BAR『バッカナリア』にて
「もうサイッテーだ!! 女なんて大っ嫌いだ!!」
俺は、バー『酒神祭(バッカナリア)』にて、やけ酒を煽っていた。
答えは簡単、3年間付き合っていた彼女が二股をかけていたのだ。
いざ同棲している自宅に帰ると、知らない男との情事の後だった。
しかも、
「二股して何が悪いの〜? 人のこと拘束しないでくれる〜?」
...と抜かしてきた。
そんなこんなで同棲を解消し、一人暮らしを始めたとたん、いろいろと溢れ出してきて、このザマである。
カウンター席でガンガン飲んでいる俺に、白蛇のバーテンダーが心配そうに話しかけてきた。
「お客さん、気持ちは分かるけど、少しは体のこと気を付けないと...」
「わかってるよ!! でも、今日くらい好きなだけ飲ませてくれよぉ......」
そう言って、俺はワインを一注ぎし、本日三杯目を一気飲み。
そして、グラスとドンと叩きつけるように置いた。
その時、背後から肩をポンポンと叩き、話しかけてきた奴がいた。
「お兄さんお兄さん、女なんて大嫌いって言ってたねぇ? なら......魔物の女も嫌いかな?」
振り向くとそこには、某身長3.2mのダークライダーのような......もとい山羊のような角と、同じく山羊のような脚を持った女......サテュロスが、白いワイシャツに黒いベスト、黒いズボンと、二人で一人のライダーの探偵の方?から帽子を抜いたような格好で立っていた。
「...今日は一人で飲みたい気分なんだ、放っておいてくれないか」
「まぁまぁ、そんな辛気臭いこと言うもんじゃないよ。辛いことだって二人で半分こすれば、2分の1になるんだしさ」
「.........」
俺の言葉を半分くらい受け流し、女は隣の席に座る。
そして、俺からワインボトルを取り上げると、自信満々に言った。
「じゃあ、こうしよう。君にビビッとくるワインをご馳走できたらでいい。何があったか聞かせてくれないかな? 二人で飲みながら、さ」
「......あぁ、わかったよ、やれるもんならやってみろよ」
「オーケー、話を聞いてくれてありがとう♥」
にっこり笑った女は、バーテンダーに向いた。
「いつものワインを持ってきれくれ」
「いつものって......5本くらいあるけど?」
「一番いいのを頼む」
「分かりました〜」
そう言ってバーテンダーの白蛇が持ってきたのは、年代物のボトルだった。
バーテンダーからボトルを受け取ったサテュロスは、ボトルを振りながら言った。
「これはね、最上級のサテュロス製の赤ワインさ。かーなーり自信があるから、そのつもりでね?」
「はっ、俺だって酒の舌が肥えてんだ、そう簡単には......」
サテュロスに注いでもらったワインを一口飲むと......俺の表情は、驚愕で朱に染まった。
「なっ、なんじゃこりゃー!!」
思わず、太陽にほえるリアクションを取ってしまう。
「フフフ、これは僕の実家で作っている最高級ワインさ。最初からこうなることは決まっていたのさ」
「...ずるいぞ...」
「まぁ、賭けは賭けだし、話...聞かせてもらえるかな?」
サテュロスは、顔の前で手を組みながら、両手肘をつく......ゲ○ドウのポーズをしながらこちらを見てくる。
しょうがないか。
話をするだけでも......。
俺はチビチビをワインを飲みながら、ポツリ、ポツリと口を開いた。
話が佳境に入っていくに連れて、真剣そうな、深刻そうな表情に、眼差しになっていくサテュロス。
話が終わると、一言発した。
「最低、だね。カップルが分かれる理由としちゃ、下の下の下だね」
「ひっくいなぁ......。否定はしないけどさ」
俺はワインを一口飲んだ。
サテュロスも、自分のグラスにワインを注ぎ、ゴクッゴクッと音を立ててワインを飲み干す。
飲み干すと、プハーと言いながら、そっとグラスを置いた。
