拾われ人形と霊感少年
私ことリビングドールのリーナは、私を拾ってくれた少年の時田 竜生と二人で暮らしている。
今は二人で一緒のベッドに横になっている、時間は8時半……寝るにはまだ少し早い時間だ。
竜生と同じ天井を見つめながら、私は今日も竜生に話し続ける。
「ねぇ竜正、捨てられた私を引き取ってくれた事は本当に感謝してるわ。これは本当よ」
彼には生まれつき魔術の才(本人は霊感と呼んでいた)があるらしく、道端に落ちていた私に何かを感じて引き取ったそうだ。
淫魔の館に居たはずの私が突然遠い遠い竜生の居る場所で目を覚ました理由は今でも分からない。
ただ、竜生が私を拾ってくれなければ、今でも私は道端に転がっているかカラスにでも啄ばまれていただろう。
竜生にはいくら感謝してもし足りないくらいだ。
私の感謝に、彼は「どういたしまして」と小さく言った。
「私は貴方に報いようと思って沢山勉強したわ。 毎日お掃除してるのも貴方の為なの。これも本当」
だから、私は竜生の為に彼のお手伝いをしている。
今はまだお掃除くらいしかできないけれど、これから料理や洗濯もこなせる様に勉強中。
竜生がくれたノートは、料理のレシピや洗剤の量などを手当たり次第に書いている内に三冊目になった。
私の頑張りを伝えると、彼は「いつもお疲れ様」と労ってくれた。
「私を拾ってくれたのも貴方、温かいご飯をくれたのも貴方、掃除機の使い方を教えてくれたのも貴方……私の生活には貴方しか居ない。これも本当でしょ?」
竜生はここで押し黙る。
孤独で寂しくて、温もりが欲しくて。
そうやって道端で動かない顔で泣いていた私を拾ってくれた貴方。
それから私の世界はこの家の中だけだし、私の心にも貴方しか居ない。
私に捨てられる前の記憶は無く、私の知る人は竜生ただ一人だけ。
不満なんてない、だってそれだけ貴方を長く感じられるのだから。
なのに……なのに、なんで!
「それと同じように、私が貴方を好きだって事も本当! 本当に本当なの!」
私は感情が堪えきれずに、思わず叫び声を上げてしまった。
でも、竜生は私の激情した金切り声を聞いても、沈黙したままだ。
私がいくら想いを伝えても、彼はそれに返事をしてくれない。
いっその事断ってくれれば諦めがつくけれど、彼はイエスともノーとも言わない。
「竜生……どうして、どうして貴方が好きだって事を分かってくれないの……? どうして……!」
ついには涙が溢れて、声も上ずりながらになってしまう。
どうして、私の想いを否定するの?
私は貴方の事が好き、それだけなのに!
私の制御できない感情が止め処なく瞳から滴り落ちて、嗚咽が言葉を遮る。
そのまましばらく泣き続けて……やっと私が落ち着いてから竜生はゆっくりと口を開いた。
「ごめん、だけど……霊感のある俺にとって、どうしても動く人形は怨念を糧にして人を呪うような怖ろしいモノに見えてしまうんだ」
ぽつり、ぽつりと少しずつ彼の口から言葉が零れる。
以前聞いたのだが、竜生の家族である時田家はアクリョウ……悪霊と書くらしい……というゴーストの一種を家に呼び寄せてしまったらしい。
悪霊はゴーストとは違い人間を妬み、怨み、呪い、殺す……悪霊によって竜生の家族は立て続けに命を落とした。
彼が魔術の才を自覚したのはこの時で、悪霊の存在に気づいた彼が専門家に退治して貰った時には全てが手遅れだったという。
そして……最後に残ったのは望みもしない霊感と一人ぼっちの家だった。
「リーナは悪くない。ただ、怖いんだ……君じゃなくて、動く人形というものが。 リーナがいい子なのは知ってるけど、今にも誰かに呪われるんじゃないかって気が気じゃない」
悪霊に愛する人を奪われた、そんな彼からしたら私は元々招かれざる者だったのかもしれない。
竜生は私への謝罪と自分の恐怖を何度も何度も何度もなんどもなんども繰り返して、最後に。
「だから……」
竜生は締め括ることなく、口を閉じてしまった。
「……っ」
私は、竜生に何も言葉をかけることができなかった。
彼に対して怒った訳でも失望した訳でもない。
ただ、自分が彼を怯えさせているという事実が胸に深く突き刺さっていた。
私がそこに居るだけで彼に害を与えていたなんて。
私が存在するだけで、竜生を苦しめていたなんて!
「……リーナ、こんな時間に何処に行くんだ?」
……私はベッドから降りて、寝室のドアに手をかけた。
一度は治まった涙が、またぶり返そうとしている。
竜生は忌むべき私にこんなに良くしてくれているのに、みっともない姿は晒せない。
「今夜はリビングで寝るわ……ごめんなさいね、ついうっかり枕を濡らしちゃいそうなの。 ……おやすみなさい」
堪え切れなかった涙は、明かりの切れた照明が隠してくれた。
嗚咽を必死に抑える為に、わざと冗談っぽく振舞う。
そのままの勢いで寝室から逃げ出そうとした時、私の背中に声が投げかけられる。
「おやすみ。 ……風邪、引くなよ」
竜生の心から私を慮っている声が、今は何より私の胸を痛めた。
「竜生……りゅうせぇ……」
リビングについて、今まで抑えてきた涙が決壊した。
ソファに腰を落として、寝室に聞こえないように声を押し殺してすすり泣く。
涙としゃっくりが際限なく溢れ、どれほど泣き続けても枯れてはくれない。
そのままひっそりと喉を鳴らしていると、お腹から場違いな音が響いた。
ぐぅ、と空腹を訴える音が鳴る度に小さな身体が重く感じていく。
「……そっか、もう随分精を食べてなかったわね……」
魔物娘は一般的に、人間の精を糧にする。
私はその事を竜生に打ち明けられずにいる。
ただでさえ彼はリビングドールを怖がっているのに……。
精液を下さい、なんてお願いしたらどんな顔をするだろう?
嫌がられるかもしれない、軽蔑されるかもしれない、見捨てられるかもしれない。
そんなこと……怖くて出来ない。
「お腹……減ったな……」
竜生が振舞ってくれる食事にも、微かながら精は含まれている。
だが、小さな身体とは言えれっきとした魔物娘であるリビングドールの栄養源となり得る量でもない。
その上、年頃の男子であるにも関わらず竜生は自慰の頻度も低く、ゴミ出し前にティッシュを漁っても精液が一滴も無いのがほとんどだ。
自分の飢えを満たす為に、今すぐにでも寝室に戻って竜生に跨ろうかとも考えたが。
「……駄目よ、無理やり吸い上げるなんて、それこそ悪霊だわ……」
このままだといつか動けなくなって只の人形に成り果てるのは分かってる。
だけど、お願いするのが怖くて。
拒絶されたときを考えたら悲しくなって。
お腹が鳴って余計惨めな気持ちになってきて。
結局……今日も答えを出せないまま意識は沈んでいった。
……ナ、……ーナ。
……リーナ!
私を呼ぶ声を聞きながら目を覚ます。
まだ寝ぼけているのか、その声が私と一緒に暮らす少年のものだと気づくのに少し時間がかかった。
頭に響く声を少し煩わしく感じながら視線を声のする方に移す。
「リーナ、起きたか! うなされてるみたいで心配したんだぞ!」
竜生は不安げに私の顔を覗き込んでいる。
よくよく辺りを見回すと、どうやらベッドに移されているようだ。
「おはよう竜生、今何時……っ」
目を擦りながらも身体を起こそうとする。
その直後……強い目眩と柔らかい衝撃が全身を突き抜けた。
「あ……あれ、変ね……?」
どうやら、起き上がる途中でバランスを崩してベッドに倒れたらしい。
もう一度、私は立ち上がろうとする。
床に足をつけて、ベッドから降り……そこで視界が大きく揺らいだ。
ようやく自分自身に降りかかっている目眩と、足が思うように動かない事を自覚するが……遅すぎた。
視界がどんどん低くなっていき、床に叩き付けられるのは避けられない。
「リーナっ! 危ない!」
気がつくと、私は竜生に抱きかかえられていた。
竜生にこうやってぎゅっとされるのは、私を拾ってくれたとき以来だ。
だけど……悲しそうな目で私を見る竜生の顔を見ると、ちっとも嬉しく感じない。
「……リーナ、人形の、病気に……かかったのか?」
竜生が不安げに私の顔を覗き込む。
魔物娘がどうだ精がどうだ、なんて事情を知らない竜生にとっては、私の衰弱は病気としか考えられないだろう。
竜生の視点から言えば、三食ご飯を食べさせている子が栄養失調なんて考え付くほうが可笑しい。
「リーナ、何が辛いんだ? 言ってくれ!」
「私、は……」
ここで言ってしまえば楽になる。
私が魔物だと言ってしまえば。
ただの不思議なお人形ではなく、リビングドールという魔物娘だと伝えれば。
きっとこの寂しさとも飢えとも無縁になるだろう。
「私が、欲しいのは……」
貴方の少しばかりの精と、貴方の愛。
思考は逡巡し、私の本能は金切り声で叫ぶ。
もう十分我慢したじゃないか、と。
これ以上精が無ければ死んでしまう、と。
「何だ、何が必要なんだ! 何でも言ってくれ!」
竜生は昨日私に見せた怯えが嘘だったかのように、私を心配してくれている。
今の竜生なら、私が如何にこの世界の常識から逸脱した淫らな存在かを教えても私を軽蔑することはないだろう。
精を要求しても、快く応じてくれるはずだ。
(私は、もっと竜生と生きていたい。 もっと竜生とお話したいし、一緒にご飯だって食べたいし、いつか外にお散歩に行くって夢もまだだわ)
逆に、このまま私が聖人ぶって朽ち果てても竜生は決して喜ばない。
今私が言わないと、今勇気を出さないと私と竜生は最悪の、永遠の別れを迎える事になる。
(言うの、言うのよリーナ。 私が生きるには精が、貴方の精が必要だって。 貴方のじゃなきゃ駄目なんだって)
今の竜生、というのは正しくないのだろう。
多分、私を拾った初日に精を求めても、私がどういう存在なのかをちゃんと説明すれば最初は混乱しても必ず応えてくれたはずだ。
私が意気地なしだったばかりに、ここまで竜生を心配させてしまった。
だから、ここで、ちゃんと言わなくちゃ駄目だ。
「欲しい、のは……」
(でも、もし……)
もし、もしも、もしかすると、もしかしたら。
その呪いの言葉を思いつくと喉から出掛かった言葉が詰まってしまう。
竜生なら平気、竜生なら大丈夫、竜生なら信じてくれる。
そう何度も自分に言い聞かせても、私の弱い心に巣食った悪霊が私を締め付ける。
「……リーナ……」
竜生は私が勇気を持って踏み出すのを今か今かと待ってくれている。
だから、後は私が一歩前に出ればいいだけ。
それで全てが解決する、悲しみはそれで終わる。
言え、言え、言え、言え!
