読切小説
[TOP]
スプリング・ウォーズ  〜持つべきは頼れる身内〜
201G年、12月某日

「笛木クン、ちょっと時間はあるかしら?」
「あるけど......どうした」
「なによ、不満?」
「お前がそういう切り出し方をするときは、だいたいろくなことにならんからな」

自分は笛木ムサシ......高校三年生の男子、人間である。
目の前で自分に頼みごとを切り出してきたのは、クラスメイト(そのままの意味)のヴァンパイア......。
フレデリカ・ダンデライナーである......。

こいつとは高校入学してからの腐れ縁で、隣の席だったこいつと入学初日に大喧嘩になったことがきっかけであった。
どう席替えしても自分の左右前後のどれかに収まるため、どうしてもケンカが続きで周りを呆れさせていたのだが。
そんな関係も、年々沈静化を続け、今は普通に悪(女)友みたいな関係に落ち着いた......。

こいつに連れられ屋上に行くと、俺を先に屋上に出させると後ろ手にドアを閉めて、全体重を掛けたフレデリカ......。
なんか企んでやがる......絶対企んでやがる。

「あのね、私ヴァンパイアなのはわかるわね? その私の家って結構大きくて、年一回曾祖母の家に親戚で集まって、御飯食べたりするのね? それが2月の末なのね? でも、周りが私に彼氏はどうしたどうしたってホントうるさくて......」
「..................................まさか恋人のフリしろって話じゃないよな?」
「そう、そのt」
「だが断る」
「なんで!? 給料も弾むわよ!?」
「断る!!」

こいつに振り回されるとロクなことにならない!
この前なんか、過激派系魔物娘と全面戦争になったんだぞ!!
おかげで学校敷地内が魔界化しかけたんだぞ!!
もうごめんだ!!

「だったら、あなたが一生に一回は行ってみたいと言っていた、『回らない寿司』にも連れて行ってあげるわ! もちろん私の奢りよ!!」
「..............いいだろう、特上寿司で手を打ってやる」
「交渉成立ね」







201H年、2月某日
「待ち合わせより20分も遅れてくるとはね」
「就活の合否の電話が来るの忘れてたんだよ......」
「時間にルーズだから、進路が決まらないんじゃないの?」
「はっ倒すぞ」

俺はフレデリカの実家で用意してくれた、マッドハッターが運転手のリムジンに回収され、彼女の曾祖母宅へ向かった。
車内でフレデリカに小言を言われてカチンときた。
なんであの時断らなかったんだ......

車に乗ってること2時間。
俺たちはやっと曾祖母宅に到着した。

家は西洋の城とも言えるほど巨大な自宅......。
今一緒にいるこいつは、いいとこのお嬢様だということを実感した...。
普段の小言の多さからは想像できない。

入口が空いて出迎えてくれたのは......

「...えーっと、フレデリカさんのお姉さん?」

30代中盤くらいの、綺麗なお姉さま。
高校生のフレデリカを、そのままアダルティにしたような美人さんである。

「残念、祖母でした!」

目の前の美人は驚愕の事実を言った。

「祖母!?」
「こう見えてもダンピール、それに135歳よ〜」

フレデリカのおばあちゃんは言った......
魔物娘ってアンチエイジングすぐる......

「ほらほら、フレデリカちゃんとその彼氏さんよ、早く中に入りなさいな」
「彼氏って...」
「もー、おばあちゃんったらァ......」

そういう体できたけど、こいつノリノリすぎんよー......。
困惑している俺とノリノリで演技するフレデリカを、『おばあちゃん』は背中をグイグイ押して連行していった...。





「ばぁば、いるー?」
「...おお、よく来たね、フレデリカ」

いの一番に通されたのは、彼女の曾祖母の部屋でした。
が、なんとひいおばあちゃんが想像以上に若い若い!!
見た目三十代のおばあちゃんより若いぞ!!

自室で何やら英語?の本を読んでいた、中世フランス貴族のような服装とルックスのひいおばあちゃん。
(マリーアントワネットの肖像画を想像すれば大体あっている)。
銀髪の20代前半の美女といった見た目で、ひ孫玄孫がいる見た目じゃない!!
さっきのおばあちゃんがダンピールということは、この方は旦那様が人間だった時に既に子供を産んでるのか......。

俺はひいおばあちゃんとフレデリカにジェスチャーで誘導され、室内の応接用?の長椅子に座らせられた。
『彼氏役』だからか、フレデリカは隣に座っている。
......だいぶ距離が近い、隙間なんかないじゃねぇか。

