スワローテイルの仕立て屋(アラクネ
スワローテイルの仕立て屋
やぁ、いらっしゃい。
ここは初めてかな？
そうかい。どうりで、初めて見る顔だ。
ガラガラだから適当に座ってくれ。
お客様はどんなレコードは何がお好みかな？
ふふふ♪ ……年代物の真空管に、最高のレコード達。ここの店は飲み物と一緒に好きな音楽を選んで貰うんだ。
あぁ、これかい？オススメの盤だ。
君はクラシックが好きなんだね。奇遇だね。ボクも好きさ。
ふふふ♪
ドリンクはアイス・コーヒーだったね？
〜♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪……
あぁ、良い響きだ……。いやいや、失礼。つい夢中になってしまったね？
何処のオーケストラだって？
シューシャンク・フィルハーモニーさ。
聞かないオーケストラだって？
そうだね。このオーケストラは出所した元囚人達の更生を目的に作られた比較的新しいオーケストラなんだ。
指揮者は誰だって？ふふふ……気になるかい？
『スワローテイルの仕立て屋』
拍手の中、お辞儀をする"風変わりな指揮者"に小さな女の子から花束が贈られた。
指揮者はそのまま舞台袖に消えて、それでも鳴り止まない拍手にもう一度舞台に出ると、オーケストラのコンサートマスターに指示を出す。
もう一度、指揮棒を高らかに掲げるとアンコールに相応しい軽やかなマーチが鳴り響く。
それが指揮者、ラファエロ・カロ・オサニ・アケドのデビューだった。
短く爽やかなプレジデンシャルヘアー
180cmの長身
モデルのようなスラリとした手足
穏やかな黒い目に少々厚い唇と高い鼻を持つ笑顔が眩しい天使の名前を持つ色男だ。
そんな彼がなぜ"風変わりな指揮者"なのか？
それは彼の肌の色が黒いからだ。
ラファエロはアルカナ合衆国開拓時代、イスパール主神教国領に南の大陸から連れてこられた黒人奴隷の子孫である。
彼の父親はジャズの聖地ニュー・オランジェのジャズピアニストで理髪師であった。彼の店は理髪店でありジャズハウス。ラファエロは母親のお胎の中に居る頃から音楽と共に育った。
ラファエロが3歳の頃、父親からピアノの手解きを受けて間も無く、父親は彼に絶対音感と音楽への天才的才能があると見抜いた。
ラファエロが7歳になる頃にはステージでニュー・オランジェの才能あるジャズメンに混ざってピアノを弾いていた。
演奏を聴いていた父親は息子が自分を越えるであろう事と、その才能はピアノでは収まらないであろう事を予感し、そして、その予感は直ぐに的中する事になる。
ラファエロがクラシックに出会った。
テレビで流れたオーケストラのコンサートの番組の指揮者を見て、『アレをやってみたい！』と幼いラファエロが言ったのだった。
息子の才能を誰よりも理解し、信じていた父親は、ラファエロにクラシックのピアノと音楽理論を教える為に友人を頼り、ラファエロにレッスンをつけ、それと同時にテーブルマナーやエスコートを始めとする白人上流階級のマナーを身につけさせた。
彼は黒人であると言うハンディキャップを誰よりも理解していた。
父親は身を粉にして働き、努力の結果、ラファエロは白人の高校に入る事ができた。数年後、ラファエロは返済不要の授業料と生活費全額保証の奨学金を取り音楽の名門ジュリアス音楽院に入学した。
そこでラファエロは人生初の挫折を味わった。
黒人だからと言う理由で書類審査の段階でピアノ・コンテストを落とされたのだ。
それはどんなコンテストでも同じであった。
指揮科を受講するには、コンテストに出て一定以上の結果を出さなければならなかったのでラファエロは非常に焦っていた。
オサニ・アケド……南の大陸系の黒人の姓字。彼はそれで黒人だと判断され事前に排除されていたのだ。
この事は彼の学友達がコンテストの運営サイドに署名付きの抗議書を送る事で解決した。彼は一生の友となる学友に恵まれたのだ。
そうしてコンテストに出たラファエロは3位を獲得し(1位と2位は白人)、指揮科を受ける権利を手に入れたのだが、受難は続く。これは序章に過ぎなかったのだ。
指揮科の教授がラファエロを全く相手にしないのだ。そのくせに、試験ではどの生徒よりハイレベルな、異次元と言って良い事を要求された。
彼は試験に2度も落ちた。
ラファエロは認識を改めた。差別の無い先進的な考えは理想に過ぎず、確実にそれはそこに存在し、自分は差別を受ける側の人間である事を現実から理解した。その上で彼は音楽と共に生きる事を選んだ。
クラシックは西の大陸の白人上流階級の文化だ。
『身も心も完全なる紳士になりなさい。』
ラファエロは幼い日の父親の言葉を思い出した。
