老齢魔術師とその弟子の話
この時代において大陸全土で上の中といったところである魔術師のジーニャ・クロレスツカヤは、魔術の深奥を極めるにおいて自らに重い足枷があることに頭を悩ませていた。
加齢による知慧の退化。魔術の研究は時間がかかり、ジーニャも数多の歳月を経ている。協力を仰いだ際に受け入れてくれた治癒術師たちが三日置きにジーニャへ細胞活性の魔術を付与してくれるおかげで、齢六十とはいえども外見自体は二十三の頃から何ら変わっていないのだが、しかし限界はかならずやってくる。彼女の師だって、同じように細胞活性によるアンチエイジングを行っていたのにもかかわらず、八十を数えて三ヶ月ほどで急逝した。死因は特定できないとのことだが、身体に負担がかかっていることは明白。明日は我が身、という自身の肉体からの圧力が彼女の精神をすり減らす。
打つ手は、ある。
「自然の摂理への反逆は、どこの国家であっても罪悪です。魔術師が国や地域からの支援を受け取れなくなったら、みじめで辺鄙な場所でしみったれた研究しかできなくなりますよ」
「知ったような口を聞くな、ケイ」
「知ってますからね。情報通なので」
魔術師は自分が死ぬまでに自分が研究した魔術を弟子へ伝えなければいけない。これは定められた義務というわけではなく、単に魔術の系譜を自らの代で失うわけにはいかないからだ。ジーニャの弟子の一人であるケイは彼女のお気に入りであり、彼が彼女の近くで学べているのは他の同年代の男子が武術や色恋にうつつを抜かしている間にも魔術の勉学に励む様がなんともいじましく思えるからだ。
「しかし悪いな、ケイ」
ケイは小首を傾げる仕草でジーニャへ問いを返した。ジーニャは少しバツが悪そうに自身の赤い髪を弄びながら、
「理論も何も、完成しているんだ。やろうと思えば今すぐにでも不死になれるんだが」
「……それはまた、熱心なことで」
なんと言えば良いのか、彼女は何を言っているのか、としばらく頭を悩ませた後、ようやくケイがひねり出した言葉がこれだった。
沈黙がジーニャの研究室を支配する。デスクや黒板、羊皮紙やペンさえも彼女のものだ。彼女がやろうとおもえば、この研究室どころか住居付き工房ごとをポケットサイズに格納して持ち運ぶことだってできるのだが、ケイに関してはそうはいかない。魔術のためであれば命をつぎ込み魔術のためであれば自然へ反逆するジーニャでも、他人の意思は尊重する。
「あの、師匠」
「なんだ」
「止めても止まりませんよね」
「よくわかってるじゃないか。いつやるかはお前次第だが」
「……自分、師匠のもとで学び始めてまだ５年ほどなんですが」
「十分な時間を経たとは思わないか。一人の師のもとで学び続けた時間としては確かに短いが、かといってその知識が他の師のもとで活かせないはずがない。お前のモチベーションと能力なら、私についていく意味合いは薄い」
「その薄い部分はなんです？」
「……」
ジーニャはケイから目を逸らし、少し俯きがちになりながら黙りこくり、ケイが目を離した隙に小声でぼそりと答えた。
「私についてきてほしいっていうわがまま」
ケイは顔を赤くしながら、再度なんと言えば良いのかを考え始めた。
☆
魔術師は他人と触れ合うことが少なく、もっぱら本とペンと羊皮紙に向き合う人種である。
それ故に不躾な口調でしか人と触れ合えず、知識と理論で行動し、子どもじみた振る舞いをする。はっきり言って、魔術師は子どもと同じ扱いができる。
食事は甘味ばかり取り、貴族の出でなければテーブルマナーも最悪。他人を顧みることはせず、自分本位の考え方が基本。
