カレンの灯
カレンの灯
むかしむかしの事でした。
西の大陸のルークベルクと言う国の王様は聡明厳格な名君でした。
その国は小さな国で、北には西方主神教国のベルモット王国と魔物と手を組む中立国のオランジュ王国が。西には中立国ではあるのですが、いつ攻めて来るかわからないランドル・ファラン王国が。東には主神教福音主義国のクラーヴェ帝国があります。
魔物の国も主神教の国も中立国もルークベルク王国の領土を欲しがりました。その地を手に入れられれば、西の大陸の覇権を握る上で都合が良いのです。
ベルモット王国が攻めて来れば、比較的仲の良いオランジュ王国と魔物の軍が守ってくれました。反対に魔物の軍が男欲しさに攻めて来れば魔物国の軍事介入を良しとしないファラン王国が守ってくれました。今度はファラン王国が攻めて来れば、ルークベルク王国が領土になると大変困るクラーヴェ帝国とベルモット王国が助けて来れました。
その様な国ですからルークベルク王国には沢山の民族や魔物娘が住んでいます。
西方主神教を信じる人もいます。
主神教福音主義派を信じる人もいます。
主神教ユタ派を信じる人もいます。
主神教アシュマール派を信じる人もいます。
主神を信じない人もいます。
他の神さまを信じる人もいます。
肌の白い人もいます。
肌の黄色い人もいます。
肌の黒い人もいます。
魔物娘もいます。
魔物娘を受け入れている人もいます。
魔物娘を受け入れられない人もいます。
ですからこの国には西方主神教を信じる人の地域、主神教福音主義派の地域、他の神さまを信じる人の地域、魔物娘と魔物娘を受け入れている人達の地域があります。
この様な理由でルークベルク王国の王様は名君でなければとても国を治めてはいけないのです。
しかし、名君はいつまでも居る訳ではありません。善政の後には悪政が起るのは世の常です。
王が病気で死んでしまいました。世継ぎ争いを起こさない為に王様は結婚していませんでしたので、喪が明けて、次の王様は前王の弟でした。
これがいけなかったのです。
新王はイスパール王国などの西方主神教国の言う事を聞き始めて、それ以外を認めようとしませんでした。
税金を引き上げて贅沢をしました。
綺麗な王都にする為に沢山の人を元居た所から追い出しました。
王都への魔物娘の出入りを禁止しました。
また自分の気に入らない大臣や貴族に罰を与えたり王都から追放しました。
新王陛下は典型的な暗君でありました。
ここにカレンと言う娘がいます。大臣の娘でしたが父親は亡くなっていました。新王はカレンを母親と一緒に王宮から追い出されてしまいました。理由はカレンが美しく無いからです。
くしゃくしゃの赤毛の髪、ボヤけた輪郭、悪い魔女の様な曲がった鼻、ソバカスだらけの顔、目は燻んだ緑色で、声はしわがれたカラスの様です。
追い出された母親と娘は酷く貧しい生活をするようになりました。
母親は娘であるカレンに辛く当たりました。使用人の様に扱い、身の周りや生活に必要な仕事は全てカレンにさせました。母親はカレンが家事をしている間に何処かに出かけていました。
食事の時、同じ席につく事もありません。母親はベッドで寝ましたが、カレンは納屋に行きボロ布に包まって寒さに耐えて寝ました。
母親の仕打ちは日毎に酷くなり、遂には暴力を振るうようになりました。そのせいでカレンの鉤鼻はますますひしゃげてしまいました。
その年の冬のある日のこと。カレンは母親に暴力を振るわれていました。
『お母さまごめんなさい!ごめんなさい!』
『お前が美しくないから、お前のせいで私まで追い出されてしまった!お前は要らない娘!!』
『お母さま!やめて!!……ぎゃぁぁあああああああああ!!!!』
暖炉の灰掻き棒で叩きながらそう言うと、母親はあろうことか娘のカレンの顔に塩の入った煮え湯を掛けてしまったのです。カレンは叫びながら床を這いずり回りました。
その事でカレンは顔の半分が焼けて爛れてしまいました。
『醜いお前なぞ産まなければ良かった。』
そう言うと母親は知らない男の人と出て行きました。
それから、カレンはフードとは呼べないようなボロ布で醜い顔を隠して王都に程近い貧民街の路上で物乞いとして暮らしました。
『右や左や旦那様。この憐れな物乞いに施してください。』
『よるな、化け物め!』
『醜い物乞いめ!!』
と石を当てられました。
貧民街の物乞いはあの嫌な母親との貧乏な生活よりももっともっと惨めでした。石を当てられない日は無いのです。突然、男の人に乱暴される事もありました。
肌の白い人も
肌の黄色い人も
肌の黒い人も
お金持ちも
貧乏人も
貴族も
平民も
カレンを見ると皆、蔑みの目を向けました。魔物娘達ですら彼女を無視しました。男を取る人間の娘は少ない方が良いのです。
しかし、魔物娘達がカレンを助けない最も大きな理由はまた別にあるのです。それはこの後に出てくる偉い方から語られます。
カレンには誰も頼る人が居ません。誰も彼女を守る人がいません。