父親はクラシックの音楽家を目指す黒人の人種的ハンディキャップを理解し、また見越してラファエロに上流階級のマナーを教えたのだ。彼らのルールの下、ラファエロが立ち向かって行けるように。
それから、ラファエロは行動をした。最早手段は選んではいられない。
あらゆる時代、様式のオーケストラのスコアを細部に渡り憶え、図書館や美術館に眠る名指揮者達の名演を記録した記憶水晶(人工の水晶に映像と音声を記憶したビデオのような物)やレコードを聴きあさり、時には学友に借金をしてまで音楽劇場に通い詰め生の指揮とオーケストラを学んだ。
あらゆる技術、芸術の進歩は全て模倣から始まる。
ラファエロは歴史に名だたる指揮者達の技術をコピーしていき、やがて彼独自の指揮法を確立するに至った。
結果、皮肉にもラファエロを冷遇した指揮科の教授達は、彼の天才的才能を更に暴力的な迄に……神域へと開花させる事となった。
そして卒業が迫る頃、ラファエロは指揮者コンテストに参加した。
エントリーシートを馬鹿正直に書けばクラシック音楽界における権力者達はラファエロを排除しようとするだろう。
考えた末にラファエロはある有名な指揮者コンクールであるニューシャテリア・ミュージック・コンテスト指揮者部門に出ることにした。
一次審査と二次審査は人的不正の無い様にカーテン審査。本審査は審査員とオーケストラの団員が審査し、ファイルは演奏会形式で行われ、オーディエンスの投票によってグランプリが決められる。
ラファエロはそのコンテストに出場し、一次審査とニ次審査を問題なくクリアした。
『……なんで、黒人がいるのです！ジャズやゴスペルではなく、ここは崇高なクラシックのコンテストですよ！？？』
そう言ったのは審査員の女性だった。
当然、ラファエロは不正を疑われ、直ちにエントリーシート等、ラファエロの経歴を調べられた。そして、不正と疑われたひとつの問題が浮上したのだ。
『私は不正を行なっていません。このコンテストは黒人の参加を禁止してはいないはずです。違いますか？』
『では、何故正しい名前をエントリーシートの名前に書かないのですか？』
彼、ラファエロ・カロ・オサニ・アケドのエントリーシートにはラファエロ・カロとイスパール系の名前だけ書かれてあった。そう、コンテストの運営側の末端のスタッフは兎も角、審査員などは黒人が出ているとは夢にも思っていなかった。
『？それは嘘偽り無く私の正しい名前です。戸籍にも書かれております。敬虔な主神教信者として与えられた洗礼名です。将来、天の御国で名乗る大切な名前であるのです。』
恐らく、オサニ・アケドと書けば黒人として排除されていたであろう。ラファエロは紳士的にお辞儀をしながら心の中でほくそ笑んでいた。
人種差別するような白人はほぼ例外無く " 偏った過激な考えの " 西方主神教信者だ。
彼ら彼女らは神の名に弱い。神を絶対に否定出来ない。目の前の審査員の年増の女にラファエロの言葉を否定出来ない。
『もう良いではありませんか。少なくともラファエロ君は彼の実力で我々に選ばれ、このに残っておる。我々が選んだのだ。実力は認めるべきである。それに彼の言う通り、黒人だからなんだと言うんだ？』
『しかし、皆さん！』
『うーん……これ以上はぁ〜、貴女の能力と思想を疑う事になりますよぉ〜？うーん、40番のラファエロさんの演奏は凄く魅力的でした〜。美味し〜ぃのです〜。もっと聴きたいなぁ〜。』
どこにでもリベラルな方々は居る様で、審査員の壮年男性とリャナンシーの審査員がラファエロを庇護した。
『わかりました。……彼の参加を認めましょう。』
ラファエロは参加する権利を正当に認められた。
演奏間違い探しや初見曲の指揮、オーケストラリハーサルテストはもちろん、コンサート形式の試験でもトップで本選を通過。ファイルでは聴取のグランプリを獲得。その後、卒業後10月からマシューセッツ州ポスト市のオーケストラとの雇用契約を結び、各部門ファイリストのガラコンサートへの出演、デビューが決定。
このお話しは冒頭のシーンへ戻る。
華々しいガラコンサートでのデビューの翌日、ニューシャテリアタイムズ誌や音楽情報誌でラファエロは扱き下ろされていた。
酷いところでは
" 黒い猿が棒切れを持って指揮者の真似事 "
などと書かれてしまった。
この問題があった事で、スキャンダルを恐れたポストシティ・オーケストラはラファエロの契約を白紙に戻した。
卒業後、ラファエロはニューシャテリアのとある喫茶店兼バーでピアニストとして働きながら指揮の勉強を続けた。
転機は突然訪れた。3ヶ月後、降臨祭の差し迫ったある日、1本の電話がラファエロ宛に掛かってきた。
『……もしもし、ラファエロです。』
