ヘルタースケルター
ジョーダンじゃない!
こう毎日毎日ストーカーに遭ってんじゃタマんないわ!!
家に帰って、発売日に開店直後の本屋で買った小説を読み切っていないのだ!
相手が人間女だろうが魔物娘だろうが、俺の至福の時間は邪魔させてたまるか!
脚の回転数を上げる、上げる。
しかし敵(=ストーカー)もさるもの。
振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けている...。
今読んでいる小説を読み切らんことには、人生の墓場的に死んでも死にきれない。
読む暇がなくなってしまうからだ。
...本当に毎日毎日、出勤と退勤時にツケてくるとかなんだんだろうか。
社会人じゃないから、そんな時間を確保できるのかもしれない...。
本当にとんでもないやつだ...。
今日も何とか家までたどり着くことに成功した。
さっさとシャワーを浴び、軽く夕飯と摂り、自分は狭い部屋にある数少ない家具であるベッドに腰かける。
そして、コーヒーをお供に、尊敬している...作家である『喜代 半兵衛』先生作のポルノ小説を読み始めた...(余談だが、先生の作品はすべて所持して読了している)。
ベッドに腰かけ、お気に入りの銘柄のコーヒーをお供に、尊敬してやまない小説家の作品を読む。
これぞ人生最大の至福である、異論は認めない。
今読んでいる作品は、魔物差別主義者の男と白蛇の上司の話であった。
ちょうど白蛇の上司に押し倒され、相手が上司故に逆らえない部下の濡れ場である。
「<『あっ、今お腹の中で何がおきているかわかる? あなたのよわよわ精子と白蛇のつよつよ卵子が合体しちゃったわ......♥ あなたと私の遺伝子が混ざっちゃったのよ♥』>
<『そんな......それじゃあ、ボクの人間遺伝子は永遠に魔物の遺伝子としてこの世に残ってしまう...!』>」
半兵衛先生の作品はいつも淫語がぶっ飛んでいる...。
それも先生の作品が好きな理由の一つだ。
淫語というのは、言う側に相応の語彙がないと締まらないのだ、と高校生の時の国語の先生(白澤)が言っていた。
『バカでは淫語は使いこなせないのだ』とも、その国語の先生は言っていたのだ。
大人になって魔物娘とその夫の結婚記念AVを何本か見たことがある。
しかし、淫語を使いこなすほど語彙を多く持った者はだれ一人としていなかった。
そんな中、自分はあるポルノ小説を立ち読みした、それが半兵衛先生の作品だった。
先生の作品は実に淫語に力を注いでいて『頭がおかしかった』。
だが、それが自分の琴線に触れた。
その日店にあった半兵衛先生の作品を全部購入し、店に置いていなかった作品はAmazonesで取り寄せた。
それからというもの先生の小説は発売日に本屋の開店時間に合わせて買いに行くようにしていた。
だが、身を固めてしまっては、そんな大好きな小説を読む時間が無くなってしまうではないか。
先生が現役で物書きをしている間は結婚などしない、それが自分の選んだ道であった。
「クビ...ですと...!?」
「本当に言いづらいことなんだけどね......」
部長が苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
なんでも自分の勤めている会社は事業を縮小することになったらしく、その一環の人員整理で解雇者がピックアップされたらしい。
そのピックアップされた者に、自分がいたわけだ。
「本当に私としても苦しいことなんだけどね......なぜか君の名前がリストにあってね...」
権力に逆らったところで不毛でしかない。
「......わかりました...」
そう言って本日の業務...業務引き継ぎ書を書きにかかった。
引き継ぎ書を作成している最中、ずっと考えていた。
・帰る家(アパート・借家)があるだけマシだが、それも家賃が払えなくなる
・自分は田舎から都会に出てきた身、頼れる人なんてここにはないない。
・自分はどちらかというと友達を作るのが苦手で、さっと会って身を寄せさせてくれる友達はいない
・それに大好きな半兵衛先生の本だって購入する資金のアテがなくなった
......ぐぬぬぬぬぬぬっ!!