「......ひとつ聞くんだけど、何がきっかけで付き合い始めたんだい?」
サテュロスは聞いた。
「向こうから付き合ってっていってきた。なのに、これだよ」
「そうかい......」
しんみりした声を漏らしながら、何かを考え込んでいるサテュロス。
そして、何か決まったのか、カウンターをバンッと叩いて、「よし!」と言った。
「そんな傷心の君に、この笛で一曲捧げたい。......いいかな?」
「別に...いいけど。でも、なんかピアノマンが演奏してるぜ?」
「あんなの、一声かければ代わってくれるよ」
そう言って、サテュロスはピアノマンに声を掛けて交渉し始めた。
サテュロスがこちらを手で指し、ピアノマンはチラッと視線を向けた。
そして、首を縦に振り、快諾してしまった。
なん...だと...。
サテュロスは、息を吸い込むと、肩に斜めがけしている角笛を吹き出した。
その曲は......。
「パッヘルベルの......『カノン』?」
その旋律は、ドイツの作曲家、ヨハン・パッヘルベルの『カノン』だった。
卒業式、結婚式、離任式の定番の、あの曲である。
角笛で吹いているとは思えない、蠱惑的な、艶のある音色であった。
耳にすると、意識が、心が、何もかもが、融け出していく。
でも、なんで...?
サテュロスが演奏を終えると、店内に雷の如き喝采が溢れた。
フフフと笑いながら数度お辞儀をし、それからこちらに戻ってきた。
まだ若干頭がとろけている俺に、感想を求めてきた。
「どうだった?」
「最高だった......」
「それは行幸」
サテュロスは演奏する前にグラスに残していったワインをクイッと煽り、トンッとグラスを置いた。
そして、なにを思ったか、そっと俺の肩を抱き寄せた。
「えっ......」
驚いてサテュロスの顔を見る。
サテュロスはとても真剣そうな顔をしていた。
「なぁ.........そんな最低な女なんて、忘れちまえよ」
「...えっ? えっ?」
「私なら、君を絶対に幸せにできるよ? だから、そんな悪い女なんて忘れてくれよ」
「えっ、あっ、えっ、あのっ.........................」
溶けた頭は加えて茹だり、もう思考を進めることは叶わなかった。
長い沈黙の末、俺は......。
(コクンッ)
首を縦に振ってしまった。
その瞬間、本日二度目の拍手喝采が起きる。
「おめでとー!!」
「マスター、赤飯だ!!」
「末永く爆発しろ!!」
サテュロスは会釈しまくっている。
一方の俺は、サテュロスの腕の中で大人しくしていた。
顔を真っ赤にして。
会釈もそこそこに、サテュロスは口を開く。
「さぁて、これからの時間は、私の家での二次会にしないかい? 非売品のおいしいワインもあるよ?」
「......いく」
「決まりだ!! マスター会計ね。勘定は全部私につけて」
サテュロスが会計を済ませ用としているのが、ぼんやりとしか分からなかった。
もう、俺の頭は何も考えられなくなっていたのだった......。
チュンチュン......。
目の前のサテュロスが目を覚ました。
俺は毛布に包まり、目から上だけを出している。
「うーん......おー、おはよう。って、君、寝てないの?」
(コクン)
「そうかぁ......そうだ、朝ごはん食べられる?」
(...コクン)
「よし、とびきりおいしい、カルボナーラトーストを作ってあげようじゃないか」
サテュロスは、バッとベッドから起き上がる。
「だけど、その前に一緒にシャワーを浴びないかい?」
(............コクン)
「よし。......今日、まだ一回も喋ってないけど大丈夫?」
(コクンコクン)
「ならいいけどさぁ」
そう言って彼女は、タンスをゴソゴソ探り始めた。
それを見つめながら、俺は思った。
彼女は、俺を酒と同時に、とんでもないものにも溺れさせたらしい。
それは何かって?
