読切小説
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きみと一緒になりたくて……
昨日の夜、急にのどが痛くなり嫌な予感がしたが、不安を抑えて眠りについた。
今朝起きたら酷いだるさと節々の痛みを感じる。明らかに高熱状態だ。
皮肉な事に嫌な予感ほど当たるものだ。

でも、体調が良くなるまでゆっくり休むなんてマネは出来ない。
今日は重要な企画会議の日。欠席するなんてもってのほかだ。
この日の為にずっと準備を続けてきたから。なんとしても休みたくはない。

とりあえず医者に行って注射でもうってもらおう。それで一日乗り切るしかない。
朦朧としながら僕は会社に電話して事情を説明した。

「……はいっ。申し訳ありません。病院に行った後に出勤しますので。」

目の前に相手もいないのに僕は何度も頭を下げた。

「……本当に申し訳ありません。それでは失礼いたします。 」

僕はもう一度頭を下げると電話を切り、一息をつこうとした。
途端に激しくせき込み、焼ける様な痛みがのどを襲う。

激痛に襲われて僕は顔を歪めた。
だが僕が苦痛にあえぐ姿を見て世話する人は誰もいない。
散らかった部屋の中、たった一人でせき込み続けるしかなかった。

こんな時は否が応でも後悔の想いに捕らわれてしまう。
ああ。あの人がそばにいてくれたら。あの人と一緒にいる事を選んでさえいればと。
でもこの道を選んだのは僕自身なのだ。結果は自分が受け止めるしかない……

あの人と別れてもう何年過ぎた事だろう……
思わず憂鬱になってしまったその時、玄関からチャイムの音が響いた。
今はとてもじゃないが応対できない。気は咎めるが居留守を使おう。

しばらく無視し続けたが、僕の在宅を知っているかのようにチャイムは繰り返された。

勘弁してくれよ…… 理不尽だとは思うけど自然と気持ちが苛立ってしまう。
僕は嫌々ながら立ち上がると、ふらふらと玄関まで歩いて行った。
インターホンで確認するのも忘れそのままドアを開いた。

「翔太ちゃんお久しぶりですねえ…… 」

陰鬱な気分とは対照的な清々しい日差しが入ってくる。
それと同時に僕の耳に透き通った声が響いた。

目の前にいたのは笑顔を浮かべている一人の女性。
だが、彼女は人ならざる者だった。
純白の髪。深紅の瞳。よく整った顔立ち。白く長い蛇の下半身が嬉しそうに揺れている。

「み、美冬姉ちゃん!? 」

彼女こそ僕が一緒にいて欲しいと心から願った人だった。




















魔王の統べる王国と国交が結ばれて数十年。魔物娘が人と共存するようになって久しい。
白蛇の美冬姉ちゃんも実家の近所に住んでいる魔物娘だった。
僕にとっては優しく頼れる姉であり、気心の知れた幼馴染でもあるひと。

でも、美冬姉ちゃんはただの魔物娘でもご近所さんでもなかった。
近隣一帯の自然を司る、神様みたいな存在として有名だったのだ。
実際魔物娘の存在が知られるまでは、豊作の神として信仰を集めていたらしい。

もっとも姉ちゃん本人は崇め奉られるのは嫌っていた。
幼かった僕が冗談半分に手を合わせて拝むと、いつもむっとした様子を見せるのだった。

「わたしはきみのお姉ちゃんなんですよっ! お姉ちゃんにバカな事する翔太ちゃんはおしおきです! 」

姉ちゃんはそう言うと、自慢の長い蛇体で僕をぐるぐる巻きにするのだった。
おしおきと言いながらも、とっても温かく優しい抱擁が僕は大好きだった。

時がたつほどに美冬姉ちゃんに対する想いは深まっていった。
ずっと一緒に居たい。抱き合いたい。彼女の体温と匂いを間近に感じていたい。
姉ちゃんの笑顔を自分だけのものにしたい。当然弟としてではなくて……
美冬姉ちゃんはとても素敵なひとなので、そう想うのは当然の事だ。

でも、自分からは告白する勇気は持てなかった。

姉ちゃんはみんなから尊敬されていて、いつも頼りにされている。
この辺りの困りごとはみんな姉ちゃんに相談されるほど。
実際彼女自身の力と魔物娘のつてを使って快く解決してくれる。
姉ちゃんが護ってくれているおかげでこの街は風水害からも無縁。
それなのに決して驕ることなく誰に対しても謙虚だ。

