くれいじーふぉーゆー
くれいじーふぉーゆー

はてさて、どうしたものか。
僕が優柔不断であり、流されやすい性格だと言うのは明白の事実であり、自分でも自覚している。
話は今日の昼に遡る。
『あなたいったい何なのよっ！！私の旦那様を付け回してどう言うつもり！！？？』
……土曜日。休みに街中をぶらぶら歩いていると平和な昼下がりには似つかない大きな声が聞こえて来た。
どうやら白昼堂々と修羅場が展開されているようのだ。野次馬達が何の騒ぎだ？とぞろぞろと集まった。僕もその中の1人だ。どうやらさっきの怒鳴り声の主はあの白蛇さんみたいだ。
『あ、あのっ……そのっ……』
ん？あれ？？
間違いない。白蛇さんに詰め寄られているのは、同じゼミの倉井先輩だ。先輩はゲイザーである。
『何とか言いなさいよっ！！！』
ひゅっ……
『ひっ！！』
ばっちーーーーん☆
『ゲフゥ！！！』
どんがらがっしゃーーん。
身体が宙を1回転、2回転。近くのお店の看板に激突。
痛い。凄く痛い。
考えるより早く身体が動いてしまった。つい割って入ったはいいものの、白蛇さんの尻尾のビンタを思いっきり受けてしまった。
もう一度言おう。痛い。すごーく痛い。
『えっ？ちょっと何！？なんなの！？』
白蛇さんが混乱しているようだ。うん、まぁ、そうだよね。しめしめ……
『痛たた……先輩、ここにいたんですか？』
『え……？』
先輩も混乱してる。うん。
(いいから話を合わせてください。)
『あ……う、うん。』
先輩に小声で耳打ちをすると、涙目の先輩はか細い声でうなずいてくれた。
『すいません、先輩は僕と待ち合わせで……。これからデートなんで、失礼します。』
『え？ちょっと！？』
僕は倉井先輩の手を掴んで修羅場を逃げ出した。
。
。
。
『で、どうしたんですか先輩？』
その後、大きな一つ目とだらんとしょぼくれた後ろの触手達の目に涙を滲ませている倉井先輩を放っては置けず……
『……嫌な事あったんでしたら、パーッと飲みましょう。』
……と言ってしまい、彼女と居酒屋へけし込んだのだ。
テーブルに並ぶのはお通しの枝豆、ビール２つに、ポテサラ、出汁巻き卵、焼き鳥セット。お酒を飲み始めると先輩はポツリポツリと何があったのか話してくれた。
どうやら先輩は昼間の白蛇さんの夫さんを好きになってしまって、彼をストーキングしていたらしい。で、暗示を掛けようとした所であの白蛇さんが出て来たと言うわけだ。
よりにもよって白蛇さんである。魔物娘の中でもラミア種さん達の嫉妬深さと恋人さんや夫さんへの執着は無類だ。その中でも白蛇さんは最強で最恐で最凶である。
よりにもよって先輩はその白蛇の夫さんに手を出そうとしたのだ。嫉妬の炎を燃やし、怒り狂うのは想像に難くない。
下手をすれば辺り一面焼け野原である。
あと、白蛇さんの夫さん……ドンマイ。あなたの尊い犠牲は忘れない。いやホントホント。
『でね？それで……って聞いてる？』
『……聞いてますよ。』
はぁ……正直、少し後悔している。
白蛇さんに尻尾で殴られてまで助けた先輩に、今まで聞いた話し(継続中)は白蛇さんの夫さんとの出会いから、彼がいかにカッコいいか、彼がいかに魅力的な男性かと言う話出である。平々凡々の容姿で、これまた平々凡々の人生しか送って来なかった自分とは大違いである。
(その人の事、本当に好きだったんだなぁ…………)
『聞いてるの？』
『あー、はいはい。なんでしょうか？』
『…………愛原君は好きな人か魔物娘、いるの？』
お酒ですこし頬を赤くした倉井先輩がヘラヘラと笑いながら無邪気にそんな事を聞いてくる。
『………………。』
僕は黙ってグラスの底に残ったビールを飲み干した。
僕、愛原・進(アイハラ・ススム)は先輩に……倉井・加子(クライ・カコ)に憧れているんだ。
倉井先輩はゲイザーと言う魔物娘だ。
10数年前、僕がうんと子供の頃、異世界ゲートが出来て魔物娘と呼ばれる存在がゲートの向こう側からやって来た。彼女達は異世界からこっちの世界に移住したり、逆にこっちの世界の人が向こうの世界に移住したり、俗に言う異世界交流が始まった。