「……休息、よ。 最近やりたい事が増えちゃったからはしゃぎ過ぎたのね。 ごめんなさい、これからはしっかりと体調管理もしないとね」
私の口から出てくるのは醜いその場しのぎの逃げと、あはは、という薄っぺらな笑い声だけだった。
その空虚な笑い声には、次第に臆病者リーナへの自嘲が含まれていく。
……どこか遠くで、何かが砕ける音が聞こえた気がした。
「……そっか、大事じゃなくて良かった。 俺は学校に行って来るけど、今日は一日ベッドでゆっくりしてるんだぞ?」
竜生は大きく安堵の溜息を付いた。
その安心は騙されたものだ、と考えると私の胸がキリキリと痛む。
朝とお昼のご飯はここに置いておくから一気に食べるなよ。
疲れてるんだからテレビは見過ぎるな。
授業終わったらすぐ帰ってくるから、それまで大人しくしてろ。
お土産、プリンとアイスどっちがいい?……俺も食べるし両方買ってくるから半分こにしような。
やっべ、もうこんな時間だ! 行ってきます!
そんな竜生の言葉が耳に入ってくる。
……その後しばらくして、ドアが荒く開かれて慌しい足音が聞こえて遠ざかっていった。
竜生の普段通りの生活の音。
私の破滅を知らない彼の、打ち明けられなかった私の最後の交差点になるかもしれない音。
「……私、最低だ……」
折角竜生が私のために勇気を振り絞ってくれたのに、私は踏み出せなかった。
私は、私は……。
「私は、竜生の覚悟を踏みにじったんだ……」
竜生が出掛けた後、私はベッドの中で失意のままに時間を過ごしていた。
私が竜生に嘘を付いた事。
私が竜生を欺いた事。
私が竜生を騙した事。
その事実だけが頭をぐるぐる回って、ただでさえ酷い目眩に拍車をかける。
気分転換にテレビでも見ようかと思ったけど、竜生に止められている事とこの時間帯の番組の退屈っぷりを考えてリモコンに伸ばした手を引っ込める。
「私の想いは、簡単に嘘を吐ける程度のモノだったのかな……」
竜生に嘘を吐いたあの時から、今までの思い出全てが色褪せていった。
雨の中、竜生が道端で倒れてた私を抱きかかえて家まで連れてきてくれたこと。
初めての人間のご飯、とても温かかったこと。
竜生のために一生懸命大きな箒や掃除機を練習したこと。
それらを始めとして、無数にある記憶全てに価値が見出せなくなっていく。
どうして、思い出が綺麗に感じないのだろう?
「……そっか、思い出が色褪せたんじゃなくて、私の目がくすんじゃったのね」
私にとって竜生は全てだった。
私はそんな竜生に嘘を付いた。
私は私の全てに背を向けて、唾を吐き、否定したんだ。
「このまま思い出の色が分からなくなっちゃうくらいなら……」
いっそのこと、このまま家を抜け出して。
その後私は機能停止する。
その方が、お互いに綺麗な思い出のまま終われる。
私と竜生との美しい別れを実行に移そうとして、今更ながら思い出した。
「ああ、そっか」
私、今歩けないんだっけ。
何も出来ない自分に笑っていると、次第に目蓋が下りてくる。
それに従って、どんどん眠くなっていく。
あぁ、眠い、眠い。
竜生が用意してくれた朝食に手もつけずに目を閉じていると、すべてがどうでもよくなってくる。
眠りは、瞬く間に私を包み込んだ。
どれくらいの時間が経っただろうか。
少しのうたた寝だったかも知れないし、竜生がおじいさんになるくらいの間眠っていたのかも知れない。
まだ心の靄は取れないが意識ははっきりとしているため、目を開こうとする。
……そして、致命的な破滅が訪れた事を知った。
(目が……、目が開かないわ……!)
私の瞳を薄く包んでいる目蓋が石のように感じられ、私の意思をまるで受け付けてはくれない。
そして、目だけではなかった。
舌も、口も、腕も、足も、首も、指先一本さえも動かす事ができない。
(な、なんで……、まさか……)
私の身体が凍りついた理由。
一つだけ思い当たるものがある。
いや、その理由以外思いつかない、と言うべきか。
『精』の完全な枯渇。
(わ、私……ただのお人形になっちゃった、の……?)
まだ機能している耳からは小鳥の囀りが聞こえてきた。
寝る前に窓から見た外の景色は青一色の晴れだった事を思い出す。
だが、外の快晴とは真逆に私の世界は黒一色に閉ざされている。
……そして、この夜は決して明ける事は無いだろう。
もう二度と、竜生の顔を見ることも出来ない。
(そんな……いや……)
いや、いや、いやだよ。
今更になって恐怖と後悔の念が浮かぶ。
だけど、もう完全に手遅れだ。
私はごめんなさいを言う事どころか、もう涙一滴流す事はできないのだから。
「ただいまリーナ、元気にしてたか?」
竜生が帰ってきた。
荷物を置く音が聞こえて、次に寝室のドアが開く音がする。
「リーナ、アイスとプリンどっちから食べ……寝てるのか」
そう呟くと、竜生は私の横たわるベッドに腰掛けた。
頬に竜生の手の感触が伝わる。
「全く、まだ昼なのにぐっすりしやがって……」
そのまま頬を突きながら愚痴を零す竜生。
そして、反対側の頬に手を伸ばしたところで、異変に気づいて手の動きが止まった。
「なぁリーナ、……どうして息してないんだ?」
私は、応える事ができなかった。
竜生の私を呼ぶ声が、どんどん悲痛なものへと変わっていく。
でも、竜生がどれだけ必死に呼び掛けてくれてもただの人形に出来る返事など無い。
「リーナ……どうして、何でだよ……休息すれば治るって言ったろ……!」
声色は次第に涙が滲み、やがて意味のある言葉が無くなり、涙のみが流れ落ちる。
いつも二人のお喋りで賑やかだったはずの寝室で、再び独りぼっちになった竜生が涙を啜る音はずっとずっと止む事がなかった。
「ごめんなリーナ、独りぼっちの最期は寂しかっただろうに」
あれから数日後、私が死んだと思った竜生の決断は早かった。
最初の2,3日こそベッドに寝かせ続けていたが、いつまでも引き摺ってはいられないと立ち直って、私とのお別れの準備を始めた。
竜生は私の身体がすっぽりと収まるケースを持ち出してきて、まるで棺桶のように私を押し込む。
箱の中には私が書いていたノートやお気に入りだったカップを始めとした思い出の品、そしてお花も添えてあった。
そして、竜生は私の入ったケースを古びた物置まで持っていき……。
「……おやすみ、リーナ」
その言葉を最後に、ギィ……と物置の扉が閉まる音がする。
閉じた瞳からうっすらと感じられる光が、どんどん弱まっていく。
(嫌! 暗い、暗いのは嫌! もう竜生に会えないなんてもっと嫌! 嫌よ!)
醒めない眠りに付いた骸に幽閉されて、私は声にならない叫びを上げ続けた。
それが絶対に竜生に伝わることが無いと知りつつも、足音を立てて近づいてくる暗闇と孤独から逃れたい一心でひたすら足掻き続ける。
恐怖と後悔と絶望の入り混じった感情は私を内側から砕いていくには十分で、私は届くはずも無い竜生の名前を狂乱の中で呼び続けた。
(竜生、竜生、竜生! 竜生……!)
「竜生ぇえええええええええええええええええ!!」
自分の叫び声に跳ね起きる。
悪夢の世界から解放された私がまず最初にやった事は、自分の両手を見つめる事だった。
……大丈夫、動いてる。
ようやくさっきまでの光景がただの夢で、現実では動ける事を理解する。
「いや……消えたくない……忘れられたくない……」
私の心は恐怖で一杯だった。
あの夢を思い出すと、今にも両手が指先から凍り付いていきそうな気がする。
そして、今のまま精を取らなければそう遠くないうちにあの光景が正夢になる事を考えると、居ても立っても居られない。
「怖い、怖いよ……りゅうせぇ……」
ベッドから転げ落ちて、動けない足の代わりに手で這って何処に居るかも分からない竜生に会おうとする。
この時間はまだ竜生は学校なのは分かってたが、探し続けていないと心細くて折れてしまいそうだった。
「竜生、どこなの……? かくれんぼなの? 意地悪しないで出て来てよぉ……りゅうせぇ……」
誰も居ない廊下をずりずりと這いながら、ひたすらに竜生の名前を呼ぶ。
反響する自分の声を聞いていたら、夢で見た暗い箱の中を思い出してしまう。
それを紛らわすために、子供のように喚き散らす。
賽の河原のような悪循環を繰り返していく内に、頬から床に雫が滴っていく。
「ぐすっ……えぐっ……くらいのも、ひとりぼっちも嫌……竜生、一緒に居てよぉ……」
頬を伝うものは一筋の雫から始まって、どんどん増えていく。
決壊するのにそう時間はかからなかった。
今までの恥も外聞も投げ捨てて、幼子のようにわんわんと泣き叫ぶ。
「竜生ぇええええ! 行っちゃやだああああああ!」
いくら喚いても、まさか竜生がこの場に空間転移する訳でもない。
泣いても叫んでも状況が好転なんてするはずもない。
だが、機能不全の不安と悪夢からくる恐怖で限界に近かった私はそれを考える余裕など無く、赤ん坊の駄々のような惨めな喚き声を上げることしかできなかった。
当然、泣き喚く事は精の補給を行う行為ではない。
泣き叫んでいる間にも身体はどんどんと重く感じられ、思考にも段々靄がかかっていく。
(重い……寒い……寂しい……いや、嫌……会いたい、帰って来てよ竜生……)
竜生に会えれば身体が治る気がした。
今すぐ竜生に会いたい、と思った。
だけどまだ時間は12時頃、竜生は学校に行くと大体夕方まで帰ってこない。
独りぼっちは嫌だし、このまま永遠に動けなくなるのはもっと嫌だ。
だけど、抗いようの無い眠気が段々と私から意識を奪い去る。
「早く、帰ってきて……りゅうせぇ……」
掠れていく意識の中、ドアが開く音が聞こえた。
「ん、気がついたかリーナ?」
本日三度目の目覚め。
私はまたもベッドに寝かされており、目が覚めるとすぐ隣に竜生がいた。
毎晩寝る時と同じ、添い寝の状態。
違うのは、お互いが見るのは共通の天井じゃなくて相手の顔だという事。
……私の目の前、少し近づくだけで口付けが出来そうな距離に竜生がいる。
「りゅ、竜生……! 学校は……?」
「早退してきた。 ……学校に居る間にリーナが倒れてるんじゃないか、と思ったんだ」
そう言う竜生の口ぶりは少しだけ硬い。
どうやら、私がベッドを抜け出した事にご立腹のようだった。
竜生が、全く心配掛けさせやがって、と溜息を吐く傍らでふとした疑問が浮かび上がってくる。
(……あれ、なんで家に居る私の事が分かったの? 貴方学校に居たわよね?)
