連載小説
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平和を守るために羽ばたく黒羽
何処かの世界。
過去。人間と魔物は争い合う運命で繋がれていた。
魔物は人間を喰らい、人間は自分達を守るために魔物と戦った。
そして現在。
今では魔物は女性しかおらず、人間に害を加えていた魔物たちとは全く異なるものとなった。
人間を愛し、人間と繋がる事を欲する彼女等を魔物娘と呼ぶ。
魔物娘はしばしば誤解される。
人を攫いそのまま夫にするなどは日常茶飯事にある事では無い。けれども、頻繁にある。
しかし。人間からしてみれば、状況証拠だけでは明らかに骨ごと丸呑みしてしまったような印象を受けるだろう。
少しのすれ違いが、大きな亀裂を生んでしまった世界の中。
そんな、人間と魔物娘の物語。


俺は、空を飛んでいた。
いや、空を飛ばされていた。
「どう、気持ちいい――――?」
速過ぎる風に負ける事無く、自分の耳に届く。。
自分を抱きかかえながら黒い羽で飛ぶ彼女の姿は、美しい。
「後どれくらいでつくんだ!?」
大声で、風に流されながらも彼女に問うた。
「一応隠れながら飛んでいるので、もうしばらくですかねー?」
のんきに笑いながら、森の中に入りギリギリの高さを飛ぶ。
王女がさらりと護衛をこの黒羽の少女に任せたのは、以外にも技術力の高さを買ったのだろう。
彼女のスピードに自分達の護衛は無理に合わせず、同じく隠れながら飛んできていると聞いた。
そうだとしても。
「飛ばされる側の事を考えてほしかったな…」
その言葉は、薄く完全に風に散ってしまった。

「さあって着きましたよ!」
ここは自分の国の近くの森。
この森に入ると、神隠しのように消えていなくなる事から迷いの森という名前がまことしやかに囁かれていた。
まさか。いや、考えるまい。
大木に背を預け、息をつく。
「すいません、それなりに速度を維持する必要があって…」
かなり息を切らしている自分に対し、黒羽には疲れの色は見えない。
「あ、ちょっとばれないように…んしょっと」
黒羽は、フードを深くかぶり羽を隠そうとする。
「隠せてないぞ。その羽。」
確かに隠せているのだが、近くで検閲されてしまうとすぐ羽に気が付いてしまう程度の物だった。
「大丈夫ですよ。勿論、何も考えずに潜入しようとなんて思ってません」
「本当に?」
「本当に。ふふっ、ほら貴方もフードかぶってください?」
少しボロボロのフードを渡される。
「……もう少し綺麗でもよかった気がするけども」
「いやー潜入するならこれくらいボロボロじゃないと」
何を思い浮かんでいながらこの服を自分に渡しているのだろう。
それなりに深い森の中。もしかすると他の魔物娘だけでなく、衛兵が来て襲われるかもしれない危険もある中で、こちらの緊張をほぐしてくれているのだろうか。
「……そろそろ、ですかね。行きましょう!」
そういって、片手を上げてスタスタと歩き始める。
森は、少しだけ騒めいたように思えた。そう何度も来た覚えは無いのだが。

国の入り口前。
国が把握している入口は一つだけで、後は城壁で囲まれている。勿論何も考えずに空から飛んで行こうとすると、
下手を打てば撃たれる。
もしかしたら何処かに隠された入口があるのかもしれないが……。
だが、黒羽がそのまま正規の入り口に歩いていく。
「お、おい!く……ええと、おい!」
黒羽じゃない。そんな怪しい名前で呼べない。が、呼び止めようとする。
「あーもう、早く行きますよぉ?ほらほら」
そのまま腕を組まされ、入口にいる門番へと歩み寄る。
「すいませーん、入りたいんですが!」
少しも顔を隠そうとしない。それどころか羽もちらりと見えている。
何処の国かの確認証を黒羽に持たせた覚えも無い。どう切り抜けるつもりなんだ?
「ああ、はい。どうぞ中に入ってください」
少し低めの女性の声が黒羽ごしに聞こえる。
「どうもー!ほら、行きますよ?」
そのまま腕を掴まれて中に入っていく。この状況下で何故検査が非常に甘いのか少し怒りそうになり、衛兵に思わず衛兵の顔を見てしまった。その時、察したのだ。
既に、魔物娘がここを掌握してしまったのだと。
人間の姿だが、上手いこと誤魔化しているのだろう。こちらを見てニヤリとウインクをした。
もはや自分の力など必要なく陥落させられるのではないだろうかと思いながら、そこを後にした。

