時忘れの歌
時忘れの歌
僕、ジェレミー・ジェンキンス10歳は退屈している。
春の主聖祭の季節になると、毎年家族で湖の別荘ですごす。今年も例外に漏れずに別荘にやってきた。
ここでの遊びは広い湖の野原を走ったり、馬に乗って遠出をしたり、野うさぎを追ったり、別荘の庭で隠したお祝い用のカラフルなタマゴを姉さんと一緒に探したり。でも学校の友達と遊んだほうがよっぽど楽しかったりする。
だってお父さんとお母さんは集まった親戚や、お世話になっている人達への挨拶に大忙し。だから全然かまってくれない。主聖祭がはじまると退屈になる。
おまけにお父さんとお母さんが忙しい間は家庭教師がやってきて勉強をしなきゃいけない。
たくさん勉強して立派な貴族になりなさい。
と口酸っぱく言われている。耳にタコができそうだ。
『ジェレミーくん?聞いてますか!』
とか何とか考えていると先生に早速怒られてしまった。先生はランドル国の出身で歴史と音楽の若い教師だ。
『はい、先生ー』
『よろしい。では、53ページを開いて...近代史の項、クラーヴェ無血革命は...』
。
。
。
さて
そろそろ姉さんがピアノの練習を始める時間だ。
♪ ♪♪ ♪ ♬〜
ほらきた
先生はあからさまにソワソワしだした。
『ゴホン…ジェレミーくん。近代史53ページから、60ページまでを復習しましょう。しばらく自習とします。後でノートを見ますからね!』
『はい、先生ー』
先生は鼻歌まじりでドアを開けて出て行ってしまった。全く、わかりやすいったらない。まぁ、僕は遊べる時間が増えたからいいんだけど。
というわけで、僕は皆んなに見つからないように窓から抜け出して遊びに出かけた。
野原を走ったり、大きな声で叫んだり、寝転んだり、そんな感じで別荘近くの湖や野原や森を探検していた。
そうして暫く遊んで、お腹が減ったので、お昼を食べに別荘に帰った。すると綺麗な歌が聴こえてきた。別荘の裏庭の方だ。
歌が聴こえる方に行くと僕と同い年か、少し年上の女の子がいた。今まで見たどんな娘より綺麗だった。大きな日傘をさし、金色の長い髪を風になびかせて、聴いた事ないけど、何だか懐かしい不思議な歌を歌っていた。
‘‘華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
白い頬に紅をのせ
桜色の唇で
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
金色の髪をなびかせて
恋する瞳で歌うよ
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
時を忘れた華咲く乙女
愛する人待つ少女のままで
乙女は歌うよ ラン リンドン♪”
『?…だあれ?』
『あっ、ごめん。びっくりさせちゃった?僕はジェレミー。君はだあれ?とっても綺麗な声だね!』
『〜//////』
そう声をかけると少女は走って行ってしまった。
かわいい娘だなぁ…
あの娘と遊べなくて残念。別荘に戻って、お昼ご飯を食べた後に、僕はお父さんに呼び出された。
『ジェレミー、こっちに来なさい。』
『はい、お父さん。』
近くにいくと、夫婦なのかな?凄く綺麗な女の人と格好の良い男の人がお父さんとお母さんと話していた。この人達も日傘をさしている。都会で流行してるのかな?
『ジェレミー、此方の方はローゼンベルク伯爵夫妻だ。ご挨拶なさい。』
『はい、お父さん。…こんにちは、ローゼンベルクさん、僕はジェレミー・ジェンキンスです。』
挨拶をすると、女の人が僕の手を取って握手をしてくれた。
『まぁ、よく出来たお利口さんね。私はエーリカ・ヴァン・ローゼンベルク伯爵よ。始めまして。』
『あれ?エーリカさんは伯爵の婦人ではないんですか?』
『ふふふふ…ええ、私が現ローゼンベルク家当主ですの。』
そうすると後ろにいた男の人が僕の手を取って握手をした。
『僕はエーリカのお婿さんなんだよ。始めまして、ジェレミー君。ヨーゼフです。』
『そうでしたか。すみませんでした。』
『いいんだよ。ふむ…君は賢くて素直な子供だね。男爵さんは良い息子さんを持った。』
ヨーゼフさんは、僕の頭を撫でてくれた。
『さあ、恥ずかしがってないで出ておいで。』
エーリカさんのドレスに隠れていた女の子が出てきた。さっき裏庭で歌を歌っていた女の子だ。
『さ、ジェレミー君に挨拶なさい。』
エーリカさんがポン…と女の子な背中を押した。
『…は…始めまして、ビアンカです。さっきは…いきなり逃げてごめんなさい。』
『ううん。全然!』
お父さんは笑いながら僕の背中を叩いた。
『なんだ、もう知り合いだったのか。ちょうどいい。お父さん達は大事な話があるから、2人で遊んで来なさい。』
『はい!お父さん。…いこ!!』
『う、うん!!』
ビアンカの手を引いて湖へと走る。お父さんありがとう!
