしまう壱剛は、戻ってこれた嬉しさに我慢できなくなったのか、結局は彼女に抱きつき、必死に抵抗する彼女を腕の中に確保し、人形より少し大きいくらいの彼女に頬擦りまでした。
「や、やめ、やめてってば!」
そう言って恥ずかしがるクユだったが、抵抗らしき抵抗もしないまま、結局は根負けして抱き締められるに任せた。
「にゃあ!」
「あ! こら! あぶないわよ!?」
クユを抱き締めるその腕に、同じようしがみつくシャンヤト。慌てて手を貸すクユの慌て様に、また、壱剛は笑う。
そして、彼らが、再び戻るであろう日常。
そこには、聊か物騒な危機もあるだろう。
だが、彼らなら、幸せになれる気もした。
なって欲しいと願う誰かは居た。
11/08/27 11:38更新 / ザイトウ
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