犬も喰わないこの始末
「……この、バカ者があああああぁぁぁぁっ」
アマゾネスの集落の朝に怒号が響き渡った。一件の家から聞こえるそれはもはや朝の風物詩となっている。
近所の家は思う、ああまたあの家かと。もしくはその大音響を目覚ましにしている者もいる。
「妻である私を残し寝床を離れるとはどういう了見だ! お前には妻を労う甲斐性はないのか!」
「……申し訳ありません」
家の中ではアマゾネスが夫の胸ぐらを掴みまくし立てている。夫は特に抵抗せずに少し目を伏せて謝罪の言葉を口にしていた。
「……なぜ私を見ない? 反省は口だけか?」
言いながら投げ付けるように胸ぐらを掴んだ手を離すと、夫はすぐに正座をし、アマゾネスを見て口を開く。
「私は愚かにも妻を省みず、一人で勝手に床を離れました馬鹿亭主でございます。糧を与えてくださる妻をないがしろにしたことをここに深く謝罪させていただきます」
「いいか、夫は妻に奉仕する義務がある。お前はそれを怠った。義務も満足に果たせないような男は必要ないんだ」
「……はい」
完全に言いがかりである。もし夫が床を離れずアマゾネスと布団にくるまっていたとしたら、アマゾネスはこう言うだろう。
「いつまで寝ているつもりだ、着替えはどうした。夫の役割も果たせないのか」と。
「わかったらさっさと奉仕しろ! もたもたするんじゃないグズが!」
「……申し訳ありません」
怒鳴りながら足を夫の顔に押し付るアマゾネス。夫は正座のまま顔を上げて踏まれるがまま、ぴちゃぴちゃと音を立てながら懸命に舌を伸ばしアマゾネスの足裏に擦り付ける。
普段野山を駆け回っているとは思えないほどにスベスベしたアマゾネスの足裏に夫の唾液がぬるぬると滑っていく。
「もういい、やめろ」
苛立った声に夫はぴたりと舌の奉仕を止めた。
「相変わらず下手くそな口技だ。何時になったらお前は私を悦ばせることが出来るんだ?」
「……申し訳、ありません」
「この能なしが」
アマゾネスは夫を蹴り倒すと片足を股間に近付ける。一枚の布を腰ひもで留めただけの簡素な服は少し肌けただけで性器が露出するようになっていた。
眼前に晒された夫の性器を足でしごき始める。夫の性器は見る間に大きく膨れ上がり張りつめていく。
「……ふん、堪え性の無い奴め。私を無視して自分だけ気持ちよくなるとは」
言いながら器用に足指を使い夫の性器をしごくアマゾネス。亀頭を掴むように揉みしだき、指の間に挟んで上下させ、つま先で転がすように弄る。
「……ぐうっ」
夫はうめき声をあげ必死に堪えるが、限界が近いことは目に見えている。アマゾネスはそんな夫を冷たい目で見ながら罵倒する。
「もう出そうなのか。男の中でもとびきり情けないなお前は」
「くぅ……ぐぐっ」
嘲りの言葉に肉棒をを跳ねさせる夫を見て、その瞳の侮蔑の色がさらに濃く映った。
「ほら、さっさとイってしまえ。夫の仕事を満足にこなせないゴミ男が」
「……ぐ、くあっ、……くはぁぁぁっ! ……ううっ」
アマゾネスに罵倒されながら夫は精液を噴き上げた。射精後の虚脱感か、それとも自分の情けなさを恥じているのか、虚ろな目で横たわる。
「女に金玉を蹴り転がされてイクとは、たいした変態だな」
「…………」
「礼はどうした?」
「……射精させていただいて、ありがとうございました」
上から見下ろされ、這いつくばって頭を下げる夫。抑揚のない声と諦念の表情が哀れさを引き立てていた。
他のアマゾネスの声で外が賑わい始める。狩りへと出る時間が近い。
「ちっ、時間か。いいか、戻ったらお前の無能さをたっぷりと反省してもらうからな」
「……はい、分かりました」
妻の狩具を用意しようと立ち上がる夫。しかしアマゾネスに蹴り倒され踏みつけられる。
「誰が立ち上がっていいと言った!?」
「ぐっ!?」
「勝手なことをするな。お前は私の言う通りに動いていればいい」
「申し訳ありません」
「さっさと狩具を用意しろ! このノロマ!」
「……はい」
理不尽としか言えない仕打ちにも逆らうことが出来ず、夫は従順に妻に従う。
狩具を渡し衣装を着付け、その最中にも罵声を浴びせられながら、反抗的な態度を見せることなく淡々とアマゾネスの狩りの準備をこなしていく。
