連載小説
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領主の矜持
領主のテントについたグリーは門番に案内されながらテントの内装を見ていた。
テントというよりは、まるで家のようなしっかりとした作りに、豪華な内装を施したものだった。

「おぉ、よく来たグリー将軍。ここにかけたまえ。」

「はっ!失礼いたします。」

グリーは1つ会釈をし、近くにあった椅子に腰を下ろした。
前にはソファがあり、そこにゆっくりと腰を埋める領主。

領主はニッコリと笑ってグリーを見つめた。

「そんなに固くなるな。今回は無礼講ぞ。」

「はい。」

「そなたがこの軍に来てどれくらい立つ?」

「はい、自分が15の時にここに来ておりますので、もう10年になります。」

「そうか・・・そんなに経っているか。最後に故郷に戻ったのはいつだ?」

「今日で2年と203日になります。」

「そうか・・・・。」

領主は少し俯いて何か考える素振りを見せ、ふとグリーを見つめ言った。

「そなたにはこの国をどう見ている?親魔物領となったこの国を。」

もともとはこの国は中立国であった。
先代の領主は親魔物領として立ち上げたかったらしいのだが、周りの国はあまりにも反魔物領が多く、真っ先に責められることが目に見えていたのだ。

建前は中立として国はあったが、徐々に力を付け、現領主の時に親魔物領と宣言。
それを気に多くの魔物娘達がこの国に流れ込んできた。

現領主も魔物娘たちのため、そしてそれを愛している者たちのため、軍を率いて戦った。
その領主の心はグリーもよく知っていた。

この国が他の親魔物領として違う点がひとつ。
軍に所属しているものは、ほとんどが人間のみだったのだ。

中立国としての名残であると言われているが、その裏には自分たち、人間だけで魔物を守れる国にしたいという領主の矜持があった。

今でこそ、インキュバスの兵士が多くなったが、昔は人間の兵士がほとんどだったのだ。
そして、今でもそれは変わらない。

まぁ、ある武闘派の魔物娘には、すごく怒られていた領主がいたのだが、そこは譲る気は更々なかったようだ。

「自分は、この国の兵士になって様々な世界を見てきました。悪政を行う国、武力によって統治している国、そして魔物たちを奴隷として働かせている国、悪にまみれた闇の世界が多かった。この国は光です。」

「・・・・・・。」

領主は黙ってグリーの言葉に耳を傾けた。
そして不意に立ち上がると、グリーに背を向け、覇気のある声で言った。

「それでは、グリー将軍、そなたに任務を与える。」

唐突な領主の命令に反応が遅れたが、すぐさま、その場で立ち上がった。

「はっ!何なりと仰せを!!」

「そなたにこの国の指導者になってもらいたい!そなたに余の言葉を伝える権限を与える。」

「!?」

グリーは驚きのあまり言葉を失った。
それも仕方がないことだった。
一介の軍人、それも農民の出の人間に国のトップ、領主になれと言っているのだ。
さすがの先読みに長けたグリーでも、ここまでは読みきれなかった。

「し・・・しかし、自分は軍人で他に政治に長けた者は大勢います。」

「政治家とは違い、お主は政治に毒されても腐ってはいない。」

「それならば、領主様のご子息・・・殿下は・・・。」

「シーカーは倫理にかける!間違っても人の上に立ってはならない!!」

「・・・・・・。」

グリーは言い返すことができなくなった。

「・・・息子を持つならお主のような者を持つべきだったのだ。」

「領主様・・・。」

「どうだろうか。考えてはくれまいか?」

「さすがにすぐには決めかねます。考える時間をください。」

「よかろう。できる限り早く返事が欲しい。良い返事を待っているぞ。」

「・・・・はっ。」

グリーは軽く会釈してその場をあとにした。


グリーは今まで以上に考えていた。
本当に了承してもいいのだろうか?
こんな自分が領主として、指導者としていていいのだろうか?

