読切小説
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破れ鍋に綴じ蓋
「さて、境内のお掃除もこれで終わり......」

朝一番の仕事、自分が祀られている白蛇神社の境内の掃除を終え。
日光に照らされながら伸びをしていると。

「見つけたぞッ......ジパングの邪神め!」

そこに現れたのは、自分を退治しに来たであろう、退魔師の集団。
その性質上、魔物娘にとっては難敵である。

「邪なる蛇め、尋常に覚悟しろ!!」

私は悲鳴を上げた。

「...たっ、助けてあなたー!!」
「うぅううん」

悲鳴をあげると同時に、白蛇の巫女服の数少ない露出...
...腹部に浮かんだ五芒星から、私の夫が出てきた。

「お前ら......人様の嫁に手ェ出そうと、ギャアギャアピーピーと......」

地に脚をつけた瞬間、一瞬で退魔師の集団の向こう側へと移動した夫。

「......騒いでんじゃねぇよ」

一瞬で退魔師の軍勢の大半が地に崩れ落ちた。
一瞬、それだけの時間で妖術で両手に一本ずつ刀を錬成し二刀流で全員を切りつけたのだ。
全員に一撃ずつ叩き込み、20数人を倒し、残り三人となった。

「なん...だと...今のは...妖術か...ッ!?」
「おまえぇらァ......これならどうだァ......」

地獄の悪鬼ごとき声を発し、夫は天を覆うほどの幽体の青紫色の刀剣を妖術で作り出した。

「.......!!!!」
「くらえぇ」

残った三人に手に持っていた刀の切っ先を向けると、その無限の刃が三人を襲った。

剣の山の実体化を解いた時には、誰ひとりとして立っていなかった。
全員を倒したのを見届けると、夫が私の下へ刀を引っ込めながら駆け寄ってきた。

「大丈夫...? 怪我してない...?」
「大丈夫よ、それより荒事になると本当に毎回派手にやりまよね......」
「魔物娘の鉄の掟に従って殺してないし、大丈夫だべ」

私を手を握り、すりすりと撫で回す夫。
その表情はなんとも表現できない複雑そうな顔である。
まるで、殺せるなら殺したいとでも言わんばかりの。

騒ぎを聞きつけたのか、地元の村の魔物娘たちが駆けつけてきた。

「あらまぁ、今回も派手に散らかしちゃって...」
「散らかったのは服だけよ、みんな服がボロ布ぬされるけど、中身の人間はいつも無傷だからね」
「なら今回も、男しかいないし独身衆に分けちゃおう、いい?」
「いいですよぉ」

夫がゴーサインを出したため、退魔師の集団はあっという間に独身の魔物娘にたかられて連れ去られてしまった。
それをやはりなんともいえない表情で見送った夫の頬をツンツンつつく。

「ほら、朝ごはんにしましょうか」
「.........そうだね」

私は夫の手を引いて、朝餉の準備を一緒にするべく台所へ向かっていった。








自分は北条竜太郎。
自分は異世界人である、そして発達障害者である。
小さい頃からは問題なかった......わけでもなく、周りの子供からはいじめられ。
大きなるにつれ、コミュニケーション能力に劣った面を悪い意味で発揮していき。
終いには、健常者と一緒の枠で新卒採用で入った会社がブラックという。
絵に書いたような負け犬人生を歩んできた。

高校生の頃の職場体験で行った老人ホームの弱い100歳以上のおじいちゃんは、『お前さんは大成する』と言っていたが、そんな兆しは微塵も見せない。

彼女がほしいと意気込んで行った街コンも常敗無勝。
帰り道、占い師に声をかけられて、姓名判断、手相ともに天運に恵まれており勝負強いと言われた。
清々しいまでのハズレっぷりである、鑑定料500円だから相応と割り切れるのが救いだが。

先ほどのブラック職場を辞め、今は障害者雇用枠で働いているが。
これもまたもや問題が浮上。

雇用された障害者をサポートする、いわゆるジョブコーチと呼ばれる仕事の人たちが、三ヶ月に一回は来るはずなのにまったく来ない。
要は見捨てられたのだ。

職場そのものにも問題が。
自分は検査の結果、発達障害が軽いほうで、普通に接する分には障害者とはまったく分からない部類なのだ。
そのせいで、健常者と一緒に扱われ。
だがしかし、職務内容は日に日に増え、今や定時では帰れない日々。

それでも発達障害者はストレスに耐性が無いという点は据え置きなわけで。
ストレスは倍々になり、消耗品並みにコキ使われ。

もう心身ともに限界が近かった。
"禍福は糾える縄の如し"という言葉も勝ち組のセリフと考えるようになっていた。

これから先どうしよう......
死者の安らぎを求めるのも手だろうか。

ネガティブなことを考えながら風呂に入る。
かけ湯し、頭を洗い、体を洗い、湯船に浸かる。

この風呂に入ってるような、気持ちいい感覚がずっと続けばいいのに。
そう思っていると。

ジャグジーでもない我が家の風呂の底から、無数のあぶくが湧き出した。
ボコボコボコと立つあぶくに驚いていると。
底が抜けたかのごとく、水中に引きずり込まれた!!

実写版『ローマの風呂』の、主人公のローマ人の風呂職人がタイムスリップするシーンの曲が脳裏を流れる。
くそっ、自分ちの風呂で溺れ死んでたまるか!!