「準備一つにどれだけ手間取るつもりだ。全くお前の無能さは筆舌に尽くしたがたい」
「申し訳ありません」
「それしか言えないのが既に屑の証だな。こんなのが私の夫とは情けない」
「……」
「なんとか言ったらどうだ? 救いようのないダメ男が」
ひたすらに低姿勢に俯く男をさらに苛むアマゾネス。その目はまさにゴミを見る目だった。
「ふん、腹立たしい。今日は私が見えなくなるまで土下座のまま行ってらっしゃいませを繰り返してろ」
「……」
「……なんだ? まともなことを何一つ言えないお前でも妻を労えるんだ。いいことだろう?」
「……はい、お心遣いありがとうございます」
「分かったらさっさと外に出て土下座!」
「はい」
弾かれたように外に出て土下座し「行ってらっしゃいませ」を繰り返す夫。その姿を省みることなく、アマゾネスは横柄に外に出る。
「……またやってるのか。ほどほどにしておけよ」
「すまないな。もっとこいつが有能なら私もこんなことせずにすむのだが」
狩り部隊のリーダーが呆れたように顔をしかめる。
「おいおい、この村にいるのはお前たちだけじゃないんだぞ。他の連中が盛って狩りが滞ったら困るだろう」
「それは申し訳ない。……ほら見ろ、お前のせいで皆が迷惑している」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
ただ這いつくばって同じ言葉を続ける夫の頭を踏みつけるアマゾネス。
「お前の不届きを私が謝罪しているんだぞ。他に言うべきことがあるだろう?」
「……申し訳ありません。……申し訳ありません。……申し訳ありません」
「だからそうやっていちゃつくなと……まあいい。そろそろ出るぞ」
「ああ、……いいか、私が見えなくなるまでだ。それまでに頭を上げてみろ。裸に剥いて泣き叫ぶまでいたぶってやるからな」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「……全く朝っぱらから。……言っても無駄か。皆の者、出陣!」
「「「「「おおっ!」」」」」
狩りに向かうアマゾネスの行軍。その足音に混じり夫の「行ってらっしゃいませ」が繰り返し続いていた。
―――
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「もういいんじゃないか?」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「もう大丈夫だ。みんな行ったから」
「…………」
言いつけ通りひれ伏し同じ言葉を繰り返していた夫はアマゾネスの一軍が見えなくなるとそそくさと家に入っていった。『自分以外の者と話すな』とでも命令されているのだろう。
「……気の毒に」
「……ひど過ぎる」
「……あんまりだ」
「……俺もあんな扱いされたい」
最近連れてこられたばかりの男たちが彼の不当な扱いに憤る。
「変なこと考えるなよ。後悔するだけだから」
「そうそう。他の家のことに首突っ込むとろくなことにならないぞ」
反対に長くここに住む男たちはどこか冷めたような、達観したような口振りで彼らを諭す。
「だからって、このままでいいんですか!?」
「そうだ。ここにいる以上みんな仲間だろ?」
「仲間が酷い目にあってるのに見て見ぬふりかよ」
「……羨ましい」
「気持ちは分からんでもないが、言ったところでどうにもならんよ」
「悪いことは言わん、やめておけ」
「そんな、じゃあ彼が苦しむのを黙って見てろっていうんですか!?」
「いくらあいつらが強いからってそりゃないだろ!」
「おうおう、お前らそれでも男かよ!?」
「……妬ましい」
いきり立つ新入りに対して古参たちの歯切れは悪い。
「いや、そういう意味じゃないけど……」
「あれはあれであいつら夫婦の形なんだよ。……っと俺そろそろ洗濯行ってくる」
「あ、ああ、俺も晩飯の仕込みしなきゃ」
旗色が悪いと思ったのか古参連中はそそくさと自分の仕事に向かっていく。そんな情けない様を見て新入りたちは決心を固めた。
「彼を助けましょう」
「そうだ。このままじゃいけない」
