魔王軍軍事魔法部門長のリッチが考えた、魔物娘のパワーアップ方法がトンデモなかった件。
魔王城、玉座の間。
玉座に座る魔王に、一人のリッチ......ドクター・リーマが歩み寄り、跪いた。
「魔王様、以前から研究していた、魔物娘の驚異的な強化方法が実用段階に至りました」
「ほぅ、して、その方法とは?」
「簡単なことです、魔物娘が動くために必要なのは、人間の殿方の精。一度戦闘になると、日常生活を送るより消耗するペースは速い......ならば、消耗させねばよかったです」
「......なるほど、そうきたか」
「そして、この書類に強化方法を記しております」
「どれどれ...」
そして、しばらく経過......。
魔王城から十数km離れた森の中に......教団の兵士たちが潜伏していた。
「いいか! 崇高なる教団の、500の精鋭戦士たちよ!! 今から我らは、魔物共の国に攻め込む!! 潜入していた密偵の情報によると、魔物どもは自分たちの戦闘能力を飛躍的に高める方法を開発したらしい。それを初期段階で使用不能にするための交戦だ!! 気を引き締めろ!!」
『『『『イエッサー!!』』』』
「そして教皇は、こちらに超勇者を三名ものも派遣してくださった......」
「ふっ、そうだ、その通りだとも。この弓の超勇者と」
「俺様、槍の超勇者」
「そして、真打・剣の超勇者が揃っている。負ける道理などない!!」
その時だった......。
「お前たち、本当につまらないことしてるな」
「だっ、誰だ!!」
そこには、国の門から出てきた、カットラス二刀流のギルタブリル、
大盾と見紛うほどの巨刃を付けた大槍を片手で軽々と振り回すダークヴァルキリー、
大剣を二刀流で扱うデュラハンの三人が魔物娘特有の禍々しくも美しい甲冑を纏い、こちらに進軍してきた。
「うっ、うろたえる......な?」
「......!??」
「!?」
軍団長をはじめ、兵士・超勇者全員が目を疑った。
なにせ......。
「なんだ、この腹がそんなに気になるか?」
「そりゃ、身重な体で戦場に出てきたと知ったら、いくら俺たちでも驚くわ!!」
三人の魔物娘は......ボテ腹だったのだ。
それも、今月にでも生まれるのでは......というほどの。
魔物というのは、身重な個体をも戦いに駆り出すのか......と、気が抜けた様子の教団兵たち。
超勇者三人も同様だった。
「勝ったぞ、この戦い、我々の勝利だ!!」
剣の勇者が高らかに叫ぶ。
軍団長も間髪入れずに叫ぶ。
「掛かれェ!!!」
『『『『オォーッ!!!』』』』
軍団長の掛け声と共に、教団兵・計500人は、三人のボテ腹魔物娘に突撃した。
その、次の瞬間だった。
「......高みに達したつもりのようだけど......本物の高みは遥か彼方よ、今教えてあげる。行くわよ、ダーリン」
「こっちも行くぞ、我が夫よ!!」
「私もイクわぁ〜」
ダークヴァルキリーが身の丈以上の巨大な大槍を、ギルタブリルがカットラスト鋏を、デュラハンが二刀の大剣を振るうと、その衝撃波が教団兵500人を軍団長諸共空中へ吹き飛ばした。
『『『『うわぁー!!』』』』
空中へ飛ばされた兵士は、バラバラと地上へ落下し、全員が戦闘不能に陥ってしまった。
なんとか耐えた超勇者三人は、それを見て絶句していた。