『こんにちは、ラファエロさん。私は弁護士のニナ・パーカーです。どうぞよろしく。』
『此方こそ。……それで、弁護士さんが私のような落ち目の指揮者に何を期待していますか？』
『折行って相談したい事があります。』
弁護士ニナ・パーカーからの申し出の内容はあるオーケストラを指揮者になってくれと言う内容だった。
後日、ラファエロは詳しい話を聞く為にパーカー氏に会う事になった。呼び出された所は……刑期を終えた犯罪者達の更生施設だった。
『本日はありがとう。……あなたがラファエロ・カロ・オサニ・アケドさん？』
待ち合い室で暫く待つと、深い紫色のスーツを着込んだサキュバスがラファエロの席にやって来た。
『はい、そうです。……あなたはニナ・パーカーさん？』
『ええ、そうよ。今日はありがとう。』
ラファエロとニナは握手を交わした。
『リネン・ベージュのスーツにボウタイ……。噂通り、身なりが良いから見つけるのに苦労しなかったわ。』
『ありがとう。光栄です。しかしパーカーさんこそ、モダン。電話で女性だと知っていましたが、こんなに素敵な方だとは思わなかった。』
『ふふふ……ありがとう。でも私はともかく、独身魔物娘にそう言う事は言わない方がいいわよ？さて……本題に入りましょう。よろしい？』
『はい。』
席に着くと、ニナは資料を閉じたファイルを開いて説明を始めた。
『……見ての通り、ここは過去に過ちを犯した人達の更生施設よ。主に軽犯罪者……窃盗や、暴力事件、麻薬の所持、販売、独身男性を狙っての誘拐、性犯罪とかのね。その殆どが人種・人魔を問わず、スラム地区出身者、ストリート・ギャングやマフィア関係者で貧困層。30%が男性で残り70%が独身女性や魔物娘。非常に高い再犯率で……おおよそ合衆国全体で48%だけど、軽犯罪に至っては68.7% 約3人に2人がまた罪を犯して刑務所に戻ってしまう。何故だかわかる？』
『経済的な理由と……社会的な理由でしょうか？』
『えぇ、その通りよ。経済的な理由は言わずもね。元々貧しい人が多いの。社会的な理由……これが厄介なの。前科持ちには仕事もまともに与えられない。企業も雇いたがらない。元犯罪者と言うレッテルが家族や友人の関係を壊して疎遠になる。支えてくれる夫もいない。ひとりぼっちよ。』
『えぇ、理解できます。』
『……お金もない、住む場所もままならない。簡単に行き詰まってしまう。そして何より、自分が社会にとって必要とされていない存在だと認識するようになってしまう。そうなると、再び犯罪に手を染める様になる。1番安易な例を挙げるとすると、例えばストリート・ギャングになったり、時にはマフィアの構成員になったりするの。そうなれば犯罪のループから抜け出せなくなる。』
『はい。……ですが、わからない事が一つ。ミセス・パーカー……』
『……ミス。ミスよ。ミス・パーカー。』
ニナはペンを持つ手で文字を書く様にそうラファエロに指摘した。
『失礼……ミス・パーカー、あなたは落ち目の黒人指揮者に何を期待しているのですか？』
なんと無くではあるが、ラファエロはこの件について、彼女からの要望を理解した。
『……シューシャンク刑務所では、実験的な更生プログラムとして懲役5年以下と出所5年を控えた受刑者を対象として、ベイスボール、フットボール、バスケット、陸上競技、ボクシング、レスリング、絵画、そしてクラシック音楽の教育をしているの。社会的な基盤、彼らにとって新しいコミュニティの構築、何より自分自身が社会にとって必要不可欠な存在だと認識してほしい。この更生プログラムには格ジャンルに合わせたその後の道を用意しているわ。』
『と言うと？』
ニナはこの言葉で、ラファエロがこちらの意図を既に理解していると確信した。もし、結露を急ぐタイプなら早く要点を教えろと言うだろう。興味自体が無い相手ならもう席を立っている。
『例えば……ボクシング。選手になる道は勿論、ジムトレーナーやテープマン、スポーツ医療従事者ね。』
『興味深いです。』
『……それで、クラシック音楽には楽器職人への道、舞台技術者、音響、ピアノの調律師、作曲家……そして演奏家の道。演奏家を目指す方には、受刑中に楽器と音楽理論のレッスンを。他にもアンサンブルや合奏。出所後にオーディションで一定以上の実力を持つ奏者はオーケストラに。あなたに振って欲しいオーケストラはそのオーケストラよ。……因みに報酬は政府から出るわ。』
『成る程……一つ質問しても？』
ラファエロの目はとても真剣だ。
『ええ、勿論。』
『……何故私なのですか？他にも良い指揮者はたくさんいます。』
『理由は3つ。１つ目はとてもシンプル。あなたの振るタクトが凄く魅力的だから。2つ目はそんな優秀な指揮者がヒマそうだから。3つ目は……女のカンよ。』