ほかにも美人で優しくて有能で、素晴らしいところはもっと色々あって、
姉ちゃんはちょっとした地元の名士だったのだ。
それに比べて僕は平凡(以下?)な会社員にすぎない。全く釣り合いは取れない。

気持を抑えきれずに、冗談交じりで姉ちゃんに「好き」と言った事もある。
姉ちゃんはいつもの様に蛇体を僕に巻き付けると、笑ってこう言ったのだ。

「それならおねえちゃんだけじゃなくてお嫁さんにもして欲しいです…… 」

せっかくの言葉だったが僕は社交辞令として受け取った。
姉ちゃんは僕だけのものじゃない。早い話みんなのお姉ちゃんなのだ。
僕程度の人間では分不相応。好意として受け取るには卑屈になりすぎていた。

気後れしてしまった僕は、それ以上言えずに幼馴染としての関係を続けていた。
だが、鬱々とした日々が転機を迎えたのはいつだったのだろう。
ある時僕は両親を通じて美冬姉ちゃんの想いを伝えられた。

僕を婿としてもらい受けたい。ついては結婚を前提としてお付き合いしたいと。

姉ちゃんはうちの親とも親しくしているので、隠すのは嫌で打ち明けたそうだ。
両親は大喜びで、僕が承知しなくても勝手に話を進めそうだった。
もちろん僕も嬉しかった。気持ちは天に昇るほど。その日は興奮して寝られなかった。
よっぽど僕自身の口から姉ちゃんに想いを伝えようと思っただろう。

でも、できなかった……

こんな僕ではだめだ。少なくとも今のままの自分では。
社会的に釣り合う様な立場にならなければ、お互いが不幸になる。
もっと、もっと上を目指さないと…… 
そして僕が姉ちゃんにふさわしくなったら、その時こそ想いを伝えるんだ。

決心した僕はしばらく待ってもらいたいと伝えてもらった。
こんな良い話をなんで受けないんだと親は呆れた様子だったのだが。
別に催促されたわけでは無かったが、姉ちゃんとは極力会う事も避けた。
姉ちゃん本人に説得でもされたら絶対に決心が揺らぐから。

そして故郷を逃げるようにして飛び出し、都会の会社に転職したのだった。

だが、都会での日々は打ちのめされることばかり。
姉ちゃんにふさわしくなるなど夢のまた夢。
所詮自分では叶わぬ願いだったかと失望する日々。思うはふたり一緒に過ごした日々。
でも、歯を食いしばって耐え抜いて、ようやく掴んだチャンスだったのにこのざまだ……




















「姉ちゃん…… なんで美冬姉ちゃんが? 」

僕は驚きながらも、想い人と再会できて気が緩んでしまったのだろう。
腰が抜けるようにしてその場にへたり込んでしまった。

「えっ!? ちょ、ちょっと翔太ちゃん! どうしたんですかっ! 」

満面の笑みを浮かべていた(だがどことなく昏い笑顔の)美冬姉ちゃんだったが、僕の様子を見て慌てて寄ってきた。
姉ちゃんは僕を優しく抱き起こしてくれた。
優しい匂いと温かさが懐かしくて、思わず涙ぐむのが抑えきれない。

でも、姉ちゃんに風邪をうつしたら申し訳ない。僕は急いで身を離そうとした。

「いま風邪ひいてるから駄目だよ。うつっちゃう! 」

美冬姉ちゃんは慌てて離れようとする僕をしっかりと抱きしめてくれた。
柔らかい笑顔を見せて安心させようとしてくれる。

「大丈夫! 魔物娘に人間の風邪はうつりませんから! 」

「姉ちゃん…… 」

「翔太ちゃんしっかり! お姉ちゃんが来ましたからもう心配いりませんよ! 」

姉ちゃんの励ます声が心地よく、とっても安心できて、僕はそっと身を委ねた。



















「はい。お待たせしましました。」

ベッドに横になっていると美冬姉ちゃんの澄んだ声が聞こえた。
あれから姉ちゃんは甲斐甲斐しく世話してくれた。

高熱にうめく僕を優しくベッドに横たえると、蛇体で包み込むように抱擁して、いたわる様に何度も撫でてくれた。
撫でられると温かさと心地よさが心身に満ちて、僕はいつしか熱の苦しみを忘れていた。
抱きしめられてすっかり安らいだ僕は、幼かった時の様に胸にすがりついてしまった。

