連載小説
[TOP][目次]
001 - 未来の嫁、召喚
「久村くーん、こっち手伝って〜」
「はーい、今行きまーす」

俺は、久村 マサト 、22歳。
2ヶ月のプータロー期間から脱却して、早一ヶ月が経った。
今は、食品関連の仕事に就いている。

そしてここ最近、不思議な体験が続いている。
前の仕事をやめてから三日目に、近所の神社に行って、おみくじを引いたところ、

『 大吉 』
商い:2ヶ月もすれば、良くなる
喜事:半月乗り切れば、軌道に乗る
待人:胡散臭く見えるが、それを信じるべし
売買:高くなければ買ったほうがいい
縁談:いきなりやってくる
子宝:出世し、孝行する

...と、あった。

この中の二つ、『商い』と『喜事』は既に的中した。
だが、その他4つがまだ何とも言えないのである。

「縁談......か。いい加減彼女欲しいよなぁ......」
「おーい、手を動かせー」
「すんません」

慌てて、商品の陳列に戻る。
...彼女、欲しいよなぁ...。

俺は、商品を陳列する手を動かしたまま、そんなことを思っていた。




「うー...今日も終わった〜」

店の裏口から出て、自宅に帰宅しようと愛車のブラウンのトールワゴンに乗り込み、発進した。

走り始めて8分。
いつも通る、環状線道路を抜け、その脇道に入る。
右手に雑木林、左手に民家がある道なのだが、近くの中学校が終わる時刻なのに、今日に限って誰もいない。

...珍しいこともあるもんだ...と、大幅に減速して走る。
すると雑木林の方が『バスンッ!!』と爆音がし、アタッシュケースを抱えた、喪黒○造のようなスーツと帽子を纏った、二色の髪の男......のような女が、ゴロゴロ転がりながら飛び出してきた。

慌ててブレーキを踏み、なんとか止めた。
転がってぐったりしていた女は、すぐにむくっと立ち上がった。
......どうやら、なんともないらしい。

そして、こちらに気づくと、車の運転席の前まで歩いてきて、窓をコンコンコンとノックしてきた。
窓を開けると、

「どうも、私、こういうものです」

女はスっと名刺を差し出してきた。
名刺には、

"スマートサバト 魔法召喚符部門 セールスマン"
"ライナ=ランビリス"

と、書かれていた。
ツッコミどころしかないが、二つも的中したおみくじを信じて、とりあえず話を聞くことにした。

「助手席、よろしいですか?」
「えっ、あっ、はい」

スススッと助手席に座り込むと、女は質問してきた。

「お兄さんは独身ですか?」
「......どう見えます?」
「独身臭が漂ってますね」
「.........」

なんだ独身臭って。

「そんなお兄さんに、面白い商品を提供したいのですが、興味ありません?」
「......これを使えばモテモテとかになるのだったら、いらないです」
「いえいえ!! 使うものではありますが、使えば確実に、超美人な恋人が手に入るものなんです」

ますます胡散臭い...。
と思ったものの、追求する自分。

「ちなみに、どういうもので?」
「おっ、ご興味が湧いてこられましたか」
「...話だけでも聞いてみようかな、と」
「なるほどなるほど...。私たちが取り扱っているのは、こちらにございます」

女はアタッシュケースを俺に向けて開いた。
そこには、タロットカードのような形状のカードが数種類入っていた。

「...これは?」
「これは、召喚符『コネクトカード』と言いまして、異世界に生きる魔物....魔物娘を召喚できるカードでして」
「魔物...娘?」
「はい。で、その魔物娘というのは、メスしか存在しない種族でして、繁殖するには人間の男性が必要なのですよ。ですが、異世界の人間の男性は、常に供給不足でして。ならば、人外の女性に理解のある、この世界の男性の助けをも借りようと思ったのですよ」

人外の女性に理解のある......。
だいたいあってるからもう...。

「えーっと、要約すると、異世界から魔物の嫁を召喚するカードということですかね?」
「はい、そのような理解で大丈夫です」
「で、代償は?」
「代償...ですか......。まぁ、特に何もないのですが、強いて言うなら、お兄さんの精液ですね」
「ぶっ!? マジですか!?」
「はい、魔物の食料は、人間の男性が生成するエネルギー...『精』と呼ばれるものです。たまたま、それが精液に多いというだけで、他意はないです」
「...............」

だとすれば......リスクはないに等しい...か?
いろいろなものを秤に掛けているのが表情に出たのか、トドメを差しに来る女。

「魔物の女の子は、とっても一途なんですよ〜? 一回自分の男と認めちゃえば、絶対に浮気なんてしません。どうです? お買い得ですよ〜?」

うんうん唸りながら、俺は......。

「かぁ........買います!!」
「おぉ〜!! よくぞご決断なされました!!」

パチパチパチと拍手する女。

「で、どれにします?」
「......『どれ』?」
「カードには種類がありまして、爬虫類系のカード、水棲系のカード、昆虫系のカード、哺乳類系のカード...など、様々なものを取り揃えております」
「え〜...」

