幼馴染の彼女=女好き、男嫌い
成績は平凡、読書は苦手、帰宅部だが運動は得意、身長は少し上でまぁまぁ筋肉質。
典型的な男子学生である俺、優木(ゆうき)には好きな人がいた。
これもありきたりで典型的なパターンなのだが、その好きな人は幼馴染で美香子(みかこ)という。
だが、幼なじみであるが故に彼女が俺のことを好きになることはないと、俺はこの恋が叶うことはないのだと理解している。
決して仲が悪いわけではない……と思う。
学校は違うが途中までは一緒に学校に行っているし、休みの日には一緒に出かけたりする。
しかしそれはご近所付き合いというか、昔からの習慣のようなものだ。
俺の恋が叶わない理由は彼女の男性恐怖症、いや、男性嫌悪症といえばいいだろうか。
とにかくそのような、男性というものを受け付けることができない心の病を持っているからだ。
幼い頃に"襲われた"からだそうだが、詳しいことは知らされなかった。
とりあえず、俺は襲ったやつを殺してやりたいとだけ言っておこう。
「あら、おはよう。偶然ね」
「あぁ、偶然会ったな。おはよう」
これが俺と彼女の朝の挨拶である。
もちろん、朝俺の家の前で会うのは偶然でもなんでもなく、俺が彼女が来るのを待っていたのだ。
彼女もきっと知っていると思うが、何故か彼女の中では「偶然会った」ということになっているらしい。
同じ電車に乗って、彼女は俺が降りる二つ前の駅で降りる。
彼女はそこからさらに電車を乗り換えて行くので、朝の登校時間はかなり早い。
彼女の登校時間が早いということは、待っている俺の登校時間も自動的に早くなる。
教室の鍵を開けるのはいつも俺だ。
「優木の学校、共学じゃない。あなたまだ彼女とかできないの? もうそろそろそういう時期かなって思ってるんだけど」
空を見上げ、どこか遠くを見ながら美香子が言った。
背は俺と同じくらいで、長い黒髪と整った顔立ち、長い脚と大きな胸。
すれ違えば、女でも振り返ってしまうのではないかと思うほどの美人だ。
だが、ドSだ。
もう一度いう、ドSだ。
なんでも自分の思い通りにしてしまうし、気に入らないものはとことん叩き潰す。
小さい頃は、アリの巣に炭酸をぶっかけて大笑いしていた。
今でも酷い毒舌を容赦なく俺にぶつけてくる。
俺は少し考えたふりをしてから質問に答えた。
「彼女はいないし、好きな人もいないな。告白されたこともない。お前こそ、女子高だろう。付き合ったりしてないのか?」
普通の人が聞いたら首をかしげそうな質問である。
男性を恋愛対象と見ない美香子は、年を重ねるたび女性を恋愛対象に見るようになっていたらしい。
百合系の漫画とかが部屋にあったのを覚えている。
美香子にこの質問をするのも初めてではないが、こちらも"彼女はできたか"とよく聞かれるのでお互い様だ。
そしてこれは、俺が彼女にまだ恋人ができていないことを確認する機会でもあった。
美香子は早く恋人でも作って私から離れろとでも思っているのかもしれないが……。
「なかなかいい子がいなくてね。女子高よりも共学の方がいい子がいそうって思うわ」
「何でだ?」
「前も言ったけど、天然装ってるクソビッチか高飛車なお嬢様しかいないもの。私好みの可愛い子犬みたいな女の子はなかなか見ないのよねぇ」
「そんな漫画みたいな女って実在するのか?」
「ふんっ。その言葉、世の中の男どもにそのまま返すわ。現実見なさいよ」
俺にとって美香子と話すことができる少ない時間は楽しいものだった。
よく言われていることだが、楽しい時間はすぐ過ぎる。
家の前出会ってから二十分ほどで別れてしまう。
帰りは学校が終わる時間もちがうし、同じ電車の同じ車両に狙って乗ることができないために会うことができない。
美香子の家に遊びに行けばご両親は喜ぶだろうけど、彼女からしたら迷惑だろう。
「あぁそういえば」
こう切り出した彼女の言葉が俺の人生を、そして、何もかもを変えたのだ。
「最近可愛い転校生が来たのよね。驚いたわ。あの子、本当に漫画の中にいる娘みたいに可愛いのよ? それにね……」
☆
「某山の上の神社で人がいない時に恋の相談をすると、ナニカが現れて恋を叶えてくれる」
俺が最近学校で聞いた噂だ。
この街のナニカが何なのか誰も知らないし、"某山の上の神社"が学校付近のこの神社なのかもわからない。
というか、どうしてナニカなどという表現になったのだろう。
普通、神社で願いを叶えてくれるのは神様とか巫女さんじゃないのか。
などと思いながら、そんな不確定で、そして嘘としか思えない噂にすがってその神社の前にいる。
それも学校をサボってだ。
これまでずっと美香子のお眼鏡に叶う女は現れなかった。
そして、俺はそのことに安心しきっていた。
いつかは俺にもチャンスがあるのではないかと、いつか俺を受け入れてくれる日が来るのではないかと、いつか、いつかは、と。
しかし美香子は恋人候補を見つけてしまった。
それだけで俺は焦った。
美香子が俺の前からいなくなってしまうかもしれない、楽しそうに恋人と話しているところを見せつけられるかもしれない、二度と彼女と言葉を交わすことができなくなるかもしれない。
焦りが俺を狂わせたのか、俺は震える手で賽銭箱に賽銭を入れ恋の相談を始めた。
「好きな女の子が、男である俺を好きになってくれない。そして、その片思いの人がが気になる女の子を見つけてしまった。俺はどうすれば彼女と結ばれることができるんだ。教えてくれ!! 俺が女に生まれてれば美香子と結ばれたのか!? 俺が女みたいな男だったら良かったのか!? どうすればいいんだよおおおおおおおおおお!!」
後半はもうなげやりで感情を現わに叫んでいた。
周りに人がいないことは確認していたが、もし後ろから誰かが見ていたらいい笑いものだろう。
いや、笑えないな。
ドン引きされそうだ。
だが、俺の後ろに現れたナニカは俺のことを笑わなかった。
「そうなの。なら、ね? 私があなたを女の子にしてあげましょう」
耳元で囁かれた俺は、妖艶な甘い声に毒され地面に倒れた。
体が動かない。
「あぁでも、本気で女になりたいのでなければやめておいたほうがいいわよ。男でいても、彼女と結ばれる方法はあるのかもしれないし。男の子の快楽は二度と味わえなくなるのわ」
地面に突っ伏しているためにナニカの姿は見えないが、言葉には謎の説得力のようなものを感じた。
このナニカならば、本当に俺を女にしてくれるのかもしれない。
俺が女になる。
そうすれば、彼女と結ばれる可能性は、男である今より断然上がるだろう。
女になって告白した挙句、フラれるかもしれない。
でも、女になれば……。
「ねぇ、どうするの?」
俺の決意は簡単に口に出た。
いや、決意ではなかったかもしれない。
その場の勢いで、焦って狂っていたから、本気で今後のことを考えないで口にしてしまったのかもしれない。
「俺……をっ……女……にして……くれ」
