連載小説
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前篇
もう朝になったのだろうか?夏の眩しい光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
明るくなって一応眼は醒めたが、まだまだ眠気は抑えきれない。
ようやくあいた目がたちまち閉じそうになる。

僕の体は素晴らしい感触に包みこまれている。
温かくて柔らかでとってもすべすべ。
これではまるで睡魔に襲ってくださいと言わんばかりだ。
僕は無意識のうちにその愛しいものをかき抱く。途端に聞こえる愛情深い女性の声。

「よしよし…。いいんですよ。好きなだけ寝ていて下さいね…。」

頭を撫でる優しい手つきに僕は意識を手放して行った。

















「………。」

「あ…。おはようございます!よくお休みでしたね。」

ようやく起き出した僕の耳に、先ほどの女性の柔らかい声が聞こえる。振り返った僕の目の前にあったのは、異形でありながらも神秘的な姿だった。

驚くほど整った絶世の美貌。しみ一つないきめ細やかな肌は透き通る様。さらさら揺れる長髪は真っ白な雪を思わせ、きらきら輝く瞳はまるで真紅の宝石だ。これだけでも十分に印象深いけど、さらに特徴的なのは彼女の体。髪と同色の純白の下半身が、蛇を思わせる様にうねるように長く伸びているのだ。

当然彼女は人では無い。彼女は白蛇。魔物娘の一種族だ。僕は優しく微笑んでいる彼女に挨拶を返す。

「おはよう母さん…。」

その途端。白蛇の女性はふっと表情を曇らせた。翳りを帯びた眼差しで僕を見つめる。

「ねえあーくん…。この間ママとお話して決めましたよね。これからはママの事はちゃんとママと呼んでくれるって。」

「いや…。でもやっぱり恥ずかしいから。母さんじゃだめなの?」

言い訳する僕に白蛇の女性は悲しそうだ。今にも泣きそうな様子に僕は困ってしまう………。

当然の事だが僕は彼女の実子では無い。一応僕は彼女━みゆきさん━の夫だ。僕たちは夫婦なのだ。以前みゆきさんは僕の事を旦那様とかあなたとか呼んでいた。お淑やかな奥さんでいてくれていた。それがいつの間にか母さんという事になり、最近ではとうとうママになってしまった…。

なぜみゆきさんが母さんとかママになるのだろう。僕は疑問と困惑を隠せなかった。だが彼女にいくら問い詰めても、あなたがとっても可愛いから子供にするのですよ。そう言って笑うだけだった。

僕の事は子供としか思えないほど頼りないのかな?以前はそう思い落ち込みもした。だが、みゆきさんの「子供」として過ごす日々は、例えようも無く安らかなものだ。いつしかその環境に馴染み、最近ではすっかりみゆきさんに甘えきってしまっている。

だからそのこと自体は問題ない(いや。大ありなんだけど…。)。だが、みゆきさんは僕に自分の事をママと呼ぶように言ってきた。さすがにママと言うのは抵抗がある。前にも母さんと呼ぶように言われ、ようやくそれに慣れてきたのに。また恥ずかしい思いをしなければならない…。

ため息を付く僕をみてみゆきさんはむっとした顔をする。そして目にもとまらぬ速さで僕の体に蛇体を絡みつかせてきた。僕が止める間も無くみゆきさんは僕を押し倒す。

「ちょっと待ってよ母さん!」

「もう!まだそんなこと言って!でもママにはわかりますよ。あーくんはこうしてあげると素直になってくれるんですよね。」

みゆきさんはにっこり笑うとそのまま蛇体で僕を包み込んだ。いいこいいこするように頭を撫で、背中を優しくぽんぽんと叩いてくれる。

「よしよし。大丈夫!ママはあーくんのママなんですから…。何も気にしないで甘えていればいいんですよ。あーくんはママに甘えるのが仕事なんですからね。」

慰める様に僕の耳元で語るみゆきさん。熱い吐息が掛かって興奮すると同時に、胸が締め付けられる様に切なくなる。いつしか僕は身を弛緩させ蛇体に埋めていた。顔を胸に押し付けるとみゆきさんはさらに優しく労わってくれる。全身を包む蛇体の温かさに心が溶け、僕の口から自然と言葉が出ていた。

