フォーエバー!!
もうダメだ 首を吊るしか 道はない...
朝一番にとある森へ来て、車を止めて森へ入ってから早、数十分。
手にはロープ、そして小さい脚立...。
そう、私は20数年の人生に......生きることに疲れ果てて、この森へ首を吊りに来たのだ。
実家暮らしなので、自宅で死ぬと邪魔が入る恐れがある。
踏切なり駅のホームに飛び込むという手段は、残された身内が路頭に迷うからボツ。
一番いいのは、誰にも邪魔されない森で首を吊るということだった。
ここの森は在住している県の、自殺の名所と名高い場所である。
自分の県は自殺率が高い上にこんな場所があるのである。
一言で言って、一人死ぬにはお誂え向きの場所であった。
「この木にするか...」
私は脚立を使い、太く大きな枝に縄を掛ける。
掛けた縄に首を吊ろうとした......その瞬間だった。
ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!!
どこからかけたたましく鳴り響く災害時のベルの音!
なんだなんだ!?
「みぃーつけたァ!!」
脚立の上で固まっている私に、何かが思いっきりタックルをかまして諸共転がった。
「何をするんだ、危ないだろう!!」
「今さっき死のうとしてた人間に、危ないもクソもあるか!!」
そいつは、体格のいい、巨大な褐色肌のジャガーのような特徴を有する女であった。
「ジャガー...? というか『人』か!?」
「そうさ、あたしゃァ『オセロメー』っていうジャガーの種族の魔物さ」
このジャガー女は、私が使った縄の余りをサッと取ってくると、あっという間に私をぐるぐる巻きにして担ぎ上げてしまった...。
「はっ離せ! 私をどうするつもりだ!!」
「お前が捨てた命はアタシが拾ったんだ、拾ったモンは拾ったやつが好きにしたって文句は言えねぇだろう?」
ミノムシスタイルでふん縛られた私は、このジャガー女に担がれ、森の奥へ奥へと連行されていった...。
「...てっきり喰われるかなんかすると思ったけど違った...」
森の奥へと連れていかれる...と思いきや、ある一線を超えると森の内部にいたはずが、なんとも先進的な建造物が立ち並ぶ『街』の中に来てしまったではないか!
「ここは魔物の街さ、ここの魔物はお前みたいな命を粗末にするやつを保護しては、なんやかんやする連中のプロさ」
「そのなんやかんやがよくわからん...」
「詳しくはここの説明会でよく聞くんだな」
『街』入りしてから最初に連れてこられたのは、人間の街にも必ずあるであろう、文化会館のようなホールであった。
そこで縛られたままだが、ジャガー女に席につかされ(当然のようにこいつも隣に座った)、そこで『説明会』を聞いた。
「嘘だ...ろ...。 こんなやつらが異世界にいたなんて...」
そこで魔物こと...『魔物娘』なる存在と、この街に関する説明を受けた。
この街のような存在は人間に認知されている自殺の名所に作られ、そこで自殺しようとする人間を片っ端から保護しているらしい。
彼女たちはいわゆる『移民』であるらしい。
移民だろうがなんだろうが、魔物娘である以上人間の男は必要不可欠、そのための方法の一つとして、こうやって街を作っているらしい。
当然、人間サイドにはそんなもの秘密であり、光学魔法とステルス魔法で巧妙にその存在を隠し上げているらしい...。
説明会が終わったあと、ようやく縛を解かれた私は、このジャガー女...オセロメーとかいう魔物娘の自宅の街のマンションに連れてこられた。
自分は経過観察として、こいつの家にお世話になるらしい......。
ファンタジーが足を生やして歩いているような存在なのにマンションなのは、自分たちの文化を残しつつ、いいものは取り入れていくからなんだとか。
「これがアタシの家だ!」
「...やっぱり汚い!!」
「やっぱりってどういうことだ!!」
外見から部屋の中身はだいたいあっていた。
一言でいうと「片づけられない女性」の典型であった。
具体的に、玄関先から本やらゴミ袋が散乱し、服や下着が脱ぎ散らかされているという有様。
「まーおいおい片づけるからさー、今日はこれで......」