「……本当は男の子の恋愛相談は受け付けてないのだけれどね。いいわ。その願い、叶えてあげるっ」
その言葉の直後、突然体中がピリピリし始めた。
次に感じたのは浮遊感。
「なっ、何だこれ……!?」
視界が何かに閉ざされているのか、何も見ることができない。
暗闇、暗闇、暗闇。
自分の身に起こっていることを理解するまもなく、次第に服の感触が消えた。
頭の奥、脳に直接という感じにナニカの声が聞こえてくる。
「あなたがなりたいと望むのはどんな女の子かしら? ほら、イメージしなさい」
美香子が望んでいた、子犬のような女の子。
可愛いくて、美香子よりも背が小さくて、ショートヘアで、胸は控えめ。
俺の中に、美香子が望んでいるはずである女の子の形が出来始める。
完成につかづけば近づくほど、自分の体にも変化が起こり始めていた。
「くっ……んっ……あっ……はぁっっっ!!」
体中を撫でられるような感覚とともに、快楽がの中でうずまき始めていた。
体の変化と、自分のものとは思えない声を発していることに対する戸惑い。
気づけば、俺は自分の腕や足、そして体中を自由に動かせるようになっていた。
恐る恐る、手で足や腰、胸、顔に触れてみる。
筋肉質であるはずの俺の体はぷにぷにと柔らかく、体中が全体的に小柄になっていた。
だが、股の部分はしっかりと男であることを主張している。
未知の快楽により膨張した男の欲望が、まだ俺の体に残っていたのだ。
また声が頭に響く。
「最後に……ふふっ。わかるでしょう? これをなくさないと女の子にはなれないわ。男として最後の、しゃ・せ・い。思う存分気持ちよくなりなさい」
その言葉を合図に頭の中が真っ白になり、男性器を握りただひたすらに上下に、上下に、上下に、上下に動かし続けた。
普段の自慰では感じたこともない快楽が電撃のように体中を走る。
猿のようにただひたすらに行為に耽った。
「あぁっっくぅぅっっん!! くぅぅぁあぁぁっぁぁぁあぁあああ!!」
男の快楽を受けて女の声で喘ぐ。
あまりの大きな快楽に、俺は数分も耐えることができず絶頂に達してしまいそうになる。
「あらあら、もうイっちゃうのねぇ。可愛い」
「あっっぁ……。んっっ……かわ……い……? いいぃぃぃんぁぁぁああああ!! イっっっっクぅぅぅぅっっっっ!?!?」
絶頂。
それと、ともに体から力が抜けていく。
流れるように頭に響いた言葉が俺の思考を、体を溶かしていく感じがした。
「そうよ、あなたは可愛い女の子。とても淫乱でエッチな女の子なの。もうあなたは男じゃない。あなたの愛する人好みの可愛い子犬みたいな女の子。ほら、あなたの体をよく見てみなさい」
言葉とともに、ゆっくりと視界が開けてきた。
あたりは暗闇ではないが、やはり身に覚えのない場所で、紫の霧が数メートルより先を隠していてよく見えない。
私は言われた通りに自分の体を見た。
自分で見ても、華奢な体。
筋肉があるのか怪しくなるほど、ぷにぷにしている腕や足。
控えめに膨らんだ胸は私の、女の子の持っているもの。
「ぁぁ……私……女の……子……?」
「そう、これがあなたの生まれ変わった姿よ。女のカラダ。そしてその快楽、好きな人に教えてもらうのよ」
最後に見えたのは、見てしまったのは、どんどん小さくなっている、私の股間についていたもの。
私は、私は、俺は、その小さくなっていくモノを見て、見て、見て。
「あ……れ? 俺は?」
そうだ、美香子。
美香子に会いたい。
なんで俺はこんなところに、俺の体はどうなっている。
今起きていたことを思い出そうにも思い出せず、美香子を探そうにも自分のものとは思えないほど小さい体は動かない。
突然頭に浮かんだ不安と恐怖。
それらの感情を吹き飛ばすかのように、頭に声が響いた。
「あなたの好きな人に会いに行きたいのでしょう。なら、気をしっかりと持ちなさい!!」
その言葉とともに、俺は覚醒した。
☆
うつ伏せになっている俺が目を開けて見たのは、鬱蒼と茂った森と下り階段の奥に広がる街と光の景色だった。
いつの間に夜になっていたのだろうか。
強烈な頭痛を感じながら、しかしうめき声を出すこともなく俺は立ち上がる。
体が妙に軽い気がするが、どういうことだろうか。
「あぁ……」
自分の声とは思えないトーンの高い声を発しているのがわかった。
夢でも見ていたのだろうか。
ここに来てからの記憶が飛んでいる気がする。
俺はこれ以上の考えるという行為を放棄して、帰路に着いた。
☆
家に帰ってまず驚いたのは、母さんに驚かれたことだ。
かなり可愛くなったわね、とはどういう意味だろうか。
俺に可愛いなんて要素はどこにもないはずなのに。
それよりも頭痛が酷い。
とりあえず部屋に戻って寝ようと、二階にある自室にゆっくりと向かう。
扉を開け、フラフラとベッドに向かうが、その途中であるものを見てしまった。
窓から射していた月明かりが照らしていた鏡である。
鏡には、子犬のような少女が写っていた。
「……?」
それを見た瞬間、頭痛が収まり正常に思考できるようになった。
これは誰だ。
この鏡に映っている自分は何だ。
そうだ、俺は神社で……。
「母さん!! ちょっと風呂入る!!」
部屋を飛び出して叫んだ俺は階段を駆け下り、脱衣所に文字通り突撃した。
小柄になった俺のサイズにピッタリの男子用制服を脱ぎ散らかして、風呂場に入る。
なぜか下着が女物だったが、そんなことはどうでもいい。
ブラがなかったことが何を意味しているのかも、どうでもいいのだ。
俺は風呂場にある鏡を見て自分の裸体を確認する。
なぜか面影は残っているように見えるが、しかし完全に女の子の顔があり。
微妙に膨らんだ胸があり。
割れていたはずの腹筋は消え去って、スラリとした体があり。
明らかに小さく、そして細くなっているぷにぷにの腕と脚があり。
そして、そして、普通の女の子の体にはあるはずのないナニがそこにあった。
ナニとは、男性器である。
もちろん玉の部分も健在であった。
前より多少縮んでいるものの、やはりどこからどう見ても男のナニだった。
恐る恐る、玉を持ち上げてめくってみる。
すると、本来あるはずのない、いや、女の体ならあって当たり前の穴があった。
俺はゆっくりと玉を下ろしてシャワーに手を伸ばす。
現実逃避をしようと、湯を浴びようと思ったのだ。
「ひゃんっ!?」
シャワーから出てきたのは湯ではなく、冷水だったが。
☆
男のような女に生まれ変わったことを早速後悔していた。
いいや、まだ美香子と結ばれないことが決まったわけではないので、むしろ美香子の望む女みたいなものになれて一歩近づいたとも言えるから後悔ではないか。
ただ、現実問題、俺はこれからどうすればいいのかということに悩まされている。
母さんは少し引きながらも、俺が女みたいになったことに対して言及しなかった。
だが、もし学校に行けばどうだろうか。