心の中で悶え叫んだ。
本当に助けてくれそうなアテなんていな...
......んっ?
いるじゃないか、助けてくれそうな『アテ』が。
自分の心の中に生まれた悪魔は、『あいつ』を頼っちまえ!! ...と、自分の中で声を張り上げていた...。
そして帰り道。
日もすっかり沈んだ帰り道。
(おおっ、いるいる、いつものアイツが...)
いつものように帰っていると、例のあいつが、振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けていた...。
自分は腹をくくって、足を止めた。
「オイッ!!」
大声でストーカーに呼びかける。
いきなりのことに『ガタッ!!』」と背後で大きな音がした。
「お前に頼みがある!!」
「.........」
奴は様子をうかがっているらしい。
そりゃそうだ、ストーカーに頼みごとをするストーカー被害者なんて前代未聞だからだ。
スゥッと息を吸って、奴に呼びかけた。
「俺を養ってくれ!!」
そのやつでも予想できないであろうセリフが飛び出した途端、背後で
ドンガラガッシャーン!!
..と、大音量で何かが崩れる音。
振り向くとそこには、
「痛たたた......」
ゴミ置き場にあったゴミに下敷きになったバジリスクさんがおりましたとさ......。
「どうぞ...」
「どうも......」
崩れたゴミからストーカーを助け出してやると、
「ひとまず...ついてきてください...」
...と、消え入りそうな小さい声を絞り出して、手を引いて来るストーバジリスク。
これからのこともあるため、ひとまずコイツに連れていかれることにしたのだが...。
なんとでっかい邸宅に連れていかれました。
その邸宅に入り、応接間で最初にコーヒーを出されてから、自分の向かいの席にて、一言もしゃべらないバジリスク。
せめてなんかしゃべってくださいよ......。
どうしたものかと思っていると...
「ちょっと、待ってて......」
おもむろに上着のポケットから取り出した携帯電話でどこかにメールかなんかで連絡をし始めたバジリスク。
その数分後...
「半兵衛せんせー、時間外労働もなんてひどいですよッ、私が万年独り身だからいいものを......んんっ!?」
応接間に出現した魔法陣から出てきたのはアヌビスだった。
自分とバジリスクを交互に連続して目を向けていたら...
「......やったじゃないですか、やっと先生にも春が来たんですねーっ!!」
などと大騒ぎし始めたアヌビス。
話が見えてこない...。
「あぁ、申し遅れました、私、中学館出版社の者で、先生の担当をやっています、はい名刺」
受け取った名刺は中学館という、だいぶ聞き覚えのある出版社の者であると書いていた。
「んで、ここにいるバジリスクさんは......『喜代 半兵衛』というペンネームでポルノ小説作家をやっている女性です。 半兵衛先生はずっと意中の人がいたんですが、声を掛けることができないと散々ボヤいていたんですよ。 それが今日...なんと声かけて一発で連れ込むとか、このこのッ!!」
声かけたのは自分だけどね...。
えらくテンションが高いアヌビスからバジリスクに視線を向けると、真っ赤になって顔を両手で覆っていた。
「というわけでだいたいの説明は済んだでしょうし、あとはお若い二人だけにしましょうかね、ふふふふふ......」
そう言い残してアヌビス担当は最後までふふふふふ......と笑いながら、転送用魔法陣へと消えていった。
いやいやいや、まてまてまてまて。
目の前にいるこいつが、あの喜代半兵衛先生...だと...。
「あなたが、本当にッ半兵衛先生だというなら、証明して見せろ」
「......」ビクッ
両手で顔を覆っていてもそこはバジリスク、手に取るように外部の様子が分かるだろうし、今自分がどんな顔をしているかもわかっているだろう。
「問題ッ! これのあとの一文を言ってみろッ!