カレンは物乞いをします。
施しが無い日はゴミを漁りました。
惨めさから教会へ助けを求めても追い返されてしまいます。
私が惨めなのは私が醜いせい。私がもっと美しければ、私がもっと綺麗だったら。そう、カレンは渇望する様になりました。
そんなある日、通りで何やら騒ぎが起こりました。
憲兵に引かれて物取りの若者が連れられていました。
『この者は盗みを繰り返す重罪人あり、然るべき後に絞首刑に処される者である!……しかし、新しき国王陛下の祝日が近いので、此度特別に条件付きでの恩赦を与える。この盗人と結婚しても良いと言う心優しい人間の若い娘がいるのであれば、この盗人の罪を咎め無いとする!』
ざわざわとそれを見ている人々は騒ぎ始めた。
『誰ぞいないか!この盗人と結婚しても良いと言う娘は誰ぞいないか!』
カレンは恐る恐る前へと出ました。
『……私が。その人と結婚しましょう。』
盗人でも私が助ければ、私の手を取ってくれるかもしれない。私にありがとうと言ってくれるかもしれない。この盗人を助ければ、私を愛してくれるかもしれない。
愛されたい……愛されたい…………
そう思って前に出ました。
人々はカレンを見ると罵り始めました。
『あれは醜い物乞いの娘だ。』
『顔が焼けた醜い娘だ。』
『あの盗人は憐れだ。』
罵り声の中にはクスクスと笑声も混じっていました。
『うっ……なんと醜い。だが心優しい娘だ。盗人よ、どうだ?お前を助けようと言う娘が現れたぞ?』
フードの下のカレンの顔を見た盗人の男は叫び声を上げました。
『い、嫌だっ!!お前の夫になるくらいなら、死んだ方が良い!!!』
男のその言葉はカレンに取って何より辛く、崖から突き落とされたようでした。
『私は路傍の物乞い娘で、私は私の顔が醜いのを知っています。しかし恥を忍んで出て来ました。あなたを救えると思ったのです。それでも、私を嫌と言うのですか?そんなに私と結婚するのが嫌なのですか!?』
『お前の様な醜い娘をどう愛せと言うのだ!』
カレンは泣いて崩れてしまいました。人々は指差し笑ってカレンを見ていました。面白半分に石やゴミを投げつける者もいます。
『これは良い!傑作だ!』
『身の程をわきまえろ!』
『こんな醜い娘は見たことが無い!』
盗人の男はそのまま憲兵に引かれて行きました。人々はひとしきり笑った後、飽きてしまったので去って行きました。
日の沈もうとする薄闇の中、通りには泣き崩れたカレンが1人ポツンと取り残されていました。
『私が醜いから、王様に王宮を追い出された。
私が醜いから、お母さまは私に暴力を振るい、顔に煮え湯をかけ、私を捨てて出て行った。
私が醜いから、私は路傍で物乞いをしなければならなくなった。
私が醜いから、私は男に乱暴されて大切なものを失った。……痛かった。苦しかった。
私が醜いから、人々は私に石やゴミを投げて私を指差して笑う。
私が醜いから、助けようとした盗人まで私を拒絶した。
私が醜いから、不幸せで。
私が醜いから、こんなにも惨めなんだ。
私が醜いから、誰にも相手にされない。
私が醜いから、私は誰からにも愛されない。
私が醜いから。私が醜いから。私が醜いから。私が醜いから…………あは、あははははははははははははは』
カレンの中の何か大切なものが壊れてしまいました。
ふらふらと幽鬼の様に力無く立ち上がると、木に腰布を結びつけ、首を掛けようとしたその時。
『人の子の娘よ。何故お前はそこで身を窶し、泣き啜り、首を自ら括ろうとするのですか?』
カレンが目を向けると、黒いドレスを身に纏い、真っ白な雪のような肌と長い髪を持った美しい女が立っていました。その姿には畏怖すら感じます。
彼女はカレンが欲しいものを全て持っているようでした。女の紫色の瞳がカレンを捉えています。
いつの間にか日は沈み辺りは暗くなっていました。
『もう私は疲れてしまいました。身も心も疲れてしまいました。もう耐える事はできません。どうか私の好きにさせてください。』
『死んではいけない。お前はまだ愛す事も愛される事も知らないではないか?』
魔物娘の女は美しい声で全てを見透かすようにそう答えました。
『美しいあなたに何がわかると言うのですか?私が美しい娘であれば、見れる顔を持つ娘であったのならば王宮から追い出される事も無く、母親から暴力を受ける事も無く、煮え湯をかけられて顔が爛れる事も無く、また捨てられる事もなく、顔をボロ布で隠し惨めに路傍で物乞いをする事もなく、暴漢に乱暴され乙女を失う事もなく、人々から指差し笑われ石やゴミを投げつけられる事も無く、晒し者のような辱しめを受ける事も無かったでしょう。私はただ誰かに愛される事を望んだだけなのにそれすらも許されません………。ですから、美しく幸せなあなたとは違うのです。私は私が醜いので不幸せです。美しい人間の娘は幸せです。幸せになる事ができます。魔物娘は美しさを持っています。幸せになる事ができます。
ですが、醜い人間の娘の私はいったいどうやって幸せになれると言うのですか?