好奇の眼差しに晒されるどころの話ではないことは明らかである。
俺が住むこの世界で性転換など空想の中だけの話のはずなのだから、世間の晒し者になるだろうし、学者に解剖されたりするかもしれないし、実験体となり非人道的なことをされるかもしれない。
次の日、あまりの絶望感に俺は学校に行くことができなかった。
その次の日も無理だった。
数日で決心を固めろという方が無茶な話だ。
数日で決心できないので、もちろん三日目も無理だった。
四日目も無理だった。
そして休日に入って二連休。
さすがの母さんも心配したようだったが、病院に連れていくこともなく、何か欲しいものがあれば、食べたいものがあれば言ってちょうだいと言ってくれた。
母さんの優しさに涙しながら、俺は六連休目を迎えていた。
学校を休み続けているため、恐らく勉強についていくのは困難を極めるだろう。
それだけならいい。
俺は、俺は一週間近くも美香子に会っていない。
以前は一週間会わなかったくらいでこんなに悲しいような、苦しいような気持ちにはならなかった。
だが今の、女になってしまった俺は苦しかった。
好きな人に会えない苦しみや痛み、虚無感というようなものだろうか。
本当に、心にぽっかり穴が空いていて、その穴を埋めるように美香子を求めてしまう。
「みかこぉ……みかこぉ……」
俺はベッドの上で、もう何度目かわからない自慰を始めた。
母さんは今出かけているから多少大きな声を出しても問題はない。
下に来ていたものを脱ぎ、上の服をはだけさせて足を広げて下半身に手を伸ばす。
俺はこの体になってから性欲が以前の数倍、いや数十倍には増えたように感じている。
普通の人間ではできない、変態的な自慰。
男性器を上下にこすりながら、乳首をコリコリと揉んだりつまんだり、時に弾いたりして昂ぶらせていく。
我慢できなくなったら、次は女性器に指を這わせる。
くちゅくちゅと音を立てながら入口付近を愛撫し、時に豆に指を伸ばす。
普通の人間ではできない、変態的な自慰。
それらの行為を、美香子にしてもらっていると想像しながらだ。
男の快楽と女の快楽。
その両方を感じながら絶頂に向かう。
そんな俺を、私を、きっと美香子は笑顔で焦らしたりして楽しむのだ。
空想の美香子が手の動きをセーブすると、俺自身も手の動きをセーブさせた。
そして、絶頂ギリギリのラインを維持し続ける。
「んっっにゃぁぁぁ……ひゃぁぁん……いっっちゃぁぁぃいたぁいぃぃ……」
喘ぎながら、空想の美香子に向かってイってしまいたいと言葉になっているか少し怪しいおねだりをする。
すると彼女はきっと、
『ん? 何言ってるのかしら、このダメ犬は。犬のくせに猫みたいに喘いで、射精のおねだりもできないの?』
意地悪なセリフで私を責めるのだ。
快感によって呂律の回らない言葉で、ごめんなさい、とか、イかせてぇ、とか恥ずかしいセリフを叫ぶ。
それでも彼女は許してくれない。
焦らしに焦らされて、本当の限界。
ここで手の動きを止めて、彼女を見ながらちゃんとおねだりの言葉を伝える。
「ふぅぁぁああん……イかせて……ください……美香子さまぁ……」
彼女は呆れた顔で私を見て、きっと許して……。
「ダメよ優木。私が許可するまで、イってはダメ」
「ふぇ……?」
聞こえたのは、空想の美香子の声ではなかった。
快楽によって乱された思考が今起こった事を理解できない。
恐る恐る、私は部屋の入り口の方へ目を向ける。
そこにいたのは、
「ほら、今すぐその汚いものから手を離すの。次いでベッドから降りなさい」
私服の、現実の美香子であった。
空想ではない、空想の美香子は制服だった。
レースのタンクトップにミニスカートというやけに露出の高い服装が私の興奮を誘う。
美香子の突然の来訪に目を白黒させた私は、久々に会えたことを喜び、痴態を見られたことを恥ずかしがり、戸惑いながら命令通りにベッドから降りた。
彼女は私のベッドに座り、足を組む。
「ほんっと、馬鹿よね。女になろうとした挙句中途半端に失敗して、男みたいな女になるなんて。股間についてるソレ、この状況でそんなに大きくさせて恥ずかしくないのかしら」
下半身を露出させたままの格好であったことを思い出し、恥ずかしさで美香子を見ることができなくなった。
しかし、目をそらした私のことを美香子は叱った。
「こっちを向きなさい!!」
「ひゃっ!? はいぃっっ!!」
顔を上げると、美香子はつま先で顎を支えるようにした。
美香子の脚がこんなに近くにある。
今まで保っていた一定の距離に比べて、非常に近い距離に彼女の足がある。
私は興奮を悟られまいと口を閉めて目をぎゅっとつむった。
だが顔は抑えられ、下半身はピクピクと反応していて、その下もビチャビチャにしてしまっていた。
「何? 足で顔を触っただけでこんなに反応しちゃってるの? あははっ、可愛い反応するのねぇ。なら、これはどうかしらっ!!」
顎から足を離し、大きくしていた男性器に向けて一気に振り降りして踏み潰された。
一見足コキに見えるがそうではない。
本当に、彼女は私の男性器を本当に力任せに踏み潰している。
美香子はコレに最悪のトラウマを植えつけられているのだろう、恨んでいてもおかしくはない。
でも淫乱な私の体はそんな力任せの暴力にも快感を覚えてしまい、
「くぅぅんぁぁぁあぁぁあああああ!!」
と言ったように情けなく叫び声のような喘ぎ声を部屋に響かせるのだった。
美香子はクスクスと笑いながら、グリグリと私の男性器を踏みにじる。
こんな仕打ちを受けても私の興奮は収まらなかった。
私はマゾ性癖なんてなかったはずなのに、と今更のように思いながら喘ぎ続けた。
いや、結局続けるほど長くもたずに絶頂に近づいてしまう。
しかし絶頂寸前の絶妙なタイミングで、
「はい、ストップ」
美香子は足の動きを止めてしまった。
私は射精感が収まるのを感じながら情けなく涙を流し、美香子を見上げて射精を懇願する。
「なんでも……なんでもいいからぁ……イかせてぇ……ずっと寸止めで……辛いのぉ……」
「なんでも? どんな方法でも? そこまでしてイっちゃいたいのね。そんなんだから、男の快楽を捨てれなかったのよ」
"男の快楽を捨てることができなかった"というセリフに私の心がえぐられたような気がした。
そう、私の体から男性器が消えなかった理由はきっと、美香子とセックスしたいという気持ちを捨てることができなかったからだ。
男だった私は心の奥で、女同士のセックスに偏見でも持っていたのかもしれないし、ただ単に男として美香子を抱きたいと強く思っていたからかもしれない。
男の欲望を捨てることができなかったから、体から男性器が消えなかったのだろう。
今の私はそんなことを思考するよりも、ただただ快楽を欲していた。
「お願い……します……どんな方法でもいいから……イかせてぇぇぇ……」
