新春白蛇
ああ…暇だ。正月で久しぶりの長期休暇だが…本当に暇だ。
暇はあるが金も趣味も無い。当然というか彼女もいない。友人たちと駄弁ったり飲んだりする事が唯一の楽しみのようなもの。その友人達は彼女とお楽しみだ。飲みに誘うには気が引ける。
暇つぶしにテレビやネットを見る。だが家に居続けると、どうにも息が詰まってきてしまう。
どうしよう…。
あ…そうだ。
せっかくの正月だ。初詣にでも行こうか…。思い立った俺は早速支度を始めた………。
魔王の統べる王国と国交が結ばれて数十年…。当初は色々問題もあったらしいが、それは全て俺が産まれる前の話だ。今では社会にとって必要不可欠な隣人として、友好的に共存している。
現に俺が向かっている神社も、「龍」といわれる高位の魔物によって守られている。この地には龍にその身を変じて、妖から村を守った女性の伝説がある。その女性を祭る神社として、以前から知られていたのだ。魔物との共存が進んだ今では、伝説に伝わる龍本人が堂々と姿を見せるようになった。
さて…。ようやく到着した神社。田舎町ゆえ人はそれほど多くは無いが、それでも正月らしい賑わいを見せている。活気ある様子に、本当ならば俺の気持ちも浮き立つのだろう。
にぎやかで活気がある事。それはいい。
そう。それはいいのだ。問題は…
なんでほとんどがカップルばっかりなんだよ?え?おい!?………俺は思わず舌打ちしてしまう。
角や翼をもつ女性。獣のような毛並みを持つ女性。異形の下半身を持つ女性。なかには全身が液体状になっている女性もいる。皆、驚くほど整った容姿を誇っている。
それらの者が全員男と連れだって仲睦まじくしているのだ。人間同士のカップルも多いが、目立つのはこれら美しき魔物娘達…。
独り身の俺にとってこの光景は大変つらい…。
あ〜あ…。こんな事なら来るんじゃなかった…。家に居た時以上に憂鬱になる。でも、よく考えれば初詣客にカップルが多いなんて当たり前の事だ。俺はろくに考えもせずに神社に来てしまった事を後悔した。
妬んでいないで彼女を作れ?その通りだ。人間娘なら色々面倒だろうが、魔物娘に声を掛ければ喜んで恋人になってくれるだろう。
だが…なんというか。どうも俺自身魔物に対してわだかまりがあるのだ。
魔物娘は欲しい男をどんな手段を使ってでも手に入れる…。一緒になった男とは昼夜を問わず、ひたすらセックスして過ごす…。そんな話を聞くとなんとも複雑な気持ちになる。
魔物と交わり続ける男は、飲まず食わずでも生きて行けるそうだ。働かずにだらだら生きて行ける事を、大喜びする男も多いのだろう。だが、それは人間としてどうなのだろう?自堕落な生活は、人間としての誇りや尊厳を捨てる事ではないのか?疑問に思う俺は、必要以上に魔物娘と交流しなかった。
賑わいの中に身を置いていると、ますます気分が塞いできた。もういい。帰ろう。
だが、せっかく初詣に来たのだ。せめて縁起物を頂いていこう…。思いなおした俺は破魔矢とお守りを頂いた。
これで用事は終わった。さあ…帰ろう。そう思った矢先。
「あのぉ。すみません…。」
「はい?」
突然声を掛けられて振り向くと、そこに居たのは巫女装束のサキュバスだった。サキュバス属らしくエロい体と、対比するような清楚な巫女装束。アンバランスだがとても魅力的だ。
彼女は妖艶に微笑みながら言葉を続けた。濡れた様な瞳が赤く光っている。
「ただいま縁起物をお授けした方をご祈念して、神楽を龍神様に奉納していますけどぉ…。良かったらどうですかぁ…?」
巫女らしからぬ欲情的な声に背筋が震えた。彼女は距離を縮めて、ぐいぐい俺に迫ってくる。
なんか、このままだとヤバいかも…。俺は慌てて言葉をさえぎった。
「わかりましたっ!どうもありがとうございますっ!」
「えっ…。待ってくださいよぉ!」
悲しい声を上げるサキュバスの巫女から距離をとって、逃げる様に神楽殿に向かう。
やれやれ…。危ない所だった。正月だけの臨時の巫女なのだろうけれど、巫女が参拝客をチャームする様な事していいのか?まあ、龍とはいえ魔物娘を祭ってある神社だ。その辺は全然オッケーなんだろうか?
でも、巫女さんが舞う神楽は見たい。どうしよう?このまま神社に長居しても、先ほどのような事になりかねないが。
色々思案するうちに神楽殿に到着したが…。幸いにも大勢の人が並んで祈念を受けている。
よし…。こんなに人がいるなら大丈夫だろう。人前堂々と魅了を仕掛けてくるとも思えない。
俺は一応安心して行列に並んだ。
俺は目の前で舞われている神楽を呆然として見つめ続ける。
神楽を舞っているのは巫女装束をまとった魔物娘の姿…
前で切りそろえた輝く白銀の長髪…。
陶器のように白くなめらかな肌…。
燃えるような真紅の瞳…。
人では到底ありえない清楚な美貌…。
そして腰から下は純白の蛇体が長く長く伸びている。
そう。彼女は白蛇。龍に仕える白蛇の巫女だ。俺は舞い始めた美しい白蛇に、たちまちのうちに魅了されていた。
彼女が舞うと純白の蛇体が艶めかしくうねり、恍惚とした眼差しが赤く輝く。白銀の髪も風に舞う。
優美で、可憐で、清廉で、それでいて蠱惑的な…
頭の中がすべて彼女の白色で染め上げられるような…そんな蕩けるような興奮を味わい続けた………
「本日はようこそお参りくださいました…。」
心地良く透明感がある声が俺の耳をくすぐる。
我に返ると、白蛇の巫女が柔らかく微笑んでいた。いつの間にか神楽は終わっていたようだ。
俺はなおもうっとりとして、差し出された破魔矢を受け取った。白く繊細な彼女の手。俺の手とわずかに触れると、心地よい甘さが心に満ちる。
「ぁ…ぅ…。」
もごもご呟くだけでお礼の言葉も出ない俺。ただ頭を下げて、そっと神楽殿を離れた。
いったんは神楽殿から離れたが、どうしてもあの情景が頭から離れない。白蛇の巫女の麗しい姿を、もっともっと見ていたい。
俺は何かに誘われるかのように舞い戻り、じっと神楽を見つめ続ける。ただひたすら夢中になって、可憐な姿をこの目に焼き付ける。
何でこんなに彼女の事が頭から離れないんだろう…。ラミアの姿は結構見かけるし、白蛇にも何度か会った事はある。彼女達は確かに目を見張るほど美しかった。だが、これほど心奪われるような感覚は過去に無い。
訳が分からない俺は、必死に頭の中で理由を探す。でも、好きになるのに理由はいらないとも言うし…。これが一目惚れって奴か?愚にもつかない思いを弄ぶ。
その時、白蛇の巫女は不意に舞を止め、俺の方に眼差しを向けてきた。
優しく深い真紅の瞳が俺を捕える。
柔らかく愛情深く微笑んでくれる。
俺は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。気が付かれていたのだ。ずっと見つめていればそれも当然だが。
周りの参拝客も何事かと注目し出す。俺は大慌てで立ち去った。
その場を逃げる様に後にする。惨めだった。魔物娘がどうこう言って置きながら、恥ずかしいぐらいの熱情を込めて見つめてしまった…。
でもあれほど美しく、素敵な人がそばにいてくれるのなら…。どれだけ楽しい毎日になるだろうか。
白蛇さんとおしゃべりして、白蛇さんと笑いあい、白蛇さんと食卓を共にし、白蛇さんと抱き合って………
ああ…。あの白蛇さんが…欲しいっ!