姉ちゃんは甘える僕を当然の様に受け入れてくれた。
その後も散らかった部屋を手際よくかたづけると、雑炊をつくってきてくれたのだった。

穏やかに微笑んでいる姉ちゃんにみとれてしまう。こんな素敵な表情を見るのも久しぶりなのだ。

「ありがとう。 」

「もう。そんなお礼はいりませんよ。ちょっとまってくださいね。 」

僕がすまなそうに頭を下げると、美冬姉ちゃんは苦笑してベッドに腰かける。
そして雑炊をスプーンにすくってふーふーすると、目の前に差し出してきた。

「はい。あーん。 」

「えっ…… 」

思わぬ振る舞いに僕は呆けたように美冬姉ちゃんを見つめた。

「さ、翔太ちゃんお口開けて下さいね。あーん。 」

「そ、それは恥ずかしいから…… 」

僕が尻込みすると姉ちゃんは少し眉をひそめた。

「翔太ちゃん。素直にあーんさせてくれるか無理矢理私に口移しで食べさせられるか、どちらか選んで下さい。きみは病人なんですから他に選択肢はありませんよ。」

姉ちゃんは口をへの字にすると、蛇体を僕に巻き付けて拘束する。
今言ったことは絶対に実行するぞと言わんばかりだ。

「そんな無茶苦茶な…… 」

美冬姉ちゃんは昔から言い出したら聞かないところがある。
こうなった以上好きにさせるしかない。僕はため息をついた。

「わ、わかったよ…… あーん。 」

仕方なく口を開けると姉ちゃんは満面の笑みを見せた。

「はあい。翔太ちゃんはいい子です。わたしとしては別に口移しでも良かったんですけどね。というか翔太ちゃんなら大歓迎です。 」

嬉しそうに頬を染める姉ちゃんだ。
美冬姉ちゃんとはキスしたいけど、さすがに口移しプレイは上級者向けすぎるだろ……
思わず身震いする。

でも姉ちゃんは倒錯的な関係になっても構わないと言ってくれているも同然なのだ。
それに気が付いた僕は変に感動してしまった。

「はい。どうぞ…… 」

美冬姉ちゃんはスプーンを僕の口の中に入れた。

「……ん 」

その途端、程よい温かさと鳥のだしのうまみが口いっぱいに広まる。
僕は何度が咀嚼するとすぐに飲み込んだ。

「ど、どうでしょう? 」

姉ちゃんは少し心配そうな眼差しで僕を見つめている。

「うん…… すごくおいしい。 」

いつも高熱の時は食べ物の味など全くわからないのに、美冬姉ちゃんの雑炊はなぜか美味しさをはっきりと感じる。
急激に食欲がわいてきた僕は、知らぬまに姉ちゃんにねだっていた。

「あの、もっと食べたいんだけど。いいかな? 」

「ええ。翔太ちゃんの好きなだけ食べて下さいね! はい。あーん。 」

満面の笑みを浮かべた美冬姉ちゃんは、大喜びで僕に雑炊を食べさせた。


















「はい。翔太ちゃんあーん。 ……急がなくても大丈夫ですからね。 落ち着いて食べればいいんですよ。 」

美冬姉ちゃんは蛇体を巻き付けたまま何度も僕の口にスプーンを運ぶ。
僕は無心になって姉ちゃんの愛情たっぷりの雑炊を食べ続けた。
とっても美味しくて自分から口を開けておねだりしてしまうが、姉ちゃんはご褒美とばかりに頭を撫でてくれた。

温かい雑炊と姉ちゃんの蛇体のおかげで僕の体は内も外もぽかぽか。
冷え切っていた心も温められるようだ。
このまま姉ちゃんと一つになって言う通りにしていればいいかも。
姉ちゃんだってこんなに喜んでくれているんだ……