それから、僕達はすぐにお友達になった。
今までで、1番楽しかった。僕はビアンカの事がとってもとっても好きになった。
時間はあっという間に過ぎて、夕暮れ時になった。
『ねぇビアンカ。また明日も来てくれるよね?』
『ううん…今日の夜には此処を発つの。だから明日は来れないわ。』
『じゃあ、また会える?』
『…約束は出来ないわ。だって私達は…』
『?』
『ううん…なんでも無い』
『僕はビアンカの事が好きだ。だから絶対、また会いたい。』
『私もジェレミーのこと好き…』
すると、向こうのほうからローゼンベルクさん達が声をかけて手を振っていた。ビアンカは少し涙目になって振り返って
『だから約束よ?ジェレミー...さよなら』
ちゅ…
ビアンカが抱きついて僕の首筋にキスをした。火が出そうな程恥ずかしかったし、それ以上にとっても嬉しかった。けど、エーリカさんに手を引かれて行くビアンカを見るとなんだか少し悲しかった。
別荘に戻ると、中は大騒ぎで、爺やと女中はアタフタしていて、お母さんは泣いていて、お父さんはカンカンに怒っていた。
家庭教師とお姉さんが駆け落ちしたらしい。机の上に書き置きの手紙があった。
その時、僕は何でビアンカを連れて逃げるだけの勇気と行動を起こさなかったんだろう?と酷く後悔した。
。
。
。
。
。
あの忘れられない春から30年経った。私 ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵は父親の貿易会社と爵位を継いだ。
若い時に下働きから頑張って、何とか事業を成功させたので、今は部下達に仕事を任せて半分引退している。
ビアンカが忘れられずに結婚を断わっていたら、いつの間にやら四十路に入ってしまった。
父と母からは、
早く孫の顔が見たい
とか
お前は私の言うとうり、今や立派な貴族になったが結婚はまだなのか?
などなど上げたらキリがない。
未だに私に見合い写真を送ってくる。孫なら甥っ子がいるではないか?好い加減、姉と仲直りしてもらいたい。
私は自分で言うのも何だか、正真正銘、名実共に筋金入りの独身貴族なのだ。爵位もある!
この30年間、毎年欠かさずに湖に行っている。もしかしたらまたビアンカに会えるのかも知れないから。あれだけの美人だ。多分結婚して子供もいるだろう。でも、会えば心の整理がつくような、諦められるような、そんな気がする。
そして、また春の主聖祭の季節になった。
父の代から付き合いがある昔馴染みや親戚への挨拶。父の友人のハルミトン卿はまた太ったようだ。今度、ジパング料理を勧めようか…
父は許してないが、父が引退した後、姉さん家族と一年に一度この別荘で会っている。先生と姉さんの子供はもう立派な青年になっていた。楽団に入り、セロ弾きになったようだ。
それらが終わり、湖のほとりを鼻歌なぞ歌いながら散歩をした帰り道、懐かしい歌が聞こえてきた。
そう…
忘れもしないあの時の歌が
別荘の裏庭、日傘をさして金色の髪を夕日に赤く染めた少女が歌っていた。私は懐かしさに嬉しくなり、少女に声を掛けた。
『こんにちは、お嬢さん。とても綺麗な声ですね。』
『こんにちは、おじさま。あら、お歌はお好き?』
『あぁ、とっても。確か、その歌の続きは…‘‘♪愛する人待つ少女のままで、乙女は歌うよ ラン リンドン♪”』
『わぁ、お上手!』
目の前の少女は、本当にビアンカにそっくりだ。
『ははっ、どうもありがとう。…やっぱり間違いない。あなたのお母さんはビアンカというのでは?』
『?それは私の名前よ?私はビアンカ。』
『あ、そうか…あの人は自分の子供に同じ名前を...いや、すまないねお嬢さん。私は毎年主聖祭の時にこの湖に来るのだが、小さい頃、君のお祖母様とお祖父様の影に隠れていたお母様に会ったんだ。そうそう…たしか、お名前はエーリカ・ヴァン・ローゼンベルク伯爵と夫のヨーゼフ氏。今でも昨日の事の様に思い出せるよ。』
ふと、冷たい冬の名残り風が吹いた。その時少女の瞳がルビーの様に美しい赤に見えた。
『エーリカは祖母ではなくて、私の母の名前よ?ヨーゼフは私のお父さんよ?ジェレミー…』
『ん…?なぜ私の名前を?名乗った覚えはないが……まさか君は…!!』
『お久しぶりです。ジェレミー・ジェンキンス』
彼女はドレスの裾を少し持ち上げ優雅に一礼した。
『信じられない……ずっと会いたいと。でも叶わないと…』
ビアンカはあの時と、あの30年前と変わらない姿で私を見ている。
『約束したでしょう?』
すると、首筋が急に疼きだした。たしか、ビアンカは別れ際に私の首筋にキスを…
その箇所に触れてみると火の様に熱くなっていた。何かが酷く渇く。
30年前と変わらない目の前の少女はこの世のものとは思えないほど、美しく、気高く、そして妖しく見える。
『ねぇ…気付いていると思うけど、私、人間じゃないの 。それでも…ジェレミーは私のこと好き?』
『君を初めて見たあの日から、ずっと…君を想わなかった日は無い。』
『…私が…吸血鬼だとしても?』
『正直、驚いているよ。でもね、ビアンカ...私は君が好きだ。たとえ君が吸血鬼であっても、たとえ君が他の何かであっても。』