どうして竜生はわざわざこの時間に帰ってきたのだろう?
竜生はちゃんとした理由なくサボったりはしない人間だ。
……もしかして、彼の霊感が私の状態を教えてくれたのだろうか。
だとすると、彼が望まぬ霊感に助けられるのはこれで二度目。
竜生は自身の霊感を疎んでいるが、それが無ければ私達は出会う事すら無かったのだ。
私達の切っ掛けにもなった霊感を上手く受け入れられない竜生と、精が必要な事を限界まで言い出せなかった私。
お互いにとても不器用で、案外私達は会うべくして出会ったのかも知れないと思うと笑い声が零れる。
クスクスと笑いながらそんな事を思っていると、竜生は私の顔に手を寄せてきた。
何をするのかと思うと、いきなり額を指で軽く弾く。
「……いたっ!」
私にデコピンを見舞った竜生は満足げに、ベッドから出た事はこれで許すと笑った。
そのまま私の断り無しに自慢の髪を乱暴に撫でてきたため、非難の意を込めて竜生の少年相応の胸板に身を預けながら上目遣いで睨む。
これだけ密着していると心臓の音までが聞き取れ、とくん、とくん、と竜生の胸から鼓動が響く度、私の心も安らいでいく。
そのままお互いに無言を貫いていると……ふと竜生が呟いた。
「……でも、無事で良かった」
それを聞いて私は思い出した。
まだ本当の事を言えていなかった事を。
今度こそ勇気を出さなきゃいけない事を。
「ねぇ竜生……貴方に言わなきゃいけないことが2つあるわ」
私の口は、油の切れた機械のように鈍重に動き出す。
口ぶりは重く重く、動くたびに心がギシギシと擦れる音がする。
でも……今度こそ私は逃げない。
「言わなきゃいけないこと?」
竜生は私の言葉に怪訝な顔をする。
……だが、この大真面目な場でも竜生は私の頭を撫でるのを止めない。
この髪を優しく撫でる感触が私から恐怖を追い出しているのだけれど、意識すると恥ずかしいのであえて考えない事にする。
「えぇ。 まず、また心配かけちゃってごめんなさい」
まず1つ目は、昨晩と今朝、そして今の事。
考え直せば昨日から私は竜生に迷惑をかけっ放しだった。
竜生は気にするなって言いたそうな顔だけど、こればっかりは言わないと私の気が済まない。
「そして2つ目ね。 ……私、今朝貴方に嘘を吐いたの」
「嘘?」
「えぇ。 ……うん……っと……」
そして、2つ目の事。
この話の核心。
本当に真剣な話だと伝わったのだろうか、頭を撫で続ける手が自然と止まった。
どう言おうか、どう伝えようか?
竜生に向ける言葉を考えるだけで、私の鼓動がどんどん早まっているのを感じる。
また逃げ出したい気持ちだけれど……今言わないともう一生伝えられない気がした。
私の鼓動が、竜生の鼓動と同じくらい静まるのを待って……。
「……そう、私は嘘吐きの悪い子だったのよ、私はお休みが欲しいって言ったけどあれは嘘。 本当に欲しいのは、貴方の……」
胸がドキドキ鳴りすぎて苦しい。
具合が悪いわけでも発情してるわけでもないのに、息は荒く荒くなる。
意識していないと、勝手に歯がカチカチと鳴ってしまいそうだ。
今すぐにでも投げ出して、竜生の鼓動を聞いて甘えに行きたい。
……だけど。
「はーっ、ふぅーっ……」
一度、わざとらしいまでの深呼吸をする。
大きく息を吸って吐き出す間に、私の頭の中で竜生との出会い、竜生との暮らしがフラッシュバックしていった。
『お前、喋れるのか? ……俺は時田竜生、お前は何て言うんだ?』
『人形の口に合うかは分からんが……ほら、食べるか?』
『外、雨止まないな……。 しょうがないな、そこのベッド使えよ。 何、一緒に?』
『ああもう分かったよ、どうせ一人暮らしだ。人形一人くらい構わねぇよ』
『ただいまー。 リーナ、今日はカレーだぞー……服汚すなよ?』
そのどれもが大切な大切な思い出。
絶対に失いたくない日常。
(私は竜生と生きて行きたい。ずっと竜生と一緒に居たい! ……覚悟、決まったわ)
そして。
私は私の本性を告げる。
「欲しいのは……貴方の、精よ」
「リーナ、これでいいのか?」
「ええ、ありがとう。 ……ズボン、下ろすわよ」
私は、椅子に座っている竜生の前で彼の両足の間で膝立ちになった。
両手で彼のズボンをゆっくりと下ろして、下着越しに性器に触れる。
まだ性的な愛撫よりは子供の頭を撫でるような手振りだったが、指で下着の隆起をなぞっていくとすぐに形を変えた。
「すごい……どんどん硬くなっていくわ……」
触る前は布の裏から小さく主張するだけだったモノは、既に下着の中を窮屈そうに暴れる剛槍になっている。
魔物娘としての本能が堪えきれなくなった私は、下着に手を掛けて一気にずり下ろす。
ペニスが反動でビクン、としなった。
本能的にそれを手で握って、肌とは明らかに違う熱の篭り方に驚く。
「あ、熱い……竜生、興奮してるの?」
竜生は何も答えなかったが、握った手で軽くしごくだけで熱い脈が感じられた。
握った時から更に大きく膨らんでいて、ペニスを柔らかく包んだ手を上下させる度に、更に硬くなり続けていく。
竜生の吐息が部屋に反響する中、しごき上げているペニスのグロテスクに見える先端が目に入った。
……少し魔が差して、亀頭に指を走らせる。
瞬間、性器じゃなくて竜生自体が跳ね上がった。
「ご、ゴメン! 痛かった?」
慌てて手を離して、痛がってないか顔を覗き込む。
竜生の表情は驚きが占めていたが、引き攣るような苦痛の顔はしていなかった。
「だ、大丈夫……続けて、いいよ……」
痛みは無かったはずの竜生の息は荒い。
男根が凶暴なまでに勃起しているのを見ると、相当の性感を受けているようだった。
……最も、彼のペニスを弄んでいる私も竜生と同じくらい興奮しているのだけれど。
「竜生のここ……どんな味なんだろ……」
ふと呟いた直後、私は言葉を言い終わるより早く竜生の亀頭に舌を向けていた。
舌をちょん、と付けただけで肉棒が大きく跳ねる。
「りゅうせぇ……亀頭、弱いのね?」
少しだけ嗜虐心がくすぐられて、手で竜生の性器を捕まえて逃げられないようにしてから舐め回す。
竜生の身体がビクンビクンと何度も跳ねて、ペニスは私の舌から逃れようと暴れだした。
ペニスを掴んだままソフトクリームを舐める時のように舌を上下させて行くと、次第に亀頭に苦い味が混ざっていく。
「これ、カウパーって言うのよね……気持ち、良いのかしら?」
私がそう言うと、竜生は口を真一文字に結んだままこくんと頷いた。
口は堅く閉ざされているが、荒い吐息から彼の興奮具合は手に取るように分かる。
……あんなに気持ち良さそう。
なら、私も……。
自然と私のもう片方の手はドレスのスカートへと伸びていく。
「な、なにこれ……っ、あっ、だめ……っ」
スカートの上から私の恥部を擦っているだけなのに、私の口からは意思に関係なく嬌声が響く。
自分を慰める手は最早私の意識を離れて勝手に快楽を刷り込み、その甘美な快楽の中では器用に手でペニスをしごく事なんてできそうに無かった。
代わりにいきり立ったソレを口で咥え込む。
「リ、リーナ……それは……っ!」
竜生は咄嗟に快楽から逃れようとしたのか、私の頭に手を押し当てる。
でも、私の口内がペニスを転がして唾液塗れにすると竜生の手は私の頭に力無く置かれるだけになった。
そのまま舌をペニスに絡め、亀頭のカウパーと私の唾液が交じり合っていく。
「く、ぅ……っ、リーナ……!」
竜生ははぁはぁと息を荒げながら、ゆっくりを頭を撫でてくれた。
普段ならしゃぶるのを止めて竜生の胸に甘えに行ってしまう所だったが、今の愛欲で濡れた私には全く別の効果をもたらした。
私はスカート越しに恥部を刺激するのを止めると、竜生の空いている手を掴む。
そして、掴んだ手を下に持って行き……。
「りゅうせぇ……私にも、して?」
私のスカートの中に入れた。
竜生の手をそこで解放すると、すぐに私のショーツからグチュグチュという淫らな音が聞こえてくる。
そして、自分でするのとは比べ物にならないほどの気持ち良さが流れ込んできた。
「あっ、ああっ! 竜生の指、気持ち良い! 気持ち良いよぉ!」
竜生がもたらす快楽に身を委ねて、一息に竜生のペニスを根元まで咥え込んだ。
そのままじゅるるると思い切り吸い上げると、口の中にどんどんカウパーが含まれてきた。
吸い上げたまま竜生の顔を見上げると、さっきの閉口は何処へやら大きく口を開けて喘いでいる。
だけど、こうして私にフェラされている間にも竜生の指は私の恥部を薄い下着越しに何度もなぞり、愛液で指と私の太股を濡らしていく。
竜生と目が合うと、男根がまた大きく跳ねた。
私の淫蕩に浸った顔を見てまた興奮したのかもしれない。
私も、竜生が私にだけ見せてくれる顔を見るとどんどん気持ち良さが増えていった。
(も、もうダメ……イッちゃう……!)
この頃には、竜生の指は大胆にも私のショーツを押しのけて中に指を入れてきていたので、絶頂が近づいていた。
亀頭を喉に押し当てるような、顔ごと前後させるように激しく奉仕していると、竜生が不意に叫ぶ。
「リーナ、もう駄目……出る……!」
それと同時に、ペニスが不規則に連続して脈動する。
竜生の言葉に堪えきれずに、私も一旦ペニスを吐き出して叫んだ。
「私も、私もイク! りゅうせぇ、一緒が良い、一緒じゃないとやだぁ!」
そのまま竜生のペニスを口全体で味わって、恥部を手で責められる快楽を味わって。
身体の火照りが最高潮に達したとき。
「……イっ、イクっ、あぁあああああぁあぁぁああーっ!」
脳が真っ白になるような強烈な感覚。
口に放出されて、収まりきらずに私の唇から零れ出る白い液体。
そして、私の恥部を指で滅茶苦茶に掻き回される被虐的な快楽。
その全てを浴びて、私の意識も白く染まっていった。
「かはっ……はぁ……ん、ぐっ……」
ペニスを口から出し、目を瞑って口内に溜まっていた精液を一思いに飲み込む。
粘り気の強い液体は、飲み込んだ後も強い余韻を喉に残した。
口の中の精液を全て飲んだ後に改めて目を開ける。
そこには、さっきあれだけ精を放出したにも関わらずまだ硬さを失わない肉棒がいきり立っていた。
「竜生のココ……まだ、満足してないのね」
そう言って、私は椅子の上へとよじ登る。
スカートの中に手を入れて下着を下ろし、竜生の腰の上に跨った。
椅子に落ちた私の下着は、ぐっしょりと濡れている。
結局、これだけ濡らしても満足できない私もこのペニスと変わらないのだろう。
「竜生……触れてもないのに、とても熱いのが伝わってくるわよ……」
上目遣いで竜生の顔を覗き込み、淫らに笑いながら言うと彼のペニスがびくん、と大きく跳ねた。
竜生が私の言葉で興奮して、ペニスを飲み込まれる事を待ち望んでいることは丸分かりだ。
そのまま腰を下ろしていき、竜生のペニスが私のスカートの中に隠れていく。
ペニスの熱気は私の恥部を愛欲で燃やして濡れさせていく。
下の口で味わうペニスの味を想像して足をガクガク震わせながらも私の恥部をペニスに近づけて行き……先端が、触れる。
「びくびくしてる……こんなに熱い……」
竜生のペニスは自らが収まる場所を前に、ギンギンにいきり立っている。
そのまま、一気に腰を下ろした。
竜生のペニスが、狭い膣を突き破りながら私を貫く。
「あっ、くぅぅぅうううぅーっ!」
まだ挿入しただけだと言うのに、嬌声が部屋に響き渡る。
この声はどっちが出したのだろう?竜生?私?