「あんな風にゃなりたくないしな」
「……爆発しろ」
団結の印として固い握手を交わす新入りたち。いくら相手がアマゾネスとはいえ4対1だ。負けることはないだろう。
……盛り上がる彼らは気付いていなかった。家に入る直前に夫の口の端がつり上がっていたことに。なぜ彼があんな扱いを受けてなお従順にアマゾネスに従っているのかに。
―――
夜、アマゾネスたちが狩りから戻り、夕食を済ませて思い思いに旦那との一時を楽しむ時間。そんな安らぎの時の中に四つの影があった。
朝の新入り四人組だ。人目を気にしながら今朝騒ぎのあった家へと向かう。
今頃あのアマゾネスは、夫をいたぶって愉しんでいることだろう。そこを数の暴力で取り押さえてやるつもりだ。
しかし目的の家の近くに差し掛かると、意気込む彼らを阻むように近所に住むアマゾネスたちが立ち塞がる。
「……どうして僕たちがここに来ると分かったんですか?」
「大方の想像通りだろう」
「やっぱりあいつらか!?」
「新入りが変な気をおこしていると聞いて様子を見に来てみれば……」
「あんの野郎ども、どこまで腐ってやがる!?」
「……邪魔するな」
呆れたようにアマゾネスたちはため息を吐いた。この集落ではよくあることとは言え、新入りが来る度こんな感じだとさすがに滅入る。
「正直なところ力づくというのは気が引ける。痛い目に遭うのはそっちもいやだろう? おとなしく引き下がれ」
「冗談じゃありません。僕たちは彼を助けるためにここに来たんです」
「そういうことだ。引き下がってたまるか」
「多少の痛い目は覚悟してるぜ」
「……我々の業界ではご褒美です」
一触即発の空気が場を支配する。お互いが今にも飛びかかろうと身構えたところで不意に声がした。
「その辺にしとけ」
「……お前」
「暴力はまずいだろ、暴力は」
「……あなた」
朝に新入りを諭していた二人組だ。立ち塞がるアマゾネスと夫婦なのか、庇うように割って入る。
「あなたたち……」
「……何の用だ」
「返答次第じゃ覚悟しろよ」
「……」
四人は警戒を解かずに二人を睨む。対する二人組は先ほどのアマゾネスたちと同じようにため息を吐いた。
「お前らは誤解してる」
「……どういう意味ですか?」
「あいつは無理矢理あんなことをやらされてるわけじゃない」
「ああ? まさかあいつが好きこのんであんなことやってるってのか?」
新入りに詰め寄られた二人はアマゾネスの方を振り返る。
「……もう隠し事は無しにしようや」
「しかし……」
「まあ、気持ちは分からんでもないが、そんなこと言ったらお前らだって大概だぞ」
「……それは」
「個人の趣味嗜好くらい多目に見てやれよ。結局俺ら一蓮托生なんだし」
「それは、……そうだが」
アマゾネスたちは少しの間渋る素振りを見せたが、やがて観念したのか四人組を見やる。
「……そのまさかだ」
「それじゃあ」
「……俺と同類?」
「……半分正解だ」
頭を抱えるアマゾネスたち。自分たちの恥部を見られたような反応だった。
「半分?」
「見れば分かる。……あまり見せたくないのだが」
アマゾネスたちはしぶしぶといった様子で目的の家へと先導する。怪訝な顔をしながらも新入りたちはそれを追って歩き出した。
―――
……ぴしゃり
「ひぐぅっ!」
……ぴしゃり
「ぎぃっ!」
……ぴしゃり
「くぅん!」
身体を叩く音と喘ぎ声が繰り返し聞こえる。家の中には二つの影があり、手足を拘束され、膝立ちに吊るされている。
もう一つの影はそんな動けない相手の身体中を平手で打ち据えていた。
「……はぁっ、……はぁっ」
「……いい様だな」
「ひいぃっ!?」
さんざんに痛め付けた肌をなぞられて、縛られた影があられもない声をあげる。真っ赤に腫れて敏感になった肌にその刺激は心地好すぎた
「朝の威勢はどうしたんだよ? え?」
「あひっ、ひっ、ひゃあん」
「まったく惨めだな。あんなに威張り腐ってたのによ」
「あうぅ……」
「ほら、ごめんなさいはどうしたんだよ?」
「ああっ、ごめんなしゃひぃ! マゾ牝の分際でぇ、旦那様にひどいことして、あおおぉっ、ごめんなひゃいいっ!」
縛られている影、アマゾネスは息も絶え絶えに絶叫した。