『女のカン？？』
ニナの言葉を聞いてラファエロは驚きを隠せなかった。
『えぇ、あなたがこのオーケストラの指揮を振れば全て上手くいくと思ったの。当たるのよ？』
しかし、当の彼女は至って真面目に誠実に答えてる。そうしか思えなかった。
『はははは！……失礼。パーカーさん、あなたは面白い方だ。……わかりました。どうせ行く宛の無い落ち目の指揮者です。存分に使ってください。』
『ありがとう！あなたならきっとOKしてくれると思ったわ！！』
2人は再び握手を交わした。
そうして、ラファエロはシューシャンク・フィル・ハーモニー管弦楽団の常任指揮者となった。
オーケストラのメンバーはクセ者だらけだった。
元マフィアにストリート・ギャング、指定魔界媚薬の密売人に、運び屋、車の違法ディーラー、その他もろもろバーゲンセール。
ラファエロは苦労しながらもオーケストラのメンバーをまとめ上げて、初の演奏会に臨んだ。
結果は散々だった。
コンサートの第二部、交響曲の最終章の1番緊張感が出る美しい静かなP(演奏記号。弱く)の場面で、舞台の照明が突如落ちてしまったのだ。
黒いタキシードに黒い肌のラファエロの指揮は闇に溶ける様に奏者から見えなくなってしまった。
照明が再び灯るまで、コンサートマスターが指揮の役割を引き受けてくれて演奏自体はどうにかなったが……。
『……ボス。お待ちください。』
肩を落とし楽屋を後にするラファエロに声を掛けたのは件のコンサートマスターだ。ダークグレーのスーツを着こなすインキュバスの少年は元マフィアのボス。ミケーレ・ジュノヴェーゼ、年齢不明のロマーナ系。1stヴァイオリンのハイオーク、カルメッラ・コンスタンチ以下ヴァイオリンパートは彼の配下(ファミリー)だ。
『おかしと思いました。……カルメッラ！！！』
カルメッラに連れてこられたのはホールの照明スタッフだった。
『締め上げたら、あっさり教えてくれましたよ。……なぁ、もう一度説明してくれよ……オレはあんまり気が長い方じゃねぇんだ……。』
『ひ、ひぃ…………。わ、わかった。……音楽事務所の社長だって女が来て……ク、クラシックは白人の物だって……金を渡されて……。す、すみませんでしたっ！！！』
ミケーレは葉巻を咥え、マッチで火をつけるとゆっくりとため息を吐いた。
『だそうです。……この馬鹿な男をどうしますか？家族もろもろ地下スラムのデビルバグ共の慰みモノにでも……』
『良いんだ！……良いんだ……。慣れてるさ。またベストを尽くそう。済まないが、今は独りにしてほしい。』
『ボス……。』
そう言ってラファエロは会場を後にした。
カラン……と冷たい音色の氷がグラスの中で揺れる。
ラファエロはその夜、とある喫茶店兼バーで独りウィスキーを飲んでいた。
すると、隣りに女性が腰掛けた。
『40番のラファエロ・カロさん。今日は実にエレガンテな演奏でした。』
『あなたは……』
その女性はあの時オーディションの本選でラファエロを排除しようとした審査員だった。
『お久しぶりです。まさか、更生社会復帰プログラムで奏者が組織された、しかも黒人が指揮者の色物オーケストラでこの様な演奏が聴けるとは思いませんでした。感嘆に値します。』
『本日はご拝聴頂き、ありがとうございます。しかし……』
『えぇ……貴方の敵は多いと言わざるおえません。如何に素晴らしい指揮を振ろうとそれを認めたく無い人達がいます。……かつての私のように。』
『…………私は自分の人種の事を……ハンディキャップを理解しているつもりでした。甘かったのです。』
『えぇ。……厳しいようですが、貴方の甘さは "奏者への配慮" を怠りました。どんな素晴らしいタクトも奏者に見えなくては意味がありませんね。』
『仰っる通りです。』
『貴方にコレを。』
すると彼女は1枚のカードを出した。
『……仕立て屋……の紹介カード……？』
『一流の舞台俳優、女優を始め、ヴァイオリニストやピアニスト、器楽演奏家、そして指揮者がここで衣装を作っています。……貴方には、どんな困難な状況でもベストを尽くして頂きたい。その力を衣装が与えてくれます。』
『何故、私にそのようにしてくれるのですか？……あなたは私がてっきり嫌いかと……。』
『……素晴らしい音楽の前では、人種や出自や人間か魔物娘かなんてどうでも良い事だと私は貴方から学びました。貴方は素晴らしい特別な才能を持っています。どうかまた美しい音楽を聴かせてください。……その一杯とカードは私から貴方への投資です。』
ラファエロは去る彼女の気配を追った。
"テイラー・タランテラ"
ニューシャテリア・スワローテイル28番地
クモと燕尾服を着込んだ紳士のマークのカードにはそう記されていた。