あまりの快楽で考える事は続かなかったが、きっと両方が出したのだろう。
恥部に意識を向けて、ペニスを締め付けようとする。
「リ、リーナの……きつ……い……っ!」
「コレ……私の狭い中で、暴れて……る……!」
ペニスの脈動が、竜生の性感が、膣の感触を伝って私の頭に流れ込んでくる。
私の膣がペニスをきゅうっと締め付けようとすると、更に熱く硬く膨張して私を快楽で締め付けてきた。
先ほどまで純潔を保っていた私の膣内に窮屈に押し込められたペニスは、自己主張激しく肉壁を押し返してくる。
きつくきつく締め上げられる竜生のペニスと、暴れ馬に蹂躙される私の膣。
互いの性器が互いを最大限に陵辱する。
「竜生、動くわ、よ……っ」
そう言って腰を弱々しく振る。
少し身体を揺らすだけでも、私の膣に収まりきらないペニスが内側を擦り、嬲っていく。
そして、今まで生娘だった私には快楽が強すぎて、すぐに荒い息を吐きながら腰を止めてしまう。
「ご、ごめん今動くから……あうっ、はぁ……はぁ……ま、また止めちゃう……」
少し動いては止め、少し動いては止め。
精を受け取ろうと腰を動かしては、快楽で力が抜けていく。
そのまま何度目かの寸止めをしていると、竜生が辛そうにこう言った。
「ごめんリーナ、もう限界……」
その直後に、今まで以上の快感が私を貫く。
今までの生殺しに耐えかねて、竜生が腰を振っていた。
彼が少し動く度にペニスは私の膣を荒々しくしごき、奥にぶつかる。
「ちょ、ちょっと竜生! やっ、あっ、んぅっ!」
私は抗議の声を何度も上げようとするも、一度突かれる度に言葉は霧散していく。
竜生の胸に身を預けて両手で叩いてみても、ぐりぐりと私の膣内をこじ開けるペニスの動きは止まらなかった。
次第に抵抗もできなくなり、突きに合わせて口から喘ぎ声が零れ落ちるだけになる。
「あっ、やっ、んっ! ……む、むぐ……っ」
突かれながらも、竜生に顎の下を持たれる。
そのまま竜生の手によって私は上を向かされた。
私の視界いっぱいに竜生の顔が広がって……。
(キ、キスしながら突かれるなんて、おかしくなる……!)
竜生の舌が私の口内を舐め回す度に、私の体が意思問わずビクンと跳ねる。
口は竜生の舌に蹂躙されて、膣は竜生のペニスに陵辱される。
上も下も竜生からの性感を受け続けるのは、私の許容を軽く超えていた。
次第に快楽で訳が分からなくなり、竜生以外の事を考えられなくなっていく。
「ぷ、はっ! りゅうせぇ、大好き!だいすきぃ!」
竜生の舌が離れて、自由になった途端に私の口は叫びだした。
私の意思で言ったのか、快楽にのたうつ私の体が勝手に言ったのかは自分でも分からない。
「俺も、俺もリーナが大好き、だ……!」
「あっ、あうっ、ふぁあっ! り、りゅうせぇ!」
激しい快楽に身を焼かれながらの甘い蜜月。
グチュグチュと淫らな液体の音が鳴り渡る中、絶頂が近づいていく。
「りゅうせぇ、わたし、もうイキ、そう……!」
嬌声の中で、なんとか言葉を搾り出す。
無理やりに搾り出される嬌声のせいで、もう喉はカラカラだった。
対する竜生の顔も、限界が近いのが分かる。
「俺も、もう出そうだ……!」
「りゅ、竜生!竜生の愛、私の膣内に一杯ちょうだい!」
言い終わるや否や、お互いに舌を出し合って口内で絡ませる。
叫び続けていた私は、貪るように竜生の唾液を舐め取っていた。
私の足がガクガクと震えだし、今にも絶頂を迎えようとする。
竜生のペニスも、一段と激しく震えて精を放出したがっていた。
「あっ、くっ、リーナ、リーナ!」
「んっ、んんぅーっ!」
口と口、ペニスとヴァギナ。
両方を結び付けて、二人で絶頂を迎える。
お互いの舌は相手を求め合い、絶頂してからも絡み合い続ける。
私を内側から激しく叩きつけていたペニスの先端がドクドクと震えて、先端から熱いものが出てくる。
同時に私の膣も激しく収縮し、今までで一番大きな快楽が私の思考を焼き切るような流れ込む。
余韻は、いつまでもいつまでも続いた。
「ところで竜生」
その日の夜、私は竜生と同じ天井を眺めながらふと声を掛けた。
「リーナ、どうした?」
竜生は私の小さな手を優しく握りながら返事をする。
その声色には、昨晩のような戸惑いはなかった。
あの後、私は私について全てを話した。
魔物娘のこと。
リビングドールのこと。
精が無いと活動できなくなること。
「竜生……本当に、もう私の事が怖くない?」
思い切って、昨日竜生が言っていた事を尋ねてみる。
竜生の気持ちを今更疑ったりはしないが、竜生が魔物娘という存在をどう思っているか少し気になったのだ。
この世界では魔物娘は既存の常識に唾を吐くような存在。
そして、分からないモノを怖がるのは至って普通の考え方だ。
私のようなリビングドールも、念がある限りどれだけ破壊されてもどれだけ遠くに捨てられても男性の元に戻る性質がある。
加えて、精が必要という体質もある。
だから、竜生も少しは困惑しているのだろうと思って竜生の方を向くと……。
「あぁ、全く怖くないね」
竜生は自信たっぷりにそう言い切っていた。
どうして?と尋ねると、これまた自信たっぷりにこう告げる。
「俺は悪霊が恐ろしかっただけだ。 だけど、リーナはリビングドールとかいう別物なんだろ? じゃあ怖くも何とも無い」
「……そういうものなの?」
私はつい呆れ顔になってしまう。
魔物娘と悪霊。
名前こそ違えど非現実さは大差ないと思うのだが、竜生からするとその二者には大きな隔たりがあるらしい。
「悪霊どもと違ってリーナはちゃんと心を持ってる。 霊感が俺にそう告げてるんだ」
「全く、調子良いんだから。 ……ところで、もう霊感は平気なの?」
今まで霊感を疎んでいた竜生は何処へやら、今やすっかり霊能者気分に浸っている。
……どうやら、霊感への恐れはすっかり克服したようだ。
「あぁ、思い返すと霊感持ってなければ俺も祟り殺されていたんだよな。 親父もお袋も一家全員死ぬ事は望まないだろ。 それに……」
と一度言葉を切って、
「リーナの泣き声が、聞こえた気がしたからさ。 ……多分、霊感無かったらリーナも失ってた」
と締め括った。
やっぱり、あの時竜生が駆けつけてくれたのは私の声が届いたかららしい。
……でもちょっと待って、それって……。
「私の駄々みたいな泣き声……全部聞いてたってこと……?」
体中から一瞬で体温が抜けるような気がした。
昼間に私が喚き散らした内容を思い出す。
……あれを全部、聞かれてた?
「うああああああ竜生のバカバカバカ! 忘れて忘れて全部忘れてぇーっ!」
気恥ずかしさに身を任せて竜生に圧し掛かり、握られていない方の手で何度もポカポカ叩く。
私は最大限の攻撃をしたつもりなのに、竜生は笑いながら頭を撫でてきた。
違う、そうじゃない!
……あ、でも頭撫でられるの気持ち良い……。
そのままつい手を止めてしまい頭撫で撫での快楽に屈していると、竜生が笑いながら意外な事を言ってきた。
「ごめんごめん、今度何処か一緒に出かけよう。 な?」
「……え? で、でも私が外に出るのはまずいんじゃあ……?」
私はこの家に来てから一度も外出したことが無かった。
小さな人形の姿の私は別に家の中を窮屈だと思ったことはないし、この世界で外を出歩けば世間が大騒ぎになるのは目に見えていたからだ。
いくら竜生が良いと言っても、こればかりは簡単に首を縦には振れない。
竜生のトンデモ発言に私が驚いていると、竜生は更に追い討ちを掛けてくる。
「最近、リーナみたいな魔物娘?が沢山出てきたみたいなんだ。 今日の帰りも角生やした奴に尻尾のある奴、剣を持ったのもいたな」
あれ銃刀法大丈夫なのかよ、と笑いながら言う竜生。
だけど、私にとっては竜生が見た魔物娘の種類なんてどうでも良かった。
私が外に出られないのは魔物娘が世間に知られていなかったからだ。
もし仮に、外に魔物娘が沢山居たとしたら……。
「じゃあ竜生とお出かけ、できるの……!?」
「あぁ、何処にだって行ける。 なぁリーナ、何処に行きたい?」
竜生の問いかけに、えーっとえーっと……と考えている内にどんどん時間が経過していく。
おもちゃ箱をひっくり返したような遊園地?
ドラマでよく見るような温泉旅館への旅行?
喫茶店で二人きりのお茶会?
