連載小説
[TOP][目次]
弟の場合
トントンと包丁で野菜を切る音がリビングに響き渡る。
俺は、こういう音・・・生活音っていうんでしたっけ?が結構好きだったりします。

料理を作っているのは、俺の姉です。
でも、普通の人間ではありません。
稲荷の魔物娘なんです。

病弱だった母が亡くなり、父親が再婚したのが稲荷の女性でした。
その時に一緒に来た女の子が、俺の姉にあたります。

初めにいざこざはありましたが、今では仲良く生活しています。

「あともう少しでお夕飯ができますので、待っていてくださいね。」

そう言ってニッコリと笑ってこちらを見る姉。
名前は結(ゆえ)といいます。

外を歩けば、10人中9人が振り返るであろう容姿。
そして、良妻賢母を思わせる包容力。
それに学校では成績は上位の常連と、非の打ち所が無い姉であります。
そんな、姉を持つ俺でありますが、少し悩みがありまして・・・。

仲が悪いのかって?
仲が悪いわけではないです。
むしろ、仲はいいです。
良すぎるといってもいいかもしれません。

そんな高スペックの姉を持ってて、しかも仲がよくって何が悩みなんだって?
それは、仲が良すぎるところに悩みがありまして。

・・・そんな殺気を込めた目で見ないでください。
まぁ、理由はすぐにわかると思いますが・・・。

「お夕飯ができましたよ。冷めないうちに頂きましょう。」

おっと、晩御飯ができたみたいです。
先にご飯を食べてきますね。

料理は、和食が中心です。
姉さんは基本どんな料理でも作れるんですが、中でも和食はお店を出せるレベル。
そこらの料理人よりも美味しいんじゃないでしょうか?

食欲が湧いてくるいい香りに促され、早速いただこうとしたんですが・・・。

「はい、あ〜ん。」

・・・こういうことなんです。
事あるごとに世話を焼こうとするんです。

しかも、それを遠慮しようとすると

「そ・・・そうですか・・・。」

と、すごく落ち込んでションボリしちゃうので、余計タチが悪い。
断れない。

「や、やっぱりお願いしようかな!」

「・・・はい!」ニッコリ

・・・この笑顔に勝てないのも理由のひとつでもあります(震え声)
さて、晩ご飯を食べ終わったあと、その場で食安めしていると、それとなしにお茶が出てきた。
姉さんの得意技・・・といいますか、ある意味、特殊な能力かと思います。

気がついたら、自分の身の回りが充実してるんです。
このお茶にしろ、欲しいなぁ、と思っていたらお茶を出される。

前に、なんで?と聞きましたら、

「創也さんのことでしたら、なんだってわかります♪」

だそうです。
気恥かしいったらありゃしない。

テレビを見ながら、のんびり過ごしていると、ふと視線を感じて、そちらの方を向くと、姉さんがじっとこちらを見ていました。

俺の視線に気がつくと、頬を赤くして視線を逸らしてしまいます。
まぁ、これが最大の悩みといいますか、困った案件なのです。

自分で言うのもなんですが、姉は弟に恋をしている・・・ということ。
自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

色恋沙汰に疎くても、それなりに相手の好意を察することができるくらい察しはいい方です。

でも、家族ですので、付き合うどころか結婚などもってのほか。
まぁ、魔物娘の範疇はそれを基準に考えてはいけないとは思うんですが、俺は人間なんで、やっぱりそういうことを考えてしまいます。

まぁ、付き合う付き合わないは置いといて・・・。

あと、姉さんの行動がすごいアグレッシブといいますか、変わってるといいますか・・・。

「姉さん・・・何か言うことはあるかい?」

「創也(そうや)さんのおパンツ、とてもいい香りでした♪」

「そういうことを言ってるんじゃないよ!まず謝れよ!」

「申し訳ありませんでした。創也さんのおパンツ、とってm」

「先に謝ればいいってもんでもないよ!」

まぁ、こういうこと(汗)
毎回、お風呂上がりにやる恒例行事だから慣れた。
慣れとは怖いものですね(遠い目)


そんなこんなで、翌日の朝。
今日も学校があるので、二度寝したい気持ちを抑えて、ベッドから出る。
昨夜に、ベッドに入り込もうとしてきた姉さんを追い出そうとする俺と、何とか一緒に寝ようと諦めない姉さんの大攻防戦を繰り広げてしまっただけに、寝不足です。

着替えて、リビングに行くと、制服の上からエプロンを着て朝食を作っている姉さんがいた。
昨夜の大攻防戦が堪えてないのか、鼻歌を歌いながら料理をしている。
なんか・・・いいですよね。
制服にエプロンって・・・。

「おはようございます創也さん。」ニッコリ

今日も姉さんの笑顔が眩しいです。
今日も良い一日になりそうだと思った矢先、朝食時、姉さんの『あ〜ん』に捕まったのは言うまでもありません。

さて、朝食も食べたし、学校へ登校。
俺は先に歩いて、後ろに静かに付いてくる。
なぜ隣に来ないのか聞いたことがありましたが、

「身内(夫婦)といえど、男性の隣を一緒に歩くなど、はしたないです。」

ということらしい。
古き良きジパングの風習。
こういう奥ゆかしい人っていいですよね。
・・・まぁ、身内ってところに変なニュアンスがあったことは触れないでおきます。