「ママ。ママ。みゆきママ…。」

「嬉しい。あーくんはやっぱりいい子です。よしよし。いいこいいこ…。」

みゆきさんは僕をひたすら愛撫し続ける。いつしか本当の子供のように無心で甘えていた。だが、そんな僕の体が変化しているのにみゆきさんは目ざとく気がついた。

「あらあら。あーくんのおチンチンおっきくなっちゃってますねえ。」

「わかっているでしょ…。これはただの生理現象で。」

いわゆる朝立ちと言う奴だ…。気恥ずかしくて言い訳する僕だったが、みゆきさんは全く聞く耳持たなかった。母のような愛情を込めた笑顔で僕に語りかける。

「いいんですよ〜。何も恥ずかしがることないんですからね〜。さ、ママのオ○ンコにおチンチン入れて気持ち良くなりましょうね〜。」

「あっ…。ママ駄目…。」

止める僕に構わずにみゆきさんは僕の一物をむき出しにする。それを己の秘部に押し当てると、すぐさまずぶっと挿入した。みゆきさんの大切な場所はとっても柔らかだけど、男根をきゅうきゅう締め付ける。熱くどろどろの蜜壺に包まれた僕自身は、たちまちのうちにはち切れんばかりに膨張した。

「は〜い。それじゃあ、あ〜くんの白いおしっこぴゅーぴゅーおもらしして下さいねっ!」

まるで幼児に語りかける様なみゆきさんだ。その途端。膣内が僕の猛った物を搾るように蠢いた。ひだひだと子宮口が肉棒と鈴口にまとわりつく。夫であり子でもある僕に愛情深く射精を促し、同時に魔物娘の欲望で激しく精を搾り取ろうとする。

「ママいっちゃうよ!」

下半身を蕩けるような甘さが襲う様に包み込む。我慢できず僕は叫んだ。その途端、熱く濁った快楽の塊が尿道口を駆け抜け、みゆきさんの胎内にぶちまけられた。たまらず一息をつくが、すでに僕はインキュバスの身。一回の射精で萎える事無く快感を求める。さらに僕はもっと気持ち良くなりたくて、ひたすら腰を律動し続ける。

「よしよし…。腰をへこへこするあーくん可愛いです。さ、我慢しないでもっとおもらししちゃいましょうね。はい。ぴゅー。ぴゅー。ぴゅー。」

甘い嬌声で射精を促すみゆきさん。僕はますます興奮して膣内に射精を続ける

「ママぁ。ママぁ。出ちゃうよママぁ…。」

「はぁい!ちゃんとぴゅーぴゅー出来てあーくんはいい子です。大丈夫!怖がらないでもっと出していいんですよ。おもらししちゃったあーくんのお世話はママがちゃんとしてあげますから…。」

頭の中を焼き尽くす様な快感に耐えきれずに、僕は壊れたようにママと呼び続ける。みゆきさんはそんな僕を優しく抱きしめ慰め続ける。僕は腰を突出し、みゆきさんの子宮の奥底に吐精し続けた。

「お疲れさま!ママに美味しい精をご馳走してくれてあーくんはいい子です。」

みゆきさんは延々と射精を続けていた僕を、ようやく搾り取るのを止めた。荒い吐息を付く僕の背中を撫で、労わりの言葉を掛けてくれる。

「わたしばっかりごちそうしてもらって悪いですから、あーくんにもいいものあげますねっ!」

微笑んだみゆきさんは僕を抱いて体を入れ替える。僕の頭を自身の豊満な胸元に持っていくと、ピンク色の乳首を口に含ませた。

「さあ遠慮なくどうぞ!」

「うん…。」

みゆきさんに促されると、僕は彼女の乳首をちゅうちゅうと吸い始める。途端に甘く爽やかな液体が口いっぱいに広がった。当然のように僕はその液体をごくごくと飲み干す。毎日飲んでも飽きる事のないみゆきさんの母乳だ。

僕とみゆきさんの間には子供はいない。だがみゆきさんは何処からか手に入れた魔法薬を飲んで、母乳が出せるようにしてあるのだ。どうしてそんな事するのと聞いたら、大切な我が子(僕)に母乳を与えるのは当然だと言われてしまった…。