言わせるなよ、馬鹿。
fin.
俺は、バー『酒神祭(バッカナリア)』にて、やけ酒を煽っていた。
答えは簡単、3年間付き合っていた彼女が二股をかけていたのだ。
いざ同棲している自宅に帰ると、知らない男との情事の後だった。
しかも、
「二股して何が悪いの〜? 人のこと拘束しないでくれる〜?」
...と抜かしてきた。
そんなこんなで同棲を解消し、一人暮らしを始めたとたん、いろいろと溢れ出してきて、このザマである。
カウンター席でガンガン飲んでいる俺に、白蛇のバーテンダーが心配そうに話しかけてきた。
「お客さん、気持ちは分かるけど、少しは体のこと気を付けないと...」
「わかってるよ!! でも、今日くらい好きなだけ飲ませてくれよぉ......」
そう言って、俺はワインを一注ぎし、本日三杯目を一気飲み。
そして、グラスとドンと叩きつけるように置いた。
その時、背後から肩をポンポンと叩き、話しかけてきた奴がいた。
「お兄さんお兄さん、女なんて大嫌いって言ってたねぇ? なら......魔物の女も嫌いかな?」
振り向くとそこには、某身長3.2mのダークライダーのような......もとい山羊のような角と、同じく山羊のような脚を持った女......サテュロスが、白いワイシャツに黒いベスト、黒いズボンと、二人で一人のライダーの探偵の方?から帽子を抜いたような格好で立っていた。
「...今日は一人で飲みたい気分なんだ、放っておいてくれないか」
「まぁまぁ、そんな辛気臭いこと言うもんじゃないよ。辛いことだって二人で半分こすれば、2分の1になるんだしさ」
「.........」
俺の言葉を半分くらい受け流し、女は隣の席に座る。
そして、俺からワインボトルを取り上げると、自信満々に言った。
「じゃあ、こうしよう。君にビビッとくるワインをご馳走できたらでいい。何があったか聞かせてくれないかな? 二人で飲みながら、さ」
「......あぁ、わかったよ、やれるもんならやってみろよ」
「オーケー、話を聞いてくれてありがとう♥」
にっこり笑った女は、バーテンダーに向いた。
「いつものワインを持ってきれくれ」
「いつものって......5本くらいあるけど?」
「一番いいのを頼む」
「分かりました〜」
そう言ってバーテンダーの白蛇が持ってきたのは、年代物のボトルだった。
バーテンダーからボトルを受け取ったサテュロスは、ボトルを振りながら言った。
「これはね、最上級のサテュロス製の赤ワインさ。かーなーり自信があるから、そのつもりでね?」
「はっ、俺だって酒の舌が肥えてんだ、そう簡単には......」
サテュロスに注いでもらったワインを一口飲むと......俺の表情は、驚愕で朱に染まった。
「なっ、なんじゃこりゃー!!」
思わず、太陽にほえるリアクションを取ってしまう。
「フフフ、これは僕の実家で作っている最高級ワインさ。最初からこうなることは決まっていたのさ」
「...ずるいぞ...」
「まぁ、賭けは賭けだし、話...聞かせてもらえるかな?」
サテュロスは、顔の前で手を組みながら、両手肘をつく......ゲ○ドウのポーズをしながらこちらを見てくる。
しょうがないか。
話をするだけでも......。
俺はチビチビをワインを飲みながら、ポツリ、ポツリと口を開いた。
話が佳境に入っていくに連れて、真剣そうな、深刻そうな表情に、眼差しになっていくサテュロス。
話が終わると、一言発した。
「最低、だね。カップルが分かれる理由としちゃ、下の下の下だね」
「ひっくいなぁ......。否定はしないけどさ」
俺はワインを一口飲んだ。
サテュロスも、自分のグラスにワインを注ぎ、ゴクッゴクッと音を立ててワインを飲み干す。
飲み干すと、プハーと言いながら、そっとグラスを置いた。
「......ひとつ聞くんだけど、何がきっかけで付き合い始めたんだい?」