「......今片づける」
「...ほ?」
「こんな部屋にいられるか! 俺は今から部屋を片付けさせてもらう!!」
「ちょっ...」
まだ死ぬ気が維持されていたのなら文句は言わなかっただろうが、いっぺん死に損なったからか、変に吹っ切れてしまったようだ。
嫌がるオセロメーを尻目に部屋を猛然と片づけにかかった...。
4時間格闘してやっと部屋を綺麗にし終わった...。
「オメー、さっき知り合ったばっかの女の部屋を、よくこんなにできるな...」
「お前こそ、こんな汚ったない部屋によく男上げられるな」
部屋ではオセロメーが床に寝っ転がって呆れている。
呆れているのはこっちも一緒だったが。
その時『グ〜ッ』っとなる腹・
ああ、もう昼か。
その上、死ぬ気満々で朝から何も食っていなかった。
「ちょうどいい、昼飯でも作ってやんよ、今度こそいいとこ見せてやるぜ!」
...などと言って台所に立ったオセロメー。
...なのだが、スープでも作ろうとしているのか、水を入れた鍋を火にかける際にコンロを回すと「ぴゃっ!!」と声を上げて驚いたり、具材を切る際の手つきが怪しかったりと......。
非常に危なっかしかった...。
「どけ、もう見ていられない」
自分はオセロメーをどかすと、手際よく具材を切り、冷蔵庫の中にあるものでスープ、そして炊飯器にご飯が残っていることを確認すると、チャーハンを作り始めた。
「へーっ、上手いもんだな」
「......お前がド下手すぎるんだよ、自炊したことあんのか」
だんだんと口調が荒くなってくる。
こいつは一人暮らしっぽいが、どうやって生活していたんだ。
「...ほらできたぞ」
「美味そーだ...」
テーブルに持っていくとガツガツ食べだした。
「ウメーッ!! さっきはかっこつけたけど、アタシ肉は丸焼き、野菜はテキトーにちぎってサラダにしたことしかねーんだ!」
「お前よく一人暮らししてこれたな」
食事も終わると、オセロメーは真剣そうな顔をし始めた。
「お前に折り入って頼みたいことがあるんだが...」
「...あって一日も経ってない人間に『折り入って』頼むことなんてあるのか」
「それはな......ツマミ作ってくれ!」
「は?」
パパッと駆けたオセロメーは冷蔵庫から大量の酒を持ってくる。
「オメー死ぬほど嫌なことあったから、あんな場所にいたんだろ? アタシに話してみろよ、酒が入れば幾分か話しやすくなるだろ?」
「......」
なんつー単純な奴なんだ...。
しかし、こんな場所にいたところで他にやることもない。
ああもう、作ってやるか......。
「あんの副店長、自分は部下になんだかんだ暴言を吐く癖に、自分は忠言されるのも嫌がるとかなんなんだよ!!」ドンッ
「確かに! それはムカつく!!」グイッ
「こっちは仕事に真摯だから改善案とか出してんのにな! そいつがやらかして降格処分を喰らったときはスカったとしたね!」グビッ
「違いない! それは清々するッ!!」プハーッ
なんやかんやで酒盛り愚痴大会が盛り上がっていた。
「アタシもさー、自分が非番の時だけ男が来るとかさー、すっげー間の悪い女なわけよー...。 お前の事を見つけたときは、そりゃーもう必死でさー」
「そうなのか」
「いっつも男を連れて帰ってくる奴を見てはさー、『お前なんか理想抱いて爆死しろッ!!』とか妬んでたんだよー...」
「わかるよー、人間の女なんてさ、いっくら真面目にアプローチしても全然振り向いてくんないの! そのくせ性格の悪いヤリチンにばっかりなびいてさ」
「あー、悪いけど人間の女なんてロクなもんじゃねぇだろ」
「本当だよ...」
コップに注ぐということはせず、直接ビンからビールを煽る。
しっかし...こんな育った環境も人種(?)も性別も、何から何まで違う奴とこんなに話が合うとは。
「愚痴吐きながら飲んだせいか、ちょっと飲みすぎたなァ...」
「おう、寝るのか」
「ちょっとな...」
魔物娘の説明会で聞いた情報だけだと不安なもんだが、さっき首を吊ろうとしたやつを助けようとしたんだ、そんなケダモノじゃないだろう。
オセロメーからタオルケットを借り、自分はビール瓶を枕にひと眠りするのだった。
フーッ、フーッ...