反論の一つも返さず快楽を求めた私を見て、ふふふ、と笑った美香子はどこからか縄のようなものを取り出した。
笑いながらその縄を手で弄んでいる。
先端の部分には柄のようなところがあり、美香子はそれを掴んでその縄を振り回した。
ビュンという音が部屋に響く。
縄ではない、これは……。
「鞭であなたの汚らしいチンポ、イかせてあげるわ」
その言葉とともに今までとは比べ物にならない快楽が体中に響いた。
美香子が鞭を振り下ろして私の男性器を叩いた瞬間、声になっていない喘ぎ声を上げながら絶頂してしまったのだ。
白くネバネバした液体が美香子の足に降りかかる。
美香子はその液体をゴミを見るような目で見つめていたが、次第に妖艶な顔に変わってしまった。
「私も、魔物娘としての本能には逆らえないのね……」
そう言いながら、白い液体を手で拭い口元に持っていく。
味わうように少しづつ、足にかかった液体がなくなるまでその行為を続けた。
その頃には私の、俺の頭はクールダウンして、やっと現状を飲み込めるようになっていた。
大好きだった美香子に見せた自分の痴態と女みたいなものになった事実を知られたこと。
そして美香子が昔みたいに、いや、昔よりもハードに俺を虐めたことの理由がわからない。
美香子が足で俺の顎を持ち上げて言った。
「私もね、あなたと同じなの。人間やめちゃった」
☆
美香子の話はにわかには信じることができないことだった。
今日の昼、母さんが出かけた先は美香子の家だったようで、美香子は母さんから俺の様子がおかしいということを聞いた。
そして母さんは美香子に、俺の話し相手か相談相手にでもなってくれないかと頼んだらしい。
美香子はそれを了承して俺の家に向かったが、その途中にナニカとであったようだ。
俺は姿を見ることができなかったが、それは悪魔のようで、服装からして淫魔のようだったという。
自称、魔王の娘を名乗ったその悪魔は俺のことを心配してくれていたようで、俺の家に入ろうとする美香子に俺の様態や神社の噂の話、それら諸々の事情を伝えたらしい。
神社の噂は女に限るということもこの時初めて知った。
俺は既に人間をやめていて、魔物娘のアルプという種族にされたらしい。
厳密に言うと少し違うようだが、そういう認識でいいらしい。
男の俺の相談を聞いてもらえたのは、男から女になる魔物娘にすれば解決するという特殊なケースだったからだそうだ。
話を終えて姿を消そうとする悪魔に、美香子はこう言ったようだ。
「私も恋愛相談をしてもいいかしら?」
悪魔は微笑んで、それを了承。
美香子は、
「男を、そして特にその下半身についているものを受け入れることができる淫乱な体が欲しい」
と言ったようだが、それは相談ではなくお願いではないだろうか。
俺の時と同じように、なりたい自分を想像しろと言われたようだが、彼女もここで俺のような事態になった。
美香子も自分のなりたいと思っていたはずの理想の姿では叶えられない欲望を持っていて、その欲望を捨てることができなかったのだ。
その欲望はドSな性格からくるものだったようで、詳しくは知らされなかった。
結果、サキュバスになるはずだった彼女はダークエルフという種族の魔物娘に生まれ変わったらしい。
この種族は、伴侶を快楽で屈服させて奴隷や家畜のように扱って支配するみたいな種族のようだ。
美香子にはお似合いな感じではあると思うが、美香子は意思が弱かったからだと少し悔しがっていた。
しかし、何故そんなことをしたのかと聞いてみると、美香子は怒りながら言った。
「煩い。私も、あなたのことがね、ずっと好きだったのよ。でも、あんた男だし。それに下半身についてる汚らしいゴミが嫌いで嫌いで仕方が無かったの。まぁ、結果的に? あなたが私好みの女の子になってくれたのは嬉しいけれど、結局チンポは残ったまんまだったみたいだし? 私もあんたのために行動しないとね、って思ったのよ」
俺はその言葉を聞いて、大泣きしてしまった。
美香子が俺のことをそれほどに思ってくれていたこと、俺が女になってよかったと思ったこと、やっと恋が叶ったこと、それらの感情が涙とともに溢れたのだ。
俺が泣きやむまで美香子は俺の頭を撫でてくれていた。
泣き止んで落ち着くと美香子は、私の生まれ変わった姿を見せると言って体を変化させた。
尖った耳と、天然の褐色肌と、白銀の髪。
その全貌を見て、あぁ確かに人間とは思えない美しさだなと納得した。
褐色肌を受け付けれるかと聞かれたが、もちろんだと答えながら微笑みを返す。
俺自身も、実は翼や尖った耳、角に尻尾など種族の特徴が現れるはずだったようなのだが、何故だかまだ現れていない。
「私たち魔物娘は魔法が使えるみたい。詳しい理由とかは今度話すけど、とりあえず"変化の魔法"は誰でも使えるようになってるみたいだから、練習しましょう」
俺は何度やってもコツがつかめず、夜遅くまで続けてやっと一回成功させることができた。
元の俺の体に戻る、というより変化することで日常生活を続けろというのが悪魔の意思らしい。
男の体に戻った俺を見て、少し残念そうな素振りを見せた美香子はこう言った。
「まぁ私は一発でその魔法、成功させたんだけどね」
☆
変化の魔法をある程度マスターすることができた俺は、普通に学校に登校することができるようになった。
いつ魔法が解けてしまわないかと心配になったが、解こうと思わない限り解けない仕組みのようで助かっている。
美香子のほかに唯一俺の本当の姿を知っている母さんは、夢を見ていたのかもしれないと言っていたが、俺も現状を説明することができないので、このことは俺と母さんとの間でタブーとなった。
そして、俺はいつもの時間に家の外で待つ。
いつもの時間に美香子がやってくる。
「あら、おはよう。待った?」
「いや、今出てきたところだよ。おはよう」
これが今の俺と彼女の朝の挨拶である。
いつものように他愛ない会話をして、学校に向かう。
二十分程で分かれてしまうけど、楽しい時間だ。
楽しい時間はすぐ過ぎるけど最近は休日に会えるようになったので、前よりも美香子と触れ合う時間は格段に増えた。
今日の話題は文化祭ばかりだった。
もうすぐ文化祭ね、そういえばリハで見た演劇部のレベルが高かったな、文化祭には行くからチケットもらってきなさい、あなたは女子高の文化祭に興味ある?、とかの会話を続けた。
そして彼女が降りる駅が次だというアナウンスが車内に響く。
彼女は俺をまっすぐ見てこう言った。
「……いつか、あなたの何もかもを受け入れれるようになるから。悪いけど、もう少し待ちなさい」
続けて彼女は俺の耳元に顔を寄せ、
「奴隷を待たせるなんて、ご主人様失格かしらね」
と囁いた。
俺も彼女の耳元に向かって囁く。
「そんなことはない、こんなに俺を思ってくれるご主人様はお前だけだよ。大好きだ、美香子」
俺の言葉に、美香子はクスッと笑った。
「あら、奴隷のくせに生意気言ってくれるわね。私も大好きよ、優木ちゃん」