僕は恍惚として美冬姉ちゃんに介抱され続けた。



















「ごちそうさま。すごく美味しかったよ。 」

「いいえ。どういたしまして。 」

お腹いっぱいになるまで食べて、僕は満ち足りた思いでお礼を言った。
姉ちゃんも嬉しそうにしていたが、なにかに気が付いて、あっ。とつぶやく。

「あらあら。汚れちゃいましたね。きれいきれいしましょうね…… 」

ハンカチを手に取った姉ちゃんは僕の口の周りをそっと拭いてくれた。

「そんな…… 自分でやるよ…… 」

「だめですよ。 翔太ちゃんは病人なんですからお姉ちゃんに任せなさい。 」

恥ずかしがる僕にかまわずに姉ちゃんは世話を焼いてくれる。
子供時分もよく細かいところまで面倒見てくれたのだ。
当時を思い出して懐かしくなる。

姉ちゃんの雑炊を食べたおかげだろうか。体の具合は相当良くなったようだ。
僕はのんびりとして蛇体に包まれ続けたが、ふと今日の会議の事を思い出す。
この調子なら病院に行かなくてもなんとかなる。
大丈夫。会議が長びいても耐えられそう。時間は……まだ十分間に合う。

思案した結果、僕はほっとして姉ちゃんに言った。

「ありがとう姉ちゃん! 姉ちゃんのおかげで風邪も治っちゃったみたいだよ。それじゃあ仕事があるから行ってくるね。悪いけどまた今度お礼するから。 」

「えっ!?何言っているんですか!まだ全然治ってなんかいないんですよ。無理したら余計ひどくなりますから! 」

慌てて引き留める姉ちゃんだったが、僕はかまわずに起き上がろうとする。

「ううん。そうもいかないんだ。今日は大切な会議があるもので。どうしても行かないと…… 」

「命より大切な仕事なんてありえませんっ!とにかく今はゆっくり休んで下さい。会社にはお姉ちゃんから説明しますから。 」

「でも…… 」

美冬姉ちゃんは僕を説得しようとした。
気持は嬉しいけど、今日は僕にとって一世一代の勝負の場。
のんびり寝てなんかいられない。
なおも言い張ろうとすると、姉ちゃんは急に真剣な眼差しを向けてきた。

「翔太ちゃんはお姉ちゃんの事が本当に嫌いになっちゃったんですか…… 」

姉ちゃんは悲痛な声で訴えた。僕は突然の変化に驚き言葉を失う。
潤んだ目で僕を見つめていた姉ちゃんは、ため息をついて言葉を続けた。

「翔太ちゃんはあれ以来ほとんど会ってくれなくなりましたよね…… 挙句の果てにはわたしに何も言わないで街を出て行っちゃって、いまも逃げようとして。 」

「待ってよ姉ちゃんっ…… 」

「やっぱり迷惑でしたか? わたしはきみのお嫁さんにはなれないのですか? 翔太ちゃんはお姉ちゃんのわたしは好きでも……お嫁さんのわたしは嫌なのですか? 」

なだめようとする僕を無視して姉ちゃんは切々と語り続けた。
やがてその美貌を歪ませると、深紅の眼からは涙が一滴零れ落ちた。

いけない。姉ちゃんを困らせるなんて絶対に嫌だ。大声で僕は叫んだ。

「違う!姉ちゃん大好きに決まってるよ!僕だって姉ちゃんを嫁さんにしたいさ! 」

「だったらどうして翔太ちゃんはわたしから逃げたのですか…… 」

必死に訴えても美冬姉ちゃんは重苦しい雰囲気を崩さない。
腫れ物にさわる様に蛇体をそっと僕に巻き付けている。
姉ちゃんはいつも安心させるようにしっかりと抱擁してくれるはずなのに……
不安げな仕草を見て僕はうなだれてしまう。

「あの…… 姉ちゃんに釣り合うような男になれるまで頑張ろうと思ったんだ。今は全然ダメだから成功するまでは一緒になるのは我慢しようと…… 」

「えっ!? 」

僕の言葉は美冬姉ちゃんにとって思いもよらぬものだったのだろうか。
口をあんぐりと開いて唖然とした様子だった。
しばらくは僕の言葉が本心かどうか、探る様な上目遣いで見つめていたが、やがて絞り出すように言った。

「あの。それじゃあ翔太ちゃんは、お姉ちゃんの事が別に嫌いになったわけでは…… 」

僕は姉ちゃんの悲しそうな瞳を見つめて言い切った。

「美冬姉ちゃんの事大好き。結婚してずっと一緒に居たいぐらい大好き! 」

姉ちゃんは安心したようにほっと一息ついた。
嘘のように晴れやかになると三つ指を付いてかしこまる。

「……はい。ありがとうございます!不束者ですがこれからよろしくお願いします。」

あれ? ええと…… なんか思いもかけないプロポーズになってしまったけど…… 
僕の気持ちに嘘は無いから別にいい。
それに美冬姉ちゃんも、今までの不安な様子が嘘みたいにニコニコしているし。