そして数年前、僕が高校生2年の時に倉井先輩に出会った。
たぶん、一目惚れだった。
異世界交流で、僕の通っていた学校は20名弱の魔物娘の留学生を受け入れたんだ。
初めて先輩を見た時、しなやかな黒い髪、白い肌、宝石の様なひとつ目の瞳に心を奪われた。目の付いた背中の黒い無数の触手も不思議な可愛さがある。
すこし影があって、すこし変わっていて、でも何処か抜けた所が……素敵だと思った。
魔物娘の留学生が来てから、僕の周りの学友達は魔物娘とカップルになったり、魔物娘になった女の子もいる。男子生徒が女子になったのには驚いた。
僕自身はと言うと……先輩に告白する勇気が出せずにただ悶々と高校生活を送っていたのだ。
倉井先輩は学年一つ上で、したがって当然先に卒業して大学に進学してしまった。名門K大学だ。
で、先輩に告白出来なかった事を猛烈に後悔した僕は、先輩と同じ大学に入るべく猛勉強をした。我ながら凄く頑張った。結果として2年前、先輩と同じK大学に入る事が出来た。
それから先輩と同じゼミに入った……は良いが、ゼミで先輩の近くに居られる居心地の良さと、大学特有のゆるいニンゲン関係を維持するべく事に全力を注ぎ、現状に甘え続け、完全に告白するタイミングを失ってしまっていたのだ。
そして今日、この日、この騒動でヘタレな僕の灰色の青春のシミったれた初恋は見事にコナゴナになってしまったと言う訳だ。僕のプライドはボロ雑巾よりもひどい有様になっている。
『すみませーーん、生ビール追加でー』
『あ、私も生で。』
はーい！……と店員さんの元気な声が聞こえてくる。
あーぁ……僕の元気はどこえやら。
泣くほど辛い訳ではないが、後悔せずにいられない。そんな理由で飲まずにはいられない。
『……イイヒトはそのうち。そのうちですよ。』
『ふーん。ま、いいや……それでね？………………』
頂きました！ま、いいや……
そんな心中を知ってか知らずか先輩も追加のお酒を追加して、話を続けた。
僕の初恋がコナゴナから更にミキサーにかけられて砂の様になった頃、先輩はベロベロに酔っ払っていた。
目玉付き触手ちゃん達もへべれけである。目が座っている。
『ほら、先輩。帰りますよー？』
『だーかーらー！聞いてるのー？？ひっく！』
うわ、めんどくさー。
先輩は酒癖が悪い。そのめんどくさい先輩を担いで、深夜、駅を目指して歩き出す。
僕の方は酔いたくても酔えない。体質なのかも知れないが、今日は特にそうだ。
尤も、お酒には強い方で、この手の面倒には慣れている。ゼミの歓送迎会や打ち上げに潰れないからと幹事や戦争(飲み会)後の事後処理部隊として駆り出される事がしばしばあるのだ。……それはもう屍累々である。
『うぷっ……気持ち悪い……』
そらきた。思った側からすぐコレだ。
大抵の場合、飲み屋街や駅の近くには公園が隣接している。急いで移動して、なんとか近くのトイレに駆け込む事が出来た。
『うぅ"ーーー…………。』
洗面器で項垂れる先輩の背中をさする。因みに、詰まるとアレなので水は出っ放しにしてある。
じゃーーーーーー……………
『はいはい。我慢しないで吐いちゃいましょうねーー。』
『う"っ……;:*。・;: `:；.･`;:..･ :;.･ `:;.･*.・:； .･:;`:; 』
あー……僕の初恋返して下さい。
『まだ、出そうですかー？』
コクリと先輩はうなずいた。なんだかもう、ため息しか出ない。
『水買って来ますから、先輩は吐いててくださーい。』
その時、先輩が僕の手を掴んだ。
『……いかないで、側にいて……ゔぅ……』
『あー……はいはい。』
そう言われ、僕は先輩の背中をさすり続ける。
『……本当は分かってるんだ。あんな事してもダメだったて事は。あの人が奥さんを本当に一途に愛してる事も、私が好きになったのは奥さんを一途に愛するあの人だって事も……暗示でどうにかしてもどうにもならない事も、全部全部分かってる……。』
先輩は大粒の涙を出して泣き始めてしまった。
『……先輩にも、いつかイイヒトが現れますよ。』