やぁ、いらっしゃい。
ここは初めてかな？
そうかい。どうりで、初めて見る顔だ。
ガラガラだから適当に座ってくれ。
お客様はどんなレコードは何がお好みかな？
ふふふ♪ ……年代物の真空管に、最高のレコード達。ここの店は飲み物と一緒に好きな音楽を選んで貰うんだ。
あぁ、これかい？オススメの盤だ。
君はクラシックが好きなんだね。奇遇だね。ボクも好きさ。
ふふふ♪
ドリンクはアイス・コーヒーだったね？
〜♪♪♪♪〜♪♪♪♪〜♪……
あぁ、良い響きだ……。いやいや、失礼。つい夢中になってしまったね？
何処のオーケストラだって？
シューシャンク・フィルハーモニーさ。
聞かないオーケストラだって？
そうだね。このオーケストラは出所した元囚人達の更生を目的に作られた比較的新しいオーケストラなんだ。
指揮者は誰だって？ふふふ……気になるかい？
『スワローテイルの仕立て屋』
拍手の中、お辞儀をする"風変わりな指揮者"に小さな女の子から花束が贈られた。
指揮者はそのまま舞台袖に消えて、それでも鳴り止まない拍手にもう一度舞台に出ると、オーケストラのコンサートマスターに指示を出す。
もう一度、指揮棒を高らかに掲げるとアンコールに相応しい軽やかなマーチが鳴り響く。
それが指揮者、ラファエロ・カロ・オサニ・アケドのデビューだった。
短く爽やかなプレジデンシャルヘアー
180cmの長身
モデルのようなスラリとした手足
穏やかな黒い目に少々厚い唇と高い鼻を持つ笑顔が眩しい天使の名前を持つ色男だ。
そんな彼がなぜ"風変わりな指揮者"なのか？
それは彼の肌の色が黒いからだ。
ラファエロはアルカナ合衆国開拓時代、イスパール主神教国領に南の大陸から連れてこられた黒人奴隷の子孫である。
彼の父親はジャズの聖地ニュー・オランジェのジャズピアニストで理髪師であった。彼の店は理髪店でありジャズハウス。ラファエロは母親のお胎の中に居る頃から音楽と共に育った。
ラファエロが3歳の頃、父親からピアノの手解きを受けて間も無く、父親は彼に絶対音感と音楽への天才的才能があると見抜いた。
ラファエロが7歳になる頃にはステージでニュー・オランジェの才能あるジャズメンに混ざってピアノを弾いていた。
演奏を聴いていた父親は息子が自分を越えるであろう事と、その才能はピアノでは収まらないであろう事を予感し、そして、その予感は直ぐに的中する事になる。
ラファエロがクラシックに出会った。
テレビで流れたオーケストラのコンサートの番組の指揮者を見て、『アレをやってみたい！』と幼いラファエロが言ったのだった。
息子の才能を誰よりも理解し、信じていた父親は、ラファエロにクラシックのピアノと音楽理論を教える為に友人を頼り、ラファエロにレッスンをつけ、それと同時にテーブルマナーやエスコートを始めとする白人上流階級のマナーを身につけさせた。
彼は黒人であると言うハンディキャップを誰よりも理解していた。
父親は身を粉にして働き、努力の結果、ラファエロは白人の高校に入る事ができた。数年後、ラファエロは返済不要の授業料と生活費全額保証の奨学金を取り音楽の名門ジュリアス音楽院に入学した。
そこでラファエロは人生初の挫折を味わった。
黒人だからと言う理由で書類審査の段階でピアノ・コンテストを落とされたのだ。
それはどんなコンテストでも同じであった。
指揮科を受講するには、コンテストに出て一定以上の結果を出さなければならなかったのでラファエロは非常に焦っていた。
オサニ・アケド……南の大陸系の黒人の姓字。彼はそれで黒人だと判断され事前に排除されていたのだ。
この事は彼の学友達がコンテストの運営サイドに署名付きの抗議書を送る事で解決した。彼は一生の友となる学友に恵まれたのだ。
そうしてコンテストに出たラファエロは3位を獲得し(1位と2位は白人)、指揮科を受ける権利を手に入れたのだが、受難は続く。これは序章に過ぎなかったのだ。
指揮科の教授がラファエロを全く相手にしないのだ。そのくせに、試験ではどの生徒よりハイレベルな、異次元と言って良い事を要求された。
彼は試験に2度も落ちた。
ラファエロは認識を改めた。差別の無い先進的な考えは理想に過ぎず、確実にそれはそこに存在し、自分は差別を受ける側の人間である事を現実から理解した。その上で彼は音楽と共に生きる事を選んだ。
クラシックは西の大陸の白人上流階級の文化だ。
『身も心も完全なる紳士になりなさい。』
ラファエロは幼い日の父親の言葉を思い出した。
父親はクラシックの音楽家を目指す黒人の人種的ハンディキャップを理解し、また見越してラファエロに上流階級のマナーを教えたのだ。彼らのルールの下、ラファエロが立ち向かって行けるように。
