嫁の料理が大変美味しいので、隠し味が気になった話。
「これ、おいしいなぁ。隠し味でもあるの?」
「隠し味は......愛情ですよ〜♥」
白蛇の嫁さんの作ってくれた料理をつつきながら、そんな会話をする。
ウチの嫁ちゃんの料理はとても、とてもおいしいのだ。
なにせ、料理教室の先生を勤められるほどなのだ。
本当に自慢の嫁である!
「隠し味は愛情か......まぁ、間違っちゃいなさそうなんだよなぁ」
「もー、本当なのに〜.....」プイス
俺が疑ったことで、拗ねてしまった嫁さん。
あらららら。
「悪かったよ、嫁ちゃんの愛情が料理を美味しくしてるのは分かってるからさ、許してくれよー...」
「...本気で怒ってるわけかじゃないので、はい」
これは長引きそうだ......。
どう仲直りしようか、料理をつつきながら頭を回転させるのだった。
三日後。
「あれ、嫁ちゃん、脱皮終わっちゃった?」
「残念でしたねー、脱皮は意地でも一人でやるので、諦めて下さいー」
「むむむ、残念至極......」
結婚三年目になるのにも関わらず、嫁ちゃんは脱皮を手伝わせてくれない。
曰く、「脱皮中の姿を見られるのは、とても恥ずかしいことなので」とのこと。
おまけに脱皮殻も、結婚前の交際時から一度も見たことがない。
どうやって処分してるんだろうね。
「む〜、夫婦ってさ、歩み寄ることが大切なんじゃない?」
「旦那様は、今の職を手放して、私に養われる覚悟があるというのでしたら、考えてあげます♥」
えぇ〜、ヒモは嫌だよう......。
男の尊厳が真っ二つに割れちゃうじゃないか......。
それでも、脱皮を手伝うのを諦めきれない俺だった。
それから1日。
「ただいまー」
「おかえりなさーい♥」
仕事から帰ってきて、嫁ちゃんとハグ。
ギューッと抱きしめている最中、リビングに視線を向けると、なぜかテーブルにすり鉢をすりこぎが乗っていた。
何に使ったのだろうか。
「あのー、嫁ちゃん? あれ何?」
「あれ? ああ、晩ご飯のほうれん草の胡麻和えに使うゴマをすっていただけですよ?」
「へー、そうなんだ......」
ハグを終えて、すり鉢を覗き込むと、何か白い粉末が少し残っていた。
黒ゴマ......はない。
白ゴマ......にしては白すぎる。
何をすったんだろうか。
なぜか俺の勘が、これ以上進むなと警告している。
よし、やめておこう...。
「嫁ちゃん、シャワー浴びてくるから、晩ご飯お願いね」
「はーい、分かりましたー♥ 急いで準備いたします♥」
着替えを掴むと、風呂場に直行。
またもさっきの白い粉が気になったが、無理矢理考えを吹っ飛ばしたのだった。
さらに3日後。
今日は休日である。
今日は俺が何か作るよ、と宣言し、台所でゴソゴソしている。
すると、妙なモノを発見した。
「これは......白い粉!?」
これはこれれはここれは......「た」で始まって、「ま」で終わるヤバイ粉じゃじゃじゃ!?