『現れっこない！……ひとつ目で……ネクラで……ウジウジしてて……私が大嫌いな私を好きになってくれるヒトなんかっ…………無理だよ……』
『でも先輩……』
『じゃあ、愛原君が私を慰めてよ！！』
『……え？』
『もう終電も行っちゃった…………。』
さて、こんな感じで状況はこの話しの冒頭に戻る。
先輩をそのまま放っておく事も出来ず、状況に流されるままに、行き着く所に辿り着いてしまった。ラブホテルである。
ザァァーーー…………
ホテルのシャワーを浴びながら、頭の中で傷心の先輩につけ込んだ言い訳を並べ始める。そんな自分に気が付いた時、熱いはずのシャワーのお湯が冷たく感じた。
すぐ壁を挟んだベッドルームには先にシャワー浴びた先輩が待っている。
キュッ……
蛇口を捻って、お湯を止めて簡素な脱衣所で身体を拭き、バスタオルを腰に巻いてベッドルームに行く。
『おかえり……』
バスタオルを胸に巻き付けた先輩が大きなベッドにペタンと座っていた。シャワーのせいか肌が桜色をしていていつにも増して綺麗で可愛い。
『あの……先輩。凄く綺麗です。』
『い、いいから！……早くこっちに来なさいよ……』
僕は誘われるがまま、それこそ誘蛾灯に誘われる羽虫のようにふらふらと先輩の隣に腰掛けた。
先輩からは甘い匂いがして、暫く無言の空気が流れて、でもそれは唐突に終わった。
『ねぇ……キス……して……。』
自分の心臓の音がうるさい。先輩の顔が
ちゅ……
唇と唇が触れ合った時に先輩の肩が一瞬こわばった。
『ーーっ……』
顔を離すと先輩の目から涙が溢れていた。
僕の人生初めてのキスはすこししょっぱい味がした。
これから"すること"への期待と少しの罪悪感で胸が締め付けられる。
キスが終わると先輩はそのままポスンと後ろに倒れた。たぶん、好きにしてイイよと言う意味だろうけど、なにぶんこう言った機会に恵まれなかった彼女いない歴＝年齢の人生である。つまり童貞。どうすれば良いかわからない。
考えた挙句、これからの行為の邪魔になりそうなバスタオルをどける事にした。
はらり……
おっふっ……
凄く綺麗……
ブパッ……！い、いかん、鼻血が。
『んっ……ぁ……』
先輩の身体に恐る恐る壊さないように触れる。お腹から胸へ、それから首へと。それはまるで絹のように滑らかで、ずっと触っていたくなる。
先輩がとても可愛いくて、愛おしくて……お腹や腕、腋や胸、首筋にキスをした。
時々先輩はピクリと身体を捩らせた。
それがとても嬉しい。
先輩の身体の所々を黒いゼリーの様な膜の様な不思議なモノが覆っている。乳首と……そして、先輩の大事なところ。
ペリペリ……と黒い不思議物質をめくっていく。
『……ーーっぁ』
先輩の大事なところが全て曝け出された。濡れていて、とても綺麗だ。
雄としての本能が、"この雌と愛を成せ"と叫んでいる。
僕のはもう痛い程ギンギンになっている。
『……先輩…………』
先輩の大事なところに僕のをあてがう。
その時……。
『ごめんね……やっぱり、怖いよ。』
『……へっ？』
キィィィン…………
『……こんな、キモチワルイひとつ目の私より、愛原君にはもっとイイヒトがいるよ。』
『そんな事無いっ！！』
その時、先輩が……僕の1番聞きたくない事を言ったんだ。
拒絶されるのは……しょうがない。
でも、自分を卑下するのは違うでしょうに。
惚れた女のヒトにそんな事言って欲しくない。
『なんで……なんで暗示が効かないの？』
先輩の目が光った気がするけど、今はそんな事はどうでもいい。
『……僕を見ろ！そのでっかい目で僕を見ろっ！これが、アンタに惚れた男の顔だ！！』
考えるより叫んでいた。
『へっ？』
『自分でも情け無いよ。高校にやって来てからずっとずっと好きで……でも告白出来なくて。後悔して、先輩を追いかけて同じ大学入って、同じゼミ入って、でも怖くて、好きだって言えなくて……臆病で、冴えなくで、情け無くて、卑怯で……僕は僕が嫌いで、誇れなくて、でも……でも……先輩が好きなんだ！！だから……だから僕を見ろ……僕を……』
ちゅっ……
先輩が僕の言葉を遮って、文字通り口を塞いだ。
