読切小説
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この世に生まれたことが、消えない罪というなら
つらい。

自分は昔ながらの全身タイツにマントというヒーロースーツに身を包んで街を見回っている者だ。

この世界は、人類の8割が特殊な能力を保有する超人時代となった。
だが、超人と言ってもピンからキリまで存在するわけで。
例えば、悪事を働く者を捕縛する職業として『ヒーロー』が市民権を持ち始めた。

そう、『ヒーロー』。
自分もヒーローなのだが、すっごい力を持っているものの、活躍の場に恵まれない典型的な日陰者であった。
その街頭に設置された巨大なモニターに映るトップヒーローの映像を見て、内心血涙を流した。

「くっそー...ワタシだってヒーローなんだぞ。 すっげぇパワー持ってるんだぞ...」

自分は『ネイキッド』という名前でヒーローをやっているのだが、表立って使える能力じゃないために活躍できない負の連鎖に陥るというタイプなのだった。
あぁ、なんてこんな生きづらい能力を持って生まれたんだろう。
能力は遺伝するモノである故に、初代を恨むしかできなかった。

「キャー、現金輸送車が強奪されたわー!!」

その時悲鳴が聞こえる。

「待っていろ、ワタシが征く!!」

素の状態でも『それなり』の能力は使えるので、何とか現金輸送車の奪還を試みる。
しかし。

「あばよーあんちゃん、これでも喰らえ!!」

拳銃を撃ってくる、しかし拳銃くらいなら...ッ!
しかし、強盗団一味の一人が撃ってきたのは

「アンチマテリアルライフル!!?」

自分は一撃で脳天をふっ飛ばされて死亡した...。








「おーい、大丈夫?」
「んぁっ...。 ここは...それにお前は...」

自分は宇宙空間のような場所で、光り輝く玉と対峙していた。

「あー、私は神だ」
「......はぁ」
「いや、こういうビジュアルの方が分かりやすいかと思ってね?」
「はぁ」

確実にさきほど頭をふっ飛ばされて自分は死亡したのだ。
だから神と対峙していても不思議じゃない(?)

「私はさー、お前みてーなさー、生まれる世界を間違えたやつをこうやって生まれるべき世界に転送する役目の神なわけよ」
「はぁ」
「お前もそうなわけ、一応神々の不手際の結果こうなってるから、死ぬ前のステータスと記憶を全部持っていける。 今ならキャンペーン中で特殊な能力もつけてます」
「.........うさんくせぇ!!」
「よくいわれる」

特殊能力ねぇ....

「そういう特殊な能力ならもうあるけど」
「だったら、『その能力の欠点を埋めたり補助する能力』を持って行かないか?」
「...まぁそれなら...」
「よろしい!」

「ヒーロー・ネイキッドを異世界へ転送するとする!!」

自分は神を自称する光の玉が発した強烈なフラッシュに包まれた!!




気付けば、自分は大勢の人間の前にある、魔法陣の上に存在していた。

「勝ったぞ、この戦い、我々の勝利だ!」

その人間たち...昔のキリスト教の神官のような人間たちは自分を見て、何者かとの戦いの勝利を確信していた。


「さぁさぁ、勇者様、異世界からお越しになってから間もないでしょうが...」
「勇者? ワタシが?」
「左様でございます」
「...状況がよく見えないから説明をしてくれ」

一連の説明で、自分は異世界に来たこと、勇者として教団とかいう組織に呼ばれたこと、人類の不倶戴天の敵『魔物』との戦いに参加してほしいこと...を告げられた。

アイツ(光の玉)が言っていたことは事実だったらしい、疑って悪かった神...。

それに、人類の敵との戦い...。
さっそく『ヒーロー』としての活躍の場に恵まれそうだ...!!

「ならばさっそく行こうじゃないか!」
「おおっ、早速行ってくれるのですか!!」
「ああ」
「それはありがたい!! ...ですが...」
「?」

神官は指示して持ってこさせたものを、恐る恐る差し出す。

「まずはその全身にピッチリとしておられるお召し物をどうにか...」
「...これか」

どうしろっていったって、これがヒーローとしての正装なんだから...うわっ!!

服をどうにかしないとと思った瞬間、自分の体中の関節部分からオーラのようなものが噴き出して、それが全身を覆い、彼らの着ているような服へと変貌した!!

「おおっ、さすがは勇者様。 服すら自前でどうにかするとは...」

あの神が言っていた能力とはこういうことか...。
だとすればもしかすると...。






「...............あれが魔物か?」
「はい、魔物です」
「どう見ても女の子じゃねーか!!」

意気揚々と戦場へやってきて、砦の上から見下ろしているものの、相手の魔物の兵士は全員が女の子ばかりであった!!
これでは戦えない!!
人間側の兵士は、そんなかわいらしい女の子とガチで戦っていた。

「あの者どもはあのような見目麗しい貌で、人を喰らうのです」
「...人を喰うのか」
「その通りです」

そう、なのかー...。
気乗りしないなー...っていうか、こいつらどこまで本当のこと言ってるのか...。

自分は唸る。
このような場合、『ヒーロー』としてするべきことは一つ。

「敵の大将はどこにいる?」
「大将ですか? おい、大将はどこだ」
「......おそらく、あそこに」

神官のどつきに軍師が東を指さした。

「敵の本陣はわかった! よし、行ってくる!」
「えっ、行ってくるって...」

自分はいつもの感覚で、手足の布を引きちぎってから、『自分がもっていた本来の能力』を起動する。
その瞬間、自分中肉中背の体は身長が2m半ほどに伸び、それに合わせて筋肉ががっしりとついた!!