ぴしゃりと強く叩かれても、ぴたぴたと肉を揺らすように触られても、くすぐるように撫でられても、夫からの刺激は全て快楽に変換されてしまう。
体中が夫の手によって赤く染められ、特に狙いを付けられている尻は真っ赤に色付き、はち切れんばかりに張りつめ、熟れきった果実のようだ。
「で、誰が役立たずだって? お前のそのどうしようもない変態性癖を夜な夜な満たしてやってるのは誰だ?」
「旦那様ですぅ、旦那様は、……はぁ、私のような卑しい生き物に、……うふぅっ、性を恵んで下さる、……いいっ、偉大なお方でふぅ!」
「俺のことを情けないとも言ってたな? その情けない男になぶられるのはどんな気分だ!」
「……あんっ、バカな牝の浅知恵でしたっ、だ、旦那様は素晴らしい……おかっ、お方ですっ!」
「ほらっ、お前が言った出来の悪い夫のチンポだよ。さんざん足蹴にしてくれたよな」
「あひっ、もぅ、申し訳ありませんでした! 口便器での奉仕で謝罪させて、いただきまふぅ」
「よし、咥えろ!」
「おぶぅぅぅっ!」
夫が容赦なく口に肉棒を突き込むと、アマゾネスは目を白黒させながら喉の奥まで導く。
「んぶっ、んぶぅぅっ!」
アマゾネスの喉は夫の分身を拒絶することなく、その全てを収め締め付ける。
瞳が裏返り、よだれどころか鼻水さえ吹き出し、豚のようなくぐもった喘ぎ声を漏らす。そんなアマゾネスのみっともない姿が夫の劣情を刺激する。
好き勝手にアマゾネスの口内を蹂躙し、お構い無しに喉の奥に亀頭を突き刺し、白濁を流し込んだ。
「……んんんんっ、……んごっ、……んごっ」
めちゃくちゃな扱いを受け入れ、それどころか恍惚に浸るアマゾネス。今の彼女にとって夫からされることは全て快楽に変換されている。
瞳は潤んで肉棒に釘付けになり、口からは精液と共に媚びるような喘ぎ声をこぼし、ねだるように腰をかくかくと振り立てる。
「ははは! なんだよその格好、そんなに突っ込んで欲しいのか?」
「……ああ、……あいぃ、ください……めすべんきマンコに、たくましいオチンポ様、突っ込んで、かきまわしてくださいぃぃ!」
「はっ、いいぜ、たっぷり味わえよ!」
すっかりマゾヒスティックな快楽に蕩けきった牝穴を、夫の巨砲が捉え、一気に奥まで貫いた。
「きゃひいいいいいぃぃぃっ!」
身体中の筋肉を強張らせ絶叫するアマゾネス。誇り高き女戦士が、情けないと罵倒した男に完全に敗北した瞬間だった。
―――
「……ええと、これは」
「……うわあ、……何と言うか、……うわあ」
「……だから見せたくなかったんだ」
あんまりな真実にドン引きの新入りと頭を抱えるアマゾネスたち。
「朝の仕打ちを倍返しにされるのが堪らないんだとさ」
「……なんとまあ」
「……俺は認めないぞこんなの」
「ま、そういうことだ。だから言っただろ後悔するって」
「何だかんだでアマゾネスは紳士、……いや淑女的なのさ。旦那を必要以上に痛めつけたり、ぞんざいに扱ったりはしないよ」
「……そうだったんですか」
「よかった可哀想な男はいなかったんだ。……とでも考えとかんとやってらんないな」
「……裏切り者め」
「ったく、先走った俺らが馬鹿みたいじゃねーか」
「……みたいじゃなくて馬鹿だよ、アンタ」
「……へっ?」
新入り四人が振り向くとそこにいたのは彼らの妻。みな笑顔の裏に怒りをたたえて彼らを見つめていた。
「この馬鹿亭主! 飯の支度もしないで何してんだい!?」
「あわわ、悪かったって」
「生真面目なのは君の良さだが、過ぎるのも考えものだな」
「……面目ありません」
「再教育が必要みたいだねぇ」
「ははは……お手柔らかに頼む」
「ああいうのがお好みでしたら言ってくだされば良かったですのに。……覚悟してくださいませ、あなた様」
「……ゴクリ」
それぞれの妻に引きずられて家へと戻る新入り一行。おそらく今夜は眠れない夜を過ごすことになるのだろう。
「ま、これで一件落着だな」
「毎度のことながら気付かんもんかね。脱走騒ぎなんて一度もないってのに」
「ま、相手は天下のアマゾネス様だからな」
「そりゃそうだ。……知らなかったのか?」
「アマゾネスからは逃げられない」
そう、ここはアマゾネスの里。来る者は拒まないが、去る者は決して有り得ない。
