下
下
祝福のお祈り、ワインを一口、それからお祝いの料理を2人で食べ、毎年と変わらない誕生日。
しかし、それもエルザの一言で唐突に終わってしまった。
『……ノーマン……大事なお話があるの。』
『はい……お母さま。』
いつになく、真剣なエルザの表情にノーマンは幼いながらも真っ直ぐに全てを受け入れようとしていた。
『……お前の過去について、お前に伝えなくてはならない。』
エルザはノーマンの肩に手を置き、ノーマンは母親の手を握った。
『はい……』
エルザはノーマンに自身が魔界最高裁判所の執行官であること、ノーマンが過去に戦争に際して政治的な大罪を犯したこと、裁判で裁かれエルザのところに来たこと、胎牢の刑のこと、それからエルザから産まれたこと。それらを全て話した。
『…………』
ノーマンは黙り混んで聞いていた。
『僕は……その、ノーマン・ビショップ司教が昔の僕なんですね……?』
『ええ、そうよ……』
ノーマンは今にも涙が零れ落ちそうなのを必死でこらえてエルザを見つめた。
『今の……今の僕は何者ですか?』
『……それは、お前自身がこれから見つけてごらん。でも、私にとってお前は胎を痛めて産んだ私の愛しい坊やなんだよ。』
それを聞いてノーマンはエルザの胸で泣いた。エルザは愛しい坊やをぎゅっと抱きしめ、受けとめた。
『僕にはそれで十分です……僕はあなたの息子……』
エルザは愛しい坊やの背中をさすると頭を撫でもう一度ノーマンに向き合った
『……私の愛しい坊や……もう一つだけ、お前に聞きたいのだけれど……お前の記憶……お前はどうしたい?』
『お母さまは、その僕の記憶の事で悩んで……それは僕の過去の行いで……だから、知らなきゃいけないことです。……だから……』
ノーマンは真剣な眼差しでエルザを真っ直ぐみつめると、エルザは目を閉じノーマンの頭に手をかざした。
柔らかい光がエルザを包む。彼女の額にノーマンと同じく、星型の魔方陣が浮かび上がった。
エルザは大きな蝙蝠羽を広げノーマンを包み込むと彼の額にある星型の魔方陣に自身の額のそれと重ね合わせ、祈ると額を外した。
『私の愛しい坊や、お前の記憶を返そう。』
ノーマンは柔らかい光の中、自分の内側に意識を持って行かれるような、引っ張られるような感覚に任せ、意識を手放した。意識を手放した瞬間、エルザが聖典に出てくる天使に見えた。
ノーマンは意識の中、光の渦の中にいた。
様々な光景が広がって、自分の中に入っていく。
人々の顔、荘厳な教会、様々な出来事
それらの全てが自分の中に入ると、そこは真っ白な世界だった。
“ノーマン……ノーマン……”
誰かがノーマンを呼ぶ声が聞こえてくる。すると、白い衣に身を包んだ茶色い髪と緑目の男がノーマンを呼んでいた。
“あなたは?……僕はあなたを知っている気がします?”
すると、緑目の男はゆっくりと口を開いた。
“私はお前で、お前は私だ。つまり、私は過去のお前自身という事になる。”
“過去の僕。さっきの光の渦はあなたの記憶……”
“そうだ……そして、私は過去の意識の記憶……感情や人格の記憶。”
“あなたは……いや、僕は!!”
現在のノーマンは先ほどの光の渦にある出来事に対して過去の自分に声を荒げた。
“……全て現実に私が起こした事だ……許されない事だ……”
“そんな……”
“過去を変えることは出来ない。しかし、未来を変える事は出来る。過ちを犯した私がお前に対して偉そうなことだか……私はあの悪魔に……エルザに救われた”
“でも、罪を消す事は出来ない。”
“そうだ……現在の私よ。お前と私には決定的な違いがある。”
“お母さまと生きた13年間の僕自身の記憶と…あなたの……過去の僕の行いと結果を知っている。でも、あなたは、現在のノーマンの…つまり僕のお母さまと生きた13年間を知らないって事?”
“そうだ、聡い子よ……私は意識や感情や人格の『記憶』であって、意識や感情や人格そのものではない。それはエルザによって産まれ変わった現在の私であるお前が持っている。”
“……過去の僕。何が言いたいの?”
“つまり、現在の私よ……エルザにより産まれ変わったお前に、過去である私が仕出かした大罪とは関係無いという事だ。”
“…………”
“現在の私よ、お前にはこのまま物理的な記憶だけを引き継いでほしいと思う。私はお前に必要無い。現在のお前の魂を穢してしまうかもしれない。私を取り込んでしまったら、お前は今までの自分ではなくなるだろう……”
“それは駄目だよ……あなたが感じた事、その心や、思いは、それがどんなに辛くても、どんなに汚れていても、あなたの…つまり、僕の大事な宝物で……掛け替えの無いものなんだよ。”
“私を赦すのか……?”
“過去の行いや罪に肯定も否定も出来ないよ……だけど、僕が赦さないで、他の誰があなたを赦すのですか?”
現在のノーマンは過去のノーマンに手を差し出した。
“聡い子よ……お前は今、救い難い悪人を確かに救ったのだ。ありがとう……”
過去のノーマンは差し出された手を取ると、2人は散りゆくジパングのサクラのように消え始めた。
““ドンナ・ノビス・パーチェム...…お前に平和がありますように……””
そして……
過去と現在は混ざり合った。
ノーマンはエルザの腕の中で目覚めた。意識の中に旅立った時の状態のままで、あれから時が幾ばくも経過していないことを物語っていた。
『……ただいま』
『おかえりなさい……』
エルザは意識の中から帰ってきたノーマンを迎えた。
『それから、悪魔エルザ……私のお母さま。僕を救ってくれてありがとう。』
『全てを知ったのね?……それでお前は過去か現在のどちらの自分を選んだの?』
『……両方だよ。現在の僕は、過去の私と混ざり合ったんだ。僕は私で、私とは僕だ。消したい過去も……母であるエルザがいる幸せな現在も……どちらも大切だから。それは大切な心の中にある宝物だから。』
それを聞いてエルザは静かに驚いた。
過去の記憶の感情や人格と混ざり合う。通常はあり得ない。記憶は記憶に過ぎず、人格や感情そのものではないからだ。
胎牢の刑執行後、保護観察期間終了である受刑者の13歳の転生誕生日に受刑者の記憶の処分を決定する。殆どの場合、執行官と受刑者の合意により転生前の記憶を抹消する。
記憶を返還する場合、大抵は人格や感情そのものを持っている現在の意識が残る。例は少ないが、ごく稀に過去の人格や感情の記憶に意識そのものを譲渡して過去の意識が残る……そのどちらかのケースしか聞いたことしかない。
要は、現在・過去の人格と感情は他人のものと差は無い
執行官による受刑者の魂の書き換えや記憶の改竄が禁術なのは、魂の拠り所や在り方を第三者が侵してはいけないからだ。
現在のノーマンが過去のノーマンと混ざり合うこと……つまり、彼は魂の書き換えを自分で望んでやった事になる。魂の拠り所、その一切を一度捨て、まっさらにして……おそらくそれを望んだのは、あの優しく無垢なエルザが育てた現在のノーマン。
自身の過去を肯定も否定もせず
ただ受け止めて
他者に赦しを与える
その選択はまるで……
『私の愛しい坊や……お前はまるで聖者のようだね……さぁ、お前に祝福を与えよう……』
ノーマンはエルザの前に跪いて頭を下げると、エルザは彼の頭に手を置いて祝福を施した。
!!!!!!
