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第4章 帰還と幸福の復讐
第4章 帰還と幸福の復讐


大きな建物の廊下を歩く。

みなさんまるで亡霊を見る目でこちらを見てくる。クラーヴェの悪魔、エーデルバッハ中佐は有名だから辛いね。新聞やラジオでボクの活躍とか報道されてるし、士官学校のポスターとか、一般兵募集とか、軍のプロパガンダとして広告部に利用されてるからしょうがないね。

あれはシスターかな?ボクを見るなり必死にお祈りしている。神父が軍の犬めと言いたそうな顔で蔑むような眼差しを向ける。小さい男の子がブンブン手を振ってくれた。

ボクは軍靴を小気味好く鳴らし、大理石の廊下を進む。前を進む案内役の警備兵もたどたどしい態度を隠しきれてない。こんな事で軍本部の警備は大丈夫かなぁ?敵はいつ来るかわからないんだよ?



ふふふ...♪



暫く歩き、大きな扉の前に案内されると警備兵のおじさんは敬礼して去っていった。



元老院議会室と書かれた重々しい扉を開け、その中に入ると、胸に沢山の勲章を下げたヨボヨボのおじいちゃん達がこれまた立派な椅子に腰掛けて座っていた。全部で10人で何人かはクルマ椅子だ。それぞれに護衛官が付いている。



カッ!

『クラーヴェ帝国陸軍第1師団第3番大隊長ヨハン・エーデルバッハ中佐、只今、防衛任務を完了し、帰投しました!』

バッ!

(長いんだよね〜舌噛んじゃいそう...)



真ん中に座った陸軍元帥のおじいちゃんが重々しく口を開いた。

『中佐...帰投御苦労。お主の事は、リヒター大尉より報告が上がっておる。作戦中に失踪したとあるが、単刀直入に聞こう。何があり、何をしていた?』

『小官は敵の残党より弾を受け、倒れている所を、我らとランドルの戦の様子を見に来た近隣の農民に保護され、2週間ほど眠っておりました。目が覚め、急ぎ帰投した次第です。』

『残党という事は、戦闘行動が終了してからという事か...』

『そうです。』

『...。』

『ボクからの報告は以上です...ほかに何かございますか?陸軍元帥閣下?』

『良い。お主の大隊長復帰を許そう。エーデルバッハ中佐、これからもクラーヴェの民の為、お主の活躍には期待しておる』



ザッ!

『はっ!』

カッ!



ボクは回れ右をして歩き、扉の前で止まる。


『…時に元帥閣下...何故、あの時、援軍が来なかったのですか?』

すかさず、別の元老院准将が口を挟んできた。

『口を慎め中佐!』

振り返り、准将の方へ向く。

『准将閣下、たしかあの鉱山の近くには陸軍駐屯基地があり、ボクの上官であるクラーク大佐率いる第1師団がいたはずです。ボクたちは3000人に満たない2個大隊で、ランドル側は少なくとも、13000人ほどの一個師団を率いてやってきました。防衛側として地の理を最大限活用して何とか退けましたが...全滅してもおかしくはありませんでした。さて、元帥閣下、単刀直入にお聞きします。彼らは...いえ、あなた方は彼らに何を命令して、いったい何をしていたんですか?』

准将が青筋を立ててドン!!と机を叩いた。

『ずいぶんと雄弁だな中佐!!貴様、たかだか大隊長の分際で我ら元老院に楯突く気か!?』

(はぁ...何でこんな人が元老院准将なんだろう?)

『...作戦行動中、ボクが索敵魔法を行なった所、クラーヴェ兵とも、ランドル兵とも異なる反応がありました。恐らく教団兵のものかと...それに関わりがあるものかと』


『貴様!!』


『准将...少し自重せよ。』


今度は元帥が割って入る。

『しかし、

『2度も言わせるな。お主は戦さ場の指揮官としては優秀だが、いかんせんこう言った事に事欠く...。目の前の彼は君より優秀そうだ。驚く事にあの戦場で生き残り、敵軍を皆殺しにしてまで任務を遂行できたのも頷ける』

あの光景が目に浮かぶ。吐き気が催してくる。カルミナお姉様が言う様に、どうやらボクは本当にもう人を殺せ無いらしい。人間の軍人としては致命的だ...