みゆきさんのこの行動には困惑しかなく、最初僕は彼女の授乳を拒んでしまった。そうしたらみゆきさんは、ご飯も喉を通らない程落ち込んでしまったのだ。その様子があまりにも気の毒で、僕は不服ながらも授乳に応じる事にした。だが、以外にもみゆきさんの乳はとっても甘くおいしかった。僕はたちまちのうちに夢中になっていった。嫌々だったはずの授乳タイムは、今ではすっかり当たり前というか楽しみになってしまっている。

「よしよし…。栄養たっぷりのおっぱいですよ〜。いつも飲んでくれてあーくんはいい子です。」

夢中になって乳を吸いつづける僕。みゆきさんは深い愛情がこもった笑顔で見つめ続ける。温かな蛇体で包みこんでくれる。あまりの心地よさに再度眠気が襲ってくるのを抑えきれなかった。うつらうつらとし始めた僕を、みゆきさんは優しく撫でてくれた。

いつも授乳する時、みゆきさんは僕を抱きしめて蛇体に包み込んでくれる。いたわるように愛撫してくれる。これがまた例えようもない幸福感なのだ。みゆきさんは僕を守ってくれる。面倒な事は全部解決してくれる。僕はみゆきさんに抱っこされて、おっぱいを飲んでさえいればいい…。そんな安らぎと温かさにすっかり溺れきってしまっているのだ。

「うふふっ。おっぱいたくさん飲んでおねんねして、元気なあーくんになって下さいね………。」

穏やかなみゆきさんの声は子守唄の様だ。誘われた僕は甘い眠りに堕ちて行った。



















魔王が統べる王国と国交が結ばれて数十年…。今では人と魔物の共存は当然の事になっている。みゆきさんも近所に住んでいる魔物の一人だった。彼女の美貌は注目の的だったが、僕とは顔を合わせれば挨拶する程度にすぎなかった。あくまでもただのご近所さん。そんな関係が急展開したのはいつだっただろう。

当時僕は家族を失い、天涯孤独の身の上となっていた。こんな時こそ頑張ろう。そう思い真面目に勤めていた会社も倒産してしまった。不運が重なり自暴自棄になってしまったのだろう。僕はひたすら酒とギャンブルに溺れるようになってしまった。あの日もいつもの様に、ほろ酔い加減でパチンコに行こうとしていた。

その時みゆきさんが突然目の前に現れたのだ。驚き慌てる僕を無視して、彼女は無理やり自分の家に連れ帰った。一体何事かと問いかけると、心からお慕いするお方が破滅の道を歩んでいらっしゃる。これ以上黙って見ていられない。そう言って僕を抱きしめ嗚咽しはじめたのだった。

あの時のみゆきさんの抱擁。蛇体の温かさと安らぎは今でも忘れることが出来ない。その後、僕はみゆきさんと生活を共にするようになり、いつしかなくてはならないひとになった。結局この一件が契機になり、僕はみゆきさんと結婚することになったのだ。

当時はみゆきさんの突然の告白に本当に驚いた。これも白蛇さんらしいといえるのだろうか。無理やり拉致監禁されるような目にはあったが、僕はみゆきさんの想いによって救われた。彼女がいなければ僕は何をしでかしていたかわからない。本当にいくら感謝してもしきれないのだ………。






















心地良い二度寝から目覚めると、相変わらず僕はみゆきさんに抱きしめられていた。僕が起きたのに気がつくと、みゆきさんは優しく笑ってくれる。彼女のルビーの様な瞳は澄んだ輝きを帯びている。みゆきさんに見つめられると、いつも恍惚となる様な不思議な感覚に陥る。それがまた心地よい。

「あーくん。今日は曇っていて涼しいです。外に出るにはもってこいですよ。あとで一緒にお散歩行きましょう!」

僕がうっとりとしていると、みゆきさんが苦笑して問いかけてきた。だが、僕は彼女の胸に顔を埋めていやいやする。

「今日はいいよ。みゆきママにずっと抱っこしていてほしいな…。」

みゆきさんはため息を付いた。

「あーくんは昨日もそんなこと言ってずっと家にこもっていましたよね。たまには外の空気も吸わないと駄目ですよ。」

「でも…。」

「ねえあーくん。もしかしてあーくんはママが白蛇だから、本当はあーくんを外に出すのは嫌なんじゃないか。そう思っています?」

気乗りせずに渋い顔をする僕に、みゆきさんは気遣う様に問いかけてきた。そういった思いもあるのは否定できない。白蛇さんは嫉妬深く、男が自分以外の女に近寄っただけでも許さないというから。