畜生!
知らず知らずのうちに妄想を続けた俺は歯噛みする。一体どうしたって言うんだ!
糞っ。もういい!
俺は衝動的に賽銭箱に賽銭を入れ、二礼二拍手一礼する。そしてひたすら願った。
龍神様龍神様。どうか白蛇の巫女さんと添い遂げさせてください…。白蛇さんを毎日抱きしめて、毎日ちゅっちゅして、毎日セックスして、毎日愛し愛されする…そんな日々が送れるようにしてください…。龍神様龍神様。どうかよろしくお願いします。
こんな真似をして良いと思っているのか?心の声を聞きながらも俺はひたすら祈り続けた………
その後どうやって帰宅したか覚えていない。気が付くとベットに座ってぼうっとしていたのだ。時間が経つにつれ冷静になったものの、白蛇に対する思いは消える事は無かった。
その翌日。相変わらず暇な一日。でも、駄目だ。どうしても衝動が抑えきれない…。俺はネットで白蛇のエロ動画を探す。
お、あったあった。どうやらアニメの様だ。えーとタイトルは「白蛇女教師〜嗜虐の監禁授業」これは…SMものか?正直痛そうなのは嫌だが、背に腹は代えられず観てしまう…
うん…予想に反して逆レイプものだった。ショタ趣味の白蛇先生が、想いを寄せる男子生徒を監禁して、魔力を注ぎ込んで、心の底から堕ちるまで犯しぬく…。これはこれでなかなか良かった。…って、何やっているんだろ。俺って…。
ふと我に返り、興奮から覚めた俺はますます惨めになってしまった。やっぱり映像より本物がいいかな…。憂鬱な思いで呟きため息を着く。
その時だ。俺の家のドアの呼び鈴が押された。正月休みなのにいったい誰だろう?面倒な気持ちを抑えきれずに俺はインターホンを押した。
え………。
画面に映っている姿を見た俺は固まった。そこにはなんと…昨日の白蛇の巫女の姿…。彼女は長く伸びた蛇体を揺らしながら、満面の笑みを浮かべていた。手にはスーパーで買い物したと思われる袋を持っている。
困惑のあまり言葉も無い俺。その気持ちを知ってか知らずか、画面の向こうの白蛇は朗らかに呼びかけてきた。
「お喜びくださいませ!わが主はあなた様のお願いをお聞き届け下さいましたっ!」
は?はあ?
思わず目が点になる。一体彼女は何を言っているのだろう?俺は恐る恐る返答する。
「あの………。言われている事がわからないんですけど。どなたかとお間違えでは?」
悪い冗談を聞いたと言わんばかりに白蛇の巫女は笑った。
「お戯れを…。昨日あなた様はわたくしを嫁に貰い受けたいと、そうおっしゃったではありませんか…。」
嫁…って。どういう事?マジでわからないけど…。白蛇はさらに言葉を続けた。
「昨日は大変うれしゅうございました…。あなた様はわたくしのようなものを、心の底から求めて下さいました。わたくしと抱擁を交わし、熱い精を注いで、永遠に愛し合いたいと…そうおっしゃって下さいました。」
白蛇は恥ずかしそうに顔を赤らめうつむいた。だがその表情は歓喜に溢れ、とても嬉しそうだ。だが、困った…。全く理解が追い付かない………。
でも、怪しい。あまりにも怪しすぎる…。これは悪徳商法か?もしかして宗教詐欺?まさかと思うがあの神社がその宗教詐欺に関わっているのか?
良く分からないが…これ以上関わるのは駄目だ。深入りせず毅然とした態度で断ろう。
「失礼ですが間に合っていますんで。必要ありません。」
「え…?あの、お待ちください!誤解されていますね。わたくしの話をお聞き下さいませんか…」
「いや。結構です。必要ありませんので。それじゃあ…」
白蛇が何か言おうとするのを無視して俺はインターホンを切った。
一体あれはなんだったんだ…。動揺が抑えきれない。だが、何が起こったのか考えようとする間もなく再度呼び鈴が押された。
えっ?あの白蛇まだいるの…。でも、ここは放置徹底するしかない…。
何度か呼び鈴が押されるのを無視する。
…………やっと静かになった。よかった。ほっと一息つこうと思った瞬間。ドンドンとドアを叩く音が響き渡る。
ええっ!?ちょっとまておいっ…。マジであの白蛇なに考えてるの?
ドアを何度も何度も叩く音に続いて、彼女の澄んだ愛らしい声がここまで届く。
「わたくしはあなた様のもとに嫁入りに参ったのです。子供の使いでは無いのですよ。このままお話もせずに帰る訳には参りません。」
俺は慌てふためきドアに駆け寄り叫んだ。
「待ってくれ!あんた…絶対に人違いしているよ!俺がいつあんたと結婚したいなんて言ったんだよっ!」
「まさか…。本当に覚えていらっしゃらないのですか…。あなた様は昨日龍神様の御前で、わたくしと添い遂げたいと、そうおっしゃられたではありませんかっ!」
詰問するかのような白蛇の強い声。
ああ…そうだ。
ここでようやく思い当たる。昨日神社で必死に願った事…。白蛇と添い遂げたいと必死に願った事を。でもあれは心の中で願っただけだし…。人に知られるなんて絶対にありえない。
俺は心中の思いを打ち消し、そして叫んだ。
「と、とにかく帰ってくれ!こんな事されても困る!」
白蛇は言葉を発しなかった。しばしの沈黙の後、ドアの向こうでため息を着いたのが聞こえる。
「もはやこれまで…のようです。是非も無いですね…。力尽くでもお話を聞いて頂きます。」。
蕩ける様に柔らかいが妙に怖い声。背筋が震えたその途端…ドアノブが回された。
一瞬心臓が締め付けられるような恐怖が俺を襲う。
だが、がちゃがちゃ音がするドアが開く事は無かった。
魔物が普通に存在するご時世。対魔物、対魔術結界が発動する鍵を付けるのは当然の事だ。俺の家も例外では無い。幾分ほっとして胸をなでおろす。
「あらっ…。結界とは用心深い事ですね。防犯を意識していらっしゃるのは感心です…。」
だが…ドアの向こうの白蛇の声は余裕に満ち溢れている。俺の心に再度不安が沸き起こる…。
「でも…この程度ではわたくしを止めることは出来ませんよぉ…。」
白蛇のはしゃぐような声がした途端…。
地の底から響き渡る様な音が轟き、ドアが激しく震えた。
ドアに魔法陣めいた模様が赤く刻まれ、赤い光が激しくきらめく。
その瞬間…激しい音と光の渦が部屋を包む…。一体何が起きているんだ…。予想だにしなかった事で、俺の思考は完全にストップしていた。
やがて音も光も嘘のように静まった。
ドアがゆっくりと開かれる。
姿を見せたのは昨日の白蛇。白銀の長髪。真紅の瞳。驚くべき美貌。麗しくも神秘的な姿だ。
彼女は歓喜を隠さず震えるような声で言った。
「こんにちは…。ああ…これでようやくお話が出来ますねえっ。 旦 那 様…。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