嫌悪感を顔に出さない様に抑えるのが大変だなぁ



しかし、准将の反応と元帥の言葉から確信を得た。


『ふふふ...ボクわかっちゃいましたよぉ♪...准将閣下の反応から察するに、教団の拙攻兵はボクらとランドルの戦況報告の為で、ここに居る誰かが...おそらく准将閣下がクラーク大佐に命令して軍隊を駐屯地に留め置き、教団の軍隊と合流。そして元帥閣下の言葉から察するに、ボクたちの大隊を餌にランドル公国軍を引きつけ、一度ランドル側に鉱山を占領させる。その後、クラーヴェ帝国と教団主聖軍との連合軍でこれを制圧。それがあなた方の計画でしょう?クラーヴェ側のメリットは鉱山の利権の安全保証を教国と取り付ける為。教団側はランドル公国への政治外交的な介入...まがいなりにも戦勝国として振る舞えるからね。...ついでに言うとボクが生きている事を多分、いや...恐らくフレデリック・リヒター大尉を始め大隊の皆んなは知らない。差し詰め、この部屋を出た後、軍宿舎までの間にボクは暗殺される、若しくは拘束される予定だから。...どう?当たり?』



ボクは笑顔を向けるも、皆んな氷ついたように静まり返る...図星だね♪


パン、パン、パン、パン...


そんな中、元帥閣下が拍手を送ってくれた。ありがとう元帥閣下。さすがにこの人は手強いらしい。



『ははは...素晴らしい。実に素晴らしい洞察力と度胸だ...ラインマイル准将、彼を見習いたまえよ。エーデルバッハ君、いかにも、我らの計画は概ねその通りだ。我々の誤算は君が思ったよりもやり手で優秀で素晴らしく、あの戦で多大な犠牲を払ったとはいえ、勝利してしまったと言う事だ。おかげで教団側のランドル公国への介入の大義名文は無くなってしまい、計画は失敗してしまったが、教団側の軍備と規模、兵練度などを見る事が出来ただけでも良しとしよう』


『お褒め頂きありがとうございます♪おじいちゃん達は可愛いボクとボクの大隊を捨て石に利用したと言う事ですねぇ』

『ははは、否定はせんよ。おかげで私はお主に興味が沸いたよ。クラーヴェ帝国に戦場の悪魔有りと他国に言わせるのも頷ける。さて...どうだね?中佐、そこのラインマイル准将のかわりに元老院に入って貰えんかね?お主なら歓迎する。』

『なっ!!?』

准将は冷や汗をかき、目を白黒させている。少しは表情を隠す努力をしてほしいなぁ〜

『...そこにいる汚い豚野郎が座っていた椅子など願い下げです★』

『き、貴様!

『准将!挑発に乗るな...だからお主は無能なのだ。自身の低脳さをこれ以上露呈させたくなければ黙れ。...失礼。不出来な部下がすまんね。』

『いえいえ、きにしてませんよ♪』

『時に、お主の部下...リヒター大尉だったかな?今は少佐だが...

(おぉ♪お兄ちゃんが出世した★フレデリック少佐...かっこいい❤)

アレも優秀そうだ。お主は良い部下を持ったようで羨ましい限りだ。さて...お主が私の誘いを断るのなら、始末しなければいけないのだが...その前にこの老人に聞かせてくれんか?...何故お主は先の話を私にしたのか。2つ目に何時お主は我らの企てに気づいたのか。』

目の前の老人は穏やかな笑みを崩さない。単純に興味があるみたいだ。他の感情を一切感じない。ボクから言わせればこのおじいちゃんもまたバケモノでしかも優秀で度胸もある。さすが元帥閣下。ここにいる皆んなも見習ってほしい。とくに准将さん


『…まず2つ目の質問から。戦場で陣を敷いた時になんとなく違和感を感じ、もしかしたらと思いました。それから援軍要請の伝令を放って半日経っても戻ってこなかった時にもしかしたらが多分に。索敵魔法を使い、教団の拙攻兵を発見した時にその多分が恐らくに。そして...今回、軍本部に戻った所、クラーク大佐にこの場に出頭する事を言われ、元老院議会室に来てみれば短すぎる基礎報告と先ほどの話しでの准将さんの反応とおじいちゃんの言葉から確信に変わりました。少々あからさま過ぎますねぇ…』

『なるほど...思いの他、気付くのが早かったようだ。感心する。しかし、准将の反応は致し方無いとして、私の言葉からとは?』

(質問多いなぁ...目をキラキラさせちゃって...余程退屈だったんだなぁーわかるよー)