みゆきさんと一緒にお出かけすれば、人魔問わず女性とすれ違う事など当たり前のようにある。無論みゆきさんは全く気にする風では無い。でも、内心では相当不快なのでは?そう気になっているのだ。図星を突かれて口ごもる僕だったが、みゆきさんは静かにかぶりを振った。

「もう…。ママにそんな遠慮なんかしてはいけません。子供が元気で楽しそうでいるのを見るのが、ママの何よりの喜びなのですよ。ママはあーくんがお外で楽しそうにしていると嬉しいんです。本当にあーくんはお出かけするのは嫌ですか?」

みゆきさんは僕の目を見つめて問いかけてくる。何も気にしないでもいいのに。そう言いたげな様子に僕も安心する。

「僕も遊びには行きたいな。みゆきママさえよければだけれど。」

僕の言葉を聞いてみゆきさんは満面の笑みを浮かべた。

「もちろんじゃないですか。それじゃあ早速お出かけしましょうねっ!」

















外に出ると、空には低く垂れこめた鉛色の雲が広がっていた。どことなく薄暗く、日の光は全く差し込む様子をみせない。早朝の強い日差しが嘘のよう。季節が季節なら憂鬱になりそうだ。しかし今夏は相当の猛暑。比較的涼しい曇天は有難い。ある意味恵みの天気と言ってもいいだろう。

「曇りは久しぶりですねぇ。最近はずっと晴れて暑かったですから…。」

みゆきさんは空を見上げて呟く。その様子を何気なく眺めていた僕だったが、不意に心の奥底に切なさが産まれる。僅かな動揺はすぐに泣きたくなるほどの不安感に育ち、ついには心が張り裂けそうな焦燥感となった。

「みゆきさんごめんっ!」

とにかく寂しい…。つらい…。急激な心の変化に到底耐えきれなかった。僕はみゆきさんに駆け寄り知らぬ間に手を握っていた。

「あっ…。ごめんなさいあーくん!大丈夫ですか?よしよし。つらかったでしょう。」

みゆきさんは僕の異常な姿にすべてを察したようだった。慌てて僕を抱きしめて何度も撫でてくれる。僕を包み込む蛇体の柔らかさ。みゆきさんの優しい匂い。大好きなみゆきさんを感じることが出来て、荒れ狂う心はいつしか静まっていった。

「みゆきさん。きもちいい…。」

「よしよし。もう大丈夫ですよ。気がつかなかった馬鹿なママでごめんなさいね…。」

落ち着いた僕を見て、みゆきさんは一安心といった様子だ。何度も優しくいたわってくれた。みゆきさんは僕を愛情深い眼差しで見つめてくれる。だが、なぜだろう。その瞳にほんの僅か優越感と言うか、勝ち誇ったような色が浮かんでいるのだ。

君はもう私から絶対に離れることは出来ないわよ…。そういう昏い光を帯びた眼差しで。

僕がみゆきさんから心も体も離れられなくなったのはあの日からだ。僕がみゆきさんから想いを伝えられた日。みゆきさんは自分の手に青白い光を生じさせ、それを僕に押し当て何度も流し込んだ。これはあなたを治療するためには欠かせないものです。朗らかにそう言いながら。その途端異常な性欲が襲ってきた僕は、みゆきさんと昼夜問わず夢中でセックスした。

確かにみゆきさんの「治療」はすぐに効果を発揮した。狂う様にのめり込んでいたギャンブルと酒から簡単に足を洗うことが出来たのだ。あれほど依存していたのに、心に思い浮かぶことすら無くなった。みゆきさんと性の交わりを繰り返すことにより、弱っていた体も嘘のように健康になった。だが、当然と言うべきだろうか。代償は払う事になった。

僕はみゆきさんに絶対的に依存するようになってしまった。常にみゆきさんを感じていなければ、心が酷く不安定になってしまうのだ。みゆきさんの温かさを求めて孤独に苛まれてしまう。