ビアンカは大粒の涙を流している。そんなビアンカを私はそっと抱き寄せる。30年で私は背だけが大きくなってしまったようだ。
あの日のまま、あの日の心のままビアンカを抱きしめている。傍目には親子が抱き合っている様に見える事だろう。
『ジェレミー…お顔を良く見せて?』
彼女は私の髪や顎、頬にペタペタとふれる。
『本当に大きくなったわね…あら、お髭がくすぐったいわ。それに白髪も少し。』
『私は…私だけが年を重ねて、君を置いて行ってしまった。シワも増えたし、少し老眼も…』
『ジェレミー…過去のあなたより、今のあなたが私は好きよ?こんなに素敵になったじゃない。』
『ありがとうビアンカ…』
私たちは目と目を合わせて自然と微笑み合う。ふと、彼女の目が真剣な眼差しに変わった。
『ジェレミー…あなたは私と共に夜を歩いてくれる?』
今にも泣きそうな瞳で見つめる。
私は首を縦に振った。
『あなたには30年前に私の魔力が込もったキスをプレゼントしてあるの。だから、血を吸うともうそれでインキュバスに…私の眷属にしてしまうわ。普通の人間じゃなくなるのよ?家族や大切な人が先に逝ってしまうのを見る事になるわ。それでも構わないの?』
『甥っ子や、父と母の事は気になるよ。でも、これからは君が一緒にいてくれるんだろう?』
ビアンカは頷いてくれた。
『だから、私の側にいてほしい。泣き虫なビアンカ…出来れば笑っていて欲しいな。君はそのほうが素敵だから。』
『ありがとう...』
彼女がやっと笑ってくれた。あぁ、やっぱり、こんなにも美しい。
フー…っと彼女が首筋に息をふきかける。あの時キスされた場所がトクントクンと血が集まってくるのが解る。私は彼女をなるべく優しく、そしてきつく抱き締める。
いつの間にか、太陽はもう西の空に消えかけていた。
カプ…
『『ぁ…』』
歯を突き立て、血をコクコクと喉を鳴らして飲むの音が静かに耳に響く。少しチクリと痛んだが、その痛みも優しい感情に包まれていく。私の血が彼女の一部になっていく感覚だろうか?
彼女に血を与えるかわりに何か不思議なモノが私に流れ混んでくる。暖かい。好き。嬉しい。幸せ…きっと今ビアンカが感じている事だろうか?同じような感情が私にあるので、もしそうならとても嬉しい。
太陽が完全に沈んだころ、永遠のようにも、一瞬のようにも感じる吸血が終わった。
『ジェレミー…これであなたは私の眷属。』
ビアンカはなんだか息を荒げているようだ。私も身体が火のように熱っている。私たちは顔を見合わせて何処ともなく唇を重ね合わせる。
ちゅ❤…くちゅ、くちゃ❤
血と唾液の味。二人が混ざりあった味。愛していると、それだけで伝わる気がした。
『ぷは、ビアンカ、君を愛している!』
『私もジェレミーが好き!愛してる!やっと…やっと願いが叶った。』
抱き締め合う。もう離れたくない。愛おしい。
『ビアンカ…私は君が欲しい。』
ビアンカは耳まで真っ赤にして、でも同時に待ち望んでいた様に微笑むと、娘が父親に抱っこをせがむ様に私の首に手を回した。
『連れて行って?あの日の様に、あなたの好きな所に…』
ビアンカを俗に言うお姫様抱っこの形で抱え上げ、別荘の自室に戻る。
唇を重ね合わせながら、お互いの服を脱がしていく。すぐに生まれたままの姿になった。
月明かりに照らされたビアンカは、この世のものとは思えない程美しい。キメの細かい白い肌、控えめながら欲情を誘う胸、細い腰、形の良い白桃の様な尻、長く美しい脚。下腹部の毛の生えていない割れ目からはテラテラと愛液が涎を垂らしていた。
『ジェレミー…その、私もう我慢が…だから…来て❤』
ビアンカを押し倒して自らの分身を禁断の果実に当てがう。くちゅり…といやらしい音が響く。
『恥ずかしいのだが…初めてなんだ。君を忘れられなくて気付いたらこの歳になって…だから、その…むぐ!?』
彼女にキスで言葉を遮られた。
『ちゅ…♪ジェレミー、私も初めてよ?…だから大丈夫…』
息を大きく吐き、腰をゆっくりと沈めていく。
『あぁ…❤入って…』
プチン
と小さく弾けるのを感じた。おそらく処女を散らしたのだろう。紅い血の雫がシーツにシミをつける。
『ビアンカ!』
『ジェレミー…大丈夫。痛いけど嬉しいの。だから…もっと❤』
そのまま腹に力を入れながら、ゆっくりと時間をかけて奥へ奥へと進んでいく。此方も余裕などある筈がない。忙しさにかまけて自慈もあまりやっていない。ただ、本能が囁くままビアンカを求めていく。
『ふ、うぅぅ…』
『ん…はぁはぁ❤もう少し…ぁぁ❤』
愛しい乙女はいまや完全にその小さな身体に私の分身を迎えいれた。奥にある子宮の入り口とキスを交わしている。お互い、快楽に翻弄されて息をするのも精一杯という感じだ。抱きしめていないと自我が保てない。
『はぁー!はぁ…』
『ぃ…んぁ❤ジェレミー❤❤ジェレミーっ❤❤❤』
カプ❤
ビアンカが私の首筋に噛み付いた。吸血鬼が噛み付いただけで終わる筈はなく、喉を可愛らしく鳴らしながら血を飲みはじめた。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!!