私なぞ……私なぞ産まれて来なければ良かったのに。』
カレンの瞳は嘆きと絶望で真っ黒な闇に染まっていました。魔物娘の女は眉ひとつ動かしません。しかしその紫色の瞳の中には慈悲と怒りの2つの感情が現れていました。
『…………では私はお前に、お前が望む美を与えよう。しかし私はお前に罰をも与えよう。これまでのお前の幸薄い境遇には情状酌量の余地があり、首を自ら括ろうとも同情するに十分に足り得るものである。しかし、お前は愛される事を望むばかりで、心から誰かを愛そうとはしなかった。自身ですら愛してはいまい。他者の美を妬み、執着し、憎むばかりで、盗人を助けようと前に出たのも本質は自身が他者に愛され救われる為である。よって、お前は私から美を与えられ、自身の執着と憎しみの火に焼かれ、私に永遠に仕えるのだ。』
そう女は優しい声で答えました。カレンは恐ろしなりました。青い火が女の手の平で燃えているのです。
『あなたはいったい誰なのですか?』
カレンは震える声で問いました。
『私はニコラ。魔物娘ワイト。私は死の国の王となる者。さて……私は此度この国を魔王猊下の娘、リリムが1人たるカルミナ殿下の名により死者の国に変えに来た。』
するとニコラは手のひらの青い火を解き放ちました。
それは真っ直ぐにカレンに向かい、彼女の胸の中に入ったのです。
『身体が……熱い……燃えるよう……』
『その火はお前の嫉妬、執着、嫉み、怨み。すなわちお前の業。救い難いお前を救うだろう。』
カレンを青い火が包みました。カレンの身体を燃やしていきます。するとなんと言う事でしょう。カレンの身体がどんどん創り変わって行きます。
燃えたところが魂だけの存在へと、青い火と同じものに変わっていくようです。くしゃくしゃの赤毛は絹の様な真っ白な美しい髪になりました。ひしゃげた鼻と焼け爛れた皮膚は元に戻り、カレンの面影を残した彫刻のような美しい顔になりました。シミだらけの肌は翡翠の宝玉のように煌めき、着ていたボロ布は夜を溶かしたような真っ黒なドレスに変わりました。
身体を焼き尽くしても青い火は消えません。やがて自らを焼く青い火を覆うようにドレスの裾から鳥籠のような檻のような何かが作られて未だに燃え盛る青い火を覆っていったのです。
カレンはウィル・オ・ウィスプになってしまいました。
『私はどうなったのですか?』
変化が終わり、カレンは恐る恐るニコラに尋ねました。
『我が眷属になったのだ。私は確かにお前に美を与えた。』
するとニコラは魔法で宙に鏡を創りカレンに見せました。
『これが……私……綺麗……』
『私はお前を不死者に変えた。今より永久に至るまで、お前は私の僕となる。良く働きなさい。』
威厳と優しさの満ちる声です。カレンはニコラに頭を下げてお辞儀をしました。
ニコラはカレンの頭に手をかざして祝福を施すと、沢山の不死者を呼び寄せ王宮へと向かって行きました。
やがてニコラは王宮へと攻め登るとそれに気付いた王と近衛兵が迎え撃ちました。
『何事ぞ!?魔王軍とは不可侵条約を締結していたはず。この度の貴公らの狼藉は外交問題になろうぞ!!』
怒鳴り散らす王様を前にニコラは落ち着いた様子で話します。
『ルークベルクの王よ。貴殿の国は確かに魔物の国及び魔王軍と不可侵条約を結んでいる。しかしながら、死者の国とは条約を結んでいまい。』
『ならば何故に戦線布告も無しに我が城に攻め入ったのだ?』
『……我が国の中で起こった事で、墓の下で眠るには些か忍び無い。ましてや実の兄に毒を盛る様な男に国と民を任せては置けまい。そうは思わぬか?ライサンダーよ。』
『何故その名前を!貴公は、もしや。』
ニコラは両手を広げて死者達を呼び出しました。
『墓の下に行く前、私はニコラス王と呼ばれた者である。』
ニコラの正体は病気で死んだ前王、ニコラスでした。
ライサンダー王と兵士達は跪き許しを請いましたが、もう遅いのです。こうして、一夜の間にルークベルク王国はワイトであるニコラが治める死者の国になりました。
女王となったニコラは国を治める為の法律の整備を始めました。
民は名君の復活に喜びました。
税金を引き下げ、人間の女を不死者に変えました。
貧しくとも暮らしていける様に法律を変えました。
主神教を禁止にはしましたが、信者を害する事はありません。神父やシスターや信者は皆、主神教の国に安全に送られました。
ライサンダーは捕られ、政略結婚の為、蛇の魔物娘エキドナが治める中つ国のある国へ婿として送られました。
『カレンよ来なさい。』
ある時、ニコラ陛下はカレンを呼び出しました。
『はい。陛下。』
『お前にはこの罪人の処遇を任せる。理由は兎も角として、お前自身が唯一救い愛そうと試みた男だ。』