<水面ギリギリでタオルを腰に巻き、暖簾を見に行く。
そこには、赤い暖簾で、『女湯』と書いてあった。
全身から、血の気が引いていく。>ッ!!」
...ふふふ、先生の作品ではなかなかにメジャーなやつだ、これくらい応えてもらわないと困る。
「......こっ...
<ここで、女将さんの言葉と様子を思い出す。
『男湯』と『女湯』は絶対に間違えないでくださいねぇ?
もし、間違えても、うちらは一切、一切責任を負いませんので、悪しからず
そして、口がニタリと歪んでいた。
こういうことかァァァァァァッ!!!
つーかけしかけたろ!!!>......」
「...正解だ」
こやつ、なかなかやるな...
「では2問目、 先生の作品...短編で魔物娘にチンコを見せたやつがある! その時、ダークエルフはどういうリアクションをした!?」
「......スマホを、取り出した...そして、通報されたくなかったら、自分の言うことを聞けと脅迫した。 ......最初に命じたことは、そこに座って椅子になること、です...」
「正解だ...くっ......」
認めざるを得ないが、こいつは喜代半兵衛先生で間違いないんだろう...。
憧れの作家にストーカーされていたという衝撃の事実に、頭が現実を拒否し始めた。
「...や...やっぱり、本当...に......」
消え入りそうな声で自分から声を出し始めたバジリスク......もとい、半兵衛先生。
「...本当に、私の作品を、気に入ってくれているんですね...。 あの日、見たんです......」
「あの日...?」
先生のいう『あの日』とはなんなのだろうか。
「とある書店で、私の小説が並んでいる棚の前に、あなたがいるのを見たんです......。 しばらく立ち読みしていたあなたは、その棚にあった分をすべて買っていってくれました......」
「......!」
その日のことは、昨日の事のように覚えている...!
「それに、最近も発売日に休みをとって、朝一で新作を買いに来てくれました、よね...?」
「魔物娘差別主義者の男と、その上司の白蛇の話...!!」
「...! なん...で...!」
なんてこった、彼女はモノスゲーイところで自分と接点があったのか(一方的だけど)
ということは、もうずいぶん前から、運命が決まっていたんじゃないか...!!
呆然としている自分のスーツの袖を、そっと掴んでくる半兵衛先生...。
「私に養われるなら、条件があります...。
まず、私に永久就職すること...。 仕事内容な主夫業です...。
次に、私の執筆活動の『お手伝い』をしてください...。 作品のリアリティを増すためのお手伝いです...。
三つ目、私の性欲処理も業務に含めます、拒否権はありません...
その上で、『給料』は今の仕事の5倍までは検討します...!」
「乗った」
即答でした。
ポポポポッと肌の赤さを増す先生。
「だったら......ちょっと今から、『お手伝い』してください...もうちょっとでアイデアが出そうなんですけど、出ないんです...少し刺激があればでるかもしれなくて......」
「承りました」
即答でした。
ぱっちゅ、ぱっちゅ...