『『ーーーーーーーーーーーーっ!!!!』』
その瞬間に魂か抜け出すほどの快楽の波が押し寄せ、私はそれに呑まれ、呆気なく果ててしまった。
ビアンカはビクンビクンと身体を小刻みに痙攣させ、唇の端から血を滴らせながら、トロンと絶頂の余韻に浸っていた。
こうして私達は処女と童貞を交換した。
私の30年分の想いからか、それで終わる筈もなく、何度も何度もお互いを求め合った。
その後は二人で死んだように眠り、また起きては快楽を貪り、また死んだように眠り…を1週間程繰り返した。
後で気づいたが、吸血鬼の影響だろうか?夕暮れ時に目が覚め、朝日が昇る頃に眠くなるようになった。ビアンカ曰く
『大丈夫。直ぐに慣れるわ。貴族に成り立てで今は難しくても、じきにコントロールも出来る様になるから…』
とのこと。他にも怪力が出せるとか、太陽が苦手になるなどの吸血鬼の特性が私にも出来たそうだ。
ビアンカが子供の姿のままなのは、魔物娘は一般的に人間より寿命が長い。勿論、種族により差はあるけれど、中でも吸血鬼は特別長い時間を生きなければいけないらしく、成人の姿になるまでに人間と比べてかなりの時間を要するらしい。だからインキュバス…彼女の眷属となった私も、ずっとこのままの姿でビアンカと共に歩く事になるのだろう。
誰が居なくなっても彼女さえ隣にいれば…
。
。
。
。
。
あくる日
『ビアンカ、支度が出来たよ。長い長い旅になりそうだ…』
『そうね。でも、あなたが居てくれるから…』
私達は、話し合って人間として生きて行く事にした。なので、一所に留まることは出来ない。
彼女の両親もそうだったように、主神教国や反魔物国家に人間として出入りして魔物娘達の入国や住む所や経済的な助けたり、詳しい国際情報を魔界に伝えたり、場合によっては外交手腕や実力行使で新魔物国化を促す。そんなことをこれからの旅でやっていくつもりだ。魔王からの給金もかなりの額がでる様で、生活や移動には困らない事だろう。
あの時、ビアンカが私と別れたのには当時の世界情勢の悪化が理由らしい。魔物娘とインキュバスが経済を圧迫していると主神教国や反魔物国家で大規模な反魔物運動が活発になった。
彼女の両親は弾圧と正体の露見を怖れて、主神教国である私の国を出る途中であった。私の父とは古馴染みの取引相手で、父は魔界の酒や薬などを融通して貰っていたようだった。
私とビアンカは幼いあの日、恋に堕ちたが、ビアンカは去らねばならなかった。だから、何時会えるとも知れない私の首筋に約束の口付けを…。それは、口付けをされた側が口付けをした側を忘れない為の一種の呪いらしい。その時にする側はされる側に魔力を刻み込むようだ。
そのおかげで、再び巡り会えたのだ。
私がビアンカを想っていた様に、ビアンカも私を想ってくれていた。とても素晴らしいことに思える。
さて、旅立つに当たって法律的に正式な書面を残した。
‘‘
私、ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵は引退して長い旅にでるので、ここにブリトニア連合王国 貴族 爵位継承と私的財産の付与を記載する。
。私の両親、
父、サー・ジョセフ・ジョージ・ジェンキンス
母、スザンナ・ジェンキンス
以上2名の貴族としての生活の一切を保証すること
。如何なる場合があろうと貿易会社サージェンキンスを存続させること
。愛する人を見つけ、結婚し、ジェンキンス家を存続させること
以上の条件を守る意志があるのならば、ジェンキンス男爵家の財産と貿易会社サージェンキンスの経営権、爵位を私の甥、ジェフリー・ピエトロ氏に与える。
爵位を継いだ暁には、我が家の伝統に則りジェフリー・ジョージ・ジェンキンスと名乗る事。
もし、ジェフリー・ピエトロ氏が爵位を拒んだ折には一時的に父ジョセフ氏に上記の一切が帰属するものとする。
尚、サージェンキンスの株式証券の30%は私が所持するものとする。
上記の何方も継承を拒んだ場合には私、ジェレミー・ジェンキンスの死後、私が指名する代理人が上記の一切を継承するものとする
以上。
ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵
”
と、こんな感じに纏まった。この書類は3枚あり1つは私が、1つは甥っ子が、もう1つは国税局がそれぞれ管理することにしようか……父はまた怒りそうだが、姉夫妻との確執も少しは和らぐかもしれない。
長い長い旅だ、これから何百年と世界を見て回るのだ。世間から亡霊の様に成り果てても静かに行く末を見守るとしよう。
『私の家のことはこれで大丈夫だろう。路銀も定期的に結構な額が入る。家は多分、甥っ子が継いでくれるさ』
『そうね、パパ♪』
『なんだか、まだその呼び名は慣れないなぁ』
『ふふ♪楽しいわね。ジェレミーも照れてくれるし♪』
『はははは…』
ビアンカはまだ女の子の姿のままで、人間として暮らしていくには当分の間は親子と言う事にしておいた方がいいだろう。なんだか、妻と娘を一遍に持った奇妙な感じだ。
そんな愛しい人を抱き寄せてキスをする。愛を囁き、微笑み合う。
馬車に揺られながら、ビアンカがあの時の歌を口ずさんでいる。
‘‘華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
白い頬に紅をのせ
桜色の唇で