しかし一度その指を動かせば、魔術師は他者からの支援を容易に受け取ることができる。魔術師は閉鎖的ながらも社会と関わらなければ生きられない矛盾を孕んでいる。
都市から離れた場所にある中規模程度の町、ライゼンデイルでは今年に入って突然に若年の男性魔術師が住み始めた。彼は魔術師らしく他人と関わることは少ないが、魔術を町に少しずつ供給する代わりに生活できるよう対価を求めた。
魔術師を蔑ろにしても良い方向に事が運んだ試しはない、という認識はどこを行っても同じだ。ライゼンデイルに住む男衆は彼のために、墓地に近い場所へ家を建てた。墓地に近い場所は喧騒から程遠く静謐であり、彼が屍術師でないこともわかったので、男衆は彼の要求に快諾した。
曰く、壁は音が漏れないように堅牢に。曰く、地下階は自分で作るので階段部分の基盤だけを。魔術師の助けもあって、彼の家は一ヶ月も経たずに建てることができた。
今この家には、一人のリッチとその夫が住んでいる。
「ほう、講座を開いてくれと……？ ずいぶん頼られてるじゃないか」
「頼られても。自分は教えるのは不向きだし、すぐに断った」
「魔術で手助けしてやるよりもよっぽど手間がかかるしな。……なぁ、それより」
「それにこの町は注文が多すぎる。師匠がどうしてマスクワで生きてたか不思議だよ」
「他に魔術師がいたし、な……。ケイ、そろそろ……」
「この町に他に魔術師がいないのって、町からの負荷が強いからなんじゃないかな。事業が滞ってるみたいだったけど、自分ひとりじゃ手のつけようがないし」
「なぁ、ケイ」
ジーニャが切なそうに求める声をあげるが、ケイはまだそれを無視する必要があった。紙面にペンを走らせ続ける。生活がようやく軌道に乗り始めたところなので、自身の勉強もしたいという思いがあった。彼はつくづく知識に貪欲で、社会とも向き合うことができて、そんなところにジーニャは惹かれていた。
ジーニャ自身がリッチになったことで色の世界に目覚めたというのも一因ではあるが、結局は単純に「ケイのことが大好き」という理由で彼を求め、そのために魔術師時代よりも更に愚直に魔術研究もしている。
彼女は空間を操ることを専門分野にしており、魂の器を特殊な空間に移し替えることで、永遠の命を手に入れた。肉体と魂の接続回路の理論をケイに見せた際は鼻からエールをすごい勢いで吹き出したが、これが世に知られれば値千金どころではないだろう。そしてこれは彼女ではなくとも、彼女のように生命を超越して魔術に励みたいと考える魔術師であるなら誰であろうと行き着くことができる特異点だ。
空間の魔術師であるジーニャがリッチへと変貌して最初に学んだ魔術とは、
「ぁむん♥」
「うぉっ」
限られた空間内に存在する物質の空間ジャンプだった。
ジーニャは彼女自身を机の下に空間ジャンプさせ、ケイが執筆に集中している隙にケイのローブを解き（空間ジャンプの応用）、ケイの萎びた男根をその小さな口で頬張ったのだ。
ちなみにケイのパンツはいつでも空間ジャンプですっ飛ばせるため、家の中ではケイは丸裸も同然だった。
「んむぅ〜♥ ちゅぷ、ちゅっ♥ ちゅっ♥」
根本から先っぽまでを温かい唇でねっとりと弱く引っ張ることで勃起を誘発させ、徐々に大きくなってきたその亀頭に慈しむように口付けをする。
ケイの手は既に止まっている。彼が色を覚えたのはジーニャがリッチになった時だ。自慰もしたことのない彼にとっては、ジーニャから受けるいちいちが彼の脳髄を焼き付かせる。
「ちゅぷっ♥ んふぅ……♥」
唾液をたっぷりと口に含ませて半ばまでしゃぶり、どくんどくんと血流の波打ちが起こるたびに大きくなっていくケイの男根を口で楽しむジーニャ。