END
典型的な男子学生である俺、優木(ゆうき)には好きな人がいた。
これもありきたりで典型的なパターンなのだが、その好きな人は幼馴染で美香子(みかこ)という。
だが、幼なじみであるが故に彼女が俺のことを好きになることはないと、俺はこの恋が叶うことはないのだと理解している。
決して仲が悪いわけではない……と思う。
学校は違うが途中までは一緒に学校に行っているし、休みの日には一緒に出かけたりする。
しかしそれはご近所付き合いというか、昔からの習慣のようなものだ。
俺の恋が叶わない理由は彼女の男性恐怖症、いや、男性嫌悪症といえばいいだろうか。
とにかくそのような、男性というものを受け付けることができない心の病を持っているからだ。
幼い頃に"襲われた"からだそうだが、詳しいことは知らされなかった。
とりあえず、俺は襲ったやつを殺してやりたいとだけ言っておこう。
「あら、おはよう。偶然ね」
「あぁ、偶然会ったな。おはよう」
これが俺と彼女の朝の挨拶である。
もちろん、朝俺の家の前で会うのは偶然でもなんでもなく、俺が彼女が来るのを待っていたのだ。
彼女もきっと知っていると思うが、何故か彼女の中では「偶然会った」ということになっているらしい。
同じ電車に乗って、彼女は俺が降りる二つ前の駅で降りる。
彼女はそこからさらに電車を乗り換えて行くので、朝の登校時間はかなり早い。
彼女の登校時間が早いということは、待っている俺の登校時間も自動的に早くなる。
教室の鍵を開けるのはいつも俺だ。
「優木の学校、共学じゃない。あなたまだ彼女とかできないの? もうそろそろそういう時期かなって思ってるんだけど」
空を見上げ、どこか遠くを見ながら美香子が言った。
背は俺と同じくらいで、長い黒髪と整った顔立ち、長い脚と大きな胸。
すれ違えば、女でも振り返ってしまうのではないかと思うほどの美人だ。
だが、ドSだ。
もう一度いう、ドSだ。
なんでも自分の思い通りにしてしまうし、気に入らないものはとことん叩き潰す。
小さい頃は、アリの巣に炭酸をぶっかけて大笑いしていた。
今でも酷い毒舌を容赦なく俺にぶつけてくる。
俺は少し考えたふりをしてから質問に答えた。
「彼女はいないし、好きな人もいないな。告白されたこともない。お前こそ、女子高だろう。付き合ったりしてないのか?」
普通の人が聞いたら首をかしげそうな質問である。
男性を恋愛対象と見ない美香子は、年を重ねるたび女性を恋愛対象に見るようになっていたらしい。
百合系の漫画とかが部屋にあったのを覚えている。
美香子にこの質問をするのも初めてではないが、こちらも"彼女はできたか"とよく聞かれるのでお互い様だ。
そしてこれは、俺が彼女にまだ恋人ができていないことを確認する機会でもあった。
美香子は早く恋人でも作って私から離れろとでも思っているのかもしれないが……。
「なかなかいい子がいなくてね。女子高よりも共学の方がいい子がいそうって思うわ」
「何でだ?」
「前も言ったけど、天然装ってるクソビッチか高飛車なお嬢様しかいないもの。私好みの可愛い子犬みたいな女の子はなかなか見ないのよねぇ」
「そんな漫画みたいな女って実在するのか?」
「ふんっ。その言葉、世の中の男どもにそのまま返すわ。現実見なさいよ」
俺にとって美香子と話すことができる少ない時間は楽しいものだった。
よく言われていることだが、楽しい時間はすぐ過ぎる。
家の前出会ってから二十分ほどで別れてしまう。
帰りは学校が終わる時間もちがうし、同じ電車の同じ車両に狙って乗ることができないために会うことができない。
美香子の家に遊びに行けばご両親は喜ぶだろうけど、彼女からしたら迷惑だろう。
「あぁそういえば」
こう切り出した彼女の言葉が俺の人生を、そして、何もかもを変えたのだ。
「最近可愛い転校生が来たのよね。驚いたわ。あの子、本当に漫画の中にいる娘みたいに可愛いのよ? それにね……」
☆
「某山の上の神社で人がいない時に恋の相談をすると、ナニカが現れて恋を叶えてくれる」
俺が最近学校で聞いた噂だ。
この街のナニカが何なのか誰も知らないし、"某山の上の神社"が学校付近のこの神社なのかもわからない。
というか、どうしてナニカなどという表現になったのだろう。
普通、神社で願いを叶えてくれるのは神様とか巫女さんじゃないのか。
などと思いながら、そんな不確定で、そして嘘としか思えない噂にすがってその神社の前にいる。
それも学校をサボってだ。
これまでずっと美香子のお眼鏡に叶う女は現れなかった。
そして、俺はそのことに安心しきっていた。
いつかは俺にもチャンスがあるのではないかと、いつか俺を受け入れてくれる日が来るのではないかと、いつか、いつかは、と。
しかし美香子は恋人候補を見つけてしまった。
それだけで俺は焦った。
美香子が俺の前からいなくなってしまうかもしれない、楽しそうに恋人と話しているところを見せつけられるかもしれない、二度と彼女と言葉を交わすことができなくなるかもしれない。
焦りが俺を狂わせたのか、俺は震える手で賽銭箱に賽銭を入れ恋の相談を始めた。
「好きな女の子が、男である俺を好きになってくれない。そして、その片思いの人がが気になる女の子を見つけてしまった。俺はどうすれば彼女と結ばれることができるんだ。教えてくれ!! 俺が女に生まれてれば美香子と結ばれたのか!? 俺が女みたいな男だったら良かったのか!? どうすればいいんだよおおおおおおおおおお!!」
後半はもうなげやりで感情を現わに叫んでいた。
周りに人がいないことは確認していたが、もし後ろから誰かが見ていたらいい笑いものだろう。
いや、笑えないな。
ドン引きされそうだ。
だが、俺の後ろに現れたナニカは俺のことを笑わなかった。
「そうなの。なら、ね? 私があなたを女の子にしてあげましょう」
耳元で囁かれた俺は、妖艶な甘い声に毒され地面に倒れた。
体が動かない。
「あぁでも、本気で女になりたいのでなければやめておいたほうがいいわよ。男でいても、彼女と結ばれる方法はあるのかもしれないし。男の子の快楽は二度と味わえなくなるのわ」
地面に突っ伏しているためにナニカの姿は見えないが、言葉には謎の説得力のようなものを感じた。
このナニカならば、本当に俺を女にしてくれるのかもしれない。
俺が女になる。
そうすれば、彼女と結ばれる可能性は、男である今より断然上がるだろう。
女になって告白した挙句、フラれるかもしれない。
でも、女になれば……。
「ねぇ、どうするの?」
俺の決意は簡単に口に出た。
いや、決意ではなかったかもしれない。
その場の勢いで、焦って狂っていたから、本気で今後のことを考えないで口にしてしまったのかもしれない。
「俺……をっ……女……にして……くれ」
「……本当は男の子の恋愛相談は受け付けてないのだけれどね。いいわ。その願い、叶えてあげるっ」