『それはね-★おじいちゃんが言った‘‘驚く事にあの戦場で生き残り、敵軍を皆殺しにしてまで任務を遂行できたのも頷ける(声真似)”...と言ってたけど、これって誰かによって戦争行動が仕組まれたということでしょ?それからおじいちゃんは‘‘中佐”と2度言ってます。自分で言うのもですけど、あれだけの項を立てれば階級特進しているのが普通でしょ?最低でもボクの階級が大佐か准将になって無いとおかしいですよ〜』

『はははは!…迂闊だったよ。お主は頭が良いなぁ!』

『いえいえ、おじいちゃんもキレキレですよ♪』

ボクとおじいちゃんは笑い会う。そしておじいちゃんがガラリと空気を変えた。

『…して、最初の質問の答えは?気付いているのであればお主が我々にあの話しをしても得はないと思うが?』

『あぁ、それはすごーく個人的な理由です。』

『ほう...?』

『ボクが先ほどあの話しをしたのは、ボクの大隊と自分を殺そうとした奴の顔をこの目で見たかったからです★』

『うむ…少々、若さゆえの無鉄砲さはあるが、やはり胆が座っておる...お主を殺すのは実に惜しい...』

元老院と護衛官がそれぞれピストルを取り出してボクを狙う。

『ははは...ご心配して頂きまして痛み入ります。でもそんな心配には及びませんよぉ?あなた方にボクを殺す事はまず出来ませんし♪』



パチン!



ボクは指を鳴らした。ピンク色に輝く魔法陣が足元に浮かぶ。すると魔法陣の中からサキュバス達が飛び出してきた。サラ少尉とその部下達だ。彼女達はそれぞれ気に入った護衛官に取り付いた。護衛官達はピストルを撃つも1発も当たらない。彼らはサキュバス達に触れられた途端に、動けなくなった。軍隊は基本的に男の人が大多数を占めるから女性に対する免疫が極端に無い。

元老院議会室には唾液のクチャクチャという音が響いている。

あぁ羨ましい。ボクも早くフレデリック兄さんと...❤❤

『中佐ぁ!これは一体どう言う事だ!?』

『准将さん。見ての通りですよ。魔物と手を組んだんです。身体は動きませんよねぇ。魅了の魔法が効いてるはずですから❤あっちもギンギンのはずです★』

『く、ただて済むと思うなよ!』

椅子から立ち上がれないのに威勢だけは良い。

『ふふふふ...あぁ怖い怖い♪そんな怖い准将さん達には少し静かになって頂きましょう★』


パチン♪


ゴウン...


今度は、元老院将官の前に拷問具を召喚する。得意の拷問魔法だ♪呼び出したのは鉄の処女...本来はその中にビッシリと鋼鉄製の針が所狭しと並んでいるが、ボクが直々に作った特別製で、魔界銀製のボディ、内部は針の代わりに触手の森の触手が所狭しとひしめき合い、ヌルヌルの粘液を滴らせながら、ウネウネと蠢いている。


『うっは〜...ちょっとグロいかなぁ❤』

内部の触手の影響か、鉄の処女自体が意思を持った生き物みたいになっている。元老院将官のおじいちゃん達は皆んな恐怖に震えて、顔を引きつらせ、失禁している者もいる。

准将はどうやらこの中では1番若輩らしく、リアクションが大きく、弄ると楽しい♪

『誰か!ワシを助けろ!!...くそ!何故誰も来ない!!...止めろ中佐!止めてくれ!!くそっ!動けない...動け動け...何故だぁ!!』

『だぁれも来ないし、ここから出られないよ?理由を教えよっか♪』

パチンと指を鳴らして、消音魔法を解く

すると部屋の外の音が聞こえてくる。艶かしい水音や男女の喘ぎ声、嬌声がうるさいくらいに響き渡っている。


『こういうこと❤』


准将がどんどん青ざめていく。鉄の処女から触手が准将の頬をぬるりとなぞる。


『ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!』


『准将さん、大丈夫だよ?とっっても気持ちいいから♪僕も試作品を試したけど病み付きになっちゃうよぉ❤』


うねうねうねうねうねうねうねうね..........


『ひっ...ひいぃぃぃ!!中佐ぁ!!後生だ、止めてくれ、助けてくれ!!』

















『....やだ♪』


パチン!