少し歩いて学校近く。
同じ学校の生徒が集まる中、姉さんはやっぱり目立ちます。

おはよう!
おはようございます!
おっはよう♪

ひっきり無しに挨拶されて、それを1つ1つ丁寧に返す姉さん。
身内ひいきを無しにしても、人あたりの良さが異常(良い意味で)な姉さんのことです。
周りに好かれるのは自明の理かと思います。

俺も鼻高々・・・なんて言ってますが、実は他人事ではなかったりします。

俺の場合は、姉さんとお近づきになろうと、いろいろ画策しようとする人も中には居てまして、俺が格好の標的になることがしばしばあります。

簡単に言えば、将を射んとすれば的な扱いです。

「ねぇ、君って結先輩の弟くんだよね?」

早速休み時間にやってきました。
もう名前で呼んでいるあたり、嫌な顔をしちゃいそうになります。

「ねぇ友達になろうよ?」

もう、初めに俺を弟と聞いてくるあたり下心丸出しですね。

「あとさ、君の家に行ってもいい?」

まだ、了承してもいないにもかかわらず、厚かましく家に来ようとします。
答えは勿論、一択。
なんですが、今回は相手がしつこく、なかなか躱すことができません。

このまま走って逃げるか?
でも、それじゃ、追いかけられるか、それか、また教室に来て捕まるに決まってる。
捕まったら最後、首を縦に振らないと絶対開放してくれないでしょう。

どう返答しようか迷っていたら、スっと俺としつこい人(名前がわからなかったので)の間に割り込む影が。

「あまり嫌がることをしつこくするのは感心しないな。」

ドラゴンの魔物娘。
彼女は、鳳華(ほうか)先輩といって、姉さんの親友でもあります。
風紀委員の委員長でもありまして、逆らわない方がいいと、違う意味で有名な方です。

「あ、あなたには関係ないことですよ!」

鳳華先輩を前にして、ビビリながらも何とか発言するしつこい人。

「・・・ほぉ?何か言いたいことでもあるのかな?」

と、きつく睨みつける。
しつこい人は完全にビビってしまって、それ以上、何も言わず走り去っていった。

「ありがとうございます。鳳華先輩。」

「いや、相手のあの態度はあからさま過ぎたからな。これでいい薬にはなっただろう。・・・それと!」

素早く回り込んだと思ったら、後ろに抱きついて来る。
せ・・・先輩のお胸がァ・・・!

「私のことを呼ぶときは、名前の後ろに先輩ではなく、お姉ちゃんをつけろと言ったはずだが?」

「す・・・すいません、鳳華お姉ちゃん。」

これ以上、締め上げられると色々と飛び出しそうなので、素直に従う。
飛び出すものは主に、理性とか理性とか理性とか・・・。

「うむ!分かればよろしい!」

態度が一変してご機嫌になる鳳華せんp・・・じゃなくて、鳳華お姉ちゃん。
お姉ちゃんは、一人っ子らしく、可愛い弟が欲しかったらしいのです。

それで、親友の弟である俺を標的にしたみたいでして。

まぁ、何はともあれ、無事お姉ちゃんのおかげで助かりました。
これで俺は失礼を・・・。

がしっ!

「助けてあげたんだ。お姉ちゃんにご褒美があってもいいと思うんだが?」

「(´・ω・`)逃げられなかった。」

と、このあとに有無も言わさずにデートに連れて行かれました。
あんな美人なお姉さんに連れて行かれて、羨ましいだって?
あれを経験したことがないから、そんなことを言えるんですよ。

「さて、どういうことか説明してくれますね?」ニッコニッコ

「はひぃぃぃ・・・。」

姉さんの前で正座をさせられて、お説教。
まだ、それだけならいいんですが、こんな世界を救えるような輝く笑顔で、青筋を浮かべながら、となると話は別です。

もう、背中が汗でびっしょり。

「もう・・・鳳華も鳳華ですが、創也さんも創也さんです。デートなんて、そんな羨ましいことを・・・。」

どうやら姉さんは鳳華お姉ちゃんとデートに行ったことが羨ましいらしく、お説教の合間にブツブツと文句を言っています。

流石に、こう長時間星座はきついので、伝家の宝刀を抜かせていただきます。

「そ、それなら、今度の日曜日、一緒に出かけない?ちょうど、買いたいものがあったし。」

「えぇ!いいんでs・・・コホン。そんなこと言って、誤魔化されませんよ。」

「もちろん、不肖この弟めがエスコートして差し上げます。」

「うぅ・・・。」チラチラ

これを言えば、何とか説教を免れることができます。
汚い手ではありますが、致し方なしと思いましょう。

・・・姉さんと、お出かけできるし。

べ、別に姉さんと出かけたいから、こんなこと言ったなんて思っていないんだからね!/////

・・・男のツンデレなんて、誰得ですか。

「そ、それなら仕方ないですね!今回は許してあげます。その代わり、お出かけの日にしっかりとエスコートしてくれないんでしたら怒りますからね!」

何とか、逃げ切ることに成功したみたいです。



と、まぁ、我が家のお姉さんはこんな感じであります。
いつもで、この生活ができるかわかりませんが、できる限り、仲良く生活していきたいと思います。

「・・・んで、姉さん。あんた、何しに来たの?」

「何って、創也さんのお背中を流しに来たんですが?そうして、あわよくば浴場(欲情)プレイ・・・。」

「早く出てってください。てか、うまいなんて言ってあげないですよ?」

・・・さて、俺の理性は、いつまでもつのやら。
13/11/18 17:46更新 / 心結
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33