「なん...だと...」
「教団精鋭の500人の戦士が、たった武器の一振り......だと!?」
「落ち着け、これだけの威力の攻撃を繰り出したんだ、残存魔力はそこそこでしかないだろう」
唖然とする槍の超勇者、弓の超勇者。
だが、剣の超勇者は冷静に戦況を見る。
「そうだ、初手を取れば勝てると思うなよ」
「ふっ、俺たちがいれば千人力よ!!」
「行くぞ!!」
駆け出した三人と、迎え撃つ三人。
剣の超勇者はデュラハン、
槍の超勇者はダークヴァルキリー、
弓の超勇者はギルタブリル と戦闘を開始した......。
「我が光の矢を連射できる神弓が当たらないだと!?」
「ふっ、多脚の機動力は物凄いのよ?」
超高速で連射される光の矢を、多脚を生かした機動力で回避するギルタブリル。
弓の超勇者は負けじと正面に回り込んで狙うも、放たれた矢は、二本のカットラスで弾き飛ばされる上に、ジリジリと間合いを詰められていく。
弓の超勇者の顎から汗が落ちる。
彼は、一つの勝負に出た。
引き絞れるだけ弓を引き絞り、全魔力を込めた矢を形成する。
その間も、すばやく駆け回りながら間合いを詰めていくギルタブリル。
残された距離は5m...という距離で、ギルタブリルは勇者に飛びかかった。
勇者は動いた。
あえて体勢を崩し自分の上にいるギルタブリルに矢を放った......。
だが、勝負には勝てなかった。
魔力を纏わせてブーストを掛けた両手のカットラスに矢を粉砕され、神弓も残る鋏で粉砕され、完全に戦う力を奪われてしまった。
加えて、ギルタブリルの全身に押しつぶされ、地面に叩きつけられてしまった。
「くっ、ただの魔物の力じゃない......魔物はどういう手段を開発したというのだ......」
「ひとつ教えておくなら......これは私一人の力じゃない、ってことよ」
「な...に......ぐふっ...」
弓の超勇者は気絶、ギルタブリルの勝利であった。
「さーて、他はどうなったかしら......」
「一撃一撃が凄まじい...ッ!!」
開戦から槍の超勇者はずっと押されていた。
ダークヴァルキリーがパワーとスピードを併せ持っているタイプだったからである。
「これならどうだ!?」
槍の超勇者が超高速の突きを連発する。
「それにはこれよ〜」
ダークヴァルキリーが槍をブォンッ...と音させて仰ぐと、紫色の炎が放射された。
「おわわわわわっ、これはアカン!!」
慌ててバックステップで下がるも、前髪がチリチリに焦げてしまった。
「クッソ前髪が......にしても、こりゃただの炎じゃねえな」
「当たりです〜、これは私と夫の魔力を混ぜて放出したものでして〜」
「魔力放出だと!? 魔物だったら、魔力が枯渇して動けなくなるはずじゃ!?」
「それがそうでもないんですよ〜?」
「......クッソ、何でもありかよ...なら」
超勇者は、持つ槍に渾身の魔力を込めだした。
「なんでもアリなら、こっちもなんでもアリだよなぁ!?」
「来なさい、ダーリンとの愛の力、見せてあげるワ」
超勇者の槍に水色の魔力が収束し、螺旋状のオーラを纏っていく。
ダークヴァルキリーは負けじと大槍を構え、魔力を込める。
大槍に魔力を込めると、見る見る槍が巨大化していく。