魂の器を別のものへ置いた際に彼女の美しい赤色の髪は脱色されたが、しかしリッチとなったことで髪も肌もが幻想的なピュアホワイトの美貌へと変わり、それがケイの心を更に捉えた。
この世ならざる美貌を持つ、生命を超越した不死の魔術師が、一人の男性から放たれる命の源を求めて、彼へと愛をぶつけつづける。
ケイはこういう時にほど、彼女に惹かれて魔術の道へ進んだ自分は間違っていなかったのだと確信する。
「んふ、その気持ち良さそうな顔、好き……♥」
すっかりいきり立ったそれに頬ずりしながら、ジーニャはケイの下腹部に手を置いて魔術をかける。リッチの基本的な魔術、男性能力の強化だ。魔物になったことでの影響で、こういう性交に関わる魔術はなんとなく操れるようになった。ジーニャはそれが嬉しかった。極めることのできる魔術が増えたというのもあるが、この魔術でケイを喜ばせられるということが一番嬉しかったのだ。
「んちゅ♥ すきっ♥ んぶむぅ♥」
更に力強くなった陰茎をキスして愛を囁き、一息に咥え込む。魔術によって強化されたのは男性能力だけではなく、その快楽信号もだ。ジーニャの舌が裏筋を滑るたびに陰茎が跳ね、ジーニャの唇がストロークを刻むたびに手足に甘い痺れがやってくる。
「んふふ♥ ぢゅっ♥ んぶっ♥ ぢゅちゅ♥ ぶむ♥」
亀頭が膨らんできたのを口の中で確かめたジーニャはギアを切り替え、陰茎全体を愛でる長いストロークから、カリ首周辺を細かくねぶる短いストロークに改めた。生ぬるい唾液と先っぽから滴る先走りが交じり合い潤滑剤となって、男根を唇だけで引っ張って射精感を高めさせようとしているジーニャを助ける。
魔術師は試行錯誤を重ねるものだが、それはフェラチオでも同じだ。ジーニャがケイで実験した結果、一番気持ちよくさせることができる方法というのが、唇で男根を引っ張ることでその包皮をカリ首まで移動させ皮自体がカリ首をこするようにストロークするという方法。同時に舌先で裏筋をなぞる事も忘れない。
「んっ♥ んっ♥ んふっ♥ んっ♥」
「く、そろそろ……でるっ、でるっ……！」
「んっ♥ ん、ぐ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥」
効率的なお口セックスを相手に、ただの男子が勝てようもない。
ジーニャの白い頭を掴んで動かないようにしながらその喉奥に鈴口を突き込み、大量増産された熱く苦い精液が直接食道へと流し込まれる。ジーニャは心底嬉しそうな笑みを土気色の顔に浮かべ、ごきゅりごきゅりと喉を鳴らしながら直送された精液を飲み続ける。
リッチの魔術である精液量増加の効果によって、ジーニャの小さい口から精液が溢れ出るが、性感の至福に浸っている二人はそれすら気にならない。気に出来ない。
ケイは止めどない射精に脳が真っ白になっている。ジーニャは「自身の実験の成果」と「夫からの愛」を同時に受けて、彼のことしか考えられなくなっている。
どぐん、どぐん、と一度の波打ちごとにひどい量の精を吐き出しているのだ。これよりさらにジーニャが魔術を学べば、もっと彼を喜ばせることができる。喉まで男根を突っ込まれながら精液を飲み込むたびに、ジーニャの気持ちは夫への愛にひたむく。
やがて射精の波が引いていき、息継ぎのためにジーニャの口が離れる。抜き出す際の快楽に、尿道に残っていた少しばかりの精がジーニャの顔へと跳ねる。彼女の目は焦点が合っておらず夢見心地の表情だが、唇へと垂れてきた最後の精を舌でペロリと掬い舐めたのは条件反射だろうか。
二人共がそろって肩を息で震わせ、水音とくぐもった嬌声が響いていた書斎にしばしの静穏が訪れる。