自分のテントの前で腕を組みながら考えていた。
今の時期、雪が降り積もるほどの寒さであったが、そんなものも気にならないくらい考えにふけっていた。

「グリー将軍。」

ふと自分を呼ぶ声に目を向ける。
金髪のきれいな髪に真紅の眼。
王妃のジュリエだった。

「王妃様・・・。」

「あぁ!そんな畏まらないでください!」

膝を折ってかしずくのを牽制して止める。
その場で黙ったまま少し時間が経ったが、ジュリエが沈黙を破った。

「そんなに悩んで、どうされたのですか?もしかして、お父様が何か?」

「いえ、そんなことは・・・。」

「あなたは嘘をつくのが下手ですね。やはりお父様が何か言ったのですね。」

「・・・・。」

「も、もしよろしければ、お悩みがあるのなら私がご相談に・・・。」

「いえ、これには他言無用にて、ひらにご容赦を。」

「そうですか・・・・。」

少ししょんぼりしたあと、すぐに切り替えて笑顔で言った。

「もし、お話くださるなら、いつでもお越し下さいな。美味しいお茶を入れて待っておりますので。」

優雅に振り返りながら、その場を去ろうとした。

「王妃様。」

「?」

「ありがとうございます。」

グリーは王妃を呼び止めて丁寧にお礼を言った。
そのお礼も、いつもしている堅苦しいものではなく、親しいものにするように優しい笑顔だった。

「/////////////」

案の定、王妃の心を鷲掴みにするには充分すぎるほどの威力があったことは言うまでもない。

「ハァ、王妃様も押しが弱い。あのままテントまで入って押し倒してしまえばよかったものを。」

「そ、そんな大それた事ができますか!今回はグリーの笑顔だけ見れて満足ですわ!」

「・・・・本当にこの方は魔物なのでしょうか?」

グリーに会いに来たのも、実はこの召使いが差金だったり。


「ふぅ・・・。」

グリーは自分のテントへ戻ったあと、ベッドにつくなり、ため息をついた。

「どうされたのですか?将軍。」

グリーに声をかけたのは、副将軍のゴドーだった。
彼も長年、この軍に所属しており、グリーと共に国を勝利に導いた名将だ。
今回の戦争で歩兵部隊を総指揮していたのも彼だった。

「珍しくため息などつかれて。何かお悩み事でも?」

「うん・・・。故郷に帰るのがもう少し先になるかもしれない。」

「それは、なぜに?」

「実は・・・。」

グリーは領主に言われた件を包み隠さずにゴドーに言った。
他言無用と言われていたのだが、信頼している長年、共に戦ってきた彼になら全て話していいだろうと思ったのだ。

「私は、その領主様の提案に賛成でございます。」

「・・・それはなぜ?」

ゴドーはどのような状況でも慎重な判断をする人間として有名だったのだが、この件に関しては即答だった。

グリーも内心驚きつつもその理由を聞いた。

「まず、領主様がご長齢であること、領主様が魔力を受け付けない体質であることが今になって重荷になっていることです。」

領主は実は、インキュバスではないのだ。
というよりも、インキュバスになれないと言ったほうだが正しいかと思う。

人間には珍しく、魔力を一切受け付けない体質のせいで寿命は人間のそれと変わらない。
よって、長齢であれば世継ぎが作れないということになってくるのだ。

しかし、この体質のおかげで戦争に次ぐ戦争を勝ち続けることができたといっても過言ではない。
反魔物領では、魔物娘の魔力またはインキュバスの持つ魔力を防ぐため、様々な魔道具を駆使して戦ってくる。
この戦い方には、周りの新魔物領も苦しめられたと言われるが、この国に関しては、全くもって問題ではなかった。

国の兵士ほとんどが人間なのだ。
それも、徴兵された領民兵士ではなく、職業軍人。
道具を使って戦ってくる反魔物領兵士との戦闘能力は歴然の差だった。
当時の領主も馬に乗り、前線で兵士を率いて戦ったと記録にある。

しかし、この時期になって、その体質のせいで助けられていたのが逆に重荷に変わるという皮肉である。

「そしてお世継ぎが1人しかいないこと。これに関しては将軍もご存知のとおりかと思われますが。」

領主が言うには、倫理に欠けるという。
ひどいことをひどいと思わないらしい。

「以上から、私は賛成と申し上げました。」

自分もゴドーと同じことを考えてはいたが、副将軍に事を聞いて違う意見があるのなら考え直そうと思ったのだ。
しかし、ゴドーも同じ意見となると、自分の考えが正しいと思う反面、不安も大きくなった。

「しかし、もし了承なさるなら、故郷のご両親が心配でございますな。」

不安の大きな種。
グリーもそれだけが気がかりだった。
故郷にいる両親。
兵士として故郷を離れてしばらく経ったあとでも、変わらず野菜や果物を作って生活している。
そんな両親を気遣わらずにはいられなかった。
13/10/17 21:38更新 / 心結
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■作者メッセージ
のんびりと見ていって頂ければ♪

ただ、魔物娘たちの登場をもっと増やさなければと焦っている自分ですw

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