自分は先生の寝室で、件の『お手伝い』をしていた。
「<『あっ、ダメですっ...それだけは...っ』>」
「<『ダメ? ナニがダメなのです? あなたのペニスは私の中でビクンビクと喜びに飛び跳ねていますよ?』>......」
「<『あっ、あーーーーッ!!!』>」
先生と自分は、最新作の...魔物娘差別主義者の男と白蛇の上司の話のセリフを言い合いながら、 そのシチュエーションの通りに体を重ねていた。
ちょうど、登場人物の男が射精するタイミングで、自分も先生の中に白濁と化した情念を吐き出していた。
作中の白蛇上司と違い、先生は自分の耳元でポソポソと囁くだけだったが、それがまた心地よかった。
こんな、こんな、憧れのポルノ小説作家に、作品を同じセリフを言われながら抱かれる男なんて、世界広しいえども自分だけではなかろうか。
「あっ、今、私お腹の中で何がおきているかわかりますか? あなたの精子とバジリスクの卵子が合体しちゃいました......♥ あなたと私の遺伝子が......混ざっちゃっいましたよ......♥」
「<『そんな......それじゃあ、ボクの人間遺伝子は』>...って、それ作品のセリフ通りじゃないじゃないですか」
と思っていたら、作家自らその流れを打ち破ってきた。
「ふふふ......遺伝子レベルで相性がいいせいか......本当に混ざっちゃったみたいですね......」
なんということでしょう......。
ヒモとしての寄生先が見つかった初日で、そのヒモ付きを孕ませてしまうとは。
あーどうしよう...と思っていると先生は、さっきまでの『お手伝い』で取っていなかったマスクを外して放り投げた。
マスクを放り投げるや否や、こちらの頭部を両手でつかんで、強行で視線を合わせてきた!
バジリスクの眼は魔眼である、その邪視は相手を弛緩させて身動きが取れなくし、思考を鈍らせ、恍惚で満たし、体を発情させ、火照らせ、トドメに体内の精を変質させ、非常に体外に排出されやすくしてしまう。
さっき一度射精したのにも関わらず、間を置いていないにもかかわらず、二度目の白濁の本流を先生の中へと迸らせた。
ビクン、ビクン。
大きく痙攣する自分と先生。
大きく息を吐く自分の耳元で、先生がつぶやいた。
「次の、新作は...私を同じバジリスクで行こうと思ってるんです......。 でもバジリスクの魔眼を使ったことがないので、リアルではどうなるのか知らなくて......。 だから、処女もらったついでだと思って、魔眼の効力の実証をさせてください...!」
それって死んじゃうやつ(死にません)......。
先生はこちらの唇を自分の唇と舌でこじ開け、その口内の潤いをこちらの口内へと流し込んできた。
同時に、上に位置したままの先生は腰を大きく叩きつけてきた。
びゅるるるる。
面と向かって一日も経っていない相手に白濁を流し込むこと、本日三回目。
先生の『お手伝い』はハードワークだと確信してしまった。
「うーん...神が下りてこない......」
「そういうこともあるでしょう、はいコーヒー」
「ありがとうございます...。 あっ、ミルクを忘れています」
「はいはい」
自分はジーンズのベルトを緩めると、先生の愛用マグカップに向けてペニスを差し出した。
先生はすっかり慣れた手つきでペニスをしごき、精液を発射させる。
そして、スプーンをかき混ぜて、精液入りのコーヒーをまず一口、ごくりと飲んだ。
あれから、先生の寝室とは別に、書斎にもベッドが追加された。
なんでも、これからはベッドインの最中に沸いたアイデアを、すぐ形にできる体制にしたいんだとか。
「降りてこないなら、早めの『お昼ご飯』にしましょう、ちゃんと『ご飯』摂らないと、お腹の子供に怒られちゃいますよー」
「そうだね...お昼にしようかー......」
件の小説の通り、先生のお腹の中には自分たちの赤ちゃんがいる...。
事実は小説より奇なり、という言葉が人生で最も身近な時間だろう。
「『お昼』は書斎で?」
「うん...アイデアはいつ降ってくるかわからないし...」
服脱がす時間なんて持ったいねぇ!! とばかりに素っ裸になる先生。
その子供を宿した美裸体は、とてもとても美しかった。
「今日のお昼は...途中まで書いた新作の通りシようか...」
「了解です」
キツイと思うこともあるけど、ある瞬間にはすぐに忘れてしまう。
世界一の先生のファンとして、まだ『世に出回っていない新作を独り占め』できるんですからね!
fin.
「それにしても先生、同居するようになってから、リアルでのセックスで情緒なくなりましたね...」
「...うるさい」
こう毎日毎日ストーカーに遭ってんじゃタマんないわ!!