チャージを許すと撃ち負ける......と判断した槍超勇者は、打って出た。
「喰らいッ......やがれッ!!!」
渾身の投擲で放たれた槍は、凄まじい風を纏い、回転して突っ込んでいく。
ダークヴァルキリーは、それを冷静に見つめ、得物に炎を纏わせて、そして渾身の力で、巨槍を振るった。
凄まじい爆音が響いた。
天高く土煙も舞う。
魔力を使い果たした上に、渾身の投擲で筋肉も痛めた槍超勇者が、これなら仕留められたハズと思っていると......。
ブンッと元の大きさに戻った大槍を担いだダークヴァルキリーが土煙から出てきた。
それも無傷で。
「......アハハハハッ......無傷かよ......ガクッ」
体力も魔力も使い果たし、地に伏せる槍超勇者。
己が勝ったことを確認し、ドンッと音を立てて槍の石突を地に付けたダークヴァルキリー。
そして、膨れた腹を撫で回しながら呟いた。
「勝ったッ...勝ったわよ、ダーリンのおかげねっ♥」
弓・槍の超勇者が敗北、残るは一組だった。
ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ。
光を帯びる聖剣で連撃を放つ剣超勇者。
だが、デュラハンはその全てを防ぐ。
勇者が上段から一撃を叩き込むも、デュラハンは二刀の大剣をクロスして防ぎ切る。
「見かけによらず、凄まじい剛腕だな、君はッ!!」
「......あまり、馬鹿力馬鹿力を言うな」
「お前の方が非力に見えてくるぞ」
デュラハンは、クロスした大剣を広げて、剣超勇者を吹き飛ばす。
吹っ飛ばされ、転がって土埃にまみれた剣超勇者は、剣を杖替わりにして立ち上がる。
「なぜ、なぜ、身重の体で、そこまで戦える!? 腹の中の子供が愛しくは無いのかッ!?」
「......生憎だったな、腹の中身は子供ではない」
「...なにっ...!? じゃあ、何が...」
「知りたいか? まあいい、教えてやろう。腹の中身は
私の夫だ」
「......冗談だろ!? そんなことで、ここまでの超強化だと!?」
「冗談ではない、魔物娘が活動するには、人間の男の精が必要。魔法を使うにしても、体を動かすにしても、精は消費される。それは揺るぎない。そこで私たちのお偉い様は考えた。
常に精を補給できれば、魔物娘の能力は飛躍的に高まる、と」
とても真剣な顔で、デュラハンは語る。
「そんなアホみたいな理由で納得できるか!! なら、その夫ごと消し飛ばしてやる!!」
後方へ下がり、広く間合いとった剣超勇者。
上段・兜割りをするがごとく聖剣を構え、魔力を聖剣に収束する。
収束された魔力は、黄昏色の光を帯び、凄まじい様相になっていく。
だが、デュラハンは動じなかった。
「行くぞ、ストームブリンガー、モーンブレイド、我が夫よ」
ただ四言だけ呟き、頭上に双剣を構える。
そして、剣に全力全開の魔力を注ぎ込む。
対峙している剣超勇者は、足を一歩踏み出す。
「喰らえっ......エクス...」
聖剣を全力で振り下ろす。
その刹那、光の斬撃が切っ先から放たれた。
一瞬間を置き、デュラハンが光に突っ込んだ。
デュラハンは光の奔流を二本の剣で両断しながら、勇者に肉薄する。
40秒経過したとき、勇者と鍔迫り合う距離まで接近した。
そして、渾身の力で聖剣と勇者に剣を振り下ろした。
ドガーン!!!