突然、光の柱がノーマンに降り注ぎ、彼を包み込んだ。
エルザが施したあらゆる結界を打ち破りそれは天から来た。
リンゴーーン……リンゴーーン……リンゴーーン……
“ノーマン……ノーマン……ヴェニド・アド・ベネディクト”
(ノーマンよ、お前に祝福を与えよう)
『主神さま?……天の王様……』
“ヴェニド・アド・ルーチェ・イ・オンブラ……カリシーミ……メイ・カリシーミ”
(光と影の全て与えよう。息子よ……我が息子よ……)
リンゴーーン……リンゴーーン……リンゴーーン……
鳴り響く鐘の音色と共に、低く優しい声がノーマンを呼ぶ。今正にこの時、光と恐怖は同意語であった。
『天のお父様……あなたの子は…ここ…に……』
ノーマンの手の平と足の甲に金色の光で文が刻まれた
『これは!!……主神様の!!ノーマン!応えてはいけない!!!』
『エルザ!?エルザ……お母さま!!!』
ノーマンはエルザを呼び、エルザに手を伸ばす。エルザはノーマンを呼び手を伸ばすも光の柱に阻まれている。ノーマンの体が光の柱の中をゆっくりと登っていく。
『行ってはだめ!!……主神よ!なぜですか!!?なぜ奪うのですか!!!……ノーマン!……ノーマン!!!』
ヒュパン!!!!
突如として空間が切り裂かれ、その狭間から真っ白な悪魔と剣を携えた悪魔が出て来た。
『ミエル!!』
白い悪魔は、闇を作り、光の柱を霞ませると、ミエルは携えた剣を振るい、別の空間の裂け目を作った。
『話は後だ!!その坊やを連れて逃げるぞエルザ!!』
『私が時間を稼ぎます!』
『カルミナ様、お願いします!!』
エルザはノーマンの手を引き裂け目に向かって飛び込もうとするも、光の柱から伸びた手に右の羽を掴まれた。
『ぁぁぁああああ!!!』
ブチブチブチブチ!!!!!
エルザは羽を無理やり引き千切った。ミエルはエルザとノーマンを受け止め、3人は空間の裂け目に飛び込んだ。
飛び込んだ空間の裂け目の先は銀に輝く荘厳な大聖堂だった。歪んだ装飾、人と魔物がまぐわう彫像にステンドグラス、螺旋状に重力までもが捻れた地面や階段や回廊には無数の柱や窓がならんでいた。
空間の裂け目が閉じ、ミエルは剣をカシャリ……と鞘に収めた。
エルザの腕の中にはノーマンがしっかりと抱かれている。
『お母さま血が……!!』
エルザの背中からは引き千切られた右羽から痛々しく血が流れていた。
『大丈夫よノーマン……ここはパンデモニウム……』
『そうだよ。ひとまずは安心していい……エルザ、忠告した通りお前たちをここに幽閉する……と言いたいのだが、今それは出来そうにない。状況は少々厄介な事になった。此処も完全に安全じゃない。』
『どういうこと?』
『原因はその坊やの存在だ。主神から狙われている。理由は、お前が聖典と信仰をその坊やに教えた事。二つ目に悪魔……いや、天使の成れの果てであるお前から試練と祝福を受けた事。そして最後に、この坊やが自分の意志で魂の書き換えを行なった事だ。』
『エルザお母さま?』
『…………』
『エルザ……坊やに転生前の記憶を渡したな?』
『ええ…そうよ……!?……祝福と試練……記憶の復元……魂の書き換え……』
『はぁ……そのおかげでお前の“愛しい坊や”は、まがいなりにも“聖人”になる条件を満たしてしまった。慈愛と信仰を持ち、試練に打ち勝ち、気高い精神と無垢な心……主神好みの浄化をすれば、あっと言う間に“聖人”の完成だ。』
『…………』
『一度、私はお前たちを助けられずに、聖別されてしまった坊やを見た。通常の時空間魔法ではどうにも主神から逃げられなかったんだ。聖別された坊やはまぎれもなく主神の人形だった……それを見た後、私はその結果を変えるべく、この剣で時間と空間を切り裂き、坊やが主神に聖別される前に飛び、リリムであるカルミナ様に助けを求めたんだ。……なんとかうまく行ったが、主神に勘付かれてしまった。少なくとも1聖紀(100年)はこの剣は使えないだろう。使えば今度こそ居場所がバレて私は主神に消されるだろうなぁ……』
『……ミエル、無茶をさせてごめんなさい。』
エルザとノーマンはミエルに感謝し、頭を下げた。
『礼なら、カルミナ様に言ってくれ。あの方が居なければ逃げられずに失敗していたさ。……さて、本題だが、エルザ!今すぐこの坊やと契約しろ!!』
『それは!!……どう…いぅ……』
『主神が欲しがってるのはその坊やだ。だから、お前の手で完全に堕落させればいい。そうすれば禁欲を良しとする主神の加護対象から外れ、坊やは聖人の資格を失い、主神も諦める。坊やはすでにインキュバスだが、まだ“純潔”だ。その“純潔”が原因で、主神からの力を受けやすく、悪魔エルザとノーマンの絆という“穢れ”を容易く浄化されてしまう。』
『で、でも……!!』
『坊やが主神に奪われてもいいのか!?主神の奴はご丁寧に聖別の印……聖痕を坊やの両手足に付けていった。このままだと、パンデモニウムに居てもいずれ必ず見つかるぞ!!坊やが主神に目を付けられた以上、此処も完全に安全じゃあないんだ!……それとも、その坊や私の好みだから、今から攫って私が契約しようかな?』
ミエルはノーマンに舌舐めずりをする様な目線を送る。彼女の言葉を聞いたエルザの表情が氷ついた
『あなたも……私から……この子を……奪おうというのですか………!!!!!!』
エルザの身体から凄まじい魔力が漏れ出している。禍々しく、狂気すら感じる靄のようなそれはミエルを取り囲むように渦巻いている。
『渡さない……渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない……!!!!!!!!!』
『お母さま!?』
『ハハッ!ようやく本心を見せたな!!』
『ミエルにも……例え、主神にも私の愛しい坊やを渡さない!!!』
ミエルも魔力を溢れさせ、ただならぬ空気が流れる。
エルザとミエルの魔力がぶつかり合おうとした瞬間、ノーマンが2人の間に割って入った。
『もうたくさんです!!僕のことでこれ以上争わないで下さい。……全ては僕の責任です。』
ノーマンの仲裁で2人は矛を収めた。
『坊や、ノーマンといったな?……私は何も本気でエルザからお前を取ろうとは思わないよ。ただ、エルザの本心を確かめたかっただけだ。』
『え……?』
『坊や、お前はどうなんだ?エルザを愛しているか?』
『愛してます。』
即答したノーマンの言葉には残念ながらミエルが期待した意味は入っていなかった。とても純粋で穢れない、隣人愛と別け隔てない愛のアガーパス。そして母親に向ける愛。
『違うんだ……いや、私が悪かった。坊や、質問をかえる。エルザとずっと……そう、永遠に一緒にいたいか?』
『はい。』
ノーマンの返事を聞いたミエルは、冷静さを取り戻したエルザに目を向ける。
『……坊やはお前と永遠に一緒にいたいと言っている。あとはエルザ、お前次第だ。……私はほとぼりが冷めるまで消えるとしよう。願くば、坊やが主神に奪われていない事を祈るよ……』
そういうと、ミエルは空気を歪めて消えてしまった。