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
金色の髪をなびかせて
恋する瞳で歌うよ
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
時を忘れた華咲く乙女
愛する人待つ少女のままで
乙女は歌うよ ラン リンドン♪”
さぁ、何処へ行こうか?時忘れの少女と共に…
end
僕、ジェレミー・ジェンキンス10歳は退屈している。
春の主聖祭の季節になると、毎年家族で湖の別荘ですごす。今年も例外に漏れずに別荘にやってきた。
ここでの遊びは広い湖の野原を走ったり、馬に乗って遠出をしたり、野うさぎを追ったり、別荘の庭で隠したお祝い用のカラフルなタマゴを姉さんと一緒に探したり。でも学校の友達と遊んだほうがよっぽど楽しかったりする。
だってお父さんとお母さんは集まった親戚や、お世話になっている人達への挨拶に大忙し。だから全然かまってくれない。主聖祭がはじまると退屈になる。
おまけにお父さんとお母さんが忙しい間は家庭教師がやってきて勉強をしなきゃいけない。
たくさん勉強して立派な貴族になりなさい。
と口酸っぱく言われている。耳にタコができそうだ。
『ジェレミーくん?聞いてますか!』
とか何とか考えていると先生に早速怒られてしまった。先生はランドル国の出身で歴史と音楽の若い教師だ。
『はい、先生ー』
『よろしい。では、53ページを開いて...近代史の項、クラーヴェ無血革命は...』
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さて
そろそろ姉さんがピアノの練習を始める時間だ。
♪ ♪♪ ♪ ♬〜
ほらきた
先生はあからさまにソワソワしだした。
『ゴホン…ジェレミーくん。近代史53ページから、60ページまでを復習しましょう。しばらく自習とします。後でノートを見ますからね!』
『はい、先生ー』
先生は鼻歌まじりでドアを開けて出て行ってしまった。全く、わかりやすいったらない。まぁ、僕は遊べる時間が増えたからいいんだけど。
というわけで、僕は皆んなに見つからないように窓から抜け出して遊びに出かけた。
野原を走ったり、大きな声で叫んだり、寝転んだり、そんな感じで別荘近くの湖や野原や森を探検していた。
そうして暫く遊んで、お腹が減ったので、お昼を食べに別荘に帰った。すると綺麗な歌が聴こえてきた。別荘の裏庭の方だ。
歌が聴こえる方に行くと僕と同い年か、少し年上の女の子がいた。今まで見たどんな娘より綺麗だった。大きな日傘をさし、金色の長い髪を風になびかせて、聴いた事ないけど、何だか懐かしい不思議な歌を歌っていた。
‘‘華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
白い頬に紅をのせ
桜色の唇で
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
金色の髪をなびかせて
恋する瞳で歌うよ
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
時を忘れた華咲く乙女
愛する人待つ少女のままで
乙女は歌うよ ラン リンドン♪”
『?…だあれ?』
『あっ、ごめん。びっくりさせちゃった?僕はジェレミー。君はだあれ?とっても綺麗な声だね!』
『〜//////』
そう声をかけると少女は走って行ってしまった。
かわいい娘だなぁ…
あの娘と遊べなくて残念。別荘に戻って、お昼ご飯を食べた後に、僕はお父さんに呼び出された。
『ジェレミー、こっちに来なさい。』
『はい、お父さん。』
近くにいくと、夫婦なのかな?凄く綺麗な女の人と格好の良い男の人がお父さんとお母さんと話していた。この人達も日傘をさしている。都会で流行してるのかな?
『ジェレミー、此方の方はローゼンベルク伯爵夫妻だ。ご挨拶なさい。』
『はい、お父さん。…こんにちは、ローゼンベルクさん、僕はジェレミー・ジェンキンスです。』
挨拶をすると、女の人が僕の手を取って握手をしてくれた。
『まぁ、よく出来たお利口さんね。私はエーリカ・ヴァン・ローゼンベルク伯爵よ。始めまして。』
『あれ?エーリカさんは伯爵の婦人ではないんですか?』
『ふふふふ…ええ、私が現ローゼンベルク家当主ですの。』
そうすると後ろにいた男の人が僕の手を取って握手をした。
『僕はエーリカのお婿さんなんだよ。始めまして、ジェレミー君。ヨーゼフです。』
『そうでしたか。すみませんでした。』
『いいんだよ。ふむ…君は賢くて素直な子供だね。男爵さんは良い息子さんを持った。』
ヨーゼフさんは、僕の頭を撫でてくれた。
『さあ、恥ずかしがってないで出ておいで。』
エーリカさんのドレスに隠れていた女の子が出てきた。さっき裏庭で歌を歌っていた女の子だ。
『さ、ジェレミー君に挨拶なさい。』
エーリカさんがポン…と女の子な背中を押した。
『…は…始めまして、ビアンカです。さっきは…いきなり逃げてごめんなさい。』
『ううん。全然!』
お父さんは笑いながら僕の背中を叩いた。
『なんだ、もう知り合いだったのか。ちょうどいい。お父さん達は大事な話があるから、2人で遊んで来なさい。』
『はい!お父さん。…いこ!!』
『う、うん!!』
ビアンカの手を引いて湖へと走る。お父さんありがとう!