1人利用の椅子に腰掛けたおばあちゃん

「彼が、言っていた『彼氏』かい?」
「そう、高校入って、最初に喋った男子の笛木ムサシくん!」
「あらまぁ...そうかい」

自分を見つめて『やっとか』と言いたげにため息を付くひいおばあちゃん。

「ムサシさん」
「..はいっ!?」

おばあちゃんにグッと自分の手を握ると。

「この子は高飛車で世間知らずだけど、ちゃんと幸せにし合える自信はあるかい」
「ええっと......その......あの......」
「覚悟はあるのかと聞いている!!」
「えーっと、その............はい」
「本当に?」
「.........はっ、はい」
「..................................................................よかった、はははははァ」

重っ苦しいやりとりと沈黙の末に、ひいおばあちゃんは笑いだした。
......ひとまず峠は超えたようだ。

「ムサシさん」
「はっ、はい」
「どうぞ、ひ孫を末永くよろしくお願いします」
「えっ、あっ、あの......はい」

訂正する、これからが本当の地獄だ......



「給料はいらないから帰っていい?」
「ダメ」

俺は家(城?)の人気のない場所で二人っきりでいた。
ダメ元で帰宅を提示すると、案の定断れた。

「一度受けた仕事を全うできない人って、今後仕事に就いてもやっていけないわよ? それに、恋人のフリするって仕事なんだから、こういうのは『仕方ない』ことじゃなくて?」
「そうなんだけど、ここまで重いとは思ってなかったんだよ!! それにお前はいいじゃねぇか、だいぶノリノリで!!」
「『仕方ない』のよ、そういう事情なんだから!!」

入学以来の時のように大喧嘩になっていると...
紙で出来た蝶が自分たちの下へ飛んできた。

『お二人共〜、晩御飯ですよ〜』

そこから聞こえたのは、さっきのおばあちゃんの声。
おばあちゃんの作り出した、式神かなんかなのだろう。

「ほら、職務は全うしないと。いい? これは『仕方ない』ことなのよ?」
「...わっかりました!! 恋人のフリすればいいんでしょすれば!!」





夕飯時を終えたのだが......

「疲れる......」

俺は大広間で彼女の一族全員に紹介された、これは割り切れる。
だが、その一同のヴァンパイアやダンピールたちに。
 ・「ところで2世の方はどうなっているの?」
 ・「魔物娘の彼氏さんってことは未来の旦那様でしょ? まだヤってないの?」
   (大叔母、祖母の姉妹のヴァンパイア:既婚)
 ・「いいじゃないの、そのうち身内になるのは確定なんだから」
   (いとこ叔父、母のいとこ:生まれつきのインキュバス:既婚)
......などといじられまくった。

俺は食事が終わってすぐすすめられた風呂に入りながら愚痴を吐いていた...
お風呂が温泉並に大きく、シャワーもたくさんついていた。
お湯はヴァンパイアでも入れるように、特殊なハーブで中和しているらしい。

「帰りたい......」
「ダメよ、ヴァンパイアは感覚が鋭いんだから、そういうことを言ったら聞かれるわよ」

思いっきり飛び上がった!!

声の主に目を向けると。

「なんでお前がここにいるんだ!!」

フレデリカであった、タオルは巻かず全裸である。

「何って、お風呂に入りに来たに決まってるじゃない」
「そういうことじゃないくてさ!」
「周りから『恋人同士でしっぽり温まっておいで〜』って言われちゃったのよ、『仕方ない』じゃない」
「......あれですか、おまえの身内は、真剣って書いてマジで俺たちを結婚まで導く気なんですか」
「『しょうがない』、『仕方がないのよ』、うん」

ザバァっとかけ湯してあと、フレデリカは自分の隣のスペースの浴槽へと腰を下ろした......
......すごく、近いです。

「近くない?」
「仕方ないのよ、うん」

こいつ、何でもかんでも『仕方ない』で済ませやがるな......。








PM 10:30

「なんで俺らの寝床がキングサイズのダブルベッドなんですかね、ご丁寧に枕も二つ並べてくれちゃって」
「それは」
「『仕方ない』んでしょ?」
「......わかってきたじゃない」
「......嫌でも学習します」

寝室として案内されたのは、こいつと一緒の部屋。
いらん気遣いがいらんことになっている。
妙にもじもじしているこいつが気持ち悪い、こんなキャラじゃないじゃん。

その時だった。
コンコンと扉をノックする音。

「はーい...」

扉を開けると......

「あっ、おばあちゃんでーす♥」

フレデリカのわっかいおばあちゃんでした。

「ナイトキャップにバニラアイスでもどうかと思ってね? はい、ふたり分」

俺に高級品そうな器に盛られたバニラアイスひと皿とスプーン二本を手渡すと、さっさと退散してしまった。

「二人で仲良くたべろってことか......」

ダンピールを産んだヴァンパイアが祖にいるヴァンパイア一族って、みんなこんな感じなのかな......

「あっ......おばあちゃんのバニラアイス......」
「......食べるの?」
「食べるわよっ...もう...」

......怪しい、こいつの目が据わっている。
何か覚悟を決めたようなやつの目をしている!!