凄まじい音を立てながら、後方へ吹き飛ばされて気に激突する剣超勇者。
その場に残されたのは、肩で息をしながら剣を振り下ろした体勢のままのデュラハンと、真っ二つに折られた聖剣だった。
勇者に立ち上がる力は無かった。
デュラハンは、勝った。
三人は勝った。
デュラハンは力尽きたようで、ガクッと膝をつく。
そして、バタッと背から地面に倒れこみ、一言。
「勝った......」
魔物娘の歴史に、新たな一節が刻まれた瞬間だった。
その頃。
「...計算以上に強力でしたなー......」
魔王城にて。
パワーアップ術式を開発したリーマと魔王が、魔法陣に映し出された映像を見ていた。
ちょうどデュラハンが聖剣を叩き折った直後の映像を見て、魔王が呟く。
「これは魔物娘でなければ、オーバーキルではなるかもな......」
「...まさか、ここまで強力になるとは......」
頭を抱える魔王とリッチ。
......教団の天下も、そう遠くない未来に潰える.....かもしれなかった。
「......それと、ひとつ気になるのだが、なぜ胎内回帰なのだ?」
「あぁ、それは私の趣味です」
「......お前という奴は...」
玉座に座る魔王に、一人のリッチ......ドクター・リーマが歩み寄り、跪いた。
「魔王様、以前から研究していた、魔物娘の驚異的な強化方法が実用段階に至りました」
「ほぅ、して、その方法とは?」
「簡単なことです、魔物娘が動くために必要なのは、人間の殿方の精。一度戦闘になると、日常生活を送るより消耗するペースは速い......ならば、消耗させねばよかったです」
「......なるほど、そうきたか」
「そして、この書類に強化方法を記しております」
「どれどれ...」
そして、しばらく経過......。
魔王城から十数km離れた森の中に......教団の兵士たちが潜伏していた。
「いいか! 崇高なる教団の、500の精鋭戦士たちよ!! 今から我らは、魔物共の国に攻め込む!! 潜入していた密偵の情報によると、魔物どもは自分たちの戦闘能力を飛躍的に高める方法を開発したらしい。それを初期段階で使用不能にするための交戦だ!! 気を引き締めろ!!」
『『『『イエッサー!!』』』』
「そして教皇は、こちらに超勇者を三名ものも派遣してくださった......」
「ふっ、そうだ、その通りだとも。この弓の超勇者と」
「俺様、槍の超勇者」
「そして、真打・剣の超勇者が揃っている。負ける道理などない!!」
その時だった......。
「お前たち、本当につまらないことしてるな」
「だっ、誰だ!!」
そこには、国の門から出てきた、カットラス二刀流のギルタブリル、
大盾と見紛うほどの巨刃を付けた大槍を片手で軽々と振り回すダークヴァルキリー、
大剣を二刀流で扱うデュラハンの三人が魔物娘特有の禍々しくも美しい甲冑を纏い、こちらに進軍してきた。
「うっ、うろたえる......な?」
「......!??」
「!?」
軍団長をはじめ、兵士・超勇者全員が目を疑った。
なにせ......。
「なんだ、この腹がそんなに気になるか?」
「そりゃ、身重な体で戦場に出てきたと知ったら、いくら俺たちでも驚くわ!!」
三人の魔物娘は......ボテ腹だったのだ。
それも、今月にでも生まれるのでは......というほどの。
魔物というのは、身重な個体をも戦いに駆り出すのか......と、気が抜けた様子の教団兵たち。
超勇者三人も同様だった。
「勝ったぞ、この戦い、我々の勝利だ!!」
剣の勇者が高らかに叫ぶ。
軍団長も間髪入れずに叫ぶ。
「掛かれェ!!!」
『『『『オォーッ!!!』』』』
軍団長の掛け声と共に、教団兵・計500人は、三人のボテ腹魔物娘に突撃した。
その、次の瞬間だった。
「......高みに達したつもりのようだけど......本物の高みは遥か彼方よ、今教えてあげる。行くわよ、ダーリン」
「こっちも行くぞ、我が夫よ!!」
「私もイクわぁ〜」