そう言うと、ニコラ陛下は罪人を魔法を使って召喚しました。呼び寄せられた罪人はあの盗人でした。
盗人の男は驚き慌てふためいています。
カレンは盗人の男を見た瞬間に心が動くのを感じました。
『私の運命……幸福……愛がそこに……』
嫉妬、執着、渇望、怨み……そして愛情がカレンの心を焼いていきます。目の奥には欲望と愛への期待でドロドロとした感情を映して口は淫らにほころんでいました。
その有り様を見て男は声を上げて逃げようとしました。
『行っては駄目。』
するとカレンの檻と青い火が独りでに動き盗人の男を中に引きずり込んだのです。
『何をする!?殺すなら殺せ!!』
『殺す?……殺しません。あなたは私と永遠に愛し合うのです。』
『う、うわぁぁあああああ!!!』
檻の中でカレンは青い火で男を焼きました。その火はカレンの愛と欲望、すなわち魔力の塊です。男の服は燃えて無くなりましたが、身体は焼けてません。愛を知らない男の冷たい心を焦がしたのです。
『心地よいでしょう?今度は一緒に心地よくなりましょう。』
『ううっ……あぁ……』
カレンは呻き声を上げる男に跨りました。男の男根は火に当てられて固くそそり立っています。もうカレンが欲しくて欲しくてたまりません。
『さぁ……永遠の契りを交わしましょう……』
カレンは淫らに微笑むと黒いドレスを自らの火で燃やし生まれたままの姿になると、男根を自らの秘所に当てがい腰を沈めました。肉を掻き分けていく感覚にカレンは少し顔を歪めましたが、嬉しそうに口端を緩めました。
路傍で暴漢に乱暴された時は恐怖と痛みだけでしたが、その時とは比べ物にならない快楽がありました。
繋がった所から一筋の赤い雫が流れています。カレンは嬉しさで青い火をますます燃え上がらせます。
男を受け入れた乙女の中は愛と欲望の火の海で、もう離さないと言わんばかりにキツく男の分身を求めました。男も焼け爛れた自身の欲望に従ってカレンを求め快楽を貪りました。
2人の嬌声と子供が水遊びをする様な淫らな音楽が奏でられています。
男が上で跳ねているカレンを抱き寄せて唇を奪いました。カレンは全身を震わせ、嬉しさのあまり涙を一筋流しました。カレンの体内は蠢き、その最奧にある蜜壺の口は精を受け入れようと、口を鯉のようにパクパクと男を求めています。
男はたまらず呻き声を上げてカレンの胎の中に精を放ちました。カレンは自身の足と手を男の体に絡めています。一滴も逃すまいと魔の火釜は放たれた精を飲み込んでいます。カレンは目をチカチカさせ、口を緩めて空を漂うような絶頂に身を浸していました。
それもつかの間、2人はまた睦合います。
再び始められる愛の宴。
『……来たれ、銀のカンテラよ。』
するとそれをじっと見ていたニコラ陛下はドアーフの職人が魔界銀を鍛え、エルフの職人が魔法の装飾を施したそれはそれは美しいカンテラを呼び出したしました。カンテラは檻を引き寄せてカレンと盗人の男をその中に封じ込めてしまいました。
『これよりお前達は永久に至るまで、その青い火で私の国を照らし続けるのだ。国を治める私がお前達を思い出して暗君とならないように。お前達の様な不幸な者を作らないように。そして愛が……愛こそが世界を照らすのだと言うことを皆が知る為に。』
ニコラ陛下が『永久に使えるのだ』と言ったのはこの事でした。2人は魔法のカンテラに閉じ込められましたが、もうお互いしか見えず、愛を育む事しか考えられません。
こうして醜さの余り美と愛を求めた娘と、貧しさから罪を重ねた愛を知らない哀れな男は幸福と愛を手にしました。
ニコラ陛下は王都の中心に塔を建てて、魔界銀のカンテラを置きました。青い火は美しく燃えています。
ニコラ陛下は言葉通りに善政を敷き、彼等を忘れずに、数々の苦難を超えて平和な国にしました。やがて時が流れて婿を娶り子宝に恵まれた頃、いつしか塔のカンテラの絶える事の無い青い火は"カレンの灯"と呼ばれる様になりました。
カレンと男はいつまでも幸福で幸福で、愛を与え合っています。
今でも"カレンの灯"の優しい光は国を照らし続けています。
おわり。
むかしむかしの事でした。
西の大陸のルークベルクと言う国の王様は聡明厳格な名君でした。
その国は小さな国で、北には西方主神教国のベルモット王国と魔物と手を組む中立国のオランジュ王国が。西には中立国ではあるのですが、いつ攻めて来るかわからないランドル・ファラン王国が。東には主神教福音主義国のクラーヴェ帝国があります。
魔物の国も主神教の国も中立国もルークベルク王国の領土を欲しがりました。その地を手に入れられれば、西の大陸の覇権を握る上で都合が良いのです。