『私は……ひとつ目のオバケみたいで、ネクラで、ウジウジしてて、愛原君の優しさに付け入る様なサイテーな女の子だよ？……それでもいい？後悔しない？』
『しない！！』
『面倒くさいと思うよ？』
『わかってる。』
『泣き虫だよ？』
『ドンとこい。』
『ホントにホントに後悔しない？』
『先輩じゃなきゃ嫌だ。』
『……ぷっ、あはははは！……ホントもの好きだね。でも……愛原君だったら……いいよ。』
先輩はそう言うと、自分の大事な所を指で広げて開いてくれた。
僕はもう一度あてがって、ゆっくりと腰を鎮めた。
ツプッ……
『うっ……。』
『いっ……あっ❤……』
先輩と僕が繋がった所から赤い一筋の滴が落ちる。
『先輩！！』
『大丈夫……君は優しいね……。痛くないよ。でも、もう少しこのままぎゅっとして欲しい……かな。』
そう言った泣き虫な先輩の宝石の様な瞳からは、星粒のような綺麗な涙が溢れていた。
僕は先輩の頭と背中に手を回して華奢な先輩を抱きしめる。
気持ち良くて
いい匂いがして
柔らかくて
嬉しくて
愛おしくて……
先輩もそうだと良いな……
頭を撫でながら、額にキスして唇にも。
先輩の舌と僕の舌が絡まって
いつの間にか先輩の手が僕の背中に
しあわせで……しあわせで……
頭の中が蕩けていく
くちゅっ……じゅっ……
何時からか腰を動かしていた
熱くて、トロトロで絡み付いてくる
『あっ❤……やっ❤……あ❤❤』
『はぁ………くっ……….ふ…….』
吐息と小さな声とがかさなる
ぱちゅん……ずちゅ……ぱちゃ……
だんだんと……
ぱち……ぱん……ぱん
だんだんと……
ぱん……ぱん…ぱん…
早くなっていく鼓動と事情
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん
『はぁ❤あ、あ、あ、あっ❤は❤』
『はぁー……は、はっ、はっ、は 』
もっと強く繋がりたくて
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん
『は❤あ、愛原っ❤愛原くんっ❤』
『先輩っ……はぁ…..せ、先輩！！』
もっと近くに感じたくて
もっと愛したくて
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん……
気持ちが、心が加速していく
『先輩っ！！先輩！！！』
『お、お願い❤名前で……名前を呼んで』
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん
『……カコ！！ カコっ！！』
『嬉しい❤嬉しいよぉ〜！』
カコが僕の腰に足と触手を回して抱きついた。
どちゅっっっ…………
それがトドメになった。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク
『『ーーーーーーーー！！！！！！』』
……………………
…………………
………………
…………
……
力が入らない。
精根尽き果てた僕は先輩に抱きついてのし掛かったまま動けなかった。
『先輩……重くないですか？』
『……重いよ…………』
『ご、ごめんなさい。……いまどきま』
ぎゅっ……
『今はこの重みが嬉しいの…………』
ちゅ…………
そうして、僕は先輩にのし掛かって抱きついたまま、睡魔に身を任せた。
先輩の綺麗な瞳がこの夜の僕の最後の記憶になった。
……………………
…………………
………………
…………
……
チュンチュン……チュン……チュンチュン……
うん、コレは俗に言う朝チュンと言うやつですね？そうですね？
と、目を覚ますと先輩が毛布にくるまっていた。
『あ、あの……おはようございます。先輩。』
『……おはよう。』
少し……いや、だいぶ顔を赤くした先輩が目を逸らしながらぶっきらぼうにそう答えた。
『あ、あの……こっちを見てください。』
『……いゃ……ぁ……想い出し……ちゃ……ぅ……からっ……』
かわいい…………
この日から、僕と先輩は恋人同士になった。
おわり。