サテュロスは聞いた。
「向こうから付き合ってっていってきた。なのに、これだよ」
「そうかい......」
しんみりした声を漏らしながら、何かを考え込んでいるサテュロス。
そして、何か決まったのか、カウンターをバンッと叩いて、「よし!」と言った。
「そんな傷心の君に、この笛で一曲捧げたい。......いいかな?」
「別に...いいけど。でも、なんかピアノマンが演奏してるぜ?」
「あんなの、一声かければ代わってくれるよ」
そう言って、サテュロスはピアノマンに声を掛けて交渉し始めた。
サテュロスがこちらを手で指し、ピアノマンはチラッと視線を向けた。
そして、首を縦に振り、快諾してしまった。
なん...だと...。
サテュロスは、息を吸い込むと、肩に斜めがけしている角笛を吹き出した。
その曲は......。
「パッヘルベルの......『カノン』?」
その旋律は、ドイツの作曲家、ヨハン・パッヘルベルの『カノン』だった。
卒業式、結婚式、離任式の定番の、あの曲である。
角笛で吹いているとは思えない、蠱惑的な、艶のある音色であった。
耳にすると、意識が、心が、何もかもが、融け出していく。
でも、なんで...?
サテュロスが演奏を終えると、店内に雷の如き喝采が溢れた。
フフフと笑いながら数度お辞儀をし、それからこちらに戻ってきた。
まだ若干頭がとろけている俺に、感想を求めてきた。
「どうだった?」
「最高だった......」
「それは行幸」
サテュロスは演奏する前にグラスに残していったワインをクイッと煽り、トンッとグラスを置いた。
そして、なにを思ったか、そっと俺の肩を抱き寄せた。
「えっ......」
驚いてサテュロスの顔を見る。
サテュロスはとても真剣そうな顔をしていた。
「なぁ.........そんな最低な女なんて、忘れちまえよ」
「...えっ? えっ?」
「私なら、君を絶対に幸せにできるよ? だから、そんな悪い女なんて忘れてくれよ」
「えっ、あっ、えっ、あのっ.........................」
溶けた頭は加えて茹だり、もう思考を進めることは叶わなかった。
長い沈黙の末、俺は......。
(コクンッ)
首を縦に振ってしまった。
その瞬間、本日二度目の拍手喝采が起きる。
「おめでとー!!」
「マスター、赤飯だ!!」
「末永く爆発しろ!!」
サテュロスは会釈しまくっている。
一方の俺は、サテュロスの腕の中で大人しくしていた。
顔を真っ赤にして。
会釈もそこそこに、サテュロスは口を開く。
「さぁて、これからの時間は、私の家での二次会にしないかい? 非売品のおいしいワインもあるよ?」
「......いく」
「決まりだ!! マスター会計ね。勘定は全部私につけて」
サテュロスが会計を済ませ用としているのが、ぼんやりとしか分からなかった。
もう、俺の頭は何も考えられなくなっていたのだった......。
チュンチュン......。
目の前のサテュロスが目を覚ました。
俺は毛布に包まり、目から上だけを出している。
「うーん......おー、おはよう。って、君、寝てないの?」
(コクン)
「そうかぁ......そうだ、朝ごはん食べられる?」
(...コクン)
「よし、とびきりおいしい、カルボナーラトーストを作ってあげようじゃないか」
サテュロスは、バッとベッドから起き上がる。
「だけど、その前に一緒にシャワーを浴びないかい?」
(............コクン)
「よし。......今日、まだ一回も喋ってないけど大丈夫?」
(コクンコクン)
「ならいいけどさぁ」
そう言って彼女は、タンスをゴソゴソ探り始めた。
それを見つめながら、俺は思った。
彼女は、俺を酒と同時に、とんでもないものにも溺れさせたらしい。
それは何かって?
言わせるなよ、馬鹿。
fin.
16/01/13 21:29更新 / 妖怪人間ボム