それから、ラファエロは行動をした。最早手段は選んではいられない。
あらゆる時代、様式のオーケストラのスコアを細部に渡り憶え、図書館や美術館に眠る名指揮者達の名演を記録した記憶水晶(人工の水晶に映像と音声を記憶したビデオのような物)やレコードを聴きあさり、時には学友に借金をしてまで音楽劇場に通い詰め生の指揮とオーケストラを学んだ。
あらゆる技術、芸術の進歩は全て模倣から始まる。
ラファエロは歴史に名だたる指揮者達の技術をコピーしていき、やがて彼独自の指揮法を確立するに至った。
結果、皮肉にもラファエロを冷遇した指揮科の教授達は、彼の天才的才能を更に暴力的な迄に……神域へと開花させる事となった。
そして卒業が迫る頃、ラファエロは指揮者コンテストに参加した。
エントリーシートを馬鹿正直に書けばクラシック音楽界における権力者達はラファエロを排除しようとするだろう。
考えた末にラファエロはある有名な指揮者コンクールであるニューシャテリア・ミュージック・コンテスト指揮者部門に出ることにした。
一次審査と二次審査は人的不正の無い様にカーテン審査。本審査は審査員とオーケストラの団員が審査し、ファイルは演奏会形式で行われ、オーディエンスの投票によってグランプリが決められる。
ラファエロはそのコンテストに出場し、一次審査とニ次審査を問題なくクリアした。
『……なんで、黒人がいるのです！ジャズやゴスペルではなく、ここは崇高なクラシックのコンテストですよ！？？』
そう言ったのは審査員の女性だった。
当然、ラファエロは不正を疑われ、直ちにエントリーシート等、ラファエロの経歴を調べられた。そして、不正と疑われたひとつの問題が浮上したのだ。
『私は不正を行なっていません。このコンテストは黒人の参加を禁止してはいないはずです。違いますか？』
『では、何故正しい名前をエントリーシートの名前に書かないのですか？』
彼、ラファエロ・カロ・オサニ・アケドのエントリーシートにはラファエロ・カロとイスパール系の名前だけ書かれてあった。そう、コンテストの運営側の末端のスタッフは兎も角、審査員などは黒人が出ているとは夢にも思っていなかった。
『？それは嘘偽り無く私の正しい名前です。戸籍にも書かれております。敬虔な主神教信者として与えられた洗礼名です。将来、天の御国で名乗る大切な名前であるのです。』
恐らく、オサニ・アケドと書けば黒人として排除されていたであろう。ラファエロは紳士的にお辞儀をしながら心の中でほくそ笑んでいた。
人種差別するような白人はほぼ例外無く " 偏った過激な考えの " 西方主神教信者だ。
彼ら彼女らは神の名に弱い。神を絶対に否定出来ない。目の前の審査員の年増の女にラファエロの言葉を否定出来ない。
『もう良いではありませんか。少なくともラファエロ君は彼の実力で我々に選ばれ、このに残っておる。我々が選んだのだ。実力は認めるべきである。それに彼の言う通り、黒人だからなんだと言うんだ？』
『しかし、皆さん！』
『うーん……これ以上はぁ〜、貴女の能力と思想を疑う事になりますよぉ〜？うーん、40番のラファエロさんの演奏は凄く魅力的でした〜。美味し〜ぃのです〜。もっと聴きたいなぁ〜。』
どこにでもリベラルな方々は居る様で、審査員の壮年男性とリャナンシーの審査員がラファエロを庇護した。
『わかりました。……彼の参加を認めましょう。』
ラファエロは参加する権利を正当に認められた。
演奏間違い探しや初見曲の指揮、オーケストラリハーサルテストはもちろん、コンサート形式の試験でもトップで本選を通過。ファイルでは聴取のグランプリを獲得。その後、卒業後10月からマシューセッツ州ポスト市のオーケストラとの雇用契約を結び、各部門ファイリストのガラコンサートへの出演、デビューが決定。
このお話しは冒頭のシーンへ戻る。
華々しいガラコンサートでのデビューの翌日、ニューシャテリアタイムズ誌や音楽情報誌でラファエロは扱き下ろされていた。
酷いところでは
" 黒い猿が棒切れを持って指揮者の真似事 "
などと書かれてしまった。
この問題があった事で、スキャンダルを恐れたポストシティ・オーケストラはラファエロの契約を白紙に戻した。
卒業後、ラファエロはニューシャテリアのとある喫茶店兼バーでピアニストとして働きながら指揮の勉強を続けた。
転機は突然訪れた。3ヶ月後、降臨祭の差し迫ったある日、1本の電話がラファエロ宛に掛かってきた。
『……もしもし、ラファエロです。』
『こんにちは、ラファエロさん。私は弁護士のニナ・パーカーです。どうぞよろしく。』
『此方こそ。……それで、弁護士さんが私のような落ち目の指揮者に何を期待していますか？』
『折行って相談したい事があります。』