硬直していると、慌てた嫁ちゃんがすっ飛んできた。
「あわわわわ、旦那様、これはれっきとした自家製の調味料ですので、安心してください!! 危険じゃないですよ!!」
「そっ、そうなの!?」
「そうです!! 旦那様が心配することなんで、一つもないんです!!」
「そっ、そうなんだ......安心した」
「あっ、よかったらお昼ご飯に使ってみません?」
「おっ、わかった」
そして、料理途中で投入してできたのが、俺特製のチャーハンである。
これが何ともいえないおいしさだった。
さきほどの説明と、このおいしさで、これは本当に調味料なんだと納得した。
この時、なんでこれで納得したのだろう。
後になって、衝撃の事実が分かるとは、この時は思いもしなかったのだ。
一ヶ月後。
「嫁ちゃん、また脱皮一人でしたの?」
「いい加減諦めてくださいよぅ......」
嫁ちゃんが脱皮したようだ。またも逃してしまった。
諦めへんぞ、ワイは......。
なぜか今日脱皮したという事実が、頭にガッシリ記憶された。
翌日、あんなことになるとは。
翌日。
今日はいつもより仕事が早く片付いた。
なので、嫁ちゃんをビックリさせてやろうとこっそり帰路に着いた。
フフフ、どんな顔するかな。
「ただいまー」
走って? 飛びついてくるだろうと思ったのだが、嫁ちゃんは出てこない。
あれっ? と思いつつ、靴を脱いで中に入る。
すると、
ゴリゴリ、ゴリゴリという音が聞こえてくる。
そして、
「あと30センチ分......すり終えなきゃ......」
と嫁ちゃんの、おっそろしい声色をした声が聞こえてきた。
閉じられたリビングの引き戸を少し開けて、中を見る。
見るな見るなと思っていても、見てしまうのが人の悲しい性だと、この時思った。
リビングでは、自分の脱皮殻をすり鉢で粉末状にして、件の調味料が入っていた瓶に詰めている嫁ちゃんの姿だった。
ということは、あの時俺が食べたのは......。
「嫁ちゃん」
「...旦那様?」
「嫁ちゃん、あの時ご飯に使ったのって...?」
「......はい、私の脱皮殻ですよ?」
「なんで、そんなこと......」
「なんで? そんなこと、決まってるじゃないですか」
ひと呼吸おいて、嫁ちゃんが続けた。
「私は、いつでも旦那様と一緒にいたい......
でも、旦那様は私に養われようとなさらない......
あるとき思ったんです、
『私を食べさせちゃえば、いつでもどこでも一緒じゃないか』って」
背を、一筋の汗が伝い落ちる。
結婚三年目の真実が明らかになった瞬間だった。
目の前の嫁ちゃんが、ニッコリ笑っていった。
「さっ、晩ご飯にしましょう? 今日も、おいしいおいしい晩ご飯にしてあげますから♥」
嫁ちゃんの目が、どうも光を帯びていない。
俺はどうするか、答えも声も出せなかった。
END.
「隠し味は......愛情ですよ〜♥」
白蛇の嫁さんの作ってくれた料理をつつきながら、そんな会話をする。
ウチの嫁ちゃんの料理はとても、とてもおいしいのだ。
なにせ、料理教室の先生を勤められるほどなのだ。
本当に自慢の嫁である!
「隠し味は愛情か......まぁ、間違っちゃいなさそうなんだよなぁ」
「もー、本当なのに〜.....」プイス
俺が疑ったことで、拗ねてしまった嫁さん。
あらららら。
「悪かったよ、嫁ちゃんの愛情が料理を美味しくしてるのは分かってるからさ、許してくれよー...」
「...本気で怒ってるわけかじゃないので、はい」
これは長引きそうだ......。
どう仲直りしようか、料理をつつきながら頭を回転させるのだった。
三日後。
「あれ、嫁ちゃん、脱皮終わっちゃった?」
「残念でしたねー、脱皮は意地でも一人でやるので、諦めて下さいー」
「むむむ、残念至極......」
結婚三年目になるのにも関わらず、嫁ちゃんは脱皮を手伝わせてくれない。
曰く、「脱皮中の姿を見られるのは、とても恥ずかしいことなので」とのこと。
おまけに脱皮殻も、結婚前の交際時から一度も見たことがない。
どうやって処分してるんだろうね。
「む〜、夫婦ってさ、歩み寄ることが大切なんじゃない?」
「旦那様は、今の職を手放して、私に養われる覚悟があるというのでしたら、考えてあげます♥」
えぇ〜、ヒモは嫌だよう......。
男の尊厳が真っ二つに割れちゃうじゃないか......。
それでも、脱皮を手伝うのを諦めきれない俺だった。
それから1日。
「ただいまー」
「おかえりなさーい♥」
仕事から帰ってきて、嫁ちゃんとハグ。
ギューッと抱きしめている最中、リビングに視線を向けると、なぜかテーブルにすり鉢をすりこぎが乗っていた。
何に使ったのだろうか。
「あのー、嫁ちゃん? あれ何?」
「あれ? ああ、晩ご飯のほうれん草の胡麻和えに使うゴマをすっていただけですよ?」
「へー、そうなんだ......」
ハグを終えて、すり鉢を覗き込むと、何か白い粉末が少し残っていた。
黒ゴマ......はない。
白ゴマ......にしては白すぎる。
何をすったんだろうか。
なぜか俺の勘が、これ以上進むなと警告している。
よし、やめておこう...。
「嫁ちゃん、シャワー浴びてくるから、晩ご飯お願いね」
「はーい、分かりましたー♥ 急いで準備いたします♥」
着替えを掴むと、風呂場に直行。
またもさっきの白い粉が気になったが、無理矢理考えを吹っ飛ばしたのだった。
さらに3日後。
今日は休日である。
今日は俺が何か作るよ、と宣言し、台所でゴソゴソしている。
すると、妙なモノを発見した。
「これは......白い粉!?」
これはこれれはここれは......「た」で始まって、「ま」で終わるヤバイ粉じゃじゃじゃ!?