何の音だ、いや。
なんの声だ。
あいつまさか盛ってんじゃないだろうな。
寝たふりをしながら目を開くと、視界に飛び込んできたのは...。
「よせ、よせ...。 こんな心が風邪ひいてるような奴襲ったら、魔物娘の風上にも置けないぞ...」
枕を噛み、寝床に爪を立て、不機嫌そうに尻尾を揺らし、必死に盛りを抑えているオセロメーの姿だった。
「なんでこんなタイミングで発情期なんか来やがるんだ......。 ここで襲ったら、今まで上げた株だって全部パーになる...」
...こいつなりに自分を気遣っていたようだ。
見かけよりも、ずいぶんと『人間できたやつ』である。
私は覚悟を決めて、こんのデカイ猫みたいなやつに声を掛けた。
「...おい」
「ッ!!! 聞いてたのか!!」
思わずバリッと布団を引き裂いたオセロメー。
「辛いのか?」
「あぁ辛れぇよ、発情期なんて無い人間にはわかんねぇよ...」
枕の顔を埋めながら消え入るような声を出している。
「俺でよかったら相手するぞ」
「.........弱ってるやつを襲うのは魔物娘的にアウトなんだよ......」
「もう弱ってねぇよ」
ゆらゆらと揺れていた尻尾が動かなくなった。
ゆらぁ......と上体を起こしてこちらに顔を向けるオセロメー。
「...今はこんなだし、アタシ自身ハジメてだから手加減なんてできねーぞ」
「わかってる」
「...覚悟の上だな?」
コクリ、と頷くと一瞬で飛び掛かってきてマウントを取られてしまった!
「いい度胸だ......発情期のオセロメーの相手したらコンマで出がらしだかんな...ッ!」
オセロメーは私からバリバリと服をはぎ取り、自分の服さえ破り脱ぎ捨てると、盛りの極まったメス猫のごとく猛りに身を任せ始めたのだった...。
一週間後。
「おい、何書いてるんだ」
「あー、手紙だよ手紙」
「お前、文字書けたんだ」
「喧嘩売ってるのか」
オセロメーがオフの日に、珍しくテーブルに向かって頭を捻りつつ何かを書いているので、家事の合間を縫って声を掛ける。
「妹にカレシができたってな」
「やっぱり妹がいるのか」
「やっぱりて。 アタシは15姉妹の三番目なんだけどな」
「ずいぶんと多いな」
「...相手はチュウトーとかいう場所で、難民をアタシたちが元居た世界に避難させる活動をしている、6・8.11番目でさ」
「...中東にまでお前みたいなのがいるのか...」
「魔物娘はこっちの人間が思ってるよりグローバルなんだよ」
こんな自殺の名所に隠れ街を作るような奴らだから他にも作ってるだろうとは思ったが...。
中東で難民を相手にしているとは恐れ入った。
「あー、慣れないことに頭使ってるせいで腹減ったー」
「はいはい、何か作るよ」
「飯もいいけど、それよりさー...」
ペロッと胸元を開けて見せるオセロメー。
「...こっちのほうでもいいか?」
「...なら、さっさと俺が縫った布団に寝るんだな」
「そーこなくっちゃ」
自宅には遺書を残してきた関係上、もうこの人間の世間的には自分はもう死んだ人間なのだ。
バカは死ななきゃ治らないというが、『いっぺん死んだ(気になった)』ことでバカ(な気を起こすこと)が治ったのだろう。
そんな世間的に死んだ元バカが、こんなところで主夫やってたって誰も文句は言わないだろう。
遺された家族には悪いが、人間の社会に戻る気は一切沸かないし。
「おーい、まだかよー」
「今行くよー」
自分はとっくに素っ裸になっている彼女の下へ、一枚、また一枚と服を脱いで近寄った。
両手を広げて自分を歓迎する、自分を拾い上げた彼女を見て思った。
捨てる者もいれば、必ず『拾ってくれる者』もいるのだと。
朝一番にとある森へ来て、車を止めて森へ入ってから早、数十分。
手にはロープ、そして小さい脚立...。
そう、私は20数年の人生に......生きることに疲れ果てて、この森へ首を吊りに来たのだ。
実家暮らしなので、自宅で死ぬと邪魔が入る恐れがある。
踏切なり駅のホームに飛び込むという手段は、残された身内が路頭に迷うからボツ。
一番いいのは、誰にも邪魔されない森で首を吊るということだった。
ここの森は在住している県の、自殺の名所と名高い場所である。
自分の県は自殺率が高い上にこんな場所があるのである。
一言で言って、一人死ぬにはお誂え向きの場所であった。
「この木にするか...」
私は脚立を使い、太く大きな枝に縄を掛ける。
掛けた縄に首を吊ろうとした......その瞬間だった。
ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!!