「もうっ…… お姉ちゃんを困らせた翔太ちゃんにはお仕置きですっ! 」

お姉ちゃんははしゃいで言うと僕の体に蛇体を巻き付けてきた。
両手を広げると、絶対に逃がさないとばかりにぎゅっと抱きしめてくれる。
そう。子供の頃と変わらぬ温かくて優しい姉ちゃんの抱擁で……

「姉ちゃんごめんなさい。 」

僕は姉ちゃんにごめんなさいと言った。
おしおきと言われれば謝るのが昔からの習慣なので……

「いいえ〜。わかってくれればいいんですよ。 」

美冬姉ちゃんは相変わらず嬉しそうに抱擁し続けている。
僕もすっかり落ち着いて身を委ね続けたが、ふと気が付いた。
そもそもなんで姉ちゃんは今日うちに来たのだろう?
メールも電話もよくしてくるけど、今まで直接訪ねてくる事はなかったのだ。

「ところで姉ちゃん。 」

「なんでしょうか翔太ちゃん。 」

「あの。姉ちゃん何か急用でもあったの? 今までうちに来た事なかったのに。 」

疑問に思って聞く僕だったが、そんな僕に姉ちゃんは翳りのある笑みを見せた。
姉ちゃんがうちに来た時、最初僕に見せたのと同じ笑顔を。

「はい。お姉ちゃんは、翔太ちゃんのお嫁さんになるために来たんですよ…… 」

「姉ちゃん…… 」

「それでもし翔太ちゃんが聞き分けの悪い事言うようだったら、どんな事でもするつもりだったんです。 」

美冬姉ちゃんは朗らかな様子だったが、言っていることはなかなか怖い。
僕は知らぬうちに生唾を飲み込んでいた。

「でも、良かった。翔太ちゃんが分かってくれて本当に良かった。無理やりなんか嫌だったんです。どうしようかずっと悩んでいて。 」

美冬姉ちゃんは僕の顔を己の胸に抱いた。
柔らかい感触が心地よくてうっとりするが、姉ちゃんは身を震わせて嗚咽し始めた。
良かった。本当に良かったと、ほっとした様子で何度も繰り返している。
姉ちゃんが僕の前でここまで感情をあらわにする事など今まで無かった。

そうか。僕が変な意地を張ったせいで姉ちゃんを苦しめていたのか……

姉ちゃんの痛々しい様子を見ていて、いまさらながら気が付いた。
白蛇にとって、己が好きになった男を放置して置く事は耐えられないという。
でも美冬姉ちゃんは、今までヤキモチとか嫉妬とかの感情を見せたことは無かった。
僕にとってはあくまでも優しいお姉ちゃんであり、幼馴染でいてくれた。

その人が心の奥底に深い想いを抱えていたなんて。
鈍い僕は全く気が付くことが出来なかった。
無論姉ちゃんから僕を婿にもらい受けたいと聞いたときに察して当然だ。
でも僕は美冬姉ちゃんの「弟」としての立場に甘えきってしまっていた。