ベルモット王国が攻めて来れば、比較的仲の良いオランジュ王国と魔物の軍が守ってくれました。反対に魔物の軍が男欲しさに攻めて来れば魔物国の軍事介入を良しとしないファラン王国が守ってくれました。今度はファラン王国が攻めて来れば、ルークベルク王国が領土になると大変困るクラーヴェ帝国とベルモット王国が助けて来れました。
その様な国ですからルークベルク王国には沢山の民族や魔物娘が住んでいます。
西方主神教を信じる人もいます。
主神教福音主義派を信じる人もいます。
主神教ユタ派を信じる人もいます。
主神教アシュマール派を信じる人もいます。
主神を信じない人もいます。
他の神さまを信じる人もいます。
肌の白い人もいます。
肌の黄色い人もいます。
肌の黒い人もいます。
魔物娘もいます。
魔物娘を受け入れている人もいます。
魔物娘を受け入れられない人もいます。
ですからこの国には西方主神教を信じる人の地域、主神教福音主義派の地域、他の神さまを信じる人の地域、魔物娘と魔物娘を受け入れている人達の地域があります。
この様な理由でルークベルク王国の王様は名君でなければとても国を治めてはいけないのです。
しかし、名君はいつまでも居る訳ではありません。善政の後には悪政が起るのは世の常です。
王が病気で死んでしまいました。世継ぎ争いを起こさない為に王様は結婚していませんでしたので、喪が明けて、次の王様は前王の弟でした。
これがいけなかったのです。
新王はイスパール王国などの西方主神教国の言う事を聞き始めて、それ以外を認めようとしませんでした。
税金を引き上げて贅沢をしました。
綺麗な王都にする為に沢山の人を元居た所から追い出しました。
王都への魔物娘の出入りを禁止しました。
また自分の気に入らない大臣や貴族に罰を与えたり王都から追放しました。
新王陛下は典型的な暗君でありました。
ここにカレンと言う娘がいます。大臣の娘でしたが父親は亡くなっていました。新王はカレンを母親と一緒に王宮から追い出されてしまいました。理由はカレンが美しく無いからです。
くしゃくしゃの赤毛の髪、ボヤけた輪郭、悪い魔女の様な曲がった鼻、ソバカスだらけの顔、目は燻んだ緑色で、声はしわがれたカラスの様です。
追い出された母親と娘は酷く貧しい生活をするようになりました。
母親は娘であるカレンに辛く当たりました。使用人の様に扱い、身の周りや生活に必要な仕事は全てカレンにさせました。母親はカレンが家事をしている間に何処かに出かけていました。
食事の時、同じ席につく事もありません。母親はベッドで寝ましたが、カレンは納屋に行きボロ布に包まって寒さに耐えて寝ました。
母親の仕打ちは日毎に酷くなり、遂には暴力を振るうようになりました。そのせいでカレンの鉤鼻はますますひしゃげてしまいました。
その年の冬のある日のこと。カレンは母親に暴力を振るわれていました。
『お母さまごめんなさい!ごめんなさい!』
『お前が美しくないから、お前のせいで私まで追い出されてしまった!お前は要らない娘!!』
『お母さま!やめて!!……ぎゃぁぁあああああああああ!!!!』
暖炉の灰掻き棒で叩きながらそう言うと、母親はあろうことか娘のカレンの顔に塩の入った煮え湯を掛けてしまったのです。カレンは叫びながら床を這いずり回りました。
その事でカレンは顔の半分が焼けて爛れてしまいました。
『醜いお前なぞ産まなければ良かった。』
そう言うと母親は知らない男の人と出て行きました。
それから、カレンはフードとは呼べないようなボロ布で醜い顔を隠して王都に程近い貧民街の路上で物乞いとして暮らしました。
『右や左や旦那様。この憐れな物乞いに施してください。』
『よるな、化け物め!』
『醜い物乞いめ!!』
と石を当てられました。
貧民街の物乞いはあの嫌な母親との貧乏な生活よりももっともっと惨めでした。石を当てられない日は無いのです。突然、男の人に乱暴される事もありました。
肌の白い人も
肌の黄色い人も
肌の黒い人も
お金持ちも
貧乏人も
貴族も
平民も
カレンを見ると皆、蔑みの目を向けました。魔物娘達ですら彼女を無視しました。男を取る人間の娘は少ない方が良いのです。
しかし、魔物娘達がカレンを助けない最も大きな理由はまた別にあるのです。それはこの後に出てくる偉い方から語られます。
カレンには誰も頼る人が居ません。誰も彼女を守る人がいません。
カレンは物乞いをします。
施しが無い日はゴミを漁りました。
惨めさから教会へ助けを求めても追い返されてしまいます。
私が惨めなのは私が醜いせい。私がもっと美しければ、私がもっと綺麗だったら。そう、カレンは渇望する様になりました。
そんなある日、通りで何やら騒ぎが起こりました。