どこからかけたたましく鳴り響く災害時のベルの音!
なんだなんだ!?
「みぃーつけたァ!!」
脚立の上で固まっている私に、何かが思いっきりタックルをかまして諸共転がった。
「何をするんだ、危ないだろう!!」
「今さっき死のうとしてた人間に、危ないもクソもあるか!!」
そいつは、体格のいい、巨大な褐色肌のジャガーのような特徴を有する女であった。
「ジャガー...? というか『人』か!?」
「そうさ、あたしゃァ『オセロメー』っていうジャガーの種族の魔物さ」
このジャガー女は、私が使った縄の余りをサッと取ってくると、あっという間に私をぐるぐる巻きにして担ぎ上げてしまった...。
「はっ離せ! 私をどうするつもりだ!!」
「お前が捨てた命はアタシが拾ったんだ、拾ったモンは拾ったやつが好きにしたって文句は言えねぇだろう?」
ミノムシスタイルでふん縛られた私は、このジャガー女に担がれ、森の奥へ奥へと連行されていった...。
「...てっきり喰われるかなんかすると思ったけど違った...」
森の奥へと連れていかれる...と思いきや、ある一線を超えると森の内部にいたはずが、なんとも先進的な建造物が立ち並ぶ『街』の中に来てしまったではないか!
「ここは魔物の街さ、ここの魔物はお前みたいな命を粗末にするやつを保護しては、なんやかんやする連中のプロさ」
「そのなんやかんやがよくわからん...」
「詳しくはここの説明会でよく聞くんだな」
『街』入りしてから最初に連れてこられたのは、人間の街にも必ずあるであろう、文化会館のようなホールであった。
そこで縛られたままだが、ジャガー女に席につかされ(当然のようにこいつも隣に座った)、そこで『説明会』を聞いた。
「嘘だ...ろ...。 こんなやつらが異世界にいたなんて...」
そこで魔物こと...『魔物娘』なる存在と、この街に関する説明を受けた。
この街のような存在は人間に認知されている自殺の名所に作られ、そこで自殺しようとする人間を片っ端から保護しているらしい。
彼女たちはいわゆる『移民』であるらしい。
移民だろうがなんだろうが、魔物娘である以上人間の男は必要不可欠、そのための方法の一つとして、こうやって街を作っているらしい。
当然、人間サイドにはそんなもの秘密であり、光学魔法とステルス魔法で巧妙にその存在を隠し上げているらしい...。
説明会が終わったあと、ようやく縛を解かれた私は、このジャガー女...オセロメーとかいう魔物娘の自宅の街のマンションに連れてこられた。
自分は経過観察として、こいつの家にお世話になるらしい......。
ファンタジーが足を生やして歩いているような存在なのにマンションなのは、自分たちの文化を残しつつ、いいものは取り入れていくからなんだとか。
「これがアタシの家だ!」
「...やっぱり汚い!!」
「やっぱりってどういうことだ!!」
外見から部屋の中身はだいたいあっていた。
一言でいうと「片づけられない女性」の典型であった。
具体的に、玄関先から本やらゴミ袋が散乱し、服や下着が脱ぎ散らかされているという有様。
「まーおいおい片づけるからさー、今日はこれで......」
「......今片づける」
「...ほ?」
「こんな部屋にいられるか! 俺は今から部屋を片付けさせてもらう!!」
「ちょっ...」
まだ死ぬ気が維持されていたのなら文句は言わなかっただろうが、いっぺん死に損なったからか、変に吹っ切れてしまったようだ。
嫌がるオセロメーを尻目に部屋を猛然と片づけにかかった...。
4時間格闘してやっと部屋を綺麗にし終わった...。
「オメー、さっき知り合ったばっかの女の部屋を、よくこんなにできるな...」