フレデリカと一緒にベッドの淵に腰掛けると、二人で一緒にアイスを食べ......

「おまっ、そんながっつり一口で食わなくても!!!」

アイスにスプーンをぶっ刺し、丸々一個一気に食べてしまったフレデリカ!!
せっかく二人でってもらったのに、俺の分は!?

アイスを咀嚼し飲み込むと......

バタッ!!

こいつ、俺をベッドに押し倒しやがった!!
枕元に転がったアイスの器から漂ってくる臭い......
これは...ニンニク?  あれって、ニンニクアイスか!?

フーッ、フーッと興奮しきっているフレデリカ。
俺の腕はガッチリを抑えられ、腹の上にこいつが乗っかっているため。
俺は動けない!!

俺でも残り香で分かるのだ、
こいつはヴァンパイアだから端っから察しでいただろう......
つまり、こいつは自分からニンニクを摂取したことは確定である!!!

「仕方ない......仕方ないのよ......そう、仕方ない...」

フレデリカは、壊れた人形のようにつぶやきながら、俺を拘束する手に力を込めた!!

「はっ、話せば分かる......落ち着け、話せば......」

なんとかこいつを沈めないと......

そう思っていると、フレデリカは俺の首筋に顔を埋め、おもいっき入り牙を立てた。
がぷっ。

ギャアアアアアアアア!!!!









チュンチュン......

「あっ、朝か......」
「......ZZZ」

黄色い日の出を見た。
隣でグースカ眠っているフレデリカ...
対照的に俺は一晩中眠れなかった。

血を吸われ、犯されて、全身に歯型を付けられて。
気づけばこいつは自分を抱き枕にして爆睡していた。

こいつの本っ当に幸せそうな寝顔を見るからに......
昨日の出来事は、身内全員で堀を埋めていくという、戦国時代級の企みだったのではと思う。

そんなこと考えていると、隣のフレデリカがもぞもぞと動き出した。

「...あっ、起きてたの?」
「誰かさんたちのせいで一晩中眠れませんでしたよ、お前、あのニンニクアイス知ってて食ったろ」
「......やっぱりバレてた?」
「わかるわい」



「これってね、身内の中の意地っ張りな ヴァンパイアの背を押すお家芸みたいなものなのよ」

自分の胸筋を撫で回しながらフレデリカがいった。

「誰かが好きな人ができたら、身内全員で引き込んじゃいましょうっていうね?」
「だからあんなだったのか、お前の身内......」
「伊達に人間のひいおじいちゃんと大恋愛をしてダンピールを産んだわけじゃないのよ、ひいおばあちゃんは」
「あの人の発案なのか......」

俺は思わずげんなりした顔をする。
なんてこった、最初に恋人の振りをすると承諾した時点で。
こいつの勝ちは約束されてたじゃないか。
『約束された勝利のお家芸』ですか。

思わず顔を手で覆った。
そんな俺を気にもとめず、こいつはベッドから抜け出して俺から布団を剥ぎ取った。

「ほら、朝風呂に行きましょ、汗を流したら朝ごはんよ」








朝食......
赤飯が出ました、しかも身内全員の『やったぜ』という顔付きで。
『してやられた』顔をしたのは俺だけ、当然であった。

「それでムサシ君は就職先決まってないのよね?」

朝一番に話しかけてきたのは、フレデリカのダンピールばあちゃん。
昨日のMVPである、俺からすれば大戦犯だが。

「だったら、フレデリカちゃんの執事に就職しちゃえば安泰よ? しかも永久雇用制!!」
「それがいい、いいだろうムサシ君よ」

ダンピばあちゃんの発言に、ヴァンパイアひいおばあちゃんが賛同する。

「然り! 然り! 然り!」

身内全員も賛同した。
逃げられない!!

「はいこれ、入社届」

フレデリカから渡されたのは......

「どう見ても婚姻届ですよね」

ご丁寧に署名捺印済み。
俺がサインとハンコを押せばすぐ出せる。



誰か助けてくれー!!
18/03/02 15:59更新 / 妖怪人間ボム

■作者メッセージ
ドーモ、妖怪人間ボムです。

今回の話は、サマーウォーズを見たことで思いつきました。
タイトルから思いっきりパロってます。

それに加えて以前から考えていた、
『素直になるまであと一歩で踏み切れないヴァンパイアさんには、ニンニクを敢えて服用する生臭個体がいるのでは』
というアイデアを形にしてみました。

とくに記述はないですが、あのにんにくアイス。
作者の地元で売ってたります、ニンニク臭はないですが。
ちなみにダンピールおばあちゃんのお手製で、ダメ押しでダンピールの魔力が入っていたりします。
アイスを受け取った時点で、ムサシくんは王を取られていたのでした(将棋感)

次回もなんか来ると思いますので、よろしくお願いします。
それでは。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33