その言葉の直後、突然体中がピリピリし始めた。
次に感じたのは浮遊感。
「なっ、何だこれ……!?」
視界が何かに閉ざされているのか、何も見ることができない。
暗闇、暗闇、暗闇。
自分の身に起こっていることを理解するまもなく、次第に服の感触が消えた。
頭の奥、脳に直接という感じにナニカの声が聞こえてくる。
「あなたがなりたいと望むのはどんな女の子かしら? ほら、イメージしなさい」
美香子が望んでいた、子犬のような女の子。
可愛いくて、美香子よりも背が小さくて、ショートヘアで、胸は控えめ。
俺の中に、美香子が望んでいるはずである女の子の形が出来始める。
完成につかづけば近づくほど、自分の体にも変化が起こり始めていた。
「くっ……んっ……あっ……はぁっっっ!!」
体中を撫でられるような感覚とともに、快楽がの中でうずまき始めていた。
体の変化と、自分のものとは思えない声を発していることに対する戸惑い。
気づけば、俺は自分の腕や足、そして体中を自由に動かせるようになっていた。
恐る恐る、手で足や腰、胸、顔に触れてみる。
筋肉質であるはずの俺の体はぷにぷにと柔らかく、体中が全体的に小柄になっていた。
だが、股の部分はしっかりと男であることを主張している。
未知の快楽により膨張した男の欲望が、まだ俺の体に残っていたのだ。
また声が頭に響く。
「最後に……ふふっ。わかるでしょう? これをなくさないと女の子にはなれないわ。男として最後の、しゃ・せ・い。思う存分気持ちよくなりなさい」
その言葉を合図に頭の中が真っ白になり、男性器を握りただひたすらに上下に、上下に、上下に、上下に動かし続けた。
普段の自慰では感じたこともない快楽が電撃のように体中を走る。
猿のようにただひたすらに行為に耽った。
「あぁっっくぅぅっっん!! くぅぅぁあぁぁっぁぁぁあぁあああ!!」
男の快楽を受けて女の声で喘ぐ。
あまりの大きな快楽に、俺は数分も耐えることができず絶頂に達してしまいそうになる。
「あらあら、もうイっちゃうのねぇ。可愛い」
「あっっぁ……。んっっ……かわ……い……? いいぃぃぃんぁぁぁああああ!! イっっっっクぅぅぅぅっっっっ!?!?」
絶頂。
それと、ともに体から力が抜けていく。
流れるように頭に響いた言葉が俺の思考を、体を溶かしていく感じがした。
「そうよ、あなたは可愛い女の子。とても淫乱でエッチな女の子なの。もうあなたは男じゃない。あなたの愛する人好みの可愛い子犬みたいな女の子。ほら、あなたの体をよく見てみなさい」
言葉とともに、ゆっくりと視界が開けてきた。
あたりは暗闇ではないが、やはり身に覚えのない場所で、紫の霧が数メートルより先を隠していてよく見えない。
私は言われた通りに自分の体を見た。
自分で見ても、華奢な体。
筋肉があるのか怪しくなるほど、ぷにぷにしている腕や足。
控えめに膨らんだ胸は私の、女の子の持っているもの。
「ぁぁ……私……女の……子……?」
「そう、これがあなたの生まれ変わった姿よ。女のカラダ。そしてその快楽、好きな人に教えてもらうのよ」
最後に見えたのは、見てしまったのは、どんどん小さくなっている、私の股間についていたもの。
私は、私は、俺は、その小さくなっていくモノを見て、見て、見て。
「あ……れ? 俺は?」
そうだ、美香子。
美香子に会いたい。
なんで俺はこんなところに、俺の体はどうなっている。
今起きていたことを思い出そうにも思い出せず、美香子を探そうにも自分のものとは思えないほど小さい体は動かない。
突然頭に浮かんだ不安と恐怖。
それらの感情を吹き飛ばすかのように、頭に声が響いた。
「あなたの好きな人に会いに行きたいのでしょう。なら、気をしっかりと持ちなさい!!」
その言葉とともに、俺は覚醒した。
☆
うつ伏せになっている俺が目を開けて見たのは、鬱蒼と茂った森と下り階段の奥に広がる街と光の景色だった。
いつの間に夜になっていたのだろうか。
強烈な頭痛を感じながら、しかしうめき声を出すこともなく俺は立ち上がる。
体が妙に軽い気がするが、どういうことだろうか。
「あぁ……」
自分の声とは思えないトーンの高い声を発しているのがわかった。
夢でも見ていたのだろうか。
ここに来てからの記憶が飛んでいる気がする。
俺はこれ以上の考えるという行為を放棄して、帰路に着いた。
☆
家に帰ってまず驚いたのは、母さんに驚かれたことだ。
かなり可愛くなったわね、とはどういう意味だろうか。
俺に可愛いなんて要素はどこにもないはずなのに。
それよりも頭痛が酷い。
とりあえず部屋に戻って寝ようと、二階にある自室にゆっくりと向かう。
扉を開け、フラフラとベッドに向かうが、その途中であるものを見てしまった。
窓から射していた月明かりが照らしていた鏡である。
鏡には、子犬のような少女が写っていた。
「……?」
それを見た瞬間、頭痛が収まり正常に思考できるようになった。
これは誰だ。
この鏡に映っている自分は何だ。
そうだ、俺は神社で……。
「母さん!! ちょっと風呂入る!!」
部屋を飛び出して叫んだ俺は階段を駆け下り、脱衣所に文字通り突撃した。
小柄になった俺のサイズにピッタリの男子用制服を脱ぎ散らかして、風呂場に入る。
なぜか下着が女物だったが、そんなことはどうでもいい。
ブラがなかったことが何を意味しているのかも、どうでもいいのだ。
俺は風呂場にある鏡を見て自分の裸体を確認する。
なぜか面影は残っているように見えるが、しかし完全に女の子の顔があり。
微妙に膨らんだ胸があり。
割れていたはずの腹筋は消え去って、スラリとした体があり。
明らかに小さく、そして細くなっているぷにぷにの腕と脚があり。
そして、そして、普通の女の子の体にはあるはずのないナニがそこにあった。
ナニとは、男性器である。
もちろん玉の部分も健在であった。
前より多少縮んでいるものの、やはりどこからどう見ても男のナニだった。
恐る恐る、玉を持ち上げてめくってみる。
すると、本来あるはずのない、いや、女の体ならあって当たり前の穴があった。
俺はゆっくりと玉を下ろしてシャワーに手を伸ばす。
現実逃避をしようと、湯を浴びようと思ったのだ。
「ひゃんっ!?」
シャワーから出てきたのは湯ではなく、冷水だったが。
☆
男のような女に生まれ変わったことを早速後悔していた。
いいや、まだ美香子と結ばれないことが決まったわけではないので、むしろ美香子の望む女みたいなものになれて一歩近づいたとも言えるから後悔ではないか。
ただ、現実問題、俺はこれからどうすればいいのかということに悩まされている。
母さんは少し引きながらも、俺が女みたいになったことに対して言及しなかった。
だが、もし学校に行けばどうだろうか。
好奇の眼差しに晒されるどころの話ではないことは明らかである。