アマゾネスの集落の朝に怒号が響き渡った。一件の家から聞こえるそれはもはや朝の風物詩となっている。
近所の家は思う、ああまたあの家かと。もしくはその大音響を目覚ましにしている者もいる。
「妻である私を残し寝床を離れるとはどういう了見だ! お前には妻を労う甲斐性はないのか!」
「……申し訳ありません」
家の中ではアマゾネスが夫の胸ぐらを掴みまくし立てている。夫は特に抵抗せずに少し目を伏せて謝罪の言葉を口にしていた。
「……なぜ私を見ない? 反省は口だけか?」
言いながら投げ付けるように胸ぐらを掴んだ手を離すと、夫はすぐに正座をし、アマゾネスを見て口を開く。
「私は愚かにも妻を省みず、一人で勝手に床を離れました馬鹿亭主でございます。糧を与えてくださる妻をないがしろにしたことをここに深く謝罪させていただきます」
「いいか、夫は妻に奉仕する義務がある。お前はそれを怠った。義務も満足に果たせないような男は必要ないんだ」
「……はい」
完全に言いがかりである。もし夫が床を離れずアマゾネスと布団にくるまっていたとしたら、アマゾネスはこう言うだろう。
「いつまで寝ているつもりだ、着替えはどうした。夫の役割も果たせないのか」と。
「わかったらさっさと奉仕しろ! もたもたするんじゃないグズが!」
「……申し訳ありません」
怒鳴りながら足を夫の顔に押し付るアマゾネス。夫は正座のまま顔を上げて踏まれるがまま、ぴちゃぴちゃと音を立てながら懸命に舌を伸ばしアマゾネスの足裏に擦り付ける。
普段野山を駆け回っているとは思えないほどにスベスベしたアマゾネスの足裏に夫の唾液がぬるぬると滑っていく。
「もういい、やめろ」
苛立った声に夫はぴたりと舌の奉仕を止めた。
「相変わらず下手くそな口技だ。何時になったらお前は私を悦ばせることが出来るんだ?」
「……申し訳、ありません」
「この能なしが」
アマゾネスは夫を蹴り倒すと片足を股間に近付ける。一枚の布を腰ひもで留めただけの簡素な服は少し肌けただけで性器が露出するようになっていた。
眼前に晒された夫の性器を足でしごき始める。夫の性器は見る間に大きく膨れ上がり張りつめていく。
「……ふん、堪え性の無い奴め。私を無視して自分だけ気持ちよくなるとは」
言いながら器用に足指を使い夫の性器をしごくアマゾネス。亀頭を掴むように揉みしだき、指の間に挟んで上下させ、つま先で転がすように弄る。
「……ぐうっ」
夫はうめき声をあげ必死に堪えるが、限界が近いことは目に見えている。アマゾネスはそんな夫を冷たい目で見ながら罵倒する。
「もう出そうなのか。男の中でもとびきり情けないなお前は」
「くぅ……ぐぐっ」
嘲りの言葉に肉棒をを跳ねさせる夫を見て、その瞳の侮蔑の色がさらに濃く映った。
「ほら、さっさとイってしまえ。夫の仕事を満足にこなせないゴミ男が」
「……ぐ、くあっ、……くはぁぁぁっ! ……ううっ」
アマゾネスに罵倒されながら夫は精液を噴き上げた。射精後の虚脱感か、それとも自分の情けなさを恥じているのか、虚ろな目で横たわる。
「女に金玉を蹴り転がされてイクとは、たいした変態だな」
「…………」
「礼はどうした?」
「……射精させていただいて、ありがとうございました」
上から見下ろされ、這いつくばって頭を下げる夫。抑揚のない声と諦念の表情が哀れさを引き立てていた。
他のアマゾネスの声で外が賑わい始める。狩りへと出る時間が近い。
「ちっ、時間か。いいか、戻ったらお前の無能さをたっぷりと反省してもらうからな」
「……はい、分かりました」
妻の狩具を用意しようと立ち上がる夫。しかしアマゾネスに蹴り倒され踏みつけられる。
「誰が立ち上がっていいと言った!?」
「ぐっ!?」
「勝手なことをするな。お前は私の言う通りに動いていればいい」
「申し訳ありません」
「さっさと狩具を用意しろ! このノロマ!」
「……はい」
理不尽としか言えない仕打ちにも逆らうことが出来ず、夫は従順に妻に従う。
狩具を渡し衣装を着付け、その最中にも罵声を浴びせられながら、反抗的な態度を見せることなく淡々とアマゾネスの狩りの準備をこなしていく。