それから、僕達はすぐにお友達になった。
今までで、1番楽しかった。僕はビアンカの事がとってもとっても好きになった。
時間はあっという間に過ぎて、夕暮れ時になった。
『ねぇビアンカ。また明日も来てくれるよね?』
『ううん…今日の夜には此処を発つの。だから明日は来れないわ。』
『じゃあ、また会える?』
『…約束は出来ないわ。だって私達は…』
『?』
『ううん…なんでも無い』
『僕はビアンカの事が好きだ。だから絶対、また会いたい。』
『私もジェレミーのこと好き…』
すると、向こうのほうからローゼンベルクさん達が声をかけて手を振っていた。ビアンカは少し涙目になって振り返って
『だから約束よ?ジェレミー...さよなら』
ちゅ…
ビアンカが抱きついて僕の首筋にキスをした。火が出そうな程恥ずかしかったし、それ以上にとっても嬉しかった。けど、エーリカさんに手を引かれて行くビアンカを見るとなんだか少し悲しかった。
別荘に戻ると、中は大騒ぎで、爺やと女中はアタフタしていて、お母さんは泣いていて、お父さんはカンカンに怒っていた。
家庭教師とお姉さんが駆け落ちしたらしい。机の上に書き置きの手紙があった。
その時、僕は何でビアンカを連れて逃げるだけの勇気と行動を起こさなかったんだろう?と酷く後悔した。
。
。
。
。
。
あの忘れられない春から30年経った。私 ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵は父親の貿易会社と爵位を継いだ。
若い時に下働きから頑張って、何とか事業を成功させたので、今は部下達に仕事を任せて半分引退している。
ビアンカが忘れられずに結婚を断わっていたら、いつの間にやら四十路に入ってしまった。
父と母からは、
早く孫の顔が見たい
とか
お前は私の言うとうり、今や立派な貴族になったが結婚はまだなのか?
などなど上げたらキリがない。
未だに私に見合い写真を送ってくる。孫なら甥っ子がいるではないか?好い加減、姉と仲直りしてもらいたい。
私は自分で言うのも何だか、正真正銘、名実共に筋金入りの独身貴族なのだ。爵位もある!
この30年間、毎年欠かさずに湖に行っている。もしかしたらまたビアンカに会えるのかも知れないから。あれだけの美人だ。多分結婚して子供もいるだろう。でも、会えば心の整理がつくような、諦められるような、そんな気がする。
そして、また春の主聖祭の季節になった。
父の代から付き合いがある昔馴染みや親戚への挨拶。父の友人のハルミトン卿はまた太ったようだ。今度、ジパング料理を勧めようか…
父は許してないが、父が引退した後、姉さん家族と一年に一度この別荘で会っている。先生と姉さんの子供はもう立派な青年になっていた。楽団に入り、セロ弾きになったようだ。
それらが終わり、湖のほとりを鼻歌なぞ歌いながら散歩をした帰り道、懐かしい歌が聞こえてきた。
そう…
忘れもしないあの時の歌が
別荘の裏庭、日傘をさして金色の髪を夕日に赤く染めた少女が歌っていた。私は懐かしさに嬉しくなり、少女に声を掛けた。
『こんにちは、お嬢さん。とても綺麗な声ですね。』
『こんにちは、おじさま。あら、お歌はお好き?』
『あぁ、とっても。確か、その歌の続きは…‘‘♪愛する人待つ少女のままで、乙女は歌うよ ラン リンドン♪”』
『わぁ、お上手!』
目の前の少女は、本当にビアンカにそっくりだ。
『ははっ、どうもありがとう。…やっぱり間違いない。あなたのお母さんはビアンカというのでは?』
『?それは私の名前よ?私はビアンカ。』
『あ、そうか…あの人は自分の子供に同じ名前を...いや、すまないねお嬢さん。私は毎年主聖祭の時にこの湖に来るのだが、小さい頃、君のお祖母様とお祖父様の影に隠れていたお母様に会ったんだ。そうそう…たしか、お名前はエーリカ・ヴァン・ローゼンベルク伯爵と夫のヨーゼフ氏。今でも昨日の事の様に思い出せるよ。』
ふと、冷たい冬の名残り風が吹いた。その時少女の瞳がルビーの様に美しい赤に見えた。
『エーリカは祖母ではなくて、私の母の名前よ?ヨーゼフは私のお父さんよ?ジェレミー…』
『ん…?なぜ私の名前を?名乗った覚えはないが……まさか君は…!!』
『お久しぶりです。ジェレミー・ジェンキンス』
彼女はドレスの裾を少し持ち上げ優雅に一礼した。
『信じられない……ずっと会いたいと。でも叶わないと…』
ビアンカはあの時と、あの30年前と変わらない姿で私を見ている。
『約束したでしょう?』
すると、首筋が急に疼きだした。たしか、ビアンカは別れ際に私の首筋にキスを…
その箇所に触れてみると火の様に熱くなっていた。何かが酷く渇く。
30年前と変わらない目の前の少女はこの世のものとは思えないほど、美しく、気高く、そして妖しく見える。
『ねぇ…気付いていると思うけど、私、人間じゃないの 。それでも…ジェレミーは私のこと好き?』
『君を初めて見たあの日から、ずっと…君を想わなかった日は無い。』
『…私が…吸血鬼だとしても?』
『正直、驚いているよ。でもね、ビアンカ...私は君が好きだ。たとえ君が吸血鬼であっても、たとえ君が他の何かであっても。』