『ミエルにしてやられたみたいね……。ノーマン……私は、お前を誰にも渡したくない。例えそれが主神様でも……。今まで、お前がずっと私の側に居て、それが当たり前だと思っていた。だが、それだけでは不十分なんだよ。愛しいお前を永遠に私のものにしたい。さっきの答えはお前の望みか?』
エルザはノーマンを抱き寄せ、残った左の羽でノーマンを包み込んだ。
『お母さまは……悪魔エルザはなんども僕を助けてくれた。信仰とは名ばかりだった僕は司教となって人々を苦しめ、大罪を犯し、回廊を歩いて裁きを受ける為に連れてこられて、そんな僕をお母さまは赦し、産んでくれて、子にしてくれて、愛を教えてくれて、幸せを与えてくれた。だから僕は自分を赦せた……主神様に連れ去られようとした時、嬉しかった。でも……お母さまと離れるのだけは嫌だった。だから、悪魔ミエルの質問への僕の答えは僕の本心です。……あなたを心から愛しています。』
エルザはノーマンの言葉を聞いて、それが、母親に向ける愛で、別け隔てない愛であっても、自分自身の罪にも似た欲望を自覚し、満たされる思いと渇き続ける独占欲を感じた。
穢れない……私の愛しい坊や……
まだ
もっと
もっと
堕ちてほしい
私に溺れてほしい
その肉も
その心も
お前は私のものなのだから………
血を零した様な夕暮れ色の瞳が沈むように暗くなると。紫色の光がエルザの身体に文様を書いていく。
コントゥラクトゥス
契約を
アルタリス・エト・オミニア・メア
私はお前に全てを捧げよう
アルタリス・エト・オミニウム・ヴェストルーム
お前の全てを私に捧げるのなら
ガルディウム・エスト・イメンスム・アクゥエ・プロブム
その喜びは限りなく素晴らしく
セクウラ・ペル・インフィニタ・セクロウルム……
今より永久に至るまで……
溢れた魔力が歌を奏で、エルザの唇に魔力が集まっていく。その動きと仕草からノーマンはエルザがこれから自分に何をするのかを悟った。ノーマンはエルザに初めて会った時のように動くことが出来なかった。
それでも良いと彼は思った
エルザの全てを赦し、全てを受け入れようと
目を静かに閉じ顎を少し上げる
エルザの顔が近ずき
契約を交わす
いつもの額や頬にするキスとは違う
唇と唇でする甘い甘い口づけ
もう戻れない
打ち込まれる魂の楔
主神が刻んだ聖痕を悪魔が刻む烙印に塗り替えていく
右の手のひらに
左の手のひらに
右の足の甲に
左の足の甲に
額に
胸の真ん中に
星のような魔方陣が刻まれ、エルザと同じ様にノーマンの身体に文様が浮かび上がる
エルザの舌がノーマンの口内にするりと入る
くちゃ……
流し込まれるドロリと絡みつくような甘い甘い魔力とエルザの唾液
ノーマンの頭に響く姦淫の水音
くちゃ……ん❤……
くちゅ……んぁ❤……ちゃぷ❤
くちゃ❤……
はぁ……はぁ……
逃れようともエルザの舌はノーマンのそれを執拗に、陰湿にズルズルと捉える
思わず息をする事を忘れるほど深い深い口づけ
離れた口の端に唾液の橋が架かる
ぷはっ……
『これで、お前の全ては私のもの……❤』
『はぁ……はぁ……』
脳がとろけそうな程の快楽を与えられて、ノーマンは息も絶え絶えで立っている事もままならない。転生して13年……転生前も後も性に関しては聖典に書かれている事以上を彼は知らない。ましてや今のノーマンの身体は13歳の少年で、その身体には余りにも大き過ぎる快楽をその身に受け、エルザにもたれかかり、緑色の涙目を虚ろな目で上目遣いに彼女を見ながら息を荒げていた。
その彼の初々しい反応は、エルザの劣情の炎にさらに油を注ぎ入れる結果になるとは知らずに……
『私の愛しい坊や……お前の知らない愛を教えよう……❤』
ノーマン耳元でエルザが囁く……
『ひぅ!?』
するりとノーマンのローブをすり抜けエルザはノーマンの分身を愛撫する。
『あっ…!や……ひぅ!……』
『クス……お前のココはどうしたのかなぁ?』
やわやわと滑らかな絹のような手が触れる度にビクンと初々しい反応をエルザに返した。
『わか……やぁ……ん……ら……なぁあ!』
ノーマンはするすると、みるみるうちに裸に剥かれ、エルザも一糸纏わぬ美しい姿になっていた。
とうとう立っていられなくなったノーマンはその場に崩れ落ちてしまう。エルザはノーマンを優しく抱えるように押し倒した。
ノーマンが押し倒された地面はふかふかで柔らかかった。見ると壁や、床や、装飾が歪んだり、ねじれたりしながら型を変えて、ノーマンは大きな部屋の大きなベッドの上でエルザに覆いかぶされていた。
『ここでは、お前と私の2人だけ…』
すると、エルザはノーマンの分身から手を引き、頭を下げ、彼の分身に頭を近づけ、それにキスをした。
あっ……
と、彼の口からか弱い声が漏れる。エルザは口を開き、ちゅぷり……と彼のまだ未発達なペニスを飲み込んだ。
『…………!!!???』
エルザはノーマンの分身を口に入れて飴玉を転がすように舐めはじめた。じゅるじゅると音を立てる口の中で、蠢く舌が皮と本体の間に舌を潜り込みゆっくりと剥かれていく。ノーマンは蕩けるような快楽と緩い傷みのなかで声にならない悲鳴を上げて悶えていた。
『お母……さま!おしっこが……おしっこが!!』
エルザは妖しく微笑むと一気に喉の奥にノーマンの分身を突き入れた。
『ぁぁぁああああ!!!』
ビクンとノーマンの体が陸に打ち上げられた魚のように跳ね上がり、その動きに合わせてどくどくと性液をはきだした。
チカチカと真っ白くなる視界と意識の中、ゆっくりと力が抜けていく射精の感覚と快楽をエルザにより深く深く脳髄の奥に彫りこまれた。
ちゅぽん……
エルザが口を離すと、彼女がノーマンに見せつける様に口を開いてはきだした白い性液を口の中でチロチロと味わいゴクリと飲み込んだ。
(お・い・し・い❤❤❤)
ノーマンの精を飲み込んだエルザがビクンと震える。彼女の秘所からは止めどなく欲望が溢れでて、太ももを濡らしていた。
今まで、毎日お風呂や寝るときにエルザの裸体を見ていて見慣れてるはずたが、ノーマンは美しい母親の身体から目を話すことが出来なかった。
性を自覚し
自分の中に芽生える新しい感情に
今まで持ち得なかった欲望が
エルザから目を離すことを拒んだ。
くゅちゅり……❤
艶かしい音と共に、エルザの右手が彼女の秘所に触れる。ノーマンを誘うように足が開かれ、まるで食虫植物に吸い寄せられる羽虫のようにふらふらとノーマンはエルザの秘所に近づいていった。
『ここから、お前が産まれたんだよ……ん❤……お前を産んだ時に膜を失ったが、私も初めてだ……』
くぱぁ……❤
と……悪魔の花が開かる。肉の花びらはヒクヒクと動き、上にはぷっくりとした肉の芽が……中からコプリと蜜が滴り落ちた。
『……お前の好きにしていいんだよ?さぁ、おいで……私の愛しい坊や』
どうすればいいのか、本能と芽生えたばかりの欲望がノーマンに告げる。力を取り戻した自らの分身を悪魔の秘所に当てがうと、エルザは愛する息子の分身に手を添え自らの奥へと導いた。