憲兵に引かれて物取りの若者が連れられていました。
『この者は盗みを繰り返す重罪人あり、然るべき後に絞首刑に処される者である!……しかし、新しき国王陛下の祝日が近いので、此度特別に条件付きでの恩赦を与える。この盗人と結婚しても良いと言う心優しい人間の若い娘がいるのであれば、この盗人の罪を咎め無いとする!』
ざわざわとそれを見ている人々は騒ぎ始めた。
『誰ぞいないか!この盗人と結婚しても良いと言う娘は誰ぞいないか!』
カレンは恐る恐る前へと出ました。
『……私が。その人と結婚しましょう。』
盗人でも私が助ければ、私の手を取ってくれるかもしれない。私にありがとうと言ってくれるかもしれない。この盗人を助ければ、私を愛してくれるかもしれない。
愛されたい……愛されたい…………
そう思って前に出ました。
人々はカレンを見ると罵り始めました。
『あれは醜い物乞いの娘だ。』
『顔が焼けた醜い娘だ。』
『あの盗人は憐れだ。』
罵り声の中にはクスクスと笑声も混じっていました。
『うっ……なんと醜い。だが心優しい娘だ。盗人よ、どうだ?お前を助けようと言う娘が現れたぞ?』
フードの下のカレンの顔を見た盗人の男は叫び声を上げました。
『い、嫌だっ!!お前の夫になるくらいなら、死んだ方が良い!!!』
男のその言葉はカレンに取って何より辛く、崖から突き落とされたようでした。
『私は路傍の物乞い娘で、私は私の顔が醜いのを知っています。しかし恥を忍んで出て来ました。あなたを救えると思ったのです。それでも、私を嫌と言うのですか?そんなに私と結婚するのが嫌なのですか!?』
『お前の様な醜い娘をどう愛せと言うのだ!』
カレンは泣いて崩れてしまいました。人々は指差し笑ってカレンを見ていました。面白半分に石やゴミを投げつける者もいます。
『これは良い!傑作だ!』
『身の程をわきまえろ!』
『こんな醜い娘は見たことが無い!』
盗人の男はそのまま憲兵に引かれて行きました。人々はひとしきり笑った後、飽きてしまったので去って行きました。
日の沈もうとする薄闇の中、通りには泣き崩れたカレンが1人ポツンと取り残されていました。
『私が醜いから、王様に王宮を追い出された。
私が醜いから、お母さまは私に暴力を振るい、顔に煮え湯をかけ、私を捨てて出て行った。
私が醜いから、私は路傍で物乞いをしなければならなくなった。
私が醜いから、私は男に乱暴されて大切なものを失った。……痛かった。苦しかった。
私が醜いから、人々は私に石やゴミを投げて私を指差して笑う。
私が醜いから、助けようとした盗人まで私を拒絶した。
私が醜いから、不幸せで。
私が醜いから、こんなにも惨めなんだ。
私が醜いから、誰にも相手にされない。
私が醜いから、私は誰からにも愛されない。
私が醜いから。私が醜いから。私が醜いから。私が醜いから…………あは、あははははははははははははは』
カレンの中の何か大切なものが壊れてしまいました。
ふらふらと幽鬼の様に力無く立ち上がると、木に腰布を結びつけ、首を掛けようとしたその時。
『人の子の娘よ。何故お前はそこで身を窶し、泣き啜り、首を自ら括ろうとするのですか?』
カレンが目を向けると、黒いドレスを身に纏い、真っ白な雪のような肌と長い髪を持った美しい女が立っていました。その姿には畏怖すら感じます。
彼女はカレンが欲しいものを全て持っているようでした。女の紫色の瞳がカレンを捉えています。
いつの間にか日は沈み辺りは暗くなっていました。
『もう私は疲れてしまいました。身も心も疲れてしまいました。もう耐える事はできません。どうか私の好きにさせてください。』
『死んではいけない。お前はまだ愛す事も愛される事も知らないではないか?』
魔物娘の女は美しい声で全てを見透かすようにそう答えました。
『美しいあなたに何がわかると言うのですか?私が美しい娘であれば、見れる顔を持つ娘であったのならば王宮から追い出される事も無く、母親から暴力を受ける事も無く、煮え湯をかけられて顔が爛れる事も無く、また捨てられる事もなく、顔をボロ布で隠し惨めに路傍で物乞いをする事もなく、暴漢に乱暴され乙女を失う事もなく、人々から指差し笑われ石やゴミを投げつけられる事も無く、晒し者のような辱しめを受ける事も無かったでしょう。私はただ誰かに愛される事を望んだだけなのにそれすらも許されません………。ですから、美しく幸せなあなたとは違うのです。私は私が醜いので不幸せです。美しい人間の娘は幸せです。幸せになる事ができます。魔物娘は美しさを持っています。幸せになる事ができます。
ですが、醜い人間の娘の私はいったいどうやって幸せになれると言うのですか?