買うと決めたのに、さらに迷うことになるとは。

「じゃあ......これだっ!!」

バッと一枚のカードを指差す。

「ほほぅ、『精霊系』のカードを選びましたか」
「で、おいくらで?」
「せっかちですねぇ。でも、せっかく買う気になっていただいたのですし、まぁいいでしょう。お値段ですが...」

財布を構えながら、身構える。

「14万円......と、いいたいところですが、1400円でいいですよ」
「えっ、そんなに安いの?」

安すぎて、逆に不安になる。
ここに来て、まさかの展開である。

「私どもと致しましては、一人でも多くのカップルを誕生させたいのでね...。まぁ、『召喚する方』より、『召喚される方』が高くついてるのでね、ちゃんと採算は取れているんですよ」
「......そんなもんなんですか」
「まっ、そんな話は置いておいて、ささっ、カードですよ。成功させてくださいね?」
「......はい」
「それと、取扱説明書です」

女は、ライトノベル程度の本を、一冊手渡してきた。
どこにしまっていたのだろうか。

「では、カードで召喚した娘と、お楽しみください。それでは〜」

女は、ボンッとピンク色の煙を立てて、目の前から消えてしまった。
またも唖然とする俺。

今のは夢......?
と思ったのだが、手でしっかりとカードと説明書を持っていた。
もう、わけがわからなくなるのだった。





――――――――――――――――――――――

「...はぁっ、これで五発...と...」

結局、家に帰ると、さっそく説明書片手に頑張っていた。
説明書を読み、模造紙・墨汁・筆を買いに行ったり、コソコソ何か始めたため、親に変な目で見られたりするハプニングはあったが。

取扱説明書には、

1.1m×1m 程度の紙を用意する
2.墨汁を紙コップなどに200cc注ぐ
3.その墨汁に、射精5回分の精液を注ぐ

と、書いてあった。

現在、3番目のところで、休憩を挟まないで5発も絞ったこともあり、気力の消費が著しい。
息を切らしながら、筆で墨汁と精液を混ぜたものをグルグルかき混ぜながら、説明書を見る。

4.図の魔法陣を書く

...早くも、諦めてしまいたい気持ちと、ここまでやったのだから、意地でもやり遂げる気持ちが、自分の中で戦争になっていた。

「ハァッ...隅っこを固定して......。まず最初に......六芒星を書くと...」

5分ほど休むと、後者が勢い勝ちし、本と模造紙を見比べながら、黙々と作業に戻るのだった。


――――――――――――――


「おっし、始めるか...」

PM 8:40。

満月の輝く夜。

俺は夕食前に、『知り合いと飲みに行ってくる』と言って家を出て、町から2kmほど離れた寂れた空き地で、俺は魔法陣と取扱説明書に向き合っていた。
ここまでやってきたのも、『音が出るから注意しろ』と書いていたこと、いきなり家の中に出てこられたことが親に知られたら面倒だから、という理由からだ。

「で、実行編......んっ?」

実行編の一番目には、目を疑うことが書いていた。

1.カードに新鮮な精液をぶっかける
2.それを魔法陣の中心に置いて、次ページの詠唱をする

......おい、1番。
まだ絞る気か。

結局、もう一発絞ることとなり...。



「おーし、今度こそ」

新鮮な精液をぶっかけたカードを中心に置き、魔法陣から出る。
精液の臭いが漂う中、俺は説明書をめくった。

「......おし、気張っていこう」

俺は、ゆっくりと詠唱を開始した。


"素に愛と欲"
"礎に精と契約の大公"
"降り立つ者には我を"
"四方の門は閉じ"
"異世界より出でる"
"この世界に続く道は開門せよ"

"満たせ"
"満たせ"
"満たせ"
"満たせ"
"満たせ"
"注ぐことに五度"
"ただ、満たされる精を破却する"


2部まで終えたとき、魔法陣とカードが、水色の光を発し始めた。
同時に、コォォォォォ...という音が出始める。

おいおい、本当にマジモンだったのかよ...。
ここまでやっておいてなんだが、そんなことを思った。

もう後戻りはできないと、俺はさらに続けた。


"告げる"
"汝の愛は我が物に"
"我が命運は汝と共に"
"運命の導きに従い、"
"この意、この理に応じるのならば答えよ"

"誓いを此処に"
"我は持ち得る全ての愛を注ぐ者"
"我は我が身の、全ての精を捧ぐ者"


光が一段を強くなった。
音も、ゴォォォォォ...!! という、凄みのあるものへと変わってきた。


"汝、異なる理を纏う闇天、天魔の國より来たれ"
"真実の愛の守り手よ"