「お前こそ、こんな汚ったない部屋によく男上げられるな」
部屋ではオセロメーが床に寝っ転がって呆れている。
呆れているのはこっちも一緒だったが。
その時『グ〜ッ』っとなる腹・
ああ、もう昼か。
その上、死ぬ気満々で朝から何も食っていなかった。
「ちょうどいい、昼飯でも作ってやんよ、今度こそいいとこ見せてやるぜ!」
...などと言って台所に立ったオセロメー。
...なのだが、スープでも作ろうとしているのか、水を入れた鍋を火にかける際にコンロを回すと「ぴゃっ!!」と声を上げて驚いたり、具材を切る際の手つきが怪しかったりと......。
非常に危なっかしかった...。
「どけ、もう見ていられない」
自分はオセロメーをどかすと、手際よく具材を切り、冷蔵庫の中にあるものでスープ、そして炊飯器にご飯が残っていることを確認すると、チャーハンを作り始めた。
「へーっ、上手いもんだな」
「......お前がド下手すぎるんだよ、自炊したことあんのか」
だんだんと口調が荒くなってくる。
こいつは一人暮らしっぽいが、どうやって生活していたんだ。
「...ほらできたぞ」
「美味そーだ...」
テーブルに持っていくとガツガツ食べだした。
「ウメーッ!! さっきはかっこつけたけど、アタシ肉は丸焼き、野菜はテキトーにちぎってサラダにしたことしかねーんだ!」
「お前よく一人暮らししてこれたな」
食事も終わると、オセロメーは真剣そうな顔をし始めた。
「お前に折り入って頼みたいことがあるんだが...」
「...あって一日も経ってない人間に『折り入って』頼むことなんてあるのか」
「それはな......ツマミ作ってくれ!」
「は?」
パパッと駆けたオセロメーは冷蔵庫から大量の酒を持ってくる。
「オメー死ぬほど嫌なことあったから、あんな場所にいたんだろ? アタシに話してみろよ、酒が入れば幾分か話しやすくなるだろ?」
「......」
なんつー単純な奴なんだ...。
しかし、こんな場所にいたところで他にやることもない。
ああもう、作ってやるか......。
「あんの副店長、自分は部下になんだかんだ暴言を吐く癖に、自分は忠言されるのも嫌がるとかなんなんだよ!!」ドンッ
「確かに! それはムカつく!!」グイッ
「こっちは仕事に真摯だから改善案とか出してんのにな! そいつがやらかして降格処分を喰らったときはスカったとしたね!」グビッ
「違いない! それは清々するッ!!」プハーッ
なんやかんやで酒盛り愚痴大会が盛り上がっていた。
「アタシもさー、自分が非番の時だけ男が来るとかさー、すっげー間の悪い女なわけよー...。 お前の事を見つけたときは、そりゃーもう必死でさー」
「そうなのか」
「いっつも男を連れて帰ってくる奴を見てはさー、『お前なんか理想抱いて爆死しろッ!!』とか妬んでたんだよー...」
「わかるよー、人間の女なんてさ、いっくら真面目にアプローチしても全然振り向いてくんないの! そのくせ性格の悪いヤリチンにばっかりなびいてさ」
「あー、悪いけど人間の女なんてロクなもんじゃねぇだろ」
「本当だよ...」
コップに注ぐということはせず、直接ビンからビールを煽る。
しっかし...こんな育った環境も人種(?)も性別も、何から何まで違う奴とこんなに話が合うとは。
「愚痴吐きながら飲んだせいか、ちょっと飲みすぎたなァ...」
「おう、寝るのか」
「ちょっとな...」
魔物娘の説明会で聞いた情報だけだと不安なもんだが、さっき首を吊ろうとしたやつを助けようとしたんだ、そんなケダモノじゃないだろう。
オセロメーからタオルケットを借り、自分はビール瓶を枕にひと眠りするのだった。
フーッ、フーッ...