ビアンカは大粒の涙を流している。そんなビアンカを私はそっと抱き寄せる。30年で私は背だけが大きくなってしまったようだ。
あの日のまま、あの日の心のままビアンカを抱きしめている。傍目には親子が抱き合っている様に見える事だろう。
『ジェレミー…お顔を良く見せて?』
彼女は私の髪や顎、頬にペタペタとふれる。
『本当に大きくなったわね…あら、お髭がくすぐったいわ。それに白髪も少し。』
『私は…私だけが年を重ねて、君を置いて行ってしまった。シワも増えたし、少し老眼も…』
『ジェレミー…過去のあなたより、今のあなたが私は好きよ?こんなに素敵になったじゃない。』
『ありがとうビアンカ…』
私たちは目と目を合わせて自然と微笑み合う。ふと、彼女の目が真剣な眼差しに変わった。
『ジェレミー…あなたは私と共に夜を歩いてくれる?』
今にも泣きそうな瞳で見つめる。
私は首を縦に振った。
『あなたには30年前に私の魔力が込もったキスをプレゼントしてあるの。だから、血を吸うともうそれでインキュバスに…私の眷属にしてしまうわ。普通の人間じゃなくなるのよ?家族や大切な人が先に逝ってしまうのを見る事になるわ。それでも構わないの?』
『甥っ子や、父と母の事は気になるよ。でも、これからは君が一緒にいてくれるんだろう?』
ビアンカは頷いてくれた。
『だから、私の側にいてほしい。泣き虫なビアンカ…出来れば笑っていて欲しいな。君はそのほうが素敵だから。』
『ありがとう...』
彼女がやっと笑ってくれた。あぁ、やっぱり、こんなにも美しい。
フー…っと彼女が首筋に息をふきかける。あの時キスされた場所がトクントクンと血が集まってくるのが解る。私は彼女をなるべく優しく、そしてきつく抱き締める。
いつの間にか、太陽はもう西の空に消えかけていた。
カプ…
『『ぁ…』』
歯を突き立て、血をコクコクと喉を鳴らして飲むの音が静かに耳に響く。少しチクリと痛んだが、その痛みも優しい感情に包まれていく。私の血が彼女の一部になっていく感覚だろうか?
彼女に血を与えるかわりに何か不思議なモノが私に流れ混んでくる。暖かい。好き。嬉しい。幸せ…きっと今ビアンカが感じている事だろうか?同じような感情が私にあるので、もしそうならとても嬉しい。
太陽が完全に沈んだころ、永遠のようにも、一瞬のようにも感じる吸血が終わった。
『ジェレミー…これであなたは私の眷属。』
ビアンカはなんだか息を荒げているようだ。私も身体が火のように熱っている。私たちは顔を見合わせて何処ともなく唇を重ね合わせる。
ちゅ❤…くちゅ、くちゃ❤
血と唾液の味。二人が混ざりあった味。愛していると、それだけで伝わる気がした。
『ぷは、ビアンカ、君を愛している!』
『私もジェレミーが好き!愛してる!やっと…やっと願いが叶った。』
抱き締め合う。もう離れたくない。愛おしい。
『ビアンカ…私は君が欲しい。』
ビアンカは耳まで真っ赤にして、でも同時に待ち望んでいた様に微笑むと、娘が父親に抱っこをせがむ様に私の首に手を回した。
『連れて行って?あの日の様に、あなたの好きな所に…』
ビアンカを俗に言うお姫様抱っこの形で抱え上げ、別荘の自室に戻る。
唇を重ね合わせながら、お互いの服を脱がしていく。すぐに生まれたままの姿になった。
月明かりに照らされたビアンカは、この世のものとは思えない程美しい。キメの細かい白い肌、控えめながら欲情を誘う胸、細い腰、形の良い白桃の様な尻、長く美しい脚。下腹部の毛の生えていない割れ目からはテラテラと愛液が涎を垂らしていた。
『ジェレミー…その、私もう我慢が…だから…来て❤』
ビアンカを押し倒して自らの分身を禁断の果実に当てがう。くちゅり…といやらしい音が響く。
『恥ずかしいのだが…初めてなんだ。君を忘れられなくて気付いたらこの歳になって…だから、その…むぐ!?』
彼女にキスで言葉を遮られた。
『ちゅ…♪ジェレミー、私も初めてよ?…だから大丈夫…』
息を大きく吐き、腰をゆっくりと沈めていく。
『あぁ…❤入って…』
プチン
と小さく弾けるのを感じた。おそらく処女を散らしたのだろう。紅い血の雫がシーツにシミをつける。
『ビアンカ!』
『ジェレミー…大丈夫。痛いけど嬉しいの。だから…もっと❤』
そのまま腹に力を入れながら、ゆっくりと時間をかけて奥へ奥へと進んでいく。此方も余裕などある筈がない。忙しさにかまけて自慈もあまりやっていない。ただ、本能が囁くままビアンカを求めていく。
『ふ、うぅぅ…』
『ん…はぁはぁ❤もう少し…ぁぁ❤』
愛しい乙女はいまや完全にその小さな身体に私の分身を迎えいれた。奥にある子宮の入り口とキスを交わしている。お互い、快楽に翻弄されて息をするのも精一杯という感じだ。抱きしめていないと自我が保てない。
『はぁー!はぁ…』
『ぃ…んぁ❤ジェレミー❤❤ジェレミーっ❤❤❤』
カプ❤
ビアンカが私の首筋に噛み付いた。吸血鬼が噛み付いただけで終わる筈はなく、喉を可愛らしく鳴らしながら血を飲みはじめた。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!!
