読切小説
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傘張り浪人
ジパング、ホンジョ地区の一角に、少し変わり者の浪人がおりました。その浪人は、剣や富より傘張りを好み、もはや元々武士だったと言っても誰も信じないほどの唐傘職人と化しておりました。浮いた話もなく、傘に心血を注ぐその姿から、「あいつは傘を伴侶にしている」との噂が立つほどでした。

〜(昔ばなし風フィルターを一時解除します)〜
「そんなわけあるかあっ!少しは信じてくれる客もいるし、普通に嫁だって欲しいわっ!」
「うわわっ、いったいなにを!?」
「おっととすいません。どこからか俺の悪口が聞こえて来てね。うちの傘は大切に使ってくれよ――」
そう。‘‘浪人‘‘は、傘を売る時決まり文句のようにこう言いました。
「――俺にとっちゃ‘‘我が子‘‘のようなものだからな。」と。
〜(昔ばなし風フィルター再使用します)〜

その日の夜、寝ていた浪人の耳に、声が聞こえてきました。傘しかないはずの部屋から、か細くすすり泣くような声で、『おっ父・・・おっ父・・・』という子供の声が。
‘‘浪人‘‘は興味本位でその部屋への襖を開けました。
そこには、藍地に赤い模様の和傘がありました。いや、正確には、大きな一ッ目に、地面まで伸びる長い舌、石突に履いた下駄・・・所謂‘‘唐傘お化け‘‘が、すすり泣いておりました。
普通ならこういう時は、恐怖心から見なかったことにし、布団に潜りなおすものですが、
‘‘浪人‘‘は不思議と恐怖心を抱かず、むしろ自分から近づき、なぜ泣くのかと唐笠お化けに問いました。すると、
『おっ父は、オラたちのことを我が子と思ってくれていない』と返ってきました。
「まさか。」‘‘浪人‘‘は信じられないといった調子で返しました。
『だって、オラたちのことを、「我が子‘‘のようなもの‘‘」って言ってるだ。』
「それは・・・」
『きっと「生き物ではないのだから正確には違う」って思ってるだ。』
‘‘浪人‘‘はとうとう言葉に詰まってしまいました。
『オラたちにだって心があるだ。そりゃいつもは喋れないし、「血が通っている」かと聞かれたら、はいとは言えないだが。』
「・・・すまぬことをした。お前らの気持ちも知らずに・・・」
「だが、お前には紛れもなく俺の血が通っておる。」そういって、‘‘浪人‘‘は‘‘唐傘お化け‘‘の赤い模様を指差しました。疑問を顔に浮かべている‘‘唐傘お化け‘‘に対し、‘‘浪人‘‘は恥ずかしそうにこう答えました。
「お前を作るときに鼻血を出してしまってな。模様として誤魔化したが、俺の血には変わりあるまい。」
『・・・おっ父!』血が通った自分の子と認めてもらえて、感極まったらしく、‘‘唐傘お化け‘‘は、‘‘浪人‘‘に飛びついてゆきました。
「こら、俺を包むでない。俺の下敷きになって骨がつぶれたらどうする。」
『そんときゃおっ父に直してもらうだよ。』
そんな微笑ましいやり取りの末、とうとう二人共寝てしまいました。

夜が明け、‘‘浪人‘‘も目が覚め、ふ、と目の前を見て‘‘浪人‘‘は固まってしまいました。
昨夜のことを半ば夢だと思っていたのだから、いや、昨夜のことが本当だと信じていたとしても、固まるのも無理はありません。
藍地に赤模様の唐傘を被り、何故かしっとりとした服を着た幼子が、自分に抱きついたまま、健やかな寝息を立てていたのですから。
「すいません、辻斬りにあって――」という常連客の一言でようやく状況を理解したはいいものの、今度は常連客が固まってしまい、
(!?‘‘浪人‘‘さんの子か?いや、この人に彼女や、遊廓に行く懐の余裕なんてないのだから子供がいるわけがない!ひょっとして浮いた話にできない様な嗜好の持ち主!?それなら丁度良いのがあった!童女趣味(今でいうロリコン)だ!)
と言う、失礼極まりない推理の末、
「・・・衆道家だっているのだから、私は変な目で見ませんよ!オタッシャデー!」
といい、逃げるように去ってしまいました。
当然気を取り直した‘‘浪人‘‘は言います。
「待て!誤解だ!ていうか変な目で見ながら言われても説得力がないぞ!誤解だああああ!」

しばらく経って、‘‘浪人‘‘はもはや完全に傘職人になりました。そんな彼が、傘を売る時に言う決まり文句があります。
「大切に使えよ。そいつは俺の‘‘孫‘‘なんだからな。」と。
14/08/18 00:18更新 / 耐熱皿

■作者メッセージ
おまけ
常連客にあったことは以下の通りです。
1.辻斬りに遭遇。
2.常連客の唐傘お化けが捨て身で辻斬りを撃退。(常連客は、咄嗟に唐傘を盾にしてしまったと勘違い)
3.‘‘浪人‘‘に修理を頼みに行ったところ、本文の出来事に遭遇。
4.動揺しすぎて直してもらう機会を逸する
5.直されないまま置いとかれたせいで『直してもらえないのは私の魅力が足りないせいようふふ』と常連客の唐傘お化けがスーパーモード化。

‘‘バールのようなもの‘‘について家族と五時間以上話した耐熱皿です。
釘抜き(バール)でないのは確かだから、真珠(パール)なのか大悪魔の名前(バールベリトorバ=アル)なのか。結局答えは出ませんでした。

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