俺は声にならない叫び声をあげた。目の前には満面の笑みを浮かべている白蛇。彼女は純白の蛇体をうねらせて俺の方に近づいてきた。
「い、一体…あ、あんたは…。ど、どういうつもり…なんだっ!」
恐怖に包まれてどもってしまった…。白蛇の巫女は穏やかな声でなだめて、俺を落ち着かせようとする。
「ご安心を!わたくしはあなた様の嫁となるべく参上したのですよ。誤解なさらないで下さいな…。」
「だから嫁って…。それさっきから言っているけど、一体いつ俺が…。」
困惑しきった様子の俺…。それ見た白蛇は全てを察した様だ。優しく教え諭す様に言う。
「どうやら本当にご理解していらっしゃらないようですね…。あなた様がわが主…龍神に祈りを捧げていらっしゃった時。一体何を願われたかお忘れですか…。」
「あの…あの時は、あくまで俺の心の中で思っただけだよ…。」
「うふふっ…。主は仮にも神であらせられます。人間が口に出さずとも、願いを読み取る事など造作ない事なのですよ。」
「じゃ…じゃあ、あの時俺がお賽銭を入れて神様に何を願ったか……知ってるの?」
そんなことあるまいと思っていたが…。まさか…全部知られていた?毎日キスしてセックスしたいなんて願った事を…。羞恥心が抑えきれずに顔が赤くなっていくのがわかる。
白蛇の巫女も俺に劣らず顔を赤くして俯くと、そっと答えた。
「はい………大変嬉しゅうございました。」
「……………………………………………。」
俺は言葉も無く黙り込む。
これは、恥ずかしい…。しばらく嫌な沈黙が続いた。だが、気を遣ってくれたのだろうか。白蛇は明るい調子で話し出した。
「それで、主からあなた様の事を勧められたのですよ。もしよかったどう?お嫁さんになっちゃう?…って。わたくしも大喜びでお受けいたしました!」
「でも…それだけの事で結婚しようとするなんて…。」
「もちろんそれだけではありませんよ。あなた様が私が舞う所をご覧下さっていた時から…。情熱的な眼差しを見てこの方しかいないと、そう決めていたようなものなのです。」
白蛇は朗らかな笑顔だ。彼女がにこにこしているのを見ていると、不安な気持ちが落ち着く。
「あ、あの時は悪かったよ…。君があまりにも…綺麗だったのでつい…。変態みたいな事してごめん…。」
不安と恐怖心が落ち着くと、昨日の事が急に申し訳なくなってしまう。俺は素直に頭を下げた。
それを見た白蛇の巫女は真紅の瞳を輝かせると、嬉しそうに俺の手を取った。二人の距離が縮まると、甘酸っぱい香りが彼女から漂う。
すべすべで温かい手…。心地よい匂い…。思わず我を忘れそうになる。
「そんな事をおっしゃらないで下さいませ!わたくしは今まで殿方に、そこまで想いを寄せて頂いた事はありませんでしたっ!本当にありがとうございます!もったいないお言葉です。」
感極まった様に白蛇は俺に抱き着いてきた。突然の事で反応も出来ずに押し倒される。
「ちょっと…待って!」
慌てて止めるが彼女は意に介さない。たちまち純白の蛇体が絡みつき、俺は彼女にぐるぐる巻きにされ、包み込まれてしまった。
絞め殺されるっ!一瞬恐怖心が襲う。だが、俺の心中を察したかのように甘く、優しく、抱きしめる様な巻き付き…。ほっと安心する。
「ああ…やはりあなた様はわたくしの旦那様です!ふつつかものですが、よろしくお願いいたしますねっ…。」
いつしか彼女の瞳は赤くどろりと濁っていた。今まで感じなかった強烈な情欲を感じる。
情欲…?違う。それ以上のものだ。お前はわたしの物だという独占欲。捕食者としての強烈な欲望と言った方が正しいだろう。
その時俺の頭にあったのは先ほど見た「白蛇女教師〜嗜虐の監禁授業」のストーリー。あのように俺も魔力を注ぎ込まれて…。何度も何度も犯されて…。彼女がいなくては生きて行けない体にされてしまう…。人として大切なものを捨てなければならないのか…。
深い諦観が俺を飲み込もうとした。でも。いや…。人としての誇りにかけてそれは駄目だ。何としても抵抗しなければ…。
一瞬そう思う。だが…俺を包む蛇体の温かさと柔らかさ。愛撫する優しい手つき。頭が蕩けるような甘い匂い。情熱的に囁かれる愛の言葉。全てが俺の理性を崩壊させていく…。
そうだ…俺はいったい何をためらっているんだろう…
初詣で願った事が叶うんだ。喜ぶべき事じゃないのか…
「ん〜。すぅ〜。あはっ。とっても良い香り…。素敵ですよっ。」
白蛇さんは何を思ったか、首筋に顔を押し付け何度も何度も匂いを嗅ぐ。
清楚な巫女さんに匂いを嗅がれている…。そう思うと羞恥心と理性が甦る。
「ちょっと…。止めてくれ。恥ずかしいから…。」
「いいえ…。何も気にすることはございませんっ!わたくしは嬉しいのです…。
今後共に生きるお方が、これほど良い香りをしていらっしゃるなんてっ!わたくしはなんと果報者なのでしょうかっ!」
必死に止める俺に対し白蛇さんは柔らかな声で答える。にこにこした笑顔は、心の底からの充足感を味わっている様だ。
「ああ…あなた様をもっと感じていたいっ!もっと一つになりたいっ!」
切なく叫んだ白蛇さんは俺をぎゅうっと抱きしめた。感極まったかのように頭を胸に抱く。たわわに実った果実のような豊満な乳房が俺を包む。
とっても柔らかく…。温かくて…。良い匂い…。
その至福の感触を味わった瞬間…俺の頭の中は真っ白になる。いつしか全身の力を抜いて彼女に身を寄せていた。
再び理性から解放された俺の手は、知らぬ間に魔性の肉体を掻き抱く。喜んだ白蛇さんは蛇体を蠢かせると、俺の体をさらに念入りに包み込んだ。全身を包む悦楽にうめき声をあげる。
「よろしいのですよ…。わたくしはあなた様のものです…。もっともっとお好きな事をなさってくださいね…。」
白蛇さんは俺の耳元でねっとりと囁く。熱い吐息に興奮して胸が張り裂けそう。
ああ…きもちいい。
頭を胸に寄せると何度も撫でてくれる。心地よく優しい手つき。
ずっとこうしていたい…。
蛇体の甘すぎる抱擁。心が解けるような安らぎ。
もっともっと味わいたくて蛇体に体を埋める…。
白蛇さんはそんな俺を見て弄ぶ様に声をかけてきた。
「まあ…。旦那様がこんなに甘えんぼさんだったなんてっ…。とってもかわいいですよっ!」
甘えんぼなんて…。そんな事を言われて少し恥ずかしさが甦る。はっと我に返れば、豊満な胸に顔を押し付け、甘える様に体を抱きしめている俺の姿…。蛇体も掛布団のように優しく俺を包み込んでいる。
ああっ!一体なんて恥ずかしい真似をっ!