『『ーーーーーーーーーーーー』』
2人の口から声にすらならない声が漏れた。お互いの全てを捧げ合い、奪い合う。エルザはノーマンをねっとりと絡みつくように執拗に、陰湿なまでに優しく迎え入れる。子宮が降りきっており、ペニスの先をあむあむと子宮口がよだれを垂れ流しながら吸い付いている。
多幸感、安心感、快楽、献身、欲望、そして愛……この世の悦楽が全てここにあるようで、エルザにとっては胎を痛めて産んだ我が子と、ノーマンにとっては最愛の母親と交わるという禁忌を犯す背徳感が極上のスパイスになっていた。
『おかえり……母さまは嬉しいよ…❤❤』
『お母さま……お母さま……』
ノーマンはエルザから与えられる蕩けるような快楽により、彼女を譫言のように呼ぶだった。まるで洪水の中で流木にしがみつくように彼女に抱きついて動けずにいる。
ぱちゅん❤
『ひうぁ!!??』
一突き。
それを悟ったエルザはノーマンの腰に足を回して自らに押し付けた。
『んんっ❤はぁ……どうしたの?坊や?……お母さまに教えてごらん??』
先ほどのノーマンの反応を見て、核心を得たエルザは唇を三日月に釣り上げ、夕暮れ色の目を細めた。むしろ、性経験の無い13歳の少年がここまで耐えたのが奇跡である。
『エ、エルザ!お母さま!お願い待って!!……いま動いたらダメ……ダメになっちゃう!お漏らしの事しか考えられない悪い子になっちゃう!!』
ノーマンは地獄の最下層より深い墓穴を掘ってしまった……
愛しい坊やの言葉を聞いたエルザの中はキュンキュンと疼き、ノーマンを責め立てる。彼女の顔は正に悦楽を貪る悪魔であった。
『❤❤がまんしないで、出してしまいなさい❤……ほら、お漏らし❤お漏らし❤❤』
『ひうぁ!!お母さま…あ、あ、あ、あっぁぁぁああああ❤❤❤』
『ーーーぃ"❤……あ❤……ぁ❤…ぁ❤❤❤』
ビクン、ビクンと震え、白い液を優しくねっとりと搾られる。身も心までも蕩けさせ、顔は唾液と涙でくしゃくしゃにしている。
吐き出された精を自身の1番深い所で受け止めたエルザも緩やかに、しかし確実に達した。身体中から汗が滲み、心臓と吐き出される精液に合わせて子宮が震え、喜んでいる。
(あぁ……もうこれ無しでは生きていけない❤存在できない❤)
ノーマンはエルザの胸に顔を埋め、無意識に揉みしだき、赤子のように吸い付いている。
『お母さま……お母さま……』
エルザは愛しい坊やの頭を優しく撫で、満たされる欲望と溢れ出る愛情を感じた。
『私の愛しい坊や……ちゃんとお母さまにお漏らしできましたね❤えらい❤えらい❤❤まだまだ、沢山お漏らししましょうね❤』
『はい……お母さま……❤』
ノーマンとエルザは引き返せない処まで確実に堕ち、欲望と愛の沼に沈んでいった。
どれくらいの時間が流れたか。1日の様な100年のような1000年経ったような、永久に時間の止まった世界で曖昧な感覚の中で2人はお互いの全てを捧げ合い、快楽を貪り、奪い合っていた。
エルザは精を注がれて更に美しくなり、ノーマンは肌の色が褐色に代わり、髪の色も銀色に染まっていた。彼の分身も、母親を貪り尽くすのに最適なサイズになっている。今や完全に悪魔エルザの眷属である。
13歳から歳を取らず、身体が小さいままではあったが……
そのほかにも、エルザは元々天使であった事、人間の素晴らしさに憧れ堕天して地上に降りたことなど、自身の正体について全てをノーマンに話した。
堕天使を記したエヴェドの書にもにも彼女の名前が載っているそうだ。
神への祈りと共に現れ、召喚者に詩や天文学、世界の正確な歴史と聖典に隠された膨大な知識と神の秘密を教えるとされる心やさしい慈愛の悪魔。
そう記されている。
ある時、事情の後にノーマンは母親エルザに聞いた。
『お母さま……僕、お母さまの事がとても大切で、とても大好きで……愛しています。』
ちゅ……
『ん……私もよ……どうしたの坊や?』
『主神さまに攫われそうになった時に感じた。聖典の最後のハイネの黙示録……主神さまはきっと、遠い遠い時の果てに黙示録を実現しようとしている。そうなったら、きっとパンデモニウムも壊されるかも知れない。そうなったら、お母さまと愛し合えない。……それが僕は怖い……』
『…………………』
『だから、お母さま……悪魔エルザよ。僕に力を貸して下さい。』
『どうするつもり?』
『お母さまは、世界の全ての過去を観測していて、世界と聖典と天界の知識を持っているんでしょ?だから、同じ様にこれからの歴史を観測し続ければ、聖典に書かれたあの余りにも怖ろしい黙示録を回避出来る方法や、ヒントが見つかるかも知れない。僕はそれを見つけたい。勿論、魔王さまの計画が上手くいく事が1番だよ……もしかしたらその手助けにもなるかも知れない。』
『どうしても……?』
『うん……お母さまとの2人きりの世界を奪われたくないんだ。』
『地上に帰れば、お前も私もきっと主神様に狙われるでしょう。一所に長くは留まれない。それでも?』
『そしたら、必死に逃げればいいよ。それに、また此処にはいつでも来れるから……』
エルザはノーマンを抱き寄せると、両手できつく抱いた。
『私の愛しい坊や……こんなに大きくなって……。長い長い旅になるでしょう。お前の身体にある私の印を隠さなければならないし、歳を取らないのもやがては問題になるでしょう。旅の途中でお前に、姿を変える魔法を教えよう……』
2人は身を清めて、支度をし、パンデモニウムを後にした。監視者として世界の歴史を見に、記憶と記録をしに、黙示録の予言を回避するために、そして、2人きりの世界を守る方法を探す為に……
その後、2人は長い長い旅の中で繰り返される歴史の節目節目を見ることになる。
歴史が動く度に、歴史は血を求め、人間は血を流す
それをいとわない
同じ事の繰り返しで
その度に、何度も何度も諦めそうになる
しかし、その度に人間や魔物や世界の強さや素晴らしさを知った
過ちを繰り返し
挫折をし、失敗をしても
立ち上がり
理想を掲げ、勇気を持ち
挫けそうになりながらも前に進んでいく
そして、どれだけ時が流れても人は他者を愛することをやめなかった
その姿を美しいと思った。
2人は愛を求め合いながら歴史を旅する。
ノーマンは間違いだらけの聖典の中で、ひとつだけ正しさを見出せた。
『この世の終わりまであるもの、それは、信仰と、希望と、愛です。その中で最も大いなるものは、愛です……』
『お前が私を愛した様に、私がお前を愛した様に、全ての人と魔物娘が愛を育めますように……』
““ドンナ・ノビス・パーチェム……””
汝に平和がありますように……
何処かの時代の何処かの教会の聖堂で、方羽の悪魔と穢れた聖者の祈りが、香炉の煙と鐘の音と共に静かに空に消えていった。
おしまい。
祝福のお祈り、ワインを一口、それからお祝いの料理を2人で食べ、毎年と変わらない誕生日。
しかし、それもエルザの一言で唐突に終わってしまった。
『……ノーマン……大事なお話があるの。』
『はい……お母さま。』
