猫と見習い水夫
猫と見習い水夫
むかしむかし、まだ青い海が誰のモノでも無い時代に、遠く離れた異国の海をガレオン船が太陽の光と帆に風をめいっぱいに受けて旅をしていました。
マストの上の見張り台にはバンダナを巻いた水夫の少年が1人、望遠鏡を片手に海を見張っていました。
『今日はヒマだな〜。』
少年の名前はルカと言います。苗字はもう忘れてしまいました。
今日は澄んだ空に穏やかな風の平和な日です。
にゃ〜〜
とルカ少年の足下に黒い猫が一匹やってきました。
『なんだキミか。……だめじゃ無いか、また降りられなくなったらどうするだい?』
にゃ〜〜♪
心配をするルカ少年の気を知ってか知らずか、猫は少年の足にすり寄って満足そうにしています。
そんな様子に呆れたのか、やれやれと首を振ると少年はナイフで持っていた干し肉を一切れ分けてやりました。
『オイ!半人前!!陸や船でも見えるのか!!?』
するとマストの下から大声が聞こえてきます。声の主はつばの広い立派な三角帽子に立派なコート、これまた立派なお髭を持った片足義足のガレオン船の船長です。
『見えませーーん!!』
ルカ少年は大きな声で応えました。
『じゃ、雲は見えるのか!!?』
『雲ひとつありませーーん!!』
『だったらそんなとこで怠けてないで、さっさと降りて仕事をしろ!この半人前!!』
船長の命令で見張りをしていたのに酷い言われようです。
降りると船長はルカ少年の頭にゲンコツをひとつ。それからモップとバケツを乱暴に投げ付けました。
『この怠け者の半人前め!甲板を綺麗に磨くんだ!サボるんじゃあないぞ!!それが終わったら芋の皮剥きだ!』
ルカ少年は仕方なくバケツに水を汲んで甲板にモップを掛けはじめました。黒い猫はやっとマストから降りてきて、少年に付いて行きました。
他の船員達はというと、真っ昼間なのにラム酒を飲んで笑っていたり、酷い声で下手くそな歌を歌っていたり、踊っていたり、ナイフを投げて遊んでいました。
文字にすると気の良い水夫達のようですが、みんな柄が悪くて目が獣のようです。とても良い人達には見えません。
それもそのはず。彼らは泣く子も黙ってしまう恐ろしい海賊で、この船は海賊船なのです。
なぜそんな荒くれ者達の船にルカ少年が乗っているのかと言うと、彼はもともと西の大陸のイスパール王国という国の貿易船に商人見習いとして乗っていました。このお話しが始まる一年ほど前にその船が海賊達に襲われてしまったのです。
『ブリタニア国王、王様万歳!!さぁ!ヤロー共、根こそぎ掻っ攫え!!』
海賊達はドクロの旗を掲げて、貿易船を襲いました。商人達はあっという間に降伏してしまいました。
ルカ少年はいろいろな国の言葉を喋る事が出来たので、ブリタニア王国の言葉で命乞いをしたところ
『ほほう……便利な奴がいるぞ?』
と船長の目に止まり、ルカ少年は海賊に拐われて海賊の船で働く事になりました。
この海賊は海賊の仕事が無い時は掠奪した宝物をお金持ちに売ったり、外国に行って交易品の取り引きをしたりする商人の真似事をしていたので、ルカ少年は役に立ちました。
ですが外国語が必要な商談以外は役に立たないので、普段は雑用仕事の見習い水夫としてこき使われているのです。
今日もルカ少年はせっせと働きます。
にゃ〜ん
『はぁ……キミは気楽でいいなぁ……。』
そうそう。ルカ少年といつも一緒にいるこの黒猫は、半年くらい前に海賊船がペリシテ帝国に寄港した時でしょうか?いつの間にか船の中に居たのを少年が見つけたのでした。以来、ルカ少年と黒猫は良いお友達になりました。
『……僕はいつか、この船を出てやるんだ。』
ルカ少年は光る汗を拭いながら黒猫に話しました。
『そしたら、どこか知らない国に行って家を建ててのんびり暮らすんだ。キミもついてくるかい?』
にゃ〜〜ん♪♪
『ははっ、嬉しいなぁ。じゃあ決まりだ!』
にゃ〜!!
『キミが言葉を話せればもっと嬉しいのに……。』
にゃーん?
『ぃよお、半人前!さっそく怠けてるな?』
荒くれ水夫がルカ少年にちょっかいを出しにやってきました。
『怠けてませんよ。』
『つべこべ言うな半人前!!』
フーーーーッ!!
黒猫が荒くれ水夫を怒りました。
『うわっ!?おい!!お前はまだその役立たずの凶暴な毛玉のかたまりを追い出してなかったのか!?』
この荒くれ水夫は黒猫が苦手なのです。
『役立たずではありません。ネズミを追払い、取ってくれています!』
『口答えするな!半人前!!』
『うわっ!!』
荒くれ水夫はルカ少年を殴りました。
フーーーーーッ!!
怒った黒猫が荒くれ水夫の足を引っ掻きました。
『ぎゃー!!こいつめっ!!』
ドカっ!!
に"ゃん""
ポシャン!
なんと言う事でしょう。荒くれ水夫は黒猫を海に蹴飛ばしてしまいました。
『猫を海に落とした!?』
『はははは!これでせいせいする!』
ザパーン!!