俺は慌てふためき白蛇さんに詫びを入れる。
「いやっ!違うんだこれは…。本当に悪かったっ!そんなつもりじゃなかったんだっ!」
急いで身を引き離そうとした俺。今度は白蛇さんが俺を離すまいと、慌てて蛇体の拘束を強めてきた。
「あっ…。いいえっ!そうではありませんっ!私は嬉しいのです!旦那様にここまで甘えて頂いて心から喜んでいるのですっ!
からかうような真似をしてしまって本当に申し訳ありませんっ!よろしいのですよ。もっともっともっとわたくしに甘えて下さいませっ!!」
焦った様子で弁解した白蛇さんは、先ほど以上に優しく俺を包み込んできた。蛇体が心地良く蠢き、蕩けそうな感覚に陥る。そして俺を落ち着かせる様に何度も何度も愛撫してくれた。
また安らぎが戻ってきた…。俺の心はすっかり溶ける。白蛇さんに甘えたくて、一つになりたくて、ぎゅっと抱きしめる。
「ああ…。愛する御方を抱きしめる事が、これほどの幸福感だったとは…。よろしいのですよ…。このまま一緒に蕩けていましょうね…。」
白蛇さんの愛情深い声が心にしみわたる。魔物娘に対する不安や不信感もすべて消え去った俺は、ただ甘い安らぎに身を委ね続けた………
「旦那様…。どうでしょう?お雑煮はお気に召しましたか?」
「うん!ありがとう。とっても美味しいよ!」
不安げに確認してくる白蛇さんに俺は笑顔で答える。それを見た彼女もほっとした様に微笑んだ。
「そうおっしゃって頂き嬉しいです…。」
今、俺と白蛇さんは食卓を囲んでいる。彼女が作ってくれた雑煮に舌鼓を打っている所だ。すまし汁に焼き餅。大根と小松菜に鶏肉。シンプルだが懐かしい味に俺は夢中になっている。
白蛇さんの熱い抱擁を受けた後。俺は蛇体の拘束をすぐに解かれた。犯されることも、魔力を注ぎ込まれることも、監禁拘束も調教も無かった。
散々怯えたのは一体なんだったのだろう…。拍子抜けした俺に、白蛇さんは自分が持ってきた食材を見せた。
「お正月ですから…一緒にお雑煮食べませんか?」
そう言ってどこか儚げに笑ったのだった…。
今は食事も終わり休憩中。ちなみに白蛇さんの蛇体は、当然のように俺に巻き付いている。慈しむかのような愛撫が心地良くて顔を見れば、そこには慈愛に溢れた真紅の瞳。
白蛇さんは先ほどから俺の事を優しく見守ってくれている。
まるで母親のように見つめてくれる白蛇さんだ。俺はすっかり気を許し。安らかな気持ちで蛇体を抱きしめる。
「あらあら…どうしましたか旦那様。よしよし…。」
甘える俺に微笑みかけると、あやす様にぎゅっと胸に抱きしめてくれる。
一体俺は何を恐れていたのだろう…。抱擁の心地よさに溺れながら自嘲する。ろくに知りもしない癖に魔物娘に偏見を持って、自堕落だの、無理やり犯すだのと決めつけていた。そのくせ衝動を抑えきれずに失礼な事を神に願ってしまう有様だ。魔物って強引な所もあるけど、素敵で愛情深い存在じゃないか…。俺は自分の心の狭さを恥じた。
彼女の愛情深さは疑いようもない。でも………
正直に言えば、いきなり夫婦と言うのは不安が募る。
けれど彼女には色々申し訳ない事をしてしまった…。
責任を取ってこのまま白蛇さんのものになってしまおうか…
しばし葛藤する。だけど今では俺も白蛇さんと片時も離れたくない。この気持は本当だ。
俺は決意を固めた。
「あの…。俺をきみのものに…結婚してほしいんだ。」
決死の告白。だが、白蛇さんは切なく笑うとかぶりを振った。
「そのお言葉は大変ありがたいです…。本当なら喜んでお受けするつもりでした…。
でも、あなた様が我が主へ願われた時も、そして今もお心が揺れている状態です。そこに付け入るわけには参りません。」
「違うんだ!まってくれよ!」
「いいえ…。人間の方々のお心は良く分かっているつもりです。嘘を付くつもりは無くても、気の迷いで心にもない事を言ってしまう…。それが人間だという事を」
「そんな………。」
穏やかに、そして淡々と語る白蛇さんだが、俺はあまりの急展開に呆然となる。目の前が真っ暗になるような思いだったが、これも自分でまいた種だ。今さら後悔しても遅すぎるが。
「本当に?もう俺達これでおしまいなの?」
俺は哀願に近い様な声で問いかけてしまう。
だが…それを見た白蛇さんは急に慌てたようにかぶりを振った。
「いいえ!とんでもないことです!わたくしが旦那様のものであるように、旦那様もわたくしのものなのですよ!未来永劫お離しするつもりはございませんっ!!」
ご安心くださいね。白蛇さんはそう言うと明るく笑った。朗らかなその姿に俺の気持ちも静まる。
「だったらどうして…」
「はい。旦那様とは、少しずつ距離を縮めて行ければ良いと思うのです。私を信頼して頂けるその日まで、無理をして頂きたくないのです。
早い話、結婚を前提としてお付き合いをしたいと…そう申せばよろしいのでしょうか。」
白蛇さんは白磁の様な頬を赤く染める。恥ずかしそうに俯くとそっと呟いた。
俺は深い感動に包まれていた。そもそも俺を襲う機会はいくらでもあったはずなのだ。それなのに無理やり犯す事も無く、俺の気持ちを尊重してくれる。
ああ…。この人を手放してはいけない。絶対に! そう確信する。
と、なると言う事は一つしかない。
俺は決意を込めるかのように赤い瞳をじっと見つめる。やがて一呼吸着くと想いを伝えた。
「ありがとう…。でも、俺はもう君のものになるつもりなんだよ。」
白蛇さんは俺の手をそっと握った。温かく滑らかな手の感触が伝わる。
「そのお言葉だけ有難く頂戴いたしますね。わたくし達に時間はたくさんあるのです。無理はしないでゆっくり行きましょう!ね…。」
穏やかな微笑みを見せると、白蛇さんは俺の体を蛇体に温かく包み込んだ………。
「それじゃあ、迷惑かけるかもしれないけど、これからよろしく!…ええと?」
白蛇さんの名前を言おうとして口ごもった。良く考えれば俺は彼女の名前すら知らないのだ。
肝心な事を聞かないなんて馬鹿だなあ…。呆れながら俺は自分から名乗る。
「ごめん。申し遅れましたけど、俺は水梨 陸といいます。」
俺の名を聞いて、彼女も自分が名乗らなかった事に気が付いたようだ。すまなそうな表情で頭を下げてきた。
「ああっ!本当に申し訳ありませんっ…。すっかり名乗るのを忘れておりました…。
わたくしは、秋野白夜と申します。これからは白夜と呼んで下さいねっ!旦那様!」
白夜ちゃんは華やかに笑った。今日一番の素敵な笑顔だった。
暇はあるが金も趣味も無い。当然というか彼女もいない。友人たちと駄弁ったり飲んだりする事が唯一の楽しみのようなもの。その友人達は彼女とお楽しみだ。飲みに誘うには気が引ける。
暇つぶしにテレビやネットを見る。だが家に居続けると、どうにも息が詰まってきてしまう。
どうしよう…。
あ…そうだ。