いつになく、真剣なエルザの表情にノーマンは幼いながらも真っ直ぐに全てを受け入れようとしていた。
『……お前の過去について、お前に伝えなくてはならない。』
エルザはノーマンの肩に手を置き、ノーマンは母親の手を握った。
『はい……』
エルザはノーマンに自身が魔界最高裁判所の執行官であること、ノーマンが過去に戦争に際して政治的な大罪を犯したこと、裁判で裁かれエルザのところに来たこと、胎牢の刑のこと、それからエルザから産まれたこと。それらを全て話した。
『…………』
ノーマンは黙り混んで聞いていた。
『僕は……その、ノーマン・ビショップ司教が昔の僕なんですね……?』
『ええ、そうよ……』
ノーマンは今にも涙が零れ落ちそうなのを必死でこらえてエルザを見つめた。
『今の……今の僕は何者ですか?』
『……それは、お前自身がこれから見つけてごらん。でも、私にとってお前は胎を痛めて産んだ私の愛しい坊やなんだよ。』
それを聞いてノーマンはエルザの胸で泣いた。エルザは愛しい坊やをぎゅっと抱きしめ、受けとめた。
『僕にはそれで十分です……僕はあなたの息子……』
エルザは愛しい坊やの背中をさすると頭を撫でもう一度ノーマンに向き合った
『……私の愛しい坊や……もう一つだけ、お前に聞きたいのだけれど……お前の記憶……お前はどうしたい?』
『お母さまは、その僕の記憶の事で悩んで……それは僕の過去の行いで……だから、知らなきゃいけないことです。……だから……』
ノーマンは真剣な眼差しでエルザを真っ直ぐみつめると、エルザは目を閉じノーマンの頭に手をかざした。
柔らかい光がエルザを包む。彼女の額にノーマンと同じく、星型の魔方陣が浮かび上がった。
エルザは大きな蝙蝠羽を広げノーマンを包み込むと彼の額にある星型の魔方陣に自身の額のそれと重ね合わせ、祈ると額を外した。
『私の愛しい坊や、お前の記憶を返そう。』
ノーマンは柔らかい光の中、自分の内側に意識を持って行かれるような、引っ張られるような感覚に任せ、意識を手放した。意識を手放した瞬間、エルザが聖典に出てくる天使に見えた。
ノーマンは意識の中、光の渦の中にいた。
様々な光景が広がって、自分の中に入っていく。
人々の顔、荘厳な教会、様々な出来事
それらの全てが自分の中に入ると、そこは真っ白な世界だった。
“ノーマン……ノーマン……”
誰かがノーマンを呼ぶ声が聞こえてくる。すると、白い衣に身を包んだ茶色い髪と緑目の男がノーマンを呼んでいた。
“あなたは?……僕はあなたを知っている気がします?”
すると、緑目の男はゆっくりと口を開いた。
“私はお前で、お前は私だ。つまり、私は過去のお前自身という事になる。”
“過去の僕。さっきの光の渦はあなたの記憶……”
“そうだ……そして、私は過去の意識の記憶……感情や人格の記憶。”
“あなたは……いや、僕は!!”
現在のノーマンは先ほどの光の渦にある出来事に対して過去の自分に声を荒げた。
“……全て現実に私が起こした事だ……許されない事だ……”
“そんな……”
“過去を変えることは出来ない。しかし、未来を変える事は出来る。過ちを犯した私がお前に対して偉そうなことだか……私はあの悪魔に……エルザに救われた”
“でも、罪を消す事は出来ない。”
“そうだ……現在の私よ。お前と私には決定的な違いがある。”
“お母さまと生きた13年間の僕自身の記憶と…あなたの……過去の僕の行いと結果を知っている。でも、あなたは、現在のノーマンの…つまり僕のお母さまと生きた13年間を知らないって事?”
“そうだ、聡い子よ……私は意識や感情や人格の『記憶』であって、意識や感情や人格そのものではない。それはエルザによって産まれ変わった現在の私であるお前が持っている。”
“……過去の僕。何が言いたいの?”
“つまり、現在の私よ……エルザにより産まれ変わったお前に、過去である私が仕出かした大罪とは関係無いという事だ。”
“…………”
“現在の私よ、お前にはこのまま物理的な記憶だけを引き継いでほしいと思う。私はお前に必要無い。現在のお前の魂を穢してしまうかもしれない。私を取り込んでしまったら、お前は今までの自分ではなくなるだろう……”
“それは駄目だよ……あなたが感じた事、その心や、思いは、それがどんなに辛くても、どんなに汚れていても、あなたの…つまり、僕の大事な宝物で……掛け替えの無いものなんだよ。”
“私を赦すのか……?”
“過去の行いや罪に肯定も否定も出来ないよ……だけど、僕が赦さないで、他の誰があなたを赦すのですか?”
現在のノーマンは過去のノーマンに手を差し出した。
“聡い子よ……お前は今、救い難い悪人を確かに救ったのだ。ありがとう……”
過去のノーマンは差し出された手を取ると、2人は散りゆくジパングのサクラのように消え始めた。
““ドンナ・ノビス・パーチェム...…お前に平和がありますように……””
そして……
過去と現在は混ざり合った。
ノーマンはエルザの腕の中で目覚めた。意識の中に旅立った時の状態のままで、あれから時が幾ばくも経過していないことを物語っていた。
『……ただいま』
『おかえりなさい……』
エルザは意識の中から帰ってきたノーマンを迎えた。
『それから、悪魔エルザ……私のお母さま。僕を救ってくれてありがとう。』
『全てを知ったのね?……それでお前は過去か現在のどちらの自分を選んだの?』
『……両方だよ。現在の僕は、過去の私と混ざり合ったんだ。僕は私で、私とは僕だ。消したい過去も……母であるエルザがいる幸せな現在も……どちらも大切だから。それは大切な心の中にある宝物だから。』
それを聞いてエルザは静かに驚いた。
過去の記憶の感情や人格と混ざり合う。通常はあり得ない。記憶は記憶に過ぎず、人格や感情そのものではないからだ。
胎牢の刑執行後、保護観察期間終了である受刑者の13歳の転生誕生日に受刑者の記憶の処分を決定する。殆どの場合、執行官と受刑者の合意により転生前の記憶を抹消する。
記憶を返還する場合、大抵は人格や感情そのものを持っている現在の意識が残る。例は少ないが、ごく稀に過去の人格や感情の記憶に意識そのものを譲渡して過去の意識が残る……そのどちらかのケースしか聞いたことしかない。
要は、現在・過去の人格と感情は他人のものと差は無い
執行官による受刑者の魂の書き換えや記憶の改竄が禁術なのは、魂の拠り所や在り方を第三者が侵してはいけないからだ。
現在のノーマンが過去のノーマンと混ざり合うこと……つまり、彼は魂の書き換えを自分で望んでやった事になる。魂の拠り所、その一切を一度捨て、まっさらにして……おそらくそれを望んだのは、あの優しく無垢なエルザが育てた現在のノーマン。
自身の過去を肯定も否定もせず
ただ受け止めて
他者に赦しを与える
その選択はまるで……
『私の愛しい坊や……お前はまるで聖者のようだね……さぁ、お前に祝福を与えよう……』
ノーマンはエルザの前に跪いて頭を下げると、エルザは彼の頭に手を置いて祝福を施した。
!!!!!!