「行ってくる」
「......行ってらっしゃいませ」

その変貌に教団の人間は大いに困惑していた。

ワタシは要塞の壁を思いっきり蹴って、大ジャンプをすると、戦場に点在する開いた人も魔物もいないスペースに着地し、11回のジャンプで魔物の本陣へと切り込んだ!!




―――――――――――――――――――――――――

テントを張って中であれこれ作業をしている魔物娘たち。

「私が出張った方がいいころ合いかしら...」

白髪に赤眼の悪魔...リリムは頭を抱えていた。
それもそのはず、今攻めている要塞は教団の盾と言われるほどの堅牢さを誇っているのだ。
リリムが攻めれば無血開城もできるかもしれないが、その姿を見たことで一時的に魅了してしまうため、兵士たちの夫探しが遠回りになってしまう。

(どうすれば...)

リリムが頭を抱えていると...。

「リリムささまー! 勇者が本陣に切り込んできました!!」

突然の勇者の襲撃。

「早くない!?」
「それが...」
「それが...?」

配下のデーモンが困惑している。
それもそのはず...

「どうも、ワタシが勇者とかいうもんだ」
「!!!?」

勇者って、魔物娘に対してこんなフランクなもんだっけ?
それに全身タイツにマント...。

「勇者だなんだって言うのはアイツらが勝手に言ってることだ。 ワタシはワタシ自身の考えを確かめに来た」
「自分自身の考えを確かめに...?」
「聞かせろ、お前ら『魔物』がどんなそんざいなのか」
「...聞く耳を持ってくれるんですか」
「ワタシはこの世界の人間じゃないし、ヒーローアカデミーで一方の言い分だけを鵜呑みにするなって教わったからな」
「......」

ちらりと勇者(?)を連れてきたデーモンに目配せ。
コクリと頷くデーモン。
人間の心理に精通しているデーモンがいうのだ、信じてみよう。


―――――――――――――――――――――――――

「なるほど、だいたいわかった」
「......納得するんですね」
「...ワタシは人間の世界じゃ真価を発揮できないようだからな」
「...?」

ワタシはテントを出て、要塞を見据える。

「無茶ですよ、ただの人間が、たった一人で要塞を落とすっていうんですか!? それに人間の世界じゃ真価を発揮できないって...」

リリムは困惑していた。
自分はいっちにっとアキレス腱を伸ばし、腕を伸ばす。

「...まぁ、人間には寛容性が足りないみたいだから、とでも言っておこうか」

そして、『服の能力』を操作し、ワタシは...

「きゃっ!?」
「うわぁー...」

マッパになった。

「おっと、すまない。 魔物はそういうのは慣れていると思ったが、度合いがあるようだ」

ワタシは『服を纏い』、全裸に手袋、ブーツ、パンツ、ベルト、肩アーマー、それから生えるマント...という、素肌に身に着けている点だけ除けば由緒正しいヒーローの姿になった。

「.........」

唖然としている魔物たちにワタシは言った。

「ワタシの『ネイキッド』...。 肌を外気に晒せば晒すほどパワーアップする能力『マッパワー』を有するヒーローさ」

そう言うと、『生まれ持った方の能力』を起動し、3m近い、紫色の巨漢の筋肉ダルマへと変貌する。
そして、ワタシは大地を蹴って、一瞬で要塞へと切り込んだ。





「ウォォォォッ!!!」
「言動の怪しさにたがわず、あっさり裏切りおって!!」

要塞を出発し、魔物の本陣へ向かい、魔物側についてから、力業で飛行し、要塞につくまでの間。
教団軍は案の定自分の裏切りを想定していたようで、迎撃する準備をしていた。

いかにも頑丈そうな鎧に身を包み、ごっつい大剣やハルバード携えた巨漢の兵士たちが出迎えてくれた。

「者ども、いけぇーっ!!」
「うぉぉぉ!!」

武器を携えて一斉に向かってくる。

「無駄無駄ァッ!!」

自分はかつてないほど肌を外気に晒していた。
その鉄拳は、重装騎兵たちを、一撃で吹き飛ばして無力化した
(※ 生きてます)

要塞前周辺で戦っていた魔物たちがどよめく。

「あっ、あれだけの重装騎兵たちを一撃で...」
「すっ、すげぇ...」

これは完全にマズイとガラガラと鎖を引き上げて橋を上げ、門を閉める要塞。

「ううむ、どうしようか...」

次の手を考えていると、

ドクンッ

自分の中で『マッパワー』が進化し始めていることに気づいた。
今までずっとため込んできた圧が解放されたものによる効果だった!