弁護士ニナ・パーカーからの申し出の内容はあるオーケストラを指揮者になってくれと言う内容だった。
後日、ラファエロは詳しい話を聞く為にパーカー氏に会う事になった。呼び出された所は……刑期を終えた犯罪者達の更生施設だった。
『本日はありがとう。……あなたがラファエロ・カロ・オサニ・アケドさん？』
待ち合い室で暫く待つと、深い紫色のスーツを着込んだサキュバスがラファエロの席にやって来た。
『はい、そうです。……あなたはニナ・パーカーさん？』
『ええ、そうよ。今日はありがとう。』
ラファエロとニナは握手を交わした。
『リネン・ベージュのスーツにボウタイ……。噂通り、身なりが良いから見つけるのに苦労しなかったわ。』
『ありがとう。光栄です。しかしパーカーさんこそ、モダン。電話で女性だと知っていましたが、こんなに素敵な方だとは思わなかった。』
『ふふふ……ありがとう。でも私はともかく、独身魔物娘にそう言う事は言わない方がいいわよ？さて……本題に入りましょう。よろしい？』
『はい。』
席に着くと、ニナは資料を閉じたファイルを開いて説明を始めた。
『……見ての通り、ここは過去に過ちを犯した人達の更生施設よ。主に軽犯罪者……窃盗や、暴力事件、麻薬の所持、販売、独身男性を狙っての誘拐、性犯罪とかのね。その殆どが人種・人魔を問わず、スラム地区出身者、ストリート・ギャングやマフィア関係者で貧困層。30%が男性で残り70%が独身女性や魔物娘。非常に高い再犯率で……おおよそ合衆国全体で48%だけど、軽犯罪に至っては68.7% 約3人に2人がまた罪を犯して刑務所に戻ってしまう。何故だかわかる？』
『経済的な理由と……社会的な理由でしょうか？』
『えぇ、その通りよ。経済的な理由は言わずもね。元々貧しい人が多いの。社会的な理由……これが厄介なの。前科持ちには仕事もまともに与えられない。企業も雇いたがらない。元犯罪者と言うレッテルが家族や友人の関係を壊して疎遠になる。支えてくれる夫もいない。ひとりぼっちよ。』
『えぇ、理解できます。』
『……お金もない、住む場所もままならない。簡単に行き詰まってしまう。そして何より、自分が社会にとって必要とされていない存在だと認識するようになってしまう。そうなると、再び犯罪に手を染める様になる。1番安易な例を挙げるとすると、例えばストリート・ギャングになったり、時にはマフィアの構成員になったりするの。そうなれば犯罪のループから抜け出せなくなる。』
『はい。……ですが、わからない事が一つ。ミセス・パーカー……』
『……ミス。ミスよ。ミス・パーカー。』
ニナはペンを持つ手で文字を書く様にそうラファエロに指摘した。
『失礼……ミス・パーカー、あなたは落ち目の黒人指揮者に何を期待しているのですか？』
なんと無くではあるが、ラファエロはこの件について、彼女からの要望を理解した。
『……シューシャンク刑務所では、実験的な更生プログラムとして懲役5年以下と出所5年を控えた受刑者を対象として、ベイスボール、フットボール、バスケット、陸上競技、ボクシング、レスリング、絵画、そしてクラシック音楽の教育をしているの。社会的な基盤、彼らにとって新しいコミュニティの構築、何より自分自身が社会にとって必要不可欠な存在だと認識してほしい。この更生プログラムには格ジャンルに合わせたその後の道を用意しているわ。』
『と言うと？』
ニナはこの言葉で、ラファエロがこちらの意図を既に理解していると確信した。もし、結露を急ぐタイプなら早く要点を教えろと言うだろう。興味自体が無い相手ならもう席を立っている。
『例えば……ボクシング。選手になる道は勿論、ジムトレーナーやテープマン、スポーツ医療従事者ね。』
『興味深いです。』
『……それで、クラシック音楽には楽器職人への道、舞台技術者、音響、ピアノの調律師、作曲家……そして演奏家の道。演奏家を目指す方には、受刑中に楽器と音楽理論のレッスンを。他にもアンサンブルや合奏。出所後にオーディションで一定以上の実力を持つ奏者はオーケストラに。あなたに振って欲しいオーケストラはそのオーケストラよ。……因みに報酬は政府から出るわ。』
『成る程……一つ質問しても？』
ラファエロの目はとても真剣だ。
『ええ、勿論。』
『……何故私なのですか？他にも良い指揮者はたくさんいます。』
『理由は3つ。１つ目はとてもシンプル。あなたの振るタクトが凄く魅力的だから。2つ目はそんな優秀な指揮者がヒマそうだから。3つ目は……女のカンよ。』
『女のカン？？』
ニナの言葉を聞いてラファエロは驚きを隠せなかった。
『えぇ、あなたがこのオーケストラの指揮を振れば全て上手くいくと思ったの。当たるのよ？』