突然、光の柱がノーマンに降り注ぎ、彼を包み込んだ。
エルザが施したあらゆる結界を打ち破りそれは天から来た。
リンゴーーン……リンゴーーン……リンゴーーン……
“ノーマン……ノーマン……ヴェニド・アド・ベネディクト”
(ノーマンよ、お前に祝福を与えよう)
『主神さま?……天の王様……』
“ヴェニド・アド・ルーチェ・イ・オンブラ……カリシーミ……メイ・カリシーミ”
(光と影の全て与えよう。息子よ……我が息子よ……)
リンゴーーン……リンゴーーン……リンゴーーン……
鳴り響く鐘の音色と共に、低く優しい声がノーマンを呼ぶ。今正にこの時、光と恐怖は同意語であった。
『天のお父様……あなたの子は…ここ…に……』
ノーマンの手の平と足の甲に金色の光で文が刻まれた
『これは!!……主神様の!!ノーマン!応えてはいけない!!!』
『エルザ!?エルザ……お母さま!!!』
ノーマンはエルザを呼び、エルザに手を伸ばす。エルザはノーマンを呼び手を伸ばすも光の柱に阻まれている。ノーマンの体が光の柱の中をゆっくりと登っていく。
『行ってはだめ!!……主神よ!なぜですか!!?なぜ奪うのですか!!!……ノーマン!……ノーマン!!!』
ヒュパン!!!!
突如として空間が切り裂かれ、その狭間から真っ白な悪魔と剣を携えた悪魔が出て来た。
『ミエル!!』
白い悪魔は、闇を作り、光の柱を霞ませると、ミエルは携えた剣を振るい、別の空間の裂け目を作った。
『話は後だ!!その坊やを連れて逃げるぞエルザ!!』
『私が時間を稼ぎます!』
『カルミナ様、お願いします!!』
エルザはノーマンの手を引き裂け目に向かって飛び込もうとするも、光の柱から伸びた手に右の羽を掴まれた。
『ぁぁぁああああ!!!』
ブチブチブチブチ!!!!!
エルザは羽を無理やり引き千切った。ミエルはエルザとノーマンを受け止め、3人は空間の裂け目に飛び込んだ。
飛び込んだ空間の裂け目の先は銀に輝く荘厳な大聖堂だった。歪んだ装飾、人と魔物がまぐわう彫像にステンドグラス、螺旋状に重力までもが捻れた地面や階段や回廊には無数の柱や窓がならんでいた。
空間の裂け目が閉じ、ミエルは剣をカシャリ……と鞘に収めた。
エルザの腕の中にはノーマンがしっかりと抱かれている。
『お母さま血が……!!』
エルザの背中からは引き千切られた右羽から痛々しく血が流れていた。
『大丈夫よノーマン……ここはパンデモニウム……』
『そうだよ。ひとまずは安心していい……エルザ、忠告した通りお前たちをここに幽閉する……と言いたいのだが、今それは出来そうにない。状況は少々厄介な事になった。此処も完全に安全じゃない。』
『どういうこと?』
『原因はその坊やの存在だ。主神から狙われている。理由は、お前が聖典と信仰をその坊やに教えた事。二つ目に悪魔……いや、天使の成れの果てであるお前から試練と祝福を受けた事。そして最後に、この坊やが自分の意志で魂の書き換えを行なった事だ。』
『エルザお母さま?』
『…………』
『エルザ……坊やに転生前の記憶を渡したな?』
『ええ…そうよ……!?……祝福と試練……記憶の復元……魂の書き換え……』
『はぁ……そのおかげでお前の“愛しい坊や”は、まがいなりにも“聖人”になる条件を満たしてしまった。慈愛と信仰を持ち、試練に打ち勝ち、気高い精神と無垢な心……主神好みの浄化をすれば、あっと言う間に“聖人”の完成だ。』
『…………』
『一度、私はお前たちを助けられずに、聖別されてしまった坊やを見た。通常の時空間魔法ではどうにも主神から逃げられなかったんだ。聖別された坊やはまぎれもなく主神の人形だった……それを見た後、私はその結果を変えるべく、この剣で時間と空間を切り裂き、坊やが主神に聖別される前に飛び、リリムであるカルミナ様に助けを求めたんだ。……なんとかうまく行ったが、主神に勘付かれてしまった。少なくとも1聖紀(100年)はこの剣は使えないだろう。使えば今度こそ居場所がバレて私は主神に消されるだろうなぁ……』
『……ミエル、無茶をさせてごめんなさい。』
エルザとノーマンはミエルに感謝し、頭を下げた。
『礼なら、カルミナ様に言ってくれ。あの方が居なければ逃げられずに失敗していたさ。……さて、本題だが、エルザ!今すぐこの坊やと契約しろ!!』
『それは!!……どう…いぅ……』
『主神が欲しがってるのはその坊やだ。だから、お前の手で完全に堕落させればいい。そうすれば禁欲を良しとする主神の加護対象から外れ、坊やは聖人の資格を失い、主神も諦める。坊やはすでにインキュバスだが、まだ“純潔”だ。その“純潔”が原因で、主神からの力を受けやすく、悪魔エルザとノーマンの絆という“穢れ”を容易く浄化されてしまう。』
『で、でも……!!』
『坊やが主神に奪われてもいいのか!?主神の奴はご丁寧に聖別の印……聖痕を坊やの両手足に付けていった。このままだと、パンデモニウムに居てもいずれ必ず見つかるぞ!!坊やが主神に目を付けられた以上、此処も完全に安全じゃあないんだ!……それとも、その坊や私の好みだから、今から攫って私が契約しようかな?』
ミエルはノーマンに舌舐めずりをする様な目線を送る。彼女の言葉を聞いたエルザの表情が氷ついた
『あなたも……私から……この子を……奪おうというのですか………!!!!!!』
エルザの身体から凄まじい魔力が漏れ出している。禍々しく、狂気すら感じる靄のようなそれはミエルを取り囲むように渦巻いている。
『渡さない……渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない渡さない……!!!!!!!!!』
『お母さま!?』
『ハハッ!ようやく本心を見せたな!!』
『ミエルにも……例え、主神にも私の愛しい坊やを渡さない!!!』
ミエルも魔力を溢れさせ、ただならぬ空気が流れる。
エルザとミエルの魔力がぶつかり合おうとした瞬間、ノーマンが2人の間に割って入った。
『もうたくさんです!!僕のことでこれ以上争わないで下さい。……全ては僕の責任です。』
ノーマンの仲裁で2人は矛を収めた。
『坊や、ノーマンといったな?……私は何も本気でエルザからお前を取ろうとは思わないよ。ただ、エルザの本心を確かめたかっただけだ。』
『え……?』
『坊や、お前はどうなんだ?エルザを愛しているか?』
『愛してます。』
即答したノーマンの言葉には残念ながらミエルが期待した意味は入っていなかった。とても純粋で穢れない、隣人愛と別け隔てない愛のアガーパス。そして母親に向ける愛。
『違うんだ……いや、私が悪かった。坊や、質問をかえる。エルザとずっと……そう、永遠に一緒にいたいか?』
『はい。』
ノーマンの返事を聞いたミエルは、冷静さを取り戻したエルザに目を向ける。
『……坊やはお前と永遠に一緒にいたいと言っている。あとはエルザ、お前次第だ。……私はほとぼりが冷めるまで消えるとしよう。願くば、坊やが主神に奪われていない事を祈るよ……』