「ふっ、ふぅぅ〜〜っ……師匠？」
ようやく快感の渦から抜け出せたケイは、ジーニャの様子がおかしいことに気づいた。舌を突き出して俯き、なおもびくびくと痙攣している。息遣いは荒く、しかしどこか物足りなそうだ。ぴっちりとふとももを閉じて、膝をすり合わせている。
「師匠？師匠ー？」
「……ぁ、あぁ、ケイ……」
幾度か、ケイがジーニャへ呼びかけるとようやく反応し、顔を上げる。血管の中に血が流れていないのにも関わらず彼女の顔が赤いのは、夫からの愛を受け取った証だ。こうして精を受け取って肉体を保全するのがアンデッドの特徴である。
「大丈夫ですか？立てます……？」
「ちょっと、その、腰が抜けて……」
ケイは椅子をずらし、彼女が立てるスペースを作ったが、ジーニャは立つことができなかった。その理由が、
「口と喉全体に性感増幅の魔術を実験としてかけちゃってて、途中までは、よかったんだけど……その、精液が、びっくりするくらい気持ちよくて……」
恥ずかしそうに顔を背けながら、ジーニャは消え入るような声で釈明した。
リッチは自らの肉体から魂の器を離してはいるが、性感がないわけではない。そして夫への気持ちだって据え置きだ。
「つまり、それって……いっぱい出たのが嬉しくて、イきすぎたっていう」
「そんな具体的に言うなバカ！バカ弟子！」
へにゃっとしたパンチがケイの太ももを叩く。ケイはつい笑顔を浮かべ、その手で自らの師匠を抱きかかえる。
「わっ、おい何するんだ」
「立てないっていうから、ベッドに運んであげますよ」
「い、いやその、私には魔術が」
「はいはい。じゃあ、なんでそんなしっかり捕まってるんですか」
「……早く運べ。魔力温存だ」
素直になれない自らの師匠がとても愛おしくて、ケイは言われるがままゆっくりと歩を進め始めた。
この後めちゃくちゃセックスした。
加齢による知慧の退化。魔術の研究は時間がかかり、ジーニャも数多の歳月を経ている。協力を仰いだ際に受け入れてくれた治癒術師たちが三日置きにジーニャへ細胞活性の魔術を付与してくれるおかげで、齢六十とはいえども外見自体は二十三の頃から何ら変わっていないのだが、しかし限界はかならずやってくる。彼女の師だって、同じように細胞活性によるアンチエイジングを行っていたのにもかかわらず、八十を数えて三ヶ月ほどで急逝した。死因は特定できないとのことだが、身体に負担がかかっていることは明白。明日は我が身、という自身の肉体からの圧力が彼女の精神をすり減らす。
打つ手は、ある。
「自然の摂理への反逆は、どこの国家であっても罪悪です。魔術師が国や地域からの支援を受け取れなくなったら、みじめで辺鄙な場所でしみったれた研究しかできなくなりますよ」
「知ったような口を聞くな、ケイ」
「知ってますからね。情報通なので」
魔術師は自分が死ぬまでに自分が研究した魔術を弟子へ伝えなければいけない。これは定められた義務というわけではなく、単に魔術の系譜を自らの代で失うわけにはいかないからだ。ジーニャの弟子の一人であるケイは彼女のお気に入りであり、彼が彼女の近くで学べているのは他の同年代の男子が武術や色恋にうつつを抜かしている間にも魔術の勉学に励む様がなんともいじましく思えるからだ。
「しかし悪いな、ケイ」
ケイは小首を傾げる仕草でジーニャへ問いを返した。ジーニャは少しバツが悪そうに自身の赤い髪を弄びながら、
「理論も何も、完成しているんだ。やろうと思えば今すぐにでも不死になれるんだが」
「……それはまた、熱心なことで」