「よし、行くぞ『マッパワー』!!」

自分は地面を蹴って『飛んだ』。
そう、自分はアメリカのスーパーな男よろしく飛行能力を獲得したのだ!

「ふんぐぅぅぅっ!!!」

一度閉じた門を掴んでこじ開け、力づくで地面へと引きずり落とす。

「ふんぐぐぐぐぐぐっぐうっぐ......フルパワァァァ!!!」

ガコンッ!! バツンッ!!

とうとう地面に降り、橋としての機能を取り戻した扉。
ワタシのパワーに耐えられず、鎖は引きちぎれていた。

「今だー!!」

その瞬間、一斉に要塞内へ突撃していく魔物たち。

あいつが言っていた、『生まれる世界を間違えたやつをこうやって生まれるべき世界に転送する』というのは真実だったらしい。
ありがとう、心の中でつぶやくと。

(オメー、自覚してないみたいだから言っておくけど、そのマッパワーは、実は一定の露出さえしているだけでいいんだぞ、いちいちマッパになる必要ねーんだかんな。 ちょうど、今の格好くらいの露出でさ)

......などと頭の中に声が響いてきた、間違いない、神だ。

アフターケアも抜群とか、さすが神だ、神対応すぎる。

もう神に足向けて寝られないと思っていると...

「本当についさっき召喚された勇者が味方になってくれるとはね...」

さきほどのリリムが自分の横に降り立った。

「言おう言おうと思っていたが、ワタシは『勇者』じゃない」

キョトンとするリリムに、そして自分に言い聞かせた。

「ワタシは『勇者』じゃない、ワタシは『ヒーロー』だ!!」












半年後

「オラー! 魔物の子供さらってきたぜー!!」
「おぉっ、グリーンワームか! 成長すれば美しい蝶々になるぞ!!」

教団兵崩れが親魔国で悪事を行っていた。
攫った魔物の子を数人馬車に乗せ、現在逃走中だった。

「キャー!!」

悲鳴を上げるグリーンワーム。

「待てっ!!」
「「「!?」」」

天から降り注いだビームに、馬車と馬が切り離される。

「おわー!!」

勢いついて馬車から落ちる悪党たち。

「うわー!!」

そしてもんどりうつ馬車...

ガシッ

「...大丈夫か?」

...にはならなかった。

コントロールを失い横転するはずだった馬車は、ワタシがキャッチして難を逃れた!!
そう、ワタシはマッパワーが更に成長し、目からビームを撃つ能力を獲得していた!!

「もー、ちょいちょい無茶苦茶するのはやめなさいよー!」

落っこちた悪党二人をキャッチしたのは、あの日本陣にいたリリムだった!
彼女はワタシのサイドキック的なヒーロー(かつ嫁)になったのだ!

「あぁすまない、表立ってヒーローをできると思うとな...。 今すぐ直す」
「......根は詰めないように」
「わかっております」

本当にわかっているさ。
根を詰めすぎて焦った結果、前いた世界であんな目に遇ったんだから。


自分は助けた子供たちを馬車から降ろしつつ、ようやく見つけた、パズルの最後のピースのようにハマッた、本当の居場所のありがたみをかみしめたのだった。
19/05/19 01:28更新 / 妖怪人間ボム

■作者メッセージ
ドーモ、妖怪人間ボムです。

作中で登場するヒーローの服は、

転生前:カレーパンマンみたいなスーツ
教団服:BLEACHの星十字騎士団の制服
   :fate/zeroのライダーみたいなガタイとタッパ
図鑑世界ヒーロー:黒いパンツ一丁に、仮面ライダーギンガの腕・足・ベルト・肩アーマーとマント
   :Fate/Grand Orderのアステリオスみたいなガタイとタッパ、
      MCUのサノスみたいな肌の色

...が元ネタとなっております。



しっかし、自分で考えたけど露出が多いほど強くなる能力とかいかにも図鑑世界向きだ...。
女性に持たせたら一気にエロゲーになるけど。

そんなヒーロー、ネイキッドは負ける日が来るのか。
それは作者にもわからない。

次回もよろしくお願いします。






おまけ
ヒーロー『ネイキッド』
生まれ持った能力は『マッパワー』
肌を外気に晒すほど、パワーが増強される。
最大100倍、だけどそれは元居た世界の話。
図鑑世界に来てからタガが外れ始めている......。
元居た世界では『変態ヒーロー』なる烙印を押されていた。

図鑑世界に転生したことで、『自身のオーラを服に変換する能力』を得る。
これ自体は服を着るだけの能力なのだが、いくら破れてもオーラを補填すれば直せるし、デザインも返られる。
防御力? 普通の衣服同然の防御力ならございます。

能力が能力ゆえに、ストレスがかかって髪の毛もすっかり禿げ上がってしまった。
図鑑世界に来て魔物娘の文化に触れた結果、すっかり露出に対して抵抗がなくなってしまった...。

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