ルカ少年は迷わず海に飛び込みました。
にゃ〜、にゃ〜、
ルカ少年は泳いで黒猫を助けに行きます。
『人が落ちたぞーーー!!』
『帆を畳めーー!!、綱を解けーー』
水夫の報告に船長は命令を飛ばすと帆が畳まれてロープが海に投げ込まれました。
ルカ少年は溺れそうだった黒猫を抱えて必死に泳ぎ、投げ込まれたロープを力いっぱい手繰ってやっとのことで船に戻りました。
『まさか、猫を助けに行ったのか!?たかが猫一匹の為にこの騒ぎとは!まったく呆れる!!罰として鞭打ち20回だ!!終わったら3日間牢にぶち込んでおけ!!飯も抜きだ!!』
ルカ少年は鞭打ちを受けて牢に閉じ込められました。
『寒いし、痛いし、お腹がすいたなぁ……。』
にゃ〜ん……
牢の格子をするりと抜けて黒猫がルカ少年のところにやってきました。
『キミか……無事で良かった。果物じゃないか!』
黒猫はルカ少年の為に果物をくわえていました。
にゃ〜ん♪
『僕にだって?ありがとう。……ぶどうに似ているけど何の果物だろう?まぁいいや。すごく美味しそうだ。一緒に食べよう。』
房をひとつ取って口に入れると瑞々しいジュースが口の中いっぱいに広がりました。
『こんな美味しいもの食べたことないや。ほらキミも食べてごらん?』
にゃ〜♪
ルカ少年は黒猫と一緒に果物を食べました。
『ああ、美味しかった。……なんだかふわふわする……眠くなっちゃった。』
黒猫はルカ少年の腕の中にするりと入り込みました。鞭で打たれた背中の痛みも腕の中の温かさとふわふわとした幸せで今は感じません。1人と一匹はボロ布のような毛布にくるまり、身を寄せ合って夢の中へ旅立ちました。
余程疲れていたのか、ルカ少年が目を覚ましたのは次の日の夜の事でした。
『ご主人様、ご主人様。』
『う……うぅん…………。』
誰かがルカ少年を呼んでいます。けれどもいつもルカ少年を怒鳴りつける海賊の船長や荒くれ水夫達の怖い声ではありません。
可愛らしい鈴を転がしたような高くて綺麗な声です。
ゆっくりと目を開けると、そこには猫の姿をした少女がいました。
『き、キミは……だれ?』
『ご主人様。私は猫です。』
『ね、猫だって!?キミ、あの猫なのかい??』
『はい。信じてもらえないかもしれませんが私は確かに猫です。起きたらこうなっていて、ワタシも驚いています。』
ルカ少年は昨日のことを思い出しました。
『もしかして……昨日食べたぶどうは。』
そうです。昨日猫と一緒に食べたぶどうのような果物は海賊船の積み荷で質は悪くとも、陶酔の果実でした。なんと黒猫は魔物娘ケット・シーになってしまいました。
『どうやらキミがその姿になったのは、あの果物のせいみたいだ。』
黒猫少女は少し心配そうに目を伏せました。
『私のように喋る猫なぞご主人様はお嫌いですか?』
『そんなこと無い!キミは凄く綺麗だよ。それに僕はずっとずっと、キミとお話ししてみたかっんだ。』
少年はそう言いながら両手で優しく黒猫少女の顔に触れながら、まじまじと見つめました。黒猫少女が持つ夜色の髪はサラサラとしていて、目はサファイアより青く、毛はしなやかで美しく、黒曜石のように輝いています。
『ご主人様、私嬉しいです!』
黒猫少女はルカ少年に抱きつきました。
何故かはわかりませんが、ルカ少年はとても幸せな気持ちになりました。
『ねぇキミ、名前はあるの?』
『ありません。私はただの黒猫です。好きに呼んでください。』
そう言われて、ルカ少年はもう一度黒猫少女の顔を見ました。美しいサファイアの目はまるで夜空に浮かぶ青い月のようです。ルカ少年は彼女が持つその美しい光を独り占めにしたいと思いました。
『エ・ミオ……。』
ルカ少年は自分でも無意識のうちに故郷であるイスパール王国の言葉でそう呟きました。意味は"私のもの"と言う意味です。
『ご主人様?』
『え?あ、あぁ……。ミオ。キミの名前、ミオはどうだい?』
ミオは何回かその名前を呟くと嬉しそうにルカ少年の胸に頬を擦り寄せました。
ルカ少年はそんなミオを抱きしめての頭や背中を撫でてやりました。
ミオはとても柔らかくて温かくて良い匂いがします。その甘い匂いを嗅いでいると頭の中がぼぅっとしてきます。
『ご主人様……』
ミオは頬を赤く染めて目を伏せました。
柔らかい胸やお腹を撫でるとミオの口から嬉しそうな甘い声が聞こえてきます。そしてまたミオを抱きしめます。
見つめ合うと2人の口が徐々に開いて合わさりました。舌が絡む音が口の端から漏れでて、それはそれはいやらしい音が静かに聞こえてきました。
ミオのお腹に熱と硬さを持ったルカ少年が当たっています。
『ご主人様……。』
口を離すとミオが後ろに倒れました。
誘われるがままに覆い被さって唇を重ねます。
苦しくなったのでルカ少年はズボンを脱いでミオを抱きしめます。そうするとミオの身体で濡れている所にルカ少年にあたります。
ルカ少年は抱きつきながら息を荒げてミオの濡れている所に彼の分身を擦りつけます。ミオは熱に浮かされながら、自身の秘所そっと手で開いてルカ少年をその蕾の中に導きました。
『『あぁあっ!!(❤』』
ミオの中は狭くて熱くて心地よくて、ルカ少年は震えながら快楽に耐えています。ミオは純潔を散らした痛みを感じましたが、愛する人を自身の迎え入れた喜びで胸がいっぱいです。
ゆっくりとゆっくりとルカ少年は蕾の中を掻き分けて進んで行きます。
2人の口からため息のような熱の籠った息が出ます。
ついにルカ少年はミオの最奥へと到達しました。
その時……
ドクンとルカ少年が脈打ち、精をミオの一番大切な場所へと吐き出しました。
『な"ぁぁぁあ"あ"〜〜〜❤❤❤』
ミオが声を上げ、足と尻尾をピンと伸ばしてガクガクと震えました。絶頂したのです。ルカ少年が抱きついているのでそれ以上快楽に抵抗出来ません。瞳孔を開いて口を開けて舌先を宙にチロチロと動かしています。
ルカ少年にとっても、彼の人生で1番の快楽でしたが、ミオのその様子にすぐさま硬さを取り戻しました。もっと気持ち良くなりたいと思ったのと、彼女の乱れた姿をもっともっと見たいと思いました。
くちゃっ
『にゃっ❤』
じゅっぱ
『にゃ〜❤』
吐き出した精を潤滑油に拙いながらも動き出しました。それは徐々に習熟されたものとなり、だんだんと、だんだんと早くなっていきます。
『ご主人様っ❤ご主人様っ❤』
『ミオ!ミオっ!』
もう2人はお互いしか見えません。そうしてまたルカ少年が欲望をミオの体内に吐き出そうと更に大きく膨れて硬くなります。