なんと言えば良いのか、彼女は何を言っているのか、としばらく頭を悩ませた後、ようやくケイがひねり出した言葉がこれだった。
沈黙がジーニャの研究室を支配する。デスクや黒板、羊皮紙やペンさえも彼女のものだ。彼女がやろうとおもえば、この研究室どころか住居付き工房ごとをポケットサイズに格納して持ち運ぶことだってできるのだが、ケイに関してはそうはいかない。魔術のためであれば命をつぎ込み魔術のためであれば自然へ反逆するジーニャでも、他人の意思は尊重する。
「あの、師匠」
「なんだ」
「止めても止まりませんよね」
「よくわかってるじゃないか。いつやるかはお前次第だが」
「……自分、師匠のもとで学び始めてまだ５年ほどなんですが」
「十分な時間を経たとは思わないか。一人の師のもとで学び続けた時間としては確かに短いが、かといってその知識が他の師のもとで活かせないはずがない。お前のモチベーションと能力なら、私についていく意味合いは薄い」
「その薄い部分はなんです？」
「……」
ジーニャはケイから目を逸らし、少し俯きがちになりながら黙りこくり、ケイが目を離した隙に小声でぼそりと答えた。
「私についてきてほしいっていうわがまま」
ケイは顔を赤くしながら、再度なんと言えば良いのかを考え始めた。
☆
魔術師は他人と触れ合うことが少なく、もっぱら本とペンと羊皮紙に向き合う人種である。
それ故に不躾な口調でしか人と触れ合えず、知識と理論で行動し、子どもじみた振る舞いをする。はっきり言って、魔術師は子どもと同じ扱いができる。
食事は甘味ばかり取り、貴族の出でなければテーブルマナーも最悪。他人を顧みることはせず、自分本位の考え方が基本。
しかし一度その指を動かせば、魔術師は他者からの支援を容易に受け取ることができる。魔術師は閉鎖的ながらも社会と関わらなければ生きられない矛盾を孕んでいる。
都市から離れた場所にある中規模程度の町、ライゼンデイルでは今年に入って突然に若年の男性魔術師が住み始めた。彼は魔術師らしく他人と関わることは少ないが、魔術を町に少しずつ供給する代わりに生活できるよう対価を求めた。
魔術師を蔑ろにしても良い方向に事が運んだ試しはない、という認識はどこを行っても同じだ。ライゼンデイルに住む男衆は彼のために、墓地に近い場所へ家を建てた。墓地に近い場所は喧騒から程遠く静謐であり、彼が屍術師でないこともわかったので、男衆は彼の要求に快諾した。
曰く、壁は音が漏れないように堅牢に。曰く、地下階は自分で作るので階段部分の基盤だけを。魔術師の助けもあって、彼の家は一ヶ月も経たずに建てることができた。
今この家には、一人のリッチとその夫が住んでいる。
「ほう、講座を開いてくれと……？ ずいぶん頼られてるじゃないか」
「頼られても。自分は教えるのは不向きだし、すぐに断った」
「魔術で手助けしてやるよりもよっぽど手間がかかるしな。……なぁ、それより」
「それにこの町は注文が多すぎる。師匠がどうしてマスクワで生きてたか不思議だよ」
「他に魔術師がいたし、な……。ケイ、そろそろ……」
「この町に他に魔術師がいないのって、町からの負荷が強いからなんじゃないかな。事業が滞ってるみたいだったけど、自分ひとりじゃ手のつけようがないし」
「なぁ、ケイ」
ジーニャが切なそうに求める声をあげるが、ケイはまだそれを無視する必要があった。紙面にペンを走らせ続ける。生活がようやく軌道に乗り始めたところなので、自身の勉強もしたいという思いがあった。彼はつくづく知識に貪欲で、社会とも向き合うことができて、そんなところにジーニャは惹かれていた。