いや、普通にご飯の買出しに行くだけでも楽しみだ。
そうして想像を膨らませていると、ふと耳にカチカチという音が聞こえてくる。
音の源を辿っていくと、時計に目がついた。
……もう長針と短針が真っ直ぐ上を指して重なっている。
「……り、竜生。 もう12時よ」
「……って本当だ! そろそろ寝ないとまた明日寝坊する! おやすみリーナ!」
そのまま慌しく照明を落とし、竜生は目を瞑る。
普段より就寝時間が遅いからか私が絞り過ぎたからか、すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
眠っている時でも私の手をもう離すまいとしっかりと握り締めている。
「……おやすみ、竜生」
また明日ねと付け加えて、私も目を瞑った。
意識が少しずつ薄れていく中、握った竜生の手はどこまでも暖かかった。
今は二人で一緒のベッドに横になっている、時間は8時半……寝るにはまだ少し早い時間だ。
竜生と同じ天井を見つめながら、私は今日も竜生に話し続ける。
「ねぇ竜正、捨てられた私を引き取ってくれた事は本当に感謝してるわ。これは本当よ」
彼には生まれつき魔術の才(本人は霊感と呼んでいた)があるらしく、道端に落ちていた私に何かを感じて引き取ったそうだ。
淫魔の館に居たはずの私が突然遠い遠い竜生の居る場所で目を覚ました理由は今でも分からない。
ただ、竜生が私を拾ってくれなければ、今でも私は道端に転がっているかカラスにでも啄ばまれていただろう。
竜生にはいくら感謝してもし足りないくらいだ。
私の感謝に、彼は「どういたしまして」と小さく言った。
「私は貴方に報いようと思って沢山勉強したわ。 毎日お掃除してるのも貴方の為なの。これも本当」
だから、私は竜生の為に彼のお手伝いをしている。
今はまだお掃除くらいしかできないけれど、これから料理や洗濯もこなせる様に勉強中。
竜生がくれたノートは、料理のレシピや洗剤の量などを手当たり次第に書いている内に三冊目になった。
私の頑張りを伝えると、彼は「いつもお疲れ様」と労ってくれた。
「私を拾ってくれたのも貴方、温かいご飯をくれたのも貴方、掃除機の使い方を教えてくれたのも貴方……私の生活には貴方しか居ない。これも本当でしょ?」
竜生はここで押し黙る。
孤独で寂しくて、温もりが欲しくて。
そうやって道端で動かない顔で泣いていた私を拾ってくれた貴方。
それから私の世界はこの家の中だけだし、私の心にも貴方しか居ない。
私に捨てられる前の記憶は無く、私の知る人は竜生ただ一人だけ。
不満なんてない、だってそれだけ貴方を長く感じられるのだから。
なのに……なのに、なんで!
「それと同じように、私が貴方を好きだって事も本当! 本当に本当なの!」
私は感情が堪えきれずに、思わず叫び声を上げてしまった。
でも、竜生は私の激情した金切り声を聞いても、沈黙したままだ。
私がいくら想いを伝えても、彼はそれに返事をしてくれない。
いっその事断ってくれれば諦めがつくけれど、彼はイエスともノーとも言わない。
「竜生……どうして、どうして貴方が好きだって事を分かってくれないの……? どうして……!」
ついには涙が溢れて、声も上ずりながらになってしまう。
どうして、私の想いを否定するの?
私は貴方の事が好き、それだけなのに!
私の制御できない感情が止め処なく瞳から滴り落ちて、嗚咽が言葉を遮る。
そのまましばらく泣き続けて……やっと私が落ち着いてから竜生はゆっくりと口を開いた。
「ごめん、だけど……霊感のある俺にとって、どうしても動く人形は怨念を糧にして人を呪うような怖ろしいモノに見えてしまうんだ」
ぽつり、ぽつりと少しずつ彼の口から言葉が零れる。
以前聞いたのだが、竜生の家族である時田家はアクリョウ……悪霊と書くらしい……というゴーストの一種を家に呼び寄せてしまったらしい。
悪霊はゴーストとは違い人間を妬み、怨み、呪い、殺す……悪霊によって竜生の家族は立て続けに命を落とした。
彼が魔術の才を自覚したのはこの時で、悪霊の存在に気づいた彼が専門家に退治して貰った時には全てが手遅れだったという。
そして……最後に残ったのは望みもしない霊感と一人ぼっちの家だった。
「リーナは悪くない。ただ、怖いんだ……君じゃなくて、動く人形というものが。 リーナがいい子なのは知ってるけど、今にも誰かに呪われるんじゃないかって気が気じゃない」
悪霊に愛する人を奪われた、そんな彼からしたら私は元々招かれざる者だったのかもしれない。
竜生は私への謝罪と自分の恐怖を何度も何度も何度もなんどもなんども繰り返して、最後に。
「だから……」
竜生は締め括ることなく、口を閉じてしまった。
「……っ」
私は、竜生に何も言葉をかけることができなかった。
彼に対して怒った訳でも失望した訳でもない。
ただ、自分が彼を怯えさせているという事実が胸に深く突き刺さっていた。
私がそこに居るだけで彼に害を与えていたなんて。
私が存在するだけで、竜生を苦しめていたなんて!
「……リーナ、こんな時間に何処に行くんだ?」
……私はベッドから降りて、寝室のドアに手をかけた。
一度は治まった涙が、またぶり返そうとしている。
竜生は忌むべき私にこんなに良くしてくれているのに、みっともない姿は晒せない。
「今夜はリビングで寝るわ……ごめんなさいね、ついうっかり枕を濡らしちゃいそうなの。 ……おやすみなさい」
堪え切れなかった涙は、明かりの切れた照明が隠してくれた。
嗚咽を必死に抑える為に、わざと冗談っぽく振舞う。
そのままの勢いで寝室から逃げ出そうとした時、私の背中に声が投げかけられる。
「おやすみ。 ……風邪、引くなよ」
竜生の心から私を慮っている声が、今は何より私の胸を痛めた。
「竜生……りゅうせぇ……」
リビングについて、今まで抑えてきた涙が決壊した。
ソファに腰を落として、寝室に聞こえないように声を押し殺してすすり泣く。
涙としゃっくりが際限なく溢れ、どれほど泣き続けても枯れてはくれない。
そのままひっそりと喉を鳴らしていると、お腹から場違いな音が響いた。
ぐぅ、と空腹を訴える音が鳴る度に小さな身体が重く感じていく。
「……そっか、もう随分精を食べてなかったわね……」
魔物娘は一般的に、人間の精を糧にする。
私はその事を竜生に打ち明けられずにいる。
ただでさえ彼はリビングドールを怖がっているのに……。
精液を下さい、なんてお願いしたらどんな顔をするだろう?
嫌がられるかもしれない、軽蔑されるかもしれない、見捨てられるかもしれない。
そんなこと……怖くて出来ない。
「お腹……減ったな……」
竜生が振舞ってくれる食事にも、微かながら精は含まれている。
だが、小さな身体とは言えれっきとした魔物娘であるリビングドールの栄養源となり得る量でもない。
その上、年頃の男子であるにも関わらず竜生は自慰の頻度も低く、ゴミ出し前にティッシュを漁っても精液が一滴も無いのがほとんどだ。
自分の飢えを満たす為に、今すぐにでも寝室に戻って竜生に跨ろうかとも考えたが。
「……駄目よ、無理やり吸い上げるなんて、それこそ悪霊だわ……」
このままだといつか動けなくなって只の人形に成り果てるのは分かってる。
だけど、お願いするのが怖くて。
拒絶されたときを考えたら悲しくなって。
お腹が鳴って余計惨めな気持ちになってきて。
結局……今日も答えを出せないまま意識は沈んでいった。
……ナ、……ーナ。
……リーナ!
私を呼ぶ声を聞きながら目を覚ます。
まだ寝ぼけているのか、その声が私と一緒に暮らす少年のものだと気づくのに少し時間がかかった。
頭に響く声を少し煩わしく感じながら視線を声のする方に移す。
「リーナ、起きたか! うなされてるみたいで心配したんだぞ!」
竜生は不安げに私の顔を覗き込んでいる。
よくよく辺りを見回すと、どうやらベッドに移されているようだ。
「おはよう竜生、今何時……っ」
目を擦りながらも身体を起こそうとする。
その直後……強い目眩と柔らかい衝撃が全身を突き抜けた。
「あ……あれ、変ね……?」
どうやら、起き上がる途中でバランスを崩してベッドに倒れたらしい。
もう一度、私は立ち上がろうとする。
床に足をつけて、ベッドから降り……そこで視界が大きく揺らいだ。
ようやく自分自身に降りかかっている目眩と、足が思うように動かない事を自覚するが……遅すぎた。
視界がどんどん低くなっていき、床に叩き付けられるのは避けられない。
「リーナっ! 危ない!」
気がつくと、私は竜生に抱きかかえられていた。
竜生にこうやってぎゅっとされるのは、私を拾ってくれたとき以来だ。
だけど……悲しそうな目で私を見る竜生の顔を見ると、ちっとも嬉しく感じない。
「……リーナ、人形の、病気に……かかったのか?」
竜生が不安げに私の顔を覗き込む。
魔物娘がどうだ精がどうだ、なんて事情を知らない竜生にとっては、私の衰弱は病気としか考えられないだろう。
竜生の視点から言えば、三食ご飯を食べさせている子が栄養失調なんて考え付くほうが可笑しい。
「リーナ、何が辛いんだ? 言ってくれ!」
「私、は……」
ここで言ってしまえば楽になる。
私が魔物だと言ってしまえば。
ただの不思議なお人形ではなく、リビングドールという魔物娘だと伝えれば。
きっとこの寂しさとも飢えとも無縁になるだろう。
「私が、欲しいのは……」
貴方の少しばかりの精と、貴方の愛。
思考は逡巡し、私の本能は金切り声で叫ぶ。
もう十分我慢したじゃないか、と。
これ以上精が無ければ死んでしまう、と。
「何だ、何が必要なんだ! 何でも言ってくれ!」
竜生は昨日私に見せた怯えが嘘だったかのように、私を心配してくれている。
今の竜生なら、私が如何にこの世界の常識から逸脱した淫らな存在かを教えても私を軽蔑することはないだろう。
精を要求しても、快く応じてくれるはずだ。
(私は、もっと竜生と生きていたい。 もっと竜生とお話したいし、一緒にご飯だって食べたいし、いつか外にお散歩に行くって夢もまだだわ)
逆に、このまま私が聖人ぶって朽ち果てても竜生は決して喜ばない。
今私が言わないと、今勇気を出さないと私と竜生は最悪の、永遠の別れを迎える事になる。
(言うの、言うのよリーナ。 私が生きるには精が、貴方の精が必要だって。 貴方のじゃなきゃ駄目なんだって)
今の竜生、というのは正しくないのだろう。
多分、私を拾った初日に精を求めても、私がどういう存在なのかをちゃんと説明すれば最初は混乱しても必ず応えてくれたはずだ。
私が意気地なしだったばかりに、ここまで竜生を心配させてしまった。
だから、ここで、ちゃんと言わなくちゃ駄目だ。
「欲しい、のは……」
(でも、もし……)
もし、もしも、もしかすると、もしかしたら。
その呪いの言葉を思いつくと喉から出掛かった言葉が詰まってしまう。
竜生なら平気、竜生なら大丈夫、竜生なら信じてくれる。
そう何度も自分に言い聞かせても、私の弱い心に巣食った悪霊が私を締め付ける。
「……リーナ……」
竜生は私が勇気を持って踏み出すのを今か今かと待ってくれている。
だから、後は私が一歩前に出ればいいだけ。
それで全てが解決する、悲しみはそれで終わる。
言え、言え、言え、言え!