腰の少し下と頭の後ろに手を抱えるように回してミオの身体全体を包み込むように押さえつけました。ミオは快楽にもがく事も許されずに声にならないうめき声を上げて痙攣しながら耐えるしかありません。
そして再びドクンとルカ少年が脈打ち、精をミオの一番大切な場所へと吐き出しました。
『ひゅっ………………………❤❤❤❤❤』
震えながら吐き出された精をミオの蕾はまるでポンプのように動いて胎の中に一滴も残さずに納めていきます。
お互いにしがみつきながら唇と舌を交わします。
ミオの顔は快楽で蕩けきっていて、顔は汗と涙と涎とでべちょべちょです。
そうするとルカ少年がまたもや力を取り戻し、若さに任せた乱暴にも優しい交わりが再度始まるのでした。
こうして、ルカ少年とケット・シーのミオは恋人になりました。
それから2人は海賊船の中で隙を見ては交わるようになりました。
マストの見張り台や、食糧庫の中や物陰などです。
何度か見つかりそうになりましたが、ミオがいつの間にか覚えた影渡りの魔法で事無きを得ています。
そうして旅をすること3ヶ月……
『陸だーーー!!!』
マストで見張りをしていた荒くれ水夫が陸地を見つけました。かすかにですが街が見えます。
海賊船長は腰に吊り下げていた立派な望遠鏡を取り出しました。
『……豊かな港……大きな市場……立派で頑丈そうな建物に宮殿……異国の王都だろう。』
『襲撃しますか?』
『いや、襲撃は無理だ。今回は商人として寄港しよう。……小僧!!』
船長は大きな声でルカ少年を呼びました。
『はい、船長。』
『仕事だ!準備しろ!!』
海賊船はブリタニア商会の商人の旗を掲げて異国の港に到着しました。
『 " ようこそ異国の商人様。ここはムガール王国です。王国とコルカの皆はあなた方を歓迎します。わたくしは王宮に仕える書記官でございます。" 』
頭にターバンを巻いた書記官がイスパール語で自己紹介をしました。ルカ少年は書記官の言葉をそのまま船長に伝えます。
『ふむ……小僧、まずは王様に我々の商品を紹介したいと言え。』
『はい。"…… 私はこの船で通訳をしているルカと言う者です。書記官様、歓迎ありがとうございます。私達はブリタニア王国と言う国の商人です。この国に迎え入れてくださった王様への感謝の為、商人として私達はまず一番にかのお方にご紹介したいと存じます。お目通りは出来ますか?" 』
書記官は関心したように頷きます。
『"友よ、あなたはそのように若い身でありながら礼儀が大変しっかりしておられる。安心してください。この国では望めばだれでも、例え奴隷でも王様にお会い出来ます。"』
一向は大きな宝箱を持って王宮へと向かいます。
向かう途中、見ると色とりどりの市場に白い建物が並んだ美しい街並みです。しかしながらどう言う訳か違和感がありました。
しばらくして、ルカ少年と海賊達は王宮へとやってきました。光輝く美しい宮殿です。
『"この王宮はここにおわす王様の名前とあまりの美しさからアブーハ・マハヌ。光の宮殿と呼ばれています。"』
書記官の自慢げな案内と宮殿の豪華なタペストリーや装飾を見たり聞いたりしている間に、王様の居る謁見の間に着きました。
謁見の間はひときは豪華で王様は1番上の台の上に座っています。下の段にはまだ幼い王子様が座っています。金に銀にルビーやサファイアにダイヤモンド……沢山の宝石を身につけています。
『"こちらにおわすはアブーハ陛下とその御子息クリシュナ王子であらせらる。"』
海賊達はみんな陛下に頭を下げました。書記官はアブーハ王の下に、ルカ少年は船長の横でそれぞれ通訳を続けます。
船長は宮廷風の礼をして頭を上げると宝箱を開けて色々な宝物を取り出しました。
『偉大なるアブーハ陛下にはご期待麗しく、西の大陸より北の海の我が祖国ブリタニア王国から、世界の海を股にかける私達ブリタニア商会が文字通り世界中から集めた宝や商品をお持ちしました。……銃や大砲に火薬。絢爛豪華な調度品。東の国の雅な陶器。あらゆる学問や詩や芸術や物語りが書かれた本。ご婦人方には宝石や香水などの化粧品。そして、危険を犯して手に入れた魔法の薬や道具。しかし、ここにあるのはほんの一部。我が船にはそれこそ山ほどの商品があります。』
ルカ少年がブリタニア語からイスパール語に訳し、書記官がイスパール語からムガール王国の言葉に訳します。
『 " 陛下はその箱のようなものは何か?とお尋ねです。" 』
船長は大袈裟に商品の説明をしました。
『陛下、お目が高い!これは時を告げる魔法の時計!短い針が数字を示す度に魔法が奏でる様々な美しい音楽と見せ物が催されます。』
『 "陛下がその魔法の箱を黄金100ベカでお望みです。" 』
『おい、ベカってなんだ?』
船長はルカ少年に聞きました。ルカ少年は海賊船が砂漠の国に寄港した時にベカを聞いた事がありました。
『1ベカが13.7グラムで100ベカですと1.37キログラムです。』
『ええい!ポンドだとどれくらいだ!?』
『約3ポンドです。』
船長は少し考えて陛下に言います。
『陛下、お言葉ですが、この商品はもっともっと価値があります。』
書記官は王様に船長からの言葉を伝えません。
『" 賢明にして偉大なる陛下に値段の交渉は出来ません。陛下の審美眼は神域にあらせられます。 "』
『ええい、仕方ない。』
書記官は秤に乗せた黄金を船長に渡すと魔法の時計を持っていきました。
そうして商談が続いてひと段落すると、陛下は来訪のお礼と、世界の話を船長から聞く為に宴を開きました。
アブーハ陛下が手を叩くと贅沢な料理やお酒が次々に運ばれてきます。
しかし……
『ね、ネズミだ!!』
沢山のネズミ達が出て来て、彼方此方を走り回っています。
『"陛下の前でみっともありません。"』
海賊達は大騒ぎ。ネズミが料理やら食器やら調度品に齧りついています。王様や王子様は慣れた様子でネズミを手で叩いたり、摘んで投げたりしながら料理を食べています。
『"早く食べないと料理がなくなってしまいますよ?"』
こんな時でも書記官は冷静です。ルカ少年も通訳を続けていますが、びっくりしています。
料理がネズミ達に食べ尽くされてしまい、今度はあちらこちらを所構わず齧りつき始めました。
荒くれ水夫は帽子やズボンを齧られてたまらずに逃げてしまいました。
『"陛下の前で逃げ出すとは失礼です。"』
『あのバカ共め!!』
ネズミは我が物顔です。それもそのはず。このムガール帝国には猫がいないのです。コルカの港街でルカ少年が感じた違和感は、港街に必ずいる猫を一匹も見る事がなかったからです。
『痛っっ!!』
とうとうルカ少年の足にまで齧りつきました。
『ふしゃーーーーっっ!!!!!』
ちゅーー!!!!