しかし、当の彼女は至って真面目に誠実に答えてる。そうしか思えなかった。
『はははは！……失礼。パーカーさん、あなたは面白い方だ。……わかりました。どうせ行く宛の無い落ち目の指揮者です。存分に使ってください。』
『ありがとう！あなたならきっとOKしてくれると思ったわ！！』
2人は再び握手を交わした。
そうして、ラファエロはシューシャンク・フィル・ハーモニー管弦楽団の常任指揮者となった。
オーケストラのメンバーはクセ者だらけだった。
元マフィアにストリート・ギャング、指定魔界媚薬の密売人に、運び屋、車の違法ディーラー、その他もろもろバーゲンセール。
ラファエロは苦労しながらもオーケストラのメンバーをまとめ上げて、初の演奏会に臨んだ。
結果は散々だった。
コンサートの第二部、交響曲の最終章の1番緊張感が出る美しい静かなP(演奏記号。弱く)の場面で、舞台の照明が突如落ちてしまったのだ。
黒いタキシードに黒い肌のラファエロの指揮は闇に溶ける様に奏者から見えなくなってしまった。
照明が再び灯るまで、コンサートマスターが指揮の役割を引き受けてくれて演奏自体はどうにかなったが……。
『……ボス。お待ちください。』
肩を落とし楽屋を後にするラファエロに声を掛けたのは件のコンサートマスターだ。ダークグレーのスーツを着こなすインキュバスの少年は元マフィアのボス。ミケーレ・ジュノヴェーゼ、年齢不明のロマーナ系。1stヴァイオリンのハイオーク、カルメッラ・コンスタンチ以下ヴァイオリンパートは彼の配下(ファミリー)だ。
『おかしと思いました。……カルメッラ！！！』
カルメッラに連れてこられたのはホールの照明スタッフだった。
『締め上げたら、あっさり教えてくれましたよ。……なぁ、もう一度説明してくれよ……オレはあんまり気が長い方じゃねぇんだ……。』
『ひ、ひぃ…………。わ、わかった。……音楽事務所の社長だって女が来て……ク、クラシックは白人の物だって……金を渡されて……。す、すみませんでしたっ！！！』
ミケーレは葉巻を咥え、マッチで火をつけるとゆっくりとため息を吐いた。
『だそうです。……この馬鹿な男をどうしますか？家族もろもろ地下スラムのデビルバグ共の慰みモノにでも……』
『良いんだ！……良いんだ……。慣れてるさ。またベストを尽くそう。済まないが、今は独りにしてほしい。』
『ボス……。』
そう言ってラファエロは会場を後にした。
カラン……と冷たい音色の氷がグラスの中で揺れる。
ラファエロはその夜、とある喫茶店兼バーで独りウィスキーを飲んでいた。
すると、隣りに女性が腰掛けた。
『40番のラファエロ・カロさん。今日は実にエレガンテな演奏でした。』
『あなたは……』
その女性はあの時オーディションの本選でラファエロを排除しようとした審査員だった。
『お久しぶりです。まさか、更生社会復帰プログラムで奏者が組織された、しかも黒人が指揮者の色物オーケストラでこの様な演奏が聴けるとは思いませんでした。感嘆に値します。』
『本日はご拝聴頂き、ありがとうございます。しかし……』
『えぇ……貴方の敵は多いと言わざるおえません。如何に素晴らしい指揮を振ろうとそれを認めたく無い人達がいます。……かつての私のように。』
『…………私は自分の人種の事を……ハンディキャップを理解しているつもりでした。甘かったのです。』
『えぇ。……厳しいようですが、貴方の甘さは "奏者への配慮" を怠りました。どんな素晴らしいタクトも奏者に見えなくては意味がありませんね。』
『仰っる通りです。』
『貴方にコレを。』
すると彼女は1枚のカードを出した。
『……仕立て屋……の紹介カード……？』
『一流の舞台俳優、女優を始め、ヴァイオリニストやピアニスト、器楽演奏家、そして指揮者がここで衣装を作っています。……貴方には、どんな困難な状況でもベストを尽くして頂きたい。その力を衣装が与えてくれます。』
『何故、私にそのようにしてくれるのですか？……あなたは私がてっきり嫌いかと……。』
『……素晴らしい音楽の前では、人種や出自や人間か魔物娘かなんてどうでも良い事だと私は貴方から学びました。貴方は素晴らしい特別な才能を持っています。どうかまた美しい音楽を聴かせてください。……その一杯とカードは私から貴方への投資です。』
ラファエロは去る彼女の気配を追った。
"テイラー・タランテラ"
ニューシャテリア・スワローテイル28番地
クモと燕尾服を着込んだ紳士のマークのカードにはそう記されていた。
20/07/28 17:55更新 / francois
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