ダークヴァルキリーが身の丈以上の巨大な大槍を、ギルタブリルがカットラスト鋏を、デュラハンが二刀の大剣を振るうと、その衝撃波が教団兵500人を軍団長諸共空中へ吹き飛ばした。
『『『『うわぁー!!』』』』
空中へ飛ばされた兵士は、バラバラと地上へ落下し、全員が戦闘不能に陥ってしまった。
なんとか耐えた超勇者三人は、それを見て絶句していた。
「なん...だと...」
「教団精鋭の500人の戦士が、たった武器の一振り......だと!?」
「落ち着け、これだけの威力の攻撃を繰り出したんだ、残存魔力はそこそこでしかないだろう」
唖然とする槍の超勇者、弓の超勇者。
だが、剣の超勇者は冷静に戦況を見る。
「そうだ、初手を取れば勝てると思うなよ」
「ふっ、俺たちがいれば千人力よ!!」
「行くぞ!!」
駆け出した三人と、迎え撃つ三人。
剣の超勇者はデュラハン、
槍の超勇者はダークヴァルキリー、
弓の超勇者はギルタブリル と戦闘を開始した......。
「我が光の矢を連射できる神弓が当たらないだと!?」
「ふっ、多脚の機動力は物凄いのよ?」
超高速で連射される光の矢を、多脚を生かした機動力で回避するギルタブリル。
弓の超勇者は負けじと正面に回り込んで狙うも、放たれた矢は、二本のカットラスで弾き飛ばされる上に、ジリジリと間合いを詰められていく。
弓の超勇者の顎から汗が落ちる。
彼は、一つの勝負に出た。
引き絞れるだけ弓を引き絞り、全魔力を込めた矢を形成する。
その間も、すばやく駆け回りながら間合いを詰めていくギルタブリル。
残された距離は5m...という距離で、ギルタブリルは勇者に飛びかかった。
勇者は動いた。
あえて体勢を崩し自分の上にいるギルタブリルに矢を放った......。
だが、勝負には勝てなかった。
魔力を纏わせてブーストを掛けた両手のカットラスに矢を粉砕され、神弓も残る鋏で粉砕され、完全に戦う力を奪われてしまった。
加えて、ギルタブリルの全身に押しつぶされ、地面に叩きつけられてしまった。
「くっ、ただの魔物の力じゃない......魔物はどういう手段を開発したというのだ......」
「ひとつ教えておくなら......これは私一人の力じゃない、ってことよ」
「な...に......ぐふっ...」
弓の超勇者は気絶、ギルタブリルの勝利であった。
「さーて、他はどうなったかしら......」
「一撃一撃が凄まじい...ッ!!」
開戦から槍の超勇者はずっと押されていた。
ダークヴァルキリーがパワーとスピードを併せ持っているタイプだったからである。
「これならどうだ!?」
槍の超勇者が超高速の突きを連発する。
「それにはこれよ〜」
ダークヴァルキリーが槍をブォンッ...と音させて仰ぐと、紫色の炎が放射された。
「おわわわわわっ、これはアカン!!」
慌ててバックステップで下がるも、前髪がチリチリに焦げてしまった。
「クッソ前髪が......にしても、こりゃただの炎じゃねえな」
「当たりです〜、これは私と夫の魔力を混ぜて放出したものでして〜」
「魔力放出だと!? 魔物だったら、魔力が枯渇して動けなくなるはずじゃ!?」
「それがそうでもないんですよ〜?」
「......クッソ、何でもありかよ...なら」
超勇者は、持つ槍に渾身の魔力を込めだした。
「なんでもアリなら、こっちもなんでもアリだよなぁ!?」
「来なさい、ダーリンとの愛の力、見せてあげるワ」
超勇者の槍に水色の魔力が収束し、螺旋状のオーラを纏っていく。
ダークヴァルキリーは負けじと大槍を構え、魔力を込める。
大槍に魔力を込めると、見る見る槍が巨大化していく。
チャージを許すと撃ち負ける......と判断した槍超勇者は、打って出た。
「喰らいッ......やがれッ!!!」
渾身の投擲で放たれた槍は、凄まじい風を纏い、回転して突っ込んでいく。
ダークヴァルキリーは、それを冷静に見つめ、得物に炎を纏わせて、そして渾身の力で、巨槍を振るった。
凄まじい爆音が響いた。
天高く土煙も舞う。
魔力を使い果たした上に、渾身の投擲で筋肉も痛めた槍超勇者が、これなら仕留められたハズと思っていると......。