せっかくの正月だ。初詣にでも行こうか…。思い立った俺は早速支度を始めた………。
魔王の統べる王国と国交が結ばれて数十年…。当初は色々問題もあったらしいが、それは全て俺が産まれる前の話だ。今では社会にとって必要不可欠な隣人として、友好的に共存している。
現に俺が向かっている神社も、「龍」といわれる高位の魔物によって守られている。この地には龍にその身を変じて、妖から村を守った女性の伝説がある。その女性を祭る神社として、以前から知られていたのだ。魔物との共存が進んだ今では、伝説に伝わる龍本人が堂々と姿を見せるようになった。
さて…。ようやく到着した神社。田舎町ゆえ人はそれほど多くは無いが、それでも正月らしい賑わいを見せている。活気ある様子に、本当ならば俺の気持ちも浮き立つのだろう。
にぎやかで活気がある事。それはいい。
そう。それはいいのだ。問題は…
なんでほとんどがカップルばっかりなんだよ?え?おい!?………俺は思わず舌打ちしてしまう。
角や翼をもつ女性。獣のような毛並みを持つ女性。異形の下半身を持つ女性。なかには全身が液体状になっている女性もいる。皆、驚くほど整った容姿を誇っている。
それらの者が全員男と連れだって仲睦まじくしているのだ。人間同士のカップルも多いが、目立つのはこれら美しき魔物娘達…。
独り身の俺にとってこの光景は大変つらい…。
あ〜あ…。こんな事なら来るんじゃなかった…。家に居た時以上に憂鬱になる。でも、よく考えれば初詣客にカップルが多いなんて当たり前の事だ。俺はろくに考えもせずに神社に来てしまった事を後悔した。
妬んでいないで彼女を作れ?その通りだ。人間娘なら色々面倒だろうが、魔物娘に声を掛ければ喜んで恋人になってくれるだろう。
だが…なんというか。どうも俺自身魔物に対してわだかまりがあるのだ。
魔物娘は欲しい男をどんな手段を使ってでも手に入れる…。一緒になった男とは昼夜を問わず、ひたすらセックスして過ごす…。そんな話を聞くとなんとも複雑な気持ちになる。
魔物と交わり続ける男は、飲まず食わずでも生きて行けるそうだ。働かずにだらだら生きて行ける事を、大喜びする男も多いのだろう。だが、それは人間としてどうなのだろう?自堕落な生活は、人間としての誇りや尊厳を捨てる事ではないのか?疑問に思う俺は、必要以上に魔物娘と交流しなかった。
賑わいの中に身を置いていると、ますます気分が塞いできた。もういい。帰ろう。
だが、せっかく初詣に来たのだ。せめて縁起物を頂いていこう…。思いなおした俺は破魔矢とお守りを頂いた。
これで用事は終わった。さあ…帰ろう。そう思った矢先。
「あのぉ。すみません…。」
「はい?」
突然声を掛けられて振り向くと、そこに居たのは巫女装束のサキュバスだった。サキュバス属らしくエロい体と、対比するような清楚な巫女装束。アンバランスだがとても魅力的だ。
彼女は妖艶に微笑みながら言葉を続けた。濡れた様な瞳が赤く光っている。
「ただいま縁起物をお授けした方をご祈念して、神楽を龍神様に奉納していますけどぉ…。良かったらどうですかぁ…?」
巫女らしからぬ欲情的な声に背筋が震えた。彼女は距離を縮めて、ぐいぐい俺に迫ってくる。
なんか、このままだとヤバいかも…。俺は慌てて言葉をさえぎった。
「わかりましたっ!どうもありがとうございますっ!」
「えっ…。待ってくださいよぉ!」
悲しい声を上げるサキュバスの巫女から距離をとって、逃げる様に神楽殿に向かう。
やれやれ…。危ない所だった。正月だけの臨時の巫女なのだろうけれど、巫女が参拝客をチャームする様な事していいのか?まあ、龍とはいえ魔物娘を祭ってある神社だ。その辺は全然オッケーなんだろうか?
でも、巫女さんが舞う神楽は見たい。どうしよう?このまま神社に長居しても、先ほどのような事になりかねないが。
色々思案するうちに神楽殿に到着したが…。幸いにも大勢の人が並んで祈念を受けている。
よし…。こんなに人がいるなら大丈夫だろう。人前堂々と魅了を仕掛けてくるとも思えない。
俺は一応安心して行列に並んだ。
俺は目の前で舞われている神楽を呆然として見つめ続ける。
神楽を舞っているのは巫女装束をまとった魔物娘の姿…
前で切りそろえた輝く白銀の長髪…。
陶器のように白くなめらかな肌…。
燃えるような真紅の瞳…。
人では到底ありえない清楚な美貌…。
そして腰から下は純白の蛇体が長く長く伸びている。
そう。彼女は白蛇。龍に仕える白蛇の巫女だ。俺は舞い始めた美しい白蛇に、たちまちのうちに魅了されていた。
彼女が舞うと純白の蛇体が艶めかしくうねり、恍惚とした眼差しが赤く輝く。白銀の髪も風に舞う。
優美で、可憐で、清廉で、それでいて蠱惑的な…
頭の中がすべて彼女の白色で染め上げられるような…そんな蕩けるような興奮を味わい続けた………
「本日はようこそお参りくださいました…。」
心地良く透明感がある声が俺の耳をくすぐる。
我に返ると、白蛇の巫女が柔らかく微笑んでいた。いつの間にか神楽は終わっていたようだ。
俺はなおもうっとりとして、差し出された破魔矢を受け取った。白く繊細な彼女の手。俺の手とわずかに触れると、心地よい甘さが心に満ちる。
「ぁ…ぅ…。」
もごもご呟くだけでお礼の言葉も出ない俺。ただ頭を下げて、そっと神楽殿を離れた。
いったんは神楽殿から離れたが、どうしてもあの情景が頭から離れない。白蛇の巫女の麗しい姿を、もっともっと見ていたい。
俺は何かに誘われるかのように舞い戻り、じっと神楽を見つめ続ける。ただひたすら夢中になって、可憐な姿をこの目に焼き付ける。
何でこんなに彼女の事が頭から離れないんだろう…。ラミアの姿は結構見かけるし、白蛇にも何度か会った事はある。彼女達は確かに目を見張るほど美しかった。だが、これほど心奪われるような感覚は過去に無い。
訳が分からない俺は、必死に頭の中で理由を探す。でも、好きになるのに理由はいらないとも言うし…。これが一目惚れって奴か?愚にもつかない思いを弄ぶ。
その時、白蛇の巫女は不意に舞を止め、俺の方に眼差しを向けてきた。
優しく深い真紅の瞳が俺を捕える。
柔らかく愛情深く微笑んでくれる。
俺は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。気が付かれていたのだ。ずっと見つめていればそれも当然だが。
周りの参拝客も何事かと注目し出す。俺は大慌てで立ち去った。
その場を逃げる様に後にする。惨めだった。魔物娘がどうこう言って置きながら、恥ずかしいぐらいの熱情を込めて見つめてしまった…。
でもあれほど美しく、素敵な人がそばにいてくれるのなら…。どれだけ楽しい毎日になるだろうか。
白蛇さんとおしゃべりして、白蛇さんと笑いあい、白蛇さんと食卓を共にし、白蛇さんと抱き合って………
ああ…。あの白蛇さんが…欲しいっ!