ジーニャ自身がリッチになったことで色の世界に目覚めたというのも一因ではあるが、結局は単純に「ケイのことが大好き」という理由で彼を求め、そのために魔術師時代よりも更に愚直に魔術研究もしている。
彼女は空間を操ることを専門分野にしており、魂の器を特殊な空間に移し替えることで、永遠の命を手に入れた。肉体と魂の接続回路の理論をケイに見せた際は鼻からエールをすごい勢いで吹き出したが、これが世に知られれば値千金どころではないだろう。そしてこれは彼女ではなくとも、彼女のように生命を超越して魔術に励みたいと考える魔術師であるなら誰であろうと行き着くことができる特異点だ。
空間の魔術師であるジーニャがリッチへと変貌して最初に学んだ魔術とは、
「ぁむん♥」
「うぉっ」
限られた空間内に存在する物質の空間ジャンプだった。
ジーニャは彼女自身を机の下に空間ジャンプさせ、ケイが執筆に集中している隙にケイのローブを解き（空間ジャンプの応用）、ケイの萎びた男根をその小さな口で頬張ったのだ。
ちなみにケイのパンツはいつでも空間ジャンプですっ飛ばせるため、家の中ではケイは丸裸も同然だった。
「んむぅ〜♥ ちゅぷ、ちゅっ♥ ちゅっ♥」
根本から先っぽまでを温かい唇でねっとりと弱く引っ張ることで勃起を誘発させ、徐々に大きくなってきたその亀頭に慈しむように口付けをする。
ケイの手は既に止まっている。彼が色を覚えたのはジーニャがリッチになった時だ。自慰もしたことのない彼にとっては、ジーニャから受けるいちいちが彼の脳髄を焼き付かせる。
「ちゅぷっ♥ んふぅ……♥」
唾液をたっぷりと口に含ませて半ばまでしゃぶり、どくんどくんと血流の波打ちが起こるたびに大きくなっていくケイの男根を口で楽しむジーニャ。
魂の器を別のものへ置いた際に彼女の美しい赤色の髪は脱色されたが、しかしリッチとなったことで髪も肌もが幻想的なピュアホワイトの美貌へと変わり、それがケイの心を更に捉えた。
この世ならざる美貌を持つ、生命を超越した不死の魔術師が、一人の男性から放たれる命の源を求めて、彼へと愛をぶつけつづける。
ケイはこういう時にほど、彼女に惹かれて魔術の道へ進んだ自分は間違っていなかったのだと確信する。
「んふ、その気持ち良さそうな顔、好き……♥」
すっかりいきり立ったそれに頬ずりしながら、ジーニャはケイの下腹部に手を置いて魔術をかける。リッチの基本的な魔術、男性能力の強化だ。魔物になったことでの影響で、こういう性交に関わる魔術はなんとなく操れるようになった。ジーニャはそれが嬉しかった。極めることのできる魔術が増えたというのもあるが、この魔術でケイを喜ばせられるということが一番嬉しかったのだ。
「んちゅ♥ すきっ♥ んぶむぅ♥」
更に力強くなった陰茎をキスして愛を囁き、一息に咥え込む。魔術によって強化されたのは男性能力だけではなく、その快楽信号もだ。ジーニャの舌が裏筋を滑るたびに陰茎が跳ね、ジーニャの唇がストロークを刻むたびに手足に甘い痺れがやってくる。
「んふふ♥ ぢゅっ♥ んぶっ♥ ぢゅちゅ♥ ぶむ♥」
亀頭が膨らんできたのを口の中で確かめたジーニャはギアを切り替え、陰茎全体を愛でる長いストロークから、カリ首周辺を細かくねぶる短いストロークに改めた。生ぬるい唾液と先っぽから滴る先走りが交じり合い潤滑剤となって、男根を唇だけで引っ張って射精感を高めさせようとしているジーニャを助ける。
魔術師は試行錯誤を重ねるものだが、それはフェラチオでも同じだ。ジーニャがケイで実験した結果、一番気持ちよくさせることができる方法というのが、唇で男根を引っ張ることでその包皮をカリ首まで移動させ皮自体がカリ首をこするようにストロークするという方法。同時に舌先で裏筋をなぞる事も忘れない。