その事をみゆきさんに告げると「私はあなたから絶対に離れずにお護りします。何から何まで面倒を見ます。私と一緒にいればますます幸せで健康にもなれます。だから何も心配はいらないのですよ。」そう言って蕩ける様に笑ったのだった。

こんな状態の僕は、もう他の女に関心を持つ事は出来ない。みゆきさんと僅かの間離れている事すら出来ない。そもそも日常の全てをみゆきさんに依存して、深く頼り切ってしまっている。もう別れて生活する事など不可能だ。僕を外に出しても全く心配が無いように、みゆきさんはしっかりと保険は掛けてあるのだ。だから喜んで僕と一緒に遊びにいけるのだろう。

柔らかで温かく、とっても良い匂いのみゆきさん…。みゆきさんと一緒ならあとは何だっていい…。不安と寂しさから解放された僕は安らぎに溺れる。しばし呆けたようにみゆきさんを抱きしめていた。

「大丈夫ですかあーくん?無理しないで家に帰りましょうか?」

「ううん…。もう大丈夫だよみゆきさん。」

みゆきさんは僕を蛇体で包み込んで労わってくれる。彼女の心配そうな眼差しに笑顔で答えた僕だったが、みゆきさんは急に蛇体を締め付けてきた。突然の事に僕は呻いてしまう。

「ちょ。ちょっとみゆきさん!」

「こらぁ!どさくさに紛れてみゆきさんなんて言って!ちゃんとママって言いなさい!」

つい衝動的に「みゆきさん」と言ってしまい、ずっとこれで通そうと思ったのだが…。やっぱりみゆきさんは誤魔化せなかった。みゆきさんは僕を叱ると眉間にしわを寄せて怒った顔をした。でもみゆきさんの声は彼女の性格を表すかのように愛らしい。怖さなど全く無く逆に和やかさすら感じる。

痛くは無いがみっちりと隙間無く巻きつく蛇体の圧迫感。まるで僕へのおしおきと言わんばかりだ。本気で怒っていないのはわかっているが、僕はもうみゆきさんには逆らえない…。当然の様に詫びを入れてしまった。

「ママごめんなさいっ。」

頭を下げる僕を見て、みゆきさんは表情を和らげてくれた。

「はい。わかってくれればいいんですよ。やっぱりあーくんは素直な良い子です!」

みゆきさんは聞き分けの良い僕へのご褒美とばかりに何度も頭を撫でてくれる。

「ねえあーくん…。ママはあーくんのママになれてすごく幸せです。あーくんがママって言ってくれるだけで天にも昇る心持になれるんです。だからお願いです。これからもずっとママって呼んでくれますか?」

幼子を教え諭す様にみゆきさんは僕に語りかける。まるで慈母のような眼差し。胸がきゅんと切なくなった僕は、みゆきさんのむねに顔を埋めてこくりとうなずいた。

「わかったよ…ママ。」

「ありがとうございます。嬉しいですよあーくん…。」

みゆきさんも泣きそうな笑顔になって僕を抱きしめてくれた。

















みゆきさんとお出かけといっても特別な事をする訳では無い。ぶらぶら散歩したり、気になる店を冷やかしたり、二人の何気ない時間を楽しむだけだ。けれど何気ない時間こそ大切なものだ。その事は良く分かっていた。

店先で欲しかったものを見つけてはしゃいだり、どちらが似合いますかと僕に服の品定めを頼んで来たり、普段はあまり見られないみゆきさんも可愛い…。そんな事を思う間も無く時間は過ぎ去り、あっという間に昼飯時になってしまった。

「あーくんどうしましょう?お腹すきましたよね?」
「うん…。何か食べたいけど…。でも周りがこの雰囲気じゃあねぇ…。」

空腹を気遣うみゆきさんだが、僕は気乗りしない事を隠さずに答える。みゆきさんも苦笑して、そうですねえとうなずいた。店を色々見て回っていたら、僕たちはいつしか街の中心部に足を踏み入れていた。今日は平日。周りは昼食を求めるサラリーマンで混雑している。魔物娘の姿も目立つが、彼女達もデキるビジネスパーソンとでもいった雰囲気だ。どうみても男を狙うハンター、もしくは恋人といちゃつくカップルなどではない。周囲がそれでは僕たち二人は明らかに浮きまくっている。