最後の詠唱を終えた途端、ドォン!!と爆音を立て、光と音が爆発し、その爆風で、後方4mの地点へと吹き飛ばされた。

「爆発が起こるとは聞いてない......」

転がった地点で、ボヤきながら、まだ眩く輝く光に目をやる。
その光が徐々に収まっていくと、儀式が成功したことが、ひと目でわかった。

カードと魔法陣が灰と化しているかわりに、水色の髪の褐色肌の女が立っていたからだ。
女は月光に照らされ、恐ろしいほどに美しく見えた。

その女は、そっと自分に歩み寄ると、手を差し伸べた。
その手を取って立ち上がる自分。
...女は、俺より背が高かった。

「...大丈夫?」
「............はい」
「...一応、確認していいですか?」
「...何をですか?」
「あなたが...私の旦那様?」

返答に詰まった。
彼氏とかならともかく、旦那様はぶっ飛びすぎだった。

だが、返答しないわけにもいかないので、答えることにした。

「...おそらくそういうことになりますかね...」
「やっぱり♥」

返答するや否や、満面の笑みになる女。
女神のような笑みだった。

「じゃあ、確認も取れたことですし、始めますか」

女は、自分の背面に回り込んで抱きつき、後ろの茂みに向かって後退し始めた。
当然、ズルズルと引きずられる自分。

「ちょっとちょっとちょっと!! 何を始めると!?」
「それはもう、夫婦の誓いですよ?」
「それはまだ早いでしょう!!」

地面に踏ん張り抗おうとしたが、仮にも魔物相手に力で勝つことはできず、地面と靴底が擦れるズリズリという音を立てながら自分は女に引きずられ草むらに連行されていった。

「ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って......ちょっ......キャァァァァッ!!!」

誰もいない夜の空き地に、服を剥ぎ取られた俺の悲鳴が響き渡るのだった。



――――――――――


AM 8:00。

結局あれから、ファーストキスと童貞を奪われ、ファーストキスと処女を押し付けられ、草むらで朝になるまで散々犯されたのだった。
そして、朝になってから遅い自己紹介をし合い、彼女が ロウェナ という名前だと知ったのだった。

「ただいまぁ...」
「おじゃまします〜」

で、そのロウェナ(服も込みの人間態に変身中)を連れて帰ってきたところ、ロウェナの声を聞きつけた父と母が、家の奥から飛び出してきた。

「マサト...そのお嬢さんはどちら様だ?」
「初めまして♪ 昨日、息子さんと将来を誓い合いました、ロウェナと申します。お義父様、お義母様、末永くよろしくお願いいたします♪」
「はっ、はじめまして......じゃない!! マサト!! どこだ!! どこでこのお嬢さんをたぶらかした!!」
「首はやめろ!! 首は...」

何を血迷ったか、父親が首を締め締めてようとしてきた。

慌てて逃げる俺。
間に割って入るロウェナ。
そして、父の首に手刀を落として鎮圧した母。

「お父さんは落ち着きなさい!! 浮いた話が無かったマサトが、ナンパとは言え、こんな可愛らしい女の子をモノにできたのよ!? ここは赤飯炊いてあげたり、喜んだりするところでしょ!!」

ナンパじゃないっすよぉ...。
...ナンパより外法な手段を使ったけどさ...。

床に伏した父親をよそに、母はロウェナの両手を握った。

「お嬢さん、うちの息子は馬鹿で器量もよくない子ですが、人一倍優しいいい子です...。末永く、末永くよろしくお願いしますね?」
「はい、お義母様♪ 私にお任せ下さい♪」

...すげぇな、もう仲良くなった。

そんな珍奇な光景を見ていると、おみくじの内容が頭をよぎった。

待人:胡散臭く見えるが、それを信じるべし
売買:高くなければ買ったほうがいい
縁談:いきなりやってくる

...もう三つが当たってしまった。
あと残るのは子宝...。

子宝:出世し、孝行する

......。
子供ができるのも時間の問題ってか?

そんなことを考えていると、ロウェナが話しかけてきた。

「マサトさん、お義母様から台所をお借りして朝ごはんをお作りしますが、何か食べたいものはありますか?」
「う〜、ロウェナの一番得意な料理が食べたいな」
「分かりました♥ では、先にお席についていて下さい♥」
「はーい」

返事を返し、台所の食帯に着く。
食卓に着き、異世界出身のはずなのに、鼻歌を歌いながら料理するロウェナを見て、あのセールスマンを信じて本当に良かった...と、思うのだった。



――――――――――――

密かにこの世界にやってきては、魔物娘なる存在を召喚するカードを売りさばいている売人たちがいる。
その売人が、次にカードを売るのは誰なのか。
もしかしたら、それはあなたかもしれない。
15/09/16 09:04更新 / 妖怪人間ボム
戻る 次へ

■作者メッセージ
ドーモ、妖怪人間ボムです。

ぷいぷいさんのパーラーシリーズを読んでいるうちに、「自分にも書けるかな?」と思い立って書いてみたのですが、下位互換にもならない出来となっていまいました。

一応連載にしますが、正直言って、好評になるとは思えないです...。

泣き言もさておき、面白いと思ったら、コメントをくださると嬉しいです。

それでは、次回もよろしくお願いします。
では〜。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33