「んっ♥ んっ♥ んふっ♥ んっ♥」
「く、そろそろ……でるっ、でるっ……！」
「んっ♥ ん、ぐ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥」
効率的なお口セックスを相手に、ただの男子が勝てようもない。
ジーニャの白い頭を掴んで動かないようにしながらその喉奥に鈴口を突き込み、大量増産された熱く苦い精液が直接食道へと流し込まれる。ジーニャは心底嬉しそうな笑みを土気色の顔に浮かべ、ごきゅりごきゅりと喉を鳴らしながら直送された精液を飲み続ける。
リッチの魔術である精液量増加の効果によって、ジーニャの小さい口から精液が溢れ出るが、性感の至福に浸っている二人はそれすら気にならない。気に出来ない。
ケイは止めどない射精に脳が真っ白になっている。ジーニャは「自身の実験の成果」と「夫からの愛」を同時に受けて、彼のことしか考えられなくなっている。
どぐん、どぐん、と一度の波打ちごとにひどい量の精を吐き出しているのだ。これよりさらにジーニャが魔術を学べば、もっと彼を喜ばせることができる。喉まで男根を突っ込まれながら精液を飲み込むたびに、ジーニャの気持ちは夫への愛にひたむく。
やがて射精の波が引いていき、息継ぎのためにジーニャの口が離れる。抜き出す際の快楽に、尿道に残っていた少しばかりの精がジーニャの顔へと跳ねる。彼女の目は焦点が合っておらず夢見心地の表情だが、唇へと垂れてきた最後の精を舌でペロリと掬い舐めたのは条件反射だろうか。
二人共がそろって肩を息で震わせ、水音とくぐもった嬌声が響いていた書斎にしばしの静穏が訪れる。
「ふっ、ふぅぅ〜〜っ……師匠？」
ようやく快感の渦から抜け出せたケイは、ジーニャの様子がおかしいことに気づいた。舌を突き出して俯き、なおもびくびくと痙攣している。息遣いは荒く、しかしどこか物足りなそうだ。ぴっちりとふとももを閉じて、膝をすり合わせている。
「師匠？師匠ー？」
「……ぁ、あぁ、ケイ……」
幾度か、ケイがジーニャへ呼びかけるとようやく反応し、顔を上げる。血管の中に血が流れていないのにも関わらず彼女の顔が赤いのは、夫からの愛を受け取った証だ。こうして精を受け取って肉体を保全するのがアンデッドの特徴である。
「大丈夫ですか？立てます……？」
「ちょっと、その、腰が抜けて……」
ケイは椅子をずらし、彼女が立てるスペースを作ったが、ジーニャは立つことができなかった。その理由が、
「口と喉全体に性感増幅の魔術を実験としてかけちゃってて、途中までは、よかったんだけど……その、精液が、びっくりするくらい気持ちよくて……」
恥ずかしそうに顔を背けながら、ジーニャは消え入るような声で釈明した。
リッチは自らの肉体から魂の器を離してはいるが、性感がないわけではない。そして夫への気持ちだって据え置きだ。
「つまり、それって……いっぱい出たのが嬉しくて、イきすぎたっていう」
「そんな具体的に言うなバカ！バカ弟子！」
へにゃっとしたパンチがケイの太ももを叩く。ケイはつい笑顔を浮かべ、その手で自らの師匠を抱きかかえる。
「わっ、おい何するんだ」
「立てないっていうから、ベッドに運んであげますよ」
「い、いやその、私には魔術が」
「はいはい。じゃあ、なんでそんなしっかり捕まってるんですか」
「……早く運べ。魔力温存だ」
素直になれない自らの師匠がとても愛おしくて、ケイは言われるがままゆっくりと歩を進め始めた。
この後めちゃくちゃセックスした。
15/04/14 18:40更新 / 鍵山白煙