その時、怒ったミアがルカ少年の足元から影渡りの魔法で出て来て、たちまちにネズミを追い払ってしまいました。
それまでネズミ達の行いを大目に見ていたものの、ルカ少年に歯を立てたことに怒ったのです。
その様子をアブーハ陛下とクリシュナ王子は驚いて見ています。
ミアはネズミを追い払うと王様達に優雅にお辞儀をしました。
『"聡明にして偉大なる陛下は、勇ましくも愛らしいその魔物娘の少女を養子に望んでおります。"』
陛下が手を叩くと山ほどの金と宝石が乗せられた大きな銀の飾り台が出てきました。
船長はあまりの宝物に驚いています。
『"私には見に余る光栄です。しかしながら、その少女を私は愛しています。とても手放せません。"』
ルカ少年はミアの手を握って王様にそう言いました。
『"陛下はあなた方の美しい愛情と絆を称賛していますが、がっかりしております。"』
『ご主人様、王様にお話しがあります。訳しては頂けないでしょうか?』
ルカ少年はミアの言葉に頷きました。
『私はご主人様の子供を妊娠しています。もうすぐ産まれます。その子をクリシュナ殿下の婚約者として下さるのならお譲りしましょう。』
『ミア、キミはそれで良いの!?』
ルカ少年はミアの言葉に驚きました。
『魔物娘として……いえ、女として1番の幸せは伴侶を得る事です。クリシュナ殿下はこの子の伴侶にこれ以上ありません。それに、この子に会えなくなるわけでも、この子を育てられなくなるわけでもありません。ご主人様はこの国に住むおつもりでしょう?』
ルカ少年はミアの言葉をそのまま伝えました。するとアブーハ陛下は手を叩いて笑って、クリシュナ王子はなんだかきょとんとしています。
そしてもう一度アブーハ陛下が手をパパンと叩くと今度は先程とは比べ物にならないほどの黄金が運ばれてきました。
『"では、結納金の半分をお納めなさい。そして、この他にお望みがあるなら何でも申してみよ。と陛下は言っておられます。"』
『 "私達の望みはこの国で暮らす事です。住む所と仕事を望みます。"』
『 "寛大にして偉大なるアブーハ陛下は大いに喜んでおいでです。今は使っていない離宮を与えるので、後で陛下と王子とあなた方夫婦一緒に様子を見るように準備する。と言っておられます。"』
ルカ少年は船長に向き合いました。
『 ……船長、お別れです。』
『どう言う事だ!!?』
ルカ少年の言葉に船長は怒鳴り声を上げました。
『僕とミアはこの国に住みます。これから、宮殿の離宮を見に行くんだ。』
『そんな勝ってを許すと思うのかっ!!!』
するとドタバタと音が聞こえてきました。
『船長〜〜!!大変です!ネズミがっ!ネズミが船に押し寄せてきました!!!』
『な、なんと!……な、なぁ、小僧。お前は息子同然。息子なら俺たち家族を見捨てないよな??』
なんと都合の良いのでしょうか。
『僕とミアはこれから離宮を見に行くのです。さようなら。』
『この恩知らずめ!!』
船長達はサーベルを抜いてルカ少年に突きつけました。
するとどこからか兵士が出てきて、海賊達に槍や剣や弓を向けました。
『くっ!!』
『"強く偉大であらせられるアブーハ陛下は、我が客人への狼藉は許さない。無礼な商人よ去るが良い。……と言っておられます。"』
『ぐぅぅううう〜〜〜!!!』
海賊達は兵士に連れられてムガール王国を追い出されてしまいました。
さて、ルカ少年は財産と小さな宮殿を手に入れ、アブーハ陛下に書記官として召し抱えられました。しばらくして産まれたミアとの子供もクリシュナ殿下の覚えめでたく、大変に気に入られ嫁ぐ事となりました。
猫のいないムガール王国でルカ少年とミアの家族は増えすぎたネズミがもたらすペストや獣がもたらす獣害を防ぎ、人々は喜びました。
こうしてルカ少年とミアはいつまでも、いつまでも幸せにくらしました。
ルカ少年とミアとその血筋は栄え、ムガール王国で10本の指にはいる程の名家となるのはまた別のお話し。
え?海賊達はどうなったって?