俺が住むこの世界で性転換など空想の中だけの話のはずなのだから、世間の晒し者になるだろうし、学者に解剖されたりするかもしれないし、実験体となり非人道的なことをされるかもしれない。
次の日、あまりの絶望感に俺は学校に行くことができなかった。
その次の日も無理だった。
数日で決心を固めろという方が無茶な話だ。
数日で決心できないので、もちろん三日目も無理だった。
四日目も無理だった。
そして休日に入って二連休。
さすがの母さんも心配したようだったが、病院に連れていくこともなく、何か欲しいものがあれば、食べたいものがあれば言ってちょうだいと言ってくれた。
母さんの優しさに涙しながら、俺は六連休目を迎えていた。
学校を休み続けているため、恐らく勉強についていくのは困難を極めるだろう。
それだけならいい。
俺は、俺は一週間近くも美香子に会っていない。
以前は一週間会わなかったくらいでこんなに悲しいような、苦しいような気持ちにはならなかった。
だが今の、女になってしまった俺は苦しかった。
好きな人に会えない苦しみや痛み、虚無感というようなものだろうか。
本当に、心にぽっかり穴が空いていて、その穴を埋めるように美香子を求めてしまう。
「みかこぉ……みかこぉ……」
俺はベッドの上で、もう何度目かわからない自慰を始めた。
母さんは今出かけているから多少大きな声を出しても問題はない。
下に来ていたものを脱ぎ、上の服をはだけさせて足を広げて下半身に手を伸ばす。
俺はこの体になってから性欲が以前の数倍、いや数十倍には増えたように感じている。
普通の人間ではできない、変態的な自慰。
男性器を上下にこすりながら、乳首をコリコリと揉んだりつまんだり、時に弾いたりして昂ぶらせていく。
我慢できなくなったら、次は女性器に指を這わせる。
くちゅくちゅと音を立てながら入口付近を愛撫し、時に豆に指を伸ばす。
普通の人間ではできない、変態的な自慰。
それらの行為を、美香子にしてもらっていると想像しながらだ。
男の快楽と女の快楽。
その両方を感じながら絶頂に向かう。
そんな俺を、私を、きっと美香子は笑顔で焦らしたりして楽しむのだ。
空想の美香子が手の動きをセーブすると、俺自身も手の動きをセーブさせた。
そして、絶頂ギリギリのラインを維持し続ける。
「んっっにゃぁぁぁ……ひゃぁぁん……いっっちゃぁぁぃいたぁいぃぃ……」
喘ぎながら、空想の美香子に向かってイってしまいたいと言葉になっているか少し怪しいおねだりをする。
すると彼女はきっと、
『ん? 何言ってるのかしら、このダメ犬は。犬のくせに猫みたいに喘いで、射精のおねだりもできないの?』
意地悪なセリフで私を責めるのだ。
快感によって呂律の回らない言葉で、ごめんなさい、とか、イかせてぇ、とか恥ずかしいセリフを叫ぶ。
それでも彼女は許してくれない。
焦らしに焦らされて、本当の限界。
ここで手の動きを止めて、彼女を見ながらちゃんとおねだりの言葉を伝える。
「ふぅぁぁああん……イかせて……ください……美香子さまぁ……」
彼女は呆れた顔で私を見て、きっと許して……。
「ダメよ優木。私が許可するまで、イってはダメ」
「ふぇ……?」
聞こえたのは、空想の美香子の声ではなかった。
快楽によって乱された思考が今起こった事を理解できない。
恐る恐る、私は部屋の入り口の方へ目を向ける。
そこにいたのは、
「ほら、今すぐその汚いものから手を離すの。次いでベッドから降りなさい」
私服の、現実の美香子であった。
空想ではない、空想の美香子は制服だった。
レースのタンクトップにミニスカートというやけに露出の高い服装が私の興奮を誘う。
美香子の突然の来訪に目を白黒させた私は、久々に会えたことを喜び、痴態を見られたことを恥ずかしがり、戸惑いながら命令通りにベッドから降りた。
彼女は私のベッドに座り、足を組む。
「ほんっと、馬鹿よね。女になろうとした挙句中途半端に失敗して、男みたいな女になるなんて。股間についてるソレ、この状況でそんなに大きくさせて恥ずかしくないのかしら」
下半身を露出させたままの格好であったことを思い出し、恥ずかしさで美香子を見ることができなくなった。
しかし、目をそらした私のことを美香子は叱った。
「こっちを向きなさい!!」
「ひゃっ!? はいぃっっ!!」
顔を上げると、美香子はつま先で顎を支えるようにした。
美香子の脚がこんなに近くにある。
今まで保っていた一定の距離に比べて、非常に近い距離に彼女の足がある。
私は興奮を悟られまいと口を閉めて目をぎゅっとつむった。
だが顔は抑えられ、下半身はピクピクと反応していて、その下もビチャビチャにしてしまっていた。
「何? 足で顔を触っただけでこんなに反応しちゃってるの? あははっ、可愛い反応するのねぇ。なら、これはどうかしらっ!!」
顎から足を離し、大きくしていた男性器に向けて一気に振り降りして踏み潰された。
一見足コキに見えるがそうではない。
本当に、彼女は私の男性器を本当に力任せに踏み潰している。
美香子はコレに最悪のトラウマを植えつけられているのだろう、恨んでいてもおかしくはない。
でも淫乱な私の体はそんな力任せの暴力にも快感を覚えてしまい、
「くぅぅんぁぁぁあぁぁあああああ!!」
と言ったように情けなく叫び声のような喘ぎ声を部屋に響かせるのだった。
美香子はクスクスと笑いながら、グリグリと私の男性器を踏みにじる。
こんな仕打ちを受けても私の興奮は収まらなかった。
私はマゾ性癖なんてなかったはずなのに、と今更のように思いながら喘ぎ続けた。
いや、結局続けるほど長くもたずに絶頂に近づいてしまう。
しかし絶頂寸前の絶妙なタイミングで、
「はい、ストップ」
美香子は足の動きを止めてしまった。
私は射精感が収まるのを感じながら情けなく涙を流し、美香子を見上げて射精を懇願する。
「なんでも……なんでもいいからぁ……イかせてぇ……ずっと寸止めで……辛いのぉ……」
「なんでも? どんな方法でも? そこまでしてイっちゃいたいのね。そんなんだから、男の快楽を捨てれなかったのよ」
"男の快楽を捨てることができなかった"というセリフに私の心がえぐられたような気がした。
そう、私の体から男性器が消えなかった理由はきっと、美香子とセックスしたいという気持ちを捨てることができなかったからだ。
男だった私は心の奥で、女同士のセックスに偏見でも持っていたのかもしれないし、ただ単に男として美香子を抱きたいと強く思っていたからかもしれない。
男の欲望を捨てることができなかったから、体から男性器が消えなかったのだろう。
今の私はそんなことを思考するよりも、ただただ快楽を欲していた。
「お願い……します……どんな方法でもいいから……イかせてぇぇぇ……」
反論の一つも返さず快楽を求めた私を見て、ふふふ、と笑った美香子はどこからか縄のようなものを取り出した。
笑いながらその縄を手で弄んでいる。