何の音だ、いや。
なんの声だ。
あいつまさか盛ってんじゃないだろうな。
寝たふりをしながら目を開くと、視界に飛び込んできたのは...。
「よせ、よせ...。 こんな心が風邪ひいてるような奴襲ったら、魔物娘の風上にも置けないぞ...」
枕を噛み、寝床に爪を立て、不機嫌そうに尻尾を揺らし、必死に盛りを抑えているオセロメーの姿だった。
「なんでこんなタイミングで発情期なんか来やがるんだ......。 ここで襲ったら、今まで上げた株だって全部パーになる...」
...こいつなりに自分を気遣っていたようだ。
見かけよりも、ずいぶんと『人間できたやつ』である。
私は覚悟を決めて、こんのデカイ猫みたいなやつに声を掛けた。
「...おい」
「ッ!!! 聞いてたのか!!」
思わずバリッと布団を引き裂いたオセロメー。
「辛いのか?」
「あぁ辛れぇよ、発情期なんて無い人間にはわかんねぇよ...」
枕の顔を埋めながら消え入るような声を出している。
「俺でよかったら相手するぞ」
「.........弱ってるやつを襲うのは魔物娘的にアウトなんだよ......」
「もう弱ってねぇよ」
ゆらゆらと揺れていた尻尾が動かなくなった。
ゆらぁ......と上体を起こしてこちらに顔を向けるオセロメー。
「...今はこんなだし、アタシ自身ハジメてだから手加減なんてできねーぞ」
「わかってる」
「...覚悟の上だな?」
コクリ、と頷くと一瞬で飛び掛かってきてマウントを取られてしまった!
「いい度胸だ......発情期のオセロメーの相手したらコンマで出がらしだかんな...ッ!」
オセロメーは私からバリバリと服をはぎ取り、自分の服さえ破り脱ぎ捨てると、盛りの極まったメス猫のごとく猛りに身を任せ始めたのだった...。
一週間後。
「おい、何書いてるんだ」
「あー、手紙だよ手紙」
「お前、文字書けたんだ」
「喧嘩売ってるのか」
オセロメーがオフの日に、珍しくテーブルに向かって頭を捻りつつ何かを書いているので、家事の合間を縫って声を掛ける。
「妹にカレシができたってな」
「やっぱり妹がいるのか」
「やっぱりて。 アタシは15姉妹の三番目なんだけどな」
「ずいぶんと多いな」
「...相手はチュウトーとかいう場所で、難民をアタシたちが元居た世界に避難させる活動をしている、6・8.11番目でさ」
「...中東にまでお前みたいなのがいるのか...」
「魔物娘はこっちの人間が思ってるよりグローバルなんだよ」
こんな自殺の名所に隠れ街を作るような奴らだから他にも作ってるだろうとは思ったが...。
中東で難民を相手にしているとは恐れ入った。
「あー、慣れないことに頭使ってるせいで腹減ったー」
「はいはい、何か作るよ」
「飯もいいけど、それよりさー...」
ペロッと胸元を開けて見せるオセロメー。
「...こっちのほうでもいいか?」
「...なら、さっさと俺が縫った布団に寝るんだな」
「そーこなくっちゃ」
自宅には遺書を残してきた関係上、もうこの人間の世間的には自分はもう死んだ人間なのだ。
バカは死ななきゃ治らないというが、『いっぺん死んだ(気になった)』ことでバカ(な気を起こすこと)が治ったのだろう。
そんな世間的に死んだ元バカが、こんなところで主夫やってたって誰も文句は言わないだろう。
遺された家族には悪いが、人間の社会に戻る気は一切沸かないし。
「おーい、まだかよー」
「今行くよー」
自分はとっくに素っ裸になっている彼女の下へ、一枚、また一枚と服を脱いで近寄った。
両手を広げて自分を歓迎する、自分を拾い上げた彼女を見て思った。
捨てる者もいれば、必ず『拾ってくれる者』もいるのだと。
19/05/12 18:17更新 / 妖怪人間ボム