ブンッと元の大きさに戻った大槍を担いだダークヴァルキリーが土煙から出てきた。
それも無傷で。
「......アハハハハッ......無傷かよ......ガクッ」
体力も魔力も使い果たし、地に伏せる槍超勇者。
己が勝ったことを確認し、ドンッと音を立てて槍の石突を地に付けたダークヴァルキリー。
そして、膨れた腹を撫で回しながら呟いた。
「勝ったッ...勝ったわよ、ダーリンのおかげねっ♥」
弓・槍の超勇者が敗北、残るは一組だった。
ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ。
光を帯びる聖剣で連撃を放つ剣超勇者。
だが、デュラハンはその全てを防ぐ。
勇者が上段から一撃を叩き込むも、デュラハンは二刀の大剣をクロスして防ぎ切る。
「見かけによらず、凄まじい剛腕だな、君はッ!!」
「......あまり、馬鹿力馬鹿力を言うな」
「お前の方が非力に見えてくるぞ」
デュラハンは、クロスした大剣を広げて、剣超勇者を吹き飛ばす。
吹っ飛ばされ、転がって土埃にまみれた剣超勇者は、剣を杖替わりにして立ち上がる。
「なぜ、なぜ、身重の体で、そこまで戦える!? 腹の中の子供が愛しくは無いのかッ!?」
「......生憎だったな、腹の中身は子供ではない」
「...なにっ...!? じゃあ、何が...」
「知りたいか? まあいい、教えてやろう。腹の中身は
私の夫だ」
「......冗談だろ!? そんなことで、ここまでの超強化だと!?」
「冗談ではない、魔物娘が活動するには、人間の男の精が必要。魔法を使うにしても、体を動かすにしても、精は消費される。それは揺るぎない。そこで私たちのお偉い様は考えた。
常に精を補給できれば、魔物娘の能力は飛躍的に高まる、と」
とても真剣な顔で、デュラハンは語る。
「そんなアホみたいな理由で納得できるか!! なら、その夫ごと消し飛ばしてやる!!」
後方へ下がり、広く間合いとった剣超勇者。
上段・兜割りをするがごとく聖剣を構え、魔力を聖剣に収束する。
収束された魔力は、黄昏色の光を帯び、凄まじい様相になっていく。
だが、デュラハンは動じなかった。
「行くぞ、ストームブリンガー、モーンブレイド、我が夫よ」
ただ四言だけ呟き、頭上に双剣を構える。
そして、剣に全力全開の魔力を注ぎ込む。
対峙している剣超勇者は、足を一歩踏み出す。
「喰らえっ......エクス...」
聖剣を全力で振り下ろす。
その刹那、光の斬撃が切っ先から放たれた。
一瞬間を置き、デュラハンが光に突っ込んだ。
デュラハンは光の奔流を二本の剣で両断しながら、勇者に肉薄する。
40秒経過したとき、勇者と鍔迫り合う距離まで接近した。
そして、渾身の力で聖剣と勇者に剣を振り下ろした。
ドガーン!!!
凄まじい音を立てながら、後方へ吹き飛ばされて気に激突する剣超勇者。
その場に残されたのは、肩で息をしながら剣を振り下ろした体勢のままのデュラハンと、真っ二つに折られた聖剣だった。
勇者に立ち上がる力は無かった。
デュラハンは、勝った。
三人は勝った。
デュラハンは力尽きたようで、ガクッと膝をつく。
そして、バタッと背から地面に倒れこみ、一言。
「勝った......」
魔物娘の歴史に、新たな一節が刻まれた瞬間だった。
その頃。
「...計算以上に強力でしたなー......」
魔王城にて。
パワーアップ術式を開発したリーマと魔王が、魔法陣に映し出された映像を見ていた。
ちょうどデュラハンが聖剣を叩き折った直後の映像を見て、魔王が呟く。
「これは魔物娘でなければ、オーバーキルではなるかもな......」
「...まさか、ここまで強力になるとは......」
頭を抱える魔王とリッチ。
......教団の天下も、そう遠くない未来に潰える.....かもしれなかった。
「......それと、ひとつ気になるのだが、なぜ胎内回帰なのだ?」
「あぁ、それは私の趣味です」
「......お前という奴は...」
16/03/10 21:02更新 / 妖怪人間ボム