押し寄せたネズミ達は船を荒らし尽くして、宝物庫にあった魔界産の果物を食べたので、ネズミ達は皆ドーマウスと言う魔物娘になりました。海賊船を乗っ取り、水夫達を襲って至る所でギシアンギシアン。無人島に流れて着き、そこにネズミの国を作りましたとさ。
めでたしめでたし。
むかしむかし、まだ青い海が誰のモノでも無い時代に、遠く離れた異国の海をガレオン船が太陽の光と帆に風をめいっぱいに受けて旅をしていました。
マストの上の見張り台にはバンダナを巻いた水夫の少年が1人、望遠鏡を片手に海を見張っていました。
『今日はヒマだな〜。』
少年の名前はルカと言います。苗字はもう忘れてしまいました。
今日は澄んだ空に穏やかな風の平和な日です。
にゃ〜〜
とルカ少年の足下に黒い猫が一匹やってきました。
『なんだキミか。……だめじゃ無いか、また降りられなくなったらどうするだい?』
にゃ〜〜♪
心配をするルカ少年の気を知ってか知らずか、猫は少年の足にすり寄って満足そうにしています。
そんな様子に呆れたのか、やれやれと首を振ると少年はナイフで持っていた干し肉を一切れ分けてやりました。
『オイ!半人前!!陸や船でも見えるのか!!?』
するとマストの下から大声が聞こえてきます。声の主はつばの広い立派な三角帽子に立派なコート、これまた立派なお髭を持った片足義足のガレオン船の船長です。
『見えませーーん!!』
ルカ少年は大きな声で応えました。
『じゃ、雲は見えるのか!!?』
『雲ひとつありませーーん!!』
『だったらそんなとこで怠けてないで、さっさと降りて仕事をしろ!この半人前!!』
船長の命令で見張りをしていたのに酷い言われようです。
降りると船長はルカ少年の頭にゲンコツをひとつ。それからモップとバケツを乱暴に投げ付けました。
『この怠け者の半人前め!甲板を綺麗に磨くんだ!サボるんじゃあないぞ!!それが終わったら芋の皮剥きだ!』
ルカ少年は仕方なくバケツに水を汲んで甲板にモップを掛けはじめました。黒い猫はやっとマストから降りてきて、少年に付いて行きました。
他の船員達はというと、真っ昼間なのにラム酒を飲んで笑っていたり、酷い声で下手くそな歌を歌っていたり、踊っていたり、ナイフを投げて遊んでいました。
文字にすると気の良い水夫達のようですが、みんな柄が悪くて目が獣のようです。とても良い人達には見えません。
それもそのはず。彼らは泣く子も黙ってしまう恐ろしい海賊で、この船は海賊船なのです。
なぜそんな荒くれ者達の船にルカ少年が乗っているのかと言うと、彼はもともと西の大陸のイスパール王国という国の貿易船に商人見習いとして乗っていました。このお話しが始まる一年ほど前にその船が海賊達に襲われてしまったのです。
『ブリタニア国王、王様万歳!!さぁ!ヤロー共、根こそぎ掻っ攫え!!』
海賊達はドクロの旗を掲げて、貿易船を襲いました。商人達はあっという間に降伏してしまいました。
ルカ少年はいろいろな国の言葉を喋る事が出来たので、ブリタニア王国の言葉で命乞いをしたところ
『ほほう……便利な奴がいるぞ?』
と船長の目に止まり、ルカ少年は海賊に拐われて海賊の船で働く事になりました。
この海賊は海賊の仕事が無い時は掠奪した宝物をお金持ちに売ったり、外国に行って交易品の取り引きをしたりする商人の真似事をしていたので、ルカ少年は役に立ちました。
ですが外国語が必要な商談以外は役に立たないので、普段は雑用仕事の見習い水夫としてこき使われているのです。
今日もルカ少年はせっせと働きます。
にゃ〜ん
『はぁ……キミは気楽でいいなぁ……。』
そうそう。ルカ少年といつも一緒にいるこの黒猫は、半年くらい前に海賊船がペリシテ帝国に寄港した時でしょうか?いつの間にか船の中に居たのを少年が見つけたのでした。以来、ルカ少年と黒猫は良いお友達になりました。
『……僕はいつか、この船を出てやるんだ。』
ルカ少年は光る汗を拭いながら黒猫に話しました。
『そしたら、どこか知らない国に行って家を建ててのんびり暮らすんだ。キミもついてくるかい?』
にゃ〜〜ん♪♪
『ははっ、嬉しいなぁ。じゃあ決まりだ!』
にゃ〜!!
『キミが言葉を話せればもっと嬉しいのに……。』
にゃーん?
『ぃよお、半人前!さっそく怠けてるな?』
荒くれ水夫がルカ少年にちょっかいを出しにやってきました。
『怠けてませんよ。』
『つべこべ言うな半人前!!』
フーーーーッ!!
黒猫が荒くれ水夫を怒りました。
『うわっ!?おい!!お前はまだその役立たずの凶暴な毛玉のかたまりを追い出してなかったのか!?』
この荒くれ水夫は黒猫が苦手なのです。
『役立たずではありません。ネズミを追払い、取ってくれています!』
『口答えするな!半人前!!』
『うわっ!!』
荒くれ水夫はルカ少年を殴りました。
フーーーーーッ!!
怒った黒猫が荒くれ水夫の足を引っ掻きました。
『ぎゃー!!こいつめっ!!』
ドカっ!!
に"ゃん""
ポシャン!
なんと言う事でしょう。荒くれ水夫は黒猫を海に蹴飛ばしてしまいました。
『猫を海に落とした!?』
『はははは!これでせいせいする!』
ザパーン!!