「準備一つにどれだけ手間取るつもりだ。全くお前の無能さは筆舌に尽くしたがたい」
「申し訳ありません」
「それしか言えないのが既に屑の証だな。こんなのが私の夫とは情けない」
「……」
「なんとか言ったらどうだ? 救いようのないダメ男が」
ひたすらに低姿勢に俯く男をさらに苛むアマゾネス。その目はまさにゴミを見る目だった。
「ふん、腹立たしい。今日は私が見えなくなるまで土下座のまま行ってらっしゃいませを繰り返してろ」
「……」
「……なんだ? まともなことを何一つ言えないお前でも妻を労えるんだ。いいことだろう?」
「……はい、お心遣いありがとうございます」
「分かったらさっさと外に出て土下座!」
「はい」
弾かれたように外に出て土下座し「行ってらっしゃいませ」を繰り返す夫。その姿を省みることなく、アマゾネスは横柄に外に出る。
「……またやってるのか。ほどほどにしておけよ」
「すまないな。もっとこいつが有能なら私もこんなことせずにすむのだが」
狩り部隊のリーダーが呆れたように顔をしかめる。
「おいおい、この村にいるのはお前たちだけじゃないんだぞ。他の連中が盛って狩りが滞ったら困るだろう」
「それは申し訳ない。……ほら見ろ、お前のせいで皆が迷惑している」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
ただ這いつくばって同じ言葉を続ける夫の頭を踏みつけるアマゾネス。
「お前の不届きを私が謝罪しているんだぞ。他に言うべきことがあるだろう?」
「……申し訳ありません。……申し訳ありません。……申し訳ありません」
「だからそうやっていちゃつくなと……まあいい。そろそろ出るぞ」
「ああ、……いいか、私が見えなくなるまでだ。それまでに頭を上げてみろ。裸に剥いて泣き叫ぶまでいたぶってやるからな」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「……全く朝っぱらから。……言っても無駄か。皆の者、出陣!」
「「「「「おおっ!」」」」」
狩りに向かうアマゾネスの行軍。その足音に混じり夫の「行ってらっしゃいませ」が繰り返し続いていた。
―――
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「もういいんじゃないか?」
「……行ってらっしゃいませ。……行ってらっしゃいませ」
「もう大丈夫だ。みんな行ったから」
「…………」
言いつけ通りひれ伏し同じ言葉を繰り返していた夫はアマゾネスの一軍が見えなくなるとそそくさと家に入っていった。『自分以外の者と話すな』とでも命令されているのだろう。
「……気の毒に」
「……ひど過ぎる」
「……あんまりだ」
「……俺もあんな扱いされたい」
最近連れてこられたばかりの男たちが彼の不当な扱いに憤る。
「変なこと考えるなよ。後悔するだけだから」
「そうそう。他の家のことに首突っ込むとろくなことにならないぞ」
反対に長くここに住む男たちはどこか冷めたような、達観したような口振りで彼らを諭す。
「だからって、このままでいいんですか!?」
「そうだ。ここにいる以上みんな仲間だろ?」
「仲間が酷い目にあってるのに見て見ぬふりかよ」
「……羨ましい」
「気持ちは分からんでもないが、言ったところでどうにもならんよ」
「悪いことは言わん、やめておけ」
「そんな、じゃあ彼が苦しむのを黙って見てろっていうんですか!?」
「いくらあいつらが強いからってそりゃないだろ!」
「おうおう、お前らそれでも男かよ!?」
「……妬ましい」
いきり立つ新入りに対して古参たちの歯切れは悪い。
「いや、そういう意味じゃないけど……」
「あれはあれであいつら夫婦の形なんだよ。……っと俺そろそろ洗濯行ってくる」
「あ、ああ、俺も晩飯の仕込みしなきゃ」
旗色が悪いと思ったのか古参連中はそそくさと自分の仕事に向かっていく。そんな情けない様を見て新入りたちは決心を固めた。
「彼を助けましょう」
「そうだ。このままじゃいけない」
「あんな風にゃなりたくないしな」
「……爆発しろ」