なにが姉ちゃんにふさわしくなりたいだよ…… 
なにが姉弟以上の関係になりたいだよ……
僕は自分の至らなさに歯噛みした。

「ごめん。姉ちゃんごめんね…… 」

先ほどのあくまでも習慣としてではない。
心からの罪悪感が沸き起こってきた僕は、何度も謝った。

「ほんと僕はダメだよ。バカな独りよがり言って。姉ちゃん困らせて今日も面倒かけちゃって。どうしようもないよ…… 」

「いいえ。そんなこと言わないでください。 」

美冬姉ちゃんはいたわる様に微笑むと僕を抱擁から解いた。

「翔太ちゃんはお姉ちゃんの為に頑張ってくれたんですよね。お姉ちゃんにかっこいいところ見せようとしてくれたんですよね。」

「でも、全然ダメだった…… 」

僕は力なくかぶりを振った。

「とんでもない!わたしの為にそこまでしてくれるなんて、お姉ちゃんとっても嬉しいんですよ。やっぱり翔太ちゃんは素敵です。 」

「お姉ちゃん…… 」

「翔太ちゃんは立派です。今までよく頑張りました!でも、もう無理する必要ないんですよ…… 」

姉ちゃんは優しい慰めの言葉をかけ続けてくれる。
想いがこもった深紅の瞳を見つめていると、不思議と心穏やかになるようだ。

「ねえ。あとの事はお姉ちゃんに任せてくれませんか? 」

「でも。 それじゃあ…… 」

結局は姉ちゃんに頼ってしまうのか……
忸怩たる思いを抑えることが出来ずに唇を噛んだ。

「言うこと聞きなさい。気が付いていないんでしょうけど、今のきみはボロボロなんですよ。翔太ちゃんが苦しんでいるのに放ってなんかおけません!  」

僕を安心させるように姉ちゃんは抱きしめてくれた。
そうだ。姉ちゃんの言う事を聞いてさえいれば幸せになれたのに……
それなのに意地を張って、結果無駄に遠回りしてしまった。

「大丈夫っ!面倒な事はお姉ちゃんが全部片づけます。何も心配しないでくださいね! 」

大丈夫。何も心配しないで。
美冬姉ちゃんのこの言葉には今までどれだけ力づけられただろう。
実際僕が悩みを相談すると姉ちゃんは全て解決してくれたのだ。

「でも、また姉ちゃんの世話になってしまうのは心苦しいというか…… 」

「あら。お姉ちゃんから翔太ちゃんをお世話する楽しみをとっちゃうんですか? 」

「じゃ……じゃあ風邪が治ったら今回の分を取り返すためにもバリバリ働くよ! 」

「正直に言えば、お姉ちゃんはそういった事は全く望みません。逆に浮世の煩いから解放されて、いつも私と一緒。のんびりニコニコしているきみを見たいんです。」

気兼ねして遠慮がちに言う僕だったが、姉ちゃんは華やかに笑って反論してくる。
でも、強い意志を表す眼差しは、いいだしたらきかない姉ちゃんのものだ。
思わぬ提案に僕は言葉もなく黙り込んでしまった。

「お姉ちゃんに翔太ちゃんを養わせてください。そうすることがとっても嬉しいのですから。それでも翔太ちゃんは上を目指して成功したいですか?わたしが望みもしないのに…… 」

美冬姉ちゃんはまた蛇体を伸ばして僕に触れた。
すごく嬉しいけど、姉ちゃんの言う事さえ聞いていれば間違いないんだけど、
でも、やっぱりためらう気持ちは消すことはできない。
姉ちゃんは煮え切らない僕の態度にむっとしたようだ。
口を膨らますと、蛇体で優しく拘束する。

「お姉ちゃんは、大好きな翔太ちゃんと、ずっとずっと一緒に居たいんです!ほかには、何もいらないんです! 」

姉ちゃんは良く通る声ではっきりと言いきった。
そして僕の目を真正面からじっと見つめる。
どことなく切なげな瞳。美しい宝石のような紅い瞳に吸い込まれそう。

「大好きです。翔太ちゃんが大好きなんです。お姉ちゃんは何でもします。きみに一切の苦労はさせません。つらい事や苦しい事からもお姉ちゃんが護ってみせます。きみが望むなら命だって賭けます。ですから。ね……ずっと私をそばに置いてください。ずっと一緒に生きていきましょう。もうわたし、翔太ちゃんがいないと我慢できない…… 」

姉ちゃんは僕を抱きしめてうわごとのようにつぶやき続けた。
愛撫を繰り返し、耳元でささやき続ける。純白の髪が僕の顔にかかる。
熱い吐息が。優しい手の感触が。柔らかい体が。甘酸っぱい匂いが。
姉ちゃんのすべてが僕の頑なな心を崩壊させていった。

「好き…… 大好き。僕も美冬姉ちゃんが大好き!これ以上姉ちゃんがいない生活なんか耐えられない…… 姉ちゃんがそばに居てくれないとつらいよ! 」

知らぬ間に僕は叫んでいた。
豊かで柔らかい胸に顔を埋めて、姉ちゃん大好きと叫び続けた。
数えきれないほど姉ちゃんの名を呼び続けた。

「ありがとうございます…… 嬉しいですよ翔太ちゃん! 」

姉ちゃんも感極まったように声を上げると、僕をますます念入りに蛇体で包み込む。
そうだ。好きな人とずっと一つでいれば幸せになれるのに……
一体何をためらっていたのだろう。姉ちゃんのいい匂いに包まれてそう思う。