家に帰って、発売日に開店直後の本屋で買った小説を読み切っていないのだ!
相手が人間女だろうが魔物娘だろうが、俺の至福の時間は邪魔させてたまるか!
脚の回転数を上げる、上げる。
しかし敵(=ストーカー)もさるもの。
振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けている...。
今読んでいる小説を読み切らんことには、人生の墓場的に死んでも死にきれない。
読む暇がなくなってしまうからだ。
...本当に毎日毎日、出勤と退勤時にツケてくるとかなんだんだろうか。
社会人じゃないから、そんな時間を確保できるのかもしれない...。
本当にとんでもないやつだ...。
今日も何とか家までたどり着くことに成功した。
さっさとシャワーを浴び、軽く夕飯と摂り、自分は狭い部屋にある数少ない家具であるベッドに腰かける。
そして、コーヒーをお供に、尊敬している...作家である『喜代 半兵衛』先生作のポルノ小説を読み始めた...(余談だが、先生の作品はすべて所持して読了している)。
ベッドに腰かけ、お気に入りの銘柄のコーヒーをお供に、尊敬してやまない小説家の作品を読む。
これぞ人生最大の至福である、異論は認めない。
今読んでいる作品は、魔物差別主義者の男と白蛇の上司の話であった。
ちょうど白蛇の上司に押し倒され、相手が上司故に逆らえない部下の濡れ場である。
「<『あっ、今お腹の中で何がおきているかわかる? あなたのよわよわ精子と白蛇のつよつよ卵子が合体しちゃったわ......♥ あなたと私の遺伝子が混ざっちゃったのよ♥』>
<『そんな......それじゃあ、ボクの人間遺伝子は永遠に魔物の遺伝子としてこの世に残ってしまう...!』>」
半兵衛先生の作品はいつも淫語がぶっ飛んでいる...。
それも先生の作品が好きな理由の一つだ。
淫語というのは、言う側に相応の語彙がないと締まらないのだ、と高校生の時の国語の先生(白澤)が言っていた。
『バカでは淫語は使いこなせないのだ』とも、その国語の先生は言っていたのだ。
大人になって魔物娘とその夫の結婚記念AVを何本か見たことがある。
しかし、淫語を使いこなすほど語彙を多く持った者はだれ一人としていなかった。
そんな中、自分はあるポルノ小説を立ち読みした、それが半兵衛先生の作品だった。
先生の作品は実に淫語に力を注いでいて『頭がおかしかった』。
だが、それが自分の琴線に触れた。
その日店にあった半兵衛先生の作品を全部購入し、店に置いていなかった作品はAmazonesで取り寄せた。
それからというもの先生の小説は発売日に本屋の開店時間に合わせて買いに行くようにしていた。
だが、身を固めてしまっては、そんな大好きな小説を読む時間が無くなってしまうではないか。
先生が現役で物書きをしている間は結婚などしない、それが自分の選んだ道であった。
「クビ...ですと...!?」
「本当に言いづらいことなんだけどね......」
部長が苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
なんでも自分の勤めている会社は事業を縮小することになったらしく、その一環の人員整理で解雇者がピックアップされたらしい。
そのピックアップされた者に、自分がいたわけだ。
「本当に私としても苦しいことなんだけどね......なぜか君の名前がリストにあってね...」
権力に逆らったところで不毛でしかない。
「......わかりました...」
そう言って本日の業務...業務引き継ぎ書を書きにかかった。
引き継ぎ書を作成している最中、ずっと考えていた。
・帰る家(アパート・借家)があるだけマシだが、それも家賃が払えなくなる
・自分は田舎から都会に出てきた身、頼れる人なんてここにはないない。
・自分はどちらかというと友達を作るのが苦手で、さっと会って身を寄せさせてくれる友達はいない
・それに大好きな半兵衛先生の本だって購入する資金のアテがなくなった
......ぐぬぬぬぬぬぬっ!!