団結の印として固い握手を交わす新入りたち。いくら相手がアマゾネスとはいえ4対1だ。負けることはないだろう。
……盛り上がる彼らは気付いていなかった。家に入る直前に夫の口の端がつり上がっていたことに。なぜ彼があんな扱いを受けてなお従順にアマゾネスに従っているのかに。
―――
夜、アマゾネスたちが狩りから戻り、夕食を済ませて思い思いに旦那との一時を楽しむ時間。そんな安らぎの時の中に四つの影があった。
朝の新入り四人組だ。人目を気にしながら今朝騒ぎのあった家へと向かう。
今頃あのアマゾネスは、夫をいたぶって愉しんでいることだろう。そこを数の暴力で取り押さえてやるつもりだ。
しかし目的の家の近くに差し掛かると、意気込む彼らを阻むように近所に住むアマゾネスたちが立ち塞がる。
「……どうして僕たちがここに来ると分かったんですか?」
「大方の想像通りだろう」
「やっぱりあいつらか!?」
「新入りが変な気をおこしていると聞いて様子を見に来てみれば……」
「あんの野郎ども、どこまで腐ってやがる!?」
「……邪魔するな」
呆れたようにアマゾネスたちはため息を吐いた。この集落ではよくあることとは言え、新入りが来る度こんな感じだとさすがに滅入る。
「正直なところ力づくというのは気が引ける。痛い目に遭うのはそっちもいやだろう? おとなしく引き下がれ」
「冗談じゃありません。僕たちは彼を助けるためにここに来たんです」
「そういうことだ。引き下がってたまるか」
「多少の痛い目は覚悟してるぜ」
「……我々の業界ではご褒美です」
一触即発の空気が場を支配する。お互いが今にも飛びかかろうと身構えたところで不意に声がした。
「その辺にしとけ」
「……お前」
「暴力はまずいだろ、暴力は」
「……あなた」
朝に新入りを諭していた二人組だ。立ち塞がるアマゾネスと夫婦なのか、庇うように割って入る。
「あなたたち……」
「……何の用だ」
「返答次第じゃ覚悟しろよ」
「……」
四人は警戒を解かずに二人を睨む。対する二人組は先ほどのアマゾネスたちと同じようにため息を吐いた。
「お前らは誤解してる」
「……どういう意味ですか?」
「あいつは無理矢理あんなことをやらされてるわけじゃない」
「ああ? まさかあいつが好きこのんであんなことやってるってのか?」
新入りに詰め寄られた二人はアマゾネスの方を振り返る。
「……もう隠し事は無しにしようや」
「しかし……」
「まあ、気持ちは分からんでもないが、そんなこと言ったらお前らだって大概だぞ」
「……それは」
「個人の趣味嗜好くらい多目に見てやれよ。結局俺ら一蓮托生なんだし」
「それは、……そうだが」
アマゾネスたちは少しの間渋る素振りを見せたが、やがて観念したのか四人組を見やる。
「……そのまさかだ」
「それじゃあ」
「……俺と同類?」
「……半分正解だ」
頭を抱えるアマゾネスたち。自分たちの恥部を見られたような反応だった。
「半分?」
「見れば分かる。……あまり見せたくないのだが」
アマゾネスたちはしぶしぶといった様子で目的の家へと先導する。怪訝な顔をしながらも新入りたちはそれを追って歩き出した。
―――
……ぴしゃり
「ひぐぅっ!」
……ぴしゃり
「ぎぃっ!」
……ぴしゃり
「くぅん!」
身体を叩く音と喘ぎ声が繰り返し聞こえる。家の中には二つの影があり、手足を拘束され、膝立ちに吊るされている。
もう一つの影はそんな動けない相手の身体中を平手で打ち据えていた。
「……はぁっ、……はぁっ」
「……いい様だな」
「ひいぃっ!?」
さんざんに痛め付けた肌をなぞられて、縛られた影があられもない声をあげる。真っ赤に腫れて敏感になった肌にその刺激は心地好すぎた
「朝の威勢はどうしたんだよ? え?」
「あひっ、ひっ、ひゃあん」
「まったく惨めだな。あんなに威張り腐ってたのによ」
「あうぅ……」
「ほら、ごめんなさいはどうしたんだよ?」
「ああっ、ごめんなしゃひぃ! マゾ牝の分際でぇ、旦那様にひどいことして、あおおぉっ、ごめんなひゃいいっ!」
縛られている影、アマゾネスは息も絶え絶えに絶叫した。
ぴしゃりと強く叩かれても、ぴたぴたと肉を揺らすように触られても、くすぐるように撫でられても、夫からの刺激は全て快楽に変換されてしまう。