「……休息、よ。 最近やりたい事が増えちゃったからはしゃぎ過ぎたのね。 ごめんなさい、これからはしっかりと体調管理もしないとね」
私の口から出てくるのは醜いその場しのぎの逃げと、あはは、という薄っぺらな笑い声だけだった。
その空虚な笑い声には、次第に臆病者リーナへの自嘲が含まれていく。
……どこか遠くで、何かが砕ける音が聞こえた気がした。
「……そっか、大事じゃなくて良かった。 俺は学校に行って来るけど、今日は一日ベッドでゆっくりしてるんだぞ?」
竜生は大きく安堵の溜息を付いた。
その安心は騙されたものだ、と考えると私の胸がキリキリと痛む。
朝とお昼のご飯はここに置いておくから一気に食べるなよ。
疲れてるんだからテレビは見過ぎるな。
授業終わったらすぐ帰ってくるから、それまで大人しくしてろ。
お土産、プリンとアイスどっちがいい?……俺も食べるし両方買ってくるから半分こにしような。
やっべ、もうこんな時間だ! 行ってきます!
そんな竜生の言葉が耳に入ってくる。
……その後しばらくして、ドアが荒く開かれて慌しい足音が聞こえて遠ざかっていった。
竜生の普段通りの生活の音。
私の破滅を知らない彼の、打ち明けられなかった私の最後の交差点になるかもしれない音。
「……私、最低だ……」
折角竜生が私のために勇気を振り絞ってくれたのに、私は踏み出せなかった。
私は、私は……。
「私は、竜生の覚悟を踏みにじったんだ……」
竜生が出掛けた後、私はベッドの中で失意のままに時間を過ごしていた。
私が竜生に嘘を付いた事。
私が竜生を欺いた事。
私が竜生を騙した事。
その事実だけが頭をぐるぐる回って、ただでさえ酷い目眩に拍車をかける。
気分転換にテレビでも見ようかと思ったけど、竜生に止められている事とこの時間帯の番組の退屈っぷりを考えてリモコンに伸ばした手を引っ込める。
「私の想いは、簡単に嘘を吐ける程度のモノだったのかな……」
竜生に嘘を吐いたあの時から、今までの思い出全てが色褪せていった。
雨の中、竜生が道端で倒れてた私を抱きかかえて家まで連れてきてくれたこと。
初めての人間のご飯、とても温かかったこと。
竜生のために一生懸命大きな箒や掃除機を練習したこと。
それらを始めとして、無数にある記憶全てに価値が見出せなくなっていく。
どうして、思い出が綺麗に感じないのだろう?
「……そっか、思い出が色褪せたんじゃなくて、私の目がくすんじゃったのね」
私にとって竜生は全てだった。
私はそんな竜生に嘘を付いた。
私は私の全てに背を向けて、唾を吐き、否定したんだ。
「このまま思い出の色が分からなくなっちゃうくらいなら……」
いっそのこと、このまま家を抜け出して。
その後私は機能停止する。
その方が、お互いに綺麗な思い出のまま終われる。
私と竜生との美しい別れを実行に移そうとして、今更ながら思い出した。
「ああ、そっか」
私、今歩けないんだっけ。
何も出来ない自分に笑っていると、次第に目蓋が下りてくる。
それに従って、どんどん眠くなっていく。
あぁ、眠い、眠い。
竜生が用意してくれた朝食に手もつけずに目を閉じていると、すべてがどうでもよくなってくる。
眠りは、瞬く間に私を包み込んだ。
どれくらいの時間が経っただろうか。
少しのうたた寝だったかも知れないし、竜生がおじいさんになるくらいの間眠っていたのかも知れない。
まだ心の靄は取れないが意識ははっきりとしているため、目を開こうとする。
……そして、致命的な破滅が訪れた事を知った。
(目が……、目が開かないわ……!)
私の瞳を薄く包んでいる目蓋が石のように感じられ、私の意思をまるで受け付けてはくれない。
そして、目だけではなかった。
舌も、口も、腕も、足も、首も、指先一本さえも動かす事ができない。
(な、なんで……、まさか……)
私の身体が凍りついた理由。
一つだけ思い当たるものがある。
いや、その理由以外思いつかない、と言うべきか。
『精』の完全な枯渇。
(わ、私……ただのお人形になっちゃった、の……?)
まだ機能している耳からは小鳥の囀りが聞こえてきた。
寝る前に窓から見た外の景色は青一色の晴れだった事を思い出す。
だが、外の快晴とは真逆に私の世界は黒一色に閉ざされている。
……そして、この夜は決して明ける事は無いだろう。
もう二度と、竜生の顔を見ることも出来ない。
(そんな……いや……)
いや、いや、いやだよ。
今更になって恐怖と後悔の念が浮かぶ。
だけど、もう完全に手遅れだ。
私はごめんなさいを言う事どころか、もう涙一滴流す事はできないのだから。
「ただいまリーナ、元気にしてたか?」
竜生が帰ってきた。
荷物を置く音が聞こえて、次に寝室のドアが開く音がする。
「リーナ、アイスとプリンどっちから食べ……寝てるのか」
そう呟くと、竜生は私の横たわるベッドに腰掛けた。
頬に竜生の手の感触が伝わる。
「全く、まだ昼なのにぐっすりしやがって……」
そのまま頬を突きながら愚痴を零す竜生。
そして、反対側の頬に手を伸ばしたところで、異変に気づいて手の動きが止まった。
「なぁリーナ、……どうして息してないんだ?」
私は、応える事ができなかった。
竜生の私を呼ぶ声が、どんどん悲痛なものへと変わっていく。
でも、竜生がどれだけ必死に呼び掛けてくれてもただの人形に出来る返事など無い。
「リーナ……どうして、何でだよ……休息すれば治るって言ったろ……!」
声色は次第に涙が滲み、やがて意味のある言葉が無くなり、涙のみが流れ落ちる。
いつも二人のお喋りで賑やかだったはずの寝室で、再び独りぼっちになった竜生が涙を啜る音はずっとずっと止む事がなかった。
「ごめんなリーナ、独りぼっちの最期は寂しかっただろうに」
あれから数日後、私が死んだと思った竜生の決断は早かった。
最初の2,3日こそベッドに寝かせ続けていたが、いつまでも引き摺ってはいられないと立ち直って、私とのお別れの準備を始めた。
竜生は私の身体がすっぽりと収まるケースを持ち出してきて、まるで棺桶のように私を押し込む。
箱の中には私が書いていたノートやお気に入りだったカップを始めとした思い出の品、そしてお花も添えてあった。
そして、竜生は私の入ったケースを古びた物置まで持っていき……。
「……おやすみ、リーナ」
その言葉を最後に、ギィ……と物置の扉が閉まる音がする。
閉じた瞳からうっすらと感じられる光が、どんどん弱まっていく。
(嫌! 暗い、暗いのは嫌! もう竜生に会えないなんてもっと嫌! 嫌よ!)
醒めない眠りに付いた骸に幽閉されて、私は声にならない叫びを上げ続けた。
それが絶対に竜生に伝わることが無いと知りつつも、足音を立てて近づいてくる暗闇と孤独から逃れたい一心でひたすら足掻き続ける。
恐怖と後悔と絶望の入り混じった感情は私を内側から砕いていくには十分で、私は届くはずも無い竜生の名前を狂乱の中で呼び続けた。
(竜生、竜生、竜生! 竜生……!)
「竜生ぇえええええええええええええええええ!!」
自分の叫び声に跳ね起きる。
悪夢の世界から解放された私がまず最初にやった事は、自分の両手を見つめる事だった。
……大丈夫、動いてる。
ようやくさっきまでの光景がただの夢で、現実では動ける事を理解する。
「いや……消えたくない……忘れられたくない……」
私の心は恐怖で一杯だった。
あの夢を思い出すと、今にも両手が指先から凍り付いていきそうな気がする。
そして、今のまま精を取らなければそう遠くないうちにあの光景が正夢になる事を考えると、居ても立っても居られない。
「怖い、怖いよ……りゅうせぇ……」
ベッドから転げ落ちて、動けない足の代わりに手で這って何処に居るかも分からない竜生に会おうとする。
この時間はまだ竜生は学校なのは分かってたが、探し続けていないと心細くて折れてしまいそうだった。
「竜生、どこなの……? かくれんぼなの? 意地悪しないで出て来てよぉ……りゅうせぇ……」
誰も居ない廊下をずりずりと這いながら、ひたすらに竜生の名前を呼ぶ。
反響する自分の声を聞いていたら、夢で見た暗い箱の中を思い出してしまう。
それを紛らわすために、子供のように喚き散らす。
賽の河原のような悪循環を繰り返していく内に、頬から床に雫が滴っていく。
「ぐすっ……えぐっ……くらいのも、ひとりぼっちも嫌……竜生、一緒に居てよぉ……」
頬を伝うものは一筋の雫から始まって、どんどん増えていく。
決壊するのにそう時間はかからなかった。
今までの恥も外聞も投げ捨てて、幼子のようにわんわんと泣き叫ぶ。
「竜生ぇええええ! 行っちゃやだああああああ!」
いくら喚いても、まさか竜生がこの場に空間転移する訳でもない。
泣いても叫んでも状況が好転なんてするはずもない。
だが、機能不全の不安と悪夢からくる恐怖で限界に近かった私はそれを考える余裕など無く、赤ん坊の駄々のような惨めな喚き声を上げることしかできなかった。
当然、泣き喚く事は精の補給を行う行為ではない。
泣き叫んでいる間にも身体はどんどんと重く感じられ、思考にも段々靄がかかっていく。
(重い……寒い……寂しい……いや、嫌……会いたい、帰って来てよ竜生……)
竜生に会えれば身体が治る気がした。
今すぐ竜生に会いたい、と思った。
だけどまだ時間は12時頃、竜生は学校に行くと大体夕方まで帰ってこない。
独りぼっちは嫌だし、このまま永遠に動けなくなるのはもっと嫌だ。
だけど、抗いようの無い眠気が段々と私から意識を奪い去る。
「早く、帰ってきて……りゅうせぇ……」
掠れていく意識の中、ドアが開く音が聞こえた。
「ん、気がついたかリーナ?」
本日三度目の目覚め。
私はまたもベッドに寝かされており、目が覚めるとすぐ隣に竜生がいた。
毎晩寝る時と同じ、添い寝の状態。
違うのは、お互いが見るのは共通の天井じゃなくて相手の顔だという事。
……私の目の前、少し近づくだけで口付けが出来そうな距離に竜生がいる。
「りゅ、竜生……! 学校は……?」
「早退してきた。 ……学校に居る間にリーナが倒れてるんじゃないか、と思ったんだ」
そう言う竜生の口ぶりは少しだけ硬い。
どうやら、私がベッドを抜け出した事にご立腹のようだった。
竜生が、全く心配掛けさせやがって、と溜息を吐く傍らでふとした疑問が浮かび上がってくる。
(……あれ、なんで家に居る私の事が分かったの? 貴方学校に居たわよね?)
どうして竜生はわざわざこの時間に帰ってきたのだろう?