ルカ少年は迷わず海に飛び込みました。
にゃ〜、にゃ〜、
ルカ少年は泳いで黒猫を助けに行きます。
『人が落ちたぞーーー!!』
『帆を畳めーー!!、綱を解けーー』
水夫の報告に船長は命令を飛ばすと帆が畳まれてロープが海に投げ込まれました。
ルカ少年は溺れそうだった黒猫を抱えて必死に泳ぎ、投げ込まれたロープを力いっぱい手繰ってやっとのことで船に戻りました。
『まさか、猫を助けに行ったのか!?たかが猫一匹の為にこの騒ぎとは!まったく呆れる!!罰として鞭打ち20回だ!!終わったら3日間牢にぶち込んでおけ!!飯も抜きだ!!』
ルカ少年は鞭打ちを受けて牢に閉じ込められました。
『寒いし、痛いし、お腹がすいたなぁ……。』
にゃ〜ん……
牢の格子をするりと抜けて黒猫がルカ少年のところにやってきました。
『キミか……無事で良かった。果物じゃないか!』
黒猫はルカ少年の為に果物をくわえていました。
にゃ〜ん♪
『僕にだって?ありがとう。……ぶどうに似ているけど何の果物だろう?まぁいいや。すごく美味しそうだ。一緒に食べよう。』
房をひとつ取って口に入れると瑞々しいジュースが口の中いっぱいに広がりました。
『こんな美味しいもの食べたことないや。ほらキミも食べてごらん?』
にゃ〜♪
ルカ少年は黒猫と一緒に果物を食べました。
『ああ、美味しかった。……なんだかふわふわする……眠くなっちゃった。』
黒猫はルカ少年の腕の中にするりと入り込みました。鞭で打たれた背中の痛みも腕の中の温かさとふわふわとした幸せで今は感じません。1人と一匹はボロ布のような毛布にくるまり、身を寄せ合って夢の中へ旅立ちました。
余程疲れていたのか、ルカ少年が目を覚ましたのは次の日の夜の事でした。
『ご主人様、ご主人様。』
『う……うぅん…………。』
誰かがルカ少年を呼んでいます。けれどもいつもルカ少年を怒鳴りつける海賊の船長や荒くれ水夫達の怖い声ではありません。
可愛らしい鈴を転がしたような高くて綺麗な声です。
ゆっくりと目を開けると、そこには猫の姿をした少女がいました。
『き、キミは……だれ?』
『ご主人様。私は猫です。』
『ね、猫だって!?キミ、あの猫なのかい??』
『はい。信じてもらえないかもしれませんが私は確かに猫です。起きたらこうなっていて、ワタシも驚いています。』
ルカ少年は昨日のことを思い出しました。
『もしかして……昨日食べたぶどうは。』
そうです。昨日猫と一緒に食べたぶどうのような果物は海賊船の積み荷で質は悪くとも、陶酔の果実でした。なんと黒猫は魔物娘ケット・シーになってしまいました。
『どうやらキミがその姿になったのは、あの果物のせいみたいだ。』
黒猫少女は少し心配そうに目を伏せました。
『私のように喋る猫なぞご主人様はお嫌いですか?』
『そんなこと無い!キミは凄く綺麗だよ。それに僕はずっとずっと、キミとお話ししてみたかっんだ。』
少年はそう言いながら両手で優しく黒猫少女の顔に触れながら、まじまじと見つめました。黒猫少女が持つ夜色の髪はサラサラとしていて、目はサファイアより青く、毛はしなやかで美しく、黒曜石のように輝いています。
『ご主人様、私嬉しいです!』
黒猫少女はルカ少年に抱きつきました。
何故かはわかりませんが、ルカ少年はとても幸せな気持ちになりました。
『ねぇキミ、名前はあるの?』
『ありません。私はただの黒猫です。好きに呼んでください。』
そう言われて、ルカ少年はもう一度黒猫少女の顔を見ました。美しいサファイアの目はまるで夜空に浮かぶ青い月のようです。ルカ少年は彼女が持つその美しい光を独り占めにしたいと思いました。
『エ・ミオ……。』
ルカ少年は自分でも無意識のうちに故郷であるイスパール王国の言葉でそう呟きました。意味は"私のもの"と言う意味です。
『ご主人様?』
『え?あ、あぁ……。ミオ。キミの名前、ミオはどうだい?』
ミオは何回かその名前を呟くと嬉しそうにルカ少年の胸に頬を擦り寄せました。
ルカ少年はそんなミオを抱きしめての頭や背中を撫でてやりました。
ミオはとても柔らかくて温かくて良い匂いがします。その甘い匂いを嗅いでいると頭の中がぼぅっとしてきます。
『ご主人様……』
ミオは頬を赤く染めて目を伏せました。
柔らかい胸やお腹を撫でるとミオの口から嬉しそうな甘い声が聞こえてきます。そしてまたミオを抱きしめます。
見つめ合うと2人の口が徐々に開いて合わさりました。舌が絡む音が口の端から漏れでて、それはそれはいやらしい音が静かに聞こえてきました。
ミオのお腹に熱と硬さを持ったルカ少年が当たっています。
『ご主人様……。』
口を離すとミオが後ろに倒れました。
誘われるがままに覆い被さって唇を重ねます。
苦しくなったのでルカ少年はズボンを脱いでミオを抱きしめます。そうするとミオの身体で濡れている所にルカ少年にあたります。
ルカ少年は抱きつきながら息を荒げてミオの濡れている所に彼の分身を擦りつけます。ミオは熱に浮かされながら、自身の秘所そっと手で開いてルカ少年をその蕾の中に導きました。
『『あぁあっ!!(❤』』
ミオの中は狭くて熱くて心地よくて、ルカ少年は震えながら快楽に耐えています。ミオは純潔を散らした痛みを感じましたが、愛する人を自身の迎え入れた喜びで胸がいっぱいです。
ゆっくりとゆっくりとルカ少年は蕾の中を掻き分けて進んで行きます。
2人の口からため息のような熱の籠った息が出ます。
ついにルカ少年はミオの最奥へと到達しました。
その時……
ドクンとルカ少年が脈打ち、精をミオの一番大切な場所へと吐き出しました。
『な"ぁぁぁあ"あ"〜〜〜❤❤❤』
ミオが声を上げ、足と尻尾をピンと伸ばしてガクガクと震えました。絶頂したのです。ルカ少年が抱きついているのでそれ以上快楽に抵抗出来ません。瞳孔を開いて口を開けて舌先を宙にチロチロと動かしています。
ルカ少年にとっても、彼の人生で1番の快楽でしたが、ミオのその様子にすぐさま硬さを取り戻しました。もっと気持ち良くなりたいと思ったのと、彼女の乱れた姿をもっともっと見たいと思いました。
くちゃっ
『にゃっ❤』
じゅっぱ
『にゃ〜❤』
吐き出した精を潤滑油に拙いながらも動き出しました。それは徐々に習熟されたものとなり、だんだんと、だんだんと早くなっていきます。
『ご主人様っ❤ご主人様っ❤』
『ミオ!ミオっ!』
もう2人はお互いしか見えません。そうしてまたルカ少年が欲望をミオの体内に吐き出そうと更に大きく膨れて硬くなります。