畜生!
知らず知らずのうちに妄想を続けた俺は歯噛みする。一体どうしたって言うんだ!
糞っ。もういい!
俺は衝動的に賽銭箱に賽銭を入れ、二礼二拍手一礼する。そしてひたすら願った。
龍神様龍神様。どうか白蛇の巫女さんと添い遂げさせてください…。白蛇さんを毎日抱きしめて、毎日ちゅっちゅして、毎日セックスして、毎日愛し愛されする…そんな日々が送れるようにしてください…。龍神様龍神様。どうかよろしくお願いします。
こんな真似をして良いと思っているのか?心の声を聞きながらも俺はひたすら祈り続けた………
その後どうやって帰宅したか覚えていない。気が付くとベットに座ってぼうっとしていたのだ。時間が経つにつれ冷静になったものの、白蛇に対する思いは消える事は無かった。
その翌日。相変わらず暇な一日。でも、駄目だ。どうしても衝動が抑えきれない…。俺はネットで白蛇のエロ動画を探す。
お、あったあった。どうやらアニメの様だ。えーとタイトルは「白蛇女教師〜嗜虐の監禁授業」これは…SMものか?正直痛そうなのは嫌だが、背に腹は代えられず観てしまう…
うん…予想に反して逆レイプものだった。ショタ趣味の白蛇先生が、想いを寄せる男子生徒を監禁して、魔力を注ぎ込んで、心の底から堕ちるまで犯しぬく…。これはこれでなかなか良かった。…って、何やっているんだろ。俺って…。
ふと我に返り、興奮から覚めた俺はますます惨めになってしまった。やっぱり映像より本物がいいかな…。憂鬱な思いで呟きため息を着く。
その時だ。俺の家のドアの呼び鈴が押された。正月休みなのにいったい誰だろう?面倒な気持ちを抑えきれずに俺はインターホンを押した。
え………。
画面に映っている姿を見た俺は固まった。そこにはなんと…昨日の白蛇の巫女の姿…。彼女は長く伸びた蛇体を揺らしながら、満面の笑みを浮かべていた。手にはスーパーで買い物したと思われる袋を持っている。
困惑のあまり言葉も無い俺。その気持ちを知ってか知らずか、画面の向こうの白蛇は朗らかに呼びかけてきた。
「お喜びくださいませ!わが主はあなた様のお願いをお聞き届け下さいましたっ!」
は?はあ?
思わず目が点になる。一体彼女は何を言っているのだろう?俺は恐る恐る返答する。
「あの………。言われている事がわからないんですけど。どなたかとお間違えでは?」
悪い冗談を聞いたと言わんばかりに白蛇の巫女は笑った。
「お戯れを…。昨日あなた様はわたくしを嫁に貰い受けたいと、そうおっしゃったではありませんか…。」
嫁…って。どういう事?マジでわからないけど…。白蛇はさらに言葉を続けた。
「昨日は大変うれしゅうございました…。あなた様はわたくしのようなものを、心の底から求めて下さいました。わたくしと抱擁を交わし、熱い精を注いで、永遠に愛し合いたいと…そうおっしゃって下さいました。」
白蛇は恥ずかしそうに顔を赤らめうつむいた。だがその表情は歓喜に溢れ、とても嬉しそうだ。だが、困った…。全く理解が追い付かない………。
でも、怪しい。あまりにも怪しすぎる…。これは悪徳商法か?もしかして宗教詐欺?まさかと思うがあの神社がその宗教詐欺に関わっているのか?
良く分からないが…これ以上関わるのは駄目だ。深入りせず毅然とした態度で断ろう。
「失礼ですが間に合っていますんで。必要ありません。」
「え…?あの、お待ちください!誤解されていますね。わたくしの話をお聞き下さいませんか…」
「いや。結構です。必要ありませんので。それじゃあ…」
白蛇が何か言おうとするのを無視して俺はインターホンを切った。
一体あれはなんだったんだ…。動揺が抑えきれない。だが、何が起こったのか考えようとする間もなく再度呼び鈴が押された。
えっ?あの白蛇まだいるの…。でも、ここは放置徹底するしかない…。
何度か呼び鈴が押されるのを無視する。
…………やっと静かになった。よかった。ほっと一息つこうと思った瞬間。ドンドンとドアを叩く音が響き渡る。
ええっ!?ちょっとまておいっ…。マジであの白蛇なに考えてるの?
ドアを何度も何度も叩く音に続いて、彼女の澄んだ愛らしい声がここまで届く。
「わたくしはあなた様のもとに嫁入りに参ったのです。子供の使いでは無いのですよ。このままお話もせずに帰る訳には参りません。」
俺は慌てふためきドアに駆け寄り叫んだ。
「待ってくれ!あんた…絶対に人違いしているよ!俺がいつあんたと結婚したいなんて言ったんだよっ!」
「まさか…。本当に覚えていらっしゃらないのですか…。あなた様は昨日龍神様の御前で、わたくしと添い遂げたいと、そうおっしゃられたではありませんかっ!」
詰問するかのような白蛇の強い声。
ああ…そうだ。
ここでようやく思い当たる。昨日神社で必死に願った事…。白蛇と添い遂げたいと必死に願った事を。でもあれは心の中で願っただけだし…。人に知られるなんて絶対にありえない。
俺は心中の思いを打ち消し、そして叫んだ。
「と、とにかく帰ってくれ!こんな事されても困る!」
白蛇は言葉を発しなかった。しばしの沈黙の後、ドアの向こうでため息を着いたのが聞こえる。
「もはやこれまで…のようです。是非も無いですね…。力尽くでもお話を聞いて頂きます。」。
蕩ける様に柔らかいが妙に怖い声。背筋が震えたその途端…ドアノブが回された。
一瞬心臓が締め付けられるような恐怖が俺を襲う。
だが、がちゃがちゃ音がするドアが開く事は無かった。
魔物が普通に存在するご時世。対魔物、対魔術結界が発動する鍵を付けるのは当然の事だ。俺の家も例外では無い。幾分ほっとして胸をなでおろす。
「あらっ…。結界とは用心深い事ですね。防犯を意識していらっしゃるのは感心です…。」
だが…ドアの向こうの白蛇の声は余裕に満ち溢れている。俺の心に再度不安が沸き起こる…。
「でも…この程度ではわたくしを止めることは出来ませんよぉ…。」
白蛇のはしゃぐような声がした途端…。
地の底から響き渡る様な音が轟き、ドアが激しく震えた。
ドアに魔法陣めいた模様が赤く刻まれ、赤い光が激しくきらめく。
その瞬間…激しい音と光の渦が部屋を包む…。一体何が起きているんだ…。予想だにしなかった事で、俺の思考は完全にストップしていた。
やがて音も光も嘘のように静まった。
ドアがゆっくりと開かれる。
姿を見せたのは昨日の白蛇。白銀の長髪。真紅の瞳。驚くべき美貌。麗しくも神秘的な姿だ。
彼女は歓喜を隠さず震えるような声で言った。
「こんにちは…。ああ…これでようやくお話が出来ますねえっ。 旦 那 様…。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