硬直していると、慌てた嫁ちゃんがすっ飛んできた。
「あわわわわ、旦那様、これはれっきとした自家製の調味料ですので、安心してください!! 危険じゃないですよ!!」
「そっ、そうなの!?」
「そうです!! 旦那様が心配することなんで、一つもないんです!!」
「そっ、そうなんだ......安心した」
「あっ、よかったらお昼ご飯に使ってみません?」
「おっ、わかった」
そして、料理途中で投入してできたのが、俺特製のチャーハンである。
これが何ともいえないおいしさだった。
さきほどの説明と、このおいしさで、これは本当に調味料なんだと納得した。
この時、なんでこれで納得したのだろう。
後になって、衝撃の事実が分かるとは、この時は思いもしなかったのだ。
一ヶ月後。
「嫁ちゃん、また脱皮一人でしたの?」
「いい加減諦めてくださいよぅ......」
嫁ちゃんが脱皮したようだ。またも逃してしまった。
諦めへんぞ、ワイは......。
なぜか今日脱皮したという事実が、頭にガッシリ記憶された。
翌日、あんなことになるとは。
翌日。
今日はいつもより仕事が早く片付いた。
なので、嫁ちゃんをビックリさせてやろうとこっそり帰路に着いた。
フフフ、どんな顔するかな。
「ただいまー」
走って? 飛びついてくるだろうと思ったのだが、嫁ちゃんは出てこない。
あれっ? と思いつつ、靴を脱いで中に入る。
すると、
ゴリゴリ、ゴリゴリという音が聞こえてくる。
そして、
「あと30センチ分......すり終えなきゃ......」
と嫁ちゃんの、おっそろしい声色をした声が聞こえてきた。
閉じられたリビングの引き戸を少し開けて、中を見る。
見るな見るなと思っていても、見てしまうのが人の悲しい性だと、この時思った。
リビングでは、自分の脱皮殻をすり鉢で粉末状にして、件の調味料が入っていた瓶に詰めている嫁ちゃんの姿だった。
ということは、あの時俺が食べたのは......。
「嫁ちゃん」
「...旦那様?」
「嫁ちゃん、あの時ご飯に使ったのって...?」
「......はい、私の脱皮殻ですよ?」
「なんで、そんなこと......」
「なんで? そんなこと、決まってるじゃないですか」
ひと呼吸おいて、嫁ちゃんが続けた。
「私は、いつでも旦那様と一緒にいたい......
でも、旦那様は私に養われようとなさらない......
あるとき思ったんです、
『私を食べさせちゃえば、いつでもどこでも一緒じゃないか』って」
背を、一筋の汗が伝い落ちる。
結婚三年目の真実が明らかになった瞬間だった。
目の前の嫁ちゃんが、ニッコリ笑っていった。
「さっ、晩ご飯にしましょう? 今日も、おいしいおいしい晩ご飯にしてあげますから♥」
嫁ちゃんの目が、どうも光を帯びていない。
俺はどうするか、答えも声も出せなかった。
END.
16/05/06 11:06更新 / 妖怪人間ボム