腰の少し下と頭の後ろに手を抱えるように回してミオの身体全体を包み込むように押さえつけました。ミオは快楽にもがく事も許されずに声にならないうめき声を上げて痙攣しながら耐えるしかありません。
そして再びドクンとルカ少年が脈打ち、精をミオの一番大切な場所へと吐き出しました。
『ひゅっ………………………❤❤❤❤❤』
震えながら吐き出された精をミオの蕾はまるでポンプのように動いて胎の中に一滴も残さずに納めていきます。
お互いにしがみつきながら唇と舌を交わします。
ミオの顔は快楽で蕩けきっていて、顔は汗と涙と涎とでべちょべちょです。
そうするとルカ少年がまたもや力を取り戻し、若さに任せた乱暴にも優しい交わりが再度始まるのでした。
こうして、ルカ少年とケット・シーのミオは恋人になりました。
それから2人は海賊船の中で隙を見ては交わるようになりました。
マストの見張り台や、食糧庫の中や物陰などです。
何度か見つかりそうになりましたが、ミオがいつの間にか覚えた影渡りの魔法で事無きを得ています。
そうして旅をすること3ヶ月……
『陸だーーー!!!』
マストで見張りをしていた荒くれ水夫が陸地を見つけました。かすかにですが街が見えます。
海賊船長は腰に吊り下げていた立派な望遠鏡を取り出しました。
『……豊かな港……大きな市場……立派で頑丈そうな建物に宮殿……異国の王都だろう。』
『襲撃しますか?』
『いや、襲撃は無理だ。今回は商人として寄港しよう。……小僧!!』
船長は大きな声でルカ少年を呼びました。
『はい、船長。』
『仕事だ!準備しろ!!』
海賊船はブリタニア商会の商人の旗を掲げて異国の港に到着しました。
『 " ようこそ異国の商人様。ここはムガール王国です。王国とコルカの皆はあなた方を歓迎します。わたくしは王宮に仕える書記官でございます。" 』
頭にターバンを巻いた書記官がイスパール語で自己紹介をしました。ルカ少年は書記官の言葉をそのまま船長に伝えます。
『ふむ……小僧、まずは王様に我々の商品を紹介したいと言え。』
『はい。"…… 私はこの船で通訳をしているルカと言う者です。書記官様、歓迎ありがとうございます。私達はブリタニア王国と言う国の商人です。この国に迎え入れてくださった王様への感謝の為、商人として私達はまず一番にかのお方にご紹介したいと存じます。お目通りは出来ますか?" 』
書記官は関心したように頷きます。
『"友よ、あなたはそのように若い身でありながら礼儀が大変しっかりしておられる。安心してください。この国では望めばだれでも、例え奴隷でも王様にお会い出来ます。"』
一向は大きな宝箱を持って王宮へと向かいます。
向かう途中、見ると色とりどりの市場に白い建物が並んだ美しい街並みです。しかしながらどう言う訳か違和感がありました。
しばらくして、ルカ少年と海賊達は王宮へとやってきました。光輝く美しい宮殿です。
『"この王宮はここにおわす王様の名前とあまりの美しさからアブーハ・マハヌ。光の宮殿と呼ばれています。"』
書記官の自慢げな案内と宮殿の豪華なタペストリーや装飾を見たり聞いたりしている間に、王様の居る謁見の間に着きました。
謁見の間はひときは豪華で王様は1番上の台の上に座っています。下の段にはまだ幼い王子様が座っています。金に銀にルビーやサファイアにダイヤモンド……沢山の宝石を身につけています。
『"こちらにおわすはアブーハ陛下とその御子息クリシュナ王子であらせらる。"』
海賊達はみんな陛下に頭を下げました。書記官はアブーハ王の下に、ルカ少年は船長の横でそれぞれ通訳を続けます。
船長は宮廷風の礼をして頭を上げると宝箱を開けて色々な宝物を取り出しました。
『偉大なるアブーハ陛下にはご期待麗しく、西の大陸より北の海の我が祖国ブリタニア王国から、世界の海を股にかける私達ブリタニア商会が文字通り世界中から集めた宝や商品をお持ちしました。……銃や大砲に火薬。絢爛豪華な調度品。東の国の雅な陶器。あらゆる学問や詩や芸術や物語りが書かれた本。ご婦人方には宝石や香水などの化粧品。そして、危険を犯して手に入れた魔法の薬や道具。しかし、ここにあるのはほんの一部。我が船にはそれこそ山ほどの商品があります。』
ルカ少年がブリタニア語からイスパール語に訳し、書記官がイスパール語からムガール王国の言葉に訳します。
『 " 陛下はその箱のようなものは何か?とお尋ねです。" 』
船長は大袈裟に商品の説明をしました。
『陛下、お目が高い!これは時を告げる魔法の時計!短い針が数字を示す度に魔法が奏でる様々な美しい音楽と見せ物が催されます。』
『 "陛下がその魔法の箱を黄金100ベカでお望みです。" 』
『おい、ベカってなんだ?』
船長はルカ少年に聞きました。ルカ少年は海賊船が砂漠の国に寄港した時にベカを聞いた事がありました。
『1ベカが13.7グラムで100ベカですと1.37キログラムです。』
『ええい!ポンドだとどれくらいだ!?』
『約3ポンドです。』
船長は少し考えて陛下に言います。
『陛下、お言葉ですが、この商品はもっともっと価値があります。』
書記官は王様に船長からの言葉を伝えません。
『" 賢明にして偉大なる陛下に値段の交渉は出来ません。陛下の審美眼は神域にあらせられます。 "』
『ええい、仕方ない。』
書記官は秤に乗せた黄金を船長に渡すと魔法の時計を持っていきました。
そうして商談が続いてひと段落すると、陛下は来訪のお礼と、世界の話を船長から聞く為に宴を開きました。
アブーハ陛下が手を叩くと贅沢な料理やお酒が次々に運ばれてきます。
しかし……
『ね、ネズミだ!!』
沢山のネズミ達が出て来て、彼方此方を走り回っています。
『"陛下の前でみっともありません。"』
海賊達は大騒ぎ。ネズミが料理やら食器やら調度品に齧りついています。王様や王子様は慣れた様子でネズミを手で叩いたり、摘んで投げたりしながら料理を食べています。
『"早く食べないと料理がなくなってしまいますよ?"』
こんな時でも書記官は冷静です。ルカ少年も通訳を続けていますが、びっくりしています。
料理がネズミ達に食べ尽くされてしまい、今度はあちらこちらを所構わず齧りつき始めました。
荒くれ水夫は帽子やズボンを齧られてたまらずに逃げてしまいました。
『"陛下の前で逃げ出すとは失礼です。"』
『あのバカ共め!!』
ネズミは我が物顔です。それもそのはず。このムガール帝国には猫がいないのです。コルカの港街でルカ少年が感じた違和感は、港街に必ずいる猫を一匹も見る事がなかったからです。
『痛っっ!!』
とうとうルカ少年の足にまで齧りつきました。
『ふしゃーーーーっっ!!!!!』
ちゅーー!!!!