俺は声にならない叫び声をあげた。目の前には満面の笑みを浮かべている白蛇。彼女は純白の蛇体をうねらせて俺の方に近づいてきた。
「い、一体…あ、あんたは…。ど、どういうつもり…なんだっ!」
恐怖に包まれてどもってしまった…。白蛇の巫女は穏やかな声でなだめて、俺を落ち着かせようとする。
「ご安心を!わたくしはあなた様の嫁となるべく参上したのですよ。誤解なさらないで下さいな…。」
「だから嫁って…。それさっきから言っているけど、一体いつ俺が…。」
困惑しきった様子の俺…。それ見た白蛇は全てを察した様だ。優しく教え諭す様に言う。
「どうやら本当にご理解していらっしゃらないようですね…。あなた様がわが主…龍神に祈りを捧げていらっしゃった時。一体何を願われたかお忘れですか…。」
「あの…あの時は、あくまで俺の心の中で思っただけだよ…。」
「うふふっ…。主は仮にも神であらせられます。人間が口に出さずとも、願いを読み取る事など造作ない事なのですよ。」
「じゃ…じゃあ、あの時俺がお賽銭を入れて神様に何を願ったか……知ってるの?」
そんなことあるまいと思っていたが…。まさか…全部知られていた?毎日キスしてセックスしたいなんて願った事を…。羞恥心が抑えきれずに顔が赤くなっていくのがわかる。
白蛇の巫女も俺に劣らず顔を赤くして俯くと、そっと答えた。
「はい………大変嬉しゅうございました。」
「……………………………………………。」
俺は言葉も無く黙り込む。
これは、恥ずかしい…。しばらく嫌な沈黙が続いた。だが、気を遣ってくれたのだろうか。白蛇は明るい調子で話し出した。
「それで、主からあなた様の事を勧められたのですよ。もしよかったどう?お嫁さんになっちゃう?…って。わたくしも大喜びでお受けいたしました!」
「でも…それだけの事で結婚しようとするなんて…。」
「もちろんそれだけではありませんよ。あなた様が私が舞う所をご覧下さっていた時から…。情熱的な眼差しを見てこの方しかいないと、そう決めていたようなものなのです。」
白蛇は朗らかな笑顔だ。彼女がにこにこしているのを見ていると、不安な気持ちが落ち着く。
「あ、あの時は悪かったよ…。君があまりにも…綺麗だったのでつい…。変態みたいな事してごめん…。」
不安と恐怖心が落ち着くと、昨日の事が急に申し訳なくなってしまう。俺は素直に頭を下げた。
それを見た白蛇の巫女は真紅の瞳を輝かせると、嬉しそうに俺の手を取った。二人の距離が縮まると、甘酸っぱい香りが彼女から漂う。
すべすべで温かい手…。心地よい匂い…。思わず我を忘れそうになる。
「そんな事をおっしゃらないで下さいませ!わたくしは今まで殿方に、そこまで想いを寄せて頂いた事はありませんでしたっ!本当にありがとうございます!もったいないお言葉です。」
感極まった様に白蛇は俺に抱き着いてきた。突然の事で反応も出来ずに押し倒される。
「ちょっと…待って!」
慌てて止めるが彼女は意に介さない。たちまち純白の蛇体が絡みつき、俺は彼女にぐるぐる巻きにされ、包み込まれてしまった。
絞め殺されるっ!一瞬恐怖心が襲う。だが、俺の心中を察したかのように甘く、優しく、抱きしめる様な巻き付き…。ほっと安心する。
「ああ…やはりあなた様はわたくしの旦那様です!ふつつかものですが、よろしくお願いいたしますねっ…。」
いつしか彼女の瞳は赤くどろりと濁っていた。今まで感じなかった強烈な情欲を感じる。
情欲…?違う。それ以上のものだ。お前はわたしの物だという独占欲。捕食者としての強烈な欲望と言った方が正しいだろう。
その時俺の頭にあったのは先ほど見た「白蛇女教師〜嗜虐の監禁授業」のストーリー。あのように俺も魔力を注ぎ込まれて…。何度も何度も犯されて…。彼女がいなくては生きて行けない体にされてしまう…。人として大切なものを捨てなければならないのか…。
深い諦観が俺を飲み込もうとした。でも。いや…。人としての誇りにかけてそれは駄目だ。何としても抵抗しなければ…。
一瞬そう思う。だが…俺を包む蛇体の温かさと柔らかさ。愛撫する優しい手つき。頭が蕩けるような甘い匂い。情熱的に囁かれる愛の言葉。全てが俺の理性を崩壊させていく…。
そうだ…俺はいったい何をためらっているんだろう…
初詣で願った事が叶うんだ。喜ぶべき事じゃないのか…
「ん〜。すぅ〜。あはっ。とっても良い香り…。素敵ですよっ。」
白蛇さんは何を思ったか、首筋に顔を押し付け何度も何度も匂いを嗅ぐ。
清楚な巫女さんに匂いを嗅がれている…。そう思うと羞恥心と理性が甦る。
「ちょっと…。止めてくれ。恥ずかしいから…。」
「いいえ…。何も気にすることはございませんっ!わたくしは嬉しいのです…。
今後共に生きるお方が、これほど良い香りをしていらっしゃるなんてっ!わたくしはなんと果報者なのでしょうかっ!」
必死に止める俺に対し白蛇さんは柔らかな声で答える。にこにこした笑顔は、心の底からの充足感を味わっている様だ。
「ああ…あなた様をもっと感じていたいっ!もっと一つになりたいっ!」
切なく叫んだ白蛇さんは俺をぎゅうっと抱きしめた。感極まったかのように頭を胸に抱く。たわわに実った果実のような豊満な乳房が俺を包む。
とっても柔らかく…。温かくて…。良い匂い…。
その至福の感触を味わった瞬間…俺の頭の中は真っ白になる。いつしか全身の力を抜いて彼女に身を寄せていた。
再び理性から解放された俺の手は、知らぬ間に魔性の肉体を掻き抱く。喜んだ白蛇さんは蛇体を蠢かせると、俺の体をさらに念入りに包み込んだ。全身を包む悦楽にうめき声をあげる。
「よろしいのですよ…。わたくしはあなた様のものです…。もっともっとお好きな事をなさってくださいね…。」
白蛇さんは俺の耳元でねっとりと囁く。熱い吐息に興奮して胸が張り裂けそう。
ああ…きもちいい。
頭を胸に寄せると何度も撫でてくれる。心地よく優しい手つき。
ずっとこうしていたい…。
蛇体の甘すぎる抱擁。心が解けるような安らぎ。
もっともっと味わいたくて蛇体に体を埋める…。
白蛇さんはそんな俺を見て弄ぶ様に声をかけてきた。
「まあ…。旦那様がこんなに甘えんぼさんだったなんてっ…。とってもかわいいですよっ!」
甘えんぼなんて…。そんな事を言われて少し恥ずかしさが甦る。はっと我に返れば、豊満な胸に顔を押し付け、甘える様に体を抱きしめている俺の姿…。蛇体も掛布団のように優しく俺を包み込んでいる。
ああっ!一体なんて恥ずかしい真似をっ!