私なぞ……私なぞ産まれて来なければ良かったのに。』
カレンの瞳は嘆きと絶望で真っ黒な闇に染まっていました。魔物娘の女は眉ひとつ動かしません。しかしその紫色の瞳の中には慈悲と怒りの2つの感情が現れていました。
『…………では私はお前に、お前が望む美を与えよう。しかし私はお前に罰をも与えよう。これまでのお前の幸薄い境遇には情状酌量の余地があり、首を自ら括ろうとも同情するに十分に足り得るものである。しかし、お前は愛される事を望むばかりで、心から誰かを愛そうとはしなかった。自身ですら愛してはいまい。他者の美を妬み、執着し、憎むばかりで、盗人を助けようと前に出たのも本質は自身が他者に愛され救われる為である。よって、お前は私から美を与えられ、自身の執着と憎しみの火に焼かれ、私に永遠に仕えるのだ。』
そう女は優しい声で答えました。カレンは恐ろしなりました。青い火が女の手の平で燃えているのです。
『あなたはいったい誰なのですか?』
カレンは震える声で問いました。
『私はニコラ。魔物娘ワイト。私は死の国の王となる者。さて……私は此度この国を魔王猊下の娘、リリムが1人たるカルミナ殿下の名により死者の国に変えに来た。』
するとニコラは手のひらの青い火を解き放ちました。
それは真っ直ぐにカレンに向かい、彼女の胸の中に入ったのです。
『身体が……熱い……燃えるよう……』
『その火はお前の嫉妬、執着、嫉み、怨み。すなわちお前の業。救い難いお前を救うだろう。』
カレンを青い火が包みました。カレンの身体を燃やしていきます。するとなんと言う事でしょう。カレンの身体がどんどん創り変わって行きます。
燃えたところが魂だけの存在へと、青い火と同じものに変わっていくようです。くしゃくしゃの赤毛は絹の様な真っ白な美しい髪になりました。ひしゃげた鼻と焼け爛れた皮膚は元に戻り、カレンの面影を残した彫刻のような美しい顔になりました。シミだらけの肌は翡翠の宝玉のように煌めき、着ていたボロ布は夜を溶かしたような真っ黒なドレスに変わりました。
身体を焼き尽くしても青い火は消えません。やがて自らを焼く青い火を覆うようにドレスの裾から鳥籠のような檻のような何かが作られて未だに燃え盛る青い火を覆っていったのです。
カレンはウィル・オ・ウィスプになってしまいました。
『私はどうなったのですか?』
変化が終わり、カレンは恐る恐るニコラに尋ねました。
『我が眷属になったのだ。私は確かにお前に美を与えた。』
するとニコラは魔法で宙に鏡を創りカレンに見せました。
『これが……私……綺麗……』
『私はお前を不死者に変えた。今より永久に至るまで、お前は私の僕となる。良く働きなさい。』
威厳と優しさの満ちる声です。カレンはニコラに頭を下げてお辞儀をしました。
ニコラはカレンの頭に手をかざして祝福を施すと、沢山の不死者を呼び寄せ王宮へと向かって行きました。
やがてニコラは王宮へと攻め登るとそれに気付いた王と近衛兵が迎え撃ちました。
『何事ぞ!?魔王軍とは不可侵条約を締結していたはず。この度の貴公らの狼藉は外交問題になろうぞ!!』
怒鳴り散らす王様を前にニコラは落ち着いた様子で話します。
『ルークベルクの王よ。貴殿の国は確かに魔物の国及び魔王軍と不可侵条約を結んでいる。しかしながら、死者の国とは条約を結んでいまい。』
『ならば何故に戦線布告も無しに我が城に攻め入ったのだ?』
『……我が国の中で起こった事で、墓の下で眠るには些か忍び無い。ましてや実の兄に毒を盛る様な男に国と民を任せては置けまい。そうは思わぬか?ライサンダーよ。』
『何故その名前を!貴公は、もしや。』
ニコラは両手を広げて死者達を呼び出しました。
『墓の下に行く前、私はニコラス王と呼ばれた者である。』
ニコラの正体は病気で死んだ前王、ニコラスでした。
ライサンダー王と兵士達は跪き許しを請いましたが、もう遅いのです。こうして、一夜の間にルークベルク王国はワイトであるニコラが治める死者の国になりました。
女王となったニコラは国を治める為の法律の整備を始めました。
民は名君の復活に喜びました。
税金を引き下げ、人間の女を不死者に変えました。
貧しくとも暮らしていける様に法律を変えました。
主神教を禁止にはしましたが、信者を害する事はありません。神父やシスターや信者は皆、主神教の国に安全に送られました。
ライサンダーは捕られ、政略結婚の為、蛇の魔物娘エキドナが治める中つ国のある国へ婿として送られました。