心の中で悶え叫んだ。
本当に助けてくれそうなアテなんていな...
......んっ?
いるじゃないか、助けてくれそうな『アテ』が。
自分の心の中に生まれた悪魔は、『あいつ』を頼っちまえ!! ...と、自分の中で声を張り上げていた...。
そして帰り道。
日もすっかり沈んだ帰り道。
(おおっ、いるいる、いつものアイツが...)
いつものように帰っていると、例のあいつが、振り向けばそこにいそうな気配をキープし続けていた...。
自分は腹をくくって、足を止めた。
「オイッ!!」
大声でストーカーに呼びかける。
いきなりのことに『ガタッ!!』」と背後で大きな音がした。
「お前に頼みがある!!」
「.........」
奴は様子をうかがっているらしい。
そりゃそうだ、ストーカーに頼みごとをするストーカー被害者なんて前代未聞だからだ。
スゥッと息を吸って、奴に呼びかけた。
「俺を養ってくれ!!」
そのやつでも予想できないであろうセリフが飛び出した途端、背後で
ドンガラガッシャーン!!
..と、大音量で何かが崩れる音。
振り向くとそこには、
「痛たたた......」
ゴミ置き場にあったゴミに下敷きになったバジリスクさんがおりましたとさ......。
「どうぞ...」
「どうも......」
崩れたゴミからストーカーを助け出してやると、
「ひとまず...ついてきてください...」
...と、消え入りそうな小さい声を絞り出して、手を引いて来るストーバジリスク。
これからのこともあるため、ひとまずコイツに連れていかれることにしたのだが...。
なんとでっかい邸宅に連れていかれました。
その邸宅に入り、応接間で最初にコーヒーを出されてから、自分の向かいの席にて、一言もしゃべらないバジリスク。
せめてなんかしゃべってくださいよ......。
どうしたものかと思っていると...
「ちょっと、待ってて......」
おもむろに上着のポケットから取り出した携帯電話でどこかにメールかなんかで連絡をし始めたバジリスク。
その数分後...
「半兵衛せんせー、時間外労働もなんてひどいですよッ、私が万年独り身だからいいものを......んんっ!?」
応接間に出現した魔法陣から出てきたのはアヌビスだった。
自分とバジリスクを交互に連続して目を向けていたら...
「......やったじゃないですか、やっと先生にも春が来たんですねーっ!!」
などと大騒ぎし始めたアヌビス。
話が見えてこない...。
「あぁ、申し遅れました、私、中学館出版社の者で、先生の担当をやっています、はい名刺」
受け取った名刺は中学館という、だいぶ聞き覚えのある出版社の者であると書いていた。
「んで、ここにいるバジリスクさんは......『喜代 半兵衛』というペンネームでポルノ小説作家をやっている女性です。 半兵衛先生はずっと意中の人がいたんですが、声を掛けることができないと散々ボヤいていたんですよ。 それが今日...なんと声かけて一発で連れ込むとか、このこのッ!!」
声かけたのは自分だけどね...。
えらくテンションが高いアヌビスからバジリスクに視線を向けると、真っ赤になって顔を両手で覆っていた。
「というわけでだいたいの説明は済んだでしょうし、あとはお若い二人だけにしましょうかね、ふふふふふ......」
そう言い残してアヌビス担当は最後までふふふふふ......と笑いながら、転送用魔法陣へと消えていった。
いやいやいや、まてまてまてまて。
目の前にいるこいつが、あの喜代半兵衛先生...だと...。
「あなたが、本当にッ半兵衛先生だというなら、証明して見せろ」
「......」ビクッ
両手で顔を覆っていてもそこはバジリスク、手に取るように外部の様子が分かるだろうし、今自分がどんな顔をしているかもわかっているだろう。
「問題ッ! これのあとの一文を言ってみろッ!