そういうと、ミエルは空気を歪めて消えてしまった。
『ミエルにしてやられたみたいね……。ノーマン……私は、お前を誰にも渡したくない。例えそれが主神様でも……。今まで、お前がずっと私の側に居て、それが当たり前だと思っていた。だが、それだけでは不十分なんだよ。愛しいお前を永遠に私のものにしたい。さっきの答えはお前の望みか?』
エルザはノーマンを抱き寄せ、残った左の羽でノーマンを包み込んだ。
『お母さまは……悪魔エルザはなんども僕を助けてくれた。信仰とは名ばかりだった僕は司教となって人々を苦しめ、大罪を犯し、回廊を歩いて裁きを受ける為に連れてこられて、そんな僕をお母さまは赦し、産んでくれて、子にしてくれて、愛を教えてくれて、幸せを与えてくれた。だから僕は自分を赦せた……主神様に連れ去られようとした時、嬉しかった。でも……お母さまと離れるのだけは嫌だった。だから、悪魔ミエルの質問への僕の答えは僕の本心です。……あなたを心から愛しています。』
エルザはノーマンの言葉を聞いて、それが、母親に向ける愛で、別け隔てない愛であっても、自分自身の罪にも似た欲望を自覚し、満たされる思いと渇き続ける独占欲を感じた。
穢れない……私の愛しい坊や……
まだ
もっと
もっと
堕ちてほしい
私に溺れてほしい
その肉も
その心も
お前は私のものなのだから………
血を零した様な夕暮れ色の瞳が沈むように暗くなると。紫色の光がエルザの身体に文様を書いていく。
コントゥラクトゥス
契約を
アルタリス・エト・オミニア・メア
私はお前に全てを捧げよう
アルタリス・エト・オミニウム・ヴェストルーム
お前の全てを私に捧げるのなら
ガルディウム・エスト・イメンスム・アクゥエ・プロブム
その喜びは限りなく素晴らしく
セクウラ・ペル・インフィニタ・セクロウルム……
今より永久に至るまで……
溢れた魔力が歌を奏で、エルザの唇に魔力が集まっていく。その動きと仕草からノーマンはエルザがこれから自分に何をするのかを悟った。ノーマンはエルザに初めて会った時のように動くことが出来なかった。
それでも良いと彼は思った
エルザの全てを赦し、全てを受け入れようと
目を静かに閉じ顎を少し上げる
エルザの顔が近ずき
契約を交わす
いつもの額や頬にするキスとは違う
唇と唇でする甘い甘い口づけ
もう戻れない
打ち込まれる魂の楔
主神が刻んだ聖痕を悪魔が刻む烙印に塗り替えていく
右の手のひらに
左の手のひらに
右の足の甲に
左の足の甲に
額に
胸の真ん中に
星のような魔方陣が刻まれ、エルザと同じ様にノーマンの身体に文様が浮かび上がる
エルザの舌がノーマンの口内にするりと入る
くちゃ……
流し込まれるドロリと絡みつくような甘い甘い魔力とエルザの唾液
ノーマンの頭に響く姦淫の水音
くちゃ……ん❤……
くちゅ……んぁ❤……ちゃぷ❤
くちゃ❤……
はぁ……はぁ……
逃れようともエルザの舌はノーマンのそれを執拗に、陰湿にズルズルと捉える
思わず息をする事を忘れるほど深い深い口づけ
離れた口の端に唾液の橋が架かる
ぷはっ……
『これで、お前の全ては私のもの……❤』
『はぁ……はぁ……』
脳がとろけそうな程の快楽を与えられて、ノーマンは息も絶え絶えで立っている事もままならない。転生して13年……転生前も後も性に関しては聖典に書かれている事以上を彼は知らない。ましてや今のノーマンの身体は13歳の少年で、その身体には余りにも大き過ぎる快楽をその身に受け、エルザにもたれかかり、緑色の涙目を虚ろな目で上目遣いに彼女を見ながら息を荒げていた。
その彼の初々しい反応は、エルザの劣情の炎にさらに油を注ぎ入れる結果になるとは知らずに……
『私の愛しい坊や……お前の知らない愛を教えよう……❤』
ノーマン耳元でエルザが囁く……
『ひぅ!?』
するりとノーマンのローブをすり抜けエルザはノーマンの分身を愛撫する。
『あっ…!や……ひぅ!……』
『クス……お前のココはどうしたのかなぁ?』
やわやわと滑らかな絹のような手が触れる度にビクンと初々しい反応をエルザに返した。
『わか……やぁ……ん……ら……なぁあ!』
ノーマンはするすると、みるみるうちに裸に剥かれ、エルザも一糸纏わぬ美しい姿になっていた。
とうとう立っていられなくなったノーマンはその場に崩れ落ちてしまう。エルザはノーマンを優しく抱えるように押し倒した。
ノーマンが押し倒された地面はふかふかで柔らかかった。見ると壁や、床や、装飾が歪んだり、ねじれたりしながら型を変えて、ノーマンは大きな部屋の大きなベッドの上でエルザに覆いかぶされていた。
『ここでは、お前と私の2人だけ…』
すると、エルザはノーマンの分身から手を引き、頭を下げ、彼の分身に頭を近づけ、それにキスをした。
あっ……
と、彼の口からか弱い声が漏れる。エルザは口を開き、ちゅぷり……と彼のまだ未発達なペニスを飲み込んだ。
『…………!!!???』
エルザはノーマンの分身を口に入れて飴玉を転がすように舐めはじめた。じゅるじゅると音を立てる口の中で、蠢く舌が皮と本体の間に舌を潜り込みゆっくりと剥かれていく。ノーマンは蕩けるような快楽と緩い傷みのなかで声にならない悲鳴を上げて悶えていた。
『お母……さま!おしっこが……おしっこが!!』
エルザは妖しく微笑むと一気に喉の奥にノーマンの分身を突き入れた。
『ぁぁぁああああ!!!』
ビクンとノーマンの体が陸に打ち上げられた魚のように跳ね上がり、その動きに合わせてどくどくと性液をはきだした。
チカチカと真っ白くなる視界と意識の中、ゆっくりと力が抜けていく射精の感覚と快楽をエルザにより深く深く脳髄の奥に彫りこまれた。
ちゅぽん……
エルザが口を離すと、彼女がノーマンに見せつける様に口を開いてはきだした白い性液を口の中でチロチロと味わいゴクリと飲み込んだ。
(お・い・し・い❤❤❤)
ノーマンの精を飲み込んだエルザがビクンと震える。彼女の秘所からは止めどなく欲望が溢れでて、太ももを濡らしていた。
今まで、毎日お風呂や寝るときにエルザの裸体を見ていて見慣れてるはずたが、ノーマンは美しい母親の身体から目を話すことが出来なかった。
性を自覚し
自分の中に芽生える新しい感情に
今まで持ち得なかった欲望が
エルザから目を離すことを拒んだ。
くゅちゅり……❤
艶かしい音と共に、エルザの右手が彼女の秘所に触れる。ノーマンを誘うように足が開かれ、まるで食虫植物に吸い寄せられる羽虫のようにふらふらとノーマンはエルザの秘所に近づいていった。
『ここから、お前が産まれたんだよ……ん❤……お前を産んだ時に膜を失ったが、私も初めてだ……』
くぱぁ……❤
と……悪魔の花が開かる。肉の花びらはヒクヒクと動き、上にはぷっくりとした肉の芽が……中からコプリと蜜が滴り落ちた。
『……お前の好きにしていいんだよ?さぁ、おいで……私の愛しい坊や』
どうすればいいのか、本能と芽生えたばかりの欲望がノーマンに告げる。力を取り戻した自らの分身を悪魔の秘所に当てがうと、エルザは愛する息子の分身に手を添え自らの奥へと導いた。