俺は慌てふためき白蛇さんに詫びを入れる。
「いやっ!違うんだこれは…。本当に悪かったっ!そんなつもりじゃなかったんだっ!」
急いで身を引き離そうとした俺。今度は白蛇さんが俺を離すまいと、慌てて蛇体の拘束を強めてきた。
「あっ…。いいえっ!そうではありませんっ!私は嬉しいのです!旦那様にここまで甘えて頂いて心から喜んでいるのですっ!
からかうような真似をしてしまって本当に申し訳ありませんっ!よろしいのですよ。もっともっともっとわたくしに甘えて下さいませっ!!」
焦った様子で弁解した白蛇さんは、先ほど以上に優しく俺を包み込んできた。蛇体が心地良く蠢き、蕩けそうな感覚に陥る。そして俺を落ち着かせる様に何度も何度も愛撫してくれた。
また安らぎが戻ってきた…。俺の心はすっかり溶ける。白蛇さんに甘えたくて、一つになりたくて、ぎゅっと抱きしめる。
「ああ…。愛する御方を抱きしめる事が、これほどの幸福感だったとは…。よろしいのですよ…。このまま一緒に蕩けていましょうね…。」
白蛇さんの愛情深い声が心にしみわたる。魔物娘に対する不安や不信感もすべて消え去った俺は、ただ甘い安らぎに身を委ね続けた………
「旦那様…。どうでしょう?お雑煮はお気に召しましたか?」
「うん!ありがとう。とっても美味しいよ!」
不安げに確認してくる白蛇さんに俺は笑顔で答える。それを見た彼女もほっとした様に微笑んだ。
「そうおっしゃって頂き嬉しいです…。」
今、俺と白蛇さんは食卓を囲んでいる。彼女が作ってくれた雑煮に舌鼓を打っている所だ。すまし汁に焼き餅。大根と小松菜に鶏肉。シンプルだが懐かしい味に俺は夢中になっている。
白蛇さんの熱い抱擁を受けた後。俺は蛇体の拘束をすぐに解かれた。犯されることも、魔力を注ぎ込まれることも、監禁拘束も調教も無かった。
散々怯えたのは一体なんだったのだろう…。拍子抜けした俺に、白蛇さんは自分が持ってきた食材を見せた。
「お正月ですから…一緒にお雑煮食べませんか?」
そう言ってどこか儚げに笑ったのだった…。
今は食事も終わり休憩中。ちなみに白蛇さんの蛇体は、当然のように俺に巻き付いている。慈しむかのような愛撫が心地良くて顔を見れば、そこには慈愛に溢れた真紅の瞳。
白蛇さんは先ほどから俺の事を優しく見守ってくれている。
まるで母親のように見つめてくれる白蛇さんだ。俺はすっかり気を許し。安らかな気持ちで蛇体を抱きしめる。
「あらあら…どうしましたか旦那様。よしよし…。」
甘える俺に微笑みかけると、あやす様にぎゅっと胸に抱きしめてくれる。
一体俺は何を恐れていたのだろう…。抱擁の心地よさに溺れながら自嘲する。ろくに知りもしない癖に魔物娘に偏見を持って、自堕落だの、無理やり犯すだのと決めつけていた。そのくせ衝動を抑えきれずに失礼な事を神に願ってしまう有様だ。魔物って強引な所もあるけど、素敵で愛情深い存在じゃないか…。俺は自分の心の狭さを恥じた。
彼女の愛情深さは疑いようもない。でも………
正直に言えば、いきなり夫婦と言うのは不安が募る。
けれど彼女には色々申し訳ない事をしてしまった…。
責任を取ってこのまま白蛇さんのものになってしまおうか…
しばし葛藤する。だけど今では俺も白蛇さんと片時も離れたくない。この気持は本当だ。
俺は決意を固めた。
「あの…。俺をきみのものに…結婚してほしいんだ。」
決死の告白。だが、白蛇さんは切なく笑うとかぶりを振った。
「そのお言葉は大変ありがたいです…。本当なら喜んでお受けするつもりでした…。
でも、あなた様が我が主へ願われた時も、そして今もお心が揺れている状態です。そこに付け入るわけには参りません。」
「違うんだ!まってくれよ!」
「いいえ…。人間の方々のお心は良く分かっているつもりです。嘘を付くつもりは無くても、気の迷いで心にもない事を言ってしまう…。それが人間だという事を」
「そんな………。」
穏やかに、そして淡々と語る白蛇さんだが、俺はあまりの急展開に呆然となる。目の前が真っ暗になるような思いだったが、これも自分でまいた種だ。今さら後悔しても遅すぎるが。
「本当に?もう俺達これでおしまいなの?」
俺は哀願に近い様な声で問いかけてしまう。
だが…それを見た白蛇さんは急に慌てたようにかぶりを振った。
「いいえ!とんでもないことです!わたくしが旦那様のものであるように、旦那様もわたくしのものなのですよ!未来永劫お離しするつもりはございませんっ!!」
ご安心くださいね。白蛇さんはそう言うと明るく笑った。朗らかなその姿に俺の気持ちも静まる。
「だったらどうして…」
「はい。旦那様とは、少しずつ距離を縮めて行ければ良いと思うのです。私を信頼して頂けるその日まで、無理をして頂きたくないのです。
早い話、結婚を前提としてお付き合いをしたいと…そう申せばよろしいのでしょうか。」
白蛇さんは白磁の様な頬を赤く染める。恥ずかしそうに俯くとそっと呟いた。
俺は深い感動に包まれていた。そもそも俺を襲う機会はいくらでもあったはずなのだ。それなのに無理やり犯す事も無く、俺の気持ちを尊重してくれる。
ああ…。この人を手放してはいけない。絶対に! そう確信する。
と、なると言う事は一つしかない。
俺は決意を込めるかのように赤い瞳をじっと見つめる。やがて一呼吸着くと想いを伝えた。
「ありがとう…。でも、俺はもう君のものになるつもりなんだよ。」
白蛇さんは俺の手をそっと握った。温かく滑らかな手の感触が伝わる。
「そのお言葉だけ有難く頂戴いたしますね。わたくし達に時間はたくさんあるのです。無理はしないでゆっくり行きましょう!ね…。」
穏やかな微笑みを見せると、白蛇さんは俺の体を蛇体に温かく包み込んだ………。
「それじゃあ、迷惑かけるかもしれないけど、これからよろしく!…ええと?」
白蛇さんの名前を言おうとして口ごもった。良く考えれば俺は彼女の名前すら知らないのだ。
肝心な事を聞かないなんて馬鹿だなあ…。呆れながら俺は自分から名乗る。
「ごめん。申し遅れましたけど、俺は水梨 陸といいます。」
俺の名を聞いて、彼女も自分が名乗らなかった事に気が付いたようだ。すまなそうな表情で頭を下げてきた。
「ああっ!本当に申し訳ありませんっ…。すっかり名乗るのを忘れておりました…。
わたくしは、秋野白夜と申します。これからは白夜と呼んで下さいねっ!旦那様!」
白夜ちゃんは華やかに笑った。今日一番の素敵な笑顔だった。
17/10/30 21:51更新 / 近藤無内