はてさて、どうしたものか。
僕が優柔不断であり、流されやすい性格だと言うのは明白の事実であり、自分でも自覚している。
話は今日の昼に遡る。
『あなたいったい何なのよっ！！私の旦那様を付け回してどう言うつもり！！？？』
……土曜日。休みに街中をぶらぶら歩いていると平和な昼下がりには似つかない大きな声が聞こえて来た。
どうやら白昼堂々と修羅場が展開されているようのだ。野次馬達が何の騒ぎだ？とぞろぞろと集まった。僕もその中の1人だ。どうやらさっきの怒鳴り声の主はあの白蛇さんみたいだ。
『あ、あのっ……そのっ……』
ん？あれ？？
間違いない。白蛇さんに詰め寄られているのは、同じゼミの倉井先輩だ。先輩はゲイザーである。
『何とか言いなさいよっ！！！』
ひゅっ……
『ひっ！！』
ばっちーーーーん☆
『ゲフゥ！！！』
どんがらがっしゃーーん。
身体が宙を1回転、2回転。近くのお店の看板に激突。
痛い。凄く痛い。
考えるより早く身体が動いてしまった。つい割って入ったはいいものの、白蛇さんの尻尾のビンタを思いっきり受けてしまった。
もう一度言おう。痛い。すごーく痛い。
『えっ？ちょっと何！？なんなの！？』
白蛇さんが混乱しているようだ。うん、まぁ、そうだよね。しめしめ……
『痛たた……先輩、ここにいたんですか？』
『え……？』
先輩も混乱してる。うん。
(いいから話を合わせてください。)
『あ……う、うん。』
先輩に小声で耳打ちをすると、涙目の先輩はか細い声でうなずいてくれた。
『すいません、先輩は僕と待ち合わせで……。これからデートなんで、失礼します。』
『え？ちょっと！？』
僕は倉井先輩の手を掴んで修羅場を逃げ出した。
。
。
。
『で、どうしたんですか先輩？』
その後、大きな一つ目とだらんとしょぼくれた後ろの触手達の目に涙を滲ませている倉井先輩を放っては置けず……
『……嫌な事あったんでしたら、パーッと飲みましょう。』
……と言ってしまい、彼女と居酒屋へけし込んだのだ。
テーブルに並ぶのはお通しの枝豆、ビール２つに、ポテサラ、出汁巻き卵、焼き鳥セット。お酒を飲み始めると先輩はポツリポツリと何があったのか話してくれた。
どうやら先輩は昼間の白蛇さんの夫さんを好きになってしまって、彼をストーキングしていたらしい。で、暗示を掛けようとした所であの白蛇さんが出て来たと言うわけだ。
よりにもよって白蛇さんである。魔物娘の中でもラミア種さん達の嫉妬深さと恋人さんや夫さんへの執着は無類だ。その中でも白蛇さんは最強で最恐で最凶である。
よりにもよって先輩はその白蛇の夫さんに手を出そうとしたのだ。嫉妬の炎を燃やし、怒り狂うのは想像に難くない。
下手をすれば辺り一面焼け野原である。
あと、白蛇さんの夫さん……ドンマイ。あなたの尊い犠牲は忘れない。いやホントホント。
『でね？それで……って聞いてる？』
『……聞いてますよ。』
はぁ……正直、少し後悔している。
白蛇さんに尻尾で殴られてまで助けた先輩に、今まで聞いた話し(継続中)は白蛇さんの夫さんとの出会いから、彼がいかにカッコいいか、彼がいかに魅力的な男性かと言う話出である。平々凡々の容姿で、これまた平々凡々の人生しか送って来なかった自分とは大違いである。
(その人の事、本当に好きだったんだなぁ…………)
『聞いてるの？』
『あー、はいはい。なんでしょうか？』
『…………愛原君は好きな人か魔物娘、いるの？』
お酒ですこし頬を赤くした倉井先輩がヘラヘラと笑いながら無邪気にそんな事を聞いてくる。
『………………。』
僕は黙ってグラスの底に残ったビールを飲み干した。
僕、愛原・進(アイハラ・ススム)は先輩に……倉井・加子(クライ・カコ)に憧れているんだ。
倉井先輩はゲイザーと言う魔物娘だ。
10数年前、僕がうんと子供の頃、異世界ゲートが出来て魔物娘と呼ばれる存在がゲートの向こう側からやって来た。彼女達は異世界からこっちの世界に移住したり、逆にこっちの世界の人が向こうの世界に移住したり、俗に言う異世界交流が始まった。
そして数年前、僕が高校生2年の時に倉井先輩に出会った。