<水面ギリギリでタオルを腰に巻き、暖簾を見に行く。
そこには、赤い暖簾で、『女湯』と書いてあった。
全身から、血の気が引いていく。>ッ!!」
...ふふふ、先生の作品ではなかなかにメジャーなやつだ、これくらい応えてもらわないと困る。
「......こっ...
<ここで、女将さんの言葉と様子を思い出す。
『男湯』と『女湯』は絶対に間違えないでくださいねぇ?
もし、間違えても、うちらは一切、一切責任を負いませんので、悪しからず
そして、口がニタリと歪んでいた。
こういうことかァァァァァァッ!!!
つーかけしかけたろ!!!>......」
「...正解だ」
こやつ、なかなかやるな...
「では2問目、 先生の作品...短編で魔物娘にチンコを見せたやつがある! その時、ダークエルフはどういうリアクションをした!?」
「......スマホを、取り出した...そして、通報されたくなかったら、自分の言うことを聞けと脅迫した。 ......最初に命じたことは、そこに座って椅子になること、です...」
「正解だ...くっ......」
認めざるを得ないが、こいつは喜代半兵衛先生で間違いないんだろう...。
憧れの作家にストーカーされていたという衝撃の事実に、頭が現実を拒否し始めた。
「...や...やっぱり、本当...に......」
消え入りそうな声で自分から声を出し始めたバジリスク......もとい、半兵衛先生。
「...本当に、私の作品を、気に入ってくれているんですね...。 あの日、見たんです......」
「あの日...?」
先生のいう『あの日』とはなんなのだろうか。
「とある書店で、私の小説が並んでいる棚の前に、あなたがいるのを見たんです......。 しばらく立ち読みしていたあなたは、その棚にあった分をすべて買っていってくれました......」
「......!」
その日のことは、昨日の事のように覚えている...!
「それに、最近も発売日に休みをとって、朝一で新作を買いに来てくれました、よね...?」
「魔物娘差別主義者の男と、その上司の白蛇の話...!!」
「...! なん...で...!」
なんてこった、彼女はモノスゲーイところで自分と接点があったのか(一方的だけど)
ということは、もうずいぶん前から、運命が決まっていたんじゃないか...!!
呆然としている自分のスーツの袖を、そっと掴んでくる半兵衛先生...。
「私に養われるなら、条件があります...。
まず、私に永久就職すること...。 仕事内容な主夫業です...。
次に、私の執筆活動の『お手伝い』をしてください...。 作品のリアリティを増すためのお手伝いです...。
三つ目、私の性欲処理も業務に含めます、拒否権はありません...
その上で、『給料』は今の仕事の5倍までは検討します...!」
「乗った」
即答でした。
ポポポポッと肌の赤さを増す先生。
「だったら......ちょっと今から、『お手伝い』してください...もうちょっとでアイデアが出そうなんですけど、出ないんです...少し刺激があればでるかもしれなくて......」
「承りました」
即答でした。
ぱっちゅ、ぱっちゅ...