『『ーーーーーーーーーーーーっ!!!!』』
その瞬間に魂か抜け出すほどの快楽の波が押し寄せ、私はそれに呑まれ、呆気なく果ててしまった。
ビアンカはビクンビクンと身体を小刻みに痙攣させ、唇の端から血を滴らせながら、トロンと絶頂の余韻に浸っていた。
こうして私達は処女と童貞を交換した。
私の30年分の想いからか、それで終わる筈もなく、何度も何度もお互いを求め合った。
その後は二人で死んだように眠り、また起きては快楽を貪り、また死んだように眠り…を1週間程繰り返した。
後で気づいたが、吸血鬼の影響だろうか?夕暮れ時に目が覚め、朝日が昇る頃に眠くなるようになった。ビアンカ曰く
『大丈夫。直ぐに慣れるわ。貴族に成り立てで今は難しくても、じきにコントロールも出来る様になるから…』
とのこと。他にも怪力が出せるとか、太陽が苦手になるなどの吸血鬼の特性が私にも出来たそうだ。
ビアンカが子供の姿のままなのは、魔物娘は一般的に人間より寿命が長い。勿論、種族により差はあるけれど、中でも吸血鬼は特別長い時間を生きなければいけないらしく、成人の姿になるまでに人間と比べてかなりの時間を要するらしい。だからインキュバス…彼女の眷属となった私も、ずっとこのままの姿でビアンカと共に歩く事になるのだろう。
誰が居なくなっても彼女さえ隣にいれば…
。
。
。
。
。
あくる日
『ビアンカ、支度が出来たよ。長い長い旅になりそうだ…』
『そうね。でも、あなたが居てくれるから…』
私達は、話し合って人間として生きて行く事にした。なので、一所に留まることは出来ない。
彼女の両親もそうだったように、主神教国や反魔物国家に人間として出入りして魔物娘達の入国や住む所や経済的な助けたり、詳しい国際情報を魔界に伝えたり、場合によっては外交手腕や実力行使で新魔物国化を促す。そんなことをこれからの旅でやっていくつもりだ。魔王からの給金もかなりの額がでる様で、生活や移動には困らない事だろう。
あの時、ビアンカが私と別れたのには当時の世界情勢の悪化が理由らしい。魔物娘とインキュバスが経済を圧迫していると主神教国や反魔物国家で大規模な反魔物運動が活発になった。
彼女の両親は弾圧と正体の露見を怖れて、主神教国である私の国を出る途中であった。私の父とは古馴染みの取引相手で、父は魔界の酒や薬などを融通して貰っていたようだった。
私とビアンカは幼いあの日、恋に堕ちたが、ビアンカは去らねばならなかった。だから、何時会えるとも知れない私の首筋に約束の口付けを…。それは、口付けをされた側が口付けをした側を忘れない為の一種の呪いらしい。その時にする側はされる側に魔力を刻み込むようだ。
そのおかげで、再び巡り会えたのだ。
私がビアンカを想っていた様に、ビアンカも私を想ってくれていた。とても素晴らしいことに思える。
さて、旅立つに当たって法律的に正式な書面を残した。
‘‘
私、ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵は引退して長い旅にでるので、ここにブリトニア連合王国 貴族 爵位継承と私的財産の付与を記載する。
。私の両親、
父、サー・ジョセフ・ジョージ・ジェンキンス
母、スザンナ・ジェンキンス
以上2名の貴族としての生活の一切を保証すること
。如何なる場合があろうと貿易会社サージェンキンスを存続させること
。愛する人を見つけ、結婚し、ジェンキンス家を存続させること
以上の条件を守る意志があるのならば、ジェンキンス男爵家の財産と貿易会社サージェンキンスの経営権、爵位を私の甥、ジェフリー・ピエトロ氏に与える。
爵位を継いだ暁には、我が家の伝統に則りジェフリー・ジョージ・ジェンキンスと名乗る事。
もし、ジェフリー・ピエトロ氏が爵位を拒んだ折には一時的に父ジョセフ氏に上記の一切が帰属するものとする。
尚、サージェンキンスの株式証券の30%は私が所持するものとする。
上記の何方も継承を拒んだ場合には私、ジェレミー・ジェンキンスの死後、私が指名する代理人が上記の一切を継承するものとする
以上。
ジェレミー・ジョージ・ジェンキンス男爵
”
と、こんな感じに纏まった。この書類は3枚あり1つは私が、1つは甥っ子が、もう1つは国税局がそれぞれ管理することにしようか……父はまた怒りそうだが、姉夫妻との確執も少しは和らぐかもしれない。
長い長い旅だ、これから何百年と世界を見て回るのだ。世間から亡霊の様に成り果てても静かに行く末を見守るとしよう。
『私の家のことはこれで大丈夫だろう。路銀も定期的に結構な額が入る。家は多分、甥っ子が継いでくれるさ』
『そうね、パパ♪』
『なんだか、まだその呼び名は慣れないなぁ』
『ふふ♪楽しいわね。ジェレミーも照れてくれるし♪』
『はははは…』
ビアンカはまだ女の子の姿のままで、人間として暮らしていくには当分の間は親子と言う事にしておいた方がいいだろう。なんだか、妻と娘を一遍に持った奇妙な感じだ。
そんな愛しい人を抱き寄せてキスをする。愛を囁き、微笑み合う。
馬車に揺られながら、ビアンカがあの時の歌を口ずさんでいる。
‘‘華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
白い頬に紅をのせ
桜色の唇で
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
金色の髪をなびかせて
恋する瞳で歌うよ
華咲く乙女は歌うよ
ラン リン ラン リンドン♪
時を忘れた華咲く乙女
愛する人待つ少女のままで
乙女は歌うよ ラン リンドン♪”
さぁ、何処へ行こうか?時忘れの少女と共に…
end
19/05/04 02:08更新 / francois