『『ーーーーーーーーーーーー』』
2人の口から声にすらならない声が漏れた。お互いの全てを捧げ合い、奪い合う。エルザはノーマンをねっとりと絡みつくように執拗に、陰湿なまでに優しく迎え入れる。子宮が降りきっており、ペニスの先をあむあむと子宮口がよだれを垂れ流しながら吸い付いている。
多幸感、安心感、快楽、献身、欲望、そして愛……この世の悦楽が全てここにあるようで、エルザにとっては胎を痛めて産んだ我が子と、ノーマンにとっては最愛の母親と交わるという禁忌を犯す背徳感が極上のスパイスになっていた。
『おかえり……母さまは嬉しいよ…❤❤』
『お母さま……お母さま……』
ノーマンはエルザから与えられる蕩けるような快楽により、彼女を譫言のように呼ぶだった。まるで洪水の中で流木にしがみつくように彼女に抱きついて動けずにいる。
ぱちゅん❤
『ひうぁ!!??』
一突き。
それを悟ったエルザはノーマンの腰に足を回して自らに押し付けた。
『んんっ❤はぁ……どうしたの?坊や?……お母さまに教えてごらん??』
先ほどのノーマンの反応を見て、核心を得たエルザは唇を三日月に釣り上げ、夕暮れ色の目を細めた。むしろ、性経験の無い13歳の少年がここまで耐えたのが奇跡である。
『エ、エルザ!お母さま!お願い待って!!……いま動いたらダメ……ダメになっちゃう!お漏らしの事しか考えられない悪い子になっちゃう!!』
ノーマンは地獄の最下層より深い墓穴を掘ってしまった……
愛しい坊やの言葉を聞いたエルザの中はキュンキュンと疼き、ノーマンを責め立てる。彼女の顔は正に悦楽を貪る悪魔であった。
『❤❤がまんしないで、出してしまいなさい❤……ほら、お漏らし❤お漏らし❤❤』
『ひうぁ!!お母さま…あ、あ、あ、あっぁぁぁああああ❤❤❤』
『ーーーぃ"❤……あ❤……ぁ❤…ぁ❤❤❤』
ビクン、ビクンと震え、白い液を優しくねっとりと搾られる。身も心までも蕩けさせ、顔は唾液と涙でくしゃくしゃにしている。
吐き出された精を自身の1番深い所で受け止めたエルザも緩やかに、しかし確実に達した。身体中から汗が滲み、心臓と吐き出される精液に合わせて子宮が震え、喜んでいる。
(あぁ……もうこれ無しでは生きていけない❤存在できない❤)
ノーマンはエルザの胸に顔を埋め、無意識に揉みしだき、赤子のように吸い付いている。
『お母さま……お母さま……』
エルザは愛しい坊やの頭を優しく撫で、満たされる欲望と溢れ出る愛情を感じた。
『私の愛しい坊や……ちゃんとお母さまにお漏らしできましたね❤えらい❤えらい❤❤まだまだ、沢山お漏らししましょうね❤』
『はい……お母さま……❤』
ノーマンとエルザは引き返せない処まで確実に堕ち、欲望と愛の沼に沈んでいった。
どれくらいの時間が流れたか。1日の様な100年のような1000年経ったような、永久に時間の止まった世界で曖昧な感覚の中で2人はお互いの全てを捧げ合い、快楽を貪り、奪い合っていた。
エルザは精を注がれて更に美しくなり、ノーマンは肌の色が褐色に代わり、髪の色も銀色に染まっていた。彼の分身も、母親を貪り尽くすのに最適なサイズになっている。今や完全に悪魔エルザの眷属である。
13歳から歳を取らず、身体が小さいままではあったが……
そのほかにも、エルザは元々天使であった事、人間の素晴らしさに憧れ堕天して地上に降りたことなど、自身の正体について全てをノーマンに話した。
堕天使を記したエヴェドの書にもにも彼女の名前が載っているそうだ。
神への祈りと共に現れ、召喚者に詩や天文学、世界の正確な歴史と聖典に隠された膨大な知識と神の秘密を教えるとされる心やさしい慈愛の悪魔。
そう記されている。
ある時、事情の後にノーマンは母親エルザに聞いた。
『お母さま……僕、お母さまの事がとても大切で、とても大好きで……愛しています。』
ちゅ……
『ん……私もよ……どうしたの坊や?』
『主神さまに攫われそうになった時に感じた。聖典の最後のハイネの黙示録……主神さまはきっと、遠い遠い時の果てに黙示録を実現しようとしている。そうなったら、きっとパンデモニウムも壊されるかも知れない。そうなったら、お母さまと愛し合えない。……それが僕は怖い……』
『…………………』
『だから、お母さま……悪魔エルザよ。僕に力を貸して下さい。』
『どうするつもり?』
『お母さまは、世界の全ての過去を観測していて、世界と聖典と天界の知識を持っているんでしょ?だから、同じ様にこれからの歴史を観測し続ければ、聖典に書かれたあの余りにも怖ろしい黙示録を回避出来る方法や、ヒントが見つかるかも知れない。僕はそれを見つけたい。勿論、魔王さまの計画が上手くいく事が1番だよ……もしかしたらその手助けにもなるかも知れない。』
『どうしても……?』
『うん……お母さまとの2人きりの世界を奪われたくないんだ。』
『地上に帰れば、お前も私もきっと主神様に狙われるでしょう。一所に長くは留まれない。それでも?』
『そしたら、必死に逃げればいいよ。それに、また此処にはいつでも来れるから……』
エルザはノーマンを抱き寄せると、両手できつく抱いた。
『私の愛しい坊や……こんなに大きくなって……。長い長い旅になるでしょう。お前の身体にある私の印を隠さなければならないし、歳を取らないのもやがては問題になるでしょう。旅の途中でお前に、姿を変える魔法を教えよう……』
2人は身を清めて、支度をし、パンデモニウムを後にした。監視者として世界の歴史を見に、記憶と記録をしに、黙示録の予言を回避するために、そして、2人きりの世界を守る方法を探す為に……
その後、2人は長い長い旅の中で繰り返される歴史の節目節目を見ることになる。
歴史が動く度に、歴史は血を求め、人間は血を流す
それをいとわない
同じ事の繰り返しで
その度に、何度も何度も諦めそうになる
しかし、その度に人間や魔物や世界の強さや素晴らしさを知った
過ちを繰り返し
挫折をし、失敗をしても
立ち上がり
理想を掲げ、勇気を持ち
挫けそうになりながらも前に進んでいく
そして、どれだけ時が流れても人は他者を愛することをやめなかった
その姿を美しいと思った。
2人は愛を求め合いながら歴史を旅する。
ノーマンは間違いだらけの聖典の中で、ひとつだけ正しさを見出せた。
『この世の終わりまであるもの、それは、信仰と、希望と、愛です。その中で最も大いなるものは、愛です……』
『お前が私を愛した様に、私がお前を愛した様に、全ての人と魔物娘が愛を育めますように……』
““ドンナ・ノビス・パーチェム……””
汝に平和がありますように……
何処かの時代の何処かの教会の聖堂で、方羽の悪魔と穢れた聖者の祈りが、香炉の煙と鐘の音と共に静かに空に消えていった。
おしまい。
17/06/08 19:29更新 / francois
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