竜生はちゃんとした理由なくサボったりはしない人間だ。
……もしかして、彼の霊感が私の状態を教えてくれたのだろうか。
だとすると、彼が望まぬ霊感に助けられるのはこれで二度目。
竜生は自身の霊感を疎んでいるが、それが無ければ私達は出会う事すら無かったのだ。
私達の切っ掛けにもなった霊感を上手く受け入れられない竜生と、精が必要な事を限界まで言い出せなかった私。
お互いにとても不器用で、案外私達は会うべくして出会ったのかも知れないと思うと笑い声が零れる。
クスクスと笑いながらそんな事を思っていると、竜生は私の顔に手を寄せてきた。
何をするのかと思うと、いきなり額を指で軽く弾く。
「……いたっ!」
私にデコピンを見舞った竜生は満足げに、ベッドから出た事はこれで許すと笑った。
そのまま私の断り無しに自慢の髪を乱暴に撫でてきたため、非難の意を込めて竜生の少年相応の胸板に身を預けながら上目遣いで睨む。
これだけ密着していると心臓の音までが聞き取れ、とくん、とくん、と竜生の胸から鼓動が響く度、私の心も安らいでいく。
そのままお互いに無言を貫いていると……ふと竜生が呟いた。
「……でも、無事で良かった」
それを聞いて私は思い出した。
まだ本当の事を言えていなかった事を。
今度こそ勇気を出さなきゃいけない事を。
「ねぇ竜生……貴方に言わなきゃいけないことが2つあるわ」
私の口は、油の切れた機械のように鈍重に動き出す。
口ぶりは重く重く、動くたびに心がギシギシと擦れる音がする。
でも……今度こそ私は逃げない。
「言わなきゃいけないこと?」
竜生は私の言葉に怪訝な顔をする。
……だが、この大真面目な場でも竜生は私の頭を撫でるのを止めない。
この髪を優しく撫でる感触が私から恐怖を追い出しているのだけれど、意識すると恥ずかしいのであえて考えない事にする。
「えぇ。 まず、また心配かけちゃってごめんなさい」
まず1つ目は、昨晩と今朝、そして今の事。
考え直せば昨日から私は竜生に迷惑をかけっ放しだった。
竜生は気にするなって言いたそうな顔だけど、こればっかりは言わないと私の気が済まない。
「そして2つ目ね。 ……私、今朝貴方に嘘を吐いたの」
「嘘?」
「えぇ。 ……うん……っと……」
そして、2つ目の事。
この話の核心。
本当に真剣な話だと伝わったのだろうか、頭を撫で続ける手が自然と止まった。
どう言おうか、どう伝えようか?
竜生に向ける言葉を考えるだけで、私の鼓動がどんどん早まっているのを感じる。
また逃げ出したい気持ちだけれど……今言わないともう一生伝えられない気がした。
私の鼓動が、竜生の鼓動と同じくらい静まるのを待って……。
「……そう、私は嘘吐きの悪い子だったのよ、私はお休みが欲しいって言ったけどあれは嘘。 本当に欲しいのは、貴方の……」
胸がドキドキ鳴りすぎて苦しい。
具合が悪いわけでも発情してるわけでもないのに、息は荒く荒くなる。
意識していないと、勝手に歯がカチカチと鳴ってしまいそうだ。
今すぐにでも投げ出して、竜生の鼓動を聞いて甘えに行きたい。
……だけど。
「はーっ、ふぅーっ……」
一度、わざとらしいまでの深呼吸をする。
大きく息を吸って吐き出す間に、私の頭の中で竜生との出会い、竜生との暮らしがフラッシュバックしていった。
『お前、喋れるのか? ……俺は時田竜生、お前は何て言うんだ?』
『人形の口に合うかは分からんが……ほら、食べるか?』
『外、雨止まないな……。 しょうがないな、そこのベッド使えよ。 何、一緒に?』
『ああもう分かったよ、どうせ一人暮らしだ。人形一人くらい構わねぇよ』
『ただいまー。 リーナ、今日はカレーだぞー……服汚すなよ?』
そのどれもが大切な大切な思い出。
絶対に失いたくない日常。
(私は竜生と生きて行きたい。ずっと竜生と一緒に居たい! ……覚悟、決まったわ)
そして。
私は私の本性を告げる。
「欲しいのは……貴方の、精よ」
「リーナ、これでいいのか?」
「ええ、ありがとう。 ……ズボン、下ろすわよ」
私は、椅子に座っている竜生の前で彼の両足の間で膝立ちになった。
両手で彼のズボンをゆっくりと下ろして、下着越しに性器に触れる。
まだ性的な愛撫よりは子供の頭を撫でるような手振りだったが、指で下着の隆起をなぞっていくとすぐに形を変えた。
「すごい……どんどん硬くなっていくわ……」
触る前は布の裏から小さく主張するだけだったモノは、既に下着の中を窮屈そうに暴れる剛槍になっている。
魔物娘としての本能が堪えきれなくなった私は、下着に手を掛けて一気にずり下ろす。
ペニスが反動でビクン、としなった。
本能的にそれを手で握って、肌とは明らかに違う熱の篭り方に驚く。
「あ、熱い……竜生、興奮してるの?」
竜生は何も答えなかったが、握った手で軽くしごくだけで熱い脈が感じられた。
握った時から更に大きく膨らんでいて、ペニスを柔らかく包んだ手を上下させる度に、更に硬くなり続けていく。
竜生の吐息が部屋に反響する中、しごき上げているペニスのグロテスクに見える先端が目に入った。
……少し魔が差して、亀頭に指を走らせる。
瞬間、性器じゃなくて竜生自体が跳ね上がった。
「ご、ゴメン! 痛かった?」
慌てて手を離して、痛がってないか顔を覗き込む。
竜生の表情は驚きが占めていたが、引き攣るような苦痛の顔はしていなかった。
「だ、大丈夫……続けて、いいよ……」
痛みは無かったはずの竜生の息は荒い。
男根が凶暴なまでに勃起しているのを見ると、相当の性感を受けているようだった。
……最も、彼のペニスを弄んでいる私も竜生と同じくらい興奮しているのだけれど。
「竜生のここ……どんな味なんだろ……」
ふと呟いた直後、私は言葉を言い終わるより早く竜生の亀頭に舌を向けていた。
舌をちょん、と付けただけで肉棒が大きく跳ねる。
「りゅうせぇ……亀頭、弱いのね?」
少しだけ嗜虐心がくすぐられて、手で竜生の性器を捕まえて逃げられないようにしてから舐め回す。
竜生の身体がビクンビクンと何度も跳ねて、ペニスは私の舌から逃れようと暴れだした。
ペニスを掴んだままソフトクリームを舐める時のように舌を上下させて行くと、次第に亀頭に苦い味が混ざっていく。
「これ、カウパーって言うのよね……気持ち、良いのかしら?」
私がそう言うと、竜生は口を真一文字に結んだままこくんと頷いた。
口は堅く閉ざされているが、荒い吐息から彼の興奮具合は手に取るように分かる。
……あんなに気持ち良さそう。
なら、私も……。
自然と私のもう片方の手はドレスのスカートへと伸びていく。
「な、なにこれ……っ、あっ、だめ……っ」
スカートの上から私の恥部を擦っているだけなのに、私の口からは意思に関係なく嬌声が響く。
自分を慰める手は最早私の意識を離れて勝手に快楽を刷り込み、その甘美な快楽の中では器用に手でペニスをしごく事なんてできそうに無かった。
代わりにいきり立ったソレを口で咥え込む。
「リ、リーナ……それは……っ!」
竜生は咄嗟に快楽から逃れようとしたのか、私の頭に手を押し当てる。
でも、私の口内がペニスを転がして唾液塗れにすると竜生の手は私の頭に力無く置かれるだけになった。
そのまま舌をペニスに絡め、亀頭のカウパーと私の唾液が交じり合っていく。
「く、ぅ……っ、リーナ……!」
竜生ははぁはぁと息を荒げながら、ゆっくりを頭を撫でてくれた。
普段ならしゃぶるのを止めて竜生の胸に甘えに行ってしまう所だったが、今の愛欲で濡れた私には全く別の効果をもたらした。
私はスカート越しに恥部を刺激するのを止めると、竜生の空いている手を掴む。
そして、掴んだ手を下に持って行き……。
「りゅうせぇ……私にも、して?」
私のスカートの中に入れた。
竜生の手をそこで解放すると、すぐに私のショーツからグチュグチュという淫らな音が聞こえてくる。
そして、自分でするのとは比べ物にならないほどの気持ち良さが流れ込んできた。
「あっ、ああっ! 竜生の指、気持ち良い! 気持ち良いよぉ!」
竜生がもたらす快楽に身を委ねて、一息に竜生のペニスを根元まで咥え込んだ。
そのままじゅるるると思い切り吸い上げると、口の中にどんどんカウパーが含まれてきた。
吸い上げたまま竜生の顔を見上げると、さっきの閉口は何処へやら大きく口を開けて喘いでいる。
だけど、こうして私にフェラされている間にも竜生の指は私の恥部を薄い下着越しに何度もなぞり、愛液で指と私の太股を濡らしていく。
竜生と目が合うと、男根がまた大きく跳ねた。
私の淫蕩に浸った顔を見てまた興奮したのかもしれない。
私も、竜生が私にだけ見せてくれる顔を見るとどんどん気持ち良さが増えていった。
(も、もうダメ……イッちゃう……!)
この頃には、竜生の指は大胆にも私のショーツを押しのけて中に指を入れてきていたので、絶頂が近づいていた。
亀頭を喉に押し当てるような、顔ごと前後させるように激しく奉仕していると、竜生が不意に叫ぶ。
「リーナ、もう駄目……出る……!」
それと同時に、ペニスが不規則に連続して脈動する。
竜生の言葉に堪えきれずに、私も一旦ペニスを吐き出して叫んだ。
「私も、私もイク! りゅうせぇ、一緒が良い、一緒じゃないとやだぁ!」
そのまま竜生のペニスを口全体で味わって、恥部を手で責められる快楽を味わって。
身体の火照りが最高潮に達したとき。
「……イっ、イクっ、あぁあああああぁあぁぁああーっ!」
脳が真っ白になるような強烈な感覚。
口に放出されて、収まりきらずに私の唇から零れ出る白い液体。
そして、私の恥部を指で滅茶苦茶に掻き回される被虐的な快楽。
その全てを浴びて、私の意識も白く染まっていった。
「かはっ……はぁ……ん、ぐっ……」
ペニスを口から出し、目を瞑って口内に溜まっていた精液を一思いに飲み込む。
粘り気の強い液体は、飲み込んだ後も強い余韻を喉に残した。
口の中の精液を全て飲んだ後に改めて目を開ける。
そこには、さっきあれだけ精を放出したにも関わらずまだ硬さを失わない肉棒がいきり立っていた。
「竜生のココ……まだ、満足してないのね」
そう言って、私は椅子の上へとよじ登る。
スカートの中に手を入れて下着を下ろし、竜生の腰の上に跨った。
椅子に落ちた私の下着は、ぐっしょりと濡れている。
結局、これだけ濡らしても満足できない私もこのペニスと変わらないのだろう。
「竜生……触れてもないのに、とても熱いのが伝わってくるわよ……」
上目遣いで竜生の顔を覗き込み、淫らに笑いながら言うと彼のペニスがびくん、と大きく跳ねた。
竜生が私の言葉で興奮して、ペニスを飲み込まれる事を待ち望んでいることは丸分かりだ。
そのまま腰を下ろしていき、竜生のペニスが私のスカートの中に隠れていく。
ペニスの熱気は私の恥部を愛欲で燃やして濡れさせていく。
下の口で味わうペニスの味を想像して足をガクガク震わせながらも私の恥部をペニスに近づけて行き……先端が、触れる。
「びくびくしてる……こんなに熱い……」
竜生のペニスは自らが収まる場所を前に、ギンギンにいきり立っている。
そのまま、一気に腰を下ろした。
竜生のペニスが、狭い膣を突き破りながら私を貫く。
「あっ、くぅぅぅうううぅーっ!」
まだ挿入しただけだと言うのに、嬌声が部屋に響き渡る。
この声はどっちが出したのだろう?竜生?私?