その時、怒ったミアがルカ少年の足元から影渡りの魔法で出て来て、たちまちにネズミを追い払ってしまいました。
それまでネズミ達の行いを大目に見ていたものの、ルカ少年に歯を立てたことに怒ったのです。
その様子をアブーハ陛下とクリシュナ王子は驚いて見ています。
ミアはネズミを追い払うと王様達に優雅にお辞儀をしました。
『"聡明にして偉大なる陛下は、勇ましくも愛らしいその魔物娘の少女を養子に望んでおります。"』
陛下が手を叩くと山ほどの金と宝石が乗せられた大きな銀の飾り台が出てきました。
船長はあまりの宝物に驚いています。
『"私には見に余る光栄です。しかしながら、その少女を私は愛しています。とても手放せません。"』
ルカ少年はミアの手を握って王様にそう言いました。
『"陛下はあなた方の美しい愛情と絆を称賛していますが、がっかりしております。"』
『ご主人様、王様にお話しがあります。訳しては頂けないでしょうか?』
ルカ少年はミアの言葉に頷きました。
『私はご主人様の子供を妊娠しています。もうすぐ産まれます。その子をクリシュナ殿下の婚約者として下さるのならお譲りしましょう。』
『ミア、キミはそれで良いの!?』
ルカ少年はミアの言葉に驚きました。
『魔物娘として……いえ、女として1番の幸せは伴侶を得る事です。クリシュナ殿下はこの子の伴侶にこれ以上ありません。それに、この子に会えなくなるわけでも、この子を育てられなくなるわけでもありません。ご主人様はこの国に住むおつもりでしょう?』
ルカ少年はミアの言葉をそのまま伝えました。するとアブーハ陛下は手を叩いて笑って、クリシュナ王子はなんだかきょとんとしています。
そしてもう一度アブーハ陛下が手をパパンと叩くと今度は先程とは比べ物にならないほどの黄金が運ばれてきました。
『"では、結納金の半分をお納めなさい。そして、この他にお望みがあるなら何でも申してみよ。と陛下は言っておられます。"』
『 "私達の望みはこの国で暮らす事です。住む所と仕事を望みます。"』
『 "寛大にして偉大なるアブーハ陛下は大いに喜んでおいでです。今は使っていない離宮を与えるので、後で陛下と王子とあなた方夫婦一緒に様子を見るように準備する。と言っておられます。"』
ルカ少年は船長に向き合いました。
『 ……船長、お別れです。』
『どう言う事だ!!?』
ルカ少年の言葉に船長は怒鳴り声を上げました。
『僕とミアはこの国に住みます。これから、宮殿の離宮を見に行くんだ。』
『そんな勝ってを許すと思うのかっ!!!』
するとドタバタと音が聞こえてきました。
『船長〜〜!!大変です!ネズミがっ!ネズミが船に押し寄せてきました!!!』
『な、なんと!……な、なぁ、小僧。お前は息子同然。息子なら俺たち家族を見捨てないよな??』
なんと都合の良いのでしょうか。
『僕とミアはこれから離宮を見に行くのです。さようなら。』
『この恩知らずめ!!』
船長達はサーベルを抜いてルカ少年に突きつけました。
するとどこからか兵士が出てきて、海賊達に槍や剣や弓を向けました。
『くっ!!』
『"強く偉大であらせられるアブーハ陛下は、我が客人への狼藉は許さない。無礼な商人よ去るが良い。……と言っておられます。"』
『ぐぅぅううう〜〜〜!!!』
海賊達は兵士に連れられてムガール王国を追い出されてしまいました。
さて、ルカ少年は財産と小さな宮殿を手に入れ、アブーハ陛下に書記官として召し抱えられました。しばらくして産まれたミアとの子供もクリシュナ殿下の覚えめでたく、大変に気に入られ嫁ぐ事となりました。
猫のいないムガール王国でルカ少年とミアの家族は増えすぎたネズミがもたらすペストや獣がもたらす獣害を防ぎ、人々は喜びました。
こうしてルカ少年とミアはいつまでも、いつまでも幸せにくらしました。
ルカ少年とミアとその血筋は栄え、ムガール王国で10本の指にはいる程の名家となるのはまた別のお話し。
え?海賊達はどうなったって?
押し寄せたネズミ達は船を荒らし尽くして、宝物庫にあった魔界産の果物を食べたので、ネズミ達は皆ドーマウスと言う魔物娘になりました。海賊船を乗っ取り、水夫達を襲って至る所でギシアンギシアン。無人島に流れて着き、そこにネズミの国を作りましたとさ。
めでたしめでたし。
22/04/02 23:35更新 / francois