先端の部分には柄のようなところがあり、美香子はそれを掴んでその縄を振り回した。
ビュンという音が部屋に響く。
縄ではない、これは……。
「鞭であなたの汚らしいチンポ、イかせてあげるわ」
その言葉とともに今までとは比べ物にならない快楽が体中に響いた。
美香子が鞭を振り下ろして私の男性器を叩いた瞬間、声になっていない喘ぎ声を上げながら絶頂してしまったのだ。
白くネバネバした液体が美香子の足に降りかかる。
美香子はその液体をゴミを見るような目で見つめていたが、次第に妖艶な顔に変わってしまった。
「私も、魔物娘としての本能には逆らえないのね……」
そう言いながら、白い液体を手で拭い口元に持っていく。
味わうように少しづつ、足にかかった液体がなくなるまでその行為を続けた。
その頃には私の、俺の頭はクールダウンして、やっと現状を飲み込めるようになっていた。
大好きだった美香子に見せた自分の痴態と女みたいなものになった事実を知られたこと。
そして美香子が昔みたいに、いや、昔よりもハードに俺を虐めたことの理由がわからない。
美香子が足で俺の顎を持ち上げて言った。
「私もね、あなたと同じなの。人間やめちゃった」
☆
美香子の話はにわかには信じることができないことだった。
今日の昼、母さんが出かけた先は美香子の家だったようで、美香子は母さんから俺の様子がおかしいということを聞いた。
そして母さんは美香子に、俺の話し相手か相談相手にでもなってくれないかと頼んだらしい。
美香子はそれを了承して俺の家に向かったが、その途中にナニカとであったようだ。
俺は姿を見ることができなかったが、それは悪魔のようで、服装からして淫魔のようだったという。
自称、魔王の娘を名乗ったその悪魔は俺のことを心配してくれていたようで、俺の家に入ろうとする美香子に俺の様態や神社の噂の話、それら諸々の事情を伝えたらしい。
神社の噂は女に限るということもこの時初めて知った。
俺は既に人間をやめていて、魔物娘のアルプという種族にされたらしい。
厳密に言うと少し違うようだが、そういう認識でいいらしい。
男の俺の相談を聞いてもらえたのは、男から女になる魔物娘にすれば解決するという特殊なケースだったからだそうだ。
話を終えて姿を消そうとする悪魔に、美香子はこう言ったようだ。
「私も恋愛相談をしてもいいかしら?」
悪魔は微笑んで、それを了承。
美香子は、
「男を、そして特にその下半身についているものを受け入れることができる淫乱な体が欲しい」
と言ったようだが、それは相談ではなくお願いではないだろうか。
俺の時と同じように、なりたい自分を想像しろと言われたようだが、彼女もここで俺のような事態になった。
美香子も自分のなりたいと思っていたはずの理想の姿では叶えられない欲望を持っていて、その欲望を捨てることができなかったのだ。
その欲望はドSな性格からくるものだったようで、詳しくは知らされなかった。
結果、サキュバスになるはずだった彼女はダークエルフという種族の魔物娘に生まれ変わったらしい。
この種族は、伴侶を快楽で屈服させて奴隷や家畜のように扱って支配するみたいな種族のようだ。
美香子にはお似合いな感じではあると思うが、美香子は意思が弱かったからだと少し悔しがっていた。
しかし、何故そんなことをしたのかと聞いてみると、美香子は怒りながら言った。
「煩い。私も、あなたのことがね、ずっと好きだったのよ。でも、あんた男だし。それに下半身についてる汚らしいゴミが嫌いで嫌いで仕方が無かったの。まぁ、結果的に? あなたが私好みの女の子になってくれたのは嬉しいけれど、結局チンポは残ったまんまだったみたいだし? 私もあんたのために行動しないとね、って思ったのよ」
俺はその言葉を聞いて、大泣きしてしまった。
美香子が俺のことをそれほどに思ってくれていたこと、俺が女になってよかったと思ったこと、やっと恋が叶ったこと、それらの感情が涙とともに溢れたのだ。
俺が泣きやむまで美香子は俺の頭を撫でてくれていた。
泣き止んで落ち着くと美香子は、私の生まれ変わった姿を見せると言って体を変化させた。
尖った耳と、天然の褐色肌と、白銀の髪。
その全貌を見て、あぁ確かに人間とは思えない美しさだなと納得した。
褐色肌を受け付けれるかと聞かれたが、もちろんだと答えながら微笑みを返す。
俺自身も、実は翼や尖った耳、角に尻尾など種族の特徴が現れるはずだったようなのだが、何故だかまだ現れていない。
「私たち魔物娘は魔法が使えるみたい。詳しい理由とかは今度話すけど、とりあえず"変化の魔法"は誰でも使えるようになってるみたいだから、練習しましょう」
俺は何度やってもコツがつかめず、夜遅くまで続けてやっと一回成功させることができた。
元の俺の体に戻る、というより変化することで日常生活を続けろというのが悪魔の意思らしい。
男の体に戻った俺を見て、少し残念そうな素振りを見せた美香子はこう言った。
「まぁ私は一発でその魔法、成功させたんだけどね」
☆
変化の魔法をある程度マスターすることができた俺は、普通に学校に登校することができるようになった。
いつ魔法が解けてしまわないかと心配になったが、解こうと思わない限り解けない仕組みのようで助かっている。
美香子のほかに唯一俺の本当の姿を知っている母さんは、夢を見ていたのかもしれないと言っていたが、俺も現状を説明することができないので、このことは俺と母さんとの間でタブーとなった。
そして、俺はいつもの時間に家の外で待つ。
いつもの時間に美香子がやってくる。
「あら、おはよう。待った?」
「いや、今出てきたところだよ。おはよう」
これが今の俺と彼女の朝の挨拶である。
いつものように他愛ない会話をして、学校に向かう。
二十分程で分かれてしまうけど、楽しい時間だ。
楽しい時間はすぐ過ぎるけど最近は休日に会えるようになったので、前よりも美香子と触れ合う時間は格段に増えた。
今日の話題は文化祭ばかりだった。
もうすぐ文化祭ね、そういえばリハで見た演劇部のレベルが高かったな、文化祭には行くからチケットもらってきなさい、あなたは女子高の文化祭に興味ある?、とかの会話を続けた。
そして彼女が降りる駅が次だというアナウンスが車内に響く。
彼女は俺をまっすぐ見てこう言った。
「……いつか、あなたの何もかもを受け入れれるようになるから。悪いけど、もう少し待ちなさい」
続けて彼女は俺の耳元に顔を寄せ、
「奴隷を待たせるなんて、ご主人様失格かしらね」
と囁いた。
俺も彼女の耳元に向かって囁く。
「そんなことはない、こんなに俺を思ってくれるご主人様はお前だけだよ。大好きだ、美香子」
俺の言葉に、美香子はクスッと笑った。
「あら、奴隷のくせに生意気言ってくれるわね。私も大好きよ、優木ちゃん」
END
14/06/18 11:15更新 / YUKAnya