たぶん、一目惚れだった。
異世界交流で、僕の通っていた学校は20名弱の魔物娘の留学生を受け入れたんだ。
初めて先輩を見た時、しなやかな黒い髪、白い肌、宝石の様なひとつ目の瞳に心を奪われた。目の付いた背中の黒い無数の触手も不思議な可愛さがある。
すこし影があって、すこし変わっていて、でも何処か抜けた所が……素敵だと思った。
魔物娘の留学生が来てから、僕の周りの学友達は魔物娘とカップルになったり、魔物娘になった女の子もいる。男子生徒が女子になったのには驚いた。
僕自身はと言うと……先輩に告白する勇気が出せずにただ悶々と高校生活を送っていたのだ。
倉井先輩は学年一つ上で、したがって当然先に卒業して大学に進学してしまった。名門K大学だ。
で、先輩に告白出来なかった事を猛烈に後悔した僕は、先輩と同じ大学に入るべく猛勉強をした。我ながら凄く頑張った。結果として2年前、先輩と同じK大学に入る事が出来た。
それから先輩と同じゼミに入った……は良いが、ゼミで先輩の近くに居られる居心地の良さと、大学特有のゆるいニンゲン関係を維持するべく事に全力を注ぎ、現状に甘え続け、完全に告白するタイミングを失ってしまっていたのだ。
そして今日、この日、この騒動でヘタレな僕の灰色の青春のシミったれた初恋は見事にコナゴナになってしまったと言う訳だ。僕のプライドはボロ雑巾よりもひどい有様になっている。
『すみませーーん、生ビール追加でー』
『あ、私も生で。』
はーい！……と店員さんの元気な声が聞こえてくる。
あーぁ……僕の元気はどこえやら。
泣くほど辛い訳ではないが、後悔せずにいられない。そんな理由で飲まずにはいられない。
『……イイヒトはそのうち。そのうちですよ。』
『ふーん。ま、いいや……それでね？………………』
頂きました！ま、いいや……
そんな心中を知ってか知らずか先輩も追加のお酒を追加して、話を続けた。
僕の初恋がコナゴナから更にミキサーにかけられて砂の様になった頃、先輩はベロベロに酔っ払っていた。
目玉付き触手ちゃん達もへべれけである。目が座っている。
『ほら、先輩。帰りますよー？』
『だーかーらー！聞いてるのー？？ひっく！』
うわ、めんどくさー。
先輩は酒癖が悪い。そのめんどくさい先輩を担いで、深夜、駅を目指して歩き出す。
僕の方は酔いたくても酔えない。体質なのかも知れないが、今日は特にそうだ。
尤も、お酒には強い方で、この手の面倒には慣れている。ゼミの歓送迎会や打ち上げに潰れないからと幹事や戦争(飲み会)後の事後処理部隊として駆り出される事がしばしばあるのだ。……それはもう屍累々である。
『うぷっ……気持ち悪い……』
そらきた。思った側からすぐコレだ。
大抵の場合、飲み屋街や駅の近くには公園が隣接している。急いで移動して、なんとか近くのトイレに駆け込む事が出来た。
『うぅ"ーーー…………。』
洗面器で項垂れる先輩の背中をさする。因みに、詰まるとアレなので水は出っ放しにしてある。
じゃーーーーーー……………
『はいはい。我慢しないで吐いちゃいましょうねーー。』
『う"っ……;:*。・;: `:；.･`;:..･ :;.･ `:;.･*.・:； .･:;`:; 』
あー……僕の初恋返して下さい。
『まだ、出そうですかー？』
コクリと先輩はうなずいた。なんだかもう、ため息しか出ない。
『水買って来ますから、先輩は吐いててくださーい。』
その時、先輩が僕の手を掴んだ。
『……いかないで、側にいて……ゔぅ……』
『あー……はいはい。』
そう言われ、僕は先輩の背中をさすり続ける。
『……本当は分かってるんだ。あんな事してもダメだったて事は。あの人が奥さんを本当に一途に愛してる事も、私が好きになったのは奥さんを一途に愛するあの人だって事も……暗示でどうにかしてもどうにもならない事も、全部全部分かってる……。』
先輩は大粒の涙を出して泣き始めてしまった。
『……先輩にも、いつかイイヒトが現れますよ。』