「美冬姉ちゃん…… 」

「ん?うふふっ。どうしました翔太ちゃん。 」

甘える様にすがりつく僕に、姉ちゃんは重荷から解放されたような清々しい笑みを見せた。

「あ……ごめんなさい! 病人の翔太ちゃんに無理させちゃって。とにかく今はゆっくりおねんねして風邪を治しちゃいましょう。 」

申し訳なさそうな様子の美冬姉ちゃんは、僕の額にキスをしてくれた。
そして右手をすっと差し伸べると、繊細な白い指先に青白い光を生じさせる。

「それってまさか…… 」

ずっと姉ちゃんと過ごしてきたので、白蛇の魔力の事は知っていた。
こうなる事は考えなくもなかったけど、少し心がざわめいて鼓動が早くなる。
僕の不安な様子を察したのか、姉ちゃんは優しく慰めてくれた。

「大丈夫! 何も心配いりませんからね。さ、ゆっくりお休みくださいね。」

姉ちゃんは輝く右手をそっと僕に当てた。途端に穏やかな眠気が包み込む。
力が抜けて崩れ落ちる僕を、姉ちゃんはしっかりと抱き止めてくれた。
全身を包み込む姉ちゃんの蛇体布団の温かさと柔らかさ。
僕はたとえようもない安らぎを感じながら眠りに堕ちていった……



















「っ!いっ……いいっ!翔太ちゃんいいっ!翔太ちゃんのおちんちん気持ちいいですよぉ…… 」

「本当に!気持ちいいの?美冬姉ちゃんこれが気持ちいの!? 」

カーテンを閉め切った暗い部屋。湿った空気がこもる温かい部屋。
その中で僕と姉ちゃんは交わりあっていた。
僕は頭の中がとろけそうな快楽の中、我を忘れて腰を律動し続ける……
 
あれから体調が十分に良くなるのを待った後、僕は姉ちゃんに連れられて故郷に帰ってきた。
両親もこうなる事は知っていたみたいで、僕の帰郷と結婚を大喜びで祝ってくれた。

姉ちゃんは色々我慢の限界だったらしく、周囲への挨拶もろくにせずに、僕は姉ちゃんの家に連れ込まれた。
その後は新婚初夜からずっと続けて姉ちゃんとセックスし続けている。
何度も注ぎ込まれた白蛇の魔力の影響だろう。僕の欲望も体力も尽きる事は無かった。

ずっとセックスし続けとはいっても優しいお姉ちゃんの事だ。
僕が疲れる前に必ず休息をとってくれて、美味しいご飯を作って食べさせてくれた。
そのあとはふたりでのんびり眠ったり、一緒に風呂に入っていちゃいちゃしている。

ろくに女性経験がなかった僕だったが、姉ちゃんは愛情深く色々教えてくれた。
実際は姉ちゃん自身も経験が無くて以外だったのだが、魔物娘はその辺は本能でどうにかしてしまうらしい。

家と言えば当然のように姉ちゃんの家に住む事になったが、姉ちゃんは新婚生活の準備をとっくに済ませていた。
かつて見慣れていた姉ちゃんの家の中は、僕たち二人がすぐ生活を始められるようになっていて驚いたものだ。

ちなみに僕が勤めていた会社からは、すぐに離職票等が送られてきた。
一体姉ちゃんがどんな事をしたのかは知らないが、何もトラブルにはならなかった。
まあ、今後姉ちゃんと生きていく僕にとってはすべて終わった事だ。
そう。終わったことだ……



















「姉ちゃんっ。もう駄目。また出ちゃう…… 」

もっと気持ちよくなりたくて腰を動かしていた僕だが、とうとう限界が訪れた。
姉ちゃんの肉壺はとっても温かくて、ぬめる様にうごめき続けている。
まるで射精を促すかのように僕の一物を締め付ける。我慢なんかできない。

「いいんですよっ!我慢なんかしないで好きな時に出してくださいね…… 」

身を震わす僕を、姉ちゃんは愛おしむ様に見つめ抱きしめてくれた。
蛇体も射精を逃さないとばかりにしっかりと腰に巻き付く。
僕は最後の一撃を姉ちゃんの腰にぶつけた。

「いっ……いくっ。 」

股間に満ち満ちていた塊。暴発寸前に滾っていたものが爆発した。
僕は声を上げると、熱く濁った体液を美冬姉ちゃんの胎内にぶちまけた。
延々と続く最高の射精感。快感で頭が真っ白に塗りつぶされるような心持。
姉ちゃんの蜜壺の奥は亀頭にぴったり張り付き、精を欲しがるように吸引する。
これがまた切なくなるほど心地よく、僕はさらに太陽の精を膣内に放出した。