「どうでしょう?ちょっと足を延ばしていつもの魔物カフェにいきますか?」

「それがいいね。ここじゃあ落ち着いて食べられないし。」

ここはどうにも居心地が悪い。みゆきさんの提案に僕もすぐに同意した。

















「やっぱりここは落ち着くねえ…。」

「ふふっ。ですよね。」

しばらく歩いて着いたのは歓楽街の一角にあるカフェ。ようやく到着した僕たちは、ソファに腰掛けほっと一息ついた。ここは刑部狸が経営しており、近隣の魔物やインキュバスにとっては馴染の場所だ。とはいっても僕はみゆきさんと一緒になるまで、ここの事はほとんど知らなかった。いつも魔物が出入りしている場所。その程度の印象しか無かった。

明るく清潔感のある店内で僕たちはくつろぐ。周りは人目憚らずいちゃつく人魔のカップル達。熱くまとわりつくような空気が店内に満ちている。さっきの街中のせわしなさとはえらい違いだ。

「なんでも好きなもの頼んでくださいね。あーくん。」

「うん。」

みゆきさんは鷹揚に微笑んでメニューを渡してくれた。さて、おなかも空いたし何を食べようか…。

夢中になってメニューを見ていると、ふわとろオムレツと書かれた一角に目が留まった。そこには「ハーピーの生みたて新鮮卵を使っています!」とわざわざ強調してある。ご丁寧に「当店で使われている卵は私達が産んでいます!」と書かれた可愛いハーピーの写真付きでだ。

最近では魔界とか魔物娘に関わる食材は当たり前のように使われている。ネタのつもりで魔物娘の卵を食べたら、その味わいに夢中になってしまい、最終的には産んだ当人と結婚してしまうなんて事もあるようだ。僕はなんとも言えない表情でメニューを見つめる。みゆきさんは僕の視線に気がついたようだ。眉をひそめるとさっとメニューを取り上げた。

「もう…。これは駄目ですよあーくん。」

「みゆきママ…。」

「駄目ですよ。あーくんはママが産んだ卵しか食べちゃいけないんです。」

僕をたしなめる様に言うとみゆきさんは真面目な顔になった。ラミア属は当然卵生なのだが、実は…白蛇であるみゆきさんも無精卵を産むのだ。その産んだ無精卵は当然のように僕に食べさせている。ちなみに僕はみゆきさんが産んだ卵を、長い事そうと知らずに食べていた。

みゆきさんが作る卵料理はとっても美味しい。夢中になって僕が食べていると、いつもどろりとした熱っぽい視線で見つめてくるのだ。毎回の事に怪訝に思った僕が聞いてみると、わたしが産んだ卵をあーくんが食べてくれて嬉しい。これであーくんと一つになれたようだ。そう言ってこぼれんばかりの笑みを見せたのだった。

もうその時には卵の味わいが忘れられなくなっていた。信じられないコクとうまみ。何度食べても欲しくなる白蛇らしい強烈な依存性。これは異常な事だと嫌悪する気持ちすら無くなっていた。そして当然のようにみゆきさんが産んだ卵をねだるようになった。

「あーくん。ママの卵また食べたいですよね?」

みゆきさんは口ごもる僕に優しく問いかけてくる。僕はなんのためらいも無くうなずいた。

「うん。すごく美味しいよ…。」

「ありがとうございます。いつもそう言ってくれるからママはとっても嬉しいんですよ!またすぐに産んであげますからね。だからここで食べるのは我慢してくださいね…。」

みゆきさんはそっと僕を抱きしめると耳元でねっとりとささやいた。ぞくぞくする感触に震える僕を見て目を細めると、蛇体をきゅっと巻きつけた。

「そ、それじゃあピラフを頼んでいい?」

僕がうっとりしながら言うとみゆきさんは満足げにうなずいた。

「ええ…。なんでも注文して下さいね。ただし。卵料理は駄目ですよ〜。」

みゆきさんはウインクするとにこやかに笑った。













24/01/02 19:01更新 / 近藤無内
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■作者メッセージ
後編は近日公開という事で…。
今回もご覧いただきありがとうございます。

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