『現れっこない！……ひとつ目で……ネクラで……ウジウジしてて……私が大嫌いな私を好きになってくれるヒトなんかっ…………無理だよ……』
『でも先輩……』
『じゃあ、愛原君が私を慰めてよ！！』
『……え？』
『もう終電も行っちゃった…………。』
さて、こんな感じで状況はこの話しの冒頭に戻る。
先輩をそのまま放っておく事も出来ず、状況に流されるままに、行き着く所に辿り着いてしまった。ラブホテルである。
ザァァーーー…………
ホテルのシャワーを浴びながら、頭の中で傷心の先輩につけ込んだ言い訳を並べ始める。そんな自分に気が付いた時、熱いはずのシャワーのお湯が冷たく感じた。
すぐ壁を挟んだベッドルームには先にシャワー浴びた先輩が待っている。
キュッ……
蛇口を捻って、お湯を止めて簡素な脱衣所で身体を拭き、バスタオルを腰に巻いてベッドルームに行く。
『おかえり……』
バスタオルを胸に巻き付けた先輩が大きなベッドにペタンと座っていた。シャワーのせいか肌が桜色をしていていつにも増して綺麗で可愛い。
『あの……先輩。凄く綺麗です。』
『い、いいから！……早くこっちに来なさいよ……』
僕は誘われるがまま、それこそ誘蛾灯に誘われる羽虫のようにふらふらと先輩の隣に腰掛けた。
先輩からは甘い匂いがして、暫く無言の空気が流れて、でもそれは唐突に終わった。
『ねぇ……キス……して……。』
自分の心臓の音がうるさい。先輩の顔が
ちゅ……
唇と唇が触れ合った時に先輩の肩が一瞬こわばった。
『ーーっ……』
顔を離すと先輩の目から涙が溢れていた。
僕の人生初めてのキスはすこししょっぱい味がした。
これから"すること"への期待と少しの罪悪感で胸が締め付けられる。
キスが終わると先輩はそのままポスンと後ろに倒れた。たぶん、好きにしてイイよと言う意味だろうけど、なにぶんこう言った機会に恵まれなかった彼女いない歴＝年齢の人生である。つまり童貞。どうすれば良いかわからない。
考えた挙句、これからの行為の邪魔になりそうなバスタオルをどける事にした。
はらり……
おっふっ……
凄く綺麗……
ブパッ……！い、いかん、鼻血が。
『んっ……ぁ……』
先輩の身体に恐る恐る壊さないように触れる。お腹から胸へ、それから首へと。それはまるで絹のように滑らかで、ずっと触っていたくなる。
先輩がとても可愛いくて、愛おしくて……お腹や腕、腋や胸、首筋にキスをした。
時々先輩はピクリと身体を捩らせた。
それがとても嬉しい。
先輩の身体の所々を黒いゼリーの様な膜の様な不思議なモノが覆っている。乳首と……そして、先輩の大事なところ。
ペリペリ……と黒い不思議物質をめくっていく。
『……ーーっぁ』
先輩の大事なところが全て曝け出された。濡れていて、とても綺麗だ。
雄としての本能が、"この雌と愛を成せ"と叫んでいる。
僕のはもう痛い程ギンギンになっている。
『……先輩…………』
先輩の大事なところに僕のをあてがう。
その時……。
『ごめんね……やっぱり、怖いよ。』
『……へっ？』
キィィィン…………
『……こんな、キモチワルイひとつ目の私より、愛原君にはもっとイイヒトがいるよ。』
『そんな事無いっ！！』
その時、先輩が……僕の1番聞きたくない事を言ったんだ。
拒絶されるのは……しょうがない。
でも、自分を卑下するのは違うでしょうに。
惚れた女のヒトにそんな事言って欲しくない。
『なんで……なんで暗示が効かないの？』
先輩の目が光った気がするけど、今はそんな事はどうでもいい。
『……僕を見ろ！そのでっかい目で僕を見ろっ！これが、アンタに惚れた男の顔だ！！』
考えるより叫んでいた。
『へっ？』
『自分でも情け無いよ。高校にやって来てからずっとずっと好きで……でも告白出来なくて。後悔して、先輩を追いかけて同じ大学入って、同じゼミ入って、でも怖くて、好きだって言えなくて……臆病で、冴えなくで、情け無くて、卑怯で……僕は僕が嫌いで、誇れなくて、でも……でも……先輩が好きなんだ！！だから……だから僕を見ろ……僕を……』
ちゅっ……
先輩が僕の言葉を遮って、文字通り口を塞いだ。