鉄の処女が震えて横の壁が開いていく...


ギイィィィィ....

ガコン!!


じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる...


シュー...シュー...



『拘束せよ★』

ボクの命令で鉄の処女から触手が獲物目掛けて飛び出した。



バシュシュシュシュシュシュシュシュ!!!




憐れなおじいちゃん達は次々と触手に捕らえられて鉄の処女の中に治まっていく。

バタン!!

バタン!!

バタン!!

バタン!!

バタン!!

バタン!!

バタン!!

バタン!!

『中佐!中佐!中佐ぁぁぁあああ!!!』


『ふふふふ...♪お幸せに❤』


ギイイィィィィィィィ..........



バタン!!!!.....



これで残るは元帥のおじいちゃんだけ。だけど冷や汗1つ付いてない。普通の神経じゃない。本当に人間かなぁこの人?

『これで残るはおじいちゃんだけです。ゆっくりお話し出来ますね♪...それで何で、おじいちゃんはびっくりしてないし、抵抗もしないの?』

髭を触りながら思案するような格好でおじいちゃんは答える。

『はは、どれ、可愛いい孫(仮)に教えてるとするか。まず、抵抗をしないのはこの状況がもう積みの状況だからだ。お主と魔物が此処を占拠し、護衛は機能せず、助けも呼べず、逃げられない。そして抵抗をすればその後に来るであろう会話の機会や、今の状況よりいささかマシな選択肢を棄てる事になりかねん。お主のような趣味趣向を持つ者は例え敵であっても、この様な会話の機会と時間や選択肢を選ぶ問とそれを思案する間を必ず用意して対象者に突き付けてくるはずだからな。』


『つまり、信用してくれたの?』


『ある意味ではな...お主は私と同類だ。若い頃にそっくりだよ。もっとも、神経はお主より図太く、身体もお主よりだいぶでかかったがな』


『びっくりしてないのは?』


『...覚悟をしていたからだよ。いつかこういう時が来る‘‘かも知れない”と常々思っていた。それが今だとは予想だにしていなかったが、それだけのことだ。驚くに値せん。』


『そっか...ついでにもう1つ教えて?おじいちゃんは平和な世界を作れると信じている?』


すると、おじいちゃんは目を丸くして、少し懐かしむような、そんな表情でこっちをしっかりと見ながら


『ああ、信じているとも。』


『ふふふ...ボクもです。でも、おじいちゃんのそれとは違うみたいだね。...どう?ボクとの時間は楽しかった?』


『想像以上だ。久々に楽しい時間を過ごせたよ。...さぁ、もう良いだろう...殺せ』


パチン★


おじいちゃんの目の前に鉄の処女が現れ、ガコンと音を立てその扉が開かれる。

『おじいちゃん...おじいちゃんには最後に教えてあげる。ボクはこの場で誰一人も殺してないよ。人間を愛すること、それがボク達の幸せだから…』

ボクはおじいちゃんの目の前で魔法で隠していた角と羽と尻尾を出した。

『はは、お主は孫娘(仮)だったか。』

『そうです。あの戦場で魔物娘に助けられたヨハンは魔物娘になりました。ヨハンはもういません。ボクはハンナ。魔物国カルミナの...ハンナ・エーデルバッハ。これからボクは魔物としておじいちゃん達人間を幸せにします❤』



バシュシュ!!



ガコン!!



鉄の処女がおじいちゃんを捉えてその中に押し込んだ。合計10個の可愛い拷問具達は魔方陣の中に吸い込まれる様に消えていった。元老院さん達で伴侶がいる者は魔物化した後で一緒にさせよう。鉄の処女に包んでプレゼント...なんて素敵なんでしょう♪


(ハンナ・エーデルバッハから魔物娘各部隊へ、帝国陸軍本部制圧完了。これから帝都制圧にかかります。まだ旦那様を見つけない娘はこれから頑張りましょう〜★)



((((((了解 !!))))))









さぁて...待っててね...お兄ちゃん❤❤❤













16/09/09 10:12更新 / francois
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■作者メッセージ
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。

どうも、francoisです。今回のお話はぶっちゃけても、ぶっちゃけなくてもクーデターです。ハンナちゃんは、ヨハンくんの時よりもタチが悪い感じがします。作者が言うのも何ですが....

さてさて、恐らく次のお話がラストになります。皆様もう少しお付き合い下さい。

ではでは U・x・Uつ

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