思いっきり水面めがけて跳ね上がった。
だがそこは自宅の風呂場ではなかった。
そこは左右に様々な扉が並んだ果てしない通路と、その真ん中に置かれた机を前にした1人の白い髪と翼、黒い角、赤い瞳の女悪魔。

「ややっ、またも『自分の世界に未練が切れた』お方が。
では手短に、あなたはここで何かしらの能力を付加されて、住めば確実に都な世界へと飛ばされます。
能力は、『都』にたどり着くまで自分の身と操を守るためにものですので。
デフォルトで非殺傷性効果が付きます、お許し下さい」
「ちょっと待て、俺は......」

一方的に喋る女悪魔に質問をしようとした瞬間、俺は開かれた一番手近にあった木製の扉に吸い込まれた。
吸い込まれた先は、どこかの泉の真上で。
自分は大きな水柱を立てて泉に落っこちた。
ここは足が付く深さだったため、今度こそはと思い切り立ち上がると。

「.........」
「.........!?」

そこには、下半身が白い蛇の女性が全裸でおりましたとさ。

これが自分たちの馴れ初めである。
異世界に召喚されて一発目に顔を合わせた女性......白蛇の凪姫と夫婦になったのでした。
操を守るためとか言われて授けられた能力も、操を守るためには結局使わず。
嫁の凪姫の神社がある、魔物娘の里の自衛用に使うばかりになっていた。







「あ〜、凪姫ちゃんには一日中でもくっついていられる〜」
「もー、神社の仕事もあるんですからねー」

朝ごはんを食べ終わり、私たちは寝室で抱きしめ合い、ゴロゴロと寝転がっていた。

「そんなの式神にやらせればいいじゃんー」
「......まぁ、それもそうですね」

私は寝室に常備してある式神札を手に取り空中へばらまく。
札たちは画面の布に五芒星が書かれた黒子の姿となって、仕事を片付けに向かった。

「私が言うのもなんですけど、ちょっと依存しすぎじゃないですか?」
「ほんとなー、ホント凪ちゃんには言われたくないー、ええやん、依存してもええやん、魔物娘の夫婦なんだしー」
「...そう言ってくれると思ってました♥ 今日も一日抱きしめ合っていましょうか♥」







私は長い間、一人でした。
成人して、自分の神社を持つようになってからずっと。
その間ずっと、伴侶がいる娘が。
羨ましくて、怨めしくて、羨ましくて、怨めしくて、憎くて、悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて、
憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎――

そんなことを思いながらも晴らせずにいて。
そんな時間が、どれくらい経った時でしょうか、あの日から私の時間が動き始めました。

『あの日』、神社の裏の泉で水浴びしていた時、空に出現した扉から落ちてきた夫の竜太郎さんと出会ったときから。
私はせっかくの機会を逃すまいと裸を見たのだから責任を取れと言おうとしました。
ですが。
その前に竜太郎さんは言いました。

「俺と結婚してくれ!!」

......私は喜んで夫婦になりました。
今で10年と3ヶ月、4日と6時間と21分も夫婦をやってます♥

白い女悪魔から彼がもらったという能力......刀剣を魔力を擬似物質として扱い生成する能力で生成した刀剣の色が、白蛇の嫉妬の炎色に染まったことからも長い間一緒にいたことを実感できます...
最初の方は鉄色でいい気もしませんでしたが......その女悪魔は粋な趣味を持っていたようです。

私が神社の管理をしたり備品を買いに外出する際は。
私の腹の中をジパングの城にする妖術を使い、竜太郎さんを腹の中に収めてから外出します。
彼は一度も嫌だと言ったことはなく、むしろいざという時すぐにあなたを守れると乗り気でした。

私たちは、価値観が合うことからも。
夫婦となることは運命とも断言できる気がします。










「あー、今朝の退魔師の集団、弱すぎて話にならねぇ......」
「あなたがそれだけ頑張ってきた証でしょう......師匠の落ち武者さんも『白蛇様の愛にゃ勝てない』って言わせしめるほどですもんね」
「まぁ、凪ちゃんがいなくなったらと思うとね......」

私を抱きしめる夫の腕に力が入った。

「大丈夫ですよ、私とあなたは一心同体......生きるも死ぬも一緒です」
「......凪ちゃん...」

「生きるのが辛いなら、辛くなくなるまで愛してあげます! その代わr」
「凪ちゃんが辛い時は、辛さも半分こだ、ね? 辛いのは分け合えば半分になるし」
「...幸せは二人いれば倍になるし」

「これからもずっとずっと一緒にいようね凪ちゃん...」
「竜太郎さんも、ずっとずっと一緒にいましょうね...?」
「うん、凪ちゃん、凪ちゃんが本当にしゅき」
「私も、竜太郎さんが何よりも好き...!」


あぁ、何もかも憎らしくて妬ましくて堪らなかったけど。

何もかもにも絶望して、死のうとも思ったけど。


生きていて本当によかった。
18/03/09 20:49更新 / 妖怪人間ボム

■作者メッセージ
どうも、ヨーカイ人間ボムです。

共依存的なのを書こうと思ってしくじった。
でも、供養のために投稿する。
徳川家康の三方ヶ原の戦い敗走後の脱糞直後の肖像画みたいな感じで。

あー、共依存って書こうと思うと難しいなー。
お互いの心情を書こうと思うと大変だよ。

次回も張り切って書こうと思います。
それではー。

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