あまりの快楽で考える事は続かなかったが、きっと両方が出したのだろう。
恥部に意識を向けて、ペニスを締め付けようとする。
「リ、リーナの……きつ……い……っ!」
「コレ……私の狭い中で、暴れて……る……!」
ペニスの脈動が、竜生の性感が、膣の感触を伝って私の頭に流れ込んでくる。
私の膣がペニスをきゅうっと締め付けようとすると、更に熱く硬く膨張して私を快楽で締め付けてきた。
先ほどまで純潔を保っていた私の膣内に窮屈に押し込められたペニスは、自己主張激しく肉壁を押し返してくる。
きつくきつく締め上げられる竜生のペニスと、暴れ馬に蹂躙される私の膣。
互いの性器が互いを最大限に陵辱する。
「竜生、動くわ、よ……っ」
そう言って腰を弱々しく振る。
少し身体を揺らすだけでも、私の膣に収まりきらないペニスが内側を擦り、嬲っていく。
そして、今まで生娘だった私には快楽が強すぎて、すぐに荒い息を吐きながら腰を止めてしまう。
「ご、ごめん今動くから……あうっ、はぁ……はぁ……ま、また止めちゃう……」
少し動いては止め、少し動いては止め。
精を受け取ろうと腰を動かしては、快楽で力が抜けていく。
そのまま何度目かの寸止めをしていると、竜生が辛そうにこう言った。
「ごめんリーナ、もう限界……」
その直後に、今まで以上の快感が私を貫く。
今までの生殺しに耐えかねて、竜生が腰を振っていた。
彼が少し動く度にペニスは私の膣を荒々しくしごき、奥にぶつかる。
「ちょ、ちょっと竜生! やっ、あっ、んぅっ!」
私は抗議の声を何度も上げようとするも、一度突かれる度に言葉は霧散していく。
竜生の胸に身を預けて両手で叩いてみても、ぐりぐりと私の膣内をこじ開けるペニスの動きは止まらなかった。
次第に抵抗もできなくなり、突きに合わせて口から喘ぎ声が零れ落ちるだけになる。
「あっ、やっ、んっ! ……む、むぐ……っ」
突かれながらも、竜生に顎の下を持たれる。
そのまま竜生の手によって私は上を向かされた。
私の視界いっぱいに竜生の顔が広がって……。
(キ、キスしながら突かれるなんて、おかしくなる……!)
竜生の舌が私の口内を舐め回す度に、私の体が意思問わずビクンと跳ねる。
口は竜生の舌に蹂躙されて、膣は竜生のペニスに陵辱される。
上も下も竜生からの性感を受け続けるのは、私の許容を軽く超えていた。
次第に快楽で訳が分からなくなり、竜生以外の事を考えられなくなっていく。
「ぷ、はっ! りゅうせぇ、大好き!だいすきぃ!」
竜生の舌が離れて、自由になった途端に私の口は叫びだした。
私の意思で言ったのか、快楽にのたうつ私の体が勝手に言ったのかは自分でも分からない。
「俺も、俺もリーナが大好き、だ……!」
「あっ、あうっ、ふぁあっ! り、りゅうせぇ!」
激しい快楽に身を焼かれながらの甘い蜜月。
グチュグチュと淫らな液体の音が鳴り渡る中、絶頂が近づいていく。
「りゅうせぇ、わたし、もうイキ、そう……!」
嬌声の中で、なんとか言葉を搾り出す。
無理やりに搾り出される嬌声のせいで、もう喉はカラカラだった。
対する竜生の顔も、限界が近いのが分かる。
「俺も、もう出そうだ……!」
「りゅ、竜生!竜生の愛、私の膣内に一杯ちょうだい!」
言い終わるや否や、お互いに舌を出し合って口内で絡ませる。
叫び続けていた私は、貪るように竜生の唾液を舐め取っていた。
私の足がガクガクと震えだし、今にも絶頂を迎えようとする。
竜生のペニスも、一段と激しく震えて精を放出したがっていた。
「あっ、くっ、リーナ、リーナ!」
「んっ、んんぅーっ!」
口と口、ペニスとヴァギナ。
両方を結び付けて、二人で絶頂を迎える。
お互いの舌は相手を求め合い、絶頂してからも絡み合い続ける。
私を内側から激しく叩きつけていたペニスの先端がドクドクと震えて、先端から熱いものが出てくる。
同時に私の膣も激しく収縮し、今までで一番大きな快楽が私の思考を焼き切るような流れ込む。
余韻は、いつまでもいつまでも続いた。
「ところで竜生」
その日の夜、私は竜生と同じ天井を眺めながらふと声を掛けた。
「リーナ、どうした?」
竜生は私の小さな手を優しく握りながら返事をする。
その声色には、昨晩のような戸惑いはなかった。
あの後、私は私について全てを話した。
魔物娘のこと。
リビングドールのこと。
精が無いと活動できなくなること。
「竜生……本当に、もう私の事が怖くない?」
思い切って、昨日竜生が言っていた事を尋ねてみる。
竜生の気持ちを今更疑ったりはしないが、竜生が魔物娘という存在をどう思っているか少し気になったのだ。
この世界では魔物娘は既存の常識に唾を吐くような存在。
そして、分からないモノを怖がるのは至って普通の考え方だ。
私のようなリビングドールも、念がある限りどれだけ破壊されてもどれだけ遠くに捨てられても男性の元に戻る性質がある。
加えて、精が必要という体質もある。
だから、竜生も少しは困惑しているのだろうと思って竜生の方を向くと……。
「あぁ、全く怖くないね」
竜生は自信たっぷりにそう言い切っていた。
どうして?と尋ねると、これまた自信たっぷりにこう告げる。
「俺は悪霊が恐ろしかっただけだ。 だけど、リーナはリビングドールとかいう別物なんだろ? じゃあ怖くも何とも無い」
「……そういうものなの?」
私はつい呆れ顔になってしまう。
魔物娘と悪霊。
名前こそ違えど非現実さは大差ないと思うのだが、竜生からするとその二者には大きな隔たりがあるらしい。
「悪霊どもと違ってリーナはちゃんと心を持ってる。 霊感が俺にそう告げてるんだ」
「全く、調子良いんだから。 ……ところで、もう霊感は平気なの?」
今まで霊感を疎んでいた竜生は何処へやら、今やすっかり霊能者気分に浸っている。
……どうやら、霊感への恐れはすっかり克服したようだ。
「あぁ、思い返すと霊感持ってなければ俺も祟り殺されていたんだよな。 親父もお袋も一家全員死ぬ事は望まないだろ。 それに……」
と一度言葉を切って、
「リーナの泣き声が、聞こえた気がしたからさ。 ……多分、霊感無かったらリーナも失ってた」
と締め括った。
やっぱり、あの時竜生が駆けつけてくれたのは私の声が届いたかららしい。
……でもちょっと待って、それって……。
「私の駄々みたいな泣き声……全部聞いてたってこと……?」
体中から一瞬で体温が抜けるような気がした。
昼間に私が喚き散らした内容を思い出す。
……あれを全部、聞かれてた?
「うああああああ竜生のバカバカバカ! 忘れて忘れて全部忘れてぇーっ!」
気恥ずかしさに身を任せて竜生に圧し掛かり、握られていない方の手で何度もポカポカ叩く。
私は最大限の攻撃をしたつもりなのに、竜生は笑いながら頭を撫でてきた。
違う、そうじゃない!
……あ、でも頭撫でられるの気持ち良い……。
そのままつい手を止めてしまい頭撫で撫での快楽に屈していると、竜生が笑いながら意外な事を言ってきた。
「ごめんごめん、今度何処か一緒に出かけよう。 な?」
「……え? で、でも私が外に出るのはまずいんじゃあ……?」
私はこの家に来てから一度も外出したことが無かった。
小さな人形の姿の私は別に家の中を窮屈だと思ったことはないし、この世界で外を出歩けば世間が大騒ぎになるのは目に見えていたからだ。
いくら竜生が良いと言っても、こればかりは簡単に首を縦には振れない。
竜生のトンデモ発言に私が驚いていると、竜生は更に追い討ちを掛けてくる。
「最近、リーナみたいな魔物娘?が沢山出てきたみたいなんだ。 今日の帰りも角生やした奴に尻尾のある奴、剣を持ったのもいたな」
あれ銃刀法大丈夫なのかよ、と笑いながら言う竜生。
だけど、私にとっては竜生が見た魔物娘の種類なんてどうでも良かった。
私が外に出られないのは魔物娘が世間に知られていなかったからだ。
もし仮に、外に魔物娘が沢山居たとしたら……。
「じゃあ竜生とお出かけ、できるの……!?」
「あぁ、何処にだって行ける。 なぁリーナ、何処に行きたい?」
竜生の問いかけに、えーっとえーっと……と考えている内にどんどん時間が経過していく。
おもちゃ箱をひっくり返したような遊園地?
ドラマでよく見るような温泉旅館への旅行?
喫茶店で二人きりのお茶会?
いや、普通にご飯の買出しに行くだけでも楽しみだ。
そうして想像を膨らませていると、ふと耳にカチカチという音が聞こえてくる。
音の源を辿っていくと、時計に目がついた。
……もう長針と短針が真っ直ぐ上を指して重なっている。
「……り、竜生。 もう12時よ」
「……って本当だ! そろそろ寝ないとまた明日寝坊する! おやすみリーナ!」
そのまま慌しく照明を落とし、竜生は目を瞑る。
普段より就寝時間が遅いからか私が絞り過ぎたからか、すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
眠っている時でも私の手をもう離すまいとしっかりと握り締めている。
「……おやすみ、竜生」
また明日ねと付け加えて、私も目を瞑った。
意識が少しずつ薄れていく中、握った竜生の手はどこまでも暖かかった。
15/11/13 00:20更新 / ナコタス