「さて、もう中に入れましたね」
人がいない路地裏を選んでんー、と彼女は羽を伸ばす。
本来ならば、路地裏の方が危険なのだが文句は言えない。
「いやーごにょごにょしてない路地裏って珍しいですね」
まわりを見ても夕方のように暗い。何やら広告を貼った後や謎の落書きなど、治安はよくないんだろうか。
そんな中、彼女は折りたたんでいた羽を取り繕っている。
髪の毛以上に気になる所なのだろう。少し乱れた羽がどんどん綺麗になっていく。
しかし、言葉の真は問わない。
「さて、どうします。宛も無く歩くわけにも行きませんよね?」
少しだけ、黒羽が真面目な表情で問う。
「まず、レジスタンスの場所を探る。味方になれる人を探して、最終的には全員で城を攻めて落城させる」
羽を取り繕い終えた黒羽は、非常に驚いている様子だった。
「え……その、まさか殺したり…とかしないですよね……?」
じり…じりと俺に近寄りながら問う。心なしか、目が赤色に光った気がする。
こちらも、少し後ずさる。骨まで食われかねないような空気が、辺りに漂った。
「解ってる、だから君たちの力も必要だ。君たち魔物が入れるように城壁に綻びを作るのが、一つの目標になる。けれど、それだけじゃ駄目だ」
人間と魔物が手を組む必要がある。それは、目を背けるべきでない事実だった。
さてどうするべきかと思案し始めた自分達の元に、思わぬ来客があった。
 「あの…貴方はまさか王子ですか?」
何やらフードを被った怪しい人影があった。黒羽をちらと見ると、既に羽を隠した状態で応対していた。
「ふふーん。私達は正義の使者ですよー!」
「アンタは何者なんだ?」
すぐに黒羽の口を塞ぎ、もがもがさせながら問う。
「俺達は王子を探していたんだ、早速来てほしい」

―――反魔物国家某所。
今の王国に反発しているレジスタンスの溜まり場。
王子を探していたという男に着いて来た形になる。
もしかしたら罠かもしれないという危惧は、心強い味方がいる事で解消された。
何か身の危険があるとすれば、それは敵の心配をすべきだろう事は簡単に予想が出来る。
それほどまでに、魔物娘は強い。パワーバランスが歪む程に。
「よく来てくれました、王子。我々は貴方を歓迎します」
壁には多少の装備、そして柄の悪い男から少年、果ては麗しい淑女までが身を潜めていた。
中には包帯を巻いて、怪我に耐える人もいる。
「状況は良くなさそうだな」
「はい。時折王族を襲っているのですが、守りも固く現状を打破出来ていません」
王族の前でそれを言う彼の間抜けっぷりはさておき。
「むむむ…よくない、よくないです。暴力で解決するのは中々に良くないですねぇ」
黒羽が、何やら考え込んでいる素振りを見せる。
彼女は、意外と鳥頭ではない事がこの数日間で語られている。
個体差はあるが、人間とほぼ変わらない知能知性知力。果てはそれ以上か。
「なんだと!俺達の活動を侮辱する気か…!この女!」
柄の悪そうな男が、柄の悪そうな事を言う。
一瞬殺気立った空気が舞う。
「ええ、だって人間なのですから。私達と仲良くしてほしいですね全く」
フードを取り、その空気に黒羽を舞わせる。
それは、自分は人間でないと主張するには充分な強さだった。
「ば、ば、化物!」
メンバーの一人が慄く。
「私は、親魔物国家から遣わされました。私達は、争いを望んではいません。寧ろ、私達は人間が必要なのです。守りたいし、愛し合いたい。人と魔物の垣根を越えて手を結びたいのです」
彼女の強さは、彼らを静かにさせた。
信憑性があるような、そんな言魂が彼らを突き刺した。
「…それで、俺達はどう動けばいいんだ。何か考えがあるんだろ、王子」
それは、指揮官を自分に変えるという意思表示だった。
「文字通り、俺達人間と魔物が手を組む必要がある。まずは…」

真夜中。
黒羽に、魔物娘側の行動を書き連ねた文書を託すと、任せてと自信満々に応えて闇夜に消えた。
目標はただ一つ、死なせずに制圧する事。
それが出来るのは魔物娘であり、その風穴を開けるのは人間にしかできない。
一気に動くのは三日後、果たして。

夜なんですから素敵な事したかったです、と耳に釘を刺されたのは気のせいだと頭の隅に追いやる。
あの肌は、脳に傷を残す。
頭を横に振り、渦巻く知識を捨て去る努力をした。
19/07/09 14:29更新 / 家庭科室
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■作者メッセージ
細かく刻む。
身辺で多少傷つき、前へ進み、それでもやはり傷口から詩が流れる。
少しずつ、少しずつ。

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