『私は……ひとつ目のオバケみたいで、ネクラで、ウジウジしてて、愛原君の優しさに付け入る様なサイテーな女の子だよ？……それでもいい？後悔しない？』
『しない！！』
『面倒くさいと思うよ？』
『わかってる。』
『泣き虫だよ？』
『ドンとこい。』
『ホントにホントに後悔しない？』
『先輩じゃなきゃ嫌だ。』
『……ぷっ、あはははは！……ホントもの好きだね。でも……愛原君だったら……いいよ。』
先輩はそう言うと、自分の大事な所を指で広げて開いてくれた。
僕はもう一度あてがって、ゆっくりと腰を鎮めた。
ツプッ……
『うっ……。』
『いっ……あっ❤……』
先輩と僕が繋がった所から赤い一筋の滴が落ちる。
『先輩！！』
『大丈夫……君は優しいね……。痛くないよ。でも、もう少しこのままぎゅっとして欲しい……かな。』
そう言った泣き虫な先輩の宝石の様な瞳からは、星粒のような綺麗な涙が溢れていた。
僕は先輩の頭と背中に手を回して華奢な先輩を抱きしめる。
気持ち良くて
いい匂いがして
柔らかくて
嬉しくて
愛おしくて……
先輩もそうだと良いな……
頭を撫でながら、額にキスして唇にも。
先輩の舌と僕の舌が絡まって
いつの間にか先輩の手が僕の背中に
しあわせで……しあわせで……
頭の中が蕩けていく
くちゅっ……じゅっ……
何時からか腰を動かしていた
熱くて、トロトロで絡み付いてくる
『あっ❤……やっ❤……あ❤❤』
『はぁ………くっ……….ふ…….』
吐息と小さな声とがかさなる
ぱちゅん……ずちゅ……ぱちゃ……
だんだんと……
ぱち……ぱん……ぱん
だんだんと……
ぱん……ぱん…ぱん…
早くなっていく鼓動と事情
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん
『はぁ❤あ、あ、あ、あっ❤は❤』
『はぁー……は、はっ、はっ、は 』
もっと強く繋がりたくて
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん
『は❤あ、愛原っ❤愛原くんっ❤』
『先輩っ……はぁ…..せ、先輩！！』
もっと近くに感じたくて
もっと愛したくて
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん……
気持ちが、心が加速していく
『先輩っ！！先輩！！！』
『お、お願い❤名前で……名前を呼んで』
ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん
『……カコ！！ カコっ！！』
『嬉しい❤嬉しいよぉ〜！』
カコが僕の腰に足と触手を回して抱きついた。
どちゅっっっ…………
それがトドメになった。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク
『『ーーーーーーーー！！！！！！』』
……………………
…………………
………………
…………
……
力が入らない。
精根尽き果てた僕は先輩に抱きついてのし掛かったまま動けなかった。
『先輩……重くないですか？』
『……重いよ…………』
『ご、ごめんなさい。……いまどきま』
ぎゅっ……
『今はこの重みが嬉しいの…………』
ちゅ…………
そうして、僕は先輩にのし掛かって抱きついたまま、睡魔に身を任せた。
先輩の綺麗な瞳がこの夜の僕の最後の記憶になった。
……………………
…………………
………………
…………
……
チュンチュン……チュン……チュンチュン……
うん、コレは俗に言う朝チュンと言うやつですね？そうですね？
と、目を覚ますと先輩が毛布にくるまっていた。
『あ、あの……おはようございます。先輩。』
『……おはよう。』
少し……いや、だいぶ顔を赤くした先輩が目を逸らしながらぶっきらぼうにそう答えた。
『あ、あの……こっちを見てください。』
『……いゃ……ぁ……想い出し……ちゃ……ぅ……からっ……』
かわいい…………
この日から、僕と先輩は恋人同士になった。
おわり。
20/05/23 23:08更新 / francois