『カレンよ来なさい。』
ある時、ニコラ陛下はカレンを呼び出しました。
『はい。陛下。』
『お前にはこの罪人の処遇を任せる。理由は兎も角として、お前自身が唯一救い愛そうと試みた男だ。』
そう言うと、ニコラ陛下は罪人を魔法を使って召喚しました。呼び寄せられた罪人はあの盗人でした。
盗人の男は驚き慌てふためいています。
カレンは盗人の男を見た瞬間に心が動くのを感じました。
『私の運命……幸福……愛がそこに……』
嫉妬、執着、渇望、怨み……そして愛情がカレンの心を焼いていきます。目の奥には欲望と愛への期待でドロドロとした感情を映して口は淫らにほころんでいました。
その有り様を見て男は声を上げて逃げようとしました。
『行っては駄目。』
するとカレンの檻と青い火が独りでに動き盗人の男を中に引きずり込んだのです。
『何をする!?殺すなら殺せ!!』
『殺す?……殺しません。あなたは私と永遠に愛し合うのです。』
『う、うわぁぁあああああ!!!』
檻の中でカレンは青い火で男を焼きました。その火はカレンの愛と欲望、すなわち魔力の塊です。男の服は燃えて無くなりましたが、身体は焼けてません。愛を知らない男の冷たい心を焦がしたのです。
『心地よいでしょう?今度は一緒に心地よくなりましょう。』
『ううっ……あぁ……』
カレンは呻き声を上げる男に跨りました。男の男根は火に当てられて固くそそり立っています。もうカレンが欲しくて欲しくてたまりません。
『さぁ……永遠の契りを交わしましょう……』
カレンは淫らに微笑むと黒いドレスを自らの火で燃やし生まれたままの姿になると、男根を自らの秘所に当てがい腰を沈めました。肉を掻き分けていく感覚にカレンは少し顔を歪めましたが、嬉しそうに口端を緩めました。
路傍で暴漢に乱暴された時は恐怖と痛みだけでしたが、その時とは比べ物にならない快楽がありました。
繋がった所から一筋の赤い雫が流れています。カレンは嬉しさで青い火をますます燃え上がらせます。
男を受け入れた乙女の中は愛と欲望の火の海で、もう離さないと言わんばかりにキツく男の分身を求めました。男も焼け爛れた自身の欲望に従ってカレンを求め快楽を貪りました。
2人の嬌声と子供が水遊びをする様な淫らな音楽が奏でられています。
男が上で跳ねているカレンを抱き寄せて唇を奪いました。カレンは全身を震わせ、嬉しさのあまり涙を一筋流しました。カレンの体内は蠢き、その最奧にある蜜壺の口は精を受け入れようと、口を鯉のようにパクパクと男を求めています。
男はたまらず呻き声を上げてカレンの胎の中に精を放ちました。カレンは自身の足と手を男の体に絡めています。一滴も逃すまいと魔の火釜は放たれた精を飲み込んでいます。カレンは目をチカチカさせ、口を緩めて空を漂うような絶頂に身を浸していました。
それもつかの間、2人はまた睦合います。
再び始められる愛の宴。
『……来たれ、銀のカンテラよ。』
するとそれをじっと見ていたニコラ陛下はドアーフの職人が魔界銀を鍛え、エルフの職人が魔法の装飾を施したそれはそれは美しいカンテラを呼び出したしました。カンテラは檻を引き寄せてカレンと盗人の男をその中に封じ込めてしまいました。
『これよりお前達は永久に至るまで、その青い火で私の国を照らし続けるのだ。国を治める私がお前達を思い出して暗君とならないように。お前達の様な不幸な者を作らないように。そして愛が……愛こそが世界を照らすのだと言うことを皆が知る為に。』
ニコラ陛下が『永久に使えるのだ』と言ったのはこの事でした。2人は魔法のカンテラに閉じ込められましたが、もうお互いしか見えず、愛を育む事しか考えられません。
こうして醜さの余り美と愛を求めた娘と、貧しさから罪を重ねた愛を知らない哀れな男は幸福と愛を手にしました。
ニコラ陛下は王都の中心に塔を建てて、魔界銀のカンテラを置きました。青い火は美しく燃えています。
ニコラ陛下は言葉通りに善政を敷き、彼等を忘れずに、数々の苦難を超えて平和な国にしました。やがて時が流れて婿を娶り子宝に恵まれた頃、いつしか塔のカンテラの絶える事の無い青い火は"カレンの灯"と呼ばれる様になりました。
カレンと男はいつまでも幸福で幸福で、愛を与え合っています。
今でも"カレンの灯"の優しい光は国を照らし続けています。
おわり。
19/01/07 23:56更新 / francois