「あっ……熱いっ!翔太ちゃんのせーえき熱いっ!お姉ちゃんもダメっ。い、いぐうっ…… 」

優しく僕を抱擁していた姉ちゃんだったが、いつしか乱れ始めた。
濡れた様な甘い声で吠えて何度も激しく痙攣する。
僕は姉ちゃんに負けじと腰を動かして快楽を貪り続けた。



















無限ともいえる時間続いた射精だったが、それもいつしか収まった。
僕は荒い息をついて姉ちゃんの胸に顔を埋めている。
きめ細やかな肌はしっとり汗に濡れて、甘く淫らな匂いで脳内が侵食されるよう。

すがりついている僕を、姉ちゃんは何度もそっと愛撫してくれた。

「よく頑張りました翔太ちゃん!お疲れでしょう。しばらくお休みしましょうね。 」

顔を上げた僕を見て姉ちゃんは穏やかに微笑んだ。

「はあい。翔太ちゃんとっても素敵でしたからご褒美上げますねっ。 」

姉ちゃんは近くに置いてあったペットボトルを取ると中の水を口に含む。
当然の様に僕に口づけすると、中の水を注ぎ込んだ。
この水は姉ちゃんの魔力が込められている。
とてもおいしくて、なぜかほのかに甘く感じる。

散々交わって渇いた喉にはありがたいご褒美だ。僕は音を立てて飲み干した。

「もっと欲しいな…… 」

「ええ。たくさん飲んでくださいね! 」

僕がおねだりすると、姉ちゃんは嬉しそうに口移しを繰り返した。
姉ちゃんの長い舌も、悪戯するように口中に侵入する。
僕は舌に吸い付き、ぬるぬるで少しざらざらする舌も存分に味わった。
嗜虐的ともいえる深いキスに僕は夢中になる。

「姉ちゃん…… 」

しばらく後に口を離したが、姉ちゃんは愛情深く微笑み続けている。
僕は無性に切なくなって胸に甘えてしまった。

「ん?どうしました翔太ちゃん。 」

僕が何か気にしていると勘違いしたのだろう。姉ちゃんは慰めるように語りだした。

「ごめんなさいね…… いつまでもこんな生活では悪いとは思うんですけど…… 翔太ちゃんがとっても素晴らしすぎて止めるに止められなくて…… あの、あともう少しだけお姉ちゃんに付き合って頂ければ嬉しいんですけど。 」

姉ちゃんは申し訳なさそうにしているが、僕は別に全く気にしていない。
というか、今の爛れた日々は僕にとっても素晴らしいものだから。
お姉ちゃんとのセックスはとっても優しく気持ちよくて、心がすべて満たされる。
僕が頑張ると姉ちゃんはいつも素敵ですと言って褒めてくれる。
もうお姉ちゃんはきみ専用になっちゃましたといって、ぎゅっと抱きしめてくれる。

姉ちゃんと一つになって過ごす毎日。
面倒な事は全て捨て去って、愛する人だけを感じる日常は幸せ以外の何物でもない。
僕は笑顔を見せてかぶりを振ると、姉ちゃんをぎゅっと抱きしめた。

「ありがとうございます…… 嬉しいですよ。まあわたしたちに時間はたっぷりありますから、これからの事はゆっくり考えていきましょうね…… 」

お姉ちゃんは感激したように言うと、僕をしっかりと抱き返してくれた。
絡みつく蛇体を感じて僕はうっとりする。ただ姉ちゃんに溺れる。

「これからはずっと一緒ですからね。ずっとずっと一緒です。大好きですよ。翔太ちゃん…… 」

ねっとりと甘く震える姉ちゃんの声が、いつまでも僕の耳にまとわりついていた。



















24/01/02 18:54更新 / 近藤無内

■作者メッセージ
今回もご覧いただきありがとうございます。

クロビネガのトップページでも紹介されていますが、
先日にわとり軍曹先生の白蛇さん漫画を拝見いたしました。
とってもエロくて素敵な白蛇お姉ちゃんでしたので、
私も白蛇お姉ちゃんを描きたい衝動が抑えきれずに本作となりました。

先生におかれましては素晴らしい作品をありがとうございます!

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