自分は先生の寝室で、件の『お手伝い』をしていた。
「<『あっ、ダメですっ...それだけは...っ』>」
「<『ダメ? ナニがダメなのです? あなたのペニスは私の中でビクンビクと喜びに飛び跳ねていますよ?』>......」
「<『あっ、あーーーーッ!!!』>」
先生と自分は、最新作の...魔物娘差別主義者の男と白蛇の上司の話のセリフを言い合いながら、 そのシチュエーションの通りに体を重ねていた。
ちょうど、登場人物の男が射精するタイミングで、自分も先生の中に白濁と化した情念を吐き出していた。
作中の白蛇上司と違い、先生は自分の耳元でポソポソと囁くだけだったが、それがまた心地よかった。
こんな、こんな、憧れのポルノ小説作家に、作品を同じセリフを言われながら抱かれる男なんて、世界広しいえども自分だけではなかろうか。
「あっ、今、私お腹の中で何がおきているかわかりますか? あなたの精子とバジリスクの卵子が合体しちゃいました......♥ あなたと私の遺伝子が......混ざっちゃっいましたよ......♥」
「<『そんな......それじゃあ、ボクの人間遺伝子は』>...って、それ作品のセリフ通りじゃないじゃないですか」
と思っていたら、作家自らその流れを打ち破ってきた。
「ふふふ......遺伝子レベルで相性がいいせいか......本当に混ざっちゃったみたいですね......」
なんということでしょう......。
ヒモとしての寄生先が見つかった初日で、そのヒモ付きを孕ませてしまうとは。
あーどうしよう...と思っていると先生は、さっきまでの『お手伝い』で取っていなかったマスクを外して放り投げた。
マスクを放り投げるや否や、こちらの頭部を両手でつかんで、強行で視線を合わせてきた!
バジリスクの眼は魔眼である、その邪視は相手を弛緩させて身動きが取れなくし、思考を鈍らせ、恍惚で満たし、体を発情させ、火照らせ、トドメに体内の精を変質させ、非常に体外に排出されやすくしてしまう。
さっき一度射精したのにも関わらず、間を置いていないにもかかわらず、二度目の白濁の本流を先生の中へと迸らせた。
ビクン、ビクン。
大きく痙攣する自分と先生。
大きく息を吐く自分の耳元で、先生がつぶやいた。
「次の、新作は...私を同じバジリスクで行こうと思ってるんです......。 でもバジリスクの魔眼を使ったことがないので、リアルではどうなるのか知らなくて......。 だから、処女もらったついでだと思って、魔眼の効力の実証をさせてください...!」
それって死んじゃうやつ(死にません)......。
先生はこちらの唇を自分の唇と舌でこじ開け、その口内の潤いをこちらの口内へと流し込んできた。
同時に、上に位置したままの先生は腰を大きく叩きつけてきた。
びゅるるるる。
面と向かって一日も経っていない相手に白濁を流し込むこと、本日三回目。
先生の『お手伝い』はハードワークだと確信してしまった。
「うーん...神が下りてこない......」
「そういうこともあるでしょう、はいコーヒー」
「ありがとうございます...。 あっ、ミルクを忘れています」
「はいはい」
自分はジーンズのベルトを緩めると、先生の愛用マグカップに向けてペニスを差し出した。
先生はすっかり慣れた手つきでペニスをしごき、精液を発射させる。
そして、スプーンをかき混ぜて、精液入りのコーヒーをまず一口、ごくりと飲んだ。
あれから、先生の寝室とは別に、書斎にもベッドが追加された。
なんでも、これからはベッドインの最中に沸いたアイデアを、すぐ形にできる体制にしたいんだとか。
「降りてこないなら、早めの『お昼ご飯』にしましょう、ちゃんと『ご飯』摂らないと、お腹の子供に怒られちゃいますよー」
「そうだね...お昼にしようかー......」
件の小説の通り、先生のお腹の中には自分たちの赤ちゃんがいる...。
事実は小説より奇なり、という言葉が人生で最も身近な時間だろう。
「『お昼』は書斎で?」
「うん...アイデアはいつ降ってくるかわからないし...」
服脱がす時間なんて持ったいねぇ!! とばかりに素っ裸になる先生。
その子供を宿した美裸体は、とてもとても美しかった。
「今日のお昼は...途中まで書いた新作の通りシようか...」
「了解です」
キツイと思うこともあるけど、ある瞬間にはすぐに忘れてしまう。
世界一の先生のファンとして、まだ『世に出回っていない新作を独り占め』できるんですからね!
fin.
「それにしても先生、同居するようになってから、リアルでのセックスで情緒なくなりましたね...」
「...うるさい」
19/09/06 21:42更新 / 妖怪人間ボム