体中が夫の手によって赤く染められ、特に狙いを付けられている尻は真っ赤に色付き、はち切れんばかりに張りつめ、熟れきった果実のようだ。
「で、誰が役立たずだって? お前のそのどうしようもない変態性癖を夜な夜な満たしてやってるのは誰だ?」
「旦那様ですぅ、旦那様は、……はぁ、私のような卑しい生き物に、……うふぅっ、性を恵んで下さる、……いいっ、偉大なお方でふぅ!」
「俺のことを情けないとも言ってたな? その情けない男になぶられるのはどんな気分だ!」
「……あんっ、バカな牝の浅知恵でしたっ、だ、旦那様は素晴らしい……おかっ、お方ですっ!」
「ほらっ、お前が言った出来の悪い夫のチンポだよ。さんざん足蹴にしてくれたよな」
「あひっ、もぅ、申し訳ありませんでした! 口便器での奉仕で謝罪させて、いただきまふぅ」
「よし、咥えろ!」
「おぶぅぅぅっ!」
夫が容赦なく口に肉棒を突き込むと、アマゾネスは目を白黒させながら喉の奥まで導く。
「んぶっ、んぶぅぅっ!」
アマゾネスの喉は夫の分身を拒絶することなく、その全てを収め締め付ける。
瞳が裏返り、よだれどころか鼻水さえ吹き出し、豚のようなくぐもった喘ぎ声を漏らす。そんなアマゾネスのみっともない姿が夫の劣情を刺激する。
好き勝手にアマゾネスの口内を蹂躙し、お構い無しに喉の奥に亀頭を突き刺し、白濁を流し込んだ。
「……んんんんっ、……んごっ、……んごっ」
めちゃくちゃな扱いを受け入れ、それどころか恍惚に浸るアマゾネス。今の彼女にとって夫からされることは全て快楽に変換されている。
瞳は潤んで肉棒に釘付けになり、口からは精液と共に媚びるような喘ぎ声をこぼし、ねだるように腰をかくかくと振り立てる。
「ははは! なんだよその格好、そんなに突っ込んで欲しいのか?」
「……ああ、……あいぃ、ください……めすべんきマンコに、たくましいオチンポ様、突っ込んで、かきまわしてくださいぃぃ!」
「はっ、いいぜ、たっぷり味わえよ!」
すっかりマゾヒスティックな快楽に蕩けきった牝穴を、夫の巨砲が捉え、一気に奥まで貫いた。
「きゃひいいいいいぃぃぃっ!」
身体中の筋肉を強張らせ絶叫するアマゾネス。誇り高き女戦士が、情けないと罵倒した男に完全に敗北した瞬間だった。
―――
「……ええと、これは」
「……うわあ、……何と言うか、……うわあ」
「……だから見せたくなかったんだ」
あんまりな真実にドン引きの新入りと頭を抱えるアマゾネスたち。
「朝の仕打ちを倍返しにされるのが堪らないんだとさ」
「……なんとまあ」
「……俺は認めないぞこんなの」
「ま、そういうことだ。だから言っただろ後悔するって」
「何だかんだでアマゾネスは紳士、……いや淑女的なのさ。旦那を必要以上に痛めつけたり、ぞんざいに扱ったりはしないよ」
「……そうだったんですか」
「よかった可哀想な男はいなかったんだ。……とでも考えとかんとやってらんないな」
「……裏切り者め」
「ったく、先走った俺らが馬鹿みたいじゃねーか」
「……みたいじゃなくて馬鹿だよ、アンタ」
「……へっ?」
新入り四人が振り向くとそこにいたのは彼らの妻。みな笑顔の裏に怒りをたたえて彼らを見つめていた。
「この馬鹿亭主! 飯の支度もしないで何してんだい!?」
「あわわ、悪かったって」
「生真面目なのは君の良さだが、過ぎるのも考えものだな」
「……面目ありません」
「再教育が必要みたいだねぇ」
「ははは……お手柔らかに頼む」
「ああいうのがお好みでしたら言ってくだされば良かったですのに。……覚悟してくださいませ、あなた様」
「……ゴクリ」
それぞれの妻に引きずられて家へと戻る新入り一行。おそらく今夜は眠れない夜を過ごすことになるのだろう。
「ま、これで一件落着だな」
「毎度のことながら気付かんもんかね。脱走騒ぎなんて一度もないってのに」
「ま、相手は天下のアマゾネス様だからな」
「そりゃそうだ。……知らなかったのか?」
「アマゾネスからは逃げられない」
そう、ここはアマゾネスの里。来る者は拒まないが、去る者は決して有り得ない。
12/04/28 11:27更新 / タッチストーン